2009/03/31

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」のこくのある味、旨味、風味ですが、後で大藤さんを経由して袁さんにその秘密を尋ねました。そしたら「蝦醬」だけじゃなく「蝦膏」をプラス・アルファ、なんてメールで返事が到着。

 「蝦膏」と知って、まず思い浮かべたのは瓶詰めになった「蝦醬」ではなく、「蝦醬」を固形状に固めたもの。瓶詰めのしっとり系の「蝦醬」よりも、味も風味も濃厚。それだけ、より「くせ」を感じます。

 ところが、大藤さんのメールにあった「シュリンプ・イン・オイル」という注釈に「はて、一体何だろう?」。
 ネットで検索したところ、もっぱらタイ料理で使われるオイル漬けの「蝦醬」だと判明。

 実はタイ料理でも「蝦醬」は不可欠な調味料のひとつ。その種類も豊富で、いろんなタイプのものがある。そのひとつ「蝦醬」のオイル漬け、ということで成る程と納得。
 それにしても、タイの調味料理を起用、なんてところが興味深い。

 そういえば、今回の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」で、もうひとつさりげなく効果を発揮していたのが生姜です。香り、風味づけに使われていたものですが、その生姜、きっちり、5~6ミリ角ほどの大きさに切り揃えてありました。

 その細やかな技、素材の切り揃え、下拵え、つまりは「板」の仕事をおろそかにしない袁さんの料理に対する心構えが汲み取れました。
 ちなみに「板」の担当、大藤さんの話によれば、日本人の料理人だそうです。今度名前を聞いとかなきゃ。

 この板の人、袁さんの要求に応えて、いつも緻密で細やかな仕事ぶり。にいつも関心させられます。その仕事ぶりから、この人、絶対に腕っ利きの良い料理人になること間違いなし、と私は確信します。

 そうです。
 「板」をおろそかにしては「鍋」も腕の奮いようがありませんから。

 これまで何度もふれてきたように、中国料理で「鍋」担当の料理人が腕を奮うには、細やかな包丁仕事、下拵えに専念する「板」の存在、役割が不可欠です。
 一般に、素材の切り揃えなど、下拵えは新入りの仕事、なんて思われがちですが、実際には経験に培われた技量を要するプロフェッショナルな存在。そこんとこ、実は見逃されることが多い。

 ホテルや大きな店では、人材も豊富。「鍋」、「板」の役割分担が明確に分かれています。それにオーナー&シェフの店として先鞭をつけた「吉華」の久田大吉さん、「文琳」の河田吉巧さん、「竹爐山房」の山本豊さんなどは、目配りが行き届いてました。

 ところが、近頃話題のオーナー・シェフの店では、「鍋」を振るオーナー・シェフを確実にサポートする「板」の存在を、滅多に見かけない。あの店もこの店も、「板」を充実させれば、「鍋」の力量、もっと発揮できるんじゃないの? なんて思うことがしばしばです。

 中国料理の料理人を目指す若い人たちも「板」の仕事は、あてがわれた修行仕事だと思いがち。それよりも、先急いで見映えの派手な「鍋」ばかりに気をとられ、「鍋」を振りたくてたまんなくて、「板」の仕事はうとんじれられがち、なんて話しも耳にします。 そうしたことが解決されれば、日本の中国料理の未来も明るい!なんて、決してオーバーな話、なんかじゃないんですが。

 ともあれ、「赤坂璃宮」銀座店の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。ほのぼのとしていて心が和みます。 ご飯と一緒に食べたくなるお惣菜。広東地方の郷土料理ならではの一品です。

 本来はお袋の味的な素朴さが魅力の一品。それを料理として上品で洗練された味、風味に仕上げたもの。そこんとこも、見逃せません。

 この「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、「赤坂璃宮」銀座店の、知る人ぞ知るメニューのひとつになること、間違いありません。

2009/03/30

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 さて、「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。「蝦醬」の味付け、風味もさることながら、主要な素材である「豆腐」と「焼肉」も要のひとつ。それに香味野菜の「韮」、味付けの「だし」の存在も見逃せない。

 まずは豆腐を一口。さっくり揚げた豆腐の表面に、煮汁が絡んで「じゅわ」の触感。
 滑らかな舌ざわり、柔らかな噛み応えです。
 中の豆腐は、純で無垢な味、そのまま。

 「美味しい、これ!この豆腐!」と声が上がります。
 「香りがいいねえ」
 「この豆腐って、ここで揚げたんでしょうね。豆腐の揚げ方も絶妙だし、「だし」が染みこんでいて美味しい!」なんて声も聞かれます。

 「「厚揚げ」にしては、表面の衣の感じ、全然違うもの。多分、この豆腐、ここで袁さんが揚げたんじゃないかな。普通、中国料理店のこういう料理だと、豆腐を揚げるだけど、「厚揚げ」を使うところもあるから。後で、確認しときます。

 そうそう「厚揚げ」でいいのがあるの。両国近くの石原町に「豆源郷」ってあってね、そこの「厚揚げ」。「湯葉」もいいんだ、繊細で精緻な味、それに風味がある」と、ついつい横道に話しがそれる私であります。

 後で、大藤さんに確認したら、袁さんが豆腐を揚げたもの。豆腐は「絹ごし」ってことでした。

 「豆腐」もいいけど、この肉も旨いね」
 「そ、そ、それ、スルど~い! これって、皮付きバラ肉を焼いた「焼肉」。表面カリカリで、脂身と肉の部分はしっとりな感じでしょ。

 実は私、この料理、結構やるんですけど「焼肉」が手に入らないから、豚ばら肉でやるんですが、なんだか今ひとつ、なんですよ。豚ばら肉じゃなくって、この「焼肉」じゃないと、旨さ、味わいが引き立たない。ほら、この「焼肉」の「かりかり」、「ざらざら」の表面に「だし」が絡んで、揚げた豆腐の触感とは対照的でしょ?それに脂身と肉が重なり合ったところも、普通に豚ばら肉を揚げて煮込むのと、「焼肉」のように窯で焼いて自分の脂で脂と肉を焼きながら、余分な脂を落としてジューシーに仕上がってのとでは、確実にひと味、違いますから」と、私。

 「それよりこの料理の味付け、ご飯がほしくなるおかず、ですね!」
 「そ、そ、ご飯がほしくなるおかず、ですね。香港、てか、広東地方ではそれで有名ですから。その要が「蝦醬」なんですよ」と、知ったかぶりの私です。

 「でも、クセがあって、香りというより匂いの強い「蝦醬」を使ってあるのに、強烈じゃないのが不思議だね。ほのかになんて感じで、旨味と風味があるし、コクのある味付けなのに、すっきりしてて上品だ!」
 「ほんと、上品で優しい味!」。

 実際、皆さん、「蝦醬」に火を通した独得の匂いは、さほど感じなかった様子。
 それでも、ひと味違う味、風味、しかも、こくがある、ってことには納得。
 「だから、やっはりご飯と一緒に食べたくなりますね。そんな味付けですもん」

 といった次第で「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、大いに盛り上がったのでありました。

2009/03/29

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 それから「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。 この料理、大好きな一品ですから、大感激。この料理をリクエストするつもりだっただけに、嬉しさもひとしお。














 この料理のことを知ったのは邱永漢さんの奥さんの邱藩苑蘭さんによる『母から娘に伝える 邱家の中国家庭料理』(暮らしの設計134号、中央公論社)でのこと。 ちなみに同著、邱永漢さんの「食」にまつわる随筆本のなかでも珠玉の作品「食は広州にあり」、「象牙の箸」で紹介されている料理の詳細や作り方を紹介した副読本的な内容です。

 この料理、広東地方の伝統的な料理のひとつ。大馬というのは広州の地名。「站」というのは「駅」という意味ですが、かつては宿場を意味していた言葉です。で、、曰くいわれがあります。

 大馬というのは広州の地名。清朝時代、広東、広西の総督となった張之洞が初めて広州を巡行した際、大馬の宿場に着いた所、漂う濃厚な海老の香りひき付けられた。その香りのもとを辿ったところ、地元の人々が食べていたのが煮込み鍋。

 張総督が「これは一体何か?」と尋ねたところ、地元の役人が場所を尋ねられたと勘違いし「「大馬站」でございます」と答えたそうな。以来、この料理、「大馬站」と呼ばれるようになった、とのこと。

 普通に料理を明記すれば「蝦醬焗豆腐火腩煲」、つまりは豆腐と豚の皮付き三枚肉の焼き物の「焼肉」の土鍋煮込み。なによりもの特徴は小えび(もしくはアミ)の醗酵味噌である「蝦醬」を味、風味づけの要にしていることです。

 もとより「蝦醬」は醗酵味噌ですから味も香りもくせがある。しかも、香り、というかその匂いは強烈。火を通せば香りは一層強くなり、旨味、風味を増す。それだけに、抵抗を覚える人も少なくない。

 以前、話したことがあるように、かつて京王プラザの南園で季節の素材に「通菜/空芯菜」があるのを知って「蝦醬」で味、風味づけをした「蝦醬通菜」を頼んだところ、香港からやってきた料理人が、料理してくれました。
 ところが、ある時を境に黒服の人(女史ではありません!)に「申しわけございません、その料理、お出しすることができませんので」と、丁重に断られました。

 「は!?」と私。
 「これまで、何回か食べましたけど、どうしてまた?」と尋ねたら
 「「蝦醬」の匂いが強いもので、他のお客さまのご迷惑になりますので・・・」。
 なんだか申しわけなさそうな様子。ですが、納得がいかない。

 話を聞くと、どうやら「蝦醬」の匂いにたまりかねて、クレームをつけた客がいた様子で、匂いの強い調味料の使用を控えるようになったらしい。
 「広東料理の店で、そりゃないでしょ!」
 とは言いませんでしたが、楽しみがそがれたのは確かです。
 以来、「南園」から足が遠のくきっかけにもなりました。

 ついでながらあの脇屋友詞さん、石鍋さんに迎えられて麻布の「クィーン・アリス」の地下に「桃源郷」を開いた際、「蝦醬」を使った料理を用意したところ、その強烈な匂いにクレームがつき、使用厳禁になった、なんて話しもありましたっけ。

 それに、わが変態、じゃなかった、兄弟(って、へんたいってよむんです、広東語では)の周中と話をしていた際、目黒にある白金亭の料理に「広東地方の家郷菜、たとえば「「大馬站」なんか織り込んだら?」と進言したところ

「え?! 良いけど、あれ、「蝦醬」を使うし、日本の人に受けるかな?「凱悦軒」の頃、「蝦醬」使った料理を出したら、クセがありすぎて、受けなかったから」
 というエピソードを明かしてくれたこともありましったっけ。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 それからもう一品、海鮮料理が登場。マテ貝を素材にした「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」です。
 マテ貝も今が旬。潮干狩りで砂浜に穴が開いていたり、ざっと砂をかき寄せてみて穴がみつかれば、それはマテ貝の棲み処。塩をふりかけると吸い口を突き出した細長い殻がぬっと姿を現す。そうやってマテ貝を採ったなんて方もいらっしゃるでしょう。

 マテ貝の乳白色の身は、貝にしてはくせがない。細長い体型そのまま、のっぺら棒なて感じです。そういえば乳白色の色合い、牡蠣に似てもなくない。なんてことからすると、ふっくりぷっくらでぼてっとした牡蠣がまるでやせ細った感じです。その分、身が締まっていて、噛み締めると「こり」っとした触感で、磯の香りが浮かび上がる。そのあたり、やはり貝の味、風味。それに、ほのかな 甘味があります。

 乳白色の色合いそのまま、くせがなくって純な味のマテ貝は、色んな調理、味付けに向いています。つまりは調理、味付けてに馴染みやすい。ということは、調理、味付けが過ぎると、純な味をそこねかねない。つまりは、味付けの加減が難しい。

 袁さんが調理したこの「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」。醗酵黒豆味噌の「豆豉」は、粒がほぼそのまま。それに、葱や香菜、生唐辛子、赤と青のピーマンなどの香味野菜の細かな微塵切りが入り混じってカラフル。照りがあるのは、ほんのりとろみ付けがほどこしあるからです。その下には戻した春雨。 頬ばるとマテ貝は「こり」、「ぱり」っとした触感。クセがないものの、やはり、貝の味、磯の香り、甘味、マテ貝の純な味がします。それに「豆豉」や微塵の香味野菜、唐辛子が一体となって織り成す味は、ぴり辛で、爽快。

「豆豉」のひねたこくのある味が生み出す旨味。生唐辛子の爽快な辛味。さらには様々な調味料と香味野菜がおりなす複雑な一体味が、マテ貝の味、風味、持ち味を引き立ててます。素材の持ち味を生かした調理、味付け、調味料の加減、按配がいいなあ。

 とろみ付けの加減もいい。でも、このとろみつけ、日本だと大抵の場合、香港と違ってじゃがいもの澱粉ってことになる。もしそうだとしたら、つまり、じゃがいもの澱粉を使っているとしたら、控え目、薄目にした澱粉の使い方、いい感じです。

 マテ貝の下の春雨。これがマテ貝から滲み出た磯の味、それに、香味野菜や調味料が織り成す一体味をしっかり吸い込んで、旨い。それも、この春雨、春雨って普通は緑豆の澱粉で出来たものですが、そうとは思えないぐらい太い。乾燥したものを戻してあるんですが、ねっとり感を含んだ噛み応え、弾力がある。

 思い出したのは、韓国の「チャプチェ」に使われるじゃがいもの澱粉から作る春雨。でも、じゃがいもではなさそうだ。じゃがいもの澱粉で作った春雨よりも細い。が、香港でふつーに食べる春雨に比べれば、太めの感じ。それでいて、戻しすぎというわけでもなく、ぷり感、ねっとり感がある。戻しすぎの春雨にありがちなぶよ感もなし。旨い。だしを吸った春雨が旨い。その太さ、歯触り、触感が良い。不思議に思って、後で大藤さんにメールして、袁さんに尋ねてもらいました。

 そして知った春雨の実態は、中国「青島産緑豆100%」の「龍口粉絲」ってことでした。 そうだったのか。緑豆なんですね。で、フツーの(緑豆の)春雨とは違う感じ。というこおとは、戻し方、調理、味付けに工夫あり、ってことじゃないですか!

 それに、複雑な一体味、風味を生んだ調味料、香味野菜の類は「豆豉、葱花、生辣椒、芫茜、青・紅椒、陳皮、胡椒粉、豆板醤、豆豉、老抽、蠔油、沙糖、生粉、麻油」ってことでした。調味料や香味野菜、思いのほか色々と使わていますが、しっかりひとつの味、「一体味」にまとめあげられています。

 調味料、香味野菜のそれぞれの分量、使い方の按配が、ぴったし、ばっちり、ってことですね。しかも、毎度の話になりますが、調味料、香味野菜の使い方、その組み合わせ、行き過ぎるてことがなくて、ぎりぎりの一歩手前で止め。料理人の腕、技、なによりもセンスのよさを物語る。

 そんな調味料、香味野菜の中に「陳皮」が使われてるのを見逃せない。袁さん、広州に隣接する広東省南西部の出身、もしくは、その種の料理で育ってきたからでしょうか。今度、逢ったら確かめてみようと思います。

2009/03/27

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「湯(スープ)」は「老火豬肚湯/豚の胃袋と銀杏、湯葉のスープ」。「老火豬肚湯」は料理名で言えば「腐竹白果猪肚」。豚の胃、ってことは「がつ」ですね。それと「白果(銀杏)」、「腐竹(干し湯葉)」、それに「薏米(はと麦)」を加えて長時間に炊き込んだスープです。

 この種の「老火湯」、いつもながらの表現ですが、素材の持ち味が生かされた自然で素朴な味わい。すっきりとしていて、優しく、穏やかで、心和みます。そうです、胃に、体に優しいスープです。

 香港では店でも用意されてますが、家庭でも作ります。事前に予約が必要ですが、こんな「湯」にありつける、であえるのが嬉しい。

「ね、エージさん、これ、このだしなんだけど、豚の胃袋だけでこんなにふくよかな味がでるものなの?鶏だしなんか入ってるのかな?」

「う~ん、鶏だしだと、旨味がたくさん出るけど、鶏だし独得の味、香りがするから。これって、そんな感じじゃないよね。鶏だしって、案外クセがあるでしょ。部位によって味も風味も違うから。

 ほら、皮付きの腿肉なんかだと、脂肪分があるし、手羽元とか手羽先だとコラーゲンたっぷり、ゼラチン質が多いから。だから、クセのない鶏だしをとるには「ささみ」が格好なんで、我家ではそうしてんだけど。その感じもしないしね」、と私。

 「この旨味からすると鶏じゃなくって、豚の赤身肉じゃないかな。実は豚の赤身肉って、意外にクセがなくて、美味しいだしがとれるんだよ。でも、ね、知ったかぶりじゃまずいから、料理長の袁さんに聞いてもらいましょ」と、さらに私。

 アテンドの柏木さん確かめてもらったところ、「豚の赤身肉を使ってるそうです」とのことでした。

 豚の内臓を使ったこの種のスープでは、豚の肺を使った「杏仁豬肺湯」があります。香港の陸羽茶室の名物料理のひとつで、去年の春、福臨門の「青木宴」でそれを再現。ほかに、雌豚の輪卵管を使った「鹹菜粉腸湯」があります。九龍城市の城南道にある潮州料理の店「創發」の名物料理。

 なんてことなら、袁さんに「杏仁豬肺湯」や「鹹菜粉腸湯」、作るのに手間隙かかりますがリクエストしたらやったもらえるかも。それに豚の胃の食道と十二指腸の付け根の部分の「肚尖」を使った料理も。
 もっとも、難しいのは内蔵の確保。「良い状態の内蔵類、入手するのが難しくてね。今回もたまたま良い素材が手に入れられたんで」と、譚さん。

 大阪の安土町にある「一碗水」の南さんの話によれば、大阪では牛、豚の内蔵類、それも新鮮なのが簡単にゲット出来るとのこと。東京と大阪では内蔵類の需要と供給、それに流通事情、異なるようで。

 それなら、なんとかルートを探し出して、素材をゲット。そのうち、袁さんにやったもらうことにしよう、なんて、わがままオヤジは秘策をねるのでありました。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 そして「湯(スープ)」。かと思いきや、先に「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」が登場。 先月は「しゃこ」と揚げた「琵琶豆腐」という組み合わせでしたが、今月は、「穴子」に、春らしく「筍」の揚げ物が添えてある。それも、香味野菜の微塵を揚げたチップスをまぶした「避風塘」スタイル。

 先月の「しゃこ」はお寿司屋さんに持ち込んで下拵え、なんて凝ったものでしたが、今回の「穴子」も同様に、下拵え工夫を凝らした、なんてことでした。ちなみ「穴子」は長崎産。吟味して選んだものだそうです。

 そんな「穴子」、衣のついた表面が「さくさく」の揚げ加減。歯ざわりがなんとも心地よい。しかも、表面はしっかり揚がってるのに、その中身、アナゴですけど、根魚独得の緻密なあの「しゅわしゅわ」の肉質、それに火を通した結果の程ほどの「ねっとり」感があります。噛み締めると「さくさく」、次いで「じゅわじゅわ」、さらにジューシー!しかも、根魚独得の臭みを感じさせません。絶妙です。

 こんな揚げ方、中国料理の手法のひとつ。とくに、ふわっとした衣をつけて揚げる「酥炸」は、中華風フリッターなんてことで知られてます。
 でも、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」、衣は薄め、フリッターのように膨らんでいなくて、「さくさく」の「酥」よりも、どちらかといえば「ぱりぱり」、「かりかり」の「脆」の感じ。

 中国料理では代表的な調理方法。鶏の唐揚げなんてそうですよね。それに、関西などに行けばいまだに人気の「豚肉の唐揚げ」なんかもそう。
 ちなみに、「豚肉の唐揚げ」。関西では豚のてんぷら、なんて言ったりもしますが、てんぷら屋ではなく中華料理屋でしか食べられない定番の料理のひとつ。私が知らない、気づかなかっただけなのか、東京ではみかけたことがありません。

 豚の唐揚げって、おそらくは「椒鹽排骨」のバリエーション。かつてはスペアリブがそんなに流通していなかったことから、豚肉でそれを代用したんじゃないでしょうか。最後にぱん粉を絡めて揚げる「とんかつ」とは違って、分厚い肉じゃなくってごく普通の豚肉の薄切りに衣をつけて揚げただけのもの。

 ところが、日本の中国料理店でおめにかかる鶏の唐揚げにしろ、豚の唐揚げにしろ、しっかり揚がって表面は「ぱり」あるいは「さく」ですが、中の素材もしっかり火が通り過ぎて、肉がパサついている、なんてことがほとんど。ですから、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」には、揚げ方の按配、火の扱い、それが生み出す香りのよさ、素晴らしさに驚いたわけです。

 しかも、先月の「しゃこ」と比べれば、表面の衣の「さく」加減、同じなのに、噛み締めた時の素材の触感、「しゃこ」にはむちっとした弾力、「穴子」はしゅわっとソフトでねっとり感も。どちらかといえば「しゃこ」よりも「穴子」に軍配、かな。


 そういえば、一緒に出た筍の揚げ物。これは「ぽりはり」の弾力のある歯ざわりが快感。ってことでは「穴子」、それに、先月「しゃこ」と一緒だった「琵琶豆腐」の揚げ物の触感とは対照的。もちろん、味、風味もです。

 それよりも、この「椒鹽白鱔球/穴子のスパイス揚げ」は、新鮮な海鮮素材による贅沢な一品。香港あたりの日頃の食事でも、惣菜的な料理にこうした一品を加えるなんて、よくあること。食事が盛り上がります。

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の1

  「赤坂璃宮」銀座店の月例報告、今月は月越えせずにすみました。
 そのタイトル、本来なら季節にちなんだタイトルを考えますが、今月は冬から春への端境期。なんてしようかと思うよりも、今月のメニューにいつも以上に嬉しくなる好物がいくつかあって、思わずタイトルにした次第です。

 幕開けは定番「璃宮前菜盆/前菜の盛り合わせ」。

 「焼鴨(家鴨の焼き物)」、「焼肉(皮付き豚バラ肉の焼き物)」、「叉焼」の焼き物三種は絶好調。いつもなら4品並ぶはずが3品。その左横に初めての「腐皮巻」。人参、アスパラガスの湯葉巻きです。さらに、その上には春らしい3品。

 左から、まず「菜の花」の煮浸し。ほろ苦さ、青さ、その味、風味がなんとも春らしい。真ん中はつぶ貝の湯引き。これも春を感じるはしりの味ってとこでしょうか。

 それから右端、何だと思います?

 なんと、ミニトマトを「杏露酒」で漬けたもの。爽やかなトマトの酸味に「杏露酒」の味、風味が加わってよりフルーティーな甘味を感じます。 フレンチのアミューズの趣。

 なかなか、どころか、お洒落な趣向に、思わずニヤリ。

2009/03/25

久々に「彩雲瑞」の3

 そして「柱侯燜豬頬」。豬の頬肉の煮込み。それも柱侯醤の味付け、ってのがニクい。
 しかも「枝竹」、干し湯葉を添えてあるってのがこれまたニクい。なんて間違ってたりして!(笑)。

 ホロホロの感じの煮込んだ肉が旨い。もっとも、だしがちょいと弱い。けど、ぎりぎりのところで踏ん張ってるのと、味付け、調味の加減が実に慎重。もっと、大胆にメリハリつけていいんだよ、千脇君。なんてこれまた余計なお節介ですけど、その姿勢が頼もしい。嬉しくなっちゃいます。なんせ、ガキの頃から知ってますから、応援したくなるのも当然でしょう。

 意表をつかれたのが「紅棗牛百頁湯」。牛のセンマイと棗の湯煎蒸しのスープ。
こんなのもあるんだと嬉しくなっちゃいました。  そしてご飯は「彩雲瑞」の名物のひとつともいえる中華風の「菜飯」。
 上海、それに香港の昔ながらの上海料理の店では定番のもの。漬物を具に炊き込んだご飯。素朴な味、風味で、しかも、これ見よがしじゃない味の加減の良さが嬉しい。ついついお代わりをしたくなります。  う~ん「菜飯」のお代わりもいいけど、もうひと品食べたい。

「ね、なんか面料理ないかな。あっさり、さっぱりで、シンプルなのがいいんだけど」。なんてわがままオヤジのおまかせリクエストに、千脇君「わかりました!」。

 そして登場したのが「腐乳撈面」。

汁なし、腐乳で和えた面料理。私、初体験。 「え!?、こんなのあり?」なんて、ちょっと驚きました。  我家で作る最もシンプルな和え面は、葱と生姜の「姜葱撈面」。香港の粥麵店のように茹でた面に葱と生姜の細切りをのっけて、胡麻油を少々かけて和え、さらにオイスター・ソースで味をつけて、混ぜ合わせて食べるだけ、なんて代物です。

 時間の余裕があれば、葱と生姜の細切りをピーナッツ・オイルで炒め、「だし」、それも、鶏のささみや手羽元で取ったものじゃなく、昆布とかつお節でひいただしが残ってれば放り込み、オイスター・ソースで味付け。そこに茹でた面を加える。面を煮浸しにするってやり方です。

 そういえば、香港の鏞記の甘健成さん。修行時代、食事にありつけるわずかな時間、空き腹を満たしたのが、ローストした鵞鳥の油、ことに腿の付け根を切り落としたときに零れ落ちる油を茹でた面にかけて食べたそうで。そんな甘健成にとって懐かしい味を鏞記の顧客に提供したところ、「王子面」として評判となり、裏メニューとして定着、なんて話しもありましたっけ。

 そんなことからすれば、同じ発想で「腐乳」だけでなく「XO醤」を使ったり、揚げた「咸魚」で和えるなんての出来そうだ。 で、実食しての感想は、ちょいと「腐乳」の量が多かったかな、というのがその印象。「辣油」か、潮州式の「辣椒油」があれば、味、風味を増すような感じ。

 もっとも、日本では「腐乳」にしろ、「咸魚」にしろ「XO醤」にしろ、クセのある調味料や香味素材は、ちょっと加減多めにしてその存在をアピール! なんて方が「通」っぽくてウケる!なんててことからすると、この「腐乳撈面」、好事家の評判を呼びそうだ。

 そして、締めくくり甜品は「紅米湯圓」。素朴でほのぼのとした味、風味。大陸、本土風のデザートでした。やるじゃない、千脇君。
 千脇君、頑張ってます。おかみさんも頑張ってます!

2009/03/23

久々に「彩雲瑞」の2

 それから「一品海参蒸蛋」。戻した干しなまこにすり身を餡にした具入りの中華風仕立ての茶碗蒸しです。淡いその色彩は、さながら春は朧、春霞といった趣。

 冬きたりなば春遠からじ。ところが、冬の寒さが逆戻りした今年の2月。春の訪れを待ちわびる気持をそのまま映し出したような心温まる一品。
 「わ!すごいじゃない、千脇君!やりますね」と、すぐさまエールを送りました。  つるん、とろんの舌を撫でるきめ細かで滑らかな触感、優しくて穏やかな味わいがいいです。
 具の干しなまこのぷるぷるの触感、餡のすり身のぷりぷり感の対比も絶妙です。

 干しなまこって、それ自体に味はなし、とはいうもののどこか磯の味を感じるもの。「老抽」あるいは「蠔油」で色合いをつけたり、上海系の料理だど「葱油」や「鶏油」を隠し味として忍ばせ、いくらか濃い目の味付けで、というのが一般的。

 ですが、戻した干しなまこの風味を生かし、えびのすり身の味付けも控え目にして、茶碗蒸しの具に、なんてところ意欲満々。欲をいえば、だしの味、香り、もう少し強めのほうがなんて思いましたが、ともあれ「やったね、千脇君」の一品でありました。

 次いで「韮黄蟹拑」、蟹の爪、黄韮、それにエリンギ、わけぎなどの炒めもの。  これは可もなく不可もなくの一品。「蟹の爪」の贅沢感が嬉しいですが、下味の付けから、衣つけ、揚げ方がいまひとつで、素材を生かしきれてないのが課題。それに具材のすべてを炒め合わせた時の「鑊気」、鍋の気力がいまひとつで、香りに乏しい、なんていうのが課題かも。なんてまた、オヤジの余計なお節介ですね。

 それから「髪菜蠔豉」。牡蠣、髪菜、筍、大根、人参、銀杏などの炒め煮込み。甘味の利いた味付けで、さっぱり控え目な味付けなどからすると広東料理仕立て。  冬場らしい一品で、広東地方の正月料理に出てきそう。
 そうです、2月の「赤坂璃宮」銀座店で紹介した「盆菜」に通じる一品で、ほのぼのとした温もりを覚えるもの。

 惜しいのは大根、人参の素材の生かし方、味の煮含め。ことに大根、この手の料理では「だし」を生かした味つけがどんぐらい煮含められているか、それに、人参はその甘さをどうやって生かすか、なんてのがテーマのはず。ということでは、ちょいと「だし」が弱いのと、味付けのめりはり、もう少しあったほうがいいかも。

 ですが、「一品海参蒸蛋」、「韮黄蠔豉」に続いてこの「髪菜蠔豉」という流れ、調理方法、味付けを考えたコースの組み立てが面白い。それも千脇君が薫陶を受けた「竹爐山房」の山本豊さんは中国本土の北方「魯菜」や中部の江南、「淮揚」の料理がお得意。なんてことからすると、千脇君、広東料理や他の地方料理にも関心を持って、その幅、広げたんだ!なんてことがよくわかりました。

2009/03/22

久々に「彩雲瑞」の1

 仕事仲間で編集者のNさん。韓国語がバリバリで韓国事情通。アジア通でもあって、文化事情、食事情にも明るい。もっとも、奥床しい人柄ですから、日頃、Nさんに接している人でも、そうした一面をご存知ない、なんて方も多いんじゃないでしょうか。

 そんなNさん、食べ歩きが趣味だってことをふとしたことから知りました。「どういう店に?」と尋ねて驚いたのは、アジア関係の料理店事情に明るく、その種の最新情報に詳しい事情通が知る話題の店だったからです。青山のあの店、銀座のどこそこなんて具合にその行動範囲も広い。 そして、最近お気に入りの店って教えられたのが経堂の「彩雲瑞」。

 「家の近所なんで、休日やたまに平日にランチを食べに行ってるんです、美味しくて、楽しみだから」
 「え!そうなんだ。あの店、「彩雲瑞」ね、昔からの知り合いの料理人がやってる店、なんですよ。千脇君ってね、ほら吉祥寺の「竹爐山房」の山本豊さんのところで修行した人。

  店に入ったのが15歳だったか、そん時からの知り合い。で、「竹爐山房」の後は四川料理の店で修業して、それから経堂に自分の店を持ったわけです」
 「でも、私、ランチばっかりで。なら、今度の打ち合わせ、夜に「彩雲瑞」でやりましょう!」。
 なんてことから「彩雲瑞」へ。
 2月のある夜のことでした。
「おまかせのコース」ってことでまずは前菜として 「豆豉蕗冬菜(蕗の葉の豆豉和え)」、 「燻蛋巻(すり身巻き卵の燻り焼き)」、 「咸魚薇菜(ぜんまいの塩漬け醗酵魚和え)」が。
 













それから 「辣香葱(分葱の辛味和え)」、 「湯浸蕗冬菜(蕗の湯引き)」、 「XO醤蕨菜(蕨のXO醤和え)」が3種ひと皿盛りで登場。

 













 中でも「湯浸蕗冬菜(蕗の湯引き)」が、青くてほろ苦い初春の味、鼻筋に抜けていく香りがいっぱいで旨かった。
 それに「咸魚薇菜(ぜんまいの塩漬け醗酵魚和え)」、「XO醤蕨菜(蕨のXO醤和え)」、ともにメリハリの利いた味付け。

 私にはちょいと濃い目に思えましたが、千脇君ならではの若くて溌剌とした味付け。酒飲みにはぴったりなおつまみだし、いきなりガツンの味が好みのイマドキ、近頃の若い人には受けそうだ。

  続いてもう一品、「辣爆蜂窩肚」も登場。「蜂の巣」を辛味の味付けで煮込んだもの。これがいかしてました。味付けはしっかり濃厚。蜂の巣をさっぱり風味で、という料理もありますが、クセのある素材だけに揚げて下拵えしたのなら味付けは濃厚なのに限ります。
 味が染み込んだ表面は「ざら」っとしていて「じゅわ」と味が滲み出る。噛み締めると弾力のある歯応え。「ハチノス」ならではのもんです。で、濃くてメリハリの利いた味付け、それも爽快な辛味が「後引き」で、すぐさま箸がのびます。

  ついでに言っちゃえば、味付けの香辛料の組み合わせ、その分量や按配、もう一味足して、強めにする。そうすれば、味わい、風味がより複雑に入り組んで、後味、辛味だけじゃなくって風味のインパクト、より増幅されるんじゃないかな。なんて、オヤジの余計なお節介ですね。 

 千脇君、頑張って!

2009/03/16

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店のおまけ

 そしてデザート。今回は「本日自選甜品/本日のデザートからお選びください」って、 あれ?これまでにもメニューにありましたが、この中国語料理名、なんだか変な感じなんだけど、大藤さん・・・。
 なんて思ってる前に一品、譚さんからスペシャル・プレゼント。それがなんと「奶黄包」、卵の黄身餡入りの蒸し饅頭です。

 ちなみに「元宵節」には「元宵」、つまりは「湯圓」を食べる風習があります。家族の団欒と幸福を象徴するもので、元宵節には欠かせない。「湯圓」というは餡入りの団子のこと。それにちなんで広東風味ってことで黄身餡の蒸し饅頭、ってことなんですね。

 熱々の蒸し饅頭ですから、いきなりかぶりついたりすると中から熱々の餡が飛び出して舌を火傷、なんて経験、これまで何度もありますから、用心用心。頃合を見計らってから割ってみたら、餡の定、黄色い餡がたっぷり。濃密でねっとり、こってりの旨さ。甘味たっぷり。なのに、決してくどくなんかない。広東式の甜点心の美味を堪能したのでありました。

2009/03/14

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの麵、飯。今回は「合時臘味飯/干し肉と腸詰め入り土鍋ご飯」。
 そうです「腊味煲仔飯」です。

 秋の終わり、秋の実り、その収穫を終えた後は、長い冬に向けて、家禽類、ことに家鴨、それから家畜の場合には主に豚肉をつぶし、その部位のすべてを隈なく使い、加工処理して備蓄します。塩蔵、風乾、燻製なんてのがその加工処理の基本。なんてところはフランス、イタリアはじめ欧州の国々、つまりは、肉食主体の国々、地域では、共通した事柄です。

日本で腸詰といえば豚肉の腸詰を干したもの、台湾料理の店で供されるのが知られているんじゃないでしょうか。薄切りにして、タレで食べる、ってやつですね。

 ですが、腸詰、豚肉だけを素材にしたものだけに限らない。豚の血を混ぜたもの、豚肉の内蔵入りのものがあります。それに、豚の三枚肉、あばらのところを塩蔵したり、風干しにしたり、燻製にした「臘肉」がある。それに、家鴨の肝臓など内蔵類を素材に、家鴨の血を混ぜて作った「潤腸」などがあります。

 今回の「合時臘味飯/干し肉と腸詰め入り土鍋ご飯」、腸詰は豚肉の腸詰の「臘腸」と、家鴨の内臓、血で出来た「潤腸」の2種。それに豚の三枚肉を風乾させた「干肉」の3種によるもの。

 「腸詰」、「干し肉」は、別皿盛りにして登場。炊いたご飯をお碗によそい、具をのせ、油、たまり醤油の「老抽」で作ったタレを好みでかけて食べるという按配。
 
 旨いです。中でも豚の三枚肉の干し肉の肉質、味、香り、風味が抜群に素晴らしかった。甘味、こくがあって、柔らかい干し肉を食べているような触感で、肉の旨味、風味が生きている。その味わいは実に濃密。蜂蜜をかければ、さらに旨味、風味を増す感じ。
 炊き込みご飯をたっぷり味わったあとは、鍋にこびりついた焦げに「だし」を加え、焦げが柔らかくなる感じに炊いた「お焦げの雑炊風仕立て」というのがあります。タレで味をつけたもので、これがなかなかに旨い。焦げとタレの味、風味があいまって、舌だけでなく喉元から鼻筋を刺激。

 「エ!? ご飯を食べたばかりだし、もう、お腹は一杯!もう、食べられません!」と、皆さん。
「ま、それはわかりますが、とりあえず一口!」と私。 皆さん、最初はいまひとつ乗り切れない様子。ですが、オヤジ(あ、私)の強引な押しに逆らえず、なんだか否応なしに口に運んで、とりあえずはひと口。
 一瞬、皆さんの目の色が変わったのを見逃しませんでした!

 「だし」の旨さもさることながら、「お焦げ」と「たれ」が醸し出す味、香り、風味が、「後引き!」なもんで、一口のはずが、二口、三口。 あっという間、全員がひと碗、平らげちゃいました!

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 いけない。また間があいちゃいました。申しわけありません。 いや、連日、でもないですけど、ここんとこコンサート通いの日々が続いております。
 本日、朝日新聞の夕刊での拙評ご覧になって、目が点、口あんぐり、なんて方がいらっしゃるかも。 そうです、本日掲載されたステージ評、なんと安室奈美恵!! オヤジがアムロかよ!なんて、言われそうだ!

 そうそう、言っときますが「アムロ!」なんていうのは、小室哲哉プロデュースでヒット曲連発、「アムラー」が生まれた昔の話。それが、出来ちゃった結婚して、子供が産まれ、かと思ったら離婚して、シングルマザーに。若い年少のファン、支持者を得て彼女たちにとって憧れの存在、憧れの女性となった今、「アムロ!」じゃなくって「奈美恵さ~ん」なんて声援が、コンサートの会場のそこかしこから聞こえますから。

 それに、今夜は今夜でスゲエ!なんて歌、聞いちゃいました。大物歌手によるあの「愛のままで」のカバー・バージョンなんですが、これが、身震いするぐらい素晴らしかった。なんて話しはそのうちに!

 話、戻って、2月の「赤坂璃宮」銀座店。6品目に登場したのが「上湯芥菜胆/蕾菜の上湯スープ仕立て」。 「ン!? 中国語の料理名には「芥菜胆」、ってことは「芥子菜の軸」のはずなのに、なんで日本語の表記「蕾菜」なの?」

 「ええ、あの「芥菜胆」ではなくて「蕾菜」といいまして、いい素材、おもしろい素材が入りましたので、やってみたんですが」と、大藤さん。

 その「蕾菜」。初体験なもんで、帰宅して早速、ネットで検索。なんでも福岡県の農業総合試験場が開発した新しい野菜。アブラナ科の一種だそうで、蕾を収穫したものってことです。みかけは「芽キャベツ」。ですが、少しばかりの葉で覆いつくされていて、芯の部分が大きい。で、食べると、「芽キャベツ」のような、青さ、甘さよりも、アブラナ科特有の辛味がある。

 そうか、それで「芥菜胆」と表記したわけか。ところ
が、食べてみると火が通って「じゅわ」と柔らかい葉。それに芯はさくっとした歯ざわりで、辛味だけでなくほろ苦さがある。まさしく春の味、風味です。青さのある独得の香りも面白い。

 そんな「蕾菜」を「上湯浸」、つまりは「上湯(極上だし)」で煮浸し風にしたもの。さらに、芡汁、というかとろみがついてます。口にすればとろっとした滑らかな舌ざわりがするのは、とろみがついてるから。
 そして、噛み締めれば、ほのかな辛味。それからほろ苦さ。それとだしの味が見事にマッチング。しかも、塩味、袁さんの料理しては珍しいぐらいしっかり利いている。といって、濃すぎるわけでもなし。塩味のメリハリ、輪郭が明解、なんて感じです。

 それに、金華ハムの極上の部分「雲腿」の細切りが、ふんだんに使われてます。「金華火腿」の細切りの色合い、味、風味が効果的に使われてる。「金華火腿」を使ってます!、というこれ見よがしな主張、お飾りじゃなくって、細切りながらも、しっかりその存在、味、風味を主張。それに「だし」の味、さらには「蕾菜」自体の辛味、ほろ苦さとががあいまって、極上の美味を生み出す。上品で洗練されています。
 「蕾菜」って、結構いけますね。みかけ、それに、最初口にした時には「芽きゃべつ」みたいなのに、口にすれば、味、風味、香りが違う。初対面だった「蕾菜」は実にグッド。 いや、正直にいえば、辛味、ほろ苦さはあっても、青臭さ以外、香り、というか風味が今ひとつ。言ってみれば、温室育ちで、やわな感じ。強い主張がなくって、よく言えば奥床しくて上品。

 そんな素材の持ち味、ことに辛味とほろ苦さを見極め、袁さん、だしを効果的に使う。いつもよりも塩味を加味して、味の輪郭を際立て、めりはりをつける。しかも「金華火腿」の味、風味、ことに塩味の加減、塩梅や、醗酵味に由来する旨味、風味を生かす。

 「上湯芥菜胆/蕾菜の上湯スープ仕立て」は、上品でしっかりした味、風味の野菜料理でした。

2009/03/09

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の4

そして「鮮文蛤水蛋/はまぐり入り中国風茶碗蒸し」。これは私のリクエスト。
 この時期、貝類が旨くなっていく。三月三日の「桃の節句」には、ちらし寿司にはまぐりのお吸い物、というのは長年の慣わしだったりしますから。
 もっとも、我家のちらし寿司、すし飯の上に江戸前仕込みのこはだやえびなど各種の具をずらり並べ、でんぶなどを添えたものとは違います。干し椎茸や干瓢、それにはすなどの根菜、野菜を主体にした精進したてのも。錦糸玉子は必須ですが、それ以外、海鮮ネタ、それにでんぶなども入れません。
 で、貝の話。旨くなる貝を使った料理のひとつに「蛤蜊蒸蛋」があります。家庭でも作られますが、簡単なようでいて、案外、蒸し加減が難しい。そんなことから、料理店でみつけたら注文、なんて感じです。香港では上海料理店で見かけることが多い。広東料理店でもやってもらえますが、メニューで見かけることは少ない。
 袁さんならきっと作ってもらえるに違いない。ということで、大藤さんを通じてリクエスト。それには、昨年、香港の広東料理店の「小菜」の定番的なメニューの「蒸水蛋」、それも、「皮蛋」、塩漬け卵の「鹹蛋」に鶏卵の三種の卵を使って作り中国風の茶碗蒸ししたて「三色蒸水蛋」をリクエストして、大成功!その美味を堪能した前例もあってのこと。
 もっとも、「蛤蜊蒸蛋」の素材の「蛤」。ここ最近、市場で流通しているのは韓国産、もしくは、中国産のそれ。極上の日本産の蛤となると値段は目の玉が飛び出るほど高価。なんてことなら「浅蜊」でもいけるんじゃないか?なんて思い立った次第。もっとも、その「浅蜊」にしても、ここ最近は中国産がなんだか一般的、だったりするのですが。

 それに香港の「蛤蜊蒸蛋」に使われる「蛤蜊」。英語のメニューの表記に「Clam」ってあるように「蛤」の一種ですが、実は「蛤」、その種類は豊富。それに、香港で「蛤蜊」として一般的なのは小ぶりの「蛤」。日本の「浅蜊」をすこしばかり大きめにしたほど。それに、日本のはまぐりほどの大きさのものは「蛤蜊」ってよりも「貴妃蚌」と表記されてることが多い。そのあたりの詳しい事情については現在調査中。
 ともあれ「蛤」もさることながら「浅蜊」も旨いし、火を通せば結構なだしが出る。それに、極上の産地物もあって「蛤」ほどではないにしても、値段もそれなりです。なら「浅蜊」で試してもらうのも一計かも、なんてことから「浅蜊」を使った「蛤蜊蒸水蛋」をリクエスト。
 それが、後で袁さんから聞いた話によれば、譚さんに素材について相談したところ「「蛤」でやれば!」という譚さんの一声で「浅蜊」は却下。「蛤」を素材にした中国風茶碗蒸し仕立て、ということで「鮮文蛤水蛋」となった次第、とのことでした。
 「鮮文蛤水蛋」。蒸した卵のとろんととろける滑らかな舌触り。そして「蛤」に火を通せば滲み出るだしの旨味、馥郁とした香リ、風味がじんわりと浮かび上がる。「蛤」から出るだしの味を巧みに生かした料理です。しかも、塩加減、その塩梅が絶妙。
 いきなりガツン、がっつりじゃなくって、口に運び、味わうごとにその旨さ、風味が口中に広がり、鼻腔をくすぐり、その味わい、風味が徐々に姿を現しはじめる。淡い味わいが次第に大きくふくらんでいく。ほのぼのとしていて、心が和む一品です。
 「蛤」を蒸した中国仕立て、中国料理風味の茶碗蒸し、リクエストしてよかったと思いました。

2009/03/05

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「圍村大盆菜/新年を祝う大盆菜」。これぞ新年、春節の行事の締めくくり「元宵節」を祝う香港ならではの料理です。
 料理名に「圍村」とあるように、九龍半島の北、新界の農村地区に散在する塀に囲まれた独自の生活様式を持つ村落に昔から伝わる伝統料理で、新年や慶事の際に用意されるハレの日の御馳走。

 「盆菜」についてはネットで検索すれば明らかですが、広く知られているのは南宗時代に帝が都を追われ、辿り着いたのが新界のあたり。同地の住民が帝へのもてなしとして供したのが「盆菜」のそもそもの発端だ、という話。

  私が「盆菜」を知ったのは客家料理店でのことでした。随分昔の話です。 実は、新界の農村地区の村落の生活様式は客家のそれに類似したものがあります。 「圍村」、つまりは塀に囲まれた村落の生活様式などその最たるもの。

 資料をあたれば明らかなように、もともとの「盆菜」は豚肉に家鴨、鶏などの家禽類による肉料理、干椎茸などの乾物に野菜料理が主体。その料理方法、味付けは、地元広東地方よりも、北方の煮込み物に似て、濃い目の味付け。なんてところは客家料理に似ています。

 後年、新界周辺の沿岸地域で水揚げされる魚介類、さらには、広東料理の豪華宴会では欠かせない干し鮑、干しなまこ、干した魚の浮き袋や干し貝柱などの「干貨」などが加えられうようになったもの。
 最初は木桶、それが銀や錫の大きな器を何層にも重ねて供する、というのがその特徴。重箱におせちを詰める日本の正月料理さながらです。

 「盆菜」を作る際には村人が共同で何日もかけて下拵えや調理にあたり、腕を振るうといのが恒例のこと、素材、内容など、基本的には似通っているものの、それぞれの村落ごとに味付けや調理に独自の工夫がある、なんてことです。

 今でも昔ながらのやり方に倣い、村人が共同で作る村などもある一方、近年にはそれを料理店に依頼。結果「盆菜」を看板にし、仕出し、あるいは店で提供する専門の料理店が新界、ことに元朗にいくつかあります。残念ながら、私は未体験。香港の街中では客家料理の店が供するぐらいでした、

 それが、ここ最近、広東地方独得の伝統的な料理、昔懐かしい「懷舊菜」が脚光を浴びるようになったのと前後して、街中の広東料理店が「盆菜」に目をつけ、特に新年の祝宴の看板料理として売り出し始め、以来、ちょっとしたブームになり、話題を呼んできました。

 そんな「盆菜」に「赤坂璃宮」銀座店で出会えるとは思いもよりませんでした。
 で、今回の「盆菜」、コースの中の一品ですから、その簡略版。とはいっても、近頃流行、ブームになってる街中の広東料理店の「盆菜」さながら、中国料理の素材でも最も高価な「干貨」を主体にした豪華絢爛な「簡略版」。

  正直な話「盆菜」を目の前にして、生唾をゴクン。同時に、その素材、内容を見て「エッ!!どうしよう、こんなにすごい内容で!!!」と、焦りました。ビビリました。

 まずは、干しなまこの「海参」。その大きさ、形からすると「婆参」の様子。それに魚の浮き袋の「魚肚/花膠」。う~ん、形状と厚みとからすると「ボラ」の浮き袋かな? それに干し貝柱の「瑶柱」。これは「たいらぎ」じゃなくって日本産の帆立貝の貝柱に違いない。干し椎茸の「冬菇」もどうやら香港、中国では極上品扱いされている日本産の様子。

  ここに干し鮑が加われば、極上の干貨素材をひと鍋にして供する「海味一品煲」ではないですか。そういえば、香港の広東料理店での「海味一品煲」のそもそもの発端は盆菜」にあり、なんて話を聞いたこともあります。「海味一品煲」も、確か南巡した帝に提供したのがそもそもの発端だった、なんてことでした。

 加えて、蝦のすり身団子、「髪菜」入りの魚のすり身団子も。その横には青梗菜。下に大根の煮込みが潜んでいました。というあたりは、まさしく「圍村」に伝わる昔ながらの「盆菜」内容です。

 その味付けは、だし(「上湯」)が利いたもので、干し貝柱の「瑶柱」を戻した際に出るだし、あの旨味、甘味、こくも加味されたもの。それに「蠔油」、つまりはオイスターソースらしき味、風味、甘味、こくなども。もっとも、これみよがしじゃなく、手前の加減でほのかな感じ、なのがいかにも袁さんの「腕」と「技」らしいところです。軽く、すっきり、穏やかで、上品で洗練された味、風味。それに、適度なとろみがついている。そのとろみの付け方の加減、按配がまた見事。

  ですから、口に運べば、最初、唇にふれるのは滑らかな「とろり」の触感。ですが、噛み締めると「海参(なまこ)」はプルンとした弾力があって、ぷりぷりの歯ざわり、噛み応え。魚の浮き袋の「花膠」は、ムチっとしていて、ねっとりの感じ。

 「コラーゲンたっぷり!お肌がツルツルになっちゃいますね!」なんて声もあがる。

 「瑶柱」は、はらりとほどけ、繊維がほろほろと崩れていく。旨味、こくがたまらない。干椎茸を噛み締めれば、じゅわとジューシー。旨味が口中に広がる。そうか、干椎茸のだし、も効果あり、と思わず納得。

 蝦のすり身の「蝦丸」はすり身の加減の按配、そのぷりぷりの歯ざわり、噛み締めれば滲み出る味、風味が、これまた上品。白身魚のすり身の「魚丸」も、適度に歯ざわりを残した触感、「つなぎ」の按配がよくって、魚のすり身の団子とは思えない奥床しさ。

 実は、練り物が好きな私ですが、市販のものは大抵がアミノ酸入り。というわけで、おでんだね、それに、潮州風の汁ビーフンの具にするとき、白身のすり身を買い込んだり、自分ですり身を作りますが、つなぎの按配、加減が微妙で難しい。なんて、ま、素人の料理オヤジですから、無理ないか。なんて、体験つんでるもんですから、魚のすり身には感心しました。

 それにしても内容充実、「干貨」をたっぷり味わって、満足至極。
 なんといっても日本で「盆菜」が食べられるなんて!おまけに、客家風の濃い味付けじゃなく、すっきり、さっぱり、上品で軽い味付けなのに、参りました!

2009/03/04

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いては「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
 実は以前、譚さんがメヒカリを椒鹽で調理というグッドな体験をしたもので、メヒカリを他の魚、それも、キスやメゴチなど、江戸前の天麩羅で食べるような根魚を使っての塩胡椒風味の揚げ物炒めをリクエスト。それが、なんと「瀬尿蝦/しゃこ」で登場。
 シャコを「瀬尿蝦」と呼ぶのは捕まえて海水から上げると水を吐き出す。なんてところがまるでオシッコ/小便をしてるみたい、なんてことに由来してたはず。それじゃあんまり下品な呼び方ってことで、潮州料理の店などでは「富喜蝦」と称されます。

 香港の近場で収穫される地場物は、日本のシャコと同じく小ぶりのもの。殻がクリスタルのように透明で澄み切っているのが上物。鈍くてどんよりした曇りガラス風のはランクが下。

 なんてこと食べ物にうるさい人ぐらいしか知られてないんで、その知識がない人は小ぶりの地場物、ってことだけで有難がることも。しかも、小ぶりの地場物には旬があって、お目にかかれない時期もあります。

 それより、香港よりもはるか南方、タイやヴェトナム近海、さらにはオーストラリア近海で収穫され、香港に運ばれてくる大振りのシャコが値段も安価なことから大衆的な海鮮料理店では一般的。それも、伝統的な塩、胡椒風味のシンプルな揚げ炒めだけではなく、大蒜、生姜、葱の微塵切りに、時にパン粉を混ぜ、生の唐辛子の微塵なども加えて、辛味、風味を増した「避風塘」スタイルの調理が人気を呼んでます。

 なにがなんでも海鮮、エビエビカニカニのスパイシーな味付けの揚げ物が好み、なんて人には絶対的人気があります。揚げた微塵きりの大蒜など風味、味わいは、さながら塩味しっかりのポテト・チップス的味と風味ですから。

 で、今回の「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
 香味野菜の微塵を揚げたチップスたっぷりの「避風塘」スタイルで。さらに、豆腐をれんげの型にすくって琵琶の形にし、煎り焼きにした「煎琵琶豆腐」が添えられたもの。

 まずはシャコをひと齧り。
 「アレ?」なんて思ったのは、香港なんかではこの種の料理、殻つきというのが一般的。殻なしなのは見ればわかること。
 それをひと齧りしたところ、やはり殻つきとは触感、歯ざわりがちゃいます。パリパリの「脆」じゃなくっって、さくさくの「酥」の歯ざわり。当然、噛み締めれば、歯がすっと肉にはいる柔らかさ、そして、ジューシーな味わい。シャコの甘味、旨味、独得の風味が面白かった。

 これまで未体験のシャコの揚げ物。ソフトな触感、ジューシーな味わいに「殻つきじゃないと、こんな風なんだ!」と、目の前に広がる新世界の初体験を楽しみました。

  さらに、琵琶豆腐。これまで食べてきたのは、ほとんどが蒸したもの。それを煎り焼きにしたその表面は「酥」よりも「脆」といえるようなパリパリ感。ところが、噛み締めるとソフトで柔らかい。殻なしのシャコ程の弾力はなし。

 ということで、揚げたシャコ、それに豆腐の触感、歯触りの対比、その面白さとともに、「避風塘」スタイルのクリスピー、かつスパイシーな味、風味を楽しめるという按配。それも、シャコの甘味、旨みは、は香港にはない「(「避風塘」)椒鹽瀬尿蝦」。 袁さんが生んだ「赤坂璃宮」銀座店のオリジナル。
 う~ん、でも、「椒鹽瀬尿蝦」、殻つきてパリポリの触感も捨て難いなあ。

 なんて思いに、後で出会った譚さんが語るには
 「香港だと、殻つきのシャコを取り寄せて、水槽(生簀ですね)に泳がせてて、それを生のまんま、調理が出来るんだけど、日本じゃ、生のままのシャコの入手が難しいしんだよ。店に来るまでにへたっちゃっててね。ほんとは殻つきの生のシャコを調理したいんだけど。そこで、シャコの旨さ、旨味、味、風味を生かすには、すし屋で食べるシャコがいい。なんてことで、仕入れたシャコをすし屋に運んで、下拵えしてもらったものを、使って、調理することにしたんだ」。

 なんて話を聞いて、思わず納得。
 日本でゲットできるシャコの持ち味、旨味、風味を生かしながら、それを中国料理の下拵え、味付け、調理で実践、という試みだったのですね。
 殻つきのシャコを揚げたパリパリの触感とは異なる、サクサクの表面、噛み締めるソフトでしっとり、なおかつ、シャコの旨味、甘味が生きている。

 そうか、そうやって、日本の素材を生かして新しい中国料理が生まれるんだ、ということを納得したのでありました。譚さんはエライ。それに応えて調理した袁さんもエライ。
  それより、キスやメゴチなどの手に入りやすい素材でお願いしたのに?
 なんて尋ねたら「ダメ、シャコでやりなさい!って、社長の命令です!」と袁さん。なんだか申し訳ない、なんて思いつつ、美味しいものが食べられるんですから、私にはとっても嬉しい話でした。

2009/03/03

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 まずい!
 あっと言う間に3月になっちゃいました。そんなことで2月の「赤坂璃宮」銀座店の料理報告、今回もまた月越えになったりして。「ナイフ&フォーク話」の続編はひとまずおいて、いざ報告。

 今年の1月は新年会があったことから「赤坂璃宮」銀座店での会議はなし。そして2月になって新年を迎えてはじめての会議。メンバーもひとり入れ替わりました。その日、テーブルの上に用意されたメニューに、農歴、日本で言えば旧暦の正月、春節にちなんだ料理を見つけました。

 それも、春節の日から数えて15日目、初めての満月を迎える「元宵節」にちなんだもの。といって、実際には「元宵節」から4日は過ぎてましたが、春節らしい趣向を凝らした料理に、感謝感激!

 ちなみに「元宵節」、グーグルなどで検索すれば明らかなように、中国での新年、春節の行事の締めくくりにあたる行事。日本でいえば「小正月」。以前、ここでもふれてきましたけど、神戸にいた頃、正月、つまり松の内が開けるのは15日の小正月。松飾りを外してとんどをやり、その火に割った鏡餅を放り入れ、焼いて食べたりしたものです。

 中国、ことに南方や台湾あたりだと「元宵節」の夜には提灯に火をともし、花火を上げて祝う一夜。家族、親族が集い、揃って「湯圓」を食べるのが慣わしです。
 加えて「元宵節」は「バレンタインデー」にちなんで「情人節」なんて風にも言われます。それは「元宵節」の行事が慣習化されたそもそもの発端に、家族との出会いがあり、ちなんで、男と女の出会いも語られるようになった、なんて話もあってのこと。
 もっとも「中国情人節」というのもあって、それは旧暦の7月7日、つまりは「七夕宵」のこと。

 さて、最初は、いつも通り「璃宮焼味盆/焼き物の盛り合わせ」。いつも感心するのは「赤坂璃宮」銀座店の「焼味/焼き物」のレベルの高さ。東京では福臨門とは双璧をなす香港風味。それぞれ持ち味がビミョーに異なる、というのが面白いところです。

 支配人の大藤さんに聞いた話では「赤坂璃宮」銀座店の焼き物担当は赤坂の本店で腕を振るう梁さんに学んだ金山さん、だそうで、素材の持ち味を見極めた焼き方の工夫に努力あり、なんてことから皮はパリパリ、あるいはさくさく。そして、中の身ははしっとり。噛み締めた後に「ン!?」と思う味わい、風味があります。

 そして登場したのが「順徳魚雲羹」。
 「ま、まさか、マジィ?イエイ!」と、思わず興奮、盛り上がりました。


 順徳は広東省広州市に隣接する仏山市にあり、広東地方でも食の本場として知られています。ちなみに、広州の味、風味が「羊城」と語られるのに対し、順徳の大良のそれは「鳳城」として有名。広東地方でも特色ある郷土料理が数多く生まれたところで、すぐれた料理人を輩出。多くは広州、香港の料理店、あるいは富裕層の家庭のお抱えの料理人に。

 つまり「順徳/大良」の「鳳城風味」は、広州の「羊城風味」とともに香港の広東料理、特色ある郷土料理の基礎、下地、根幹をなすものです。とはいえ、現在、香港で順徳料理を看板にする店はほんのわずか。ですが、陸羽茶室、蓮香樓などの老舗や福臨門、鏞記など70年代以後名声を得てきた有名店、「美麗華集団」の「翠亨邨」、「美心集団」の「翠園酒家」などの料理店での「小菜」のほとんどは「鳳城風味」を下敷きにしたもの。

 で、順徳は珠河河口の平野部、珠河デルタの奥まったところにあって肥沃な土壌と温暖な気候に恵まれ、農産物とともに淡水魚が豊富。その養殖も盛んなところです。

 そういえば順徳には生魚を素材にした独得の料理もある。日本の中国料理で刺身に香味野菜や木の実などを混ぜ合わせ、タレをかけて食べる料理がありますが、間違いなく順徳の料理がヒントになったはず。

 そして「順徳」の地名を料理名した「順徳魚雲羹」。日本だと「かぶと焼き」、「かぶと煮」などに調理する魚のアラ、頭の部分を使った料理。それも身をほぐし、くずを引いたとろみの餡かけ仕立ての「羹」にしたもの。ですが、日本じゃ川魚で入手可能なのは「鯉」、「鮒」、「鯰」ぐらいなもの。アメ横に行けば「生魚/ライ魚」があったりもしますけど。それに、日本の川魚は泥臭いのが特徴です。なんてことなら「海水魚?」とアテンドの柏木さんに尋ねたら、案の定「鰤と鯛のアラを使っております」という返事。

 「成る程、納得!」と思いながら、海水魚のアラ、そのまま生簀で泳いでたものを下ろしたのなら、問題なしですが。締めたものだとどうしても独得の臭み、匂いを隠せない。脂肪分と蛋白質のせいですね。
 はたせるかな、袁さん、その問題点を見事にクリアー!
 臭み、匂いなんてまるで感じない。上品で洗練され、しかも、さっぱりの味わい、風味です。
 日本の中国料理店でこの種の料理を食べると、臭み、匂い消しの生姜、葱の味、それに胡椒をはじめとする香辛料を使い過ぎなきらいあり。
 その点、ほのかに!というあたりの技が見事です。しかも、陳皮とか桂皮とか「なんだったっけ、これ?」という香辛料がさりげなく潜んでいます。
 あっさり、すっきり、さっぱりの海水魚を使った「順徳魚雲羹」。ガツンとインパクトのある強烈な味じゃなくって、食べすすめるごとに味わいがしっかり姿をあらわし、輪郭が明解になっていく。しみじみと味わい豊かな料理です。

 さすが、袁さん。魚、アラの下拵え、香味野菜、香辛料の使い方、火の加減のすばらしさにうっとり!。
 もちろん仲間にも「こんなに上品な味つけなんて、信じられない!」と大評判でした。