2009/03/31

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」のこくのある味、旨味、風味ですが、後で大藤さんを経由して袁さんにその秘密を尋ねました。そしたら「蝦醬」だけじゃなく「蝦膏」をプラス・アルファ、なんてメールで返事が到着。

 「蝦膏」と知って、まず思い浮かべたのは瓶詰めになった「蝦醬」ではなく、「蝦醬」を固形状に固めたもの。瓶詰めのしっとり系の「蝦醬」よりも、味も風味も濃厚。それだけ、より「くせ」を感じます。

 ところが、大藤さんのメールにあった「シュリンプ・イン・オイル」という注釈に「はて、一体何だろう?」。
 ネットで検索したところ、もっぱらタイ料理で使われるオイル漬けの「蝦醬」だと判明。

 実はタイ料理でも「蝦醬」は不可欠な調味料のひとつ。その種類も豊富で、いろんなタイプのものがある。そのひとつ「蝦醬」のオイル漬け、ということで成る程と納得。
 それにしても、タイの調味料理を起用、なんてところが興味深い。

 そういえば、今回の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」で、もうひとつさりげなく効果を発揮していたのが生姜です。香り、風味づけに使われていたものですが、その生姜、きっちり、5~6ミリ角ほどの大きさに切り揃えてありました。

 その細やかな技、素材の切り揃え、下拵え、つまりは「板」の仕事をおろそかにしない袁さんの料理に対する心構えが汲み取れました。
 ちなみに「板」の担当、大藤さんの話によれば、日本人の料理人だそうです。今度名前を聞いとかなきゃ。

 この板の人、袁さんの要求に応えて、いつも緻密で細やかな仕事ぶり。にいつも関心させられます。その仕事ぶりから、この人、絶対に腕っ利きの良い料理人になること間違いなし、と私は確信します。

 そうです。
 「板」をおろそかにしては「鍋」も腕の奮いようがありませんから。

 これまで何度もふれてきたように、中国料理で「鍋」担当の料理人が腕を奮うには、細やかな包丁仕事、下拵えに専念する「板」の存在、役割が不可欠です。
 一般に、素材の切り揃えなど、下拵えは新入りの仕事、なんて思われがちですが、実際には経験に培われた技量を要するプロフェッショナルな存在。そこんとこ、実は見逃されることが多い。

 ホテルや大きな店では、人材も豊富。「鍋」、「板」の役割分担が明確に分かれています。それにオーナー&シェフの店として先鞭をつけた「吉華」の久田大吉さん、「文琳」の河田吉巧さん、「竹爐山房」の山本豊さんなどは、目配りが行き届いてました。

 ところが、近頃話題のオーナー・シェフの店では、「鍋」を振るオーナー・シェフを確実にサポートする「板」の存在を、滅多に見かけない。あの店もこの店も、「板」を充実させれば、「鍋」の力量、もっと発揮できるんじゃないの? なんて思うことがしばしばです。

 中国料理の料理人を目指す若い人たちも「板」の仕事は、あてがわれた修行仕事だと思いがち。それよりも、先急いで見映えの派手な「鍋」ばかりに気をとられ、「鍋」を振りたくてたまんなくて、「板」の仕事はうとんじれられがち、なんて話しも耳にします。 そうしたことが解決されれば、日本の中国料理の未来も明るい!なんて、決してオーバーな話、なんかじゃないんですが。

 ともあれ、「赤坂璃宮」銀座店の「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」。ほのぼのとしていて心が和みます。 ご飯と一緒に食べたくなるお惣菜。広東地方の郷土料理ならではの一品です。

 本来はお袋の味的な素朴さが魅力の一品。それを料理として上品で洗練された味、風味に仕上げたもの。そこんとこも、見逃せません。

 この「大馬站煲/焼肉と豆腐、椎茸の蝦醬風味土鍋煮込み」、「赤坂璃宮」銀座店の、知る人ぞ知るメニューのひとつになること、間違いありません。