実は、一昨日も糯米を蒸しました。かみさんが日頃通ってる工房の食べもの持ち寄りの忘年会があって「何かない?」。
さて、「雪魚糯米飯/白身魚入り塩味おこわ」。「雪魚」ってことは「鱈魚」、つまりは「たら」ってこと? 「あの、魚は「メロ」でございます」とアテンドの柏木さん。 「メロ」ってことは「銀むつ」ですね。塩で仕込んで、鍋物に使うってこともあるし、白身魚のフライでもよく見かけます。
小倉エージの新・香港的達人
おもしろいのは「時蔬XO双蚌/ミル貝とホタテ貝柱のXO醤炒め」では、素材の下拵えや仕上げにとろみ付けはほとんどなし。なのに、この料理に限っては、たっぷりのとろみ付け、なんてところが昔懐かしい感じです。
この料理における辛味と混在する甘味の感覚、センス、まさしく昔ながらの伝統的な広東料理の味付けに通じるものがあります。昔懐かしい、香港ならではの味付け、風味です。洗練された上品な味、風味のある料理を生み出す袁さんですが、もしかして、昔懐かしい香港の味、懷舊菜の数々を再現した料理が得意だったりして。なんてことなら、楽しみが倍増。袁さんの料理が楽しみになりました。
豚スペアリブの「排骨」の料理といえば飲茶の一品として登場する黒豆醗酵みその「豆豉」をもとにして作った調味料の「豉汁」で蒸した「豉汁蒸排骨」の方が、馴染み深くてご存知の方が多いかも。その調味、味付けを梅干に代えたもの。
あるんです、広東地方には塩漬けにした梅干しが。 梅干しを味付けにしてあるだけに、酸味が利いていて、爽やかな味、風味。しかも、火を通してありますから、ほのかな甘味、それに、旨味がある。
「これ、さっぱりして旨かった。それより、ご飯がほしくなるおかずだね」と、この手の料理が出てくれば、必ず「ご飯」のことを口にだすカメラマンのi-podさん。
広東地方ならではのこんなお惣菜がコースに組み込まれる、なんてのが嬉しい。 ちなみにネットで「赤坂璃宮」のグランド・メニューの「牛、豬、鴿」をチェックしてみたところ「排骨」の料理は「スペアリブの特製ソース揚げ」が紹介されているのみ。 ということは、わざわざ作ってもらった? 恐縮します!なんていいながら、喜んでます。
もっとも、この「梅子蒸肉排/豚スペアリブの梅肉蒸し」、素材、調味料は常備されているようですから、おそらく頼めば用意してくれるはず。事前に予約、というのが理想的かもしれませんが、広東地方の伝統的な家庭料理に興味ある人にはお薦めしたい一品です。家庭でだって簡単に作れますから。そのレシピは、ネットで簡単に検索可です。
それから「香港雲呑麺/香港式雲呑麺」。ここでようやく私は皆さんの食事に追いつきました。もちろん、そのサイズ、メンバーに応じて超大盛り、大盛り、普通盛りの3種が登場。
デザートは「黒芝麻湯丸/白玉入り黒胡麻のデザート」。香港の伝統的な「甜品」のひとつ。ほっと心が和み、胃が落ち着くデザートです。 10月の「赤坂璃宮」銀座店、広東地方の郷土料理、家庭的な惣菜の数々「家郷小菜」をしっかり味わったのでありました。
料理は「魚香茄子煲」。「魚香」といえば日本では四川料理でのそれが一般的。日本では豆板醤、本場四川では唐辛子の塩漬けの「泡辣椒」で味付けした辛味の利いた料理です。それが、広東料理、香港で「魚香」といえば塩漬け醗酵の「咸魚」の味付けで、というのが一般的。
しかも、以前、触れてきたように「茄子」は「寡」、すわわち、それだけでは味気がなくて、物足りない、なんてことから鶏肉を細かな賽の目切りにした「鶏粒」が使われ、茄子と炒め合わせて、二番だしで煮込んだもの。と言うわけで厳密な料理名は「魚香茄子鶏粒煲」。
「これ、この茄子、甘くて、旨い!」と、斉藤さん。肉料理、鶏料理と続いてお腹が一杯。ギヴ・アップ寸前だったはずの斉藤さん、茄子をパクパク。
ほんとに、茄子が旨い。というより、火を通した茄子が甘い。しかも風味が強くてクセのある塩漬け醗酵の「咸魚」の味、風味、さらには鶏肉にも負けずに、その存在を主張。素材の個性、持ち味、茄子そのものの味わい、風味が堪能できた一品でした。
もう一品の野菜料理は「節瓜」素材に、干し貝柱の「瑶柱」をたっぷり使い、とろみあんで味付け、調理した「瑶柱扒父節瓜甫」。
「あれ、この柔らかいの何?ぐじゅとした感じで、甘くて、美味しいんだけど!」なんて声が。
「ン!? 大蒜の塊、じゃないですか?」と私。
「そう言われれば、肉の硬さじゃないもんな。でも、大蒜って煮込むとこんな感じになるんだ。柔らかくて、甘い!」
「生だと、舌を刺すひり辛の味ですが、煮込むと全然違う味になっちゃいますから。こういうスッポンとか羊とか「果子狸」、「ハクビシン」のことですけど、野味類の煮込み物には、大蒜の塊は欠かせないみたいですね。煮込むとトロトロ。ひり辛の味より、甘味がぐっと出て、思わず食べちゃいますよね」と、私。
大蒜のほかに干し椎茸も。これがまた、滋味深くて旨い。ですけど、やっぱりスッポンの肉、それに、何よりも縁側が旨い。しかも、思いのほか量はたっぷり。昨年は相次いでスッポンの蒸し物を食べる機会に恵まれて、夏らしい一品と思いましたが、こうやって煮込みの「紅炆水魚」にして食べると、がっしりと重厚な趣で、煮込みもいいなあ!ともあれ、本日のコースで「冬瓜盅生翅」と並ぶ「大菜」。値段の点も含めてのことで、今回のコースの組み立てが予算オーバー。そんな理由のひとつになった料理でもありました。
日本で収穫された日本ならではの持ち味のある「海老」を、中国料理の手法で極上の味、風味を味わうには、やはり、それなりの「工夫」と「技」が必要。それも、茹でたり、蒸したりするより、むしろ殻つきのままで炒める「炒」、強火で炒める「爆」、煎り焼の「煎」、味付けにして蒸し焼きの手法も施した「焗」、あるいは揚げる手法の「炸」が向いているんじゃないかと、私は思います。
海老の殻の旨味のエッセンス。それに、火を通したときに生まれる独得の風味を生かす、ということでは、茹でる場合には紹興酒や玫瑰酒などの中国酒で茹でる。 蒸す場合には、大蒜の微塵切りなどと蒸す。そうすれば、旨さ、風味を増します。9月の「赤坂璃宮」銀座店での「香蒜蒸海蝦(蒜茸蒸中蝦/車海老のガーリック蒸し」などその最たるもの。
それよりも殻の旨さ、香り、風味を味わうには、煎り焼きの「煎」か蒸し焼きの「焗」がうってつけではないでしょうか。たとえば、中国醤油の「生抽」、たまり醤油の「老抽」(これが料理名になると豉油皇と表記されます)で煎り焼きの「煎」にする。それとも、塩、胡椒味で辛味を付けて蒸し焼きにした「焗」にする。
しかし「煎」にしろ「焗」にしろ、その料理方法には「工夫」と「技」が必要なようです。醤油の「生抽」、「老抽」で煎り焼きにするには、火を強くした鍋に注ぎ入れ、味付けするなんてことはない。そうすれば醤油の味ばかり立ち、強火であれば、焼け焦げた味になる。あまりにも醬油味が直接的で、下品、下種な味になる。ということで、そうした方法を避ける。
もっとも、醤油の焼け焦げの香り、というよりも「匂い」は、日本人には堪らない。というより郷愁、懐かしさを誘い、親しみを覚えるものがある。屋台店のヤキソバのソースのあの「匂い」というわけです。いわゆるラーメン中華の店などでの「ニラレバ炒め」や「野菜炒め」の類、それにまさに「焼き飯」というふさわしい「炒飯」に特徴的なもので、それはそれで魅力的ですが、中国料理というには・・・首を傾げます。
たとえば「だし」を張った鍋に、醤油を入れ、そこで煎り焼きに仕上る。だしの味も加味された醤油の味で、殻を煎り焼きにする。それが「工夫」です。醤油の味付けでなく、塩、胡椒の味付けの場合も、同様のプロセスがある。
殻に火が通り、香り、風味が立てば、それで充分。殻はしっかり火が通って、その味、香り、風味を満喫。ところが「海老」の身は、レアな火加減。とろんとした触感があり、なおかつ、甘味が立っている。そんな火加減で止め(とどめ)を刺してある。というのが「技」。調理、鍋の「技」の見せ所です。
殻に火が通った証でもある紅色の照りのある色合い。和らいだ醤油の香りが鼻腔を刺激します。
こんな伝統的なデザート、湯水に出会えるのも「赤坂璃宮」ならでは。譚さんが、広東料理の根っ子にあるものをしっかり見届けてるから、ではないしょうか。