2010/05/31

初夏の味 '10年5月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月は無事セーフで5月の「赤坂璃宮」銀座店報告。
 実はそれまでに「赤坂璃宮」番外編!というのがあって、とっくに執筆済。ところがいろいろあってアップ出来ないまま日が過ぎてしまいました。アップしてたら今月の「赤坂璃宮」銀座店報告、またもや来月にずれ込みそうなんで、とりあえずは先に月例報告。

 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。
 画像でも明らかなように基本的な内容、組み合わせはほぼ従来通り。ですが、レイアウトがが変わりました。ものによっては切り方も変わりました。
 前菜担当、平林君に代わって三ヶ月目。その見せ方、並べ方、レイアウト、これまでの2回とうって代わってしっかりと自己主張。その意気込みが頼もしい。 まず、右から「ほうずき」、牛脛肉の冷製の「牛展」。
 いつもは皿の右から中央にむかって並べられていた焼き物類。すべて皿の左に移し変えて「豉油鶏」、「叉焼」、「焼肉」と並びます。
 なかでも「焼肉」の切り方、その厚み、以前よりも増して堂々と存在を主張。
 皿の奥、野菜は大豆、蕪、紅芯大根。

 「ほおずき」がいいです。「ほおずき」ならではの独特の味。酸味の後に苦味、特有のえぐ味があって、素朴でひなびた甘味、風味がジンワリ浮かび上がります。まさしく「初夏」を感じさせる風情のある味、風味。
 その隣の「牛展」。惜しいことには肉が固まらず、おまけに切り方も少々厚みがあり過ぎて、ぐじゅっとした触感。味も含めて、なんだかしまりがない。ゼラチン、コラーゲン質がいささか足りない感じ。それに、味付け、香辛料はしっかり。なのにメリハリがなくて、キメが甘いのと香り、風味が乏しい。おまけに、切り方が厚い分、肉がグジュ、しかも、噛み締めればもそっとした触感。なんだか中華味のコンビーフ風。 味付け、調理、香り、切り方に課題あり、かな。

 それに対して焼き物3種。「豉油鶏」、「叉焼」はアベレージ。「焼肉」の味付け、ちょいと塩味利きすぎ。ですが、味のメリハリ、それにその大きさ、切り方、厚み、これまでとがらり一変、「焼肉」をしっかり味わえました。
 大豆が嬉しい。ちょっぴりの蕪、紅芯大根は、切り方が素朴で、味付けを含め、もうひと工夫あってもとも思いましたが、口を変えるにはOK!
 平林君、頑張って!

2010/05/25

こがねもち

 旧聞に属する話ですが、4月の末、東松山の農業、加藤紀行さんから丸餅が到着。
 ここんとこ野菜の便り、全然なし。なんてところに丸餅。なんでも4月の終わり、豊饒を祈願して餅を作り、お供え、という風習があるそうで、そのおすそ分けにあずかった次第。
 関東では餅、のし餅ですよね。それをわざわざ手間隙かけて丸餅にして送り届けてくれました。感謝、感激。そ、餅は丸餅に限ります。
 ところが、今回、届いた餅、一個の大きさにたまげました。

 届いたその日は、早速、お雑煮。昆布とかつおでしっかりだしをひきましたが、冷蔵庫を覗いてみても「かしわ」(って鶏肉ですが)の澄まし仕立にするのに必要な肝心の美味しい「かしわ」の蓄えなし。
 しかも、野菜は水菜と人参だけ。

 白味噌仕立て必要な焼き豆腐もなければ、里芋の買い置きもなし。
 ということで、水菜、人参だけの簡素な白味噌仕立てに決定。

 白味噌は堀河屋野村の白味噌。
 甘味があって、なおかつしっかりの塩味。こくがあって旨いです。そんな白味噌仕立ての汁を用意しておいて、丸餅、オーブンで焼餅にします。

 ところが、いつもよりサイズがでっかいもんで、焦がさないようにこまめに焼き具合の按配見る必要あり。ぷっくりふっくら皮をもたげて餅が膨れ始めたら菜箸で割れ目を入れ、焼きとほどよい焦げ目付けを按配。それにしてもでっかいんで、焼くのに一苦労。

 焼けた餅、ひとまず皿にとって、鉢の真ん中に移して熱々の白味噌の汁を注いだら、じゅわっと焦げが弾ける音。 焦げの香ばしさが引き立ちます。
 でっかい餅をそのまま頬張れば、パリっとした表面に汁のしっとり感が入り混じり、旨さが口中に広がります。  
白味噌仕立ての汁が旨い。
それにもまして、餅が旨い。
餅の素材、原料は加藤さんが作ったもち米(糯米)の「こがねもち」。
以前にも紹介しましたが、加藤さんのもち米は福臨門御用達。我が家でももち米は欠かせません。 あれよあれよと言う間になくなります。

年末から年初にかけては、腸詰を具にした炊き込みご飯の腊味糯米煲仔飯。もしくは、腸詰、干しえび、干し貝柱、するめ、干ししいたけなどを刻んで炒め合わせて、炊くか蒸すかした糯米に混ぜ合わせた糯米飯。それとも、だしを足しながら糯米を炒め、具を混ぜ合せる生炒糯米飯。

 たまに赤飯にもしますけど、そのままもち米を炊くことも少なくない。
 たとえばタイ・カレーを作った時には、粳米のご飯よりももち米のご飯のほうが相性が良いですから。
 そして、豆が美味しいこの時期、頻繁に作るのが「豆おこわ」。
  豌豆、グリーンピースを粳米に混ぜ合わせて炊き込む「豆ごはん」も美味しいですけど、糯米と一緒に炊き込む「豆おこわ」だと、味、風味は格別。
 その豆、採れ立てで生でも食べられるぐらい新鮮なのがいいですけど、その入手が難しい。ですが、加藤さんの「こがねもち」と炊き合わせると豆の鮮度も問題になりません。「こがねもち」のねばり腰の強さが豆の味、風味を引き出してくれます。

 そうそう、本格的な「豆おこわ」、糯米を長時間水に浸し、蒸して作ります。ですが、思い立ったら即作って食べたくなるせっかちな私、炊く前にもち米に水を吸わせますけど、時間は簡略。しかも、蒸すんじゃなくて、普通に土鍋で炊き上げます。というなんちゃって「豆おこわ」ですが、それでも旨い。おかずなしで何杯もお代わり。

 切なる願いは、美味しいもち米の「こがねもち」を作る加藤さんが、豌豆、蚕豆、枝豆、各種の豆を作ってくれないかなあ、なんてこと。「こがねもち」との強力なコンビになりそうです。早い話、加藤さんへのおねだりです!

2010/05/23

祝開店!広味坊 成城学園店!の3

 そして「汁なし担々麺」。
 たっぷりの野菜の上にもやし。その上に挽き肉を味付けして炒めた肉末がどってりの感じで乗っかり、その上には香菜が。
 さらに、お粥なんかと一緒に食べる揚げパン状の油條の薄切りが、随所に散らばっているという按配です。

 香菜と肉末の奥から面を探り出したら、意外なくらいに太い。
 讃岐うどん風の太さ。 しかも、つるつると表面が滑らか。喉越しのいい感じ。面に具、タレの味がしみ込むよりも、タレが絡まる感じ。
 そのタレ、結構、濃厚で塩味が重い。いくつものミソを混ぜ合わせて創ったたれなのは歴然です。
「ね、このタレ、創くんが工夫して作ったの!」
「ええ、あの、四川に行ったり、あと、北京とか中国とか他でも色々担々麺を食べて、社長と一緒に工夫しながら作りました」 と創料理長。
 「結構、色々な醤(ミソ)が混ざってるみたいで(味が)濃厚なんだね」
 「芝麻醤、豆瓣醤、海鮮醤、蝦醤。それに蒜油、自家製の辣油、黒醋、花椒などですけど」
 海鮮醤に蝦醤、なんてところが五十嵐久夫流ならではと思えるところです。やっぱり広東系の料理人、なんですね。もっとも、私には少々ミソ味が濃く、塩味がきつくて重い味。ここに乳酸醗酵系の味が少々加われば、酸味が……なんて思いましたが、ミソ味が重なってるから、効果の程は不明。

 「あの、すんません、漬物、何かない?榨菜でもいいですけど、榨菜なら微塵切りにしてくれませんか?」と、どこまでもわがまま。自己主張が止まらないオヤジです。はたせるかな榨菜の微塵切り、混ぜ込むと、さっぱり感。

 「広味坊 成城学園店」の「汁なし担々麺」、本場四川風というより広味坊独自のオリジナルメニューと納得。実は、ミソ味濃厚、しかも、うどんに似た太めの面、なんてことで思い出したのは、上海で食べた拌面のこと。やはり面はうどんみたいに太くって、具はミソ味の肉そぼろでした。それは、担々麺というよりミソ味の濃い上海炸醤面という趣き。

 日本で上海料理と言えば砂糖と醤油をふんだんにつかった甘辛味なんてイメージ濃厚ですが、各種の味噌、料理に使います。ですから上海小吃、大衆的な食堂、屋台店同様の簡素な店構えの麺の専門店では、肉そぼろはじめミソで味付けした具を乗っけた汁なしの和え麺の拌麺があります。
 そういえば上海の焼きそばの炒麺も、小麦粉を捏ねて打って切り分けたうどん状の太さのものが主流。街中に具なし、味付けはたまり醤油のみの面の専門店、なんてのもありました。

 80年代半ば、揚州、南京に旅した際、最後の宿泊先が上海。市場にでかけて面の専門店、それに餅の専門的をみつけ、めぼしをつけておいて、帰国日の翌日に購入。ところが、餅関係は現金でもOKでしたが、麺の専門店では当時まだ配給券というか購入のために切符が必要。たまたま地元の人が一緒だったのでその難は逃れましたが、さらに難問。

 面はひと束、二束ではなく、グラム単位の計り売り。いきなりの話に面の目方、分量がわからない。手っ取り早く1キロオーダーして、知人と分けました。そういや、北京に旅行したさい、餃子を頼んだら「何グラム?」なんて言われて麺、じゃなかった面くらったこともありました。

 日本に持ち帰った上海のうどんそのままの面、早速、調理して食べましたが、もちもちの触感、捏ね具合、打ち具合、粉の旨さが実に絶妙。舌をうつ旨さでした。こんなことなら2キロ買っておければよかったと悔やまれました。

 ところが翌日の夜、冷蔵庫にしっかりしまっておいた残りの面、調理しようとしたら、うっすら黴が付着してました。保存剤などナンもなしの面だとわかって感心しきり。けど、もうあの旨さは味わえない。
 でも、欲をだして2キロにしなくってよかった、なんて複雑な思いにかられたことを思い出します。

 話戻して「広味坊」成城学園店」で食べた「汁なし担々麺」。ミソ味仕立ての具で和えた上海の拌面に、辛味、山椒の痺れ味を加味したものだ、ってことに気づきました。
 そういえば「広味坊」には「河粉」を「きしめん」に置き換えた面料理があったことを思い出しました。 幅広米粉(ビーフン)はすでにタイ産、ベトナム産のものが入手できた頃ですが、あえてそれらは使わずに「きしめん」に素材を置き換えて料理を展開。

 「河粉」を「きしめん」に置き換えるなんてことは日本ではよくある話。
 「広味坊」では調味、調理にひと工夫。この「汁なし担々麺」をつるつるの讃岐うどん(風)に置き換えたのも同じ発想かも。そうしたあたりも五十嵐久夫さんならではのアイデア。創君も納得してのことでしょう。

 あわせてスープを碗に少しもらいました。「ふかひれと黄ニラ面」、「鮑面」、「雲呑面」に使う基本のスープ、だそうで。独自の工夫、ありありと伺えました。
 「これ、以前の千歳烏山で出してたスープと違うでしょ?だしの作り方、なんだけど」
 「ええ、あの、社長と一緒にいろいろ考えまして……」
 「基本は鶏系、みたいで、手羽先やもみじも入ってる感じだから。ほらコラーゲン質特有のゼラチン質、それに、独特のこくがあるでしょ。それだけじゃなくてなんだか動物性の肉の味、鶏系じゃないってことね、豚の腿肉とか使ってない?そうだ、牛のすね肉のような特有のクセも感じるなあ。それに火腿(中国ハム)みたいなんだけど、それに似た感じの肉、塩蔵肉とか醗酵肉……でも火腿じゃないんだよな……火腿特有の醗酵の味、風味じゃないから……」
 「あ!それは、あの、生ハム使ってるからじゃないかと思うんですけど。火腿じゃなくて生ハムなんです!」と創料理長。

 生ハムはともかく、牛すねらしき具材を大地魚とか干しエビ、干し貝柱などの海鮮の干貨ものにすれば、香港の面粥店に通じるだしの味。ですが、そこまでくだけた感じじゃなく、動物系のだしの感じがするあたりは、香港の市井の広東料理店風、なんてところがおもしろい。

 このスープで、えびのすり身だけじゃなくエビのぶつ切りを潜ませたぷりぷりの触感、味、風味のある「鮮蝦雲呑」を具にした香港仕立て風の「鮮蝦雲呑面」を食べてみたい! 今度、事前予約怠りなく、創料理長にお願いすれば叶うでしょうか。

 それにしても五十嵐久夫さん、色々と面白い工夫をするもんです。
 五十嵐久夫さんの味の体系、広東料理を基盤に創作的な料理を編み出す独自性、その意欲に興味津々。話題の料理人となった娘の美幸さん。調理の技、独特の味覚、味のセンスとキメの確かさは天性のもの。リクツ抜きでそれを実践、という彼女ならではの持ち味、個性があります。ですが、味の基本、素材の組み合わせ、調味、調理のアイデアの元は五十嵐久夫さんにあり、なのは間違いない事実。そんな五十嵐久夫さんの薫陶を受けた創料理長は意欲満々。久夫さんのDNA、しっかり受け継いでいる様子。

 成城という土地柄、実は地元の住民の財布の紐は固い。料理の選択もオーソドックスな保守派好みで、新趣の料理にはさほど感心はなし。「わ、これって成城らしい!」と進取の趣向を好むのは、成城の街にやってくる他所の人なんですね。 そんな進取の店、長く持って1年か1年半。早いときには半年も立たないうちに跡形もなし、なんてところです。

 もっとも、サービスのスタイルはパーフォーマンスを取り込んだ進取の趣きでも、しっかり北京ダック、ふかひれの料理など、馴染みのある料理をメインに据えてあります。その着眼は鋭くて憎い。おまけに千歳烏山や大蔵の「広味坊」にまで足を伸ばしていた地元の顧客も案外多い、というのも大きな強味。

 我が町の食に関して地元の住人の支持が高いのは、蕎麦の増田屋、川上デリの洋風惣菜、惣菜パンの豊富な成城パン(成城ベーカリー)。おっと、マルメゾンとオテル・ド・スズキの洋風焼き菓子も見逃せません。なんてことで、はたして「広味坊 成城学園店」、それらと並ぶ存在になるかどうか。
 五十嵐創料理長、頑張って!

祝開店!広味坊 成城学園店!の2

 五十嵐創クン。千歳烏山、祖師谷大蔵、三越日本橋に店舗を構える「広味坊」を指揮する五十嵐久夫さんの次男坊(だったはず!)。現在「美虎」のオーナー・シェフを務める五十嵐美幸さん(てか、美幸ちゃん!)の弟です。

 創クンとは美幸さんが「広味坊」の千歳烏山店の料理長を務めていた頃に出会いました。
 当時の「広味坊」、ホールとキッチンは五十嵐家の一家、親戚、勢揃い。総指揮をとる社長の五十嵐久夫さんは当時、体調芳しくなし、なんてことからキッチンの裏に潜み、社長のおかみさん、美幸さんの妹のみほさんがホールを担当。店の左隣は長男が店を運営してました。
 実はそちらが本来の「広味坊」の発祥の地。後に右隣に新店舗。それの料理長を美幸さんが担当。その後、長男が店をたたむことになり、元々の「広味坊」は新「広味坊」のキッチンに。

 その頃、創クン。中学生だったか、高校生だったか、五十嵐家の方針に倣い、学校が終われば家業の手伝い。洗い場で皿洗いをしていたのを覚えています。その後、東京農大に進学し、卒業後、五十嵐久夫さんの指導の下、千歳烏山店の料理長に、なんて話を聞いてました。
 当時の創君、美幸さん曰く「社長(って久夫さん)が色んな店に連れていって私なんかよりも美味しいもの一杯食べてるし、将来有望、なんです!」なんて話に、興味津々、その行く先を楽しみにしてました。

 「懐かしいね!」なんて話に盛り上がりながら、早速、成城学園店のメニューを拝見。
 そしたら、面料理とディナー・コースのみでアラカルトなし。
 ディナー・コースの内容を尋ねたら、好みで選べる前菜、サラダ、点心(主に水餃子で、タレは好みで)と続いて北京ダックやふかひれ料理、もしくは鮑、海鮮、牛肉などのメインが一品。それに締めくくりが好みで選べる面料理で、後、デザートという内容。

 「面料理もディナーコースもお客様の目の前で取り分けたり、調理したりするワゴン・サービスなんです!」と創料理長。
 「え!? そしたら、(千歳)烏山店や(祖師谷)大蔵店みたいに、その日のお薦めとかアラカルトはないんだ」
 「ええ、私もほんとはいろいろやりたいんですけど、とりあえずは、面料理、それにディナー・コースのワゴン・サービスだけなんで……」

 生憎、訪問した夜、うちのかみさんロンドンに出かけちゃって、私ひとりきり。ひとりじゃディナーコースを頼むほどでもないし、なんだか味気ない。
 「ディナーコースは今度にします。面料理なんだけど、どれがおすすめ?」
 というのも、豪華な「ふかひれと黄ニラ面」、「鮑面」、「雲呑面」、「八宝菜面」、「麻辣面」、「つけ汁酸辣面」など、種類豊富でバラエティー豊か。

 目に留まったのは「汁なし担々麺」。
 「汁なし担々麺にします。でも、これだけじゃ物足りないなあ。あの、すんません、なんか炒め物、一皿か二皿、作ってもらえない?」と、昔っからの知り合いってことで無理を承知でごり押しのお願い。いけない横暴なオヤヂです。

 「う~ん、はい、わかりました。どんな料理にしましょうか?」と創料理長。
 「ディナーコースの中の一品とか……」「本日のディナーコースには、炒め物、ないもんで!」と、キッチンに消えた創料理長。
 やがて、小皿の一品が登場。「あの、これ、サービスです!」とアテンドの方。
 なんて話に無理強いしたさすがの私も恐縮した次第。
 その一品は「車えび」の甘酢炒めのマンゴ・チリ・ソース風味。

 衣をまとって揚げた海老をフルーテイな甘酢あんで絡めた糖醋仕立てがその基本。さらにチリというのは辣油だそうです。
 甘酢のあんがかかったえびを噛み締めると、しっとりの皮ですが、さくっとした「酥」の触感を残してます。
 ぷりっとしたエビの触感、身が旨い。
 一緒にミニ・トマトや生の金針菜なども皿の中。
 甘酢あんの甘味、酸味の按配、味わいは、日本独自の広東料理の伝統を受け継いだ調理によるもので、濃厚な味付け、味わい。
 社長、というか広味坊グループの総指揮をとる五十嵐久夫さん直系の味、なのは紛れもない。
 千歳烏山の「広味坊」に頻繁に通っていた昔、美幸さんの創作料理の数々を食べましたが、その基本、根っ子は五十嵐久夫さんの広東風味を下敷きにした料理にありってことは、食べ重ねれば理解できました。
 ともあれ、五十嵐久夫流のオーソドックスな広東系の料理の数々を思い出しました。五十嵐久夫流の系譜は美幸さん、そして、創くんに受け継がれているってわけです。

2010/05/22

祝開店!広味坊 成城学園店!

 過日、小ぬか雨降る夕方時、駅前でのことです。
 「広味坊が開店しました、よろしくお願いいたします」と、眼鏡に白シャツ、黒ズボン姿のちょい太めの青年がビラ配り。
 「ン!?」と思い、その青年に呼びかけて尋ねました。
 「「広味坊」って(千歳)烏山の?」
 「はい、そうです!」
 「どこに出来たの?」
 「はあ、あの、この通りまっすぐで、通りに出まして右折して、すぐです!」
 「あの、料理長は誰?もしかして(五十嵐)創クン?」
 いきなりの話に青年は一瞬、目が点状態!
 「は、あの、そうですけど……?」といぶかしげな表情が見て取れます。

 そんな話を知って早速「広味坊 成城学園店」に下見調査。
 成城学園の駅の北の通り。酒の宮崎商店の後に「ドミニク・サブロン」が出来た通りです。
 そうだ、開店したばっかりの「ドミニク・サブロン」で「ブール・ビオ・オ・ルヴァン」と「クロワッサン」を買いましたが(私も結構初物食い!)。
 ところが、駅前で焼いてるわけでなくて、新宿の工場で焼いてるそうで。それが、パンの焼き方、とっても「お上手!」なんで、びっくり!がっかり。相当なお値段ですから、がっかり度も高い。

 粉はいい感じ。酸味のある味わいもなかなか。ですが、焼きが足んないもんで、皮のパリ感が乏しい。中身もしっとり感を残したまま。味はあっても風味が足りない。香りがない。問題は焼き加減にあり、なのは明らかです。もう一押し、もうひと我慢、窯に入れて置けばいい感じになりそうなのに。

 焼き加減の按配、一体、誰が面倒みてんだか。見かけだけで焼き上がり、なのは明らかで、焼きかたとってもイージー、なんてのは食べれば歴然。季節や毎日の季候、温度に合わせて焼き加減を調整、なんて技がなく、誠意も熱意も汲み取れない。
 海外ブランドとの提携商売のパン、お菓子、チョコレートって、ロクなもんないですね。
 あ、話、それました。
「こんちは、あの、料理長さんいます?」
店に入っていきなり尋ねる風体よろしからぬオヤヂに、スタッフの皆さん、あっけにとられ。
 ま、当然でしょう。ゴマ塩の髪、その頃、伸ばし放題のまんま。それにご近所お出かけ専用のヨレクロ(あ、くたびれてヨレヨレになったユニクロの上下なんでヨレクロ!)ファッション。
 「はあ?(しばし沈黙)、あ、は、はい……おりますが?」
 というスタッフの目線を追うと、カウンターの隅に創料理長。
 「こんちは!小倉エージです!」と話しかけるまでもなく
 「あ、あ、小倉さん!久しぶりです!」と創料理長。
 久々の再会話にしばし盛り上がったものの、開店時間だったこともあって、来訪を約束して退去。

2010/05/21

浅草「龍圓」の「冷やし中華」

 今年初めての冷やし中華/涼面を食べました。場所は浅草、国際通りの「龍圓」です。
 私、大の冷やし中華好きすが、外では滅多に食べません。その理由、外で食べると大抵の場合、例の旨味調味料が混入。ってことで、食後の痺れ、痙攣を恐れて食べられない。旨味調味料の混入なしの冷やし中華ならOK!

 とはいうものの、そんな店、滅多にありません。とはいえ探せばあるんですね。それが「龍圓」の「冷やし中華」。前々から噂に聞いていましたが、私、初体験。ネットで「龍圓」の「冷やし中華」を検索したら、絶賛の言葉続々!

 ところが「龍圓」のメニューを探してもない!
 「ええ、あの、メニューには乗っけてませんけど、ご用意できますから」と店主の栖原さん。「涼麺一丁!」と、キッチンにオーダーする栖原さん。 え!?ってことは誰が作るの?

 目の前に現れた「冷やし中華」。「旬の野菜がたっぷり!」とネットに書かれてある通り。
 その上に茹で鶏、叉焼、豚耳とおぼしき焼き物系の具もたっぷり。
 おまけに「ほたる烏賊」なんかも!

 「冷やし中華」、ほんのひと口、具を口にしたりしますけど、韓国の麺、丼系の料理と同様に、麺を具材の山からより出し、具も麺もゴチャゴチャに混ぜあわせ、さらにタレをレンゲで掬ってまわしかけ、というのが私流の食べ方。

 麺が旨い。
 細めで、腰はほどほど、タレを適度に吸い込んでシットリ系。讃岐ウドンみたいに表面滑らかなツルツル系ではありません。しかも、噛み締めれば小麦とつなぎの玉子の味、風味。その細さ、香港の生麵ほどのもので。ですが、基本は伊府麺仕立てで、香港の生麵のようなかん水ぽさがありません。むしろ玉子入りの手打ちのパスタ、カッペリーニに似た、細さ、触感、味わい風味がある。何でも手打ちの自家製麺で、裁断だけは機械まかせ、なんだそうで。

 そして、タレ。これが絶妙。ごまだれ系、ってことで、練り胡麻がベース。ですが、練り胡麻を使ったタレ特有のくどさ、しつこさ、重さは皆無。甘味は練り胡麻のそれ。他に砂糖もプラスなのか甘味のくどさもない。 それに、爽快ですっきりした酸味の加減が実に見事。酢の直接的な酸っぱさは皆無で、かといってまろやか、っていうような重さもなくて、軽やかですっきりとしたフルーティーな酸味です。
 「これは良いや。この人すげえ!」 と思いました。
 そのわけを尋ねたら「お酢に、粒入りのマスタードを使ってますんで!」なんて答え。 爽やかな酸味、というのはその組み合わせの成せる技?

 実は私、冷やし中華のタレ、気分によってレシピを代えます。ですが、欠かせないのが乳酸菌系のヒネ味と旨味。要は漬物、なんですけど、たまにコーニッシュのピクルスを使うことがあります。そん時のフルーティな酸味に似てるかな!なんて感じ。粒入りマスタードなんて話からすると、通じるところありかも。

 「龍圓」の「冷やし中華」のタレの秘密を知りたくて、栖原さんにメールしましたが今だ返事なし。 ネットで検索したらどっかのTV番組で披露した時のレシピを発見。ですが、私が店で食べたものとはなんだか違う様子。その詳細は栖原さんからの返事待ち。

 それにしても「龍圓」の「冷やし中華」の麺とタレ、それに焼き物系の具材との組み合わせ。 基本は中華ですけど、その領域を超えちゃった技がある。押し付けがましさのない控え目加減な味付けのタレがいいですね。自家製の麺、焼き物類の具材と見事にマッチング。
 日本のイタリアンがトマトの冷製のカッペリーニを生んだように、中華の域を超えた冷やし中華(なんて妙な表現ですけど)、中国料理をベースに独自アレンジ、創作による冷製の麺料理が狙い目なのは明らかです。

 課題があるとすれば、野菜との組み合わせ、でしょうか。旬の野菜、どっさりも魅力ですけど、野菜ひとつひとつの素材の持ち味、触感、味、風味。その切り方、捌き方を、麺、焼き物系具材、タレといかに同居させ、一体化させるか。

 創作意欲溢れる栖原さんですから、野菜はガルグイユ仕立てで「冷やし中華」と一体化させた「冷やし中華・ガルグイユ風」なんて、そのうち絶対やりそ!
 はて、そん時、すべてグチョグチョにしてかき混ぜて食べるのか。
 それとも、タレ絡みの麺や焼き物系具材と、野菜、別々にして交互に食べるのか、それが問題だ!

P.S
 「申し訳ございません。冷やし麺のタレ、遅くなってしまいました」と、栖原さんからメールが到着。
 その内容、先にふれたTV番組での「おしえて!うれしぴ レシピ」のコーナーで紹介された「『中国小菜 龍圓』栖原一之さんのレシピ 榊原郁恵~タレが決め手の冷やし中華 」レシピによれば
1、練りごま(白)大さじ2
2、ごま油 大さじ1 3、砂糖 大さじ3
4、酢 50cc
5、しょうゆ 80cc
6、粒マスタード 大さじ1
7、水 150cc  という内容でした。

 でも「龍圓」で食べたのと違う感じ、なんてふれたとおり、栖原さんから届いたレシピ、ビビョーに違いました。
 練り胡麻がタレの基本のベースなのは違いなし。それに砂糖、酢、醤油、粒マスタードを加えるところは同じ。ですが、醤油は中国醤油、つまりはたまり醤油の老抽をプラスアルファ。それに、酢は酢でも米酢、しかも富士酢を使用。 それに、ごま油じゃなくって、栖原さんご愛用の米油、なんですね。

 鍵を握るのはやはり練り胡麻。それに酢、しかも米酢と粒マスタードなのは間違いない。中国醤油を加えたのは甘味、コクの効果を狙ってのもの、なのは明らか。
 そして、油。ゴマ油じゃなくって米油、というのは見逃せないポイント。
 実はゴマ油の味、甘味、香り、風味、一般的には「いかにも中華!」を具現化してくれるもの。そう、いわゆる中華風ドレッシングなどでも必需品。というのも、ゴマ油の味、甘味、コク、風味というのは日本人が持つ中華料理のイメージ、その味を最も具現化するのに格好なものなんです。

 しかし、栖原さん、お店の冷やし中華のタレでは、ゴマの味、コク、風味は練りゴマを活用するだけにとどめて、ごま油を使わない。なんてことで、味の濃厚さ、くどさ、重さを軽減。さらに、米酢を使って甘味、旨味もあるすっきりの酸味を活用。
 加えて粒マスタードというのはひりっとした辛味だけでなく、酢が加えられてますから酸味もあり。先にもお話したとおり、乳酸醗酵系のフルーティーな酸味、ひねた味、旨味やこくをます。

 見逃せないのは「だし」。実は、普通なら最低でも「毛湯」、凝るなら上湯を使って「だし」の味で底力を加味、というのが一般的。
 「でも、ウチのだし、上湯は火腿なんかも加えてしっかりとったものですから、塩味が利いて味が濃くなる。ですから……」、と。

 栖原さんが選んだ「だし」は、なんと「水」!というあたりが実にするどい。
 「最良の「だし」は「水」!」なんて話、コートドールの斎須さんも語っていること。かつてランブロワージ時代、ベルナール・パコさんとやりとりした逸話にもあります。

 「いや、水に凝ってるんですよ。ですから、ウチのキッチンには「水」がごろごろ!各種ミネラル・ウオーター、軟水はもとより硬水も入手して、いろいろ試してるんです!」なんて話に大いに納得。

 それに「課題は野菜との組み合わせにあり」なんてことに関しては
 「そうなんです。まさにその通り。野菜の持ち味、個性を見極めて、そのひとつひとつ、茹でたり、蒸し炒めたり、調理と味付け、触感を変えて、一皿に盛り込む、というのが、私の狙い、目指すところなんです!もっとも、ウチでは手間隙かかりすぎるし、人手の余裕もないんですけど!でも……!」
 
 やっぱり野菜がどっさり、だけじゃなくって、野菜はガルグイユ仕立の冷やし中華というのが、栖原さんの狙い、目指すところだったんだと納得しました。

2010/05/18

三社祭 2010~雷門潜り

 三社祭、雷門中部町会のお世話になっている私です。
 15日の午前は町内御輿連合渡御、午後は雷門四ヶ町連合渡御、夜は宵宮の三ヶ町連合渡御。すべてに参加して担ぎました。

 とはいえ必死になって御輿にしがみついていたのはおいしいところだけ。それ以外は御輿にくっついて御輿の周りをぶ~らぶら。ですけど御輿の周りについてるだけで、心ドキドキ、体ウズウズ、なんてのに負けて御輿に飛び込み、担ぎ棒を触ることになります。

 午前の町内御輿連合渡御。晴天に恵まれてたっぷり汗をかきました。おまけに五月の陽射しは紫外線が強い。なんてことで鼻のてっぺんは真っ赤か。鼻だけでなく顔も灼けました。しばし伸ばし続けていた髪を五分刈にした頭の頭皮もしっかり灼けて、頭ひりひり。

雷門中部町会の御輿は町内だけでなく雷門周辺を練り歩きますが、中でも一番心がときめき、御輿を担ぐ快感を覚えるのが浅草寺参道の門潜り。

 午前の雷門四ヶ町連合渡御では宝蔵門。宵宮の三ヶ町連合渡御では雷門を潜ります。例年ならその数も増えますが、現在、浅草寺本堂が工事中のため回数が少ない。

 雷門、宝蔵門の門を潜る時、御輿担ぎの威勢の良い掛け声が門の下ではひときわ大きくこだまする。仲見世の狭い通りを担ぐ時のわんわんのこだま、響きも刺激的ですけど、それにも増して門潜りの際のあのこだまの快感はこの上ない。

 門の下を潜りはじめ、わんわんのの響きが耳に届くと、御輿棒は肩に預けたまま両手を高く上げ、手拍子打ち鳴らします。雷門中部町会の町内渡御でのなによりもの楽しみ、醍醐味です。

 そして16日、三社の本社御輿の渡御の日です。 雷門中部町会の今年の本社渡御は二ノ宮。午前9時20分に雷門前から出立。それが今年、さるツテで仲見世町会の半纏をゲット。仲見世は本社御輿の宮出しの後に始まる本社御輿の町内渡御の最初の町会。宝蔵門前から仲見世を抜け雷門外までがその区域。

 なんとか本社御輿を担いで雷門を潜れないものか。というのは長年来の念願でした。それが果たされることになるかも!なんてことで胸が躍る。はたせるかな、仲見世の本社の担ぎ、担ぎ手は、列に並んで順送りの入れ替えというルールがありました。

 順送り、ってことは本社の御輿、争うことなく確実に担げます。けど、雷門を担いで潜れるのか、ということに関しては運が左右する。担ぎ順の巡りあわせ次第ってことになります。なんとか本社の御輿を担いで雷門を潜りたい。その一心で雷門が近づくとともに(順番待ちの)並びを按配。順番待ちは3人交代。なんてことで、雷門までの距離を目分しながら、後に並ぶ人を「お先にどうぞ!」なんて先に送り込む。 手前勝手なこととは承知していても、どうしても本社を担いで雷門を潜りたいという執念は抑えきれない。

 やりました。念願の本社御輿を担いでの雷門潜り。
 わんわんのこだま、最高の気分でした。
 なんだかこれから良いことありそ!

2010/05/11

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして今月の私の点心。羅漢果、百合根、蓮根の糖水。
 中国料理名、尋ねるのを忘れました。判明次第、ご報告。
 この糖水、私、初体験。羅漢果と杞子、蓮根の糖水、それとも、豚肉、野菜など羅漢果を煮込んだ煲湯は経験あり。もしくは、蓮の実の蓮子、百合根、蓮根、紅棗が入っていたり、いなかったりの糖水もです。ですが、羅漢果、百合根、蓮根が一緒、というのは初めてです。

 色々検索してみたら、百合根に蓮根、紅棗、あるいは、蓮の実を加え、甘味をつけて煮込んだ糖水は、どうやら北方のものらしい。香港にあるのかどうか、作った久保田さんが教えてくれるはずですから、返事を待ちます。

 この羅漢果、百合根、蓮根の糖水、羅漢果のあの独特のクセのある味、香りが支配的。そうです、飴にもありますよね。あの味です。甘味よりも、薬効的な雰囲気濃厚でほんのり苦味、渋味も。なんてところで、百合根のでんぷんの甘さ、こくが効果を発揮。蓮根の澱粉質も甘味を増加。羅漢果、蓮根に百合根、蓮の実、場合によっては「紅棗」や「蜜棗」を加えたりするのは甘味、風味を加味するためでしょう。

 自然で朴訥、どこかひなびていたりするナチュラルな甘味。しかも「熱」ですから、ほのぼのとしていて心温まる。胃が休まる。優しい味わいが魅力です。おまけに、羅漢果、咳止め、痰づまりに効果的。煙草と縁が切れない私には、うってつけ。

 もしかして冷たい「凍」だと、すっきりと口爽やかなんでしょうか。
 今度、試してみようかな。けど、食事の後ってことになると、やはり「凍」よりも「熱」を好む私ですからその機会がありますかどうか。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「本日凍甜品/本日のデザート」は6品から好みのものを選択。私は下の中央の「湯水」に注目。羅漢果、百合根、蓮根がその素材。冷たい「凍」と温かい「熱」があるってことで、当然、「熱」を選びました。

それを待つ間に久保田さんの今月の「懷舊点心」が登場。
なんと「叉焼酥」。玉子の黄味を塗ったらしきパイ生地の黄金色の照り、輝きがなんとも懐かしい。その上には(あれ?ピーナッツだったけ?の)トッピング。
 噛み締めればまさに「酥」、さくさくさっくりの触感。同時に、醤油味、塩味、甘味、こくのある旨味が入り混じった中味の叉焼餡が口中に広がります。
 甘味も塩味もちょっと濃い目、というのが昔懐かしい。

 以前にも話したように香港の飲茶の点心、こと近年、70年代半ばに美心集団の翠園酒家、次いで美麗華集団の「翠亨邨茶寮」の出現とともに変化。「陸羽茶室」は別格として、「蓮香楼」、「得雲」、「高陞」などの伝統的な老舗の茶楼での点心を現代的に変容させ、シェラトンやリー・ガーデン・ホテル内に誕生した料理店がそれに倣ったもの。

 80年代半ば、ユニコーン・グループの各店や東海グループ、ことに、「麗晶軒」、「凱悦軒」、「嘉麟楼」などの超高級ホテル内レストランの登場とともに飲茶の点心は劇的な変化を遂げたのでありました。

 そんな時代区分からすると今回の「叉焼酥」。伝統の味、風味を残しつつ、70年代半ば以後から80年代にかけて洗練を見せ始めた初期ホテル系内レストランでの頃のものを思い出します。パイ生地出来栄え、その触感、中味の餡の甘味、塩味、旨味、こくのバランスがそんな感じ。

 ほんと、私、あの頃、って80年代ですけど、には香港に出向けば、主に朝、昼は飲茶。老舗の茶楼を片っ端から塗りつぶし。香港島の東西、九龍半島の付け根まででかけたものでした。 思い出すのは84年か85年だったか、ブルータスの香港の食取材にアドヴァイザーとして同行。

 「新派広東」の紹介が主な目的でしたが、その際、一緒したカメラマンの西川治さん、新しいもの、流行物好きな香港人の間で話題だった東海海鮮酒家の新派趣向の料理、リー・ガーデン・ホテル内の彩紅館だったか。洗練された雰囲気、新派系飲茶の点心がお気に召さず、おカンムリ。

 そこで西川さんを油麻地の豪華酒樓へ。勤め前の労働者、サラリーマンは言うに及ばず、おじいちゃんおばあちゃんが朝早くから席を陣取り長居するといった庶民的風情この上ない店。味も脂っこくてこってり濃厚。西川さん「これぞ飲茶!」とばかり、その雰囲気、伝統的で昔ながらの点心がお気に入り。バシバシ写真を撮影されました。

2010/05/09

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの面・粉。今回は「潮式生蠔粥/潮州風 牡蠣と豚肉のお粥」。
 アテンドの柏木さん、土鍋でサービスされる粥の熱さに気圧されてか恐る恐るの感じでテーブルに。というのも、土鍋の中の粥、ぐらぐらふつふつ煮え滾って、熱いあぶく、ぶくぶくごぼごぼ、そこかしこ。おまけに、湯気もうもう、ですから。
 お披露目の後、一旦、部屋から運び出され、一人ずつ取り分けられた碗がテーブルに届いてもなお、湯気もうもう。
 見るからに舌を火傷しそうで、なかなか手が出ません。
 しばし「粥」が冷めるを待って表面が「糊状」に張り詰めたかけたところで、レンゲでひと混ぜ。すると、ぶつ切りの牡蠣がそこかしこに顔をのぞかせる。しかも牡蠣、ぶつ切りの断面から想像するに大ぶりの牡蠣の様子。  以前、暮れの12月のことですが牡蠣の卵焼きを食べた際、赤坂璃宮の牡蠣は大船渡のシダッチの「赤崎冬香」ってことでしたが、大船渡、先のチリ津波で大変だった様子。ということからすると、別の牡蠣?
 ともあれ、牡蠣の卵焼きの「芙蓉煎蠔餅」が香港、潮州、台湾でも小ぶりの牡蠣が主体ですが、日本では牡蠣の種類が違うのか、大ぶり主体。ですが、その分、味わいが増す、リッチになるのが嬉しいところです。

 それ以前に「粥」。広東式と潮州式では、その作り方、出来栄え、味わい、風味などことごとく違います。まず香港の「粥面店」で一般的な粥は米粒から作りますが、強火で最初は沸騰させてからは「老火」つまりはとろ火で長時間炊く、というよりも米粒の形状が消えうせるまで煮込み続け、とろとろの状態に仕上げます。とろみたっぷり、「滑」つまり滑らかで、さらには「綿」、舌にとろけるような状態になっているのが良し!とされるわけです。

 一方の「潮州粥」。米粒から作る場合には、強火で一気に沸騰させ、その後も強火に炊き続ける、というか煮込み続け、米粒に7分ほど火が通ったところで、様々な具材を加え、具材のだしを生かしながら仕上げます。結果、米粒の形状が残っていたりするのが普通。米粒がなくなっていることもありますけど、「とろり」ではなく「どろり」としていて、腰と粘りが強い。中には粳米ではなく糯米を使ったものもあります。

 米粒の形をとどめている、というのが特徴のせいなのかどうか、店によって、それも潮州系の「粥面店」ではなくて潮州料理を看板にする店では米粒からではなく、炊いたご飯から作る店もあり。日本でもよくある雑炊に似てたりしますが、それでも案外、煮込まれているのでとろりではなくどろり。さらに、炊いたご飯から作ったものはざらりとした触感がします。

 今回の「潮式生蠔粥」。
「潮州風 牡蠣と豚肉のお粥」とあるように、牡蠣がたっぷり。おまけに豚の赤身肉の挽き肉が具材。そのだしが旨味を増す。ということからすると「蠔仔肉碎粥」ってのが正式名かも。 そんなどろり、こってり、こくのある「潮州粥」。
 揚げたピーナッツと「咸菜」。
 そうです、前回紹介したたかなの漬物が添えられます。

 「このお粥、どろっとしていて、旨味もこくもあるし、日本のさっぱりしたお粥と全然違うね」
 「そうそう、結構、どっしりと重厚な感じだし、すぐにお腹が一杯になりそう」
 「でも、そんな感じなのに、すいすい食べられちゃうのが不思議」
 「それより、これ、食べてると体が熱くなりません?なんだか体がほてってきそうな感じで」と、思わず上着を脱いでしまった私でありました。

 この「潮式生蠔粥」、作り方、粥の正式名とか色々と袁さんに聞きそびれ。橋本さんを通じて確認中ですので、返事が到着次第、追加報告いたします。
 熱々で、どろり、しかも濃厚で、旨味、風味たっぷり。
 その量からして途中でギブ・アップかと思いましたが、最後までペロリ。
 お粥は別腹、ってことでしょうか?

2010/05/06

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」。「魚肚」を細切りにし、玉子で炒めあわせ、ほぐした蟹の身、火腿の千切りをトッピング。
 驚きました!
 というのも「魚肚/魚の浮き袋」、「花膠」とも言いますが、香港では近頃品薄ってことから値段高騰。
 干貨といえば一般に「鮑参翅肚燕」、「干鮑(干し鮑)」、「海参(干しなまこ)」、「魚翅(ふかひれ)」、「花膠(魚の浮き袋)」、それに「燕窩(燕の巣)」が重要品。もっとも、その価値基準、値段に応じて近頃は「鮑翅肚参燕」といったように、「花膠」と「海参」と順序が入れ替わった様子。以前飛びぬけて高値だった「燕窩」も飼育物の質の安定し、値段もリーズナブルに。しかし、「魚肚/花膠」の値段は高騰一途だそうで。
 「魚肚」、魚の種類は色々ですが、主に「にべ」、「ぐち」など「いしもち」系の魚がその主流。しかも、雄と雌があり、形態でその見分けつきます。で、乾燥品を戻し、様々に調理します。水で戻した「魚肚」は乳白色で、滑らかな舌触り。噛み締めればかすかな弾力があり、すっと歯が入ると同時にねっとりした粘着質の触感があります。膠質主体の特有のもので、コラーゲンたっぷり、なんてことから美肌の効用なども語られてます。
 「魚肚/花膠」はふかひれなどと同様にそのもの自体には味はなく、味を煮含めて調理、というのが一般的。とはいえ、ふかひれがそうであるように、巧みに戻してもやはりどこか磯の香りが残ってます。やっぱり海のもの。
 「魚肚/花膠」の一番の御馳走は干し鮑、干しなまこ、干し椎茸などと二湯で煮込み鮑汁などで味付けした「海味一品煲」。それで思い出したのは「魚肚/花膠」単品だけで主役を張るってことはなくて、他の干貨、乾物と組みあわせての料理が多い。そこに鵞鳥の水掻きなんかを添えたりします。
 そういえば「魚肚」を素材にした「湯」の料理で「韮黄瑶柱花膠湯」というのがありますけど、あれも「瑶柱」、つまりは「干し貝柱」と組み合わせたもの。干し鮑や干し貝柱のようにそのものから「だし」は出ない、なんてとこが弱点ですか。
 そんな「魚肚/花膠」が堂々の主役を張るのがこの「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」です。戻した「魚肚」のぷるんと滑らかで、ねっとりとした弾力のある舌触り、触感、その美味を生かした料理です。
 「魚肚」の細切り、炒めた玉子、もやしとともに「滑」、「嫩」、「酥」など、様々な触感が混然一体となって生み出す美味を味わうという趣向。ちなみに「桂花」というのは「きんもくせい」に模したということで、きんもくせいの色、黄金色で仕上てあるのがこの料理の特徴です。
 似たような料理にふかひれを素材に玉子、もやしなどと炒めた「桂花炒魚翅」というのがあります。日本だとふかひれは「よしきり」、「もうか」の「排翅」が主流。「桂花炒魚翅」の素材は「翅絲」、つまりはふかひれの繊維が太い「海虎翅」の胸ひれなどの「生翅」がふさわしい。なんてことで、日本で極上の「桂花炒魚翅」は滅多にお目にかかれない。香港の福臨門でたまに食べましたが「こんなふかひれの料理のありなんだ!」と感心しきり。
 ということでは「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」は「魚肚/花膠」が主役を張る贅沢この上ない料理。
 目を丸くし、驚いたのもそんな理由があってのこと。しかも、この「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」、蟹肉、火腿の細切りをトッピング。それも贅沢です。が、それにもまして「魚肚」の美味、たまりませんでした。
 どうしよう、こんな贅沢、味わっちゃって!

2010/05/05

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 そして「油魚煮咸菜/うつぼとからし菜の煮込み」。

  「ン!? うつぼ?」。
 「うつぼ」と聞いて、子供の頃食べた和歌山から送り届けれた「うつぼの干し物」を思い出しました。まだら模様の皮が身に張り付いた「うつぼの干し物」。炙って食べましたが、炙ると干し物にもかかわらず脂がじんわり滲み出る。しっとり加減の身になりました。同時に、独特のクセのある匂いがあたり一面、なんてことを覚えてます。私、結構、病み付きになって、だからこそクセのある独特の味、香り、強烈に印象に残ってるんですが、東京に来て以来、出会ったことなし。そんな「うつぼ」、そういえば赤坂璃宮の3月だか4月のお薦めの料理にあったような記憶あり。それを、今回、食べることになるとは思いもよりませんでした。
 「うつぼ」の唇の舌触り、ぷるぷる、とろとろの感じ。ゼラチン質、コラーゲン質がたっぷりみたい。身は脂分たっぷり、ぎとぎとの感じで、身はゆるゆる。噛み締めると、しっとり潤んでいて、甘味を含んだ濃厚な味が口中に広がります。しかも、結構、どっしとした重量感とインパクトがあります。
 うなぎに脂分とコラーゲン質を加えた感じ、かな?しかも、かつて食べたうつぼの干し物を炙って焼いた時のような特有の匂い、クセはさほど感じない。この「うつぼ」の肉の旨さ、味付け、調理が素晴らしい。
 「うつぼ」の味を引き立て、同時に存在を主張しているのが漬物の「咸菜」。「咸菜」には色々種類がありますが、今回の「咸菜」は潮州の「包心芥菜/大菜」、「結球たかな」の漬物です。潮州料理の「湯」、土鍋炒め煮込みの「煲仔」など、「潮州咸菜/包心芥菜(大菜)」の活用範囲は広く、料理の種類は多彩で豊富。
 そんな「咸菜」の塩味、酸味、醗酵したひね味、醸し出す旨味が「うつぼ」と見事に調和。さらにはだし、どうやら「二湯」で煮込まれた様子で、だしも旨味を加味。さらに醤油など調味料の按配、分量、匙加減が絶妙で、味、風味を引き締めてます。脂分とゼラチン、コラーゲン質を含んだ「うつぼ」の身のこってり濃厚な味わい、それに塩味、酸味、旨味のある爽やかな「咸菜」という組み合わせが、面白くて絶妙です。
 この料理を食べながら思い出したのは潮州料理の「海鰻煮咸菜」。もっとも「海鰻」というのは大雑把な表現で、あなご、はも、うつぼなど、海に生息する鰻に形態の似たものの総称です。とすると「うつぼ」、中国名でなんていうんだろう。検索にかけて判明したのは「爪哇裸胸鳝、俗名、薯鳗、钱鳗」ってことでした。 袁さんが「油魚」としたのは、その資質からのことでしょう。
この「油魚煮咸菜」。袁さん、「海鰻煮咸菜」をヒントにしたのに違いない。いやもしかして袁さん、香港か潮州で「うつぼ」を使った「海鰻煮咸菜」を食べた経験があるのかも。潮州風味の「家郷菜」をプロの手腕で見事に仕上げた一品です。
 それにしても袁さんのレパトリーの幅広さ、豊富さに改めて感心するとともに敬意を払いたくなります。これまで日本ではなかなか出会えなかった広東地方の家郷菜、豪華で貴重な素材による宴会料理から旬の味、日常素材による広東南部の羊城、順徳料理リ、潮州、客家の小菜まで、次から次へと登場。
 こんな料理、他にももっともっと食べたい!袁さんにいろいろリクスエトしなきゃ。袁さんよろしくお願いします!
 そういえば「うつぼ」、鰻を蜜汁仕立てでバーバキューにした「蜜汁焼鱔」のように「蜜汁焼油魚」なんかでも食べてみたいなあ。相当いける感じがします。それから「潮州咸菜」を使った各種のスープ、例えば「咸菜胡椒豚肚湯」とか「咸菜胡椒粉腸湯」、鰻だけでなく魚、それもハタ、アイナメなどの高級魚じゃなくって、鯵や紅衫(いとより)、黄魚(いしもち)などを使った潮州風味の煮込み込み料理の煲仔、食べたいなあ。
 袁さんなら間違いなく実現してくれそうです。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯」は「是日例湯/アイナメとクレソンのスープ」が登場。
 「アイナメ」を煎り焼き、つまりは「煎」して、クレソン、蜜棗、百合根とともに煮込んだスープです。嬉しいです。私は狂喜乱舞。
 実はこの日を先立つこと何日か前、かみさんに請われてかみさんと友人何人かの食事、「赤坂璃宮」銀座店に袁さんの「家郷菜」を依頼。 その幕開けに登場したのがこの「アイナメとクレソンのスープ」。

 「湯」は日常素材を使った「例湯」で、と橋本さんを経由して袁さんにお願いしたところ、「袁さん、アイナメとクレソンのスープは如何ですか、とのことなんですが」という橋本さんからの返事。

 「アイナメ」、日本の素材、ことに海鮮料理では様々に調理可能で、その資質、中国料理の各種の調理にぴったり。ですが、この季節、つまり晩春から夏前にかけては、身も大きなり、値もはります。そんなことで、どうしょうかと思案しましたが、袁さんにまかせたところ、かみさんの宴では「アイナメとクレソンのスープ」が登場。その出来栄え、優しい味、風味の豊かさは、香港の味、香り、そのままだったと大感激。

 ぐやじい思いでいたら、この日の「湯」で「アイナメとクレソンのスープ」が登場。狂喜乱舞のわけはそんなことにもあります。
 なんといっても「アイナメ」がでかい。「煎」の焼き色を残しながら、スープとして煮込んでなおその勇姿を残す「アイナメ」に感激。

「あ、これ、この甘味、コク、百合根ですか?」と、鋭いひと声!
そう、スープから具を取り出し、別の皿に分けて、スープはスープ。具は上湯とたまり醤油仕立てのたれで食べるのが、こうした「例湯」の食べ方。ですが、今回、具を載せた皿には百合根の姿なし。しかし、碗に取り分けられたスープの底に百合根が潜んでました。百合根の澱粉質、その甘味、それもコクになるぐらいぼってりの感じでスープ自体に入り混じり、舌の上にはざらっとした触感が残ります。

 甘味には蜜棗のそれも入り混じり、少しばかり苦味もある。
 苦味ってことではクレソンもそうですね。 とはいえ、主役はやっぱり「アイナメ」。
 その美味、こくのある旨味、風味。白濁したスープはその証。 海の魚だけあって、磯の香り、塩の味がする。ですが、海水魚特有の臭みはしっかり抑えられてます。生姜もそうなのかな。それ以外に、もしかして陳皮なんかも?そのあたり、袁さんに尋ねてみないと、真相はつまびらかにはなりません。

 優しく、穏やかな口あたり。ですけど、味は濃厚で、どっしり。甘味、ほっくりとしたこく、深みのある味わいに、苦味がふいと頭をもたげます。なんて風に、味、風味、香りが様々に変化。

 具は具で旨い。もしかしてエキスをすべてスープに取られて、味わいもなし?なんて思った「アイナメ」の身、たれをつけて食べてみると、その存在を主張するように、旨味が残っていたのにも驚きました。なにしろでかい「アイナメ」でした。

 日本の素材を使って、香港の味、風味を再現、という袁さんの腕、技に感心しながら、「アイナメ」、その調理、味付けで、様々な美味、風味を生み出す日本の中国料理における貴重な魚、その存在を再認識しました。

 ちなみに「アイナメ」、中国では身に六本の縦の側線が身にあることから「六線魚」って言うそうです。

2010/05/04

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「湯」かと思ってたら「椒塩天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」が登場。
 ご覧の通り「黄金色」に輝く「天使海老」。しかも、大蒜、葱、赤唐辛子の微塵切りの揚げ物がたっぷりまぶしてあります。 ということは煎り焼きして塩・胡椒で味付けによる舊式の「椒鹽煎蝦」ではなく、「避風塘」式のもの。だから日本の料理名「スパイス揚げ」にも納得。
 そういえば香港のスーパーなどでは調味料として塩、胡椒を混ぜた「椒鹽」が売られてます。もっとも、大抵は「味精」入りですので要注意。自分で作るのに限ります。

この「避風塘」スタイルの「椒鹽煎蝦」。
もともとは台風などに備えた船舶の避難所が設けれらた銅羅湾の船溜まりの一角に誕生し、庶民の憩いの場となった船上屋台、水上夜総會の一軒が始めた「避風塘炒辣蟹」がその発端。「喜記」がその最初の一軒、という説がもっぱらです。

 「喜記」を始めた廖偉雄さんが語るには、漁に出て暮らす水上生活者は体力を消耗し、汗も大量にかくってことから辛味のある味、風味、濃い目の味付けを好む。それなことから大蒜、唐辛子などをふんだんに使った独自の調理方法を考案。それを改良したのが「避風塘風味」。

 最初は蟹が素材だったのが、海老、蝦蛄(しゃこ)を素材にした料理が登場。 その後、銅羅湾の船溜まりの水上屋台は無許可営業によるものもあって政府が取り締まり、営業休止の処分に。海鮮料理で評判だった「喜記」、粥で評判だった「興記」などは店舗を構えて営業開始。

 それまでに香港の主に大衆的な海鮮料理店ではその「避風塘」スタイルを真似た、というか、ぱくった料理が続出。一挙して広く紹介されることになった、という経緯があります。
 基本は大蒜、唐辛子、葱、葱頭他、香味野菜を微塵にして揚げたもの。中にはパン粉を加えるなど、それぞれに店ごとに創意と工夫あり。

 袁さんの「避風塘」スタイルの作り方、上品で洗練されてます。この種のスパイス、下手な店だと「味精」たっぷりな上に、油の質、揚げ方がお粗末で、しびれるだけじゃなくて胸焼けを起こしますから。

 それより、驚いたのは「天使海老」。
 「この殻、柔らかい!殻つきのまんま食べられちゃう!」なんて声が上がります。
 画像撮影で食べることに遅れをとった私。
 早速、口にしてみるとなるほど、殻が柔らかい、というよりも、薄い。 新しい殻に脱皮したみたいに薄くって、ぱりと言う歯応え以上に、さくさくのソフトな噛み応え。 しかも、なにより殻がうまい。

 天使海老に限らず、この「椒鹽焗蝦」にしろ「豉油皇蝦」にしろ、鍋使いの上手い料理人が調理すれば、殻ごとそのままぽりぱり食べられます。それに、殻はぱりぽり、中の身は火が通っていながら、生のようなねっとりの触感を残しながら、噛み締めれば甘味、旨味が浮き立ちます。

 ですが、この天使海老、薄い殻の味、風味が抜群。おまけに、身も甘い。ねっとり感を残した巧みな調理にも感心。ですが、身そのものの旨味、風味、ということに関しては、ちょっとばかり、茫洋、ぼんやりとした感じ。そうか、だから袁さん「避風塘」スタイルの味付けにしたんでしょうか?
  それにしても「天使海老って?」と、実は私、初体験。
 食べた時、山下さんか柏木さん、それに橋本さんに詳しく聞けばよかったんですが、会議に夢中で聞きそびれ。
 ネットで検索したらニュー・カレドニア産の養殖の海老。品種、育て方、特別なようですね。ということは「基圍蝦」の一種、ってことですか。

「椒塩天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」。殻の薄さ、その美味、味、風味に魅せられました。

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月も月を越しちゃいました10年4月の「赤坂璃宮」銀座店報告。
 まずは「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。 
 一見、いつも通りのようでいて、先月来、一皿の焼き物の構成、趣き、雰囲気、色あい、素材の切り方(つまりは板仕事)、添えられた野菜、その切り方、素材の組み合わせ。これまでの前菜と違います。見映え通り、味わい、風味も。
 右から順に鶏のレバーの蜜汁仕立ての「鶏肝」、叉焼、とんとろの辛味の焼き物、その下が豚の脛肉の冷製の寄せ物の「仏蹄」。その下にトマトの薄切り。野菜は人参、かぶ、萵苣薹(ちしゃとう)、もうひとつは失念、という組み合わせ。

 何がこれまでの前菜と違うのか。
 それは、切り方、並べ方、素材の組み合わせから歴然です。「どうだ!」なんて感じの堂々の勢い、威勢のよさ、強烈な主張、インパクトがなくって、なんだかおっかなびっくり、おそるおそるの感じなんです。

 もしかして今回も先月に続いて前菜担当は平林さん? その名前、なんだか覚えあり。以前、「赤坂璃宮」の譚さんが「チューボーですよ」に出演した際、譚さんが「未来の巨匠」ってことで紹介したあの長野出身の「平林クン」?

 北京ダックに添える「蝦片」を揚げ、梅干の果肉と種を選りえ分けてから、果肉を「梅醤」に、なんて作業をやってた「平林クン」?そうか、「平林クン」、焼き物担当ってことで、梁さん、金山さんのもとで修行してきたわけですね。

 さて、今月の前菜。鶏のレバーの焼き物の「鶏肝」、「蜜汁」の按配はほどほどで、鶏レバーの焼き加減もしっとりした触感を残してます。ですが、焼きむらがあって、裏の部分は焦げ加減。なんてことで、噛み締めると苦味が浮き立ちます。

 叉焼は余分な「蜜汁」が残ったまんま。つまりは焼き不足?それに、叉焼の肉の厚みからすると、その幅、加減、細め。唇や舌に触れる感触、なんだか物量感に乏しくって、しっかり食べた気がしない。この叉焼の厚みからすると、あと5ミリ、いや、3ミリかもしれませんけど、も少し幅のある切り方だと、幅、厚みのバランスがとれて「叉焼」を味わった気分になります。
 前菜に「叉焼」はたった一切れ。
 ですから、その存在、主張を明確にするには、も少し幅のある切り方がいいんじゃないでしょうか。

 辛味仕立てのとんとろ。辛味OK、焼き方もOK。
 ですけど、噛み締めれば、下拵えの塩味、ちょい不足気味な感じで、辛味との重層的な味、風味に欠けてます。

 それから「仏蹄」。下拵えの滷水の漬け込み、煮込み不足なのか、味、風味、メリハリにかけます。
 それに、切り方が厚い。唇、舌に触れる感触、ぼってりなんで、味、風味が茫洋な感じになっちゃいます。「仏蹄」はゼラチン、コーラゲン質が味わいところ。厚みがあるよりも薄い切り方の方が、唇、舌に触れるぷるん、とろりとした滑らかな感触と噛み応え、それに 味、風味も引き立つじゃないかと思うんですけど。

 そして野菜。萵苣薹(ちしゃとう)。
 私、最初、ブロッコリーの芯?なんて間違えちゃって、山下さんに萵苣薹だと教わりました。とまあ、私もいい加減。そんな萵苣薹と名前を失名した黄色の野菜。その切り方、触感、OKです。
 ですが、銀杏きりの人参、酢漬けのかぶは、形状ではなく、その厚み、切り方、も少し薄くしたほうが、触感の繊細さ、浮き立って、美味しく感じられるじゃないでしょうか。

 焼き物の味、野菜の組み合わせは基本的にはOKなんですが、その切り方、幅、厚みの按配、バランスにもうひと工夫欲しいなあ、というのが私の印象。

 実は中国料理の蝕感。唇、歯、舌に触れる蝕感、噛み応えというのは、重要なポイント。私が中国料理のコースを組み立てる時、素材、調理、味付けともに、重視しているのが触感、その変化です。
 柔らかさ、硬さっていうのは噛み締めてからの触感、味わいどころ。

 その前に、唇、歯、舌に触れる一瞬、その瞬間の感触の印象、案外重要です。素材に則した幅、厚みを計算した巧みな「切り方」のバランス次第で、味、風味、その印象、大いに違いますから。ことに前菜はその点を無視できない。たとえば、 海蜇(くらげ)なんかその最たるものでしょうね。幅、厚みの切り方で味わい、風味、異なりますから。そんな素材の切り方、つまりは「板」の技、重要なポイントだと思うんですが、なんだか意外に見逃されがち。

 未来の巨匠、「平林クン」、頑張って!応援します!

2010/05/03

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の6

 そして「賽螃蟹~“卵白の淡雪炒め」。
 実はこれを発見したのが今回のコラムを記したくなった最大の理由です。

 「賽螃蟹」は私の好きな料理の一品。香港の上海料理店で出会ったのがその馴れ初めです。そんなことから上海、及びその周辺の料理かと思いきや、源流は魯菜、山東料理、加えて宮廷料理の一品だったってことを知りました。
 
 元は宮廷料理であることを物語る記述はネットでも検索出来ます。
 曰く、清朝の慈禧太后が蟹を食べたいと所望。ところが北京は海から遠く、蟹を即座に調達するのは難しい。そんなところから宮廷の料理人、蛋の白身を使って蟹の肉を模倣、なんてあります。

 ちなみに「賽」は「競う」ってことで、たとえば「賽馬」というのは競馬のこと。香港の街中で「賽馬」の字、いろんなところでみかけます。同時に「負けない」とか「匹敵する」なんて意味もあります。

 早い話が「賽螃蟹」というのは「蟹(肉)もどき」、蟹(肉)に見立てた料理ってことです。
 その素材、基本は卵白。加えて、慈禧太后の為に宮廷の料理人が加味したのは、どうやら干し貝柱だったようです。その旨味を活用してのことだったのでしょう。

 それ以外に、基本は卵白でも、加える素材を「白身魚」に置き換えた亜流も登場。
 ところが、かつての中国での流通事情からすれば、海鮮の魚介を首都北京での入手は困難。
 沿岸地域では「白身魚」、さらには「黄魚」、つまりはいしもちなども利用されていたい様子。
 しかし、内陸部では淡水魚がその素材として使われた。
 「桂魚」ってこともあったかもしれませんが、一般には「鯇魚(草魚)」や、鯉の一種の「鯪魚」や、「烏魚」だったかもしれません。

 「賽螃蟹」が上海に伝わったとされた当時も、どうやら淡水魚だった様子。それが香港の上海料理店に伝わってしばらく、淡水魚から海水魚に変わったという足跡、歴史があるようです。

 そんな「賽螃蟹」、香港でしか味わえないものと思っていたら、なんと荻窪の「北京遊膳」のメニューに発見。「白身魚の卵白ふわふわ炒め」がそれです。

 卵白を基本にしながら、干し貝柱ではなく白身魚を具材にし、ふわふわ状に炒め、仕上げに生卵の黄味が乗っかった料理です。

 ところが、「香醋(黒醋)」が現れない。なんでまた?
 というのも、この料理には「香醋」が必需品。
 つまり、卵白を蟹の白身に見立てた料理を食べる際、より蟹の料理らしくってことで蟹を食べる際に用意される「香醋」を添えて、ますますそれらしく!というのがこの料理をより豊かに味わう方法。その流儀と言いましょうか。

 サービス担当の斉藤さん(「北京遊膳」のオーナー&シェフ、ご主人)のおかみさんに
 「すんません「香醋は?」って尋ねても、「は!」なんていぶかしげな様子。
 「香醋」をお願いして、後から事情を説明。
 当時、斉藤さんご夫婦もこの料理「香醋」を添えて食べる、それが必需品ってことをご存じありませんでした。

 そんな話を「北京遊膳」に通う顧客のひとり、バードランドの和田さんにお節介ながらもご教授。この料理、「香醋」を添えて食べたら「旨い!」。ということで、この料理を頼んだ際には必ず添えられるようになったとか。

 その事実確認もあって調べたところ、「賽螃蟹」には「香醋」が必需品。それあってこそのものだと知りました。
 似たような話が他にもあります。 長江で5~6月頃、旬を迎える「鰣魚」。
 「鰣魚」は身をまとう鱗、それも鱗の裏にひそむ美味こそが味わいどころ。鱗がついたまま火腿や冬菇などと一緒に蒸します。グリル、つまり「煎」にする料理方法もありますが、それは鮮度の落ちた「鰣魚」の調理方法。

 鱗の下の身の味は、しゅわっと緻密で繊細。その触感、味、風味、上海蟹の肉に似てるわけです。そんなことから「鰣魚」の身、「香醋」を添え、それに身を浸し(上海)蟹に似た味、風味を楽しむ、という趣向です。

 そういえばdancyuの「四川・上海料理」の特集で上海ルポを担当した安西水丸さん。食べた料理の中に魚の料理だったか「これは蟹の味がします」と現地の案内人だか通訳の人に言われたものの、「蟹の味はしなかった」なんて記述がありました。もしかして、それも似たような話かもしれません。

 多分、魚の肉質、触感が似ていることから、「香醋」と一緒に食べれば「(上海)蟹)」の味が甦る。という妄想的な美味の発想に由来するもの、ではないかと。
 ともあれ、「香醋」と食べれば「(上海蟹、河蟹)」の味が「思い浮かびます」。
 と、案内人、通訳のかた、教えてあげればよかったのに。
 編集担当の人にも、ちんぷんかんぷんだったのでしょう。

 話戻って、今回の小林武志師傳の「賽螃蟹」。
 記事には「北京遊膳」の斉藤さんの作る「賽螃蟹」の話も登場。
 素材、調理する際の油の温度差などを紹介しながら、「食べる時に卵黄と混ぜ合わせ、食感、香りともに蟹肉のごとしが狙いである」と記されてるだけです。
 香醋」を添えて「蟹」の味、風味を楽しむという中国料理の「粋」な味わい方など、なんも触れられてません。

 卵白の作り、味が蟹肉に近い。それが「中華マジック」と触れられても、説得力に欠けます。
 なんと言ってもこの料理、早い話が「(蟹肉)もどき」ですから。
 だからこそ、「香醋」があれば、そんな「もどき」がもっとらしく、本物らしく味わえる。
 それがこの料理の味わいところ、魅力のひとつです。

 そんな話、この料理の由来について調べれば明らかなんですけど、その実態、真相、検証なんかしないんでしょう。もしかして「北京遊膳」でも「香醋」が添えられることなしってことで、ご存じないままなのかもしれません。

 ところで、今回の「賽螃蟹」の上には生卵の黄味。
 それがあってこそのものなんですが、ここんとこ、鶏肉、その内蔵、鶏卵の生のもの使用、保健所かなんかでご法度のはずではありませんか?
 ところが、今回は卵白、干し貝柱の炒めものの上に、堂々と鎮座。
 ということは、料理店での生卵の提供、OKになったんでしょうか。

 こないだ沖縄のホテルの朝食で、生卵をお願いしたところ
 「諸々の事情で、生卵、お出しすることができませんので」きっぱりと断われました。
 けど、今回のdancyuの特集の撮影日、それより前の話のはず。
 ということは、東京と沖縄では、やはり「時差」がある、ってことなんでしょうか。
 その実態、知りたく思います。

 追記

 本日、最新のdancyuが到着。
 その特集「餃子づくりの天才になる!」、
 さらには「福をよぶ中国料理店」。
 おもしろそ!

2010/05/02

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の5

 そんな「蟹肉炒鮮奶」の紹介の一文にシェフ曰くとして
 「象の皺ができるように炒めろ。中国ではそう表現します」 なんてあったのに思わず「ン!?」。

 そんな表現、知りませんでした。
 初めて知った表現です。
 けど、なんだかヘンな表現。
 
 知らないこと、知らなかったことに関してはその事実、真相、実態を知りたくなるのが私の性分。歳をとるたび井の蛙だってことを思い知り、無知を嘆くことしきりの今日この頃、知りたくなります。もっとも、資料をあたったところで、ひとつの資料だけでは心もとない。やはり、いくつもの資料、文献をあたって、記述、証言を付き合わせて検証しなみないことにはその真相、事実、真実はわからない。わかりにくいものです。

 日本の中国料理関係の書籍、雑誌での記述には?と思うことが沢山あります。
 ことに目立って多いのが、料理人の証言をその事実、真相、実態を検証せず、そのまま引用、紹介したフード・ライターの方々の雑誌での記事。
 
 中国料理関係の著作物の中にもその記述は疑問あり、なんてのもあります。
 ところが、食関係の掲示板などで、雑誌、書籍からの引用をそのまま書き写し、なんてことがあるもので、あれって事実関係を検証してのものなの?なんて例、しばしば見かけます。

 それにしても「象の皺」というのは妙な例え、ヘンな表現。
 だってアトピー症の患者の症状、がさがさになった皮膚の状態を「象の皮膚」なんていいますから。実際のところは象の肌、見かけによらず柔らかくてしっとり、という話も知りました。
 それより、もしかして「象の皺」なんて表現ありかと色々調べましたが、「炒鮮奶」関係でも、食の形容、形態、形状表現でも見つからず。

 これはもう小林武志師傳に直接聞くしかない。
 「あ、あれは「象の皺」じゃなくて「象拔蚌(みる貝)」のように襞を寄せるようにして作れって、料理人が言うのをお話したんですが」という答え。

 なるほど、そういうワケか。
 そういえば小林料理長の言葉の引用の前に「まるで汲み上げ湯葉の如く皺が寄った卵白の炒め物」なんて紹介がある。広東料理独特のヘラ状のお玉で「皺」というか「襞」を生んでいくわけだ。

 それがなんで「象の皺」?
 そうか、みる貝って、象の鼻みたい。もっとも、象の鼻の皺なんて書いたらますますがさがさの感じになっちゃうからですか?
 ともかく「象の皺」の真実、真相、実態は「象拔蚌(みる貝)」のように、だったわけです。

 「そしたら「中国では~」なんて書かれてたけど、中国本土とか、中国の人の誰もがそういう表現するワケ?」
 「いや、あの、私が知ってるのは広東系の料理人だけのことで……」

 あ~あ、今回の記事の担当のフードライターの方、またやっちゃっいましたか。
 広東系の(中国料理の)料理人って書けばいいのに、「中国では~」とはなんとも大げさ。そういえば、先の「卵チャーハン」のところでも「中国人は~」が登場。

 「熱した鉄鍋に入れた瞬間に立ち昇る素材本来の香り。これが料理全体にまとわりついてる状態を中国人は『鍋気がある』と表現します」というのがその一文。

 『鍋気がある』というのは、私がこれまでにたびたび触れてきた「鑊氣(気)」、「鍋の気」のことです。
 主に広東系の料理人が「炒菜」の極意とするもので、高温の強火で一気に炒めた結果、生まれる味、香り(さらには色合い)が一体化した調理、その出来栄えの状態を示す表現。

 「鑊氣(気)」という言葉、表現は中国本土でも使われます。
 ちなみにヤフーの翻訳にかけると「鍋は怒る!」、グーグルだと「ガス鍋」、エキサイトだと「鍋の息」と出ます。どの翻訳も笑えて面白い!

 ともあれ、料理における「鑊氣」という表現は、主に広東地方でのこと。広東系の料理人が使います。それに広東系中国人が、料理の出来栄え、料理人の技量を賞賛する表現としても使います。
 ですから担当執筆者の「中国人は~」という表現はいささか大げさ。誤解を招きかねない誤った表現ともいえるでしょう。

 同じ執筆担当の方、これまでにもdancyuの中国料理の紹介記事で、こうした紹介、何度もやってます。料理人の言葉、言い分、その真相や事実、実態を検証しないまま、紹介ってことですね。いつだったかの「チャーハン特集」での「春秋」の記事でも似たような記述がありました。料理人の証言、そのまま引用して紹介。?と思うような記述でした。

 今回の特集で「ふーみん」の執筆を担当の方も、以前、チャーハン特集の「チャーハン名人になる」で、似たような誤解を生む紹介をしてました。
 それには「鑊氣」らしき記述がキャプションにあり。どうやら料理人から教わったらしいものの、その実態、意味がわからなかった様子ありあり。

 調べりゃいいのに。検証すればいいのに。
 おそらくその実態、真実、真相、事実、わかんないままキャプションに執筆。
 編集担当者も、わけわからずのまま、だったのでしょう。

 ですけど、料理人の証言、言い分、なんでそのまま紹介しちゃうんだろう。
 その事実関係、実態、検証したりしないんでしょうか?

 さて、小林武志師傳曰くの「象の皺」、ではなく「象拔蚌のように襞を作る!」。
 教えられて調べましたが、現在のところ未発見。まだ調査中。
 今度、広東料理系の料理人にあったら話を聞いて、言われの元、出典など調べてご報告いたします。

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の4

 「dancyu」の5月号、「人生が変わるたまご料理」特集。
 中国料理のたまご料理も紹介されています。
 その3が「火の力・鍋の技・油の量で中華の卵は劇的に大変身」ということで、「ミシュラン・☆」、三田の「桃の木」のオーナー&シェフの小林武志料理長の料理がなんと9品登場!

 今回の記事の小林料理長のプロフィール紹介に「辻調理師専門学校講師」、「吉祥寺の「知味・竹爐山房」を経て~」とありますが、それ以外にも色々あり。 「小林さん、竹爐山房の出身っていうから、山本豊さんみたいな料理かと思ったら、そうじゃないんですね」なんて話、しばしば耳にしますが、そういうことにも関係あり。

 小林料理長、「竹爐山房」で学んだものもあるようですが、それ以前に辻調理師学校時代、間違いなく日本人の中国料理人としてはトップに位置する知識と技量の持ち主の一人である吉岡勝美教授、その先達にあたる松本秀夫教授、吉岡先生同様香港留学の経験のある河合鉱造先生など、香港、本土への留学豊富な諸先生、さらには香港の料理人、林勝倫師傳の薫陶を受けてきた人物。

 それだけではありません。「竹爐山房」の後も東京のいくつかの店に勤務する間、本土からやってきた料理人との交流をきっかけに、その知識と体験を蓄積。中国各地の地方菜を幅広く取り入れ、現地の味、風味を下敷きに、独自の料理、メニューを展開という「桃の木」の料理はそうした知識、体験から生まれたもの。

 「桃の木」の「あの料理、この料理、あの調理方法やこの味付けは!」と、その下敷き、言わば元ネタ、知る人なら「へぇー、よくぞまあ!」と、その知識、博識と実践ぶりには驚くばかり。
 今回の特集では「炒飯/卵チャーハン」、四川風の卵の煎り揚げ焼きの「家常供蛋」、広東風の卵白の蟹の炒めものの「蟹肉炒鮮奶」、卵白の淡雪炒めの「賽螃蟹」、北京風の卵の水炒めの「水炒蛋」、宮廷点心の「中国風ういろう」という紹介の「三不粘」、揚げ卵の「炸蛋」、卵焼きのスープ家庭料理の「鶏蛋湯」を紹介。

 そのレシピ、味付け、調理に関する基本は、納得のものばかり。
 もっとも、写真に紹介された料理の出来栄えからすると、「四川風の卵の煎り揚げ焼きの「家常供蛋」は、卵の縁の焦げが目立ってなんだか苦味ありそう。卵を焼き過ぎで、具材との組み合わせ、なんだか出来栄えは今ひとつ風。

 それに「三不粘」。写真で見たところ、黄金の色合いはともかく、粘り、腰がなんだかいまひとつ様子。「嫩」の柔らかはありそうですが、舌触りのよい滑らかさ、舌にねっとりまとわりながらも、ざらっとした触感が残りそう。もしかして練り込みが足りない?そんなこと写真で判断出来んの?食べてもないくせに!と非難を浴びそうですけど、写真は正直。そのまんまを写しだしますから。

  それとは対照的に卵白の炒めもの2種、広東風の卵白の蟹の炒めものの「蟹肉炒鮮奶」。それに北京風の卵白の淡雪炒めの「賽螃蟹」の出来栄えが目をひきます。たとえば「蟹肉炒鮮奶」。乳白色の色合い、滑らかそうな舌ざわり、なおかつ舌にのしかかる濃密なねっとりとした触感、こくのありそうな旨さがひしひしと伝わってきます。

 その料理、本場の広東地方の順徳では水牛の乳を使いますが、それに代えて牛乳を基本に生クリームとコーンスターチで腰のある粘っこさ、濃密なコクを生み出す、なんてレシピにあるのに大いに納得。その方法がベストですから。

 その手法、どうやってゲット?と小林クンに尋ねたら
 「林(勝倫)さんのレシピを基本に、アレンジしました」。
 なるほど!それを実践できる小林武志料理長の技も見逃せません!