続いては「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
実は以前、譚さんがメヒカリを椒鹽で調理というグッドな体験をしたもので、メヒカリを他の魚、それも、キスやメゴチなど、江戸前の天麩羅で食べるような根魚を使っての塩胡椒風味の揚げ物炒めをリクエスト。それが、なんと「瀬尿蝦/しゃこ」で登場。
シャコを「瀬尿蝦」と呼ぶのは捕まえて海水から上げると水を吐き出す。なんてところがまるでオシッコ/小便をしてるみたい、なんてことに由来してたはず。それじゃあんまり下品な呼び方ってことで、潮州料理の店などでは「富喜蝦」と称されます。
香港の近場で収穫される地場物は、日本のシャコと同じく小ぶりのもの。殻がクリスタルのように透明で澄み切っているのが上物。鈍くてどんよりした曇りガラス風のはランクが下。
なんてこと食べ物にうるさい人ぐらいしか知られてないんで、その知識がない人は小ぶりの地場物、ってことだけで有難がることも。しかも、小ぶりの地場物には旬があって、お目にかかれない時期もあります。
それより、香港よりもはるか南方、タイやヴェトナム近海、さらにはオーストラリア近海で収穫され、香港に運ばれてくる大振りのシャコが値段も安価なことから大衆的な海鮮料理店では一般的。それも、伝統的な塩、胡椒風味のシンプルな揚げ炒めだけではなく、大蒜、生姜、葱の微塵切りに、時にパン粉を混ぜ、生の唐辛子の微塵なども加えて、辛味、風味を増した「避風塘」スタイルの調理が人気を呼んでます。
なにがなんでも海鮮、エビエビカニカニのスパイシーな味付けの揚げ物が好み、なんて人には絶対的人気があります。揚げた微塵きりの大蒜など風味、味わいは、さながら塩味しっかりのポテト・チップス的味と風味ですから。
で、今回の「椒鹽瀬尿蝦/シャコと琵琶豆腐のスパイス揚げ」。
香味野菜の微塵を揚げたチップスたっぷりの「避風塘」スタイルで。さらに、豆腐をれんげの型にすくって琵琶の形にし、煎り焼きにした「煎琵琶豆腐」が添えられたもの。
まずはシャコをひと齧り。
「アレ?」なんて思ったのは、香港なんかではこの種の料理、殻つきというのが一般的。殻なしなのは見ればわかること。
それをひと齧りしたところ、やはり殻つきとは触感、歯ざわりがちゃいます。パリパリの「脆」じゃなくっって、さくさくの「酥」の歯ざわり。当然、噛み締めれば、歯がすっと肉にはいる柔らかさ、そして、ジューシーな味わい。シャコの甘味、旨味、独得の風味が面白かった。
これまで未体験のシャコの揚げ物。ソフトな触感、ジューシーな味わいに「殻つきじゃないと、こんな風なんだ!」と、目の前に広がる新世界の初体験を楽しみました。
さらに、琵琶豆腐。これまで食べてきたのは、ほとんどが蒸したもの。それを煎り焼きにしたその表面は「酥」よりも「脆」といえるようなパリパリ感。ところが、噛み締めるとソフトで柔らかい。殻なしのシャコ程の弾力はなし。
ということで、揚げたシャコ、それに豆腐の触感、歯触りの対比、その面白さとともに、「避風塘」スタイルのクリスピー、かつスパイシーな味、風味を楽しめるという按配。それも、シャコの甘味、旨みは、は香港にはない「(「避風塘」)椒鹽瀬尿蝦」。 袁さんが生んだ「赤坂璃宮」銀座店のオリジナル。
う~ん、でも、「椒鹽瀬尿蝦」、殻つきてパリポリの触感も捨て難いなあ。
なんて思いに、後で出会った譚さんが語るには
「香港だと、殻つきのシャコを取り寄せて、水槽(生簀ですね)に泳がせてて、それを生のまんま、調理が出来るんだけど、日本じゃ、生のままのシャコの入手が難しいしんだよ。店に来るまでにへたっちゃっててね。ほんとは殻つきの生のシャコを調理したいんだけど。そこで、シャコの旨さ、旨味、味、風味を生かすには、すし屋で食べるシャコがいい。なんてことで、仕入れたシャコをすし屋に運んで、下拵えしてもらったものを、使って、調理することにしたんだ」。
なんて話を聞いて、思わず納得。
日本でゲットできるシャコの持ち味、旨味、風味を生かしながら、それを中国料理の下拵え、味付け、調理で実践、という試みだったのですね。
殻つきのシャコを揚げたパリパリの触感とは異なる、サクサクの表面、噛み締めるソフトでしっとり、なおかつ、シャコの旨味、甘味が生きている。
そうか、そうやって、日本の素材を生かして新しい中国料理が生まれるんだ、ということを納得したのでありました。譚さんはエライ。それに応えて調理した袁さんもエライ。
それより、キスやメゴチなどの手に入りやすい素材でお願いしたのに?
なんて尋ねたら「ダメ、シャコでやりなさい!って、社長の命令です!」と袁さん。なんだか申し訳ない、なんて思いつつ、美味しいものが食べられるんですから、私にはとっても嬉しい話でした。