2010/04/30

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の3

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その2が「CHEF'S」の「炎の「たまごトマト炒め」。これが驚きの一品。目を丸くしました。

 1、トマト(大3個)を湯剥きにし、四つ割りにして、種や水分を取り除いておく。
 2、卵(L玉)2個をボウルに入れて、しっかり泡立つまで混ぜる
 3、中華鍋にサラダ油大さじ2/3を入れ、2を一気に入れる。大きく混ぜながら全体に火を入れ、皿に取り出しておく。

 というここまでのプロセスは納得。ところがです。以下、?????と疑問符続出

 4、中華鍋にサラダ油大さじ2を入れる。強火で、中華鍋から煙りがでるまでしっかり熱したところに、トマトを入れる
 (ン!? 中華鍋に入れた油、強火で煙が出るまで熱したら、酸化して、ヘタりませんか?)
 5、ガスの火を鍋の中に引火させる!!!!(その実況画像あり!)
 (ン!? 酸化した油に火をつけてどうする?)
 6、中華鍋の中の炎をトマトにからませるようにお玉でかき混ぜる。このときに燻したような独特の風味がつく
 (ン!? このとき燻したような独特の風味って、トマトは炎に包まれ、焼け焦げて炭化するんじゃないですか? 燻したような独特の風味って、それのこと?なら、苦味やえぐ味がつくはずですが)

 以下、火が収まり、トマトが崩れはじめたところで、砂糖、塩、中国醤油を順に入れて味付けするとレシピの実況中継画像あり。それも砂糖をたっぷり使うのがこの料理の特徴だそうで。
 ちなみに砂糖を使う理由として紹介文には「上海“高級”料理の特徴で、砂糖がぜいたく品だったという背景がある」との解説が!

 確かに、かつてどこの国でも砂糖はぜいたく品でした。けど、砂糖っても色々ありますよね。はたしてどんな種類の砂糖なのか説明なし。というのも、日本と中国の砂糖事情、いささか異なるからです。しかも、いきなり「上海“高級”料理」なんて話が出てきて、その説明もなし、ですから面くらいます。

 ちなみにCHEF'S 、店紹介のキャプションに「上海上流社会で培われた繊細な料理を味わえる」なんてあります。CHEF'Sの料理の紹介の際、しばしば語られる「上海上流社会で培われた料理」の実態、その真相については、今だ私には不明のまま。もちろん、そんな話を知って、興味津々。上海料理の歴史を調べましたが、その上海の「上流社会」における料理、ってことについては、今だ闇の中。

 その辺り、お店の方がそう仰るならってことで受け止めておくのが賢明なんじゃないかと思うんですが、「上海“高級”料理の特徴」と断言するからには、なんらかの根拠、実態の把握があってのこと、なんでしょうけどその提示はなし。

 ま、それはともかく、煙が立つほど油を熱し、酸化して、へたった油。しかも、それに火をつけ燃え盛る炎でトマト炒めたら、トマトは焼け焦げ、炭化して、素材の持ち味、損なわれるには誰にだってわかるはず。そこに砂糖を入れる、ってことは砂糖の甘味で味を補正ってことしか考えられない。

 疑問に思って何人かの(中国)料理人に尋ねたところ
 「CHEF'S独特のやり方ですよね、普通はありえない」、
 「油が酸化しますし、火を入れたら焼け焦げになって、素材の持ち味、壊しますから」
 と、私の考えたような意見が大半。

 筆者は「CHEF'Sならでは」とさせるものは「ずばり「火の味」」。
 さらに「トマトの酸味と砂糖の甘さ、そしてそれを包み込む燻した香り」と絶賛。
 早い話、燻した香りなんかじゃなく、過剰に熱した油、その煙、油の焼け焦げの臭い、なんじゃないでしょうか。
 念の入ったことには、燻した香りを家庭で再現する油の作り方まで紹介されてます。
 私にとっては初めて知った「燻油」製法。これまで知っていた中国料理での「燻油」にはなかったものだけに、こんなのもありなんだ、と勉強しました。

 要は中華料理で鍋肌に直接醤油をたらしたときに生まれる焼け焦げの味、もっとわかりやすく言えば屋台の焼きそばのソース味の焼け焦げに似た「ゲス」な味、強烈な香り、というよりも匂い。あれに通じるものがあるんじゃないでしょうか。

 「火の味」についての筆者の熱弁、読めば読むほど、その美味よりも「ゲス」な味、風味への愛着、熱意が思い浮かびます。そうか、上海の上流階級の料理ばっかり食べてると、たまに「ゲス」な味も食べたくなる、ってことなんでしょう。

2010/04/29

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の2

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その1が「しみじみ「台湾式」たまご焼き」ってことで青山の「ふーみん」の斎風端さんの「菜脯蛋」。

 「菜脯」は大根を干して塩漬けにし、さらに干したり二度付けしたりして寝かせて作られる漬物です。福建、広東省東部の潮州から広州あたり、その奥の客家系の人々なんかもつくります。中でも有名なのは潮仙のそれ。台湾には福建のものが伝わったんでしょう。

 大根の漬物といえば沢庵。ですが沢庵は干した大根を糠と塩で漬けるだけ。糠漬けってことから黄色や褐色に変化。同時に甘味も増していくのがその特徴。もっとも、最近のはお手軽に着色料と化学調味料で味付けなのが一般的。しかも減塩ものが主流ですから、塩味しっかり、ひねた沢庵など今やなかなか入手が難しい貴重品。梅干と同じですね。

 「菜脯」、大根丸ごと一本を干すってこともあるようですが、ほどほどの太さ、長さに切り分けたり、切干し大根同様に拍子切りに刻んだりすることもある。台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人が沢庵よりも切り干し大根を使って再現、なんて話を聞くことが多いのは、現地、さらには日本でゲット出来る「菜脯」の形態が似てるからのようです。

 もっとも、切り干し大根はひなびた味、風塩漬けじゃありませんから、戻すと甘味が浮き立つ。塩漬けしたものに特徴的な醗酵のひね味、旨味はなし。むしろ塩漬けの沢庵、古干し、ひね味のものが「菜脯」の味をほぼ再現。今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」の「菜脯」の紹介のキャプションにも触れられてます。

 要は塩味、塩漬けにして生まれる醗酵のひね味がポイントです。
 ですが、今回の記事には「切り干し大根」のことは触れられず、というのはなんでだろ?
 台湾で「菜脯蛋」に魅せられた人の「切り干し大根」の活用頻度からすれば、その辺りのご意見伺いたかった。
 切り干し大根じゃダメなのか、それとも「菜脯蛋」に使うにはひと手間の工夫が必要なのか、そんな指導があれば嬉しかったんですけど。

 私と「菜脯蛋」の出会いは台湾ではなく香港でのこと。夜食を食べに出かけた潮州料理の店で「粥」のおかずとして登場。そんな「沢庵の玉子焼き/沢庵オムレツ」の話を旧知の料理研究家の山本麗子さんに話したら「あら、それ、私、子供頃、しょっちゅう食べてた。というか、食べさせられてたの!」。

 聞けば麗子さんのお父上、台湾に頻繁に通っていたことから山本家でそれを再現。沢庵の玉子焼き、沢庵オムレツ、麗子さんに言わせれば「父ちゃん玉子」は、お弁当のおかずにも頻繁に登場。ですが、その頃の麗子さんにとってはクセのある味、香りになじめずにいたそうです。もっとも、今では懐かしい思い出の料理ってことで麗子さんの著作にも登場。

 「ふーみん」はずっとご無沙汰続き。人に誘われたり会合があったり、たまたま近くに用ありなんかで足を運んだのは随分と前の話。その際、台湾の家庭風味の料理や日本でなじみの中国料理を食べました。「もつ」の料理、それに「葱ワンタン」ですか。

 今回の「菜脯蛋」のレシピに「作るのには「ラード」で!」、なんてところにおそらくは斎さんの母、あるいは祖母からの伝来の味、生まれ育った故郷の味をそのままに伝えたい、という斎さんの気概が汲み取れて頼もしい。

 もっとも、私、「ふーみん」とはここずっと縁がなし。足が遠ざかった理由もあります。というのは、斎さん一家の伝来の味、素朴で心温まるおふくろの味が看板の店。ですが、それだけに限界もある。
 「ふーみん」独自の工夫を凝らした料理もありますが、創作料理というよりもおふくろの味、おばさんの料理、家庭料理の延長線上にあるもので、その範疇に止まるだけのもの。ですから料理人としての「技」、「味」、「風味」ってことに関してはなんだか物足りない。

 具材たっぷり、野菜も豊富な炒めもの、麺類が評判です。鍋振りの勢い、油の使いようなど手馴れた印象ですが、素材の切り揃え、素材の組み合わせなど、「板」の仕事はざっくばらん。素材の組み合わせはともかく、その分量、按配など、もったいないから余すことなく使います、なんて風でちょいと加減多目。というあたり主婦、おふくろの料理ならではの按配がうかがえます。
 
 けど、一皿、一碗の料理としての分量、なんてことからすると料理によっては具材の分量、バランスに欠けるところがあってはみ出し気味。味付けにメリハリはあっても、おかずってことならともかく、一品の料理ってことなら味わいの深みや風味に乏しい。

 今回の「しみじみ「台湾式」たまご焼き」が物語るとおり(台湾系)中国人家庭の「お袋」の味を楽しめる店、親しみやすさが魅力。それが人気、評判の秘密、理由のようですが、それ以上の物は求められない。「しみじみ」とした味わいって、滋味豊かとか味わい深いってことじゃなく、ジンと胸にくるおふくろの味、てことですよね。ということなら実に言い得て妙、であります。

2010/04/26

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の1

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集、玉子好きなんで楽しみました。
 「なるほど!」という記事もあれば、「をいをい!」なんて記事もある。
 驚いたり、「勘弁してよ!」とあきれ返ったり、腹を抱えて笑ったり、ふ~んと笑い飛ばしたりして、ほんと私、性格悪いよな~ということを実感しました。
 
 嬉しかったのは我が敬愛する料理人、狐野芙美子さんの久々の登場。
 料理は「ウフ・マヨネーズ」。ビストロ料理の定番でシンプルな料理ですが、それだけに奥深く、自分流を極めるのは難しい。ですが、弧野さんの料理を見ていると、実際に試さないではいられなくなります。もちろん、早速実践。

 もっとも、これまでdancyuで紹介されてきた弧野さんの料理紹介もそうでしたが、レシピの間隙にひそむ肝心なポイントが触れられていなかったりすることがある。おそらく弧野さんにとっては当たり前。ですから、詳しい紹介は必要なしと判断し、触れられてないんでしょう。ですが、実際にレシピに倣って調理始めると「ン!?」なんて、疑問が続出。そのあたり料理体験に照らし合わせて適切に判断し、現場処理するしかない。
 
 おそらく担当の筆者は撮影現場で同時に調理体験しなかったか、普段、台所に立ってないかで、見落とし、聞き落とし。その辺、編集担当者のフォローが欲しいところですが、担当編集者もおそらく筆者と同様の体験しかないんでしょう。

 今回も茹で時間など具体的に紹介はされていますが、実際にやってみると時に難題、課題が勃発。その点をクリアーすれば弧野さんの料理の(再現)成功率、出来上がった料理の満足度は高い。ことに今回はマヨネーズについて再勉強という収穫がありました。

 続いて紹介されてた「世界一」と称される「スクランブルエッグ」の秘密。
 ですが、レシピ、写真からすると、見るからに生クリームの味が支配的そうな「大味」な感じ。なんだか近頃流行の「ふわふわ感」とか「柔らか~い!」触感重視のようで、素材の玉子の味、どうなの?
 なんてところに疑問を覚え、そそられない。作ってみたいという気にもならない。

 そして話題のフードスタイリスト、飯島奈美さんの「目玉焼き」。
 「目玉焼き」。シンプルな料理だけに、実は奥深い。それぞれに好みもあるはず。
 その基本をおさらい、というのが今回の飯島さんの登場の目的なんでしょうが、ところが、その深遠の奥義、極意の追求は、いまひとつ甘い。

 今回紹介されてる調理方法など我が母もやっていたことで、母の側で見て覚えたのと同じく、基本の基。油の引きかた、その分量。加える水は少量ずつ、按配しながら加減見て。フライパンに蓋を被せるにしても、黄味を白い膜で覆うなら蓋をしたまんま。黄味の色をそのまま残したいなら蓋をずらす。

 そんなこと「目玉焼き」を何回も作ってりゃ、そんぐらいの工夫は誰だってやるでしょう。当たり前のことしか紹介されてません。あ、そうか、そんなこともやんない、焼き方を知らない人の為のものですか?なんだか上から目線な気配濃厚。

 それより、飯島さん指導の「目玉焼き」。
 油の使用量、控え目な感じ。そのせいか「目玉焼き」の縁、カリカリって風なんですが、なんだか縁の見た目が焦げっぽい。焦げっぽくて苦味もありそう。

 実は私も母に倣ったように、飯島奈美さん方式で焼くことがあります。
 ですが、油の分量少なかったり、さらに、余計な油を拭い取ったりするうち、水加減の按配次第で「目玉焼き」の縁は、カリカリと同時に焦げっぽくで苦味がでる。
 それから逃れる工夫こそ知りたいとこなんですが、その奥義の追求、紹介はなし。

 私は、焦げ目、苦味のある縁のカリカリは苦手です。それに、黄味は黄味のまんまもいいですけど、うっすら霞が覆った「目玉焼き」けに仕上たほうが、黄味はよりこくをまし、とろり濃厚な味になる、なんてことで水を慎重に按配しながら蒸し焼きにします。

 もしくは、油を加減多めにして「フライド・エッグ」にしちゃうことが多い。
 アメリカのドライヴ・インのレストランやトラック・ストップ、それにパン・ケーキ・ハウスなんかでお目にかかる「目玉焼き」。

 煎り焼き、つまりソテーというより、玉子を油で揚げちゃうディープ・フライ、もしくはその一歩手前の感じの調理です。そうすれば「目玉焼き」の縁はまさしく「酥」の状態になります。しゅわっとしていて、気泡のぷちぷち感を残しながら、カリとした焼き加減になりますから。当然、焦げ臭さや苦味はありません。

 ま、ディープ・フライにすれば、玉子は油をたっぷり吸い込みますから、脂っこくなるのは否めない。けど、しゅわ・ぷち・かり・さくっとした触感が堪りませんから!

 それからベーコンの炒め方。ベーコンの脂身でベーコン自らを焼き上げるという方法もありますけど、これまた焦げと苦味を生みやすい。それより、誘い油じゃないですけど、油を足して煎り焼きにする。そのほうがよりクリスピーで脂っこくなく、しつこさもないクリスピーなベーコンに仕上がります。当然、焦げ臭さ、苦味はなし。

 「目玉焼き」を焼くときの油って、ついつい加減しがちですよね。
 実はそれが失敗のもと、だったりします。油を多めに使うほうが、実は簡単に旨い「目玉焼き」を作りやすい。焦げ加減の苦味のあるカリカリじゃなく、シュワ感、しっとり感もある適度なカリカリ感のある「目玉焼き」が作れます。

 なんてことは「目玉焼き」を作り続けていればわかるはず。
 ま、油を使いすぎると脂っこくなりそうだしカロリー過剰で太るから、というのもあるんでしょう。ですけど、そんなことより焦げ加減、苦味のないカリカリの縁の「目玉焼き」のガイダンスを求める向きには、今回の飯島さんの記事は物足りない。
 ともあれ、飯島奈美さんの「目玉焼き」、話題の人の登場というだけで内容希薄。

 それから「龍吟」のまかないの「たまごかけご飯」とアレンジ・バージョン。
 味の濃い調味料、香りの強いクセのある香味野菜をごちゃ混ぜ。おまけに、玉子にウニやキャビアなど豪華で「濃い」素材を使ってウルトラ技。

 それからすると「あ、この人、素材の味、風味の足し算と、豪華素材を使って目を惹く創作料理を考える人!」ってことが即座にわかります。ひと口食べて、インパクトのあるわかりやすい明解な味、ってことですね。「龍吟」が評判なのもなんとなく納得。

 それより宮下裕史さん執筆の「哲学する卵」にあったポール・ボキューズに教わったという谷昇さんの「目玉焼き」の話は、拾い物でした。
 もちろん、早速試しました。これがかなりいけます。その料理方法を知らずにいたことを後悔したほど。

 それからもうひとり、イタリアンの小林さんの料理にも興味津々ながら、素材は「ほろほろ鳥の玉子」なんてことでギブ・アップ、写真を眺めて涎をこぼすだけでした。

2010/04/15

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の7

デザート各種の中から選んだのは、今回も「喳咋」。
もちろん、冷製じゃなくって温かいの。
お腹が落ち着きますから。

 その登場を待つ間、登場したのが「さくら饅頭」。
 みるからにしっとりとした皮のほのかな桃色は、桜の葉をおりこんであるからでしょうか。 ですけど、まるで薯蕷饅頭、そのままの見かけ。

 「これって、饅頭だよね。中華の饅頭じゃなくって、日本の薯蕷饅頭!」
 「でも、違いますよ、中味の餡が。胡麻餡なのかな?こんな餡、日本の饅頭じゃありませんから」。
 言われてなるほど、中味の餡の味、濃厚な味、まさしく中華の点心でした。でも、中味の餡はともかく、見かけこんなに日本の薯蕷饅頭まんまの饅頭、香港で出会ったことなし。私は初体験。
 日本の薯蕷饅頭、私の好みなんですが、これほど張りがありながら、舌触りしっとりの皮、餡が旨くて香り豊かな薯蕷饅頭、近頃であったことなかったもんで大感激。
 今度、正式な名前、それにしっとりの皮の秘密、久保田さんに尋ねなきゃ!
 そして「喳咋」。久保田さんの「喳咋」に出会って、はまりつつあるこの頃です。

2010/04/13

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯。
 今回は「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」。
 土鍋仕立てということもあってかテーブルに運ばれた時の香り、風味の豊かさに驚きました。なんて言うと、鍋肌に垂らした醤油の焼け焦げの風味、あるいはねぎ、生姜、にんにくなどの香味野菜を炒めた香ばしさ、なんて思われるかも。そうじゃないんです。調味料や香味野菜の直接的な「匂い」じゃなく、旨味濃厚なしっかり味、なんてことが伝わってくる馥郁とした香りです。

 青味のニラ以外は、具材のすべて、米粒の大きさに併せて細かく刻まれてます。
 ひと口食べて、がつんとくる旨さに目をみはりました。しっかりの塩味。袁さんの料理にしては珍しいぐらいがつんとくるしっかり、濃厚な味わい。しかも、噛み締めれば塩味を利かせたというだけではない重層的な旨味、風味の構造が浮かび上がってくる。

 具はあさりの微塵切り。さくらえびと思しき柔らかい殻の噛み応えの干しえび。それに漬物の微塵。
 あさりの微塵は、口にしてそれと即座にわかる旨味、磯の香、風味がある。
 さくらえびは日干しの海産物独特の枯れた味、風味。
 そして漬物。なんだか「梅菜」のような甘味がある。ですが、塩味の加減、深み、ひねの深さからすると、違うなあ。
 
 「なんだろ、これ?この漬物!味、風味、覚えありなのに!」と頭の中で疑問符続出。
 過去の記憶を辿る迷宮の回路に紛れ込んで、しばし沈黙。
 「「芽菜」です!四川の「芽菜」!」と、袁さん。
 「そうか!「芽菜」ですか!」と聞いて、思わず納得。

 塩味しっかり。でも、ほのかな甘味がある。ひね味もある。ですが、深漬けのそれじゃなくって、すっきりとした爽快感がある。
 ちなみに「芽菜」、種類色々あります。その素材、「芽菜」という素材名そのまま「もやし」を素材にしたもの。 一般的には青菜の若芽、苗を漬けたもの。そして四川の「芽菜」は、「芥菜」つまりはからし菜の若芽、苗を漬け込んだもの。漬け込む際に塩だけでなく、砂糖などの甘味を加味、というのが独特の味、風味を醸し出す。

 実は「芽菜」、四川の「担々麺」を作る時の必需品。
 日本で担々麺といえば、豚肉のそぼろを具に、ラー油、花椒、芝麻醤をベースに酢や醤油で調味というのが一般的。近頃は「汁なし担々麺」というのも評判のようで。しかも、担々麺の味わい所は「麻辣」、つまりは花山椒の痺れ味、唐辛子の辛味の味付けにあり、という認識をもたれてます。

 現地ではさにあらず。「麻辣」の調味、味付けもさることながら、そこに、塩味、醗酵したひね味、甘味のある「芽菜」を加味して成り立つもの!なんて話、「趙楊」の趙楊さん、「チャイニーズレストラン直城」の山下君、今は亡き「芝蘭」の下風慎二さんから確証を得た事実。

 そんな「芽菜」のひね味、ほのかな甘味がこの「家郷煲炒飯/漬け菜いりチャーハン土鍋仕立て」の旨味、風味を増す。 それにしても袁さん、広東人なのに四川の「芽菜」に目をつけ、実践、活用なんてところがおもしろい。これまでに四川の郫県の豆板醤も使うなど、好奇心旺盛で何でも試して実践するあたり、実に意欲的。頼もしい存在です。

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「子姜炆滑鶏/伊達鶏と新生姜の煮込み」。
 これは先月「子姜国産牛/和牛と新生姜の炒め」が登場したのをきっかけに、袁さんにリクエスト。食事中に現れた袁さんに感謝の意を伝えたら
「だって、ネットで食べたいって書いてたでしょ?それにお応えしました!」。
 は、はい、仰せの通りで!と、ひれ伏す私でありました。
 新生姜が出回る時期になると必ず食べたくなるのが「子姜炆滑鶏/伊達鶏と新生姜の煮込み」。
 新生姜と鶏肉のぶつ切りをシンプルに「炒」したもの、二番だしの「二湯」で煮含めた「炆」の2種の料理方法があります。
 「炒」の場合、新生姜のひり辛が直接的。で、「炆」の場合、とろみのあんが「甘酢」仕立てというのが特徴で、新生姜の味わいがよりフクザツになります。

 甘酢あんが絡んだ新生姜のぶつ切り、まず唇に触れるのはこくのある「甘酢」あん。「酢豚」のあんをご想像ください。さらに、新生姜をばりっと噛み締めると、ひりっとした辛味が舌を刺す。ところが、甘酢あんに包まれてますから、甘酸っぱさと濃密なこくのある甘味が絡み合い、重層的な味になる。しかも、新生姜らしい鮮烈な爽快さが浮き立ち、なんだか身が引き締まるような感じになります。その味、風味が格別。
 そして鶏肉。これまた甘酢あんにくるまれてますけど、そこに、新生姜の味、風味が加味されて、味わい爽快。それより、驚いたのは今回の鶏肉、伊達鶏のしまりのある肉質、噛み応え、さらにはジューシーで旨味たっぷりな味、風味。

 これまで前菜や蒸し物で登場してきた伊達鶏、肉の柔らかさばかりが目立つ感じで、味わい、風味、ぼんやり、茫洋という印象でした。ところが、今回の伊達鶏、肉にしまりがあってしっかりした噛み応え。それでいて、ジューシー。しかも、旨味、風味が感じられる。火を通した伊達鶏の旨さ、味、風味がこんなに鮮烈に感じたのは初めて。

 素材自体のよさ、甘味、旨味、風味のある伊達鶏の肉質、持ち味を引き出した袁さんの腕、技の成果じゃない?なんて思いました。しかも、新生姜、さらには甘酢あん、二湯との組み合わせが絶妙です。

 「これ、旨い!ほんとに旨い!」
 「新生姜が旨い!こんな風にして甘酢仕立てにして食べると、旨いんだね。このひりっとした辛味が新鮮!」
 「それに鶏肉が旨い!」と、全員、絶賛の声しきり。

 春の朧、霞のかかった春の風情にあって、一瞬、目が覚めるような爽快なひり辛の鮮烈な味わい。甘酢あんのこくある甘さとすっきりの爽快感。 これも春ならではの味わい。
 広東小菜の旬の味を存分に味わいました。

2010/04/09

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いては「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」。
 実はこの料理、「赤坂璃宮」銀座店の「家郷菜」のコースの一品に「生根」(揚げ麩)を使った料理があるのをみっけ!
 なら「蝦子生根豆腐」はじめ「生根」を使った料理のリクエスト可能? と、橋本さんを通して袁さんに願い出た次第。
 そして登場したのがこの「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」。
土鍋の中、「生根魚丸煲」は煮え滾り、熱々のまんまの登場。アテンドの柏木さん、火傷しないかといつもひやひや。しかも、小皿に取り分けられてなお熱いまんま、というあたり、袁さんの腕の凄さ、素晴らしさを物語ってます。
 「魚丸」はいつも通り「鱸」の様子。「髪菜」も入っています。そんな「魚丸」を揚げ、揚げ麩の「生根」、干し椎茸と煮込んだもの。煮込みはおそらく二湯(二番だし)でしょう。さらに、絹さや、香菜も。

 揚げて、さらには出しで煮込まれた「魚丸」を食べるとみかんの皮を干した「陳皮」の柑橘の味、風味と苦味が利いています。同時に、ひねた独特の醗酵味、旨味、風味が口中にほのかに広がる。
 「あ!これってもしかして?」なんて思ったら、案の定、小はまぐり、浅蜊などを塩漬け醗酵させた「蜆介醤」。「魚丸」を噛み締めて浮かび上がる「蜆介醤」の味、風味。その使い方、分量、つまりは行きすぎない匙加減が絶妙です。

 「生根」を噛み締めればグジュっとなって、押し潰されて悲鳴を上げそうな頼りなさげな触感。同時に、煮含められただしの味、旨味が口中に広がる。その穏やかで優しい触感、じんわり滲み出すだしの味、旨味、風味が格別です。
 むろん干し椎茸も旨味、風味、しっかり。それに絹さやの青み、清廉な味わいが爽快。さらに香菜の独特の青みとくせのある風味も実に効果的。ほのぼのとして心温まる一品です。
 この「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」、まさに広東小菜、煲仔菜として香港の広東料理店では馴染みのもの。
 食堂的風情の小菜店でも食べられますが、この袁さんの手になる「生根魚丸煲/魚のすり身団子とお麩の土鍋煮込み」は、やはり上品な味付けで、風味が豊かで、しみじみとした味わいもあり。
 こうなるとやっぱり袁さんに「蝦子生根豆腐」をリクエストしたくなります。

2010/04/07

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯(スープ)」は「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」。

 「ウミテング(海蛾)」は初体験。なんだか「タツノオトシゴ(海馬)」のよう。
 いったいどんなもの?なんて思ってたら、アテンドの山下さん、その正体、ネットで検索してプリントアウトしてくれていました。
 家に帰って、私も検索。そしたら、タツノオトシゴの仲間らしい。
 タツノオトシゴ、漢方素材としてしばしば用いられます。タンパク質、脂肪、多種のアミノ酸を含んでおり、男性ホルモン作用があるといわれ、補腎、つまりは腎機能を強化するってことで漢方、薬膳料理に用いられます。しかも強壮薬として疲労回復、ED(勃起不能障害)や精力減退、遺精に効果的!なんてところも興味津々!ということからすると、ウミテングも同様の効果あり?
 ちなみに画像で2匹浮かんでいるのがそのウミテング。
 この「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」、豚の赤身肉の「痩肉」がだしの要の様子。それ以外に、杞子、淮山、牛蒡、棗、北芪、党参(つるにんじんの根)とともに「燉」、つまりは湯煎蒸しした一品。「燉」ですからスープは濁らず澄んでいます。
 その味、旨味もありますけど、それ以上にほろ苦さ、渋味、えぐ味がほのかに浮かび上がる。漢方素材を使ったスープに特徴的な味、風味。口にするたび薬効あり!なんてことがひしひしと。心と体が洗われる感じで、しみじみと滋味深い。
 こんなスープ、香港の広東料理店では常備されているんですが、日本ではなかなかお目にかかれないし、味わえないのがとても残念。いや、実際のところ、近頃ホテルの広東料理店で漢方素材を加味した「例湯」におめにかかることもあり。
 もっとも、漢方素材を使い、薬効を語られますけど、「だし」に旨味のある素材を加味して濃い目の味付けに。というのも漢方素材を使ったスープ、日本ではあまり馴染みなし。つまり、スープってこでは、ひと味、旨味、味付け濃い目にしないと受け入れられない、といった日本の(中国料理、広東料理の)現状あってのこと。まんま香港のスタイル、味、風味で、という訳にはいかないそうです。
 なんてところ、やっぱり香港は近いようで遠いのが現実、ってことですか。
 滋味豊かな「党参燉海雀/ウミテング入りの漢方スープ」を味わいながら、フクザツな気分になりました。

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 そして「春菜蝦仁炒/芝海老と春野菜の炒め」。
 芝海老、あわび茸(白霊茸)、こごみ、うるい、筍、白アスパラガスを塩味で炒め合わせた一品です。

 芝海老のぷりっとした触感、甘味、旨味を引き出した火の入れ加減はさすが袁さん。
 加えて、あわび茸(白霊茸)、こごみ、うるい、筍、白アスパラガスのそれぞれに異なる歯触り、噛み応え、の青さやらほろ苦さやらえぐ味やら、素朴で清楚な素材の持ち味を生かしながら、はんなり包みこんだ優しい味わい。

 「わ~!春らしい料理ですね。このほろ苦さ、まさに春の味。でも、苦味とかえぐ味とか、抑えてある感じなのが、いいですね」と、素材のひとつひとつ触感、持ち味の引き出し方、素材の組み合わせの妙、味付け、調理に絶賛の声が上がります。
 どうやら仕上げに上湯で煮含めたような様子。口にしてしばらく、だしの旨味、風味が喉奥から鼻に抜けるような感じがしたからですが、もしかして錯覚かも!

 実は海老の炒め物、油通しの「油泡」だと、いつもならパブロフの犬の条件反射のように「蝦醤」か「蠔油」をちょっぴりつけて、なんて按配なんですが、今回はその必要なし。行き過ぎない塩味の加減、プラス、だし?の旨味のせいでしょうか。

 ともあれ、春は霞、朧のベールでほろ苦さ、えぐ味が包まれた押し付けがましさのない気品のある味わい深い一品でした。 

春の広東小菜が満開~10年3月の「赤坂璃宮」銀座店

 おっといけない。ボブ・ディランの東京公演で頭クラクラ。おまけに他にも難問を抱えてて頭を悩ます日々が続いた結果、3月の「赤坂璃宮」銀座店の報告、月を越えてしまいました。
 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。
 その登場とともに「あれ?いつもとなんだか違う!」。
 何が違うのかといえば並んだ焼き物の色合い、切り方、野菜とその組み合わせ。それに全体のレイアウト。「なんでだろ?」と不思議がっているところに支配人の橋本さんが登場。
 橋本さん曰く、今月から前菜の焼き物担当のスタッフが替わり、新たに平林さんが着任とのこと。

 その内容、右上3種は、皮付きバラ肉の「焼肉」、鶏肉の辛味味付けの焼き物の「辣鶏」に「叉焼」。その下、家鴨の舌の滷水(たれ)漬け(?)、海蜇の頭、山くらげに、醤油漬けらしい大根。その左上、柚皮。その下に白髪ねぎと胡瓜の千切り。

 皮付きバラ肉の「焼肉」はいつもより皮の焼き方がしっかり。というよりも少々焼きが入り過ぎの感じでパリパリ状態。ですけど、肉はしっとり。もっとも、切り方、サイズが小さくなったのがちょっと残念。それに「辣鶏」、「叉焼」もこれまでからすると焼きはしっかり。でもなんだか醤油の味が立ち過ぎてる感じでした。

 それより皆さんが驚いたのは家鴨の舌。私はこれまで何度も体験済み。
 家鴨の舌、いろんな料理方法がありますが、今回のは滷水(たれ)に漬けて煮込んだ様子。実は舌には軟骨があって、その周りの身をこそぐようにして食べる。その身はわずかですが、味の染み込んだ舌の味は格別。
 「これ旨い」と大好評。その脇にある海蜇のぽりぱり感との触感の対比も一興です。

 そして話題になったのが「柚皮」。干した文旦(ざぼん)の皮を戻し、味付けしたものです。香港/広東地方では沙田柚の皮を干したものが一般的で、春節を過ぎてしばらく夏前頃までに季節料理として広東料理店に登場。

 干して、戻した煮込まれた文旦の皮の歯触り、舌触り、噛み応えが一風変わっていて面白い。皮の繊維質、滑らかで、独特のねっとり感としっとり感あり。そうだ、ジュースを含んだスポンジケーキに近い触感です。噛み締めるとぐじゅとした触感。じゅわっとだしの旨味がほとばしる。おまけに独特のコクがある。
 「へ~! なんとも評し難い食べ応えと味ですね。ねっとりというか、こくがあるというか。それより、これ文旦の皮でしょ?それを食べる工夫をする、なんてところが面白い!」
 実際のところ、香港で食べる「沙田柚」に比べれば皮は薄め。どうやら日本の文旦の皮を干した赤坂璃宮自家製の「柚皮」の様子。それにしてもこの「柚皮」にしろ、家鴨の砂肝を生から干した陳賢にしろ、香港にあっても日本では調達不可能な素材、日本産の材料を調達して自家製でなんでも作っちゃうという譚さん以下、赤坂璃宮の料理人、スタッフの努力と熱意には頭が下がります!嬉しくなります。応援したくなるのも当然でしょう。

2010/04/06

「いつまでも若く/FOREVER YOUNG」~東京のボブ・ディランの4

 ボブ・ディランの東京公演の最終日(29日)。
 帰宅してクールダウンするのに時間がかかりました。そんなわけでコンサート報告のブログアップ、1週間遅れと相成った次第。

 それにしても東京公演の最終日、どうしてまたクールダウンに時間がかかったのか! 興奮した、感激した、というような事態でもなく、頭の中「堤防が決壊して洪水」さながらの「ごちゃ混ぜの混乱/ミックスド・アップ・コンフュージョン」状態(って、ディラン・マニアなら通じるはず!)。

 ボブ・ディランの公演。毎日、構成、雰囲気が変わりました。 で、東京の最終公演は「(ハード&ディープ)ブルース・ナイト、そして男と女の狭間のあれこれ!」ってことになりますか。それにしてもハードでディープなブルースが相次いだのには脳天クラクラ。おまけにディランは曲によってオルガン、ハーモニカ全開。ソロやらリフやらギターのチャーリー(・セクストン)との掛け合いも。

 幕開けは低音がうねるスロー・ブギの「雨の日の女」。ディランのだみ声、迫力と凄味あり。次いでリズムの明快なフォーク・ロック調の「イッツ・オール・オーバー・ナウ・ベイビー・ブルー」。惜別の歌。昨日までのことは綺麗さぱりかたをつけたから、もう後は振り返らない、なんて意志きっぱりの潔さ。さらには「我が道を行く」。 ディラン、オルガンで頑張ります。その歌いぶり、つっけんどんで突き放すような感じ。

 続いて「マイ・ワイフズ・タウン」の登場に驚きました。妻の故郷は地獄!なんて歌ですから。しかも、ディープなシカゴ・ブルース・スタイルで。ってことはうらみつらみ有りってことなのか。追い討ちかけるように「アイ・ドント・ビリーヴ・ユー」つうのが強烈。しかもだみ声とハーモニカ全開。歌い方、崩しちゃってましたが、ギターのリフが原曲の姿をとどめる。

 それから「スピリット・オン・ザ・ウォーター」。4ビートのスインギーな演奏、サウンドですけど、その歌詞「あなたなしでは・・・」なんて、それまでの展開とは裏腹。そこで「コールド・アイアン・バウンド」。都合7回あった公演で、欠席は2回。それがこの曲を耳にするのは3度目。

 前にもふれたようにロバート・ジョンソンの「ウォーキング・ブルース」が思い浮かぶ強力なリフを持ったブギ・スタイルのブルースのこの歌、『タイム・アウト・オブ・マインド』で初めて聞いた時にはさほど、という感じだったのが、映画『ボブ・ディランの頭の中』での再録音、それに今回21日に聞いたニュー・バージョンが鋭く胸に突き刺さる。おまけに、さっき聞いた「マイ・ワイフズ・タウン」がフラッシュバックして、頭の中で2曲が重なる。

 なんてことで、この曲の意味、解釈、考えて、この日も頭クラクラになったのでありました。おまけに続いたのは暗喩を込めた「廃墟の街」。頭のクラクラは沸騰状態。洪水で防波堤決壊状態に陥ったわけです。

 「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレイク」ではまたまたオルガン全開。カントリー・ワルツの「ホエン・ディールズ・ゴナ・ダウン」ではハーモニカのソロで和ませてくれましたが、続く「追憶のハイウェイ61」ではギンギンにハード・ロック。ここでもディランのオルガン全開。そう、「ザ・レヴィーズ・ゴナ・ブレイク」と「追憶のハイウェイ61」こそがこの日のハイライト。

 そして「サンダー・オン・ザ・マウンテン」に続いて、いつもなら「やせっぽちのバラード/ミスター・ジョーンズ」のはずが、ステージ上ではガサガサとなんだか慌しい空気。それが見ている側にも伝わってきました。そしたら「ミスター・ジョーンズ」とは違うイントロが。

  「ン!?、何これ」と思う間もなく「もしかして?」。
 なんと「いつまでも若く/FOREEVER YOUNG」。ステージ上のがさがさとした慌しい空気は、いきなりの曲目変更だったのだと納得。

 それより、その歌、ディランの歌、今のディランのありのままを物語る感じだったのに、吃驚。
 この日まで、この曲を聞くまで、前、向いてまっすぐ突き進むゴーイング我が道を歩むディランから、歳のことなど(御年68歳)微塵も感じなかった。ですが「いつまでも若く/FOREEVER YOUNG」を歌うディランは、その歳がむき出しに!

 今のディラン、ディランの生身を目の当たりした感じでした。
 いぶし銀のような渋くて格別な味わい!他の曲にはなかったことです。
 なんてことで頭の中はますますクラクラ。
 まだ収まりがつきません!