2009/03/03

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 まずい!
 あっと言う間に3月になっちゃいました。そんなことで2月の「赤坂璃宮」銀座店の料理報告、今回もまた月越えになったりして。「ナイフ&フォーク話」の続編はひとまずおいて、いざ報告。

 今年の1月は新年会があったことから「赤坂璃宮」銀座店での会議はなし。そして2月になって新年を迎えてはじめての会議。メンバーもひとり入れ替わりました。その日、テーブルの上に用意されたメニューに、農歴、日本で言えば旧暦の正月、春節にちなんだ料理を見つけました。

 それも、春節の日から数えて15日目、初めての満月を迎える「元宵節」にちなんだもの。といって、実際には「元宵節」から4日は過ぎてましたが、春節らしい趣向を凝らした料理に、感謝感激!

 ちなみに「元宵節」、グーグルなどで検索すれば明らかなように、中国での新年、春節の行事の締めくくりにあたる行事。日本でいえば「小正月」。以前、ここでもふれてきましたけど、神戸にいた頃、正月、つまり松の内が開けるのは15日の小正月。松飾りを外してとんどをやり、その火に割った鏡餅を放り入れ、焼いて食べたりしたものです。

 中国、ことに南方や台湾あたりだと「元宵節」の夜には提灯に火をともし、花火を上げて祝う一夜。家族、親族が集い、揃って「湯圓」を食べるのが慣わしです。
 加えて「元宵節」は「バレンタインデー」にちなんで「情人節」なんて風にも言われます。それは「元宵節」の行事が慣習化されたそもそもの発端に、家族との出会いがあり、ちなんで、男と女の出会いも語られるようになった、なんて話もあってのこと。
 もっとも「中国情人節」というのもあって、それは旧暦の7月7日、つまりは「七夕宵」のこと。

 さて、最初は、いつも通り「璃宮焼味盆/焼き物の盛り合わせ」。いつも感心するのは「赤坂璃宮」銀座店の「焼味/焼き物」のレベルの高さ。東京では福臨門とは双璧をなす香港風味。それぞれ持ち味がビミョーに異なる、というのが面白いところです。

 支配人の大藤さんに聞いた話では「赤坂璃宮」銀座店の焼き物担当は赤坂の本店で腕を振るう梁さんに学んだ金山さん、だそうで、素材の持ち味を見極めた焼き方の工夫に努力あり、なんてことから皮はパリパリ、あるいはさくさく。そして、中の身ははしっとり。噛み締めた後に「ン!?」と思う味わい、風味があります。

 そして登場したのが「順徳魚雲羹」。
 「ま、まさか、マジィ?イエイ!」と、思わず興奮、盛り上がりました。


 順徳は広東省広州市に隣接する仏山市にあり、広東地方でも食の本場として知られています。ちなみに、広州の味、風味が「羊城」と語られるのに対し、順徳の大良のそれは「鳳城」として有名。広東地方でも特色ある郷土料理が数多く生まれたところで、すぐれた料理人を輩出。多くは広州、香港の料理店、あるいは富裕層の家庭のお抱えの料理人に。

 つまり「順徳/大良」の「鳳城風味」は、広州の「羊城風味」とともに香港の広東料理、特色ある郷土料理の基礎、下地、根幹をなすものです。とはいえ、現在、香港で順徳料理を看板にする店はほんのわずか。ですが、陸羽茶室、蓮香樓などの老舗や福臨門、鏞記など70年代以後名声を得てきた有名店、「美麗華集団」の「翠亨邨」、「美心集団」の「翠園酒家」などの料理店での「小菜」のほとんどは「鳳城風味」を下敷きにしたもの。

 で、順徳は珠河河口の平野部、珠河デルタの奥まったところにあって肥沃な土壌と温暖な気候に恵まれ、農産物とともに淡水魚が豊富。その養殖も盛んなところです。

 そういえば順徳には生魚を素材にした独得の料理もある。日本の中国料理で刺身に香味野菜や木の実などを混ぜ合わせ、タレをかけて食べる料理がありますが、間違いなく順徳の料理がヒントになったはず。

 そして「順徳」の地名を料理名した「順徳魚雲羹」。日本だと「かぶと焼き」、「かぶと煮」などに調理する魚のアラ、頭の部分を使った料理。それも身をほぐし、くずを引いたとろみの餡かけ仕立ての「羹」にしたもの。ですが、日本じゃ川魚で入手可能なのは「鯉」、「鮒」、「鯰」ぐらいなもの。アメ横に行けば「生魚/ライ魚」があったりもしますけど。それに、日本の川魚は泥臭いのが特徴です。なんてことなら「海水魚?」とアテンドの柏木さんに尋ねたら、案の定「鰤と鯛のアラを使っております」という返事。

 「成る程、納得!」と思いながら、海水魚のアラ、そのまま生簀で泳いでたものを下ろしたのなら、問題なしですが。締めたものだとどうしても独得の臭み、匂いを隠せない。脂肪分と蛋白質のせいですね。
 はたせるかな、袁さん、その問題点を見事にクリアー!
 臭み、匂いなんてまるで感じない。上品で洗練され、しかも、さっぱりの味わい、風味です。
 日本の中国料理店でこの種の料理を食べると、臭み、匂い消しの生姜、葱の味、それに胡椒をはじめとする香辛料を使い過ぎなきらいあり。
 その点、ほのかに!というあたりの技が見事です。しかも、陳皮とか桂皮とか「なんだったっけ、これ?」という香辛料がさりげなく潜んでいます。
 あっさり、すっきり、さっぱりの海水魚を使った「順徳魚雲羹」。ガツンとインパクトのある強烈な味じゃなくって、食べすすめるごとに味わいがしっかり姿をあらわし、輪郭が明解になっていく。しみじみと味わい豊かな料理です。

 さすが、袁さん。魚、アラの下拵え、香味野菜、香辛料の使い方、火の加減のすばらしさにうっとり!。
 もちろん仲間にも「こんなに上品な味つけなんて、信じられない!」と大評判でした。