2009/07/03

涼味が夏を呼ぶ~09年6月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・飯。
 今月は「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」。 そういえば譚さん、dancyu「本格焼きそばに挑戦」(09年4月号)で米の粉から作る河粉の作り方を実践指導し「もやしと鶏肉入り中華風きしめん」を披露。 それにしても「河粉」を「中華風きしめん」だって。それはないでしょうdancyu君。

 「きしめん」は小麦粉から「河粉」は米から作るわけで、素材からして違います。出来上がりの触感、歯ざわり、味わいだって違います。せめて「幅広ビーフン」として紹介してほしいところ。読者にわかりやすいように、ってことなんでしょうが、なにがなんでも「中華風」ですませるっていうのはなんだが文化を強引に捻じ曲げてしまうようなご都合事的お手軽な紹介にしか思えません。おっと、いけない。

 譚さんがdancyuで紹介した自家製の「河粉」を「赤坂璃宮」銀座店のキッチンでも作ってる、ってことで、それが締めくくりの面・飯の主役。で、これまでにも紹介してきた通り「河粉」の料理は各種色々。私の好みは牛肉を具にしたドライタイプの「干炒牛河」。

 スープ仕立ても悪くはない。ですが、「河粉」、「米粉」の種類に応じて、具を選びます。たとえば「河粉」よりも細めで生の米粉の「粉」なら、魚、蝦、烏賊、牛肉のつみれを具にしたほうが相性がいい。潮州系の粥麵店、小食店で出会えます。実は陸羽のメニューにもある。福臨門でも用意されてますから。そして、幅広の米粉の「河粉」なら、やっぱり、しっかり濃厚な味付けの具材がいい。

 というわけで、今回の「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」。その料理名からも明らかなように、具は牛のばら肉の「牛腩」を「柱侯醤」で煮込んだもの。牛ばら肉だけじゃなくって牛の筋肉の「牛根」までも加わってました。

 牛ばら肉の煮込みを素材にした麵料理では、その昔、六本木の中国飯店、道玄坂の「井門」の「牛腩撈麵」が懐かしい。ことに中国飯店の「牛腩撈麵」は、香港の粥麵屋そのままこってりの濃厚な味付けでした。それからすると袁さんの手になる「柱侯牛腩」、「柱侯醤」を使ってありますから、味噌の旨味、こく、それもヒネ味の旨味が浮き出てる感じです。
 真ん中に居座るのがすじ肉の「牛根」、その周りが「牛腩」。いずれも、その色合い、醤油、蠔油で味付けして煮込んだ焦げ茶じゃなく、ライトなキャメル・カラー。なんてことからも、フツーの「牛腩」、「牛根」とはひと味違うのは歴然のはず。

 自家製の「河粉」。つるつると滑らかな舌触りで、噛み締めるとぷるんと弾ける感じ。ピュアな米の味、独得の風味があるのが面白い。ですが、自家製ってこともあって、長いのがあったり、短いのがあったり、厚みがあってぼってりしていたり。そこんところはご愛嬌。

 そういえば、近頃、米を素材にした麵なんていうのが話題になってます。中国料理かぶれの私には「米の麵」という呼称はなんだかヘン。米を素材にしてるんだから、米粉(びーふん)でいいじゃないとかと思いますし、それに「麵」といのは小麦粉で作られたものの総称なわけですから。

 ですが、問題は細長い形態の「(麵)条」に関わってのことで、それが日本で「麵」、っていうのが一般認識。ですから「米の麵」なんて不思議な呼称が誕生するわけです。でも、どうして「米粉」ではなんでダメなんでしょうかね。そのほうが素材もわかりやすいのに。

 ともあれ「赤坂璃宮」銀座店の自家製の「河粉」。みかけはきしめん風。それよりも、茹で上がった感じは麵の端っこが半透明状態になる稲庭うどん風。もっとも、うどん、きしめんのような腰はなし。
 実は、そこんところが「河粉」の肝心なポイント。つるつるとした滑らかな舌触りだけじゃなくて、のど越しのよさこそが身上です。しかも、消化がよくってもたれない。胃に負担がない。だからこそ朝食や夜食の「宵夜」に「粥」じゃなくって「河粉」って人、香港、広東地方では意外に多い。

 熱い「柱侯牛腩河/牛バラ肉入りスープ河粉」をフーフー、ハフハフ、一気にかきこめば、額一杯に汗がじんわり。汗をぬぐいながら、そうか、汗をしっかり出すのがこの麵の狙いなんですね、なんて気づいた次第です。

 「河粉」を冷まして特別な「みそ」で合えたり、具材を乗っけて食べる「拌河粉」もありですが、それには季節としてはまだ早い。熱いスープ仕立ての「河粉」で、たっぷり汗を流す。
 うっとおしい梅雨の時期、じっとり汗ばんで何だか冷たい料理が食べたくなります。もっとも、身体はまだまだ暑さに耐えられるように対処できてませんから、じっとりに汗につられて冷たいものを食べると身体をますます冷やすことになる。なんてことで、柱侯醤でじっくり煮込んだこくのある味付けの具材を熱いスープ仕立てで食べるのはうってつけ。

 そして、甜品。「紅蓮燉春蛋/ナツメと蓮の実、鳩の卵のデザート」。 

 その料理名に「鴿蛋(鳩の卵)」とあったのに、一瞬、目を疑いましたが、目の前には紛れもなく鳩の卵が2個、お碗の中にぽっかり浮かんでる。そんな鳩の卵の白身、鶏卵のよう純白のゲル状じゃなくって半透明状、というのがおもしろい。

 日本ではなかなか入手が難しい貴重な鳩の卵に出会っただけでも感激。卑しい私は、燕の巣と鳩の卵の上湯仕立てが、突如としてよみがえったりして。

 さて、「赤坂璃宮」銀座店の支配人の大藤さん。6月30日で退社という連絡を戴きました。これまでいろいろお世話かけました。有難うございました。感謝申し上げます!