2008/08/28

夏の味 老虎魚の唐揚げ/油浸老虎魚の3

 今回の「油浸老虎魚」は、夏の風情を生かしたコースの一品として考えた料理でした。
 コースの幕開けは、夏らしく「八寶冬瓜盅」。丸々一個の冬瓜を半分に切り、その中心部をくりぬいて上湯を張り、各種の具材を入れて、たっぷり時間をかけて蒸したもの。

 焼鴨(アヒルのロースト)、蟹拑(かにの爪)、黄瓜(きゅうり)、竹笙(きぬがさ茸)、草菇(ふくろ茸)、蓮子(はすの実)などに混じって、鶏肉のようでいて、鶏肉よりも肉質は緻密、潤んだしっとり感のある肉が!

「あ! これって、もしかして蛙の腿肉?」
「ええ、田鶏(蛙)も入っております」と、八尾さん。
 具の充実もさることながら、なんといっても肝心のだしが旨い。 しっかり、がっしりで、ぎりぎりの塩加減で、力強く、張りがある。「火腿」の旨味、風味が際立ってました。 豪快な直球がキャッチャーミットにどすんと収まったような、重厚な手応えもあり。それに、清々しい爽快感が印象的。

 それに、この種の料理における冬瓜、蒸して柔らかくなったものの、どこか、ざらっとした触感、言ってみれば梨を噛み締めた時のそれに近いものがあったりしますが、今回のは、じゅるっとした触感で、じゅわっと舌の上で身が崩れていきます。
 同時に、煮含めただしの味が滲み出て、冬瓜そのものの資質、持ち味が浮かびあがる。あの冬瓜特有の青臭さ、ほろ苦さも、濃厚なだしのおかげか、かすかにその跡を止め、果肉を噛み締め、喉元に抜ける際の香りが、その存在を主張。

 「去年の「冬瓜」は沖縄産でしたが、今年は愛知産でして。それに、下拵えの方法を変えまして、冬瓜自体、「二湯」ではなく「上湯」で下拵えしましたので」と、八尾さん。
 なるほど、それで冬瓜の果肉、リッチで芳醇な味わい、風味なんだと、納得。

 4人での会食でしたから、冬瓜を丸々一個を使った「冬瓜盅」を最初は躊躇。「あの、冬瓜、一個丸ごとではなくて、半分のサイズにすれば4人様でも大丈夫かとおもいますが」という八尾さんの薦めにしたがって、半分のサイズにしたこともあって、このスープ、お碗に取り分けれれば、一杯こっきり。

 「え! これでおしまい??? 具はいいから、冬瓜とスープ、もっともっと。せめてもう一杯!」
 なんて、思っても、後の祭り。
 「あ~あ、これなら、丸ごと一個の「冬瓜盅」頼んでおけばよかった!」と、後悔しきり。
 もっとも、一杯だからこそ、良かったのかも。
 それこそ「一期一会」ってやつですね。

2008/08/27

夏の味 老虎魚の唐揚げ/油浸老虎魚の2

 「おこぜ」の唐揚げの「油浸老虎魚」を思い立ったのは、魚の料理でいいのがないかと思い巡らせるうち、去年の秋、小ぶりの「おこぜ」の「油浸老虎魚」に出会う機会があって、旨かったのを思い出したこと。旬の魚、食べ頃だってこともありました。福臨門の八尾さんに相談したら、長崎から届くものが調達可能、なんて返事があったのもそそられた理由のひとつです。
 
 「おこぜ」といえば、即座に思い浮かべるのは「おにだるまおこぜ」の通称で知られる「石頭魚」のこと。日本にもあるそうですが、私は香港でしか食べたことがありません。
 その「おこぜ」(正式な和名は「おにおこぜ」だそうで)しろ、「おにだるまおこぜ」にしろ、背ビレに猛毒があり、その扱いは実に厄介。いずれもグロテスクこの上ない獰猛そうな風貌。それに「おにだるまおこぜ」は、海中に潜んで生息する姿がまるで石のよう、なんてことから「石頭魚」と呼ばれてるそうです。

 もっとも、見かけとは裏腹に、身は淡白で美味。日本では「おこぜ」は刺身、唐揚げ、汁物で料理、というのが一般的。香港の「石頭魚/オニダルマオコゼ」は、さすがに活け造りの刺身にはしませんが、唐揚げ、蒸して「清蒸石頭魚」、それに「湯」、つまりはスープ仕立てにもします。

 そんなことから、日本の「おこぜ」を蒸し物の料理である「清蒸」で食べるのも悪くないかも。とは思ったものの、少しばかり不安がよぎりました。香港の「石頭魚」とは生息する海が違うことからすれば、「おこぜ」の肉質も違い、身が締まって、硬めなのかも、というのが思い悩んだ理由のひとつ。
 何を大層な話!と一笑に付されそうですが、美味の追求に余念のない私!としては、魚の資質、持ち味を生かした調理、味付けで。そのあたりの見極めも肝心なんじゃないかと、思いますから。

 そんなことから、中国式、広東料理特有の唐揚げの「油浸」で、と思い立った次第。身は緻密で、しゅわっとした触感がありながら、しっかり噛み応えのある肉厚な感じがするのも唐揚げ向き。
 なんて言ったら、中国式の唐揚げと日本式のそれ、どこが違うの?なんて突っ込みがありそう。

 う~ん、唐揚げの調理自体は同じ。たっぷりの油で魚を揚げるわけですが、その下拵え、揚げ方、仕上後の処理が少しばかり違います。先に紹介した画像でご覧の通り、薬味にあたる白髪葱がたっぷり載っけてあるのと、タレが違います。皮はパリパリ、中味しっとりの揚げたての魚に、タレがじりじりじわじわ絡んでいく。揚げた魚の香ばしさにタレが絡まり、かもし出す香り、風味。そのあたりも中国式の唐揚げの「油浸老虎魚」の味わいどころ。

 そんな中国料理、広東料理における魚の料理のあれこれについては、そのうち詳しくご紹介しましょう。

2008/08/25

夏の味 老虎魚の唐揚げ/油浸老虎魚

 中国料理のコースの組み立て、メニューの選択が私の趣味なのは、これまでに触れてきた通り。

  まずはテーマを(なんておおげさですけど、ともかく)考える。たとえば、広東地方の郷土料理を中心に組み立てる「青木宴」はその好例。季節のもの、旬の素材を使った料理がテーマですから、素材の選択、調達を考え、次いで料理方法や味付けを、といった按配です。それから、本格的な宴席風にするか、家族、友人など気の置けない仲間との食事にするか、それとも、そのミックスにするか、といったことでも内容は違ってきます。

 いずれにせよ、素材、調理方法と味付け(調味)が重ならないようにという中国料理のコースの組み立ての基本にのっとり、プランを練ります。ところが、なんでだかいつも、行き詰まり、煮詰まってしまうのが、素材で言えば「魚介」。調理方法で言えば「蒸」の料理の選択。いつも思案にくれることがあります。
 香港、台湾や中国本土の各都市でなら、メニューの選択、コースの組み立ては、案外、すんなり。「魚介」、ことに「魚料理」に関しては、日本ではなかなかお目にかかれない素材、調理法による料理が各種あるからです。

 たとえば、香港の高級店では「時価」による高級魚が中心ですが、伝統的な手法にのっとった魚の料理が豊富にある。大衆的な店、それに観光名所の南Y島、長州島、西貢などの海鮮料理を看板にする店の中でも地元の人々御用達の店では、地場物の小魚など、様々な地魚、各種の料理に出会えます。

 香港の街中にある大衆店、中国本土の各都市では、「海鮮」よりも「淡水魚」の種類が豊富。魚の種類だけでなく、調理方法なども地方ごとに独得のものがあって、未知の料理も少なくない。先に紹介してきた新宿歌舞伎町の「湖南菜館」の「剁椒魚頭」などその典型。もっとも「湖南菜館」では淡水魚ではなく海鮮の「鯛」を使ってますけど。

 そういや、私が北京に通い出した90年代初頭は「港式」、香港スタイルを銘打った海鮮料理が最新のトレンド。地元の人に誘われて出かけましたが、沿岸部から取寄せたという自慢の海鮮の「魚」の値段は高く、おまけに質が貧相で、調理も乱暴。むしろ「淡水魚」の種類が豊富で、質、調理も充実してました。

 それにしても、日本でコースを組み立てる際、どうして「魚」の料理の料理で煮詰まり、思案にくれるのか。日本は海鮮の魚介類の種類は豊富。ですが、日本の中国料理店が扱う魚の種類、料理方法が限定されている、というのが一番の問題点、ではないかと思います。

 たとえば、中国料理で魚の料理、と言えば、最近、すっかり日本で定着したのが広東料理の「清蒸魚」、蒸し魚です。丸ごとの魚を一匹皿に載せて蒸し、魚の上に白髪葱を並べ、、仕上げに油、たまり醤油、だしなどで合わせたタレを熱してかけたもの。蒸した魚の旨さもさることながら、タレが旨くって、崩れた魚の身ともども掬い取り、白いご飯の上にかけて食べるのが大好き、なんて人も多いはず。それも、最近では広東料理店だけでなくいろんな店で「清蒸魚」が食べられるようになりました。

 とはいえ「清蒸魚」は素材の種類、鮮度など、充分な吟味が重要。調理も、丸ごと一匹、蒸すだけ。とはいっても、素材の資質を見極め、その持ち味を生かしながら、按配よくジャストの加減で蒸すのは至難の技。魚には個体差というのものがありますから、単純に蒸し時間を決めて調理、とはいきません。その蒸し時間の按配は、長年の経験あってこそ。という調理人泣かせの料理の一品です。

 だから、覚えてらっしゃいますか?
 「ヘイフンテラスの謎と不思議」の時のように、魚の腹を開いて蒸す、という調理法もある。蒸し加減を知るには格好な手段のひとつ、とは知人の料理人の弁です。
 そうだ、黒服の女史、御機嫌いかがでしょうか。

 それに「清蒸魚」はやっぱり宴会料理を締めくくる大菜の一品ですから、家族、知人、友人との会食には、いささか不向き。高級魚ではなく、たとえば、関西、及び、関西以西の中国料理店では「清蒸魚」の素材として使われることが多いという「がしら」こと「かさご」なども、グッドなチョイス。
 けど、東京では、その入手が難しい。あっても、上質で、値段もそれなりで、高級宴会の一品向け。リーズナブルな値段ではありません。
 かといって、大衆魚で「清蒸魚」をやっても意味はない。
 ということからも、コースの組みたてにおける「魚」の料理に思い悩む理由がおわかりいただけるでしょう。

 「清蒸魚」がダメなら、「紅炆」という方法もある。魚を煎り焼きにし、豚肉や椎茸の細切りを炒め、合わせて、二番だしの「二湯」で煮込み、味付けした料理もあります。以前、ここで紹介したように、夏の季節には苦瓜、茄子と組みあわせる方法もある。

 ですが、それも回を重ねるとあきがくる。
 そこで思いたったのは、夏らしく素材は「おこぜ/老虎魚」。「おこぜ」を「清蒸魚」で食べるのも悪くはない選択。
 それを「油浸」、早い話が、唐揚げにしちゃったらどうか!
 実にグッドな選択だと自画自賛。

 素材はその日の朝、福臨門のキッチンに届いたという、長崎産の「おこぜ」です。
 その出来栄えは、実に見事。
 油で揚げた「おこぜ」の皮のパリパリ感は、まさに「脆」のそれ。しかも、バリっと皮を噛み締めると、身はしゅわしゅわ。きめ細かで、滑らかな舌ざわり。それでいて、肉厚感もあって、旨さがはじけます。白身の根魚独得のクセもあって、それが独得の味、風味を醸しだす。
 パリ、バリ、シュワ、ジュワにぎっしりの肉厚感、白身の旨さを堪能しました。

2008/08/19

夏の味 埼玉県東松山市の農業 加藤紀行さんの夏野菜の2

 それにしても、加藤さんの野菜、なんで今年の収穫が遅れたのか。

その訳を尋ねたところ
「成育が遅れてるんですよ、今年は。実がなかなかつかなくって、ついてもなかなか大きくならないんです」と、嘆く風でもなく、さっぱり、あっさりの屈託のない返事。

「え、え? なんかあったの? 今年の天候のせい、だとか?」と、こちらの方がかえってどきまぎ、心配になって、そのわけを知りたくなります。

 天候と作物の成長、出来栄えに密接な関係があるのは、ご存知の通り。 ですが、去年の天候に比べて、今年、そんなに不順だったっけ? などと思い起こしながら、「天候のせい?」と尋ねました。

 「ま、そういうのもあるんですけど・・・・
 実は、ですね。種屋さん、種を仕入れてる店のおかみさんから「肥料をやんないで育てた作物が、とて も美味しい」なんて話を聞かされたんですよ。知ってましたけど、直接、おかみさんからそんな話を聞いて。悔しいなあ、って、思って!」。

 「えっ? はぁ?」。ということは・・・・まさか「やっちゃった?」と私。
 「ええ!」と、こともなげに加藤さん。
 「だって、悔しいじゃないですか、「美味しいよ!」なんて聞かされて!」と、
 落ち着いた表情で、すっきり、さっぱり、きっぱりの加藤さん。

 話を聞いて、「え、ええええ????」と、一瞬絶句。
 唖然となって、思わずこぼれそうになったため息を一気に飲み込み
 「あ、あっそう! そうなんだ!」と私。

 「あ~あ、もう、面倒見きれん、好きにやって、やって! やりたいようにやればあ!」と、口に出そうになりながら、加藤さんらしいや! と、笑いがこみあげました。
 同時に「これはもうやるしかない、やってやる!」と、決意を固めた加藤さんの顔が思い浮かんだりして。
 「悔しいから!」というその言葉がすべてを物語ってます。それからうかがえる加藤さんの強い信念、意気込みや姿勢、負けん気の強さ。頑固で強情な加藤さんです。加藤さんの作った野菜は、加藤さんの姿勢、性格そのまま、頑固で頑丈。ガッシリしていて、力強い。そういえば、加藤さんに出会ったミッシェルが「加藤さんて、作る野菜そのまま、正直で断固たる人ですね」と言ってたのを思い出します。

 たとえば、3種の胡瓜。瑞々しく、潤んだ果肉の爽やかさ、爽快感だけじゃなくって、雄々しい力強さがある。大地の底力を感じさせます。 
 一般にはもっぱら漬物にぴったりという「四葉胡瓜」。それを、大蒜のぶつ切り、豆板醤、甜面醤、醤油、黒酢に酒を加えた濃い目の味付けの四川風即席漬物風のタレで和えても、濃い目のタレの味に負けない。油で揚げてもへ(こ)たれないのを大いに評価していたのが「芝蘭」の下風慎二さん。

 ロンドンのフォートナム&メイスン、あるいは、マーロウのコンプリート・アングラーのアフタヌーン・ティーのトレイにあった胡瓜のサンドイッチを思い出す「半白胡瓜」の瓜に似た素朴な味わいもたまりません。もっとも「半白胡瓜」、他の2種に比べると日が経てば瑞々しさが薄れ、果肉が乾き始める。けれど、バターやマヨネーズとの相性が抜群。

 そして加藤さんちの「茄子」。先にふれたように、煮崩れず、へたらず、緻密な肉質のとろけるような旨味が味わい深い「青茄子」。「加茂茄子」は油との相性がよくて、たっぷりの油で揚げてから、味付け、調理を工夫するのもいいですが、蒸して、トロトロにして、キャビア気分を味わうのもいい。とはいうものの、家庭で「加茂茄子」を蒸してしっかり火をいれるには、結構時間もかかりますけど。

 それから、今年の「真黒茄子」、ラタトゥユ、あるいは、干し海老と一緒に煮浸しにして、しっかり煮込んだところ、いつも以上にその甘さが浮かびあがり、「真黒茄子」の真価を改めて見直しました。

 さて、昨年デビューしたのが「はぐら瓜」。今年は植える場所と育て方を変えた、ってこともあってか、到着は8月に入ってからの第二便でのことでした。
 生で食べると、清廉ではあるけれど、去年食べたものに比べると甘さがいさかか不足。ところが、しっかり煮込むと、つるんと滑らか、とろける舌触り。その果肉は繊細で緻密。「だし」を吸い取りながら、その存在を主張。

 ちなみに「はぐら瓜」。「和」つまりは、昆布にかつお節、「中」つまりは、鶏のささみ、手羽元、胸肉から採っただしをベースに、「干し海老」、「干し貝柱」、豚の赤身肉の微塵などを様々に組み合わせ、しっかり煮込んだあとで、新鮮な魚介、春雨を具にしたスープの数々を試して楽しみました。

 中でもダントツだったのは、鶏のささみ肉の微塵に、時間をかけて戻した干し貝柱、さらに杏仁、杞子を入れ、しばし煮込んで、水で戻した春雨を加えたスープの瑶柱白瓜粉絲煲 もどき。
 最初は「はぐら瓜」を具にした麵を作るつもり。ですが、だしと馴染んだ「はぐら瓜」を味見したところ、麺だと小麦粉の味が打ち勝って、大雑把で凡庸な味になりそう。なんて予感から、急遽、麺を緑豆の春雨に変更。それが正解でした。
 じっくり煮込んだ「はぐり瓜」のしんなりとして滑らかな触感、だしの味を吸い込んだ春雨が旨い。

 画像は、今年、煮込んだら甘味のある味が印象的だった「真黒茄子」。それに育つのが遅れた初物の「はぐら瓜」です。はたして、もっとたくさん収穫があるかどうか。

 それより、昨年、夏から始まった季節の素材を使った広東地方の郷土料理を楽しむ「青木宴」。加藤さんに頼んだ色々な野菜の出来栄え、収穫待ちなんで、現在のところ予定が定まらず、日延べ中。
「まあ、あの、それは、どうしょうもなくて。育つのを待つしかありませんので」と、加藤さん。

2008/08/17

夏の味 埼玉県東松山市 農業 加藤紀行さんの夏野菜の1

 夏の味、と言えば我家で欠かせないのが埼玉の東松山で農業を営む加藤紀行さんの作る夏野菜。

 昨年は7月初めに第一便が到着。それが今年は2週間ほど遅れて7月の半ばに第一便が到着。
 胡瓜は「四葉胡瓜」、「奥武蔵地這胡瓜」、「半白胡瓜」の3種。茄子も「真黒茄子」、「加茂茄子」、「青茄子」の3種。それに唐辛子も「万願寺唐辛子」、「日光唐辛子」、「激辛唐辛子」の3種。

 毎年、新作(?)が登場する加藤さんの野菜。
 今年、デビューを飾ったのは「激辛唐辛子」。その名の通り、激辛。生を齧ったら、いきなり、舌をピリッと刺激し、突き刺すような辛さ。やがてガツンと辛味が一気に押し寄せて「ヒーヒー」。青みのある爽やかな味、風味がその特徴です。それに、その激しい辛さ、「ハバネロ」にはかなわないにしても、確実に「ハラペーニョ」よりも鮮烈で青々しい。

 もっとも、甘味、フルーティな味、風味ってことになると、日光唐辛子に軍配が上がる感じ、かな。それでも「激辛唐辛子」の刺激的な辛味、青い風味は大蒜との相性が良くって「アリオリ・ペプロンチーニ」にうってつけ。到着して以来、4夜連続、パスタの種類を代えながら「アリオリ・ペプロンチーニ」を作りました。それに、カレーを作る時にも欠かせない。新鮮な生の唐辛子だからこその青い味、風味が実に効果的です。

 そういえば、とある朝方、TVを見ていたら久々に「アルポルト」の片岡(護)さんの姿を拝見。そこで片岡さんが紹介してたのが「唐辛子のオリーヴ・オイル漬け」。 オリーヴ・オイルにミキサー/ミルサーで粗微塵にした乾燥唐辛子を放り込んで作ったという、お手軽なイタリアン辣油!「こいつは、戴き!」ってことで、「激辛唐辛子」が乾くのを待つつもり。ですが、それまで、一体、どんくらいの数が残ってることか。

 ちなみに、加藤さんちの各種の唐辛子、生唐辛子を急速冷凍、天火干し以外に、生唐辛子、小口切りにしたものを醤油漬け。もしくは「チャイニーズ・レストラン・直城」の山下直城さんから教わった塩漬けの「泡辣椒」をこれまで作ってきました。

 いずれも、月日が経てば、乳酸醗酵の旨味だけでなく、ひねた味、風味になって、調味料として大活躍。もっぱらやきそばなどの簡易食の味、風味の充実をはかるのに使ってますが、たまに、本格的な料理にも。
 
 加えて、今年は「湖南菜館」で知った湖南式の唐辛子の小口切りと大蒜の微塵切りの漬物「剁辣椒」を予定してましが、片岡式のイタリアン辣油(?)も追加実験のつもりです。

 画像は「激辛唐辛子」。それに、煮込みものにうってつけ。煮込んでも、煮崩れない、へこたれなくって、茄子の旨味、風味が味わえる「青茄子」。街のスーパーで売ってる「青茄子」にスマートさに比べると、ずんぐりむっくりのあんこ体系。「どすこい!」の頑丈な味、旨さが特徴です。

夏の味 三陸シーファームの「海のバター」の2

 志田建志さんの「三陸シーファーム」から届いた「バフンウニ」。
 今年食べたもの中では、最高の美味、極上の美味でした。

 もちろんここ何年か食べてきた「うに」の中では最上のもの。それに、私にとって「バフンウニ」といえば、礼文島のそれこそがベスト、だったものですが、その考えがいささかぐらつきはじめました。

 礼文島のもいいけど、赤崎のも格別。
 というより、なんだか違うもの、違うところがある。
 なんというか、礼文のそれが雄々しい力強さがあるのに対して、赤崎のそれはどちらかといえば妖艶で女性的。

 とまあ、頭の中は「バフンウニ」のことで一杯。それこそまさに「うに」状態、なんて言い方、今や「死語」だと、ウィキに記されてました。オヤジなんだから、ほっといてくれ!

 赤碕の「バフンウニ」の美味を味わった興奮はなかなか収まらず、誰かに話したくて、自慢したくてしょうがない。それよりもこの感動と興奮を志田建志さんに伝え、応援のエールを送らないと。ってことで、久々に志田建志さんと話しました。

 建志さん、私の興奮ぶりに、いささか驚きながらも、嬉しそう。
「いや、バフンウニっても、その種類、一杯あってね。こっち(赤﨑)にもあるんだけど、やっぱり「ムラサキウニ」がほとんどだし、「バフンウニ」はなかなか獲れないんだよ。そりゃ、旨さってことからすると「バフンウニ」だよね。甘味もあるし。

 それより、ここんとこ、以前に比べると、うんと数が減っちゃって。ほら「ムラサキウニ」って、繁殖力もあるし、毎年、毎年、同じような場所に「上がって」きて、群れをなしてるから、収穫しやすいんだけど。それが、「バフンウニ」は、同じ場所に「上がって」くるのは、2年か3年置きぐらい。だから、収穫できる場所は毎年違って、狙いをさだめて獲るんだけどね。でも、最近はなかなか「上がって」こないんだ。やっぱり、温暖化とか、海の按配、環境の変化ってのも、あるからさ」と、建志さん。

 「上がってくる」というのは、本来「うに」は、海底近くの岩場で生まれ、生息し、成長しはじめると昆布やわかめを求めて、その繁茂場所に移動してくる。そうです、昆布やわかめが育つのは、陸地からの真水が海が流れ込み、なおかつ陽の光が届く海岸べりの浅瀬。ということで、「うに」は昆布、わかめを求めて、陸地から近い浅瀬の海に「上がって」くるという次第。

  以前、利尻昆布の取材で礼文島を訪れた際、海中でゆらゆらとたなびく昆布の根本に「バフンウニ」がごろごろ、という光景を目の当たりしたことがあります。それに収穫した「バフンウニ」の殻を剥くと、卵巣に混じって円状の昆布があったりしました。

 そんな礼文島の「エゾバフンウニ」の旨さ、味、風味は格別、なんて話を建志さんにしたら
 「え~? 礼文島の「バフンウニ」? いくら(赤﨑の「バフンウニ」が)旨いからって、礼文のにはかなわないよ!」と建志さん。

 「え~っ!そうかな。礼文島の「エゾバフンウニ」とは、なんだか違う感じだったけど」と、私はその違いをまくしてる。
 やっぱり、生息する海の違い、温度の違い、それに肝心の餌である昆布の違いが、その要因じゃないでしょうか、と私は勝手に結論。いや、これからの課題です。

 そうそう、建志さんの「三陸シーファーム」、建志さんの兄の恵洋さんの「シダッチ」がある大船渡の赤﨑から陸路で行けば10キロ程(だったか)、海沿いなら湾を三つか四つ隔てたところにあるのが吉浜です。そうです、あの「吉品鮑」の産地に他なりません。

 その吉浜、なんでも、三陸地帯でも豊富に昆布などの海藻が生息する地域だとか。吉浜産の「鮑」の旨さ、美味も、そんなところに理由がありそう。そして、赤崎周辺で収穫される「うに」もさることながら、冬場の「鮑」がこれまた実に美味! あ、話、ずれちゃいましたね。

「う~ん、そうかな。でも、確かに「バフンウニ」は旨いよね。特に塩ウニなんかにした時に、その違いは歴然だから!」と建志さん。
「エッ!赤崎の「バフンウニ」で塩ウニ? そんなのありい????」。
聞き捨てならない話に、慌てて落ち着きをなくした私です。

「でも(「バフンウニ」の収穫の)量が少ないし、ほんの少しだけ、知り合いにお裾わけ出来るぐらいしか作れないから!」と、申しわけなさそうに建志さん。

 赤崎の牡蠣の養殖は本業ですから、直接販売の注文や取寄せもOK。
 ですが「うに」、「鮑」は漁期限定で収穫量も少なく、収穫しても地元に漁協に収めるってことで取寄せは難しいそうです。

 なのに、赤崎の「バフンウニ」をここで紹介しちゃって、自慢話、すんません。
 なんとか、取寄せを実現させたい!
 なんて思ってるうちに「うに」の漁期は過ぎちゃいました。
 来年は、取寄せのお楽しみが実現できることになるよう願ってます。

 画像は「バフンウニ」で作った「塩うに」です。冒頭に生の「バフンウニ」も再掲載。

2008/08/16

夏の味 三陸シーファームの「海のバター」

「岩牡蠣」とともに、もうひとつ「三陸シーファーム」から一緒に届いたものがありました。
「うに」です。

 小鉢を少しばかり大きくしたぐらいのプラステッィックの容器に入った2種類の「うに」が到着。
 ひとつは少し黄色がかった山吹色。もうひとつは鮮烈なオレンジ色。そのオレンジの色彩に「ン!?」とばかり目をみはりました。「こいつは「バフンウニ」に違いない!」。

産地直送の「バフンウニ」が入手出来たのは久々のこと。 私の好みの「バフンウニ」は礼文島のそれ、つまりは「エゾバフンウニ」。利尻昆布をたらふく食って育ったリッチなそれで、独得の甘味、香り、風味があります。ところが、収穫期間が限定され、ついつい注文、入手の時期を逃してしまうことが多い。おまけに、年々収穫も難しくなり、今年は例年になく品薄で、入手も難しい、なんてことであきらめかけてたところ、大船渡から到着したのに、まずは驚き、飛び上がって喜びました。

 早速「三陸シーファーム」に確認の連絡をとったら、志田建志さんのおかみさんが電話口に。
「そうです、そうです。あれは「バフンウニ」。もうひとつのは「ムラサキウニ」」。

おかみさんが言うには、今年は「うに」の収穫時期がずれこんで、いつもより遅い収穫、とのこと。それに赤崎あたりでは「ムラサキウニ」の収穫が中心で、「バフンウニ」の収穫は少ないとか。それが、たまたま今年はいっときにまとめて収穫できたので、送り届けてくれた、とのことでした。

「ムラサキウニ」も決して悪くはない。もちろん、私の大好物。純で素朴な海の味、それでいて濃厚でリッチな風味は格別です。しかも、産地によって味、風味が異なるのが面白い。礼文のそれ、三陸、大船渡を比べてみても、その違いは明らかです。

 関西だと、富山、福井、京都に兵庫などの日本海沿いから、それに、西は下関あたりから届くものがありますが、それぞれ味、風味が異なります。中でも私の好みは、淡路と徳島の鳴門周辺で収穫されるもの。鳴門名物の「わかめ」をたらふく食って育ったんでしょうが、舌の上に載せたときにとろける繊細な味わいがたまらない。

 とはいえ「バフンウニ」の旨さは「ムラサキウニ」を凌ぎます。志田建志さんのおかみさんも「ほら、「バフンウニ」の方が甘くって、美味しいよね」と、うっとりとした表情で「バフンウニ」の美味を語ります。いや、まったくの別物だと考えてもいいかもですね。

 赤崎の「バフンウニ」。それは実に見事なものでした。
 確かに、甘味があるのが特徴。それ以上に味が濃い。まさに濃密という表現がぴったりなぐらい味わいは緻密で、深みがあり、実に奥床しくて気品がある。
 生のまま食べると、先にもふれた「岩牡蠣」を生で食べた時のように、舌先をざわざわと撫でていく触感が。それだけで、胸が躍ります。さらに、舌の上で溶けて、とろけて、濃密な味、風味が広がっていく。
 そして、海苔(もちろん、答志島産、伊勢の木野本海苔で入手した乾海苔)の上に熱々のご飯を拡げ、わさびを置いた上に「バフンウニ」を載せ、軽く手巻きにして頬ばれば、思わず「う~ん!」と唸ります。

 生で食べた時のざわざわとした触感は消え、滑らかでねっとり。濃密な味がしなだれかかり、舌にまとわりついて離れない。熱いご飯の上に載っけた結果、体がほぐれて、伸びをしたような感じです。ホクホクとした触感もあり。ほんの少し火が通っただけで、こんなに味、風味が変化するとは!なんて、事実に驚きます。

 「牡蠣」が「海のミルク」なら、「うに」は「海のバター」だ! 
 その濃密でリッチな美味、風味に、思わず無言になってしまった程。
 感動しました。胸を打たれました。
 今年になって食べたものの中では、間違いなくベスト。
 極上の美味でした。

2008/08/13

夏の味 三陸シーファームの「岩牡蠣」

 岩手の大船渡の赤碕から夏の味「岩牡蠣」が届きました。送り届けてくれたのは志田建志さん。

 大船渡の牡蠣と言えば「シダッチ」の「赤崎冬香」。以前、dancyu(04年1月号)で紹介したことがあるでっかい牡蠣です。

 ホタテの貝殻で一年ほど育った牡蠣を外し、貝の根本にドリルで穴を開け、テグスを通して海に沈め、年月をかけて育てた「赤崎冬香」は、ともかくでっかい。でかいだけでなくその味、風味はリッチで芳醇。

 そんな「赤崎冬香」を兄の志田恵洋さんと育んできた弟の志田建志さんが、昨年「シダッチ」から独立。奥さん、それに23歳になった息子さんと新たにスタートさせたのが「三陸シーファーム」。

 話を最初に聞いたときには、エッ!一体何が!と一瞬はどぎまぎ!もっとも、建志さんの息子さん、建志さんの牡蠣の養殖を手伝い、それに専念なんてことが建志さん独立のそもそものきっかけ、なんて話を聞いて、成る程と納得しました。

 ところで「岩牡蠣」。秋の終わりから冬に入り旬を迎え、雪解け水が大船渡湾に流れ込む春に旨さがそのピークを迎える「真牡蠣」とは、品種、種類が異なります。
 「岩牡蠣」は「夏牡蠣」の通称で知られる通り、初夏から夏真っ盛りまでがその旬。

 その昔、私が知っていたのは能登の天然の「岩牡蠣」。海のものに限らず、陸のものでもそうですが、毎年、その出来栄えは天候、気象条件に左右され、不出来な年もあるのは自然の恵みの常。とはいえ、能登の「岩牡蠣」、その「精」の強さ、味の濃さ、風味の強烈さに打ちのめされたもんです。

 それが、dancyuで大船渡の「シダッチ」に「赤崎冬香」や成長して1年に満たない処女牡蠣の「姫」の取材に赴いた際、こんなのもあるよと教えられ、試しに食べたのが生育途中、確か4年目を迎えたとかいう「岩牡蠣」。

 なんでも壱岐産の天然の「岩牡蠣」の種を大船渡で養殖、育成ってことでしたが、能登の「岩牡蠣」とは異なる味わい、風味に驚きました。能登の「岩牡蠣」の精の強さよりも、「赤崎冬香」をさらに凌ぐ、ぽってりふっくらとした牡蠣の身のでかさ、その味の濃さが印象的でした。

 年月をかけて育てた「赤崎冬香」は、胴長で、下半身が膨らんだ言わばペンギン体系。「岩牡蠣」は、バスト、ウエスト、ヒップのサイズは同じ、上から下までずんぐりむっくり、寸胴状のドラム缶。言わば、カバ体系。

「岩牡蠣」を頬ばり、身をしごいて海水を吐き出し(ってのが、船上での生牡蠣の食べ方だってことを建志さんから教わりました!)、肉厚の柔らかい身をぐちゅっと噛み締めると、中から卵やわたが威勢よく一気に弾け出し、口中に溢れる。味蕾をざわざわと引っ掻き回すような感じに、思わず目を丸くしたりして。その味の濃さ、濃密さに吃驚。それも、舌にぐんと重くのしかかる。能登の「岩牡蠣」の精の強さとはまるで違ったぬめりのある味の濃厚さ、濃密さ。それが、たまらなく快感。そして、美味でした。

 殻を剥いた「岩牡蠣」を、一個、食べるだけではおさまらず、海から引き上げた「岩牡蠣」を立て続けに一気食い。
「エッ!オレたち、試し食いはするけど、そんなに沢山、生じゃ食わないよ!」と、志田建志さんにあきれられた程でした。

 以来、夏の頃には大船渡、シダッチの「岩牡蠣」を堪能。
 そして、昨年からは「三陸シーファーム」の「岩牡蠣」を堪能。 ところが、今回、「三陸シーファーム」から届いた「岩牡蠣」、なんだか、いつもとは違った様子。

 「あの、普通の「岩牡蠣」に比べると建志さんとこの「岩牡蠣」、でっかいんだけど。けど、今年の、いつもよりサイズが小ぶりな感じがして。何年ものです?」と尋ねたら、
 「4年もの。ああ、でかいのもあるんだけど、今年はサイズが少し小さめの方が、身もしまってて、味も良かったから」、ってことでした。

 なる程。
 「ですけど、サイズだけじゃなくって、身の感じ、味もこれまでとはちょっと違う感じがして」と尋ねたら「そうだ。小倉さんが前、シダッチで食べたのは、壱岐の「岩牡蠣」を種にしてたけど、今回のは岩手のだから。それも関係あるのかな」ってことでした。

 その「岩牡蠣」。火を通すと、まるでその触感、変わります。
 私がいつもやるのは、殻を剥いて、溢れる塩水を残しながら、酒(ワインってこともあるし、シャンパンってこともあるし、日本酒ってこともありますけど)を注ぎ足し、それをグリルに並べて火で炙る。

 しばらくすると酒がぐじゅぐじゅと沸き立ちはじめ、やがて牡蠣の身の表面がぷっくりふっくら、ぴんと張り詰めたような状態になります。皮がまさに緊張。体をそらして、気を付け状態。もっとも、その時点では、表面だけに火が入った状態。
 というわけで、さらに火を入れ、牡蠣が火の熱さにのたうちまわる(わけはないですけど、そんな感じの一歩手前で火を止める。

 火が入った「岩牡蠣」。身に張りがあって、噛み締めるにもいささか加減が必要。すると、身の間から弾け出す卵、わたは滑らかでねっとり。そのねっとりの触感がたまらない。味の濃さ、濃密さはうんと増して、海のミルクどころか生クリーム状態。うっとりとなって、言葉をなくします。しかも、一個がでかいですから、満足至極。なんていいながら、次から次へと殻を剥いて、止められません。
 「三陸シーファーム」の「岩牡蠣」、8月の半ば過ぎ頃までだそうです。
 

2008/08/03

7月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 いよいよ締めくくり。それがなんと「干炒魷魚河/河粉と一夜干の烏賊の炒め」の登場でした。それも、大皿にたっぷり盛られた「干炒魷魚河」を手にして登場した大藤支配人、まずは仲間の一人の目の前に。 それがメンバー全員の「干炒魷魚河」を一皿に盛ったものと思いきや、仲間ひとりけのためのものでした。

「ええ、お決まりの「超大盛り」です!」と、大藤支配人。それから、私の「大盛り」、それに残る3人の「普通盛り」が、次々に登場と相成った次第。さては大藤支配人、拙ブログをチェックなのに違いない!ということが判明。

「河粉」は米の粉から作った米粉(ビーフン)の一種。うどんの一種である平麺の「きしめん」に、形状が似ていることから「広東風きしめん」、「香港風きしめん」と称して「河粉」の料理を紹介している店もあれば、「河粉」の日本での入手が難しいことから素材をきしめんに代えて「河粉」の各種の料理を紹介してる店もあります。

 「河粉」には、生のものと乾燥させたものがあります。生のものは乳白色。乾燥したのは半透明の状態。その幅、7~8ミリのものから1・5センチ弱の程まで、色々あります。それに「河粉」の料理、調理方法や味付けは、実に多種多彩。広州にある「沙河粉」の料理の専門店に行ったことがありますが、料理の幅、多彩さに驚きました。そん時、お土産に買った干河粉の良さはいまだに忘れ難い。

 多彩な料理がある中で、香港で人気が高いのが、牛肉を具材にしたもの。そのひとつが「干炒牛河」。つまりは、焼きそば、焼きうどんにも似て、「河粉」、「牛肉」、時に、もやしや茎野菜なども一緒に炒め合わせ、オイスター・ソース、あるいは、中国たまり醤油の「老抽」などで、味付け、色付けしたもの。通称「ドライ」と呼ばれているもので、「干炒」の文字が物語るとおり、汁気なし。汁気がないように炒めてあります。
 もうひとつは、通称「ウエット」。「炒牛河」もしくは「菜遠牛河」という料理名で、炒めた「河粉」に、牛肉、茎野菜などを炒めてとろみをつけたあんかけ状の具材をかけたもの。

 それより、生の「河粉」にしろ、干したものを戻した「河粉」にしろ、素材自体、水ッ気があってベタベタ状態。茹でた麺ならおよそは水気も切れますが、「河粉」の場合にはそうはいかない。
 そんなことから、「河粉」を炒めるにはワザが要る。火の強さ、炒める油の加減と、その温度の見極め。ベタベタの水気を失くしても、炒めた油のベタベタが残っていれば意味がない。というわけで「炒飯」同様「鍋」使いの技量を試される、料理人泣かせの料理のひとつです。

 その「炒飯」にしても、日本では「炒飯」とされながら、実はそのほとんどは「焼き飯」だったりして。その差、違いは歴然としているのに、実態不明のまま混然状態。
 「エ!? 「炒飯」と「焼き飯」って、どこがどう違うの?」と、素朴な疑問を持たれるかたもいらっしゃるでしょう。それについては、また後日!

 さて今回の「干炒魷魚河/河粉と一夜干しの烏賊の炒め」。具が牛肉ではなくて、「烏賊(いか)」。それも「一夜干し」というのが実に憎い!
 その「烏賊」、香港だと大抵の場合、使われるのは「するめいか」で、大雑把ながらほとんどの場合「魷魚」と表記されてます。生のものを調理することもあれば、ひとしおして一夜干しにする。あるいは、日本の「するめ」同様、時間をかけて干し、調理するには、戻して、身を柔らかくしてから、というのが一般的。

 今回の場合には、その身の柔らかさからすれば、一夜干しでしょう。味はしっかり。さらに、炒めて火を通した結果、旨味を増してます。そう、あのいか独特のくせある濃厚な味、風味が味わえるという寸法です。それに、風味付けの醤油が実に効果的。
 水気の、あるいは、油っ気のベトベト感は皆無。火の扱い、巧みな「鍋」のワザを物語る一品でした。

 ちなみに画像は私の「大盛り」サイズ。超大盛り、普通盛は、ご想像ください!