この種の「老火湯」、いつもながらの表現ですが、素材の持ち味が生かされた自然で素朴な味わい。すっきりとしていて、優しく、穏やかで、心和みます。そうです、胃に、体に優しいスープです。
香港では店でも用意されてますが、家庭でも作ります。事前に予約が必要ですが、こんな「湯」にありつける、であえるのが嬉しい。
「ね、エージさん、これ、このだしなんだけど、豚の胃袋だけでこんなにふくよかな味がでるものなの?鶏だしなんか入ってるのかな?」
「う~ん、鶏だしだと、旨味がたくさん出るけど、鶏だし独得の味、香りがするから。これって、そんな感じじゃないよね。鶏だしって、案外クセがあるでしょ。部位によって味も風味も違うから。
ほら、皮付きの腿肉なんかだと、脂肪分があるし、手羽元とか手羽先だとコラーゲンたっぷり、ゼラチン質が多いから。だから、クセのない鶏だしをとるには「ささみ」が格好なんで、我家ではそうしてんだけど。その感じもしないしね」、と私。
「この旨味からすると鶏じゃなくって、豚の赤身肉じゃないかな。実は豚の赤身肉って、意外にクセがなくて、美味しいだしがとれるんだよ。でも、ね、知ったかぶりじゃまずいから、料理長の袁さんに聞いてもらいましょ」と、さらに私。
アテンドの柏木さん確かめてもらったところ、「豚の赤身肉を使ってるそうです」とのことでした。
豚の内臓を使ったこの種のスープでは、豚の肺を使った「杏仁豬肺湯」があります。香港の陸羽茶室の名物料理のひとつで、去年の春、福臨門の「青木宴」でそれを再現。ほかに、雌豚の輪卵管を使った「鹹菜粉腸湯」があります。九龍城市の城南道にある潮州料理の店「創發」の名物料理。
なんてことなら、袁さんに「杏仁豬肺湯」や「鹹菜粉腸湯」、作るのに手間隙かかりますがリクエストしたらやったもらえるかも。それに豚の胃の食道と十二指腸の付け根の部分の「肚尖」を使った料理も。
もっとも、難しいのは内蔵の確保。「良い状態の内蔵類、入手するのが難しくてね。今回もたまたま良い素材が手に入れられたんで」と、譚さん。
大阪の安土町にある「一碗水」の南さんの話によれば、大阪では牛、豚の内蔵類、それも新鮮なのが簡単にゲット出来るとのこと。東京と大阪では内蔵類の需要と供給、それに流通事情、異なるようで。
それなら、なんとかルートを探し出して、素材をゲット。そのうち、袁さんにやったもらうことにしよう、なんて、わがままオヤジは秘策をねるのでありました。