2009/04/01

家郷小菜と香港炸醤麺~3月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして、いよいよ「炸醤撈麵/香港式炸醬麵」。この料理、かねてより大藤さんを通して袁さんにリクエストしていた一品。 香港式の炸醬麺には格別の思い入れがあります。

 香港式の炸醬麵、というのは、香港で出会った炸醬麵。日本のそれとも、中国本土の北方のそれとも、大いに違いました。そもそもの出会いは、香港に通い始めてしばらく、当時、香港に出向けば通い詰めていた陸羽茶室を訪れた時のことです。

 陸羽茶室といえば飲茶。飲茶の点心の質の高さで有名です。夜の陸羽での広東地方の家郷菜、ことに、大良/順徳風味の小菜の数々は、かなりの味わい。ちょっと時代ががって寝ぼけた感じがしないでもないですけど、伝統的というか、実にオーソドックな季節の「小菜」数々は、実に魅力的。

 加えて、案外、見逃せないのが陸羽茶室の麵料理。香港の食について語る人の著作、ネットのサイトやブログの数々、いろいろみてきましたが、私が知る限り、陸羽の麵料理について目についたことは、滅多にない。

 私、遅い昼下がり、陸羽で「下午茶」、要は中国式アフタヌーン・ティーなんて時間には、飲茶の点心は控え目にして、陸羽の麵料理を注文します。しかも、ひと碗盛り、ひと皿盛りがあって、その種類は実に豊富。

 そんな中に「京醬肉麵」を見つけ、興味をそそられ、ものは試しと注文。最初、摩訶不思議な味だと思いました。
 そうだ、陸羽茶室の「京醬肉麵」は、以前、紹介したことがあります。
 そ、そ、この画像。
 左の具を面にいれると、こんな按配に!
 肉を主素材に味噌味で仕上たこってりの味付け。見た目、結構、濃い、というか早い話が「えぐい」感じ。で、口にすると、甘くて、酸っぱくて、最後に辛味がじんわりと浮かび上がる。その料理名「京醬肉麵」から、その正体、「京都式炸醬肉麵」と判明。

「京都式」ってことは、「北京式」というか、北方の炸醬麵ってことになります。が、北方のそれは味噌味仕立てで、豆や粉の味噌の味が濃厚。それよりも、甘さ、酸っぱさが立っている。
 やがて、その甘味、酸味、辛味、香港特有のもの、香港の大多数をしめる広東系の人々の好み、嗜好を反映したものだと知ることになります。伝統的な広東料理の店に特徴的な味、風味、というのにも一脈通じるところがあります。
 同じような面料理が街中の粥面店にもあります。いくつかの店で試してみると、やはり、甘くて酸っぱくて、辛味がある。中でも秀逸というか、独得の味わい、風味なのが、旺角の「好旺角」の「京都炸醬面」。油麻地の白加士街の「麥文記」の「炸醬麵」も、悪くない。

 で、「好旺角」の甘味は、明らかにケチャップ。酸味はウースター・ソース。で、辛味ですが、香港らしく辣椒醬ってこともあるし、豆板醬なんてこともある。ちなみに「好旺角」では「海鮮醬」を加えて、味噌のひね味、甘味、「こく」を加味。
 そいえば「磨豉醤」を加える店もある。でもまあ、調味料理の基本構成は大体似通っていて、分量と、それに辛味の醬、コク加える味噌の種類が店によって違う様子、ってことらしい。ですから、北方の炸醬面とは使う調味料が違います。よって、味付けも違う。
 なのに香港では「京式」、もしくは「京都式」なんて料理名なのがおもしろい。
 ま、日本だって、何々風、現地風といいながら、実はアレンジされ日本化したもの、なんてよくあることですから。そうそう、韓国の炸醬面も、そうした傾向強しで、一風変わっている。お国柄をあらわす独自性のあるものなのが面白い。

 ともあれ、そんな香港の「京式」、もしくは「京都式」の炸醬面、実は日本でであったことがありません。
 ご存知の方、いらしたら、是非、ご一報ください!
 なんてことで、「京式」、もしくは「京都式」でなくとも、香港風味、香港式の甘くて酸っぱくて、辛味がじんわり浮かび上がる「炸醬面」を食べたい。
 
 その思い募って、幾年月!袁さんと出逢って、これはもう千載一遇のチャンス!袁さんに作ってもらうしかない!なんてことで、たまらずリクエスト!