年をあけてしばらく、いつもなら昨年出会ったベスト・メニューを紹介するところです。ですが、昨年の6月来、中性脂肪過多のために栄養士から食事指導を受けて食生活を改善、なんてことが年末まで続きました。
そんなことから外食の回数は一気に減少。ことに夜の外食は控え目にし、打ち合わせや会食は昼の食事に変更。とはいうもののランチのコースなどでは飽き足らず、夜のメニューから料理をお願いし、しかもフルヴォリュームでという按配ですから、不埒この上ない私です。
もちろん毎月通っている「赤阪璃宮」銀座店では昨年も新しい発見が続出。料理長の袁さんならではの料理を堪能しました。ですが、月越えどころか年越えになってしまった昨年の7月から12月まで「赤坂璃宮」銀座店の料理、未掲載のままですから、そいつを先に片付けないことには袁さんの料理の2010年ベスト・メニューも紹介できない。
いつのまにか億劫になってしまった新しい店、新しい料理の開拓も、コンサート通いの合間をみつけてトライしました。ことに芸術祭関連の催しでは日頃縁のない東京の下町や東部にでかける機会が多いものですから、目ぼしい店をチェック。ですが、なんだか口にあわなくって全滅でした。
そんな中で昨年の私のニュー・ディスカバリー、最大のヒットだったのは中目黒のBISTRO KHAMSA/ビストロ ハムサ。若きシェフ、渡邊洋司さんの手腕にぞっこんとなりました。
BISTRO KHAMSAは目黒川沿いのビルの5階にあります。室内はエキゾチックなモロッコ風の風情、佇まい。気取りなく寛げます。女性客が目立って多い、というのがちょっとばかり意外でした。かみさん、それに甥っ子夫婦と初めて訪れたのは週末のランチタイム。
プリフィックのランチコースは前菜、メインともに5品からの選択。周りを盗み見すればヴォリュームはたっぷりの様子。しかも、大半の女性客、ヴォリューム満点の料理をガッツリ、あ、いけない、しっかりぱくぱく、なんていうのが頼もしい。
プリフィックのランチコース、メニューには興味をそそるものがありましたが、店のサイトの画像やメニューで知った夜のディナーのアラカルトから選べないものか。なんてことでアテンドのメートル(後に鈴木さんと知りました)に相談。初めて訪れた店でいきなりのわがままなんて、しゃあねえオヤジ(私)です。
「どんな料理をご希望でしょうか。ご用意出来るもの、出来ないものがありますので」
「お店のサイトの画像やメニューにあったブータン・ノワールとかパテ・アンクルートとか、どうかなと思って」といじましくせびる私です。
「あ、あれはブータン・ノワールではなくてスタンダール風黒ソーセージですが、ご用意出来るかと思います」
「わ、嬉しいな!それから、パイ包みの寄せものの冷製、パテ・アンクルートだっけ。あれはどうです?」 「ご用意できるかどうか、尋ねてきますので」とキッチンの奥に引っ込んだ鈴木さん「いずれも大丈夫です!」なんて返事。嬉しいじゃないですか。盛り上がります。
メインはプリフィックのメニューから私は「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」、かみさんは「仔羊のクスクス」、甥っ子夫婦は「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」と「古白鶏とオリーヴとレモンのタジン」を選択。あ、前者が甥っ子のかみさん、後者が甥っ子のチョイスです。
目の前に現れた前菜の「スタンダール風黒ソーセージ」。
ぶっといソーセージが「でん!」と無造作に皿のど真ん中。
ビストロの料理特有のざっくばらんな気取りのなさ、のように見えて、その見映え、料理の顔つきが綺麗で美しい。
仕事が綺麗で丁寧です。細やかな神経が行き届いてます。
思わず、うっとり。ナイフを入れるのがためらわれるほど。
さらに、食べてびっくり。切り分けたソーセージ、最初はざらっ、次いで、ねっとりの触感。あふれ出す旨味、こく、風味が堪らない。塩味はしっかり利いています。しかも、緻密で繊細で洗練されていて、その味わいは奥床しくて上品。風味、香りが鼻腔に広がっていきます。
ガツンとくる簡潔で率直なビストロ料理の域を脱した重層的な味わい、風味の豊かさに「参りました」。
そして「鴨やフォアグラがごろごろ入ったパテ・アンクルート」。
これまた見映えが美しい。料理の顔つきが綺麗です。整ってます。ごくんと生唾、大いに食をそそられます。
はたせるかな、フォアグラや肉のごつごつの塊と練った肉の触感の組み合わせが絶妙。それぞれの旨味、風味が際立ってます。
塩味しっかり、これはちょいと塩味がべたっと重たい感じでしたが、そのきっちりとした下拵え、調理、味付けは丁寧で緻密。
洗練された上品な味、風味でした。
そしてメインの「豚肩ロースのコンフィ、パセリ風味」。
「もしかして!」
思ったとおり、肉はナイフすっとが入る柔らかさ。それでいて、ナイフを押し返すしなやかな弾力あり。
頬張れば肉質はしっとりとしていて、もちもちっとした触感あり。
さらに、肉汁がじわっとあふれ出す感じで、噛み締めれば噛み締めるほど肉の旨さがほとばしる。
コンフィ、ってことは低温で揚げたってことですよね。そんな低温での調理がこの柔らかさ、肉の旨さを引き出したってことか。 それより、ジューシーで旨味のある豚肉の豊饒な味、風味にこれまた「参りました」。と、同時に「ン!?」なんて思ったのは、我が家で作るなんちゃってパンチェッタにも通じる味、旨味、香り、風味を感じ取ったからです。
塩を擂りこんで、マリネして、寝かせてあるわけ?そう、塩味しっかりで、これもちょいと塩味がべたっと重い。ですがそれ以上に、肉の旨味、風味を感じます。しかもそれがじわじわひたひた押し寄せて、旨味が口中に広がっていきます。風味が鼻腔をくすぐります。
後で渡邊シェフに伺ったところ、案の定、塩をまぶして、マリネして、1週間ほど寝かせてあるそうです。やっぱそうか。それを80℃の低温で時間をかけてコンフィ、ってことでした。
今度、改めてレシピをたずねなきゃ。我が家で作るなんちゃってパンチェッタも工夫次第で・・・とは上手くいかないか。
肩ロースのコンフィ、素材の旨さを引き出す下拵え、低温でじっくりという調理、そのアイデア、出来栄えの見事さ、なんといってもその旨さと風味に感心しました。