2009/10/31

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月もぎりぎりセーフで09年10月の「赤坂璃宮」銀座店。
 いや、あの、今年も芸術祭の審査員を担当。なんてことで10月に入って以来、従来のコンサート通いに取って代わって演芸場や小ホール通い。私の担当は大衆芸能部門で音楽もありなんですが、圧倒的に多いのが演芸関係。それに今年は朗読関係の催しがいつもに比べて多い。おまけに一日の内、昼、夜、別の催しがあってあっちこっち。なんてことでブログ・アップの機会、逸してました。
 そういえば先月分で未報告分もありなんですが、以上のまずはそれより月例の「赤坂璃宮」銀座店のレポート報告。

 まずは前菜の「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物盛り合わせ」。その内容、向かって右から皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」、家鴨の焼き物の「焼鴨」、それに「叉焼」。飛んでトマトに白菜の酢漬けにくらげ。その盛り付け、今月は角皿で登場。真ん中には稲穂と思しき飾り物も。

「あれ、今月、鶏肉がないや!」
その理由、後で判明。

それより家鴨の焼き物の「焼鴨」、皮はぱり。肉はしっとりながら適度な弾力、歯応えがあったのと、いつもより甘味のある味付けだったのが印象的。 それにくらげの歯触り、噛み応えも快感でした。

2009/10/30

「ロック・オブ・エージズ~小倉エージ・インタビュー&トーク集」

 なんてことで、この程、ミュージック・マガジン社より拙著「ロック・オブ・エージズ」が発刊の運びとなりました。
今年、ミュージック・マガジンが創刊40周年を迎えたのを機に、創刊以来、同誌と関わってきた私が同誌に寄稿してきたインタビュー、ルポ、対談、鼎談をまとめたものです。それも、一部を除き、掲載時の記事をスキャンして収録。
 ということもから、結果、事実関係やその認識など現在とは異なり、本来は修正の必要なものもありましたが、そのまま収録。創刊当時の拙い文章、内容は赤面するより他ありませんが、当時のロックの動向、そのうごめきをなんらかの形で伝えたいという意欲にかられてのもので、その取り組みを明らかにするものとして収録。
 ミュージック・マガジン誌に寄稿したインタビュー、ルポ、対談、鼎談は思いの他ありましたが、紙数に制限もあってそのすべてを収録することは出来ませんでしたが、手にとって気軽に読める、楽しんでいただけるもので出来上がりました。
 その続編もなんとか実現したいと思っていますが、とりあえずは今回の「ロック・オブ・エージズ」、ご高覧いただければと願う次第です。
 ニュー・ミュージック・マガジン時代をほうふつさせる表紙のイラストレーションを書き下ろし、装丁を手がけてくれたのは矢吹申彦さん。 あ、こんな感じの表紙、見たことあり!なんて方なら、きっと、楽しんでいただけると思います。

2009/10/23

「カフェ・ル・モンドのメニュー」

 加藤和彦の訃報を知ったのは先週の土曜日の昼過ぎ。通信社からコメントを求められてのことでした。それも「自殺されたようです」との話に、一体、何があったのか訳がわからず、言葉も出ない。というより、信じられませんでした。

 ちょうどこの2日、松任谷由実のコンサートに出かけた際、サプライズ・ゲストで登場し、新作「そしてもう一度夢見るだろう」の収録曲の「黄色いロールス・ロイス」をデュエット。終演後、バック・ステージに赴いたところ、石川セリさんと歓談中に「やあ、やあ、やあ、エージ、エージ!」とにこやかに声をかけてきたものです。セリさんとの話は中断して、しばし歓談。

 今年の初めに発表された坂崎幸之助との「和幸」の第2弾だった『ひっぴいえんど』は、はっぴえんどをはじめ60年代末から70年代初頭にかけてのロック、フォーク、ポップスを下敷きに、作品、歌、コーラス、演奏、サウンド作りにひとひねりもふたひねりも工夫を凝らした作品。当時の事情を知る、なんてことからインタビュー、解説に引っ張り出されてお手伝い。

 前後してアルバムを発表し、ライヴも実施したのがVITAMIN-Q。ユーミンの「黄色いロールスロイス」はその流れをくむもの。併せて「和幸」ともども、昨年来、バンド活動、ライヴ活動に意欲的。
 そんなことから、ユーミンのバック・ステージでの再開での話の中身は、ここ最近の動向やこれからのことについて。ことに気になるのは「和幸」のこと。

  そしたら「う~ん、あれは、仕掛けを入念にやんないとね。準備も必要だし。ま、それ以外にいろいろ、考えてることがあるんだけど……」なんてことでした。

 加藤和彦が鬱病を患っていたとは知らなかった。それは私だけでなく、内々の関係者のみが知ることだったらしい。日を追って、様々な報道がなされ、遺書の一部なども報じられ、自ら命を絶つに至った理由、経緯、事情が少しずつ明らかになったものの「何故?どうしてまた?」という疑問が頭の中を渦巻くばかりです。

 知り合って40年あまりの長きの間、常に身近にいた親しい友人ではなく、疎遠だったことの方が多い。が、時に出会って、親しい付き合いを重ねたこともあります。
 はっぴいえんどのデビュー・アルバム、通称「ゆでめん」が出来上がった日の夜、はじめて関係者以外の人間としてそれを聞かせたのは加藤和彦であり、絶賛してくれるとともに大いに勇気付けられたことは今も忘れ難い。後年、私がTVの「男の食彩」のキャスターを務めることになった際、最初のゲストとして迎えたのも加藤和彦だったが、その依頼を即座に引き受けてくれました。「和幸」の『ひっぴえんど』の解説やインタビューに借り出されたのも、そうした長年の付き合いあってのことです。

 加藤和彦が日本の音楽界、ポップ・シーンに残した業績。それを改めて振り返ってみたいと思っています。
 今、思い浮かぶ私にとって加藤和彦が生んだベスト・ソングといえば「カフェ・ル・モンドのメニュー」。「和幸」の「ひっぴえんど」のインタビューの際、さすがの坂崎幸之助もその存在を忘れていたレアな作品です。

2009/10/11

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の8

 最後はそれぞれ好みで選べるデザートの甜品。が、その前に、特別なデザートが登場。
 昔懐かしい甜品の一品の「椰香薄缶掌捲/ゴマとピーナッツバターとココナッツのライスクレープ巻き」。

 中国の料理名の「缶掌」は、それで一語。文字自体は点心のメニューなどで見かけることがありますが、PCでの漢字表記にはなく、漢字変換は不可能。香港や広州のサイトなどでも「缶掌」と2字で表記。

 どうやら広東語の音韻にあわせた広東語独自の表記らしく、慣用語、慣用表現としてして定着しているようですが、正しい漢字表記を!なんてことで「撐」もしくは「撑」という漢字で表記しているのもあります。どうやら、しっかり巻き付ける、って意味のようで。
 その言葉通り、ゴマやピーナッツバター、削ったココナッツを具にしてしっかりまきつけてあります。その生地、ライスペイパーなんてことからすると米の粉で出来た腸粉ってことになりますが、生の腸粉は乳白色。

 それとは違ってこれは半透明で、乾燥させたライスペイパー、そう、ベトナムの春巻きに使う半透明のライスペイパーに似ていて、それよりいくらか厚みがあります。

 この種の巻き物のデザートでは米粉にくわいの澱粉、黒ゴマあるいは白ゴマを混ぜ合わせて平たく伸ばし、きっちり巻き付けた「芝麻捲」がありますが、それって70~80年代に飲茶の点心に登場。ということからするとこの「椰香薄缶掌捲」はそれ以前からある昔ながらの伝統的な点心の一品。

 随分と以前、昔ながらの老舗の茶樓、広東料理店の早茶、午茶の飲茶巡りをしていた頃、油麻地の豪華酒樓、北角の十大、それに筲箕湾の茶樓でみかけた記憶があります。しかし、「芝麻捲」の登場とともに滅多にみかけなくなりましたが、懐古的な料理の復活とともに、昔懐かしい点心として話題に昇るようになったもの。

 ちなみに点心料理長の久保田さん、香港じゃなくって横浜のシェラトン時代に習ったそうで。ということは、日本にも紹介されていたってことになります。ともあれ、先月の「南瓜水晶包」にしろ、この「椰香薄缶掌捲」にしろ、珍しい点心を用意してくれるのが嬉しい。これからどんな点心が登場するのか、楽しみです。

2009/10/08

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の7

 締めくくりの「面・飯」。
今月は「鮑汁炆伊麺/鮑ソース入り煮込みそば」。
 
















「伊麺」、すなわち「伊府麺」は、卵入りの麺。「伊府麺」、日本の中国料理店、それにスーパーなどでもみかけますが、細めのものが一般的。 それが、香港だと、平べったくて少々幅広。といってきしめんほどの幅の広さでもなく、その半分ぐらい。イタリアの乾麺の「リングイネ」に近いです。そんな香港で食べる幅広の「伊麵」が登場したのに吃驚! 

 以前、食べた雲呑入りの「香港雲呑麺」の「麺」は、香港から空輸した直輸入品でしたが、もしかしてこの「伊麺」もそうなんでしょうか。 実際、麺の旨さがちがいます。すっと歯が入る柔らかさで、噛み締めるとしっとり感あり。腰のある讃岐系の麺をお好みの人にはうけないからもしれませんが、モチモチ系のうどんが好みっていう人なら、好み、ぴったりのはず。

 その柔らかさ、独得の触感は、麺自体の素材の質ってこともありますが、揚げて、煮込んであるという調理方法のプロセスによるもの、のはずです!そして、味付けは干し鮑を戻した際に生まれる鮑汁をもとにした旨味たっぷりなもの。具は韮、もやし、それにどうやらエリンギらしい触感の生茸。

  いたってシンプルな汁が少なめの煮込み麺。ですが、調理に手が込んでる。おまけに「鮑汁」は高価な調味料ですから、実は贅沢この上ない麺料理。宴会料理の締めくくりに登場ってことも少なくない。
 袁さんが調理、味付けしたこの「鮑汁炆伊麺」、旨味たっぷりでも洗練された上品な味付けで、その味加減が見事。風味豊かな麺料理。「旨い!」と一言唸って、あとは、無言。ひたすらつるつる。するすると喉元を通り過ぎていきます。

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の6

 「辣酒煮花螺」といえば思い出すのが「大佛口食坊」のそれ。
 香港の広東料理が最盛期を極めた80年代半ばに誕生し、各地に支店を持った「大佛口食坊」は、海鮮料理の大衆化に貢献。と同時に、新しい料理を次から次へと発表。そのひとつがこの「辣酒煮花螺」。やがて香港中に広まり、後に「大佛口食坊」は結業、すなわち、閉店しましたが名物だった看板の料理は形を変えながら現在に至ってもいろんな店で受け継がれているという次第。

 袁さんもおそらく「大佛口食坊」、もしくはその流れを組む料理を食べたことがあるはず。なんせ、80年代半ば以後、香港の海鮮料理では大人気でしたから。あ、そか、もしかしてかつて袁さんがいたという「翠園酒家」のメニューにあったのかも。もっとも、今回の「辣酒煮花螺」、香港で私がいくつかの店で食べたそれとはいささか異なる。

 まず、香港では「バイ貝」でも殻に方形の斑点模様がついた「ソウゲバイ」や格子状模様の「ヤマグチバイ」が主体。ですが、それら日本ではなかなか入手が難しい。ということで今回の「白バイ貝(エッチュウバイ」になったんでしょう。

 それに、袁さんならでは工夫がある。そのひとつは煮込み用の酒。普通は紹興酒や玫瑰露酒、広州産の焼酎の米酒を使用するのが一般的。それが袁さん、前述の通り「五粮液」、「茅台」を使用。匂いというか香りが強烈で、しかも、アルコール濃度が高い。

 さらに、豆瓣醤、辣椒醤などを取り混ぜ、辛味と旨味、こくを付けるのが香港では一般的。それが袁さん、豆瓣醤はどうやら「郫県」のものを使用してるらしい。普通、赤色、もしくは、醤油系の濃い色のものが多いんですが、赤いレンガ色、というのがそれを物語る。

 加えて「痺れ味」、これって、香港の色んな店で食べた「辣酒煮花螺」にはなかったことで、いささか趣が異なる。実は、香港人、ことに広東人ですけど、その多くが中国山椒の「花椒」が苦手。しびれ味はともかく、その香り、風味、はっきり言ってその匂いが、受け付けられない!

 「え!? 麻婆豆腐に不可欠な痺れ味を生む「花椒」が苦手?信じられない!」、なんて人もいるでしょう。が、事実です。
 かつて日本では「花椒」の入手が難しく、痺れ味にも馴染みがなかった。それが「花椒」を使った本場式の「麻婆豆腐」が紹介され(私もdancyuで早くに紹介してきたひとりです、と書いておこう!)その入手が容易になって、いまでは「花椒」の「麻」の味も生かした本場式の「麻婆豆腐」が一般的。

 中には「花椒」の「麻」の痺れ味に病みつきになってしまった人も少なくない。多少の「花椒」では物足りない!「どばっ!」と入れて、かけて、と注文する人もいるそうな。なにしろ、最近の「麻婆豆腐」、そればかりか「四川料理」の評価の一番の基準は「辣」の辛味だけじゃなくて「麻」の痺れ味が過不足なく使われていないと潔しとしない。なんて具合ですから、なんだか不思議な按配。それも食の評論家にそうした発言をする人が多くて「をいをい違うだろが」って、あ、言わないほうがいいか。穏便に、穏便に。

 やっぱり日本人は味で判断。香港の広東人はそれに加えて香りも重視、というあたりに違いがある。そう、私の知る限り香港の広東人は「花椒」の痺れ味はともかく、香りを潔しとしない、嫌い、受け付けないという人が圧倒でき。それなのに香港からやってきた袁さんのこの「辣酒煮花螺」、痺れ味がする。「花椒」の味、風味がするのは「なんでまた?」と思って当然のことでしょう!

 橋本さんに尋ねてもらいました。
 「「馬拉醤」は使用していないそうです。調味料、香味野菜は「豆板醤」、「干し唐辛子」、「生唐辛子」・「山椒オイル」、「沙爹ソース」です」とのこと。

 そうか、カレー味談義(?)のもとは「沙爹ソース」こと「沙爹醤」だと判明。 「沙爹醤」、そもそもは干し海老の「蝦米」、海老みそ(あみの塩辛)の「蝦醬」をベースに各種香味野菜、香辛料を混ぜ合わせピーナッツ油でいためて作る、というのがその基本。中国南部から東南アジアにかけての国々に素材の内容が異なるものがあります

 そして「山椒オイル」を見逃せませんでした。それこそ「花椒」を素材した調味料で、しびれ味のもと、ですから。なんてことだと辛味だけでなく、ヒネた旨味が濃厚な「郫県豆瓣醤」(あ、未確認です!)、「山椒オイル」ということなら広東料理じゃなくって四川料理じゃないですか!しかも「五粮液」、「茅台」を使う、なんてのも広東系の料理人には「ありえな~い!」(って、ちょっと若ぶったりして!)

 袁さん、多分、日本にやってきてその種の調味料に出会い、その面白さ、発見したんじゃないでしょうか。ということなら、袁さん、香港の広東系の料理人の中でも頭が柔らかくって、好奇心と冒険心にあふれ、なんでも未知の味に積極的にふれ、こで自分が納得すればしっかと受け止め、バンバン使っちゃうというなんて意欲的、しかも創作意欲にとんだ料理人、ってことになります。

 その一方で、基本は広東料理。ことに伝統的な宴会料理と「家郷菜」がその基本とばかり、その信念を貫き通す頑固さもある。それは袁さんの手になる「家郷菜」からも明らかですから。そんな「保守性」と「革新性」が混在し、やじろべえや振り子のように、あっちこっちへといったりきたり。袁さんの料理の面白さのひとつです。

2009/10/06

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の5

 そして土鍋の中で煮え滾る「辣酒煮花螺/白バイ貝の辛味煮」が登場。  そういえば、袁さんの料理、ことに鍋料理、いつも熱々。土鍋料理はいつも煮え滾ってます。テーブルに運ぶアテンドの柏木さん、いつも一苦労。テーブルの上に置かれた料理の画像を撮ろうとしても立ち昇る湯気にレンズが曇ってすぐさま撮影なんか出来ない。

 皆さんにお目見え、ご披露の後で一旦テーブルから下げられ、別の場所でお碗に取り分けられて、再度、テーブルに登場となるわけですが、それだけ時間が経過してもなお料理は熱いまま。というのがほとんどですから、袁さんの土鍋料理の熱さ、想像してもらえるはず。

 おまけにこの「辣酒煮花螺」、登場とともに部屋の中はむせるぐらいお酒の匂いで溢れかえる。それも中国の白酒、独得の香りです。「ン!? 「五粮液」に「茅台」?」なんて思ってたら柏木さん、テーブルに置くなり開口一番「「五粮液」と「茅台」を使ってるそうです!」。

 最初に土鍋入りで登場した時には、煮え滾る赤レンガ色した煮汁の中でアップアップ。さながら地獄絵図、石川五右衛門状態、でもないですけど少しばかり異様な光景だったのは確か。それが、小ぶりの鉢に取り分けられ、目の前にした「辣酒煮花螺」、やっと「白バイ貝」の正体確認。
 身が収まったままの貝を小皿に取り、身を取り出そうとしましたが、指で貝つかむと「アチチ!なんで、まだこんなに熱いの?」なんて思わず口走っちゃうぐらい、料理が熱い!
 仕方なしに、お絞りで貝を押さえ、ほら、蟹の脚の身をほぐす細長のフォーク状のも辛さのをねじりいれ、貝から身を引きずりだす!
 煮え滾る煮汁の中にあったことから、さぞやしっかり火が入り、身の硬さを想像していたところ、火の入れ方、ミディアム・レアぎりぎりの感じのところで止めをさしてある感じ。すっと歯が入る柔らかさ。ですが、噛み締めた歯が軽くおしかえすようなしなやかな弾力もある。
  磯の味、と、同時に、だしを口に含むと、こくのある味、旨味、それだけでなく、スパイシーでエキゾティックな味、風味が浮かび上がったかと思うと、痺れをともなう強烈な辛味が一気に押し寄せ、口中に拡がっていきます。
 のたうちまわるほどの辛さじゃない。けど、ジンジンの痺れ味もあって、舌や口腔にまとわりついて、細胞に鋭く染み込み、一瞬、頭が白くなります。前後して、汗がどっと一気にあふれ出る。しかし、こらえきれない辛さじゃない。もっぺん、あるいは、何度でも、(辛さの)快感を味わいたくなくなるようなみょーに後引きな辛さです。
 おもしろいのは、痺れる辛さ、だけじゃない。なんだかスパイシーでみょーにエキゾチック。
 「ね、これ、カレーの味、しません?」
 「するする!」
 「カレーっていうか、複合スパイスの感じね、ほら、カレー粉、実はスパイスの混合体なわけでしょ?でも、なんでスパシーなのか・・・・」
 「あの、もしかして先日の「馬来醤」が使われているからかもしれません。確かめてきます!」
と柏木さん。

2009/10/04

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の4

そして「豆豉蒸紅衫/イトヨリの豆豉蒸し」。その登場ととも歓声が上がりました。
 魚は「いとより」。知らないわけじゃありませんが、こんなにでっかい「いとより」との出会いは初めて。駅前のスーパーで見かける「いとより」はうんと小粒。
 手に入れても煮付けにするか、アクアパッツアにするか。煎り焼きにしてから広東白菜に杏仁なんかとともに「例湯」もどきにしたことがありますが、良かったという印象もなく、日頃は馴染みなし。

 香港や台湾あたりでは海鮮料理店の店頭にある生簀でみかけたことがあって「清蒸」でも「紅炆」でも「油浸」でもいけるよ!なんて話を耳にしながら、なんとなく乗り切れなくって未体験。
 ですが、今回、袁さんの調理した「豆豉蒸紅衫」を再認識。こんぐらい大きいと「いとより」だと「いけるワ!」。

 ひと口食べて身の「ゆるさ」に驚きました。あいなめ、ほっけの触感に通じるしっとり系の肉質。ですが、しゅわしゅわじゃなくって、ほろり、はらりとほぐれていく感じ。どうやら蒸し物、広東式の魚の唐揚げの「油浸」などにうってつけなことをすぐさま察知。

「「いとより」の持ち味、個性、特質って、こんな風だったんだ!」と認識した次第。今度は別の調理法で食べてみたい、なんてつもりにもなった程。ネットで検索すると大ぶりの「いとより」は高級魚扱い。ワ、どうしよう、今回も予算オーバー!なんていいながら、美味の誘惑には勝てない。

 技と工夫ありの味付けというのは「豆豉」(黒豆醗酵味噌)のひね味、旨味、こく。それに新鮮な唐辛子が使われていて、辛味にフルーティな味、風味がある。
 その味、風味からふと思い出したのは6月に食べた「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」に使われていた四川の唐辛子の漬物の「泡辣椒」、それに魚醤などで作った「赤坂璃宮」特製の「海鮮醤油」の味、風味。ふっと「陳皮」の味、風味が鼻先をよぎる。
 料理自体の見映え、味、風味、一瞬、四川の「魚香鮮魚」のよう、ですが「違うワ、この料理は!」と、即座に右だか、左の脳がその考えを「却下」!
 というのも、その味つけ、風味、なんだかエキゾティック。ついでに言えば「トロピカル!」。そう、なんだかタイの南方系の魚料理を食べてるような思いに駆られるからです。

 その要因はナンプラー/ヌクマムと思しき、特有のクセのある味、風味。「赤坂璃宮」の「海鮮醤油」って、実は、エキゾチック。明らかに東南アジア系のそれ!です。さらに魚の上に乗った小ねぎ、香菜、その緑がなんだかトロピカル。ですけど、味、風味の基本は中華風。醗酵品の酸味、ヒネ味が利いていて、すっきりさっぱりの味わい。そんな味付け、蒸す調理が「いとより」にぴったり。

 「いとより」の「ゆるい」身の水っぽいさが抜け、調味料の旨味、ひね味をしっかり吸収。しかも、ほろり、はらりの肉質としっかり馴染んでます。しかも、すっきり、爽やかな爽快感がある。

 「そうだ!」ってことで思い出したのは潮州料理の店で出会った鱸を梅醤で蒸した料理。醗酵系の酸味、ヒネ味、酸味。そこに生の唐辛子の爽快な辛さがプラスアルファ。蒸した魚の上に青葱、香菜のどっさり、なんてプレゼンテンショーンもそんな感じ。

 橋本さんに頼んで袁さんに調味料のことを尋ねたら「「「海鮮醤油」は入ってますが「泡辣椒」は使用してません。それに、赤と青のピーマン、香菜、陳皮、生唐辛子などです」とのこと。
 「なんだか漬物を使ってある感じ!」とIさん。
 「え!使ってないって?だとしたら、なんだろ、この味?」。
 「多分「豆豉」と「海鮮醤油」の醗酵したヒネ味のせい、でしょうね。それより、このすっきり、爽快で、フルーティーな辛さ、いいですね!生唐辛子のせいなんだ!」

 醤油系の味付けで仕上る「清蒸魚」だと、白いご飯の上にのっけて食べたくなる。ですけどこの「豆豉蒸紅衫」、そのまんま爽快な魚料理としてしっかり味わいました。

2009/10/03

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の3

 例湯は「栗子花生煲鶏脚/コラーゲンたっぷりのスープ」。 ン!? 日本語の料理名が「コラーゲンたっぷりのスープ」って、ま、このスープのエッセンスを物語るってことで、わかりやすくっていいですけど……。
 その具材、ご覧の通り、真ん中に秋の実り、栗がたっぷり。その下は棗の蜜漬けの「蜜棗」と鶏の脚の「もみじ」。あ!?!そうか「もみじ」も秋のもの、って袁さんには多分、通じないか!
 左側には「(落)花生」、ピーナッツがたっぷり。栗の上、皿の淵にずらりと並ぶんだもの、なんだと思います? 「豚のお尻です!」と、柏木さん。 「豚のお尻?って、これ尻尾、みたいじゃん・・・・初めて食べるなあ!」なんて声も。 その実態、橋本さんに確認して「豚の尻尾」だと確認。
 そういえばちょうど一年前、「赤坂璃宮」銀座店の9月のメニューにも栗を素材にしたスープが登場。そん時には栗と鶏を煮込んだ「栗子煲鶏湯」が登場。今回は栗に「鳳爪(鶏脚)」を組み合わせたもの。

 広東地方の「湯」、つまりはスープを集大成した私の座右の書のひとつには「鳳爪(鶏脚)」を素材にしたスープが各種紹介されていますが、その中に栗と一緒に煮込んだ「栗子鶏脚湯」がありました。そこでは「痩肉」と「胡桃」、「陳皮」が素材として紹介されてます。

 ということでは今回の「栗子花生煲鶏脚」、「落花生」は「胡桃」に代わるのも。それに「蜜棗」で甘味を加味。なんていっても「鶏脚」に「落花生」という組み合わせはよくあること。それよりおもしろいのは「豬尾」を加えてること。

 「鶏脚」をたっぷり使えばゼラチン質たっぷりのだしが取れます。そこに「豬尾」を加えればますますゼラチン質、さらには旨味、甘味とこくを増す。コラーゲンたっぷりというのもそんなわけか。さらに、生だと渋味の強い栗に火を通せば、持ち味の甘味が顔をのぞかせる。澱粉質もたっぷり。それにほくほくの感じになる。そんな栗のエッセンスを煮込んで抽出。さらに「落花生」、「蜜棗」のエッセンスも。
 素朴、朴訥ながら自然な甘味、さらに、旨味やこくもあるスープが旨い。すっきり、というよりも、いつものこの種のスープに比べてざらっとした感触が舌に触れるのは、栗と落花生のせいでしょうか。
 だしがらのはずの栗の実、落花生が旨い。それより「鶏脚」、「豬尾」が、たまり醤油と上湯で作ったタレにつけて食べると、これがなかなかいけます。
「乙な味、だね。特にこの尻尾、はじめて食べるんだけど、豚の耳のようにこりこりじゃなくって、とろとろの感じ、たまらない!」
「ねっとりでびろびろ。煮込んだ豚の皮、皮の裏側にこびりついた脂肪のとこも、なんともいえない味わいで。冬に備えてえさをしっかり食って、養分をしっかり溜め込んだ豚、これから、ますます旨くなりますから!」

 秋の訪れを告げる一品でありました。

2009/10/01

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の2

 そして「干貝青瓜餅/干し貝柱と胡瓜入り海老すり身の煎り焼き」が登場。
 干し貝柱、蝦のすり身、慈姑(くわい)、干し椎茸になんと「胡瓜」がその具材。それをつなぎでまとめ、小ぶりのお餅状に。さらに煎り焼きの「煎」で調理。さしずめ海鮮入り、胡瓜入りのミニ・ハンバーグの趣。
 私、この一品、初体験。 

 「「胡瓜」って、中国料理に使うんだっけ?」
 「うん、ほら、四川料理で豚肉の薄切りを茹でて、辛味のタレをかけて食べる「雲片白肉」ってあるでしょ?。あん時、胡瓜の薄切り、スライス、一緒に食べたことない?
  それから、胡瓜を叩き潰して辛味の醤油タレで食べる前菜、なんて言ったけ、う~ん、「麻辣黄瓜」。そうそう、北京の食堂なんかに行くと、胡瓜の前菜の冷製にいろんな味付けのがあるよ」

 「そういえば「酢豚」に「胡瓜」って入ってること、あるよね」
 「そうね。でも、「胡瓜」を炒めたる料理って、それ以外に知らないな」
 「でもないんですよ!「胡瓜」を厚めに切って、ほら、漬物の「胡瓜」の厚さぐらいに。それと「海老」を炒めた料理ってあるんですよ。

 おもしろいことに「玉葱」ね、それも、キャベツやレタスのように一枚、一枚、剥いでから「胡瓜」位の大きさに切り分け、一緒に炒めるの。すると炒めた「胡瓜」がいくらか「しんなり」して、「ぱり、さく」感、薄らぐでしょ?でも、味はすっきり。それから玉葱も火を通すとしんなり、「くた」っとなるけど、甘味を増すでしょ?どっちも、火が通って「しんなり、くた」のへたれな感じなのに、微妙に触感も違って、面白い組みあわせ」と、知ったかぶりの私です。

 そういえば、潮州料理に「胡瓜」をザクきりにして、海老のすり身とか併せて、ピザみたいに平たい円形に延ばし拡げて、お好み焼きみたいに煎り焼きにしたり、かき揚げみたいに油で揚げる「青瓜烙」って料理、お惣菜があったなあ!なんて別の話をしながら、ふっと思い出しました。

 袁さんによればこの「干貝青瓜餅」、広東地方の「家郷菜」ってことです。
 けど、潮州料理の「青瓜蝦烙」に通じものがある。「青瓜烙」のように、平たい円形や、でっかいかきあげ風じゃなくって、小ぶり丸めて、餅状に。そういえば海老のすり身にいろいろ具材を入れて、煎り焼きにする「蝦餅」は、広東料理にも、潮州料理にもあります。

 そんなことからすると「青瓜烙」、「蝦餅」のバリエーションじゃない?ってことに気づいたわけです。しかも、この「干貝青瓜餅」、焼き色しっかり付くぐらいに煎り焼きにしてあって、外側は、ぱりっとした歯触りのする「脆」の触感なのがグッドというかグレイト!

 海老のすり身、戻してほぐした干し貝柱、干し椎茸がおりなす甘味や旨味に、慈姑のさくさくの触感。さらに火が通って多少「しんなり、くた」のながらもどこか「ぱり、さく」感、すっきり爽快な瑞々しさを残してるのは「胡瓜」ならではの味、風味。しっかりその存在を主張。

 そういえば「胡瓜」も夏の名残物。
 それにしても、この「干貝青瓜餅」、火を通した胡瓜の味、風味、触感、その存在感が目立ちます。馴染みのないないものだけに、なんだかミョーな感じもする。ですが、すっきりの爽快感が意外だ!
 「家郷菜」、しかも「お惣菜」らしい一品ですが、調理、味上品です。ちょっと辛味のあるタレをつけて食べるうち、白いご飯がほしくなります。

 そうか、この「胡瓜」、生じゃなくって、浅漬けとか糠付けとか「ぱりぱり」の触感残した漬物の「胡瓜」なんか使うと、面白いかも。そういえば「沢庵」なんかもよさそうだ。実際、「沢庵」入りの卵焼きなんてあるから、そこに「海老のすり身を加えて………」
 いつの間にか《遠い目》。自分の世界に没頭してしまう私でありました。