2011/01/28

2010年のニュー・ディスカバリー

年をあけてしばらく、いつもなら昨年出会ったベスト・メニューを紹介するところです。ですが、昨年の6月来、中性脂肪過多のために栄養士から食事指導を受けて食生活を改善、なんてことが年末まで続きました。

そんなことから外食の回数は一気に減少。ことに夜の外食は控え目にし、打ち合わせや会食は昼の食事に変更。とはいうもののランチのコースなどでは飽き足らず、夜のメニューから料理をお願いし、しかもフルヴォリュームでという按配ですから、不埒この上ない私です。

もちろん毎月通っている「赤阪璃宮」銀座店では昨年も新しい発見が続出。料理長の袁さんならではの料理を堪能しました。ですが、月越えどころか年越えになってしまった昨年の7月から12月まで「赤坂璃宮」銀座店の料理、未掲載のままですから、そいつを先に片付けないことには袁さんの料理の2010年ベスト・メニューも紹介できない。

いつのまにか億劫になってしまった新しい店、新しい料理の開拓も、コンサート通いの合間をみつけてトライしました。ことに芸術祭関連の催しでは日頃縁のない東京の下町や東部にでかける機会が多いものですから、目ぼしい店をチェック。ですが、なんだか口にあわなくって全滅でした。

そんな中で昨年の私のニュー・ディスカバリー、最大のヒットだったのは中目黒のBISTRO KHAMSA/ビストロ ハムサ。若きシェフ、渡邊洋司さんの手腕にぞっこんとなりました。

BISTRO KHAMSAは目黒川沿いのビルの5階にあります。室内はエキゾチックなモロッコ風の風情、佇まい。気取りなく寛げます。女性客が目立って多い、というのがちょっとばかり意外でした。かみさん、それに甥っ子夫婦と初めて訪れたのは週末のランチタイム。

プリフィックのランチコースは前菜、メインともに5品からの選択。周りを盗み見すればヴォリュームはたっぷりの様子。しかも、大半の女性客、ヴォリューム満点の料理をガッツリ、あ、いけない、しっかりぱくぱく、なんていうのが頼もしい。

プリフィックのランチコース、メニューには興味をそそるものがありましたが、店のサイトの画像やメニューで知った夜のディナーのアラカルトから選べないものか。なんてことでアテンドのメートル(後に鈴木さんと知りました)に相談。初めて訪れた店でいきなりのわがままなんて、しゃあねえオヤジ(私)です。

「どんな料理をご希望でしょうか。ご用意出来るもの、出来ないものがありますので」
「お店のサイトの画像やメニューにあったブータン・ノワールとかパテ・アンクルートとか、どうかなと思って」といじましくせびる私です。
「あ、あれはブータン・ノワールではなくてスタンダール風黒ソーセージですが、ご用意出来るかと思います」
「わ、嬉しいな!それから、パイ包みの寄せものの冷製、パテ・アンクルートだっけ。あれはどうです?」 「ご用意できるかどうか、尋ねてきますので」とキッチンの奥に引っ込んだ鈴木さん「いずれも大丈夫です!」なんて返事。嬉しいじゃないですか。盛り上がります。

メインはプリフィックのメニューから私は「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」、かみさんは「仔羊のクスクス」、甥っ子夫婦は「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」と「古白鶏とオリーヴとレモンのタジン」を選択。あ、前者が甥っ子のかみさん、後者が甥っ子のチョイスです。

目の前に現れた前菜の「スタンダール風黒ソーセージ」。
ぶっといソーセージが「でん!」と無造作に皿のど真ん中。
ビストロの料理特有のざっくばらんな気取りのなさ、のように見えて、その見映え、料理の顔つきが綺麗で美しい。
仕事が綺麗で丁寧です。細やかな神経が行き届いてます。
思わず、うっとり。ナイフを入れるのがためらわれるほど。
さらに、食べてびっくり。切り分けたソーセージ、最初はざらっ、次いで、ねっとりの触感。あふれ出す旨味、こく、風味が堪らない。塩味はしっかり利いています。しかも、緻密で繊細で洗練されていて、その味わいは奥床しくて上品。風味、香りが鼻腔に広がっていきます。
ガツンとくる簡潔で率直なビストロ料理の域を脱した重層的な味わい、風味の豊かさに「参りました」。
そして「鴨やフォアグラがごろごろ入ったパテ・アンクルート」。
これまた見映えが美しい。料理の顔つきが綺麗です。整ってます。ごくんと生唾、大いに食をそそられます。
はたせるかな、フォアグラや肉のごつごつの塊と練った肉の触感の組み合わせが絶妙。それぞれの旨味、風味が際立ってます。
塩味しっかり、これはちょいと塩味がべたっと重たい感じでしたが、そのきっちりとした下拵え、調理、味付けは丁寧で緻密。
洗練された上品な味、風味でした。
そしてメインの「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」。

「もしかして!」
思ったとおり、肉はナイフすっとが入る柔らかさ。それでいて、ナイフを押し返すしなやかな弾力あり。
頬張れば肉質はしっとりとしていて、もちもちっとした触感あり。
さらに、肉汁がじわっとあふれ出す感じで、噛み締めれば噛み締めるほど肉の旨さがほとばしる。
コンフィ、ってことは低温で揚げたってことですよね。そんな低温での調理がこの柔らかさ、肉の旨さを引き出したってことか。 それより、ジューシーで旨味のある豚肉の豊饒な味、風味にこれまた「参りました」。と、同時に「ン!?」なんて思ったのは、我が家で作るなんちゃってパンチェッタにも通じる味、旨味、香り、風味を感じ取ったからです。

塩を擂りこんで、マリネして、寝かせてあるわけ?そう、塩味しっかりで、これもちょいと塩味がべたっと重い。ですがそれ以上に、肉の旨味、風味を感じます。しかもそれがじわじわひたひた押し寄せて、旨味が口中に広がっていきます。風味が鼻腔をくすぐります。

後で渡邊シェフに伺ったところ、案の定、塩をまぶして、マリネして、1週間ほど寝かせてあるそうです。やっぱそうか。それを80℃の低温で時間をかけてコンフィ、ってことでした。
今度、改めてレシピをたずねなきゃ。我が家で作るなんちゃってパンチェッタも工夫次第で・・・とは上手くいかないか。

肩ロースのコンフィ、素材の旨さを引き出す下拵え、低温でじっくりという調理、そのアイデア、出来栄えの見事さ、なんといってもその旨さと風味に感心しました。

2011/01/08

冬の鍋

冬になると鍋物の登場頻度が高まります。昨日も豚シャブでした。埼玉、川越のはぎちくのロース、肩ロース、埼玉の東松山の農業、加藤紀行さんちのほうれん草、水菜、白菜の漬物、豆腐、白滝といった組み合わせ。

正月の間は川越の小野食品のなごり雪がありましたが、すでに跡形もなし。ということで豆腐は駅前のスーパーで調達。ですが、なごり雪を知ってしまえば「あ~あ!」とため息仕切り。美味しいものに出会え、知った幸せに付きまとう罪作りな不幸ってやつです。なごり雪、思いついたらすぐさま入手できなのはなんとも口惜しい。

冬の鍋物、ことにこの時期、一番の好みは常夜鍋。それも加藤さんの日本ほうれん草が入手可能な時だけの限定版。我が家の常夜鍋は簡単で豪快。鍋にたっぷりの日本酒を注ぎ入れ、火をつけてアルコールを飛ばし、豚肉、ほうれん草を入れてしばし煮込むという按配。

豪快、というのは日本酒を入れた鍋に火を入れてアルコールを飛ばす際、いつものことながら慌てふた めいてしまうほど炎がぼーぼーと高く立ち昇る。はじめてその光景を見た人はあっけにとられ、ただただボーゼン!

日本酒だけで昆布とかでだしはひかないの?と尋ねられますが、はぎちくの豚肉、ロースにしても肩ロースにしても旨味たっぷりで味が濃厚。おまけに冬場のはぎちくの豚肉はなおのこと味が濃い。ですから豚肉だけでいいだしが生まれます。

おまけに加藤さんの日本ほうれん草の味も濃厚。はぎちくの豚肉との相性は抜群です。そんな次第ですから、たれは柑橘に醤油というお手軽ぽん酢仕立て。大根に唐辛子をはさみこんで卸したもみじ卸しか、薬味大根ならそのまま卸したものを用意するだけ。

ところが加藤さんの日本ほうれん草が入手出来ないとなると、普通のほうれん草、漬物の白菜や水菜、豆腐、白滝、ねぎ、くずきりなどを用意して豚しゃぶになります。それにしてもこんなに豚しゃぶを食べることになるとは思いもよりませんでした。

しゃぶしゃぶを食べるようになったのは東京にやってきてからのこと。神戸にいた頃、鍋物といえば季節を問わず、まずはすき焼き。遠方から親戚が我が家を訪れると中華料理を食べに出かけるか、我が家ですき焼きというのがおもてなし。それに、中華料理を食べた翌朝、すき焼きを用意、なんてことも珍しくありませんでした。

「え!? 小倉家では朝からすき焼きを食べるの!」と、うちのかみさん、我が家の食生活で面食らった出来事のひとつ。お好み焼きも豚肉を使わず、牛肉か牛筋の煮込みだった、ってことも。大阪出身のうちのかみさんのお好み焼きの定番は豚玉ですから。

もちろん今でも牛筋は駅前の川上デリでゲットしてお好み焼き用にこんにゃくと煮込んだり、関東炊きの具にもします。ですが、美味しい牛肉、なかなか手に入りませんから、最近はかみさんからの影響もあって豚玉ってことが多いです。

すき焼きも、冬場、それも一月半ばを過ぎる頃、前にも話したと思いますが、父親の猟の収穫や猟仲間の収穫のお裾分けの雉や鴨をすき焼き仕立てで食べてました。肉に散弾銃の玉が残っていて、思わずガリなんてことも。それが豬の肉だと味噌仕立ての牡丹鍋。余ったお肉は母親が即席のなんちゃってハムを製造。とまあ、肉食育ちの私であります。

水炊きってことになると鶏肉。ですから豚肉はとんかつはともかく、鍋物ばかりか惣菜類でもほとんど縁がなし。それが東京にやってきて豚肉を食べる頻度が増えたのは、美味しい牛肉にありつけず、豚肉の方がましなものが入手可能なこと。香港に出向くようになって豚肉の使い方、その良さを認識するようになったからです。

さて、常夜鍋が作れなくって豚しゃぶ、ってことになると常夜鍋とは違ってたれはさっぱり系よりも濃厚なのが好み。もっぱら用意するのは溶き玉子に、練り胡麻、腐乳、桂林醤を混ぜ合わせ、自家製辣油をたらしたなんちゃって中華風。

香港の火鍋、打邊爐のたれをヒントに考案したもの(なんて言うのも大げさですが)、北京の涮羊肉のたれをヒントに花椒や五香粉などを加えることもあります。香港の火鍋のたれ、もともとは溶き玉子に腐乳を少々、というのが一般的。潮州系になると潮州辣椒醤や沙爹醤を加えたりします。それが80年代半ば以後だったか、譚詠麟も経営参加していた天々火鍋で独自の沙爹醤を提供するようになって以来、新しいタイプの沙爹醤が大流行。

私も最初それに倣っていましたが、天々火鍋の特製のたれ、練り胡麻味がポイントと判明したことや北京のとある涮羊肉の店のたれに出会って以来、練り胡麻をべースにするようになりました。
そこで欠かせないのが辛味の醤、それに、腐乳です。
これがお気に入りの腐乳です。
どこのものかは……ナイショです。
なんて言っても、ご存知の方にはバレバレですね。

辛味の醤、といえば四川の豆瓣醤があるでしょ?なんて言われそうですが、赤色がかった若い豆瓣醤は辛味は強いものの味、風味が今ひとつ。れんが色したひねものの豆瓣醤がベスト。

最近でこそ郫県のひねものの豆瓣醤が簡単に入手できるようになりましたが、90年代頃までひねものは本土に出かけた際、入手するしかありませんでした。それに香港の広東系の辣椒醤、広西省の桂林辣椒醤、潮州系の辣椒醤や沙爹醤など、ほとんど日本では入手不可能。最近ではスーパーなどで有名ブランドの李錦記やユウキ食品の各種の調味料が並んでますが、欲しい!と思う辣椒醤、桂林醤、蝦膠の類など、肝心なものが見つからない。

それに豚しゃぶのたれには本土のひねものの豆瓣醤もいいですけど、パンチの効いた辛味と風味ということなら、やっぱり桂林辣椒醤。日本では入手不可能です。そんなことから、香港に出かければせっせと買い漁り、手荷物でもって帰るか、香港に出かける友人、知人に調達を依頼。そんな時、やっぱり香港は近くて遠い、なんて思います。

これがお気に入りの桂林醤とXO醤。
どこのものかは……ナイショです。
なんて言っても、ご存知の方にはバレバレですね。

2011/01/03

初日の出

謹賀新年 あけましておめでとうございます。
元旦、いつもより早い時間に目が覚め、新聞を眺めまわすうちふと思い立ったのが初日の出。
近くの野川の川べりなら初日の出を見られるのに違いない、なんて思って出かけたところすでに何人もの人が初日の出を待機。
陽の出は6時51分ってことでしたが初日の出を見られたのは7時10分。驚いたのは太陽のでっかさ。いつも天空に見上げる太陽は金柑ぐらいですがでっかいりんごぐらいの大きさ。まぶしさにくらくらしながらしばし初日の出を見続けました。初日の出、見たい見たいと思いながら、今まで果たせなかっただけに感慨もひとしお。
それから氏神の氷川神社に初詣。素朴で鄙びたその風情、佇まいはなんとも味わい深くて愛着を覚えます。
そして家に戻っておせちとお雑煮。
我が家のお雑煮、元旦はかしわにほうれん草、人参、大根の澄まし仕立てで、餅は茹で餅。京人参を調達できなかったのがちょいと残念。それから高麗川の高麗神社に初詣。訪れるたび思うことですが、高麗神社、吸い寄せられるようなオーラがあります。
二日目のお雑煮はかみさんの実家にならって白味噌仕立て。具は豆腐、雑煮大根、里芋、人参で、餅は焼餅。京人参は調達出来ませんでしたが、雑煮大根、緻密でしっとりした味わいが格別でした。
白味噌仕立てで具も簡素。素朴なようでいて奥深く、心洗われるような味わい、風味があります。