2009/04/15

立春宴~早春の広東地方の郷土料理の10

 締めくくりの甜品。
私は「杏仁」と「胡桃」のお汁粉をミックスした「鴛鴦」。
 今回の「青木宴」。中でも印象に残ったのは「肘子燉生翅」。しっかりの塩味で男性的、なのに荒々しくはなく、清々しく溌剌とした爽快感があったこと。「荔蓉香酥鴨」の芋のさっくり、ねっとりと、家鴨の皮のパリっと肉のジュシーな歯ざわり、触感、味、風味の対比。芋のこくのある甘味、家鴨の野性味を生かした洗練の技。

 豬の煮込みの軽くて上品な味わい。その「雙冬炆野豬」の「筍」、あるいは「咸魚炒蜜豆」の「蜜豆」の素材の持ち味の生かし方。いずれにしろ、調理のスタイル、味付け、技、味の決めは、香港島と九龍の福臨門の特徴、良さが混在。どちらかといえば、香港島の福臨門寄り、かも。羅安さん直系の呉錦洪さんの繊細さとはまた違ったきめの細かさや洗練。張漢華さんの鮮烈な「鑊気」あふれる鍋使いとは異なるしなやかな力強さ、溌剌とした若さ、爽快感がありました。

 料理人の名は胡福春さん。銀座店にいた袁さんと入れ替わり、名古屋の福臨門から銀座の福臨門へ。というわけで、張さんは現在、丸の内店に勤務中。福臨門の料理人、スタッフは、色々と店を入れ替わります。

 その胡さん、羅安さんの弟子という話を耳にして経歴を尋ねたところ、14歳の時、最初に勤めたのは鴻福門、次いでホテル日航の「桃李」へ。なんて話に「もしかして、霍錦常さんと一緒に働いてた?」と尋ねたら、なんと、霍さんが最初の師匠。霍さんとずっと行動をともにしてきた、なんてことが判明。

 霍錦常さんは福臨門の九龍店の総料理長の羅安の弟子のひとり。日本の福臨門の総料理長で現在休養中の呉錦洪さんとともに、その才能を高く評価していた料理人です。つまり胡さん、羅安さんの孫弟子に当たるわけです。

 そういえば、霍さん、福臨門から一時、マンダリンホテルの「文華」の総料理長を務めていたこともありましったけ。その後、鴻福門、そして、ホテル日航の「桃李」に移り、次いで、深圳、広州へ、なんてことでした。

 胡さん、霍さんと行動を共にし、後にマカオの店などで勤めて後、福臨門が出張料理専門だった頃に腕を奮っていた「肥佬祥」こと祥さんと出会い、台湾へ。その祥さんから、出張料理時代に端を発し、後に洛克道に店舗を設けるようになった香港島の福臨門スタイルの料理を習得。

 羅安さん直系の霍さんから習得した九龍の福臨門のスタイルだけでなく、祥さんから教わった香港島福臨門のスタイルの両方を学んできた、というのが実に興味深い。胡さんの作る料理の背景には、そんな理由があったとわかりました。実際、今回、胡さんの料理を食べれば、そんな印象でしたから。そして、香港に戻り、福臨門に入って日本にやってきたのが12年前。なんて、料理人の足跡をたどってみるのも面白い……ですけど、あまりにも超マニアックすぎる話、かもですね。

 そして、お汁粉と一緒に出てきた「千層糕」。ピーナッツをまぶした「麻沙滋」。いずれも美味でした。
 というわけで今回の「立春宴」、実施までの時間、ゆとりがなく、素材の調達、基本的なコースの組み立ては福臨門におまかせ。多謝!
 次回は素材の調達、コースの組みたて、入念に行うことにいたします。