冬きたりなば春遠からじ。ところが、冬の寒さが逆戻りした今年の2月。春の訪れを待ちわびる気持をそのまま映し出したような心温まる一品。
「わ!すごいじゃない、千脇君!やりますね」と、すぐさまエールを送りました。 つるん、とろんの舌を撫でるきめ細かで滑らかな触感、優しくて穏やかな味わいがいいです。
具の干しなまこのぷるぷるの触感、餡のすり身のぷりぷり感の対比も絶妙です。
干しなまこって、それ自体に味はなし、とはいうもののどこか磯の味を感じるもの。「老抽」あるいは「蠔油」で色合いをつけたり、上海系の料理だど「葱油」や「鶏油」を隠し味として忍ばせ、いくらか濃い目の味付けで、というのが一般的。
ですが、戻した干しなまこの風味を生かし、えびのすり身の味付けも控え目にして、茶碗蒸しの具に、なんてところ意欲満々。欲をいえば、だしの味、香り、もう少し強めのほうがなんて思いましたが、ともあれ「やったね、千脇君」の一品でありました。
次いで「韮黄蟹拑」、蟹の爪、黄韮、それにエリンギ、わけぎなどの炒めもの。 これは可もなく不可もなくの一品。「蟹の爪」の贅沢感が嬉しいですが、下味の付けから、衣つけ、揚げ方がいまひとつで、素材を生かしきれてないのが課題。それに具材のすべてを炒め合わせた時の「鑊気」、鍋の気力がいまひとつで、香りに乏しい、なんていうのが課題かも。なんてまた、オヤジの余計なお節介ですね。
それから「髪菜蠔豉」。牡蠣、髪菜、筍、大根、人参、銀杏などの炒め煮込み。甘味の利いた味付けで、さっぱり控え目な味付けなどからすると広東料理仕立て。 冬場らしい一品で、広東地方の正月料理に出てきそう。
そうです、2月の「赤坂璃宮」銀座店で紹介した「盆菜」に通じる一品で、ほのぼのとした温もりを覚えるもの。
惜しいのは大根、人参の素材の生かし方、味の煮含め。ことに大根、この手の料理では「だし」を生かした味つけがどんぐらい煮含められているか、それに、人参はその甘さをどうやって生かすか、なんてのがテーマのはず。ということでは、ちょいと「だし」が弱いのと、味付けのめりはり、もう少しあったほうがいいかも。
ですが、「一品海参蒸蛋」、「韮黄蠔豉」に続いてこの「髪菜蠔豉」という流れ、調理方法、味付けを考えたコースの組み立てが面白い。それも千脇君が薫陶を受けた「竹爐山房」の山本豊さんは中国本土の北方「魯菜」や中部の江南、「淮揚」の料理がお得意。なんてことからすると、千脇君、広東料理や他の地方料理にも関心を持って、その幅、広げたんだ!なんてことがよくわかりました。