今年初めての冷やし中華/涼面を食べました。場所は浅草、国際通りの「龍圓」です。
私、大の冷やし中華好きすが、外では滅多に食べません。その理由、外で食べると大抵の場合、例の旨味調味料が混入。ってことで、食後の痺れ、痙攣を恐れて食べられない。旨味調味料の混入なしの冷やし中華ならOK!
とはいうものの、そんな店、滅多にありません。とはいえ探せばあるんですね。それが「龍圓」の「冷やし中華」。前々から噂に聞いていましたが、私、初体験。ネットで「龍圓」の「冷やし中華」を検索したら、絶賛の言葉続々!
ところが「龍圓」のメニューを探してもない!
「ええ、あの、メニューには乗っけてませんけど、ご用意できますから」と店主の栖原さん。「涼麺一丁!」と、キッチンにオーダーする栖原さん。 え!?ってことは誰が作るの?
目の前に現れた「冷やし中華」。「旬の野菜がたっぷり!」とネットに書かれてある通り。
その上に茹で鶏、叉焼、豚耳とおぼしき焼き物系の具もたっぷり。
おまけに「ほたる烏賊」なんかも!
「冷やし中華」、ほんのひと口、具を口にしたりしますけど、韓国の麺、丼系の料理と同様に、麺を具材の山からより出し、具も麺もゴチャゴチャに混ぜあわせ、さらにタレをレンゲで掬ってまわしかけ、というのが私流の食べ方。
麺が旨い。
細めで、腰はほどほど、タレを適度に吸い込んでシットリ系。讃岐ウドンみたいに表面滑らかなツルツル系ではありません。しかも、噛み締めれば小麦とつなぎの玉子の味、風味。その細さ、香港の生麵ほどのもので。ですが、基本は伊府麺仕立てで、香港の生麵のようなかん水ぽさがありません。むしろ玉子入りの手打ちのパスタ、カッペリーニに似た、細さ、触感、味わい風味がある。何でも手打ちの自家製麺で、裁断だけは機械まかせ、なんだそうで。
そして、タレ。これが絶妙。ごまだれ系、ってことで、練り胡麻がベース。ですが、練り胡麻を使ったタレ特有のくどさ、しつこさ、重さは皆無。甘味は練り胡麻のそれ。他に砂糖もプラスなのか甘味のくどさもない。 それに、爽快ですっきりした酸味の加減が実に見事。酢の直接的な酸っぱさは皆無で、かといってまろやか、っていうような重さもなくて、軽やかですっきりとしたフルーティーな酸味です。
「これは良いや。この人すげえ!」 と思いました。
そのわけを尋ねたら「お酢に、粒入りのマスタードを使ってますんで!」なんて答え。 爽やかな酸味、というのはその組み合わせの成せる技?
実は私、冷やし中華のタレ、気分によってレシピを代えます。ですが、欠かせないのが乳酸菌系のヒネ味と旨味。要は漬物、なんですけど、たまにコーニッシュのピクルスを使うことがあります。そん時のフルーティな酸味に似てるかな!なんて感じ。粒入りマスタードなんて話からすると、通じるところありかも。
「龍圓」の「冷やし中華」のタレの秘密を知りたくて、栖原さんにメールしましたが今だ返事なし。 ネットで検索したらどっかのTV番組で披露した時のレシピを発見。ですが、私が店で食べたものとはなんだか違う様子。その詳細は栖原さんからの返事待ち。
それにしても「龍圓」の「冷やし中華」の麺とタレ、それに焼き物系の具材との組み合わせ。 基本は中華ですけど、その領域を超えちゃった技がある。押し付けがましさのない控え目加減な味付けのタレがいいですね。自家製の麺、焼き物類の具材と見事にマッチング。
日本のイタリアンがトマトの冷製のカッペリーニを生んだように、中華の域を超えた冷やし中華(なんて妙な表現ですけど)、中国料理をベースに独自アレンジ、創作による冷製の麺料理が狙い目なのは明らかです。
課題があるとすれば、野菜との組み合わせ、でしょうか。旬の野菜、どっさりも魅力ですけど、野菜ひとつひとつの素材の持ち味、触感、味、風味。その切り方、捌き方を、麺、焼き物系具材、タレといかに同居させ、一体化させるか。
創作意欲溢れる栖原さんですから、野菜はガルグイユ仕立てで「冷やし中華」と一体化させた「冷やし中華・ガルグイユ風」なんて、そのうち絶対やりそ!
はて、そん時、すべてグチョグチョにしてかき混ぜて食べるのか。
それとも、タレ絡みの麺や焼き物系具材と、野菜、別々にして交互に食べるのか、それが問題だ!
P.S
「申し訳ございません。冷やし麺のタレ、遅くなってしまいました」と、栖原さんからメールが到着。
その内容、先にふれたTV番組での「おしえて!うれしぴ レシピ」のコーナーで紹介された「『中国小菜 龍圓』栖原一之さんのレシピ 榊原郁恵~タレが決め手の冷やし中華 」レシピによれば
1、練りごま(白)大さじ2
2、ごま油 大さじ1 3、砂糖 大さじ3
4、酢 50cc
5、しょうゆ 80cc
6、粒マスタード 大さじ1
7、水 150cc という内容でした。
でも「龍圓」で食べたのと違う感じ、なんてふれたとおり、栖原さんから届いたレシピ、ビビョーに違いました。
練り胡麻がタレの基本のベースなのは違いなし。それに砂糖、酢、醤油、粒マスタードを加えるところは同じ。ですが、醤油は中国醤油、つまりはたまり醤油の老抽をプラスアルファ。それに、酢は酢でも米酢、しかも富士酢を使用。 それに、ごま油じゃなくって、栖原さんご愛用の米油、なんですね。
鍵を握るのはやはり練り胡麻。それに酢、しかも米酢と粒マスタードなのは間違いない。中国醤油を加えたのは甘味、コクの効果を狙ってのもの、なのは明らか。
そして、油。ゴマ油じゃなくって米油、というのは見逃せないポイント。
実はゴマ油の味、甘味、香り、風味、一般的には「いかにも中華!」を具現化してくれるもの。そう、いわゆる中華風ドレッシングなどでも必需品。というのも、ゴマ油の味、甘味、コク、風味というのは日本人が持つ中華料理のイメージ、その味を最も具現化するのに格好なものなんです。
しかし、栖原さん、お店の冷やし中華のタレでは、ゴマの味、コク、風味は練りゴマを活用するだけにとどめて、ごま油を使わない。なんてことで、味の濃厚さ、くどさ、重さを軽減。さらに、米酢を使って甘味、旨味もあるすっきりの酸味を活用。
加えて粒マスタードというのはひりっとした辛味だけでなく、酢が加えられてますから酸味もあり。先にもお話したとおり、乳酸醗酵系のフルーティーな酸味、ひねた味、旨味やこくをます。
見逃せないのは「だし」。実は、普通なら最低でも「毛湯」、凝るなら上湯を使って「だし」の味で底力を加味、というのが一般的。
「でも、ウチのだし、上湯は火腿なんかも加えてしっかりとったものですから、塩味が利いて味が濃くなる。ですから……」、と。
栖原さんが選んだ「だし」は、なんと「水」!というあたりが実にするどい。
「最良の「だし」は「水」!」なんて話、コートドールの斎須さんも語っていること。かつてランブロワージ時代、ベルナール・パコさんとやりとりした逸話にもあります。
「いや、水に凝ってるんですよ。ですから、ウチのキッチンには「水」がごろごろ!各種ミネラル・ウオーター、軟水はもとより硬水も入手して、いろいろ試してるんです!」なんて話に大いに納得。
それに「課題は野菜との組み合わせにあり」なんてことに関しては
「そうなんです。まさにその通り。野菜の持ち味、個性を見極めて、そのひとつひとつ、茹でたり、蒸し炒めたり、調理と味付け、触感を変えて、一皿に盛り込む、というのが、私の狙い、目指すところなんです!もっとも、ウチでは手間隙かかりすぎるし、人手の余裕もないんですけど!でも……!」
やっぱり野菜がどっさり、だけじゃなくって、野菜はガルグイユ仕立の冷やし中華というのが、栖原さんの狙い、目指すところだったんだと納得しました。