2010/11/13

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 締めくくりの面・飯、今回は「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」。 これが絶品!旨味しっかり、風味絶妙、見事なまでに美味なる炒飯でした。
 「欖角」というのは通称チャイニーズ・オリーヴ、厳密にはオリーブとは種類の異なる「橄欖」の実の果肉を塩漬けにしたもの。
 「欖角」は魚や豚肉などの蒸し物、煮込み物にも使います。漬物のようにひねた味がするもので、ほのかに渋味、えぐ味があるのと、噛み応えのある触感なのがその特徴。それを牛挽き肉とともに炒め合わせて作った炒飯です。
 そういえば牛挽き肉の炒飯、ホテル内の広東料理店でたまに見かけることがありますが、街中の中国料理店ではなかなかおめにかかれない。あっても、牛挽き肉とレタスの炒飯、ぐらいじゃないでしょうか。思い出したのが尾山台にある「華門」の牛挽き肉とレタスの炒飯。随分とご無沙汰してますが、忘れ難い美味です。ご店主はホテルの料理店の出身で、料理は緻密で丹念。久々にでかけてみようかしらん。
 話戻って、「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」。
 香港で食べる牛挽き肉の炒飯は、牛肉の肉質、味も違い、牛肉そのものに特有のくせがあるせいか、今回のような「欖角」や漬物と一緒に炒め合わせ、なんてことが多いようです。
 日本の牛肉も、ご存知の通り特徴とくせがある。肉質は柔らかいものの、脂肪過多気味でその脂肪こそがくせの元。そんなこともあって「欖角」との組み合わせ、相性は抜群。「欖角」の塩味、ひね味が、牛肉の脂分、くせをかき消すとともに、旨味と風味を加味。
 むろん、それだけではありません。鍋、つまりは火の扱い、油の使い方、素早い炒め方の技、あってのもの。旨味たっぷりの味の良さだけでなく、風味、馥郁とした香りの素晴らしさたるや圧倒的。パンチの利いたメリハリのある味付け、さらには「鑊氣/鍋の気」溢れる勢いに打ちのめされました。
 一期一会ではないですが、出会った料理はその時限りのもの、なんてことから、あの美味をもう一度なんてことにはそう執着しない私ですが、この「欖角牛炒飯/オリーブと牛挽き肉のチャーハン」は別格。もっぺんすぐさま食べたい!なんて思ったほど。その内、リクエストすることにします。

 そしてデザートは緑豆の汁粉仕立ての「緑豆爽」。

 本来は冷製ですが、頼み込んで温めたバージョンをリクエスト。
 ニッキと生姜入りで、素朴でひなびた甘味が、ほのぼのとした気分にさせてくれます。
 その登場を待つまでに現れた今月の懐舊点心は「蓮香皮蛋酥」。
 オーブンで焼かれた皮はさくさくと触感。ピータンの独特のクセのある味、風味がなかなかに滋味豊かで味わい深い。その昔、昼になれば飲茶の点心目当てにあっちこっちの料理店をはしごした頃のことを思い出します。
 昔懐かしい点心を再現してみせてくれる点心料理長の久保田さんの存在は貴重です。

「赤坂璃宮」銀座店記憶メモの1~真夏間近~10年6月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「茄汁天使蝦/天使海老のトマト風味煮込み」。

「天使海老」は「10年4月の「赤坂璃宮」銀座店」で登場済。そん時は「椒鹽天使蝦/天使海老のスパイス揚げ」ってことで、それも揚げたニンニク、ネギなどの微塵切りをたっぷりつかった「避風塘」でした。
 それも「天使海老」、殻が柔らかい、というよりも、薄い。新しい殻に脱皮したみたいに薄くって、ぱりと言う歯応え以上にさくさくのソフトな噛み応え。その殻が旨い。その身についてはねっとりとした触感で甘味あり。ですが、なんだかちょっと茫洋。そんなことから袁さん、「避風塘」スタイルの「椒鹽」の調理法で、なんて私は想像し、納得。
 そして今回は「トマト風味煮込み」。そう、「茄汁」なんてあるようにケチャップ味付けです。微塵のネギなどの香味野菜とケチャップの甘味、酸味が煎り焼きで下拵えした天使海老の殻の旨味、身の味を引き立てる。それも、ケチャップ特有の味がなんだか、広東風。そういえば上海で食べた「干焼明蝦」に近い感じ。  
そうそう、日本のエビチリ、ケチャップを使うバージョンが広まってますが、あれって陳健民さんが日本人のトマト・ケチャップ好みを察知して四川式の「干焼蝦仁」をアレンジ、なんてことになってますが、どうやら陳さん、上海か香港でそのスタイルに出会ったじゃないかと私は想像。
 この「茄汁天使蝦/天使海老のトマト風味煮込み」を食べて思い出したのが中国北方、沿岸部で一般的な「干焼明蝦」。ケチャプではなく蝦のミソをたっぷり使った料理で、油に溶けた赤いミソの色合いが鮮烈で、見るからに食をそそります。
 「干焼明蝦」はかつて神田の龍水樓の看板料理でしたが、近年、ミソがたっぷり入った有頭の高麗海老の入手が難しくなっていらい、知る人ぞ知る幻の料理に。たまに入手することがあって、ありつけることもあるらしい。
 そんな一人がバードランドの和田さん。 「小倉さんにはナイショにしといてね!」と店主の箱守さんに言い含められたそうで。をいをい、それはないぜ箱守さん、プンプン!
 ついでながら赤坂で宮廷料理、北方の料理を看板にする「涵梅舫」の「大正蝦の山東風煮込み」もまさにそれ。「涵梅舫」ではマストの料理ですが、最近はご無沙汰です。
 続いて野菜料理で「蝦醤炒通菜/空芯菜の海老味噌炒め」。
「空芯菜」の炒め物、ごくオーソドックスな炒め物で、家庭でもよく作ります。
大蒜の微塵や生の赤唐辛子、さらには赤ピーマンなどを加えて海老(厳密にはアミ)の塩漬けの醗酵味噌の「蝦醤」で風味付け。
とはいえ、瞬時の内に空芯菜を炒め合わせるだけの技量、技が問われる料理。仕上げに「だし」を加えて煮含めますが、その「だし」も上質のものに限ります。
 手軽に家庭で作れるようでいて、上手く美味しく作るには難しく、厄介なしろもの。私なんて、いつも「いざ!」とはりきりますけど、出来あがりは決まってなんちゃって「空芯菜炒め」なんで、後悔しきり。
 今回の「蝦醤炒通菜/空芯菜の海老味噌炒め」、煮浸しとまではいかないにしてもいつもより仕上げの「だし」の分量、少々多めの感じで、空芯菜もくたっとした仕上がり。
 「蝦醤」控え目、「だし」味の美味、存在感が際立つ一品でした。