2009/03/29

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 それからもう一品、海鮮料理が登場。マテ貝を素材にした「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」です。
 マテ貝も今が旬。潮干狩りで砂浜に穴が開いていたり、ざっと砂をかき寄せてみて穴がみつかれば、それはマテ貝の棲み処。塩をふりかけると吸い口を突き出した細長い殻がぬっと姿を現す。そうやってマテ貝を採ったなんて方もいらっしゃるでしょう。

 マテ貝の乳白色の身は、貝にしてはくせがない。細長い体型そのまま、のっぺら棒なて感じです。そういえば乳白色の色合い、牡蠣に似てもなくない。なんてことからすると、ふっくりぷっくらでぼてっとした牡蠣がまるでやせ細った感じです。その分、身が締まっていて、噛み締めると「こり」っとした触感で、磯の香りが浮かび上がる。そのあたり、やはり貝の味、風味。それに、ほのかな 甘味があります。

 乳白色の色合いそのまま、くせがなくって純な味のマテ貝は、色んな調理、味付けに向いています。つまりは調理、味付けてに馴染みやすい。ということは、調理、味付けが過ぎると、純な味をそこねかねない。つまりは、味付けの加減が難しい。

 袁さんが調理したこの「辣椒豆豉蒸聖子/マテ貝の豆豉辛味蒸し」。醗酵黒豆味噌の「豆豉」は、粒がほぼそのまま。それに、葱や香菜、生唐辛子、赤と青のピーマンなどの香味野菜の細かな微塵切りが入り混じってカラフル。照りがあるのは、ほんのりとろみ付けがほどこしあるからです。その下には戻した春雨。 頬ばるとマテ貝は「こり」、「ぱり」っとした触感。クセがないものの、やはり、貝の味、磯の香り、甘味、マテ貝の純な味がします。それに「豆豉」や微塵の香味野菜、唐辛子が一体となって織り成す味は、ぴり辛で、爽快。

「豆豉」のひねたこくのある味が生み出す旨味。生唐辛子の爽快な辛味。さらには様々な調味料と香味野菜がおりなす複雑な一体味が、マテ貝の味、風味、持ち味を引き立ててます。素材の持ち味を生かした調理、味付け、調味料の加減、按配がいいなあ。

 とろみ付けの加減もいい。でも、このとろみつけ、日本だと大抵の場合、香港と違ってじゃがいもの澱粉ってことになる。もしそうだとしたら、つまり、じゃがいもの澱粉を使っているとしたら、控え目、薄目にした澱粉の使い方、いい感じです。

 マテ貝の下の春雨。これがマテ貝から滲み出た磯の味、それに、香味野菜や調味料が織り成す一体味をしっかり吸い込んで、旨い。それも、この春雨、春雨って普通は緑豆の澱粉で出来たものですが、そうとは思えないぐらい太い。乾燥したものを戻してあるんですが、ねっとり感を含んだ噛み応え、弾力がある。

 思い出したのは、韓国の「チャプチェ」に使われるじゃがいもの澱粉から作る春雨。でも、じゃがいもではなさそうだ。じゃがいもの澱粉で作った春雨よりも細い。が、香港でふつーに食べる春雨に比べれば、太めの感じ。それでいて、戻しすぎというわけでもなく、ぷり感、ねっとり感がある。戻しすぎの春雨にありがちなぶよ感もなし。旨い。だしを吸った春雨が旨い。その太さ、歯触り、触感が良い。不思議に思って、後で大藤さんにメールして、袁さんに尋ねてもらいました。

 そして知った春雨の実態は、中国「青島産緑豆100%」の「龍口粉絲」ってことでした。 そうだったのか。緑豆なんですね。で、フツーの(緑豆の)春雨とは違う感じ。というこおとは、戻し方、調理、味付けに工夫あり、ってことじゃないですか!

 それに、複雑な一体味、風味を生んだ調味料、香味野菜の類は「豆豉、葱花、生辣椒、芫茜、青・紅椒、陳皮、胡椒粉、豆板醤、豆豉、老抽、蠔油、沙糖、生粉、麻油」ってことでした。調味料や香味野菜、思いのほか色々と使わていますが、しっかりひとつの味、「一体味」にまとめあげられています。

 調味料、香味野菜のそれぞれの分量、使い方の按配が、ぴったし、ばっちり、ってことですね。しかも、毎度の話になりますが、調味料、香味野菜の使い方、その組み合わせ、行き過ぎるてことがなくて、ぎりぎりの一歩手前で止め。料理人の腕、技、なによりもセンスのよさを物語る。

 そんな調味料、香味野菜の中に「陳皮」が使われてるのを見逃せない。袁さん、広州に隣接する広東省南西部の出身、もしくは、その種の料理で育ってきたからでしょうか。今度、逢ったら確かめてみようと思います。