2011/10/26

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの2

今月の「湯」は「菊花鱸魚羹/スズキと五目のスープ、菊花の香り」。
「海鮮羹」の一種です。
「海鮮羹」だと魚介類色々取り混ぜですが、この「菊花鱸魚羹/スズキと五目のスープ、菊花の香り」、料理名からも明らかなように鱸が主役。
「鱸」。中国料理でも頻繁に使われます。というのも、本来は海水魚ですが沿岸地域を中心に生息し、時には川を遡上。ですから、中国の場合は川を遡上してきたものを料理することが多いわけです。
日本でも川を遡上する鱸があるそうですが、一般にお目にかかることが多いのは沿岸地域での収穫物。出世魚として知られていて1~2年ものは「セイゴ」、3~4年ものは「フッコ」と称され、江戸前の寿司のネタで知られてます。

ウィキなんかによれば「身の質は鯛に似て、柔らかくてクセもなくあっさりしている」なんてありますけど、なじみの寿司屋で食べるフッコは別にして、これまでフランス料理店などで食べたものや魚屋で買い求めた鱸、なんだか泥臭いという印象ばかり。

それに、身の質、肉質ってことでしょうが、鯛に似てるなんてことですが、刺身だと鯛の、コリっとした触感よりもしっとり潤んだ感じだし、火を通せばしゅわっとした感触。グジとかアイナメに似てるんじゃないでしょうか

そんなアイナメなどにも似た肉質、触感、味わいが、実は中国料理にはうってつけ。そういえば袁さんの魚のつみれも鱸が主役でした。そう、中国のように料理にうってつけな淡水魚の入手な困難な日本では、その役割を果たしてくれるってわけです。

川崎さんの狙い目もそんなところにあったはず。とろみを利かせたスープにたっぷり入った鱸の触感は、滑らかで細やか。舌にとろけていく感じです。そして、五目の具材は赤いパプリカ、緑のピーマンにいんげん、椎茸などなど。

とろみの加減、袁さんに比べればちょっと濃い目ですが、ダシの旨さが光ってます。このダシ、旨いなあ!なんて正直思いましたもの。それに「塩梅」、塩加減もとろみと見事に調和。上品で洗練された「羹」です。

それ以上に憎いなあ!なんて思ったのは、菊の花びら。
見た目に秋。香りも秋。これぞ秋の訪れ。
名残りの鱸と秋の訪れを告げる菊花の組み合わせは実にお洒落。

2011/10/25

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れ

ちょー久々のブログアップ。やっぱりまずは「赤坂璃宮」銀座店の月例報告から。
実はブログアップをサボっていた間に「赤坂璃宮」銀座店の料理長が交代。
袁國星料理長は5月に香港に帰国。代わって料理長に就任したのは川崎次郎さん。

横浜の聘珍樓の出身で仙台のホテルで料理長を務めたあと「赤坂璃宮」銀座店に、って伺いました。 聘珍樓、と言えばかつて周富徳さんが総料理長だったところ。その後、謝華顕さんが総料理長となってから本格的な広東地方の郷土料理を紹介し、料理傾向も変わりました。そんなことから川崎料理長、聘珍樓でも謝さん風の広東料理かと思いきや、チョットばかり違いました。

聘珍樓の謝さんのような香港の街場の料理店の広東料理とは違います。
80年代半ば以後、香港の高級ホテルの中国料理店で隆盛を極めた伝統料理を下敷きにした新派(ネオ・クラシック)。その影響を受けた日本の高級ホテルの料理店の広東料理、なんて話がややこしいか。

上品で洗練されたスタイルです。一皿の料理の色合い、見た目の美しさ、素材の組み合わせ、切り分け、素材の分量、その盛り付けがそれを物語る。加えてその味、日本人の嗜好を考慮し、旨味をプラスアルファ、なんてところもそう。

そんな新派的な趣はマンダリン・オリエンタルのセンスの高瀬さんの料理に通じるところがありますが、高瀬さんよりも広東地方の郷土料理、それも街場の料理店のそれを意識している人物だ、なんてこともわかりました。

実はこの夏、スペース・シャワーで放映された岡村靖幸君の特別番組「岡村靖幸のおしゃべりエチケット」でのインタビューの際、対談の場所のひとつになったのが「赤坂璃宮」銀座店。
岡村君が自ら選んだ最新作「エチケット」から選んだベスト5曲に応じて料理5品を選んだ際、色々と相談に乗ってくれたのが川崎料理長。「実は広東地方の郷土料理、好きなんです」なんてことから、番組ではそんな料理もさりげなくチョイス、なんてことがありました。

さて、今月の前菜。これがなかなかのもんでした。まずは画像を!

画像中央の下、ぷっくりふっくらの腿を晒し、その存在を主張するのは鳩、それも仔鳩。仔鳩のローストの「脆皮焼乳鴿」です。まさか脆皮焼乳鴿に出会えるとは!それだけで一気に盛り上がりました。
実はこれまでにも「赤坂璃宮」で「脆皮焼乳鴿」、何度か食べたことがあります。「脆皮焼乳鴿」と言えば、香港では沙田のそれが有名。「赤坂璃宮」の赤坂の本店で焼き物担当の料理長の梁さんはそんな沙田スタイルの「脆皮焼乳鴿」がお得意。

そして「赤坂璃宮」銀座店で焼き物担当の平林君も梁さんの薫陶を受けたひとりです。そう、平林君と言えば「チューボーですよ!」で「未来の巨匠」として紹介された若き料理人。随分前から「赤坂璃宮」銀座店の焼き物を担当し、このところ、その手腕、めきめき。毎月の前菜からわかります。

焼鴨にしろ焼肉にしろ叉焼にしろ、それぞれの下拵え、焼き方、その切り分け、厚みに神経を配った跡がしっかり窺えます。いや、あの、実は私、率直にアテンドの山下さんに、切り方、厚みがどうのこうの、塩味のキメとか下拵えがどうのこうのって伝えていたりする口煩いオヤジなんですすが、まさに打てば響くの例え通り、平林君、必ずしっかりとそれに応えてくれます。

しかも、毎月、私なんかが口にする前に「これ、この厚み、この方が旨いよね」とか「塩味しっかり利いてる」「外はカリっとしてるのに、肉がジューシーなのいいですね。すごく焼き加減よくなった!」なんて会話が飛び出しますから。
今回の「脆皮焼乳鴿」、皮はパリパリ、噛み締めると脆く崩れます。なんてとこ、下拵えの際、もしかして麦芽糖なんか塗りこんだのかなあ。甘味、旨味のためだけじゃなく、窯で焼いた時、照りを生み出すには不可欠なもんです。
噛み締めると、肉汁がほとばしる。濃厚な旨味が口中に広がり、やがて喉元から鼻に独特の香りが立ち昇ります。
「鳩って食べるの初めてなんですけど、旨い!この味、レバーみたいですね」と先月以来参加の新人K君。
「だって、鳩の肉って血の味、鉄分が多いし、レバーと似たようなもん」と知ったかぶりの私。

ところで、この鳩、茨城で養殖した鳩だそうで。フランス料理店なんかに卸してる鳩なんでしょう。
で、ミマスの鳩?なんて思って山下さんを通じで確認してもらったら「ジャフレーだそうです」と山下さん。
あ、それ知らない。知らなかったんで検索したんですが、茨城で鳩が養殖され、フランス料理店や中国料理店に流通してるのはわかりましたが、その品種の実態は不明のままです。

今回の仔鳩、香港で食べることが多い石岐産の「乳鴿」よりも味が濃い。血の味、鉄分と脂肪が漲ってる感じです。一体、何週間飼育もの、なんでしょうか。その下拵え、塩味しっかり。それが実に効果的。
「お塩を用意しましたので、これをつけて召し上がっても」と山下さん。
以前、触れたことですが「赤坂璃宮」の赤坂店で某女史主宰の「鳩を食べる会」に参加した折り、レモン汁入りの塩が添えられてなかったのでお願いしたところ「もう鳩に味がついてますから」とあえなく却下。トホホ!
しかし、そんなことでくじけない私は、ひたすら懇願してレモン汁入りの塩をゲット。
「え、そんな食べ方するんですか?」すでに半分以上食べてた同席の方にレモン汁入りの塩を薦めたら
「なるほど、鳩の塩味、しっかり利いてるから塩は邪魔だと思ったら、レモン・ソルトだと脂のしつこさ抑えてサッパリになるんですね」

今回も、私が画像を撮るのに夢中になってる間に、皆さん、添えられたレモンを鳩に直接かけて食べ始めてたのに気づいて「あ、そうじゃなくって、ほら、添えられた塩にレモンを絞り垂らして、鳩をそれに浸して食べるのがぐっど!」「え、そうなの?」試した同席の仲間「ほんとだ!レモンを直接鳩に絞り垂らすよりも、こっちの方がさっぱり!」
塩を用意してくれた平林君、ありがとう!下拵え、塩味の利き方、皮のぱりぱり、照り具合。噛み締めた肉のレアな感じと血のジューシーな味、香りのする肉の味わい、その柔らかさ、良かったです!