2009/07/28

初音家左橋の「百川」

 寄席に行きたいとせがまれました。はて、どうしよう。

 上野の鈴本、浅草の演芸ホールに出向くのはこの暑さですからちょっと億劫になります。でも、鈴本なら池の端の藪、ぽん多、浅草なら弁天山に立ち寄れる。龍圓というチョイスも悪くないか。それからすると三宅坂の演芸場は居心地がいいですけど、帰りしなにどっかに立ち寄るにしては、電車を乗り継がなきゃならない。

 なら新宿の末広亭だ。「かわら版」を引っ張り出して出演者を調べたら、昼の主任が初音家左橋。中入り前後には権太郎、円歌、ロケット団、雲助、志ん駒、それに紫文なんて名前が並んでる。これはもう末広亭に決まり。

 もっとも、昼の部、しょっぱなからというのはいささかきつい。わがままですね。でも開口一番は左橋の弟子の佐吉。清志郎命、ロックン・ロール好きで落語家になっちゃって、今は二つ目。気になる存在。ですが、今回は避暑を兼ねて、のんびり、ゆったり気分のつもりでしたから、佐吉はあきらめて、中入り前後を目指して末広亭へ。

 休日だったもんで立ち見になるかも。でもいいやと思ってましたが、二階の桟敷が空いてたんで、ふたりしてどっかり。ゆったり気分で居座り。残念ながら権太楼には間に合わず。円歌も川柳が代演。寄席ではよくあることです。

 それよりうちのかみさん、末広亭の昔の芝居小屋的年季の入った佇まいがことのほかお気に入りの様子。売店で仕入れた柿の種をポリパリ頬ばりながら、ご満悦。エアコンもしっかり効いていますから、お手軽に避暑気分満喫、気分爽快でおおはしゃぎ。

 ちょっとした馬鹿噺でも笑いがとまらない。まわりの人の反応はしら~と言う感じで、かみさんは浮いてます。でも、東京の人って、なんであんなに冷静というかクールなんでしょうか。笑いにきてんだから、その元ぐらいとらなきゃ、ていうのは関西人、だからでしょうか?

 久々のロケット団。四字熟語シリーズが痛快でした。これまでロケット団を見たのはほとんどが国立の花形演芸会。花形演芸大賞の月例の審査会にあたるわけで前傾姿勢のままぶっとばし。威勢がよくて勢いがあるのにいつも感心。それとは違って、リラックス気分。でも、ぐいぐいひきつけていくあたりはさすがです。

 落語、というよりも漫談。いつも噺の中味、変わりばえしなくて、最後は手旗信号で締めくくりの志ん駒は、いつ見ても、何回見ても、楽しくて、面白い。それに続いて、柳家紫文。
 待ってました!と声をかけたくなるぐらい、私、柳家紫文のファンです。

 十八番の「長谷川平蔵」シリーズ、あやうくてぎりぎりの駄洒落、ネタバレのみえみえ落ちの噺が続いて、しら~と客が引いちゃいそうになるところに、ぐさり、ずぼっとはまる落ちでキメる、なんてところが痛快。寄席ならでは客との駆け引き、その按配がおもしろい。けど、この日、「あた帽よ」(あ、知る人ぞ知る、平蔵シリーズネタのひとつ)が聴けなかったが残念。

 主任、トリの左橋は「百川」。話の行き違い、勘違いによる滑稽話で、ほのぼのとしていて、暖かくって、面白くて、楽しい。歌舞伎の所作を交えた「七段目」や、リアルな臨場感に思わず背筋がぞくっとする「夢金」、しみじみとした味わいのある「芝浜」もいいです。ですが、この日の「百川」、そんなのとは一味違うくだけた面白さと楽しさ。寄席ならではの心地よい噺を存分に味わいました。