2010/12/27

師走の2

そして、大物どころのコンサートをいくつか紹介。
まずは人見記念講堂での井上陽水。バックはキーボード二人にギターという構成で、ベース、ドラムスの参加はなし。う~ん、これまでにもバックの構成を色々模索、実践という経歴のある井上陽水。ですが、リズムの要になるはずのベース、ドレムレスというのはなんとも意外。狙いは浮遊するようなアンサンブルだったんでしょうか。

ところが、開幕しばらくPAの按配が悪くって、一体どうしたの?と慌てふためきます。ですが、弾き語りからあたりから調子を取り戻し、あの朗々としていて妖しい魔力を秘めた歌声を堪能。新作『魔力』が抜群に素晴らしくって、面白くって、楽しみにでかけたんですが、いまひとつ盛り上がれず。

それから竹内まりやの10年ぶりのコンサート。ウェストがしっかり締まったすらっとした長身の細身姿もさることながら、喉、声の強さや声量、細やかな表現にぞくっと身震いするような表情の豊かさに圧倒されました。

日頃は主婦業に専念し、その合間をみつけて作詞、作曲活動、という彼女ですが、何よりも彼女の歌、歌声が魅力的。カラオケ歌って鍛えてます、なんてのではなくてストイックに歌を追求、なんて日頃の隠れたる努力や鍛錬、心がけがなければあの歌声はありえない!と思いました。

そして、今年は『夜会』がお休みの中島みゆきは全国巡演のコンサート・ツアー。その選曲がなかなか憎い!新作『真夜中の動物園』も素晴らしかったですが、歳をとればとるほど歌に深みがましていく、なんてのを目の当たりにしました。

そうそう、幕開け早々、聞こえてきたドラムスに耳をとられました。その音、まぎれもなくジム・ケルトナーのそれ。「え!どこどこ?」と思わず目を凝らしたら、なんとドラムスは島ちゃんこと島村英二。スネアのスナップのちょいルーズな感じ、ロール、フィルインの深いニュアンス、キックのずしりとくる深さと重み。ジム・ケルトナーじゃなくって、島ちゃんそのものでした。

残念ながらムーンライダーズやあがた森魚のステージは見られずじまい。
ですが、来年1月発売される鈴木慶一とムーンライダーズの『火の玉ボーイ』の最新リマスタリング作とあがた森魚の『俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け』の解説を執筆。ことにあがた森魚の新作、めちゃお気に入りです。

師走の1

ども、ごぶさたでした!今年も残すところあと57日。なんてことではぽっかり穴が開いたままになってる『赤坂璃宮』銀座店の7月から11月の月例報告、年明けになってしまいそう。その前に今月のを早いうちに報告いたします。

ところで、私といえば実は11月半ば過ぎからとっくに師走モード。今年も芸術祭の審査員を担当しましたが、審査会を終わってすぐさまコンサート通いが復活。毎年、年末になるとコンサート・ラッシュです。おまけに雑誌はじめ諸々の今年1年間を振り返る企画に加えて、来年早々の正月特番やら1月発売の再発企画の手伝いなどもあって師走を通り越して新年モード。

さて、コンサート。まずは久々にヴァン・ダイク・パークスとの再会が実現。『De La FANTASIA 2010』でのことでした。細野晴臣グループ、高橋ユキヒロ率いるTYTYT、クレア&リーズンなどなど参加のオムニバス・コンサート。楽しみは噂のトクマル・シューゴ。色々楽器を持ち替えたりするトイ・オーケストラ的趣きのバンドを従え、エレキ・ギターの弾き語り。

ですが、定評あるはずのギター、椅子に座ってギターの手元を見ながらの演奏で、なんだかリズムが落ち着かないままま一気呵成に弾きまくり。カレイドスコープ風に音像世界が広がり、つぶやくような歌と独特の歌詞世界、なんていうアルバムとは違ってライヴ仕立て。

ですが、ライヴ・ハウス・サイズの演奏で、内にこもって小ぢんまりのまま、歌と演奏のアプローチ、ホールの隅っこまでは届かないし、客席に飛び込むような感じもなし。それにしてもどうして椅子に座って弾くのか疑問。なんてこと、バック・ステージで当人にも尋ねました。

高橋ユキヒロ率いるTYTYTは高橋幸宏、宮内優里、高野寛、権藤知彦というスペシャル・ユニット。私好みのエレクトロニカ。ギターをサンプリングしてギターを足していく宮内優理と伸び伸びと歌う高野寛が光ってました。細野グループには鈴木茂も参加。今の気分そのままというオヤジならではの味わいが地味で滋味深い。高田漣君のマンドリンも「わ、すげ、やる!」なんて感じで、当人の思惑はさておきヤンク・レイチェルを思い出したりして。

面白かったのは細野グループの演奏のシャッフルのニュアンス。踏ん張りのある重さよりもハーフ・シャッフぽい軽さがあって、そこんとこ今風。若いメンバーのノリ、グルーヴを生かしたもの。あとで高田漣君に「あれって、なんで?」と尋ねたら「細野さんの好みなんです」なんて話に、ナルホド。昔そのままじゃなくって今風に、という訳ですね。

それから、今、私が注目のグループ、クレア&リーズンズ。話題のブルックリンからで「チェンバー・ポップス」なんてことだけど流行遅れのオヤジ(私ですけど)は「何、それ?」って感じですから、始末に終えません。フォーキーな要素にヴァイオリン、チェロによるクラシック的な要素をブレンド。ボヘミアン的な素朴さもありますが、とてもエレガントで知的。

ハイ・インテレクチュアル・ミュージックという感じです。それにどこかイギリス(かぶれ)風なんてもの興味をそそる。ウェスト・コーストでは絶対にありえないグループ。絶対的にイースト・コースト、それも《ザ・シティ》や《ニュー・イングランド》っぽい感じ「うん、その通りかも!」とクレアも言ってました。

そして、ヴァン・ダイク。「ジャンプ」に始まり「オポチュニティー・フォー・トゥ」やら「カム・アロング」に続いて「オレンジ・クレイ・アート」が!「F・D・R・イン・トリニダード」なんてのも。それに「英雄と悪漢」。さらにはかの名盤『ソング・サイクル』からの「ジ・アッティック」。アンコールが「オール・ゴールデン」というマニア泣かせのセット・リスト。

歳はとりましたが歌もピアノも実にパワフル。以前にもましてパワフル。それに、今回最大の収穫はクレアを除くリーズンズの3人のヴァイオリン、チェロ、ベースによるアンサンブルの素晴らしさ。ストリングスが命、というヴァン・ダイクはこれまでの来日公演の度、それを実践すべく日本でストリングスを調達。 ですけど、日本で調達したストリングスの《ノリ》というか《グルーヴ》はなんだかいまひとつ。

そんな問題をクレアの亭主のオリヴィア、チェロのジョン、ベースのボブのたった3人でカバー。ヴァン・ダイクが求めるストリングスでグルーヴ!を見事具現化、というスリリングな演奏、サウンド展開が絶妙でした。画像はヴァン・ダイクとトクマル君の記念写真を盗み撮り。