2009/07/30

夏到来!~09年7月の「赤坂璃宮」銀座店の2

そして「清閏滋補湯/豚肉と薬膳の滋養スープ」。
 「これには花旗参、党参、紅棗、杞子、淮山などが入っておりまして……」 と、柏木さん。
 「花旗参」は野生のアメリカ産の人参、アメリカ産の朝鮮人参なんて語る人もいます。「党参」はききょう科のヒカゲノツルニンジン。これも漢方素材としては高価な貴重品。「紅棗」はなつめ。「杞子」はクコの実。「淮山」は干した山芋。

 なんてことから明らかなように、漢方素材をふんだんに使った滋養補給のためのスープです。滋養補給というと日本では土用の丑の日のうなぎが物語る通り、精のつくものを食べて英気を養うというのが一般的。ですが、香港、広東地方ではちょいと趣が違います。旬の、あるいは、日常の野菜、肉類を素材に、そこに漢方素材を取り込んで、体調を是正し、整え、暑さに対処したスープを作るのが基本理念。

 「あ!薬膳のスープですね。薬を煎じたような香りがする。心が洗われるような感じ!」
 思わず皆から安堵のようなため息がこぼれる。
 「いや、あの、薬膳のスープって言われりゃそうですけど、漢方素材ばっかり煎じても、苦くて、まずくて、そのままじゃ、煎じ薬でしょうが。じゃなくって、漢方素材を使ってますけど、美味しく食べるための工夫があるわけで、えと、この料理の場合、この味、旨味からすると、豚の赤身肉ね、脂身のない「痩肉」で「だし」をとってますから。でないと、こんな穏やかな旨味、生まれませんから!」と、私。

 念のため、山下さんを通じて袁さんに尋ねてもらってところ、やはり、豚肉の部位は腿肉。つまりは脂身の少ない「痩肉」。純な「だし」作りの必需品。豚の赤身肉は、牛肉よりもくせがなくって、旨いだしがとれます。鶏肉で取った出しよりも、押し付けがましさがなくって上品。

 「うん、言われてみれば。でも、豚肉からとるだしって、くせがなくって、上品で、穏やかなんだ。で、漢方素材と組み合わせるわけね」
 「でも、これってやっぱり、普通のスープと違うね。すっきりしてるのに、漢方の煎じたような、かびたような、ひねた様な味がするし、優しい味とかそういうじゃなくて、体によさそうなスープ。やっぱり、薬膳のスープだなあ」と、話題はつきない。

 そういえば、いつもの「例湯/老火湯」なら、スープは中味は別々に登場。ところが今回は具材も一緒にいれて、食べるという寸法。

 食べてすっきり。汗がすっとひいていく感じ。そればっかりじゃなく、じわじわとこみあげてくるものがある。「清閏滋補湯/豚肉と薬膳の滋養スープ」は、滋味豊かで体に優しく英気をもたらす夏の季節にうってつけなスープ料理でした。

夏到来!~09年7月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月は夏の到来を告げる料理が並びました。
 そうそう、支配人の大藤さんが退社と相成り、後を引き継ぐことになったのが副支配人の橋本健太郎さん。もっとも、我らが会議の食事のアテンドは変わらず山下さんと柏木さん。もう1年以上、毎月、顔を合わせてますから気心の知れた仲。心強くって安心してまかせられます。

 たとえば海鮮料理の炒め物、揚げ物などに添えられる各種の醬の類の用意など、いつだって抜かりない。この種の料理にこれ、なんて料理に応じた調味料の類があらかじめ用意されてること自体、東京の広東料理店では珍しい。その用意がなかったとして、一回、お願いすれが、次回、その種の料理が出る時にはちゃんと用意されているという周到さ。

 店のサーヴィスってことでは、名前と顔、好みの料理、味付けを覚えられ、特別な素材や料理にありつけられるといった常連、顧客としての特権的な対応が、評価の対象になりがちなようです。初めて訪れた店で、そんな待遇を受けられれば文句なし、ってことなんでしょう。

 確かにそれも重要なことですが、私としては、テーブルの高さ、箸や分羹、れんげの用意、その素材の種類。さらには料理そのものがどうやってサービスされるか。熱いものは熱い皿で、汁気のあるものは皿ではなくて小碗で、といった料理の取り分けの按配。また、料理内容に応じた各種調味料の用意があってこそ、サービスは万全。それこそ料理店のサービスで一番不可欠なものだと考えるタイプです。

 というあたりの配慮、目配りに気配り、譚さんの指導あってのことなんでしょうが、山下さん、柏木さんはじめ「赤坂璃宮」銀座店のスタッフは頼もしい存在。以前にも触れたとおり、「赤坂璃宮」赤坂店の開店当初、ホテル式サービスを積極的に取り入れ、対人のサービスは他の街中の料理店にないものがありながら、料理そのものサービスに関していろいろ問題ありだった頃に比べて改良されたのは事実です。
 さて、まずは前菜。今月は「廣東焼味盆/前菜盛りあわせ」。一番手前が「焼肉」。その後ろ、右から「焼鴨」、「白切鶏」、「叉焼」。さらにその左、みょうがと白菜の漬物だっけ?あれれ、忘れちゃった。その後ろにあるのが「バラフ」。初めてです。

 それから右奥は青菜で包んだ海蜇(くらげ)。海蜇の細切りをXO醬で和えた一品。その味付けの加減が憎い。口に入り、咀嚼するうち、味付けが浮かび上がるという按配。味付けもさることながら、海蜇の切り方、その細切りが見事。噛み締めると海蜇のぱりぽりの触感が浮かび上がるという按配。上品で洗練されてます。

 「あ、海蜇!」なんて、思わず呟いちゃったのは私だけではありませんでした。細切りなのに、海蜇の触感を残した戻し方、切り分け、さらには、切り分けられた海蜇の細さに応じた味付けの加減は実に「ワザあり!」。

 その手前に並んだ焼味類。「焼肉」はいつも通り、しっかりしてます。「叉焼」も醤油を焼いた照り味と甘味のバランスがグッド。で、左上細葱入りのタレ。「なんで今日は細葱入りのタレがあるの?」って柏木さんに尋ねたら「鶏肉、今日は「白切鶏」なんでですが、その「たれ」なんです」。「え!「白切鶏」なら、葱のの微塵と油のタレでしょ?でも、今日は違うんだ」。

 なんてことで真ん中の「白切鶏」、画像左上の「たれ」をつけて食べたら、味が引き締まる。葱と油の「たれ」だと、広東料理独得の霞に包まれた茫洋的世界に引き込まれますが、醤油(たまり醤油に上湯みたいでした)の「たれ」だと、「白切鶏」の味、風味が引き締まる。新鮮な驚きがありました。

 見かけはいつも通り。なんてことないようで変り映えしないような焼味類の前菜ですが、実は毎月、ワザや工夫を忍ばせてる、ってことですね。
 もっとも、焼味類の中でも「焼肉」、「叉焼」と並ぶ王道的な一品のひとつ「焼鴨」なんですが、ちょっと気がかりなのは、なんだかここんとこ安定していない。下拵えというか、味付けは同じなんですが、焼き方、焼き加減、それに、素材自体の質が違うのか、ここんところ出来上がりがビミョーに違うんです。

 今月は、火が通り過ぎて、皮も肉質も乾いた感じ。焼きすぎたせいだけじゃなくって、噛み締めてみると素材の「家鴨」の質、持ち味が、以前とは違うみたい。今度、譚さんに尋ねてみます。

2009/07/28

夏野菜

 埼玉の東松山の農業、加藤紀行さんから夏の野菜が到着。
 日光唐辛子、真黒茄子、加茂茄子、青茄子、四葉胡瓜、奥武蔵地這胡瓜に新顔2種。包んである新聞紙をあけると深緑や紫紺の鮮烈な色彩が目に飛び込みます。艶々、キラキラと輝いていて、色合いが深い。

 今年の日光唐辛子、生をそのまま齧るとひり辛味の力強さが久々に復帰。辛味だけじゃなくて、青くて、甘味、旨味があってフルーティーなのが日光唐辛子の特徴ですが、一昨年、去年はじめ、ここしばらくひり辛味は控え目に。といってもちろん唐辛子のあの辛さはあり。ですけど、ひり辛味の強さが以前とは違ってました。それが、今年の日光唐辛子、以前のひり辛味が復活。

 「これって、サルディニア地方の唐辛子に似てますね!」と、かつてACCAの林さんが語った加藤さんの日光唐辛子が復活。それにしても、毎年、毎年、辛味、甘味、旨味がビミョーに変化。聞けば育てた畑はいつもと同じ。ですが、季候、天気の按配によってその出来映え、違ってくるんだそうで。

 おまけに、加藤さん、種撒きの時期、育て方、毎年、工夫を凝らして新しいことに挑戦。なんてことも、出来栄えに関係している様子。妥協がない、というより、凝り性の加藤さん、毎年、何をしでかすのかわからない。もしかして、永遠に試作農業青年のまんまの加藤さん?

 茄子は青茄子と真黒茄子をラタトウィユに。青茄子、育ち盛りの若いやつらしく、生で齧ると青さを感じました。肉質の頑丈な青茄子は煮炊きものぴったり。タイ風にしろインド風にしろ、カレーにして食べるのが旨い。ですが、とりあえずはラタトウィユ。一緒に煮込むと青茄子と真黒茄子の持ち味、違いがよくわかります。

 そして、新顔が2種。

 ひとつは「苦瓜」。見つけた時には思わず小躍り。香港の市場で見かける「苦瓜」と同じだったからです。沖縄産、及び、現在日本の市場で一般的に流通している表面とげとげで濃い緑のものではなく、お肌つるつる、色あいは薄緑。 生のまんま齧ると、やはり苦い。ですが、とげとげの「苦瓜」よりも、青くて、爽快で、フルーティーな甘味がある。

 もうひとつの新顔、なんだか加賀太胡瓜のような太さ。でも、体型はずんぐりむっくりじゃなくって、うんと胴長。一体どういう胡瓜?薄くスライスして食べると、実に瑞々しい。水分たっぷりでいて、青味が消え、甘味のバランスが程よくって、香りがいい。こいつは、キューカンバー・サンドウィッチ、胡瓜のサンドイッチにぴったり、うってつけ。早速、作って食べました。直系3センチはゆうにある太さですが、薄切りにして塩をなじませると旨味、風味が増す。バターとの相性もぴったりです。

 ところで、あの胴長の胡瓜、なんていうの?と加藤さんに尋ねたら
「奥武蔵地這胡瓜なんです。成長して、でかくなったやつです!」。
もしかして、収穫の暇がなくって、そのままにしてたら、勝手に育っちゃった、ってこと?

 ま、それはともかく、普通のサイズの「奥武蔵這胡瓜」と食べ比べ。
 うん、なるほど、味、風味は似てます。けど、普通のは青味が強気。でかいのはでかくなった分、水ッ気たっぷり。いくらか大味ぽいですけど、それでも青さじゃなくって、甘味がある。それに、肉質、真ん中の種のところ以外はしっかりしていて、瓜っぽくなる。これなら、炒め物、スープや煮込み物にぴったりかも。

 サンプルが届いた福臨門では豚肉て炒め合わせて試食したそうです。そんな目の付け所は実に正しい。スープにもぴったりなはず。「節瓜」代わりになるかもね。
 ですが、私は胡瓜のサンドイッチが一番。フォートナム・メイスンのティー・ルーム、コンプリート・アングラーのハイ・ティーの胡瓜のサンドイッチを思い出します。

 そして、苦瓜。まずはスープに。ほんとは排骨を探して「苦瓜排骨湯」にするつもりが、排骨=スペアリブのいいのが近所の店でみつからない。川越の「はぎちく」の岸健さんが選んでくれたスペアリブなら文句なしなんですが、川越まで手に入れに行く時間も余裕もない。送り届けてもらうにしても、豚の種類、吟味からはじまりますから、一週間、少なくとも数日前の注文じゃないと入手は不可能。そこまで待てませんから。

 幸いにして、近所の店で豚の腿肉のよさそうなを見つけたので「苦瓜痩肉湯」に変更。先月「赤坂璃宮」銀座店に出てきたのは、「梅菜涼瓜湯」で、「痩肉」じゃなくって「バラ肉」、それに「梅菜」と「大豆」が入ってました。漬物、といっても、梅菜、冬菜、大芥菜はおろか、榨菜もなし。大豆を入れる方法もありだけど、どうしようか。甘味を補充する何か。蜜棗もないしなあ。

 なら、シンプルに、苦瓜、痩肉、それに、杏仁と杞子で作ろう。ってことで、材料をすべていれて、一旦、沸騰させてあくをとったあとは、コトコトとろ火で煮込むこと2時間。そしたら、清々しくて爽快。野菜と肉の自然な旨味のあるスープが出来上がり。

 ですが、心配したとおり「苦瓜」の苦味が少々立ちます。そうか、痩肉じゃなくて、排骨なら、脂身も少しはついてるから、甘味とこくが出る。それに漬物がない分、ひね味、旨味が物足りなく思うのかも、というのが結論。

 でも、苦瓜と痩肉をとろ火で煮込んだスープは旨い。作るのに時間がかかります。そのくせ、食べるのはあっと言う間。ですが、手間隙かけるだけの値打ちはあります。体にもいいですから。

 もう一品はゴーヤ・チャンプルー。 味、風味の違いがわかりやすいかも、なんてことで到着した苦瓜と、冷蔵庫に眠っていた沖縄産の苦瓜、分量、半々にして炒め合わせました。

 私のゴーヤチャンプルー。まず川越の「はぎちく」で吟味してもらったバラ肉を塩蔵したものを常備してありますから、それをスライス。それに、冷凍保存で常備してある川越の小野食品の「お揚げ」。山下達郎、まりや夫妻に送ったところ、たちまちお気に入りになってしまった「お揚げ」です。

 それから「山出し」か「羅臼」のセカンド・ランクの昆布で出しを取り、だしがらの昆布は細切りにして具に使っちゃいます。そう、油通しした「苦瓜」のスライス、塩蔵のバラ肉、お揚げやだしがら昆布の細切りを炒め合わせ、出し汁ひたひたの感じに注いで「苦瓜」にだしの味がしみこむぐらい煮込む。

 「苦瓜」も普通「しゃき感」が重視されるようですが、私は「しゃき感」をビミョーに残すか、つまり独得の歯ざわりですね、それを残しながらもやっぱり「くたっ!」としてるのがいい。ですから、油通しした上に、さらに、だしで煮込むってわけです。

 そういえば青菜の上湯煮浸しの要領です。「上湯浸苦瓜咸肉」ってところでしょうか。そして、「皮蛋や鹹蛋を使わない代わりに、仕上げに溶き卵をまわして、出来上がり。

 これが旨かった!沖縄産の苦瓜、やはり、苦味が直接的。それにくらべて到着した香港と同じ苦瓜、苦味のあたりがやわらかい。瓜の味、青臭さ、甘味、風味がしました。
 料理写真、旨くって、食べるのに夢中で、撮影、すっかり忘れてしまいました。

初音家左橋の「百川」

 寄席に行きたいとせがまれました。はて、どうしよう。

 上野の鈴本、浅草の演芸ホールに出向くのはこの暑さですからちょっと億劫になります。でも、鈴本なら池の端の藪、ぽん多、浅草なら弁天山に立ち寄れる。龍圓というチョイスも悪くないか。それからすると三宅坂の演芸場は居心地がいいですけど、帰りしなにどっかに立ち寄るにしては、電車を乗り継がなきゃならない。

 なら新宿の末広亭だ。「かわら版」を引っ張り出して出演者を調べたら、昼の主任が初音家左橋。中入り前後には権太郎、円歌、ロケット団、雲助、志ん駒、それに紫文なんて名前が並んでる。これはもう末広亭に決まり。

 もっとも、昼の部、しょっぱなからというのはいささかきつい。わがままですね。でも開口一番は左橋の弟子の佐吉。清志郎命、ロックン・ロール好きで落語家になっちゃって、今は二つ目。気になる存在。ですが、今回は避暑を兼ねて、のんびり、ゆったり気分のつもりでしたから、佐吉はあきらめて、中入り前後を目指して末広亭へ。

 休日だったもんで立ち見になるかも。でもいいやと思ってましたが、二階の桟敷が空いてたんで、ふたりしてどっかり。ゆったり気分で居座り。残念ながら権太楼には間に合わず。円歌も川柳が代演。寄席ではよくあることです。

 それよりうちのかみさん、末広亭の昔の芝居小屋的年季の入った佇まいがことのほかお気に入りの様子。売店で仕入れた柿の種をポリパリ頬ばりながら、ご満悦。エアコンもしっかり効いていますから、お手軽に避暑気分満喫、気分爽快でおおはしゃぎ。

 ちょっとした馬鹿噺でも笑いがとまらない。まわりの人の反応はしら~と言う感じで、かみさんは浮いてます。でも、東京の人って、なんであんなに冷静というかクールなんでしょうか。笑いにきてんだから、その元ぐらいとらなきゃ、ていうのは関西人、だからでしょうか?

 久々のロケット団。四字熟語シリーズが痛快でした。これまでロケット団を見たのはほとんどが国立の花形演芸会。花形演芸大賞の月例の審査会にあたるわけで前傾姿勢のままぶっとばし。威勢がよくて勢いがあるのにいつも感心。それとは違って、リラックス気分。でも、ぐいぐいひきつけていくあたりはさすがです。

 落語、というよりも漫談。いつも噺の中味、変わりばえしなくて、最後は手旗信号で締めくくりの志ん駒は、いつ見ても、何回見ても、楽しくて、面白い。それに続いて、柳家紫文。
 待ってました!と声をかけたくなるぐらい、私、柳家紫文のファンです。

 十八番の「長谷川平蔵」シリーズ、あやうくてぎりぎりの駄洒落、ネタバレのみえみえ落ちの噺が続いて、しら~と客が引いちゃいそうになるところに、ぐさり、ずぼっとはまる落ちでキメる、なんてところが痛快。寄席ならでは客との駆け引き、その按配がおもしろい。けど、この日、「あた帽よ」(あ、知る人ぞ知る、平蔵シリーズネタのひとつ)が聴けなかったが残念。

 主任、トリの左橋は「百川」。話の行き違い、勘違いによる滑稽話で、ほのぼのとしていて、暖かくって、面白くて、楽しい。歌舞伎の所作を交えた「七段目」や、リアルな臨場感に思わず背筋がぞくっとする「夢金」、しみじみとした味わいのある「芝浜」もいいです。ですが、この日の「百川」、そんなのとは一味違うくだけた面白さと楽しさ。寄席ならではの心地よい噺を存分に味わいました。

2009/07/25

サイモン&ガーファンクル

 暑さのせいだかPCがご機嫌斜めに。そのうちキーボードがぶっ壊れて、部品を調達。PC音痴の私ですが、部品交換ぐらいはできます!なんてことで部品が到着する間、古いPCをひっぱりだして代替機として使用したものの、なんせCPUの速度が遅くって動作がとろくて反応も鈍い。おまけに作業途中にも関わらず休憩を願い出るような始末で、日頃の仕事を片付けるのが精一杯。結果、長い間ブログ・アップはかなわず、要約部品が到着。復帰と相成った次第です。

 一時に比べて回数は減りましたが、コンサート通いは続いてます。16年ぶりの来日ってことで話題になったサイモン&ガーファンクルの公演もでかけました。出来れば武道館で見たいと思ってましたが、他の仕事と重なっていたことから、東京ドームでの公演の二日目に。

 サイモン&ガーファンクルの日本公演は、発売と同時に切符がほぼ売り切れた、なんて話を耳にしたぐらい前評判が高く、実際、各地で行われた公演は絶賛の声しきり。なんせ次から次へとおなじみのヒットが歌い継がれ、曲ごとに歓声が巻き起こる。懐かしい思い出がよみがえったなんて方が多かったんじゃないかと思います。

 ですが、アート・ガーファンクル、往年の美声はどこへやら、衰えはかくせない。それに比べて、ポールは年齢を感じさせぬ踏ん張りがあって意欲的。おまけに、音楽的にはポール主導方で、ポールが今、関心のある音楽展開をそのまま実現。俺の思い通りにやらしてくんないんっだったら、S&Gの復活なんてやる気もないし、興味もなし、なんて感じをそのまま絵に描いたようなステージの展開。

 もっとも、アートにも敬意を表して、それぞれのソロ・パートもあり。ところが、アートのパート、ポールのソロにくらべてスケールダウン。一方で、ポールといえば、アフリカのミュージシャンなどをゲストに迎え自身の最新のスタイルをアピール。これがなんとも躍動的でスリリング。まさに勝負あり。

 そして、締めくくりは「マリ・リトル・タウン」から「明日に架ける橋」とつないで大団円。とまあ、結局は、懐かしのヒット大会。ま、皆さんの期待はそこにあったからいいんですけど、私としては、なんだかなあ!
 思い複雑な一夜でありました。

2009/07/03

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯。
 今月は「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」。 そういえば譚さん、dancyu「本格焼きそばに挑戦」(09年4月号)で米の粉から作る河粉の作り方を実践指導し「もやしと鶏肉入り中華風きしめん」を披露。 それにしても「河粉」を「中華風きしめん」だって。それはないでしょうdancyu君。

 「きしめん」は小麦粉から「河粉」は米から作るわけで、素材からして違います。出来上がりの触感、歯ざわり、味わいだって違います。せめて「幅広ビーフン」として紹介してほしいところ。読者にわかりやすいように、ってことなんでしょうが、なにがなんでも「中華風」ですませるっていうのはなんだが文化を強引に捻じ曲げてしまうようなご都合事的お手軽な紹介にしか思えません。おっと、いけない。

 譚さんがdancyuで紹介した自家製の「河粉」を「赤坂璃宮」銀座店のキッチンでも作ってる、ってことで、それが締めくくりの面・飯の主役。で、これまでにも紹介してきた通り「河粉」の料理は各種色々。私の好みは牛肉を具にしたドライタイプの「干炒牛河」。

 スープ仕立ても悪くはない。ですが、「河粉」、「米粉」の種類に応じて、具を選びます。たとえば「河粉」よりも細めで生の米粉の「粉」なら、魚、蝦、烏賊、牛肉のつみれを具にしたほうが相性がいい。潮州系の粥麵店、小食店で出会えます。実は陸羽のメニューにもある。福臨門でも用意されてますから。そして、幅広の米粉の「河粉」なら、やっぱり、しっかり濃厚な味付けの具材がいい。

 というわけで、今回の「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」。その料理名からも明らかなように、具は牛のばら肉の「牛腩」を「柱侯醤」で煮込んだもの。牛ばら肉だけじゃなくって牛の筋肉の「牛根」までも加わってました。

 牛ばら肉の煮込みを素材にした麵料理では、その昔、六本木の中国飯店、道玄坂の「井門」の「牛腩撈麵」が懐かしい。ことに中国飯店の「牛腩撈麵」は、香港の粥麵屋そのままこってりの濃厚な味付けでした。それからすると袁さんの手になる「柱侯牛腩」、「柱侯醤」を使ってありますから、味噌の旨味、こく、それもヒネ味の旨味が浮き出てる感じです。
 真ん中に居座るのがすじ肉の「牛根」、その周りが「牛腩」。いずれも、その色合い、醤油、蠔油で味付けして煮込んだ焦げ茶じゃなく、ライトなキャメル・カラー。なんてことからも、フツーの「牛腩」、「牛根」とはひと味違うのは歴然のはず。

 自家製の「河粉」。つるつると滑らかな舌触りで、噛み締めるとぷるんと弾ける感じ。ピュアな米の味、独得の風味があるのが面白い。ですが、自家製ってこともあって、長いのがあったり、短いのがあったり、厚みがあってぼってりしていたり。そこんところはご愛嬌。

 そういえば、近頃、米を素材にした麵なんていうのが話題になってます。中国料理かぶれの私には「米の麵」という呼称はなんだかヘン。米を素材にしてるんだから、米粉(びーふん)でいいじゃないとかと思いますし、それに「麵」といのは小麦粉で作られたものの総称なわけですから。

 ですが、問題は細長い形態の「(麵)条」に関わってのことで、それが日本で「麵」、っていうのが一般認識。ですから「米の麵」なんて不思議な呼称が誕生するわけです。でも、どうして「米粉」ではなんでダメなんでしょうかね。そのほうが素材もわかりやすいのに。

 ともあれ「赤坂璃宮」銀座店の自家製の「河粉」。みかけはきしめん風。それよりも、茹で上がった感じは麵の端っこが半透明状態になる稲庭うどん風。もっとも、うどん、きしめんのような腰はなし。
 実は、そこんところが「河粉」の肝心なポイント。つるつるとした滑らかな舌触りだけじゃなくて、のど越しのよさこそが身上です。しかも、消化がよくってもたれない。胃に負担がない。だからこそ朝食や夜食の「宵夜」に「粥」じゃなくって「河粉」って人、香港、広東地方では意外に多い。

 熱い「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」をフーフー、ハフハフ、一気にかきこめば、額一杯に汗がじんわり。汗をぬぐいながら、そうか、汗をしっかり出すのがこの麵の狙いなんですね、なんて気づいた次第です。

 「河粉」を冷まして特別な「みそ」で合えたり、具材を乗っけて食べる「拌河粉」もありですが、それには季節としてはまだ早い。熱いスープ仕立ての「河粉」で、たっぷり汗を流す。
 うっとおしい梅雨の時期、じっとり汗ばんで何だか冷たい料理が食べたくなります。もっとも、身体はまだまだ暑さに耐えられるように対処できてませんから、じっとりに汗につられて冷たいものを食べると身体をますます冷やすことになる。なんてことで、柱侯醤でじっくり煮込んだこくのある味付けの具材を熱いスープ仕立てで食べるのはうってつけ。

 そして、甜品。「紅蓮燉春蛋/ナツメと蓮の実、鳩の卵のデザート」。 

 その料理名に「鴿蛋(鳩の卵)」とあったのに、一瞬、目を疑いましたが、目の前には紛れもなく鳩の卵が2個、お碗の中にぽっかり浮かんでる。そんな鳩の卵の白身、鶏卵のよう純白のゲル状じゃなくって半透明状、というのがおもしろい。

 日本ではなかなか入手が難しい貴重な鳩の卵に出会っただけでも感激。卑しい私は、燕の巣と鳩の卵の上湯仕立てが、突如としてよみがえったりして。

 さて、「赤坂璃宮」銀座店の支配人の大藤さん。6月30日で退社という連絡を戴きました。これまでいろいろお世話かけました。有難うございました。感謝申し上げます!

2009/07/02

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」。ひと口でたべられそうなミニサイズの帆立貝の貝柱。ですが、帆立貝は赤や緑で彩られています。

 緑系は3種。香菜、あさつき、漬物で、濃緑から浅い緑へと緑のグラデーションを形成。
 赤は唐辛子の赤ですが、どこか潤んだ真紅の色合い。料理名に「泡椒」なんてありましたから、もしかして四川の唐辛子の漬物の「泡辣椒?」なんて思ったら、その通り。どんぴしゃでした。

 唐辛子を塩漬けにした「泡辣椒」は四川特有の料理方法の「魚香」に欠かせない。最近では海鮮の魚介類との組み合わせが話題なんだそうで。陸の奥地、盆地に囲まれた四川で海鮮の魚介?って思われる向きもあるでしょうが、河南の沿岸地域や香港あたりは言うまでもなく、東南アジアの水揚げ港から航空便で四川に運びこまれてる、なんて話です。

 それにしても袁さんが四川の「泡辣椒」を使うとは思いもよりませんでした。「泡辣椒」のまろやかな辛味、酸味、ひね味に興味をそそられてのことでしょう。さらに、漬物の酸味、醗酵味、ひね味が加味されて、旨味、こくを増幅。すっきり、爽やかでいて、奥行き深い重層的な味わいを醸し出す。

 面白いのは漬物。「雪菜」のような素朴でひなびた感じ、なんだけど「雪菜」独得の「へたれ感」がない。それよりも日本の高菜の漬物のように、爪楊枝を刺してお茶請けに格好なぱりぽりの触感、噛み応えがあって、なんだか爽快。なんて思ってたら「野沢菜」を使ってるってことでした。その辺りの着眼、融通の利かせ方も、袁さんらしい。ってことは、高菜でもOK?

 ところが、それだけじゃないんです。醤油、だし、「泡辣椒」や青菜の漬物の味、風味にプラスして、磯の香のする醗酵味、ひね味がする。「もしかして潮州の「魚露」?」なんて思ったら、なんと、ベトナム産のヌクマムでした。

 清々しくてすっきりなのに、旨味、こくのあるこの「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」。どんな調味料の組み合わせなのか、アテンドの山下さんに尋ねてもらったところ、実はこの種の海鮮の蒸し物に使う赤坂璃宮特別ブレンドの「海鮮醤油」というのがあるそうで。それに「ヌクマム」が加えられてるってのが判明。醗酵味3種「泡辣椒」、「野沢菜」に「ヌクマム」が、旨味、ひね味、こく、味に深み、奥行きをもたらしていたわけであります。

 そして、帆立の貝の右上に覗く緑の長方形の野菜、冬瓜です。
 これからの季節、広東料理、中国料理に欠かせず、主役を果たすことがほとんどの冬瓜が、こんなところで脇役として登場。上湯で蒸し煮にされたに違いない冬瓜は、歯触りを含めて上品な美味。奥床しい美味でした。

2009/07/01

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 そして「例湯」の登場。
 今月は「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」。
 「涼瓜/苦瓜」がいよいよ登場。
「涼瓜/苦瓜」、最近では日本でも沖縄産のものが(なんでだか)通年、入手が可能になりました。ですが、旬は夏場、これからの時期。沖縄産だけでなく南九州あたりから北のほうへと産地が移動し、登場し始めます。

 しかし、日本産の「涼瓜/苦瓜」。風土、季候の差もあってか香港、広東地方のそれとは異なる印象。それは、たとえばクレソン、香菜、バジルなど南方系の香味野菜にも通じることなんですが、特有の苦味、えぐ味、風味が直接的強すぎる感じがするんですが、あれ何でなのか。香港や広東地方の「涼瓜/苦瓜」は確かに苦くて、青くて、えぐ味もありますが、どこか穏やかで、優しい感じ。青臭さも爽快だったりするように思えます。土地柄、風土の違い、なんでしょうか。

 ともあれ、広東地方の夏場の料理には各種の瓜が欠かせない。体温を下げる冷の性質を持ってる、というのも頻繁に料理の素材になる理由なのはよく知られています。中でも苦瓜は、冬瓜、糸瓜などとともに、夏の料理に欠かせない。

 そんな「涼瓜/苦瓜」。炒め物や鍋煮込みで登場かと思いきや、スープの素材として登場。それも、香港、広東地方では良くあることで、家庭料理の定番的なスープ料理の一品です。

 じっくりと長時間に煮こんで素材の味を引き出す「煲湯」の場合には、共に煮込んでだしをとる豚肉の部位、赤身の「痩肉」でも、すね肉の「爭肉」でもなく、骨付きのスペアリブの「排骨」だったりするのが一般的。香港や広東地方では皮付きのばら肉を使います。皮と肉と脂身が五層になるので「五花腩」。それが、日本では皮付きの豚肉の処理が認可されているのは確か3ヶ所だけなので、皮と皮下脂肪をはがした「三枚肉」が一般的。

 豚のばら肉、赤身の「痩肉」やすね肉の「爭肉」と違って、脂身がある分、だしの味、脂分の旨味、甘味が加味されて、こくがあって濃厚なものになる。それって「涼瓜/苦瓜」の苦味、えぐ味を相殺するには格好のもの。

 ところがこの「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」、それだけではありません。料理名にある通り「梅菜」が使われてます。「梅菜」はからし菜/大芥菜を漬け込んで、日にさらしてから、再度、漬け込んだ「客家」独得の漬物。塩っ辛い、しょっぱいだけじゃなくて、特有の甘味があるのがその特徴。豚ばら肉と煮込んだ「梅菜扣肉」はその代表的な料理。

 そんな「梅菜」の甘味、醗酵味、ひね味がスープの旨味、こくを増幅し、味わいを奥行き深いものにする。そこに「大豆」がたっぷり。大豆の甘味、それに干した豆特有のひね味がそこに加味される。

 日頃の「赤坂璃宮」銀座店の袁さんの手になる「例湯」。すっきりとしていて、優しく、穏やかで、素朴で自然な味わい、風味が特徴です。が、今回の「梅菜涼瓜湯/苦瓜と豚スペアリブのスープ」に限っては、こっくりとした味わい。舌の上にのっかるどっしりの重みがある。ばら肉を素材にしているからなのは言うまでもないでしょう。さらに、苦瓜の苦味と梅菜が醸し出す酸味がもたらす爽快で鮮烈な「涼味」が印象的。しかも、最後には大豆の素朴でひねた味が浮かび上がるという寸法。

 こっくり、濃厚気味な味なのに「涼味」がしっかり顔を覗かせるあたり、これぞ「夏」のスープ?
 いや夏間近、夏はすぐそこ、梅雨を抜ければ夏が来るってことで、うっとおしくて、ぐだぐだ、へなへな気分になってしまう梅雨の季節やその後に夏を迎えるにあたって英気を養うスープなのだと、納得しました。

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「例湯」。と思いきや「家郷小炒皇/五目炒め」が登場。
 「色合いが綺麗!」
 「見るからに旨そうな色合いですね」
 「素材が艶々としていて、炒め物なのに見た目がさっぱりというか、脂ぎっていないし、余計なとろみもついてないしね」
 「それより素材のひとつひとつの切り揃え、見事ですね。ほら、幅も、長さもぴったし同じだもの!」
 あ!それって私が言おうとした台詞ですけど。先に横取りされちゃいました。
 皆さんの目の付け所は鋭い。言ってみればなんてことない肉と野菜の五目炒め。ですが、素材は同じ幅、同じ長さに切り分けられてます。それぞれ色合いが違って、その存在を主張。それだけじゃなくって素材の分量、その按配、加減、バランスの妙も見事。見た目は派手じゃないのに、食欲をそそるものがある。

 この種の料理、普通は、材料をふんだんに使って、たっぷり、こんもりに盛り付けするのが中国料理、中華料理ならではと思われがち。ですが、それって日本のスタイル。香港でも、中国本土でも、ひと皿に盛る分量って、宴会料理だけに限らずカジュアルに食べる小菜だって、不文律でもないですけど、適切な分量、按配、加減があってそれを遵守。日本の中国料理では意外に見逃されがちなところです。そう、ラーメン中華の肉野菜炒めの大盛り、とはまるで一線を画す品格があります。

 「家郷」というのはこれまでにもふれてきたように「郷土料理風味」。香港や広東地方では家常菜、つまりは、家庭のお惣菜風、という意味がないでもない。田舎料理という解釈も間違ってはいませんが、田舎料理にしろ、郷土料理にしろ、日本でだとなんだか「芋の煮っ転がし」風の醤油たっぷり砂糖で味付けした濃くて甘辛い「お袋の味」的なイメージが濃厚になっちゃうのが、やっかいな所です。
 「小炒皇」というのは素材いろいろということで、各種の素材を取り混ぜたもの。日本風に言えば「五目」ってことになりますが、中国だと「五寶」、あるいは「八寶」と、縁起のいい数にちなんで素材の数を揃える。それが、日本だと「五目」ってことで、もとは陰陽五行説に由来したもの。ですが、なんでもかんでもごちゃ混ぜなのが「五目」というイメージ、今や圧倒的ですから。
  それで「五寶」でも「八寶」でもなくって「小炒皇」なのは、素材の数が「五種」、「八種」だけに止まらず、ってこともあるのと、「皇」の一文字が鍵を握る。つまりは吟味、精選された素材を各種みつくろい、炒め合わせた料理、って意味ですから、たとえば、美味しい旬の素材を取り揃えることもあれば、高価で贅沢な乾燥素材だけを取り揃えるなんてこともある。

 ちなみに今回の「小炒皇」。素材は豚肉、豚背脂、葉ニンニク、黄ニラ、赤と黄色のパプリカ、セロリの細切り。それに干し蝦の「蝦米」やピーナッツの「花生」も。味付けは塩だけ。それにだしですね。ともかく、幅、長さを切り揃えた2種類の肉と旬の野菜の数々を塩味で炒めあわせただけの料理です。
 それが、甘い。野菜特有の自然な甘さが一致団結、全体を支配して、甘い。しかも、素朴で自然な甘さが浮かび上がる。口の中で一杯になる。それだけじゃなくって、それぞれに青かったり、ほろ苦かったり、エグ味があったりなどなど、素材のひとつひとつの持ち味がくっきりと浮かびあがり、それぞれに存在を主張。存在を主張するのはその色合いだけではなかったのありました。しかも、それらがひと皿の中でひとつの味を形成、というのが見事です。

 素材ひとつひとつの持ち味、個性を引き出した火の入れ方、つまりは、鍋の扱いの巧みさに関心。まさに、鍋の気「鑊気」がありますから。それとともに皆さんの目を釘付けにした素材の切り分け、下拵えの見事さも。それが、鍋の技、火の通し具合を決める要因にもなってますから。

 袁さんの要求に応えて素材の切り分けをはじめ、入念な下拵えを担当する料理人は、橋詰太郎さん。大藤さんに尋ねてその名を知りました。日本の中国料理の料理人で、板の技に優れた料理人、何人か知ってます。しかも、板の技を徹底的に仕込まれた人ほど、名をなした料理人、多いんですが、それは知る人ぞ知る話。橋詰さんのこれからが楽しみです。