今回の「油浸老虎魚」は、夏の風情を生かしたコースの一品として考えた料理でした。
コースの幕開けは、夏らしく「八寶冬瓜盅」。丸々一個の冬瓜を半分に切り、その中心部をくりぬいて上湯を張り、各種の具材を入れて、たっぷり時間をかけて蒸したもの。
焼鴨(アヒルのロースト)、蟹拑(かにの爪)、黄瓜(きゅうり)、竹笙(きぬがさ茸)、草菇(ふくろ茸)、蓮子(はすの実)などに混じって、鶏肉のようでいて、鶏肉よりも肉質は緻密、潤んだしっとり感のある肉が!
「あ! これって、もしかして蛙の腿肉?」
「ええ、田鶏(蛙)も入っております」と、八尾さん。
具の充実もさることながら、なんといっても肝心のだしが旨い。 しっかり、がっしりで、ぎりぎりの塩加減で、力強く、張りがある。「火腿」の旨味、風味が際立ってました。 豪快な直球がキャッチャーミットにどすんと収まったような、重厚な手応えもあり。それに、清々しい爽快感が印象的。
それに、この種の料理における冬瓜、蒸して柔らかくなったものの、どこか、ざらっとした触感、言ってみれば梨を噛み締めた時のそれに近いものがあったりしますが、今回のは、じゅるっとした触感で、じゅわっと舌の上で身が崩れていきます。
同時に、煮含めただしの味が滲み出て、冬瓜そのものの資質、持ち味が浮かびあがる。あの冬瓜特有の青臭さ、ほろ苦さも、濃厚なだしのおかげか、かすかにその跡を止め、果肉を噛み締め、喉元に抜ける際の香りが、その存在を主張。
「去年の「冬瓜」は沖縄産でしたが、今年は愛知産でして。それに、下拵えの方法を変えまして、冬瓜自体、「二湯」ではなく「上湯」で下拵えしましたので」と、八尾さん。
なるほど、それで冬瓜の果肉、リッチで芳醇な味わい、風味なんだと、納得。
4人での会食でしたから、冬瓜を丸々一個を使った「冬瓜盅」を最初は躊躇。「あの、冬瓜、一個丸ごとではなくて、半分のサイズにすれば4人様でも大丈夫かとおもいますが」という八尾さんの薦めにしたがって、半分のサイズにしたこともあって、このスープ、お碗に取り分けれれば、一杯こっきり。
「え! これでおしまい??? 具はいいから、冬瓜とスープ、もっともっと。せめてもう一杯!」
なんて、思っても、後の祭り。
「あ~あ、これなら、丸ごと一個の「冬瓜盅」頼んでおけばよかった!」と、後悔しきり。
もっとも、一杯だからこそ、良かったのかも。
それこそ「一期一会」ってやつですね。