2009/09/30

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店

 おっといけない。今月も危うく月越えになりそうになった『赤坂璃宮』銀座店の月例報告。
 9月に入り『秋の訪れ!』、というわけで9月らしく夏の名残と秋らしい素材を使ったメニューが登場。
 
 まずは前菜、「廣東前菜盆/璃宮特製前菜」ということで焼き物を組み合わせた一品が復活。

 前中央が皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」、その後ろ、左から「叉焼」、伊達鶏の醤油漬けの「桶子豉油鶏」、家鴨の焼き物の「焼鴨」。その右、ちょっと離れて、鶏肉のレバーの焼き物の「蜜汁鶏肝」。

 「焼肉」の皮の「ぱり、さく」感、肉のしっとり具合。
 「叉焼」や「鶏肝」のタレの甘味の按配、「焼鴨」の皮の焼き具合、「伊達鶏の醤油漬け」のこくがあってひねた感じもする漬け汁がしっかり染み込んだ皮、その上に「葱」の微塵入りの付けタレがちょこんと乗っかっているのが面白い。そして、肉のしっとり感。

 以上、4品、見かけはこれまでの前菜と同じようですが、口して、唇や舌に触れる触感、噛み締めた時の皮や肉の質感、味付け、風味が、これまでと微妙に違うってことがわかります。

 お皿の左に添えられた野菜3種、「茄子」、「金針菜」に、なんと「はぐら瓜」。
 「はぐら瓜」は以前、埼玉、東松山の加藤紀行さんのを紹介したことがあります。「白瓜」の一種らしく、「白瓜」と「まっくぁ瓜」を交配させたもの、なんて話もあるそうで。その果肉、「白瓜」のような瓜らしいぱりっとした触感がありながら、瑞々しく潤んでいて、青い味、酸味と、なによりもフルーティーな甘さがあるのが特徴。

 今回の「はぐら瓜」、ぱり感があっても、青さ、青い味は過ぎて、瓜特有の清廉な味わいにちかく、甘味も控え目。 ほんの少しの「はぐら瓜」ですが、夏の名残。その存在をしっかり主張。

 3種の野菜は3様の味付け、切り方(包丁仕事ですね)による触感の差異、これまた、唇、舌に触れて、噛み締めてわかる、という寸法。奥の「海蜇(くらげ)」は、パリポリの噛み応え。しかもメリハリのあるきりりと引き締まった味付けと、そのパリポリ感がマッチング。

 この前菜、小さなお皿にそれぞれ一切れづつながら、それぞれの味、触感の変化が色々楽しめます!

2009/09/27

中秋節~月餅の3

 月餅については、一時、病み付きになり、中秋節の前後には四個入りの月餅の缶が山積み状態、なんてことも珍しくありませんでした。20缶とはいかないにしても、軽く10缶を越えるのはざらでした。

 どうして10缶を越える月餅があったのかと言えば、凝り性の私、評判の店の月餅を食べ比べてみたかった。ただ、それだけの理由です。蓮の実餡の「蓮蓉」も、オーソドックスな「紅蓮蓉」がいいか、「白蓮蓉」がいいか。「鹹蛋」は何個入りがいいのか。それに、小豆餡の「豆沙」、ナッツ入りの「五仁」、さらには「火腿」、「咸肉」入りなど、興味あるものはほぼすべて試しました。

 ということでの結論。まず「鹹蛋」の黄身の数ですが、8切れに切り分けて食べることを考えると、2個か3個入りがいいってことになる。もっとも、2個でも、場合によっては「鹹蛋」の居場所、ちょうど真ん中だといいんですが、そうじゃない場合、餡とのバランスが悪くなる。3個だと、まんべんなく「鹹蛋」がいきわたりますが、場所によって「鹹蛋」の分量が多くなる。

 さて、2個の「雙黄」にするか「三黄」にするか、迷うところです。ところが、店によって餡の良し悪し、というか、好みがある。それに「鹹蛋」、独得のクセがあるもの、いい店とそうでない店がある。ということで、店によって「紅蓮蓉」か「白蓮蓉」、それに「雙黄」か「三黄」を決めるという方針に決定。

 なんてことで、私の好みは「紅蓮蓉」の「雙黄」なら「恒香」、「三黄」なら「奇華」。「白蓮蓉」なら「栄華」ですが「蛋黄」にくせがある。小豆餡の「豆沙」なら「奇華」。「五仁」、「火腿」、「咸肉」なら「恒香」か「蓮香楼」、なんて、物好きもいい加減にしてくれ!と我ながら思います!

 実は「五仁」に「火腿」は「高陞」のがこれまで食べた中でベストでしたが、とうの昔になくなっちゃって、今や幻の味。そういえば、香港で広東料理店からファーストフードの店まで手広く経営する美心集団の「月餅」。

 最初の頃は、なんだかなあ?という印象だったのが、ここ最近「蓮蓉雙黄」の餡、及び蛋黄の質が向上!ファーストフード・チェーンが作る「月餅」もばかにできないもんだ!と関心したこともあります。

 香港のほとんどの広東料理店では、店独自の「月餅」を用意。本来は顧客に配るものとして用意。長い付き合いのある顧客には「月餅」が届きます。それが、やがて一般販売も開始。老舗の「月餅」に対して、それぞれ工夫あり。なんてことで、顧客でなくとも、色んな店の「月餅」が手に入ります。そういえば、香港の香港島店、九龍店でも「月餅」の一般販売を開始、なんて話を聞きました。
 
 以前、中秋節の頃に香港に滞在していた時には、部屋の中に各店の「月餅」が山積み状態。しかも、そのすべてを賞味して味比べ。なんて、私、凝り性というより、馬鹿丸出し、ですね。

 そういえば、一時、話題になったのがペニンシュラホテルの「嘉麟楼」の「迷你月餅」。毎年、必ずゲットしていたほどでした。ところが、ある時期を境に、質が落ちたんで入手を中止。最近はどうなってるんでしょうか。

 そんな広東料理店独自の「月餅」ってことでは、日本の「福臨門」のそれが悪くない。小ぶりのものと大きいもの、2種ありますが、大きいのがいいですね。日本で入手出来る「月餅」では極上、最上級のもの。その洗練された味、風味は格別です。とりあえず今年はまず小ぶりのものを賞味。大きい「月餅」が楽しみです。

2009/09/23

中秋節~月餅の2

 日本では一年中販売されている新宿の中村屋の「月餅」がことに有名。「月餅」と言えば中村屋のそれを思い浮かべられる方が今だに多い。ですが、中国ではこの時期限定のもの。しかも、地方によって特色があります。

 北方の北京、天津などの京式。中部の上海近郊、江蘇/浙江省では、前項の「蔡菜食堂」でも触れてきた通り、主要都市、隣合わせの土地でもそれぞれ料理に特色があるように、「月餅」もそれぞれ異なる。そのうち「蘇州式」の「月餅」を食べたことがあります。 さらに、私は未体験ですが、西部の四川、雲南あたりでも、独自の「月餅」があるんだそうで。

 そういえば、日頃、中国事情をご教示いただいている東山堂ベーカリーの原田さん。私が香港の師と仰ぐひとり、邱永漢さんと共同出資でパン、ペストリーの製造直販とカフェのQ’s Cafeを北京で運営。  今では日本式の美味しいパンやペストリーが話題を呼び、地元では評判の店。ですが、開店当初、北京の地元の人にはパンもペイストリーも馴染みがなく、苦労続き、だったそうで。

 ところが、中秋節の時期に、ひと工夫した斬新な「月餅」を売り出したところ、日頃のベイカリー&ペイスリー類よりも高い値段だったのにもかかわらず、好評を博し、それまでの赤字を一気に取り戻すほどの売り上げを記録、なんてことがあったそうです。

 ともあれ「月餅」となると、中国の人は目の色を変えます。伝統的なスタイルの「月餅」もさることながら、斬新な新趣のものにはすぐ飛びついて、競って手に入れようとする。値段の高さはお構いなし。むしろ、斬新、奇抜、しかも、値段の張るものほど、評判を呼んだりする。見栄っ張りな上海人はもとより、北京人も「月餅」に関してはそうだ、というのですから驚きです。

 はたして、本土の事情は詳しくは知りませんが、香港あたりでは、名月をめでながら食べるだけのものではなく、日頃、お世話になっている方への贈答品として欠かせない。言ってみれば日本の盆暮れの挨拶、お中元やお歳暮に匹敵するのもの。

 かつて庶民の暮らしが決して豊かでなかった頃も、その習慣は守られ、しかも、有名どころ、老舗の月餅を用意してお世話になった方に送ったそうです。といって、その出費、ばかりなりませんし、一時に支払うのは容易じゃない。

 そんなことから、毎月、少しずつお金を納めておいて、そのために準備する、なんて「月餅講」のようなものもあった、なんてのは、香港の食の文化史を紐解けば、明らかになります。

 さて、「月餅」。各地方ごとにそれぞれ特徴あり。とはいっても、基本は、ほぼ同じ。その皮は、それぞれに工夫を凝らし、なかには一年あまりかけて寝かせながら作る砂糖を主体にしたシロップ状の「糖浆」、「糖膠」と小麦粉などをまぜあわせたものが主体。

 そして、その餡にそれぞれ特徴がある。
 広東式でもっとも一般的なのは、香港にもその流れを汲む店がある広州の蓮香樓がその原型を生んだとされる蓮の実で作った「蓮蓉」の餡をベースに、家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」を加えたもの。

 ちなみに蓮の実の餡の「蓮蓉」には「紅蓮蓉」、「白蓮蓉用」、「黄蓮蓉」の三種があります。その違い、使う砂糖の種類によって違うようです。さらに具に加える「鹹蛋」が一個なら「蓮蓉蛋黄」、二個なら「蓮蓉雙黄」、さらに「三黄」、最も多いもので「鹹蛋」四個入りの「四黄」と、個数によって呼称が変ります。それに「蓮蓉」以外に小豆の「豆沙」、緑豆の「緑豆」などもあります。

 蓮の実、小豆などの餡以外に、木の実、干した果実を主体にしたもの、さらに、中国ハムの「火腿」や塩漬け肉の「咸肉」などを餡にしたものもあり。ですが、一般的に有名なのは蓮の実の餡による「蓮蓉」のもの。しかも餡はしっとり、潤んでいるのがその特徴。香港の月餅のほとんどは、以上、「広東式」に準じたもの。

 北方の「京式」では、干した果実、木の実を餡にしたもので、しかも、乾いた干し菓子風なのがその特徴。それが上海近郊の「蘇州式」では、皮が薄くて脆く、さくさくの「酥」状態。そうだ、日本の上海料理店で食べられる大根のパイ、あれに近い感じで、皮に焼き色がつき、餡に工夫があり。

 その見かけ、先に紹介した「潮州式」に近い。ですが、揚げるんじゃなくて、オーブンで焼いたものと直火焼きのものがあり、焼き色がついてます。餡は木の実、干した果実、小豆餡などによる甘味のある「甜月」、それに「火腿」、「咸肉」などの干した肉類を主体とした「咸月」がある。

私は香港の料理研究家の莉沙女史のお宅で御馳走になりました。他に蝦入りのものがあるってことで、干し蝦を餡にしたものかと思ってましたが、どうから蝦を加工したものらしいくって、私は未体験。

 そして「潮州式」の月餅。潮州は広東省の一部ですが、料理がそうであるように、独自のものがある。ことに「汕頭」のものが有名です。そんな潮州、厳密には汕頭の南、潮陽県の貴嶼地方の伝統的な餅、飽、菓子類を香港で製造、販売しているのが九龍城市の城南道にある「和記隆」。日常的な懐かしい菓子類などと同時に、婚礼をはじめ祭事に欠かせない菓子類を手広く販売。

 城南道にある販売店は、昔ながらのお菓子屋さん風の店構え。目の前にある潮州料理の「創發」に出向くたび、ついついのぞいてしまいます。

 日頃はおばあちゃん、おばちゃんがおやつのお菓子を買いに、とまあ近所御用達の風情ですが、盂蘭盆に入ってからは看板の「潮式」それも「百合酥餅」を求める人だかりで一杯。

 確か「百合芋泥餅」は、一年中、手に入れることができたはず。ですが、各種の「百合餅」がで早漏のは盂蘭盆に入ってからで、中秋節が終わるまで。最近では「鹹蛋」入りの「百合餅」を売り出してますが、どうやら昔ながらの「百合餅」の人気、評判大。 九龍城市におでかけの際、「創發」にでかけたついでに是非、のぞいてみてください。

 画像はいずれも「和記隆」のもの。パンフレットは勝手に借用なんで、問題ありの際には削除します。

2009/09/21

中秋節 月餅

 今年の中秋節は10月3日。いつもより遅めの中秋節。そんなわけで、今年は10月早々まで台風がやってきそう!なんて話、香港の人たちの日常会話で語られそう。実際、農歴(旧暦)は、その年々の季節をかなり正確に反映、なんてみんなよくいいます。

 中国本土では今年は国慶節と中秋節が重なることから、その前後の公休日を調節し、代替休日などを生んで史上最長と言われる8連休が実現。春節以来の帰郷客、さらには経済成長を反映した海外旅行客が続出、なんて話です。ということでは、それでなくとも昨今銀座、新宿あたりで目立つ中国人観光客が、一挙増大という事態になりそうで。

 ところで、中秋節といえば「月餅」です。「月餅」が生まれた逸話について・・・なんてのはネットの検索におまかせ。そして、中秋節の前後、我が家には各種の「月餅」が到着。

 まずは香港から長年の知人、Oさんが送り届けてくれた九龍の和記隆の潮州式月餅の「百合芋泥餅」。普通、月餅といえばオーブンで焼いたものが主流ですが、和記隆の潮州式月餅は揚げたもので「酥皮」、さくさくの皮、が特徴。そのため、持ち運びしてる間にさくさくの皮がもろもろに崩れ落ちます。

 日本にそのまま持ち帰るのは至難の業。危険物取り扱いの要領で、慎重に慎重を期して持ち帰ります。航空便で送ろうものなら、原型を止めぬ無残な姿に変わり果てて到着。
 その点、Oさん、抜かりなくパーフェクトなパッキングで送ってくれました。1個、わずかに一部裂傷があった以外、お店で売っているそのままの姿でのご対面。大感激です。Oさん、どうも有難うございます。

 本来は、ひと箱、一種、4個入りですが、Oさん、いつも店に交渉し、各種、一個ずつとりませて。それが、今回は、私の一番の好み「芋泥」だけの詰め合わせ!
 さくさくのパフィーな皮、しっとり、ねっとり、舌の上でとろける(まさに「綿」というにふさわしい)「芋泥」の餡の美味、しっかりと味わいました!  

2009/09/17

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!の6

 「雲呑」が来る間にボードを睨み、次なるメニューを算段。
 「黒醋のスペアリブ」がないなら「豚レバーの炒め」にしようか。
 それより野菜を素材にした料理かな。
  気になるのは「黄ニラとおもち炒め」。
 
 「これ「韮黄炒年糕」でしょ?「年糕」の炒めもの?」
 「そうそう「トック!」という王さんの話に、私はドギマギ。
 「え!?「トック」?韓国のお餅なの?「年糕」じゃないの?」。
 「そうそう、「年糕」よ!」 なんて聞いて、ひと安心。

 そうか!「年糕」と言うより、韓流以来の韓国料理ブームからすれば、「トック」の方が、わかりやすいかもね。とすると「トッポギは?」なんてツッコミを入れたくなる関西人の私ですが、王さん(「寧波系」)上海人ですから。

 「調理、味付けは「寧波風味」なんでしょ?「寧波」の名菜のひとつですよね「炒年糕」は!」と、いつも通り、私は知ったかぶり!
 「あの「里芋と葱油炒め」って「葱油荔芋」だっけ?」
 「いや、こう書くの!」と、私のノートの「葱油荔芋」を「葱油芋奶」と訂正。

 「そうか、「荔芋」だと「タロ芋」になっちゃうか。里芋の「芋奶」ね」。
 「そうそう!」と王さん。
 「う~ん、今日は一人だしな、時間も時間だし、2品は食べきれないかな……」
 「少なめにすることもできますよ!」と王さん。
 「でも、一品にします。「葱油芋奶」にします!」

 「里芋と葱油の炒め」は中国の家庭料理の定番的なメニューのひとつ。地方ごとに特色があって、ビミョーに調理、味付けが違ったりしますが、有名なのは浙江地方のそれ。ことに寧波の渓口、そうです!蒋介石と王さんのお母さんの故郷ですが、その渓口の奉化は、里芋の一種である「芋奶頭」の名産地。それに奉化の「芋奶頭」は評価が高い。

 奉化の「芋奶頭」を素材にした「奉化芋奶頭」は浙江省寧波の名菜のひとつに数えられるほど。それに「葱油芋奶」は、代表的な郷土料理、家庭料理。寧波風味を特徴とする「蔡菜食堂」では、本場そのままの調理、味付けのものが食べられる!と、期待も膨らみます。

 「葱油芋奶」と言えば、思い出すのは六本木、TV朝日通りの突き当たりの中国飯店。上海料理が看板の店ですが、香港、上海の食堂で食べられるような郷土料理、家庭料理のはそんなになかった。徐さん。愛想が良くって、いろいろな注文に応じてくれるんですが、たいていピントハズレ。そんな時「こんなのもあります!」ってことで出してくれたのが「葱油芋奶」。
 そんなことから、中国飯店に行く度に「排骨面」ととともにリクエスト。

 「蔡菜食堂」の「葱油芋奶」。 かつて中国飯店で食べていたそれとは違いました。中国飯店のそれは、油濃く、塩味もしっかりで濃厚な味。日本の一般的な中国料理店で出会うことの多い、味が濃くって、ぼってり、どってり、こってりの重さが特徴。

 それからすると「蔡菜食堂」の「葱油芋奶」は、すっきりと爽やか。優しくて、穏やかです。しかも、塩味、やっぱり、味の要。ですが、例えば前菜の料理の数々や「雲呑」のスープに比べれば、きりりと味を引き締めるような使い方、印象でもない。塩味は利いていても、すんなり、すっきり。

 それに油を使ってあるのに、脂っこくない。しつこさ、くどさがない。油を使いながら、その効果、効用を、しっかり見極めたような感じの調理、味付けです。それも、プロのそれ、というよりも、家庭料理のそれ、いわばお袋の味的な、工夫や技がある。

 それが証拠に、口にして、咀嚼して、喉奥から鼻筋に抜けていく香りが印象的。しかもその味付け、メリハリを利かせた「料理人の技」的な大むこうを唸らせる様なこれ見よがしなものじゃない。ま、率直に言っちゃえば、だしが弱い。家庭で作るだしの味に近い。ですが、それが、素直で実直、素朴で飾りっ気がなく、無理のない自然な味、風味を生み出してます。丁寧に、丹念に、真心こめて作った家庭料理のそのままの感じ。

 ねっとりとしていて、ホクホク。じゅわと味が滲み出る芋のうまさは格別です。 それも甘辛の芋の煮っころがしのような、田舎っぽさ素朴さをむき出しにしたものじゃない。かといって洗練の技というのでもない。

 心と体に優しい味、風味。というだけでなく、そこにはしっかり何かを見据えた跡、気配、知的な観察による工夫と努力がある。子供の頃に馴染んだ味をそのままに再現、ってことだけじゃなくて、そのひと味の工夫に蔡さんらしさ、王さんらしさがある。二人の結晶、見事な成果です。なんとも奥深い!

 ご飯と一緒に食べたくなって、白いご飯を注文。評判の焼きそば、炒飯は次回回し。こんど何人かで寧波風家庭料理によるコース料理、頼むことにします。その為に、どんな料理が他にも可能か、しっかり、下調査して質問攻めに!

 ともあれ、念願の「蔡菜食堂」デビューを果たしたのでありました。

2009/09/11

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!の5

 「雲呑」。見かけはぷっくりふっくらの「雲呑」。
 れんげで掬って、熱、熱に用心しながら頬張ります。
 つるんと滑らかな舌ざわりの皮(は、どうやら自家製じゃない感じ。というのも皮が均一)。ですが、雲呑の包み方に年季とワザ、というよりも慣れた日頃のやり方通り、そのまま、なんて感じなのが面白い。

 噛み締めれば、餡はねっとり、じゅわと肉汁が滲み出る。広東式の「鮮蝦雲呑」が馴染みの私は、意表をつかれた感じ。
 そう、広東式の「鮮蝦雲呑」だと、蝦のぷりぷり感が、最初に来ますから。

 つまりは餡の素材、蝦と肉の分量の違い。それに、餡の調味、練り方に工夫ありということになる。それに、香辛料が鼻腔をくすぐります。香味野菜も興味津々。生姜のひり味なんかも関係ありそう。ですが、いずれも押し付けがましくない、その按配が憎いです。
 「ね、これ「鮮蝦雲呑」ですか?」とおかみさんの王さんに尋ねました。
 「そうじゃなくって……」
 と、我がノートの「鮮蝦雲呑」の「鮮蝦」の間に「肉」の文字を書き込みました。
 「そうか!「鮮肉蝦雲呑」なのか!」。なるほど、蝦のプリプリよりも、餡のねっとり加減、肉汁が滲み出てくるワケはそんなところにあったのだ!と納得。

 私は未体験ですが「蔡菜食堂」の「餃子」。ネットなどでは評判の品。「鍋貼」の焼き餃子にしても「気をつけないと熱い肉汁が飛び出しますらから要注意!」なんていう書き込みにも納得。となると「餃子」も試したい。それよりも「湯包」を入り焼きにした「生煎包」が興味津々。

 そんな「雲呑」のスープ。
 「私は、雲呑をそのまま茹でたのが好きなんだけど、主人が作るのは「もみじ」で取っただしを使ってます」とおかみさん。

 そんな鶏の「もみじ」で採っただし。極上ってわけじゃありません。鶏肉そのものが生み出す濃密で濃厚で、ちょっとしたクセのあるだしってわけじゃない。むしろゼラチン質、コラーゲンが立っているような感じ。

 ですが、丹念にとられていて、素朴、純朴、すっきりとしていて清廉。そんなだしを塩で味付け。だしの弱さを塩味で加味。もっとも、塩味に弱い私にはいささか塩味が立つ濃い味の印象。おまけに、ちょいと垂らしたごま油の甘味、風味が利いています。

 もっとも、その塩加減、塩梅ですね、それにごま油の使い方、日本の中華のそれとはなんだか違う。明らかに違う。スープをきりりと引き締め、塩味が立つような味加減の「塩梅」。というあたり、やっぱり「寧波風味」が顔を覗かせてるってことでしょうか。

 それより、塩使い、その塩梅、使い方のセンス、日本人とは全く違います。それはプロの技というよりも、中国中部から南方にかけての家庭料理でのそれ。ほのぼのとしてなごめる味わいです。それこそ「蔡菜食堂」の人気の秘密、なのだと納得しました。

2009/09/09

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!の4

 隣の席で、ひとりビール手酌のアラサーリーマン兄さん。
 私と蔡さん、王さんのとのやり取りに、怪訝顔。
 というより、ただただ唖然、なんだかワケもわからず、あきれ返ったような面持ち。

 どうやら、おつまみ盛り合わせに「骨付き蒸し鶏」はすっかり平らげ、次なる一品、どうしようかと思案顔。
 「ここ、よく、お見えになるんですか?」と私。
 「ええ、ここから歩いて一分のところに住んでるもんで、ちょくちょく」
 「こういう店、中野とか、この沿線にあります?」
 「ない……ですね。ここみたいな店は」
 「って、この味、こういう感じの料理?」
 「そうです。ありそうで、ないんですよ、この店のみたいなとこ」
 「うらやましいなあ。私も近くに住んでたら、しょっちゅうきますよ。
 あの、ここね、びっくりしちゃたんだけど、「寧波」の味なんですよ」
 「………………ン?????」
 「いえ、あの「寧波」てのはですね……ま、あの上海の下で……」
 「………………はぁ?????」

 そこに王さん登場
 「次、どうします?」とアラサーリーマン兄さんに。
 「あの、黒醋のスペアリブあります?」
 「ごめんなさい!今日はなくなっちゃった。「青椒肉絲」なんかどうですか?ほら、いつもおいでになっても、ビール飲んでらして、ご飯とかあまり召し上がらないし、野菜たっぷりってことで!そう、ピーマン多めにしたのなんかどうかしら。」と、薦め上手なおかみさんの王さん。
 「そうですね。じゃ、それで!」

 キッチンに向かって注文し、再びわが席に戻ってきたおかみさん。
 「あの、今日「香菜」たっぷり入った雲呑、なくなっちゃったんだけど「海老の雲呑」なら出来ますが、如何です?」なんて、ほんとに薦め上手。

 海老の雲呑なら「鮮蝦雲呑」。私が即座に思い浮かべたのは香港、広東式のそれ。おっと「蔡菜食堂」は上海の家庭料理が看板だ。しかも「寧波風」というのが頭をもたげてきて興味津々。
「それ、いいかも!食べます!」。

 「それより、さっき話に出た「黒醋のスペアリブ」。この店で評判なんですね。それって「糖醋排骨」?」。
 「そうですよ!」。
 「「排骨」の料理っていろいろあるでしょ?上海の周りの地域でも違うし。ほら「無錫排骨」とか」
 「そうね、あれは「排骨」を甘辛い味付けで、柔らかくなるまで煮込んだ料理ね。うちのはあれとは料理方法も違って「黒醋」で味付けした「糖醋排骨」」。

 なんてことで、上海及びその周辺のそれぞれに特徴ある「排骨」や豚肉の料理話で盛り上がります。
 どうやら塩漬け豚を使った「腌篤鮮」なんてのも期待出来そうだ。

 そして「雲呑」が登場!

2009/09/08

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!のおまけ

 「寧波」は中国中部、浙江省の北東部、杭州湾をはさんで上海とは対岸に位置する所です。かつては上海などよりも港湾都市として開け、日本とは唐時代から交流があり、元寇、倭寇、さらには日明貿易の拠点にもなったところ。もっとも、19世紀末から20世紀初頭、交易都市として上海がとって代わり、都市としてた時代、多くの寧波人が上海に進出。上海の都市建設、繁栄に関わってきた、なんてこともあります。

 そんな上海の食、上海料理については、これまでにも触れてきたとおり、都市建設の過程で上海周辺から流入してきた労働者への簡易食、と同時に、周辺各地の特徴ある料理が持ち込まれ、形成されてきた、という歴史があります。

 簡易食の代表的なものは「上海小吃」として語られる「湯包」、それに生湯葉の「百葉」、小麦粉から作られた「面筋」。それにかん水などを使わない麺類の「饂飩」などがそれ。

 「湯泡」というのは餡入りの蒸し饅頭で、スープ入りの「小籠包」はまさにその代表的なもの。ですが「あれ(小籠包)は「南翔」のもの。断じて上海の「小吃」ではない!」とし、それより、餡入りの「湯包」、それを煎り焼きにした「「生煎包」こそが上海の「小吃」だ!」なんて主張する向きも。

 そんな上海の都市建設を担う最中に発達し、発展した簡易食も、多くは上海周辺の人々が上海にもたらした地方食を土台に誕生したもの。と言うことに関しては、異論の向きもないようで。同時に、上海周辺の地域から、それぞれ独自性のある食文化が上海に持ち込まれ、そうした料理店が相次いでうまれて、混在。それが、いわゆる上海料理を形成した、ということになるわけです。

 それにしても、面白いことには、上海周辺の地域、たとえば寧波が属する浙江省に点在する都市ごとに、その距離、わずかなものながら、それぞれ独自性のある食文化を形成。
 そうです、ほんの少し隔たりがあるだけで、まるっきり調理方法、味付けが違ったりするからです。

 たとえば、浙江省、最大の都市は杭州。洗練された独得の調理、味付けによる食文化がある。さらに、温州や紹興酒の本場である紹興、金華火腿で知られる金華など、それぞれ特有の食文化が存在という具合。

 さらに、上海周辺の地域ということでは江蘇省の存在も見逃せない。かつて都だった南京、塩を中心に物流の中心地として栄えた揚州、さらに、蘇州、無錫、醋の産地として知られる鎮江など、これまた、それぞれに特色のある食文化が存在。

 という中にあって「寧波」は、沿岸部に存在することから、海産物を素材する歴史があったこと。長江の河口周辺の地域に特徴的な醤油、味噌などの醗酵調味料を味つけの主体にしたこと。

 さらに、江蘇省に点在する都市などで嗜好された砂糖などによる「甘味」は控え目。どちらといえば塩味主体の料理が発達。それに、素朴でひなびた味、というのもその特徴に挙げられるかも。というは、私の個人的な見解も加味してのものですが。

 強引な例えですけど、かつての江戸、現在の東京の庶民の味、一般的には醤油に甘味が加わった甘辛の味がその典型じゃないと、と言う印象。しかも、昆布ではなくてかつおだしが主体。そば汁こそがその典型、ですよね。

 そういや、過日、神保町の鮨屋の若い親方、おかみさんとの話。 ひいきにしてる油揚(お揚げ)があって、川越の小野食品のそれ、なんだそうで。しかも、胡麻油仕上げのみ、花生油が入んないのが好みなんだとか。

 それはともかく、その油揚げ(お揚げ)でお稲荷(あ、稲荷鮨です)を作るとき、煮含めるだし、かつおだしだけ!なんて話を聞いて、驚きました。なんせ、神戸と大阪出身の我が家で、稲荷鮨にするにしろ「きつねうどん」の具にするにしろ、昆布とかつおのだしで煮含める、というのが基本ですから。カルチャー・ショック。

 話戻して、かつての江戸、現在の東京を支える労働力などの源になった簡易食、それに日常の食の味、東京と関東周辺のそれとはいささの差異があるようで。
 江戸の、現在の東京の一般的な庶民の味、その嗜好、傾向は甘辛味。東京周辺の関東地方の味、風味って、醤油と同時に味噌などがふんだんに使われ、甘味よりも塩味が立っていて、素朴、朴訥な趣がある。

 「上海」の料理と「寧波」の料理、その味、風味の違いは、そんな風に例えられるのではないか、なんて思ったりして。

2009/09/07

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!の3

 「ね、ね、蔡さんもおかみさんの王さんも上海生まれの上海育ち、なんですか?」
 「そう、二人とも。私は、淮海路の近くに住んでたのよ!」とおかみさん。
 「そうですか。ですけど、この「三鮮烤夫」の煮込みの味付けとか「五香燻鯖魚」の味付け、調理。それにピーナッツの揚げ物の「炸花生」なんですけど、上海っていうよりも、なんだか「寧波風味」なんて感じでなんで……いや、その「味道」が!」。

 「エ!?「寧波」って、私も主人も、両親は「寧波」の出身なんだけど。ここの料理はふたりのお母さんの味。「寧波の味」て言われれば、確かにそうですけど。でも、なんでそんなことがわかっちゃうの?」

 「いえ、あの、味付けとか、調理法とかもそうだけど。ほら、醤油味しっかりだけど、上海系の料理みたいに甘味が強くなくって、むしろ、塩味が立ってるでしょ?だからですけど、違うのかな?」

 キッチンに駆け出したおかみさん。
 「ね、ね、「寧波」の味がするって!」と、蔡さんに報告の声が聞こえます。
 やがて蔡さん、キッチンから登場!
 「なんで、そんなことわかるの?この「三鮮烤夫」にしても「五香燻鯖魚」にしてもそうなんだけど、特にピーナッツの揚げ物ね、これ、特別なのよ。工夫してるの」と、蔡さんはにんまり。

 「いえ、あの、ほんと、味付けが「寧波」風だから!」
 と、蔡さんの勢いに気圧されながら後ずさり、なわけないですけど。当たりだったわけです。

 それより「寧波風味」の「家常菜」、おふくろの味に出会えるなんて!
 「すげえいい店みっけ!」ってことで、嬉しくなっちゃいました。

 「実はうちの奥さんのお母さん、「寧波」の「渓口」の出身でね。蒋介石の出身地なんですよ。それに、奥さんのお母さんのお兄さんは、蒋介石と同級生!」
 なんて、いきなり「寧波」と「渓口」と「蒋介石」話が!

 なんだか、すごいことになっちゃった!

2009/09/06

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!の2

 ひと皿にびっしり、数々の前菜がひしめき合うようにてんこ盛り。
 とりあえず行列に並んで、自分の番になり、焦りながら目の前にある料理を手当たり次第、皿の上に並べてあっぷあっぷ、なんてビッフェパーティー初心者的趣のレイアウト!
 飾りっ気も、気取りもなし。家庭料理そのままの盛り付けなのが微笑ましい!
 画面中央が「アンチョビカレーポテトサラダ」。中国料理名は聞きそびれましたがこの店の人気メニューらしくって、「あ、それそれ、そのポテサラ、とっても美味しい!」と、勘定を終えて店を去った隣の女性グループの最後の一言!

 その左隣が「(嫩)酔鶏」。この店の鶏の料理、ボードには「骨付き蒸し鶏」というのがありました。
 「ね、これ、どういうのかな?「白切鶏」?」と尋ねたら「そうそう!」。そのつもりでいたら、皿に載かっていたのは紹興酒風味の「酔鶏」でした。
 それから、時計まわりに木耳(キクラゲ)、揚げ凍み豆腐、ピーナッツを煮込んだ「三鮮烤夫」。次いで、鯖の五香風味の揚げ物の「五香燻鯖魚」。それから漬物と烏賊の和え物の「咸菜烏賊」。さらに「榨菜」、ピーナッツの揚げ物の「炸花生」。

 まずは「三鮮烤夫」。そのうち揚げ凍み豆腐の「烤夫」を食べて、思わず「ン!?」。
 しっかりの醤油味。しかも、甘味が控え目。塩味が立ってます。きくらげの味も同様。ピーナッツの味の加減、風味が実に「鋭い!」。
 
 それから「五香燻鯖魚」。下拵えがしっかり。香辛料、調味料が利いています。それに揚げすぎ!なんて思われかねないぐらいのしっかりの揚げ具合。ところが、それが香ばしさを増す。「鯖」の風味を残しつつ、生かしつつ、「鯖」特有の脂のクセを抑えられてるのが効果的で、実に憎い。

 しかも醤油が効果的に使われ、甘味は控え目。むしろ塩味が立って、酒のつまみ、ご飯のおかずにうってつけ。酒を選ぶとしたら、とろっとしたぬめりのある「紹興酒」よりも、きりりとした「白酒」、それも「ニ鍋頭」などの焼酎こそがうってつけ。

 続いては「咸菜烏賊」。これについてはちょっとしたやり取りがありました!
 「ね、これ「いか」でしょう?だったら「咸菜魷魚」じゃないの?
 「いや「魷魚」じゃなくて「烏賊」でいいの!」とおかみさん。
 「それと、このお漬物なんだけど?」 
 「あ、それは「咸菜」!」
 「でも、「雪菜」でもなくて「芥菜」でもないし、塩漬けでひね味があるんだけど、なんだか「高菜」の漬物みたい!」
 「あ、それ「野沢菜」!」なんて話に、ズル!
  それからピーナツの揚げ物。ただピーナッツを揚げてあるだけでなく、その下拵えというのか、味付け、揚げ加減が絶妙です。このピーナッツの揚げ物に「苔菜」が一緒にあれば、文句なし…… 
 なんて思い浮かべながら「もしかして?」 と思い当たることがありました。

2009/09/05

発見!寧波風味の家庭料理!「蔡菜食堂」は楽しくて面白くて奥深い!

 某日、中野サンプラザでJEROのファースト・コンサート。
 その帰り、念願だった蔡才生さんの「蔡菜食堂」初訪問。
 随分前から「中野においしい中華の店、あるんですよ!」という噂を耳にしてました。
 そんな話を教えてくれた知人が「「dancyu」に紹介されましたよ!」ってことで、見たらびっくり、阿佐谷から数寄屋橋に場所を替えたバートランドでホール担当だった蔡さんじゃない!

 和田さんからも「蔡さんが店を出した!」なんて話を聞いてましたが、何人もの人からの「絶対にお薦め!」なんて話に興味深々。とはいえ、中野に行く機会ってそう滅多にない。山下達郎のコンサートに中野サンプラザに行った際、帰りに立ち寄ったものの、最初は満席、2度目は休日。なんてことで三度目のトライ。

 ところが、玄関の扉を開ければ、満席!
 「今日もだめか!」とあきらめかけたところ
 「あ、私達、お勘定終わったら出ますから、ちょっと待ってて!」なんて声が。
 「ま、ここ、一席あいてますから、待っててください!ここの料理、ほんとに美味しいんですよ!」
 「そう「鶏レバーのペースト」、バードランドより、もっと美味しいから!」 なんて話の展開に、私は思わずどっきり!
 蔡さんに「鶏レバーのペースト」を伝授した和田さんが聞いたら、なんて言うか!、

 「あ、そですが、あのバードランドの「鶏レバーのペースト」って、ヒントになったのがあって、吉祥寺にね・・・・」と言いかけたところ 
 「あ、「竹爐山房」でしょ?」なんて話の展開に「をいをい!」状態!
 「あ、そうか、もしかしてここの御主人とは昔からの知り合いでらっしゃるんですか?」
 なんて逆に質問されて
 「いや、あの、一応は顔見知りで」としどろもどろで、冷や汗だらだら。なんでまた?

 ふと隣をみると、瓶ビール、一人手酌のアラサーリーマン兄い。
 目の前にはつまみの皿。美味しそうなんで、思わず 「あの、それ、なんていう料理で?」と初対面の見知らぬ人でも話かけちゃう私です。
 「蔡菜食堂」では、白いボードにマジック書きで今日のお薦めのメニューが。

 ですが、全部、日本語での料理紹介(当たり前、ですよね)。
 ところが、私、日本語で書かれた中国料理のメニューだと、調理方法とか味付けとかあまりに簡単な表記すぎて、具体的な料理な内容が理解できない、想像がつかないものがある。中国語による表記じゃないと……ほんと、やな中国料理かぶれの知ったかぶりオヤジです。

 サービス担当は蔡さんのおかみさんの王梅玉さん。
 「あの、あそこに書いてある料理、こういうのですか?」
 気になる料理を片っ端から手持ちのノートに漢字で表記。
 「ン!?」なんて表情のおかみさん。
 そうか、私が書いたのは繁体字。簡体字でないと話がすすまない。焦ります!

 そこに蔡さん登場。
 「じゃ、あの、前菜、少しずつ、特別に色々、一皿に盛るから、いいでしょう?それからメニューを決めたらいいじゃん!」
 なんて言葉に、ほっとひと安心。

 で、お酒。
 リストにはビール、紹興酒、ワイン。
 好物のグルナッシュが、でも「オーストラリア?」、なら、ちょっと荒々しいかも。

 やっぱり中国の白酒がいい。
 キッチンに引っ込んだ蔡さんに代わったおかみさんに
 「あのう、白酒、ないかな?」と、リストにない酒を、無理やり強引にリクエスト。
 ほんと、やな中国酒かぶれの知ったかぶりオヤジなんです、私。

 しかも、上海の家庭料理が看板の店に来て、紹興酒じゃなくって、白酒の有無を尋ねるなんて、言語道断、ってやつですか?でも、料理にあわせて紹興酒。甕入りとかじゃなくって年代ものならいいんですけど!なんてキザですよね。知ったかぶりもいい加減にしてくれ!と、我ながら思います。

 「前菜は、やっぱり「白酒」がいいから、くぃっと一杯いきたいし!」
 「でも、白酒は出ないし、ねえ。ちょっと待って、主人に聞いてみます。もしかして「汾酒」があったかも」
 と、おかみさん。

 そこに再び蔡さんがキッチンから登場。
 「これしかないんだけど、いい? 私が普段、一人で飲んでる酒!」。
 なんと「二鍋頭!」、ではないですか!
 「二鍋頭酒」は高粱を元にして作った酒で北京はじめ北方の庶民に親しまれてるもの。「孔府」なんかも、親しまれてます。

 「え!上海人なのに、北方の焼酎、飲んでるわけ?いいです。これ、私の好物ですから。文句ないです、これこれ、これがいいです!でも、こんなの飲んでるの?」。
 蔡さん、結構、お酒がすきなのかも!
 「それより、この店に常備するようにしてよ!」
 初めて訪れたのに、あつかましくねだる私でありました。

2009/09/04

夏・真っ盛り!09年8月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 「鳳爪排骨飯」を終えて、食事は終了。あとはデザートの「甜品」を待つばかり。
 いつも通り、トレーに各種のデザートが並べられ、好みのものをオーダー。
 その前に「かぼちゃ!」が登場。

 「ン!?」。メニューには「家郷小菓子」とあるだけ。かぼちゃを形どった掌の上にのっかりそうなミニサイズの「かぼちゃ」です。

 思わず、ひと齧り。ねっとりの触感で、口あたりは柔らかく、噛み締めると「かぼちゃ」の素朴で自然な甘味がする生菓子。その触感は「ういろう」、もしくは「すあま」系で、ねっとり。ですが、甘味がしっかり。

 橋本さんにその名前、正体を尋ねたら、名前は「南京水晶包」。「皮には白玉粉・抹茶・ヤンバル糖。餡は、南瓜・砂糖・バター・コーンスターチを使用しているそうです」との答え。

 甜点心の種類、いろいろあります。日本で知られているのはそのごく一部。ですから「中国料理ってデザートが充実してないんだよね!」なんていう人は、その実態をご存知ない知ったかぶり。これまでいろいろな甘い「甜点心」食べてきましたが「かぼちゃ」を餡に使い、しかも、かぼちゃ型に仕立てた「南瓜水晶包」は初体験。

 かぼちゃの素朴な甘味、それに、中国菓子らしく油を効果的に、というのが、日本の生菓子とは違うところ。これ、バターじゃなくってラードを使ったら、ますます香港、広東ローカル味になるんじゃないかと。

 そうか、これも「赤坂璃宮」銀座店に7月以来着任の点心長、久保田さんの仕事ですね。
 譚総料理長のもと、広東地方の家郷菜を得意とする袁さん、焼き物の高山さん、点心の久保田さんが加わった「赤坂璃宮」銀座店のこれからの展開、楽しみです。

2009/09/03

夏・真っ盛り!09年8月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 「八寶冬瓜盅 五目入り冬瓜の器入り蒸しスープ」。
 「紅焼活水魚 すっぽんの醤油煮込み」。
 ビッグでグレートな料理が続いた後に登場したのが「鳳爪排骨飯 鶏足とスペアリブのせご飯」。

 「わお!これまたすごいじゃん!」
 何がすごいって、香港の日常の食がそのままテーブルに運ばれてきたからです。 なんていっても、香港の若い人には無縁なものかも。

 そう、かつて香港で、朝飯を食べに庶民が集う店に行けば、飲茶の点心とともに必ずあったのが、この種のご飯。今回は人数分、ひと鍋での盛り付けです。

 普通は小ぶりの丼鉢サイズの「燉盅」に一人分の量で登場。いわば香港版「丼飯」。
 どんぶり鉢状の器に、ご飯がたっぷり。その上には今回登場した具材そのまま「排骨」や「鳳爪」(早い話が鶏の爪先、通称「もみじ」)などを乗っけ、蒸したり、炊いたご飯が供されてます。今でも昔ながらの飲茶を提供する店で、見かけることがあります。

 「あ、こういうのが丼鉢に入ったご飯もの、チャイナタウンに朝食や昼、喰いにいった時にあったわ!」なんて声もあがります。
 「香港とか広東地方の料理店や飲茶の店の定番的な料理のひとつです。 こういう丼飯を食って、しっかりと腹ごしらえ。肉体労働に従事していた人の日常食。

 こういう丼飯でなければ、飲茶の点心でも「鶏球大包」という具入りの蒸かし饅頭があってね。鶏のぶつきり、家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」、椎茸なんが具材で、ともかくボリュームたっぷり。

 昔は赤ちゃんの頭ぐらいの大きさで、私が香港に通い始めた頃、油麻地や旺角、それに香港島の西環や上環、北角にある昔ながらの飲茶の店には、必ずありました。けど、だんだん小ぶりのものになっちゃって」。 ひとりづつ取り分けられた「鳳爪排骨飯」。
 その色あい、香りが食をそそります。
 スペアリブの「排骨」は、黒豆味噌の「豆豉」、大蒜、香味野菜などで作った「豉汁」を味付けにつかった伝統的なスタイル。豚肉から滲み出る油の甘さ、香り、風味が格別で、「豉汁」の塩味とマッチング。

 「鳳爪」はライト・ブラウンの色合い。ってことはたまり醤油の「老抽」なんかが使ってあるのかも。これまた、見かけは伝統的なスタイル。

 ですが「排骨」も「鳳爪」も、塩味、それに、醤油味が少々立った濃い目の味付け感じ。街中の大衆的な広東料理店での味に近い。なんてところがいつもの袁さんらしくない。 とはいえ「排骨」も「鳳爪」ともに、街中の店とは違うひと味、ふた味の工夫があり。

 それにご飯、油、だしを吸い込んでいるのにも関わらず、パラパラにほぐれていて、ドライな感じ。日本の粳米とは明らかに違う触感、噛み応え。糯米?にしては、粘りっ気がなし。はたしてなんだろう?
 以上、疑問を橋本さんに尋ねました。

 まず「排骨」は「豆豉」の「豉汁」を使ったもの。
 「鳳爪」はオイスター・ソースの「蠔油」に、「柱侯醤」、北京ダックを焼く時の下拵えの調味料の「片鴨醤」も加味、だそうで。 そうか、それが一味違う、こくと風味の元、だったのですね。

 それにご飯、「タイ米」を使用。日本の粳米と味、触感が違うのも当然だ。」 それより、会議の途中で、電話。ということで、部屋を抜け、終わって、部屋に戻ってみたら、部屋の中の匂いは、香港の広東料理店そのもの。それも街中の店に紛れ込んだような錯覚に陥ったほど。

 それにしても「鳳爪排骨飯」、香り、風味の強烈さ、そのインパクト、香港の広東料理店の、しかも大衆的な店の朝や昼の飲茶のそれ。楽しくて、嬉しくなります。と同時に、その味、ちょいと油の加減が大目なのと、味付けが濃い目、なのがなんだか気になる。

 いつもなら洗練された上品な仕上げにする袁さんが、あえて香港のくだけた大衆的な店の味に近い直接的な味、風味にしたのは、何故?

 その理由、橋本さんに尋ねて氷解。
 というのも「鳳爪排骨飯」、いつもは締めくくりの「面・飯」は本来は鍋が担当。それが今回に限り、この7月から「赤坂璃宮」銀座店の点心長に就任した久保田さんが担当、だってことでした。香港の店でも修行体験あり、という久保田さん、地元のあの味、病み付きになったんでしょうね。

 ついでに、焼き物の担当。先月から「赤坂璃宮」赤坂店の高山さんが銀座店に移動。
 なんてことで、先月、今月の焼き物の違いにも納得。
 橋本さんに確認して、ここで書くなんて、なんだか後出しじゃんけんみたいなことになっちゃいましたが、その変化、ビミョーに察知、っていうのは一応、先に橋本さんに尋ねた際に、報告済です。
 ともあれ香港の飲茶気分をしっかり堪能。ですが、それだけじゃなかったのです!

2009/09/01

夏・真っ盛り!09年8月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 次いで登場したのが「紅焼活水魚 すっぽんの醤油煮込み」。
 メニューに「八寶冬瓜盅 五目入り冬瓜の器入り蒸しスープ」とともに、この料理名を見つけて、私は興奮。すっきり清廉な味わいで体内の熱を放射し、すっきり爽やかな気分にしれくれる「八寶冬瓜盅」もいいですが「紅焼活水魚」はそれを凌ぐ私の好物。

 すっぽんは滋養効果のある食べ物、だってことは多くの方がご存知のはず。精を付けるには格好。それに、甲羅の端っこ縁側の部分はコラーゲンたっぷりで美容効果は絶大。とはいえ、その形態から遠慮されがち。

 それにすっぽん、体を温める効果大ってことから、冬の料理とされがちですが、関西あたりでは夏場に精をつける料理として一般的、なんて話、以前にもしたような。そうです、スッポンを丸ごと料理した「まる鍋」はその最たるもの。とはいえ、値段のはる高級な素材ですから、そう簡単には手が出ない。

 すっぽんを素材にした代表的な広東料理といえば、やはり「紅焼水魚」。すっぽんの醤油煮込みです。はたせるかな「赤坂璃宮」銀座店、袁さんの手になる「紅焼水魚」。その基本を守りながら、独得の工夫がありました。

 素材のすっぽん、支配人の橋本さんを通じて確認したところ「最近TVなどでも話題になってる佐賀の「はがくれすっぽん」」とのことでした。そんなすっぽんのぶつ切り、さらには皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」、干し椎茸、筍。いずれも「紅焼水魚」には欠かせないもの。それに、干し湯葉の「腐件」も。

 その味付け、丸ごとのにんにくがごろごろ!というのがポイントのひとつ。香味野菜として効果だけでなく、火がしっかり通り、ホクホクの状態を通り越し、ねっとり柔らかくなったにんにく。これが滅法旨くって、つい頬張ってしまいます。食後のにんにくの匂いなんかのこと、気になんかしてられませんから。

 それよりも味噌の味がする。そのこく、風味からすると「柱侯醬」?それに「陳皮」の味、風味が鼻筋をくすぐる。念のため、橋本さんを通じて確認したところ、いずれもどんぴしゃでした。

 これまで「紅焼山瑞」、日本産のすっぽんを素材にした「紅焼水魚」を食べてきました、今回の「紅焼水魚」は「柱侯醬」の味噌の味が加減強め。くせのある、というよりも個性の強い野味素材に「柱侯醬」を組み合わせるのはよくあること。なんてことにならって、袁さん「柱侯醬」を加減、多めにしたのかも。

 すっぽんで一番の味わいところは、甲羅のハジっこの縁側のペロペロ。思わずむしゃぶりついて、徹底的に食べ、嘗め尽くします。皮下の脂肪分や赤身も独得の味、風味ある。そうか、人によっちゃ、そのクセ野味が苦手!なんてことで、もしかして袁さん、味噌の味、加減、多めな感じにだったのかも。

 「ひやー、どうしょ。これ、手ですよね、手!爪、爪がついてます!さすがに私・・・・」なんて悲鳴があがります。そう、手足の部分、ぶつ切りのまんま、煮込まれてますから。「そこんとこも美味しいんですから。なんなら、私、その部分ひきうけましょうか?」なんて私が声を上げるまえに、声があがる。

 すっぽんは、甲羅の縁側もそうですけど、どこの部位だって私はむしゃぶりつき、しゃぶりつくし、残るは骨のみで、すっぽんさん、なんまいだぶ!

 さて、すっぽんを食べた効果や如何に!