2009/12/31

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして甜品。なんとうれしいことに「紅豆沙」が登場。
 中国風のお汁粉です。日本のお汁粉のように甘味ぼってりの濃厚なものじゃなく、すっきりさっぱり。みかんを干した「陳皮」の酸味、苦味、フルーティーな味が生かされたもの。
 「紅豆沙」は冷たいものと熱いものがありますが」と柏木さん。
 私は躊躇なく「熱いの!」を所望。
 というのも、冷たい「紅豆沙」、すっきり、爽やかですけど、なんだか胃が冷たくなる感じ。

 それに比べて熱い「紅豆沙」、ほのぼのとした和み味。というだけでなく、胃に優しくって消化をうながしてくれる感じですから。ン!? もしかしてデザートは別腹ってやつなのかなあ。

 「紅豆沙」の登場を待つまでに現れたのが点心料理長の久保田さんによる伝統的な点心。

 今回は「馬拉糕」。ですが、伝統的なそれじゃなくって柚子風味。伝統的な点心を下敷きにした現代的/今日的点心、ってわけですね。上品で洗練された味わいでした。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 締めくくりの「面・飯」。今回は「豉油皇炒麺/もやし入り醤油焼きそば」。
 私の好みの一品です。細めの生麵を醤油味、それも中国たまり醤油の「老抽」で炒めたもの。具はもやし、それに玉葱。もやしのひげ、根はしかっり切り取られてます。こういうあたりのこまやかな仕事こそ、美味を生み出す要因です。長野出身の平林君、頑張ったのかな。

 そして、味付けの「老抽」、中国たまり醤油、以前は日本では珍しかったものですが、近頃「老抽」を味付けに使った炒飯や炒麺、いろんなところでお目にかかるようになりました。ですが、たいていの場合、なんだか「老抽」を使いすぎな印象です。
 「老抽」、色は濃くて黒いですが、塩味控え目。なんてことから、日本の中華、中国料理、一般的に濃い味が好まれる、なんてことからたっぷり使われるのでしょうか。その分、色が濃くなる。その色の濃さを売り物、看板にした炒飯もあり。なんて、本土、香港あたりでは滅多に出会えない。というよりありえない。
 
 その点、「赤坂璃宮」銀座店の「豉油皇炒麺/もやし入り醤油焼きそば」、「老抽」の使い方、その味付け、色合いは控え目。まさしく本場の味、風味を再現してくれるのが嬉しい。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 そして「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」。
 大皿盛りで披露はなしにいきなり小皿盛りで登場。 「豆腐がメイン?それよりも海参(なまこ)、それに干椎茸の2種の干貨が目立ってます。
 豆腐を干した海老の子の「蝦子」で味付け、風味付けにした豆腐料理は中国各地にあり。ことに北京、というより厳密には山東料理地方の名菜にもなってます。もちろん、広東地方にもあって、広東料理店のメニューに並んでます。

 そして一緒に登場のなまこの料理にも「蝦子」で味、風味付けした「蝦子海参」というのもあり。おまけに肉厚の干し椎茸(どうやら「冬菇」のようす)。「蝦子豆腐」も乙なもの。ですが私はそれ以上に干貨素材の干しなまこと干し椎茸に盛り上がる。

 実は日頃、家郷菜/郷土料理、それに惣菜的な家庭料理を中心にしたコースを組み立てるとなると、コースを引き締めるような一品か二品、組み入れたくなります。それに家郷菜/郷土料理の中には高級な素材を使った料理もあって、きちんとした宴席に登場、なんてことが多い。

 たとえばスッポンの一種の「山瑞」を醤油煮込みにした「紅炆山瑞」。それにおおきくてでっかい淡水のウナギで背中が錦模様の「花錦鱔」を素材にした「紅焼花錦鱔」なんかがそうですね。SARS禍以来ご法度になってしまった「果子狸/ハクビシン」なんてのもありました。

 もしくは海鮮の魚、値段がはりますけど、組み入れる。それも蒸し魚なんかじゃなくて、石斑/はたを豚肉の細切りなどと煮込んだ「紅炆海斑」にしたり、丸揚げの「油浸海斑」なんかにする。ですがやっぱり干貨。それも干し鮑では目が飛び出るほどの値段になりますからそれはおいて、花膠/干した魚の浮き袋。そうか、花膠も最近、値上がりがすごくってそう簡単に口にはできないか。
 
 というところで干しなまこが登場。
 干しなまこも色々種類あり。中には目が飛び出るほどの値段のものもありますが、リーゾナブルな値段のものもあり。それを干し椎茸、ことに肉厚の「冬菇」、さらには冬筍なんかと組み合わせる。そこに鵞鳥の掌なんかが加われば文句なし。なんてことで、私は今回の「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」で干しなまこと干椎茸に盛り上がった、と言う次第。

 ですが、豆腐もなかなか、いや、かなりのものでした。
 「蝦子」独得のクセを抑えてその味、風味を生かしてあります。おまけに、とろみのある衣で包まれてますけど、その衣、北方のそれや日本の北京料理を看板にする店の「蝦子豆腐」のように、ぼってりのもんじゃない。絹の衣に包まれたように透明感のあるうっすらとしたとろみ付け、衣加減。しかも「蝦子」の味、風味が、口中で噛み締めてみて、じんわりと顔をのぞかせはじめる。その上品で洗練された気品のある奥床しい味わい、風味に打ちのめされました。こんな豆腐の料理、あり?なんて感じです。

 おまけになまこ。その戻し加減がいいですね。ぷりっとした触感が快感。わ、なんつう贅沢、と思いました。さらに干し椎茸。噛み締めるとじゅわっと旨味、独得の風味が口中に広がる。

 この料理、まさしく本日のメイン・ディッシュ。
 出来れば「金銀菜豬肺」のあとに食べたかった。
 広東料理の干貨の扱い、その調理、味付けの見事さを物語る一品。つまりは、袁さんの腕、技がすごい、ってことですね。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の5

それから「清蒸沙姜鶏/伊達鶏の生姜蒸し」。
伊達鶏の骨付きのぶつ切り、胸肉。さらには砂肝、レバー、ハツを生姜と上湯とともに蒸したもの。
 伊達鶏のぶつ切り。皮はぷるん。噛み締めると肉はしっとり潤んでます。肉質は緻密。ですけど、10月に食べた「鹽焗鶏」の比内鶏の野生味のある肉質、味、風味からするとおとなしい。ですけど、憎い!なんて思ったのは、生姜の風味漬け。

 生姜たっぷり、のはずなのに生姜の味、風味、さほど感じない。普通ならこの種の料理、生姜のひり味、辛味、風味、しっかり目立つくらいの感じで仕上られてますけど、そういう押し付けがましさは皆無。噛み締めて「ほのかに」!というあたりの生姜の使い方の按配、袁さんの技、その手腕を感じました。

 さらに袁さんの手腕、ますます感じたのが砂肝とレバー。
 それぞれ、特有の持ち味、というかくさみがあります。それが皆無。生姜の風味がなせる技。それに上湯でしょう。ことに砂肝、しっとりとして柔らかい。その柔らかさ、火の通りのなせる技。それにレバー、これもまた独得のクセがありますが、そういうものなしで、ねっとり感を味わいました。
 

2009/12/30

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「芥蘭双腊腸/腸詰と芥蘭の炒め」。

「双腊腸」というのは豚肉の腸詰の「腊腸/臘腸」、家鴨の肝臓を混ぜ合わせた腸詰の「(鴨)潤腸」の2種の腸詰のこと。
 この時期、つまり、年の暮れの12月、旧暦では「師走」と言いますが中国の農歴では「臘月」と言うのが一般的。
 秋の実りの収穫を終えた後、冬に備えて肥えた家畜や家禽類を潰し、あらゆる部位を様々に仕込んで備蓄します。というのは中国でもヨローッパはじめ肉食文化の発達したところは一般的、ですよね。

 腸詰の「腊腸」、「(鴨)潤腸」はその産物。他に皮付きばら肉をほした「腊肉」、家鴨の身を塩漬けにして干した「油鴨」なんてのもあります。「腊腸」、「潤腸」に「腊肉」、「油鴨」は、新米を使った炊き込みご飯の「腊味煲炒飯」に欠かせない。それに「油鴨」はたろ芋と煮込みココナッツジュースで味付けした「荔芋油鴨煲」がその代表的な料理。
ちなみに「油鴨」、塩味が強くて独得のくせがあります。おまけに日本ではなかなか入手が難しい。なんてことから、我が家では家鴨か鶏の骨付きのぶつ切りを塩でしばし漬け込み、たろ芋じゃなくて里芋や海老芋、それに唐の芋で代用し、ココナッツ・ジュースを味付けにしたなんちゃって「荔芋油鴨煲」もどきを作ります。我が家の冬場の食卓にしばしば登場。
 そうだ、今度、袁さんに鶏肉でやってもらおう!

 またまた話がそれました。話戻して「芥蘭双腊腸/腸詰と芥蘭の炒め」は2種の腸詰めと「芥蘭」を炒め合わせたもの。
 「芥蘭」はアブラナ科の一種でキャベツの仲間。英語名はチャイニーズ・ケール。ですが、その茎の部分の触感、ブロッコリーに似ていて、キャベツとブロッコリーの合いの子みたい、なんてことからチャイニーズ・ブロッコリーとの異名もあり。
 茎はブロッコリーで、青い味、甘味もあり。ですが、葉はキャベツ、というよりも芥子菜に似た味、風味で苦味、辛味があります。香港や広東地方では旬の時期になると市場に並び、料理店のメニューにも並びます。
 「芥蘭」はそのまま炒めたり、茹でて、オイスターソースをかけて食べる、というのが一般的。それと同じくらい親しまれているのが「腊味」と炒め合わせたもの。「腊腸」だけでもいいですが、私は今回のように「(鴨)潤腸」も一緒に。出来れば「腊肉」も!なんてついつい欲がでる。
 ですけど豚の腸詰の「腊腸」はともかく、家鴨の肝臓入りの「(鴨)潤腸」の入手が日本では難しい。というだけでも嬉しい。有難くなります。
 おまけに「芥蘭」との炒めもの。それも「芥蘭」、日本ではなかなか入手が難しい。入手できたとしても茎が細身で華奢で甘味不足やら、葉も辛味、苦味が今ひとつ、なんてのがほとんど。それに比べて、今回の「芥蘭」、茎の太さはしっかりで青い味、それに甘味があり。これだけの「芥蘭」なかなか日本ではみつけられない。なんてことにも関心しました。
ちなみに「芥蘭」、それに「菜心」などの茎のしっかりした青野菜、香港からやってきた仲間のほとんどが日本滞在何日かすると、食べたくなるようで「どっかで食べられないかなあ?」なんてよく尋ねられます。

 野菜不足のせい?なんて尋ねると「ま、そうでもあるんだけど」と返事はあいまい。よくよく尋ねると、レタスはじめ日本の料理店で食べられる緑野菜はほとんどが生のまんま。それに、私の知り合いの香港の友人たち、日本の緑野菜は味が薄くて香りがしないとは一様に口にすることで、ドレッシングはじめ余計なものが必要になる。最初の内は生野菜でもOK。ですが、そのうち火を通した野菜を食べたくなるそうで。

 「お浸し」があるんだけど、茹でてだしで煮含めものが、なんていっても、わざわざそれを食べに日本料理屋にでかけるほどのこともなし。それに、よほどの日本料理通以外、手を出さないんですね。
 で、私の知り合いの香港の友人たちが「芥蘭」や「菜心」を食べたくなる、しかも、体が欲する理由は、その繊維質に秘密あり。つまり、腸の消化の手助けになる(っていう理由、書かずともわかっていただけますよね)っていうことにありってことが判明。
 そういえば、香港に食べ歩きに出かける私の友人にも同様の悩みを抱えるらしくて「おひたし」が食べたい!と。そんな人に「上湯」で煮浸しにした青菜の料理の類をお薦めします。ですが、そのだし、日本の「おひたし」のように昆布、鰹節などの魚介系のそれと違って、痩肉、鶏肉、中国ハムと「肉食系」のそれですから、ちょっとなじめない、なんて人も。野菜の食べ方、だしの違い、それぞれお国柄あり、ってことです。
 そうそう「腊腸」や「潤腸」などの「腊味」の類、香港の街中に色々老舗あり。
 それぞれに工夫があって味、風味は様々。それに「玫瑰露」はじめ各種の酒、焼酎の類が使われていることもあって、それがネック、という人もありですが。
 それで、街中でゲットしそびれた場合には香港の赤鱲角國際機場に榮華の出店で調達という方法あります!

2009/12/29

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そしてスープ。今月は「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」。
 「豬肺/豚の肺」という文字を見ただけで盛り上がりました。「豬肺/豚の肺」に「杏仁」つまりは中国アーモンドととも煮込んだスープは私の大好物。
 陸羽茶室の「豬肺杏仁湯」は陸羽茶室の名物、看板料理のひとつ。「陸羽茶室」でデイナーを楽しむ時には欠かせない、外せないほどの逸品。
 「豬肺杏仁湯」、陸羽茶室だけに限らず伝統的な広東料理、しかも「家郷風味」を看板にする広東料理店なら必ずといっていいほどメニューにあります。たとえば○○の△△や○○の△△。それに○○の△△(意地悪ですねえ!)。

 おまけに「金銀菜」というのに大いに惹かれまして。つまり「金」というのは干したひね味のする「広東白菜」。「銀」というのは甘味と独得の味、風味がある新鮮な「広東白菜」。そのふたつを組みあわせる、なんて日本の広東料理店では滅多にない。

 それだけじゃありませんでした。この「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」には豚の肺だけじゃなくって豚のレバーも加えてありました。私は初体験!
 この種の煮込みスープの煲湯。素材の持ち味がそのまま煮出した素朴でほのぼのとした味、風味が特徴です。体に良くってほのぼのとしたこころ和むスープです。しかも杏仁の苦味、渋味、蜜棗の甘味が、スープに滲み出てます。

 ですが、いつもとちょっと違うのは「豬肺」、さらには「豬肝」が加わって、やはり内蔵の独得の味、風味がする。それも「豬肺」そのものは味気のない感じですが「豬肝」はやはり血の味、鉄分が入り混じった独得のクセ、匂いがある。それをほのかな感じにしているのは「杏仁」と「蜜棗」、でしょう。

 そしてスープそのものは滋味深くて、しみじみとした味わいあり。
 出し殻、抜け殻の「豬肺」。まるでスポンジ状で、口にいれればホワットした触感ですけど、噛み締めると肺に残っていたスープがじゅわと滲み出る。「豬肝」は、ねっとり感こそ薄れてますけど、ぷるんの触感で、上湯とたまり醤油仕立てのたれに浸して食べると、乙な感じ。
 香港の伝統的な広東料理を看板にする店では「金銀菜豬肺/豚の肺と広東白菜入りスープ」は定番の一品。ですが、日本じゃ滅多に食べられない。
 それに出会えた、有りつけられたというだけでも盛り上がります。
 なんてことだけじゃない滋味深い味、風味に、全員、こぼすのはため息ばかり、なのでありました。

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 続いて「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。牡蠣を具にした卵焼きです。
 牡蠣が採れる中国東部から南部にかけての沿岸部各地にそれぞれ特徴のある牡蠣の卵焼きがあります。

 台湾の「蚵仔煎」はその代表的なもの。なんて私、台湾の「蚵仔煎」は未体験なものですから、知ったかぶり。どうやら卵と粉をつなぎにして青野菜などを入れて煎り焼きにし、甘味の利いたたれをたっぷり!というのが台湾の「蚵仔煎」だそうで。台湾の屋台店で見かけたことがありますが、あれがそうだったのかも。

 その「蚵仔煎」の原型とされるのが福建のそれ。これまた私、未体験。その隣、潮州にもあり。その名は「煎蠔餅」。
 潮州料理の牡蠣のかき揚げの「蠔烙」はそのバリエーション。卵は鶏卵ではなく「鴨蛋」、つまりは家鴨の卵を使い粉を混ぜ、「豬油」、つまりはラードでしっかり揚げる、というのがその特徴。

 そして広東地方にもあり。私、広州で食べたことがあります。その時仕入れた話によれば淡水の川蝦を素材にした「煎蝦餅」と並んで順徳/太良はじめ広東省の南西部の沿岸地区の代表的な郷土料理ってことでした。

 潮州の「煎蠔餅/蠔烙」が、かき揚げ風にその形状、ぼってり、どってり。それに対して、広州で食べた「煎蠔餅」は、卵と粉をつなぎにした牡蠣入り具材を、丸く、平べったくして煎り焼きにしたもの。さながら牡蠣入りのオムレツ。それもぼってりの厚みのあるものじゃなくって、ピザ風に丸くて平べったい。しかも、潮州風にしろ広州(広東)風にしろ、牡蠣は小粒のそれ、というのが特徴です。

 「牡蠣入りの卵焼き」ということでは、私が愛してやまない「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」こそは、広州で食べた「煎牡蠣」、広東地方の郷土料理の伝統を受け継ぐもの。
 
 「神戸元町別館牡丹園」の今は亡き先代の王熾炳さんは、広東省東南部の新會の出身。というわけで「神戸元町別館牡丹園」には広東地方東南部の郷土料理を下敷きに、日本で調達可能な素材を使った料理の数々がメニューに並んでます。目玉焼きをテッペンにのっけた焼きそばだけが名物だけではありません。

 広東地方東南部の郷土料理の伝統を受け継いだ「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」。牡蠣が旬を迎える冬場の季節料理ですが、その牡蠣、今は伊勢の鳥羽の的矢の牡蠣ですが、以前は広島の牡蠣だったはず。

 話を戻して「赤坂璃宮」銀座店の袁さんの「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。
 「牡蠣は赤崎の牡蠣です」とアテンドの柏木さん。
 「赤崎って大船渡の?もしかして「シダッチ」の牡蠣?」と私。
 「ええ、そうです。「シダッチ」の「赤坂冬香」です!」
 「ええ~!こんなところで「赤崎冬香」にご対面、とは!」と私。

 先月、触れた通り、私の好みの牡蠣は大船渡の赤崎産。
 志田兄弟の兄の恵洋さんが経営する「シダッチ」の3年ものの「赤崎冬香」か、1年未満の処女牡蠣の「姫」。もしくはそれに準じた志田兄弟の弟の建志さんが経営する「三陸シーファーム」のもの。
 そして、先月の「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」のどってりぼってりのでっかい牡蠣の正体が判明、となった次第。

 具は牡蠣の他にニラ。卵がたっぷりってことを物語るように、表面は黄金色。しかも、色艶、照りのある焼き色です。「脆」よりも「酥」の感じです。噛み締めると火が通ってますけど、しっとりの触感が残ってる。しかも、切り分けたでっかい「赤崎冬香」の身がたっぷり。おまけにぐじゅ感を残した火の通り、濃い味、風味が格別です。

 その焼き加減、牡蠣の味わい、風味を生かした味付け、調理、火の通し方はままさしくプロの技。家庭料理、お惣菜が、上品な一品に。誰にだって出来そうでいて、なかなかこんな風には焼き上げられない。

 広東地方の郷土料理の一品である牡蠣を素材にした「煎蠔餅」。日本では意外に出会えない。神戸元町別館牡丹園の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」が西の横綱としたら「赤坂璃宮」銀座店の「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」は東の横綱。なんともはや、面白い展開になりました。

 ともあれ、牡蠣が旨い。旬の味、風味を堪能しました。

2009/12/28

冬の訪れ~牡蠣が旨い!09年12月の「赤坂璃宮」銀座店

 今年も残すところあと4日。そんなわけで年内終了を目指して駆け足で09年12月の「赤坂璃宮」銀座店報告。 まずは「広東前菜盆/焼き物前菜盛り合わせ」。
 手前は皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」。その後ろ右から家鴨の焼き物の「焼鴨」、続いて「叉焼」。

 そうです、今月の焼き物、「赤坂璃宮」ご自慢の焼き物の3品に絞り込んだシンプルな構成。「赤坂璃宮」銀座店の焼き物の王道、ってことです。

 皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」が旨い。カリカリの皮の裏側、5層になった脂と身の中でも、脂身の旨さが格別。しかも、しっとり感があって、噛み締めるとジューシーな味わいもあり。

家鴨の焼き物の「焼鴨」。皮のパリ感は文句なし。私の好みでもあります。ですが、肉の部分、火が通り過ぎな感じもあって、ジューシーというよりもぱさ感がいくらかあって、おまけになんだか独得クセがあるのが不思議でした。「叉焼」は甘味のある表面の部分、それに肉質もしっとりで、味わいと風味あり。

 付け合せの野菜は赤いパプリカ、いんげん、人参。その下に寝そべっているのはヤーコン。赤いパプリカ、酢漬け仕立てで、酸味の爽快さ、さわやかな味、風味が抜群。もう一片、食べたい!なんて思ったほど。

 いんげん上にはXO醤油。そのいんげんの火の通し、独得の青臭さ、くさみを消してあるあたり、技ありの感じでした。XO醤との相性もグッド!
 ヤーコンはほくほくの触感。噛み締めれば澱粉質の甘味がほのかに、なんてところがいいなあ。
 それからくらげ。「このぽりかり感、たまんないね!」と好評でした。 

2009/12/27

ワンズ・キッチン

 長渕剛のNHKホールでの公演を見た後、打ち合わせを兼ねて一杯。ということで立ち寄ったが公園通りの「上海人情 ワンズ・キッチン」。オーナー&シェフの王連青さん、dancyuの中国料理の特集で見たことがあって、前々から気になりながら訪問の機会を逸していました。

 メニューを開くとそそられる料理が色々あり。上海の家庭料理が中心ですが、各地の料理も入り混じってます。ですが、ちょっと気になったのはもしかして「味精」、「鶏精」などの化学調味料が使われてるんじゃないか、ってことでした。というのも中国からやってきた料理人による本土の味を看板にする店で、目立った傾向ですから。

 ところで、これまでたびたび触れてきたように、私、「味精」や「鶏精」などの化学調味料の類、好き嫌いでダメというわけじゃありません。その種のものを一定の使用量を超えると体に支障をきたす。まず、唇や口腔が麻痺し、喉が渇く。次いで目の下のくぼみ辺りから頬が痺れ、ひどい時には平衡感覚が麻痺し、耳が遠くなって体がふらふら。なんてことで、出来ればその使用を避けた料理が望ましい。

 ということで、化学調味料の不使用を申し出る訳ですが、多くの人にはそういう体験皆無なのか、それとも、体験あっても察知や認識がないのか、なかなか理解してもらえない、というのが辛いところです。

 そんなことから不安になって、どうやら作り置きらしい前菜の類、化学調味料の使用の有無を尋ねたところ「あ、使ってます」とアテンドの方の正直な答え。
 「ですけど、他の料理、炒めものなどでしたら「味精」、「鶏精」抜きで調理ができますが!」という心強い答え。俄然、信頼が芽生えます。

 なんてことで「味精」、「鶏精」を使用は覚悟の上で前菜から選んだのは、日本の上海料理店でも滅多にメニューには見かけない「烤夫」。

 この「烤夫」。凍み豆腐で作ったものと思ってましたし、そういうのも食べたこともあります。ですが上海のそれの多くは大豆が素材ではなく、小麦粉を素材に作ったもの、なんてこと王清連さんに教えられました。

 ともあれ、ワンズ・キッチンの「烤夫」は小麦粉のグルテンから作ったものを醤油味で甘辛っく煮付けたもの。甘辛の味付けは上海料理ならではのもの。ですが、ベタっとした甘さ、風味の乏しい旨味は化学調味料を使ったそれ、なのは明らか。

 「(化学調味料は)ほんの少し使ってるだけなんですけど」という話ですが、その「ほんの少し」の分量、お店の人と私の認識では大きな開きがあるようで。いつも頭を抱える問題です。

 そして、料理の中から選んだのは「お、こんなのあり!」と思わず興奮してしまった「上海風エビと塩漬卵の炒め/咸蛋黄炒虾」。10年ぐらい前だったか、香港で上海料理が最新のトレンドになった際、新しい上海料理系の店のメニューに並んだ一品。
 そういえば当時頻繁に香港通いをしていた脇屋友詞さんが着目し、「トゥーラン・ドット」の看板メニューにもしていた一品。当時、香港で仕入れた情報ではもともとは上海郊外の揚州の郷土料理。

 揚州といえば海から遠いことから淡水の蝦を素材にしていたそうで。揚州だけでなく海に近いはずの上海だって海鮮の魚介が素材として用いられるようになったのは近年、それも80年代以後のこと。

 で、海鮮の魚介が広まるようになって以来、本来は淡水の蝦が素材だった「鹹蛋蝦」も海のえびが使われ、やがては素材を渡り蟹の一種の青蟹に置き換えた「鹹蛋蟹」が登場。もともと家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」を使った料理は中国の各地にあって、例えばかぼちゃと組み合わせた「鹹蛋南瓜」なんて、山東地方の郷土料理の一品です。

 そして「鹹蛋蝦」、それも海鮮のえびを素材にしたものは上海の名物料理のひとつに揚げられるほど。で「ワンズ・キッチン」でのえび、ブラックタイガー系の冷凍のそれのようで甘味はいまひとつ。ですが、その調理、味付け、しっかりの塩味で、「鹹蛋」の卵黄がコクをましていて味は濃厚、風味もあり。日本の中国料理ではなかなか味わえない本土の味との出会いに嬉しくなりました。

 スープ料理を食べたい。出来れば塩漬けの豚肉と筍を煮込んだ「腌篤鮮」か、面筋と春雨の煮込みなんかないかなとメニューを探しましたが見つからず。日本じゃ馴染みがないんでメニューにはないんでしょう。

 それなら野菜料理でもと、メニューを物色してもこれぞというものはなし。
 ですが「枝豆」を使った料理がある。季節はずれでもしかして冷凍物かもしれませんけど、枝豆があるなら食べたい料理がある。

 「あの、枝豆があるでしょ?だったら、枝豆と雪菜の漬物の炒めもの、出来ませんか?唐辛子風味のもので」なんて尋ねたら「出来ます」なんてことで、それに決まり。
「雪菜毛豆」。
漬物の「雪菜」の塩味、醗酵したヒネ味がかもし出す旨味、風味がたまらない。酒がすすむ格好なつまみでもあります。
 しかも酒、上海料理が看板ですけど、北方の焼酎があったりするのが嬉しい。

 NHKホール、CCレモンホール、渋谷AXでのコンサート帰りに楽しめる面白い店をみつけました。

2009/12/26

美薗亭の有田のみかん

 我が家の醤油は和歌山県御坊市、堀河屋野村の「三ツ星醤油」。
 ご主人の野村太兵衛さんとは香港旅行で知り合った仲。
 たしか「美味しん坊」の雁屋哲さんが周富徳さんの案内で読者を香港への食を旅に招待という企画があって、確か野村さん、そのツアーに参加。たまたま同時期に香港に出かけることになっていた私共も一行と合流、というのがきっかけだったはず。

 そんなことから野村さんと知己を得て「三つ星醤油」、それに「径山寺味噌」を知り、以来、我が家の必需品になったもの。
 そうそう、堀河屋野村の「白味噌」も我が家には欠かせません。

 「白味噌」と言えば関西出身の我が家ではお正月の雑煮に欠かせないものですが、お正月だけに限らず我が家では「白味噌」の出番が多い。
 実は私、味噌汁が苦手。子供の頃から苦手です。
 子供の頃、椀物と言えば味噌汁よりも澄まし仕立ての「おつゆ」がほとんどだった、というのも大きな理由です。ですが、白味噌仕立ての「味噌汁」なら全然OK。我が家の食卓に並べば「おかわり!」なんてことも多い。

 ことに堀河屋野村の「白味噌」はジャストの好み。
 堀河屋野村の「白味噌」に惹かれて年少時の食体験が甦ったこともあって、他の白味噌、例えば京都のどこそこの評判のものなども試しましたが、結局のところ堀河屋野村の「白味噌」が一番。塩がしっかり利いていて、醗酵したヒネ味の加減がいいからです。
 もっとも、ヒネ味、醗酵の加減は、年々ビミョーに違う、というのが面白い。

 さて、堀河屋野村の野村さん、揺るぎのない確かな「舌」の持ち主。というのも「こういうのがあるんですが!」と教えられたもので失望を味わったことは皆無。
 たとえば今は幻のものになってしまった魚楠商店の「釜揚げしらす」と魚の干物。送り届けた知人の誰もが絶賛し、取り寄せ名人の石原明子先生を唸らせたほど。
 それから「九重雑賀」の「黒糖」と「梅」の「梅酒」。その味わい、風味の奥深さにうっとりとなりました。

 そんな野村さんの好みの品々は堀河屋野村のサイトの「太兵衛好み」で紹介されてます。    http://www.horikawaya.com/ct03/konomi.html

 そんな中で、この時期見逃せないのが「美薗亭のみかん」。
  「美薗亭」は美味しいもの好きな野村さんが好みの品々を堀河屋野村の一角で紹介したもの。
 で、「美薗亭のみかん」。和歌山の有田の湯浅町で親子三代にわたってみかんの栽培をしてきた北村真佐彦さんが栽培したものだそうです。
これが旨い。
その皮の色艶、自然な色合いが見事です。
皮を剥けば房の皮、これが薄い。頬張って唇や舌に抵抗のない薄さ、というのがその特徴。

頬張ればジューシーな甘味がほとばしる。爽快な酸味が口中に広がる。そこんとこが味わいどころ。

 そうです、甘味と酸味が入り混じった「これぞ、みかん!」と言える味、風味に、次から次へと房を外して頬張りたくなる後引きのみかんです。

 近頃、ベタっとした甘味たっぷりのみかんが多いですけど、みかんってやっぱり甘味だけじゃなくって酸味が肝心、なんてことを教えてくれます。

 というより、子供の頃に親しんだみかんの味がする!
 なんてのも「美薗亭のみかん」を次から次へと頬張ってしまう理由なのかも。
 みかんの名産地、色々あります。
 子供の頃、暮れから正月にかけて送り届けられたみかんの中でも、美味しかったのは和歌山の有田のみかんだった、なんてことを思い出しました。

2009/12/23

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の7

そしてデザート。
まずは、ここずっと恒例になった点心料理長の久保田さんによる伝統的な点心が登場。
 表面に白胡麻、黒胡麻をまぶした南乳風味の揚げ饅頭。名前は聞きそびれましたが、多分「酥炸煎堆仔」のバリエーションなのに間違いないはず。

食後の甘い点心の前に、言わばプチ・フールとして登場する点心の一品。 「南乳」と「胡麻」の風味が入り混じった上品で洗練された点心です。

 こんな「酥炸煎堆仔」が供されるのは、香港でも格式のある伝統的な広東料理を供する店で、豪華の宴席料理を楽しんだ後に、締めくくりの甜品の前にさりげなく供されるもの。実に憎らしい演出。

 その洗練の美味、風味は、広東料理における点心の美味の極意を極める一品とも言えるもの。
 「中国料理のデザートって「杏仁豆腐」ぐらいなもんでしょ?他に何があんの?」
 なんて人が多いですが、そんな人にこそ味わってもらいたい甜品です。

 そして、締めくくりの甜品.
色々あった中で私が選んだのは、温かい汁仕立ての薩摩芋と白玉のデザート。

 ほくほくの薩摩芋が旨い。 薩摩芋の甘味、旨味、風味を生かした点心です。ねぼけていて、とぼけたようなヌーボーとした味、風味ながら、素朴で純な味わいにひかれます。 それに白玉、なんてことない白玉。これまた素朴で純な味わい。

 薩摩芋にしろ、白玉にしろ、なんだか懐かい。郷愁を覚えて、思わず頬がゆるんでしまうような微笑ましい味わい。心のこもったお袋の手作りの甘物、なんて感じで、しみじみと味わい深い。それでいて、きちんとの甜品としての奥床しい品のよさが汲み取れる、なんてところが憎いです。

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 締めくくりの「面・飯」。
 今回は「XO海鮮炒米/海鮮とXO醤入りビーフン」。
 「米粉/ビーフン」で締めくくり、というのが嬉しい。 炒めた「面」、汁物の「面」、炒めた「飯」、リゾット風の汁煮込み風の「面」、それに炊き込みご飯の「煲仔飯」というのもいい。ですけど、「米粉/ビーフン」って締めくくりの料理に案外に見逃せない。

 というのも「米粉/ビーフン」、米そのものより軽くて胃に負担をかけない。米をじっくり煮込んだ「粥」よりも軽い。ですから、香港や広東地方の人たちは「粥」よりもむしろ「粉」を好む傾向が強いようです。

 で、「米粉/ビーフン」。夏場あたりだと「榨菜」と「豚肉」の細切り炒めを具にした熱々のスープ仕立ての「榨菜肉絲粉」など格好のもの。フーフー汗をかきながら食べ進めるうちに、汗が収まり、体の熱気をさげてくれます。もちろん、冬場に食べるのもよし。

 そして、炒めた「米粉/ビーフン」。炒飯でもなく粥でもなく、さりとて炒面でもなく湯面でもなし。なんて時、格好なのが「炒米」。その種類、味付け、調理方法、いろいろあります。中でも人気が高いのは「星島炒米」。カレー風味のものでスパイシーなのがエキゾチック。食をそそります。

 そう、ちょっと辛味とかスパイシーな味をプラスアルファ、なんてのが締めくくりの「炒粉」にはうってつけ。ということではこの「XO海鮮炒米/海鮮とXO醤入りビーフン」、食をそそります。

 具は「海鮮」とあるように「えび」と「いか」。それ以外に「魚片」というか、魚のすり身のの揚げ物と思しきもの。

 野菜は「にんじん」、「赤パプリカ」、「黄パプリカ」、「もやし」、「赤玉ねぎ」、「黄ニラ」と実に具沢山。その野菜の切りそろえ、長さ、幅、揃ってます。おまけに錦糸玉子がどっさり、たっぷり。

「XO醤」で味付けってことですが、いつも通り、行き過ぎない。けど「XO醤」の味わい、旨味、辛味、風味が、行き渡ってます。その加減、按配が見事です。それまでにお腹一杯だったはずなのに、その味付け、風味にそそられて箸運びが進みます。

 こんな「炒粉」、日本中のどこでも食べられれればいいな、なんて思いますが、今のところ出会えるのは「赤坂璃宮」銀座店だけ。

2009/12/22

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」。
 これが旨かった。すごーく旨かった。私好みの一品でした。
 調味、調理がパーフェクト。味はしっかり、風味もあり。なんといっても牡蠣が旨い。それに、牡蠣がでっかい!
 その素材。生牡蠣。「火腩」とあるように皮付きばら肉の焼き物。干椎茸。丸ごと一個の大蒜がごろんごろん。それから青葱。

 味付けはだしの「二湯」、それからオイスターソースの「蠔油」、醤油にたまり醤油の「老抽」によるもの、らしい。厳密なところは聞きそびれました。

 で、牡蠣。でっかい。牡蠣の中でも私の好みのひとつである大船渡の赤崎の牡蠣。それも「シダッチ」もしくは「三陸シーファーム」の3年ものの牡蠣。方形の網籠に並べ入れた団地型共同住宅的養殖ではなく、牡蠣の根本に穴を開け、テグスで通して海に沈める個別型養殖のそれ。

 我が家で作る「シダッチ」もしくは「三陸シーファーム」の3年ものの牡蠣のカキフライやソテーの味、風味に似てるなあ。その中国風仕立て。なんて思ってたら、その後、「赤坂璃宮」銀座店の牡蠣は「シダッチ」の「赤崎冬香」と判明。柏木さんが教えれくれました。

 実に食べ応えのある牡蠣です。それは分量的にも、それ以上に味、風味に関しても。
 で、一緒に煮込まれた皮付きバラ肉の「焼肉」、衣がついててだしを吸い込んでます。
 ですが、頬張り、噛み締めると、肉の味、ジューシーな肉のあじ。まんまの「焼肉」もいいですけど、こうやって煮込まれた「焼肉」の味もなかなかのもの。

 そして干椎茸がうまい。戻した干し椎茸は旨味たっぷり。しかも独得の風味がある。
 それから、丸ごとごろんごろんの大蒜。これが旨い。ほくほくの感じで甘味があります。面白いことに油で炒められ、煮込まれた大蒜。生の大蒜のあのひり辛が薄れて、旨味、独得の風味、それにこく、みたいなものが滲み出る。
  「お!技あり!」なんて思ったのは葱。
葱というよりも分葱のような感じですが、根本の白い部分は5~6センチほどの長さ。それが、青いところはその倍くらいの長さ。葱にしろ分葱にしろ、根本の白い部分と先っぽの青い部分、それぞれに持ち味が異なります。それも火を通すと、その違い歴然。辛味、甘味、それにとろ味なんてのもあって、本来は風味づけのはずの葱ですが、味わいたくなります。
 この「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」、ご飯に乗っけて丼仕立てにするのもいいかも、なんて思いました。

2009/12/18

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」。
 ホタテ貝の殻を器にして、半身に切り分けた帆立貝の貝柱、ひもなどとともに、生湯葉をそえてにんにく風味で蒸したもの。

 ホタテ貝の貝柱がでっかい。蒸して火が入ったホタテ貝の貝柱、頬張って噛み締めると歯をかすかに跳ね返す弾力がある。といって、硬いそれじゃなくって、噛み締めればすっと歯が入る。生のねっとり感が消えて、貝柱の繊維質がかすかに感じられるぐらいの火の通りかた。絶妙です。

 ひもがうまい。表面の皮、というか膜は張っていてぷるんの触感。噛み締めるとねっとり感を残した肝の旨味が舌の上でほどけていく感じ。この火の通り方も絶妙です。

 そして添えられた生湯葉、噛み締めると生湯葉に含まれた煮汁がじゅわっと口中に広がる。その触感が快感。素材の生湯葉の持ち味、風味を生かした味付けが憎い。春雨も煮汁を含んでしっとり加減。

 大蒜風味ってことですが、大蒜のひり辛味は抑えられていて、甘味、風味がほのかに、なんてところが面白い。決め手はたれというか煮汁ですが、会議に夢中だったもんでどんな調味料を使っているのか、聞きそびれました。醤油だけじゃなくてかすかに醗酵味がかんじられたことからすると、赤坂璃宮特製のナンプラー入りの海鮮ソースが使われていたのかも。

 押し付けがましくない上品で洗練された味、風味の「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」。そういえばホタテ貝、中国にもあるそうですけど、香港で流通しているホタテ貝のほとんどは日本産のそれ。香港で貝柱を素材にした料理というのは、ホタテ貝じゃなくってたいらぎがほとんどです。そのたいらぎとホタテ貝の貝柱、貝柱だけをとりだせば見かけは似ていますけど、味わい、風味は違います。
 
 ということではこの「粉絲蒸海貝/ホタテ貝と春雨のガーリック蒸」は、日本の素材を広東料理の手法で調理した日本独自のもの。日本でしか食べられないものと言えるでしょう。

2009/12/16

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「漢方燉烏鶏/烏骨鶏入り漢方蒸しスープ」。その料理名、単純で明快でわかりやすい。薬効のある漢方素材がふんだんに使われていますから。ですけど、なんだかなあ。もちっと詳しく内容がわかる料理名を希望。
 ちなみにこの「漢方燉烏鶏/烏骨鶏入り漢方蒸しスープ」、「烏骨鶏」以外に山芋の一種を干した「淮山」、干した「龍眼」、枸杞(くこ)の実の「杞子」、それに干椎茸などがその具材。

 以上の具材を「燉」、つまりは蓋付きの容器に入れて蒸したもの。「燉」しただけあってスープは澄んでいます。
 スープは澄んでいても、だしの味はしっかり。なんだか「烏骨鶏」だけじゃなく豚の赤身肉の痩肉を加味したようなふくらみのある味わいで、旨味がたっぷり。そこに各種漢方素材の甘味、苦味が入り混じる。
 「これ、いいよね。体にいいスープって感じで」
 「心なごみますね。ちょっとクセがあるんだけど、体にいいいって感じ、しますよね。美味しい漢方のスープを飲んでるみたい。ちょっとクセがあるんだけど、でも美味しくって、体によさそう!」
 「それよりだしの旨味、しっかりしてますね。やっぱり、長時間蒸すとスープの旨味、増すんでしょうね」
 なんて具合に皆に大好評。旨味たっぷり。それでいて、薬効あらたか。しみじみと味わい深くって、ほのぼのと心和みます。そのうち、体がぽかぽか。着込んでいた上着を脱ぎました。

2009/12/13

秋深し~09年11月の「赤坂璃宮」銀座店

 気づけば12月も半ば近く。09年11月の「赤坂璃宮」銀座店報告、おっといけないどころか、大幅に遅れてアップ。「まだ、なんですか?先月の「赤坂璃宮」!」なんて、催促のメールも頂戴して、申しわけありません。一応、用意はしてありましたが、なんだかんだでアップしそこね。
  さて「09年11月の「赤坂璃宮」銀座店」。なんと幕開けにナイスなサプライズ。  
席に着いてこのカトラリー・セッティングを見つけて、思わず「いぇい、やった!」。
 
なんと「秘製上海蟹/上海蟹の紹興酒漬け」が! その登場とともに歓声と拍手が!ほんとですから。
 ひとり半身ずつ。ですが、みそはたっぷり。

 半身の上海蟹の脚をがっしと鷲掴み。じゅるとみそを一気に吸い込んで、後はちゅばちゅば、とまあいささかはしたない食べ方ですけど、酔い蟹を味わうにはこれに限る。

 ねっとりとしていて舌にまとわるみそは濃密。紹興酒の香りが入り混じった独得の風味にうっとり。

 みそを食べた後はしっとり潤んだ蟹肉を穂先の割れたスプーンでちまちまとほじり出します。蒸し蟹の場合だと、蟹肉にはさして用なし、脚には目もくれず。ところが、酔い蟹の身、蒸し蟹と違ってとろとろの触感と紹興酒が入り混じった甘味と苦味が入り混じった味、風味が、たまりませんから。
 
 なんてことで、今日の前菜はなし。なんて思ってたら「広東焼味盆/焼き物前菜盛り合わせ」が登場。
画像、右から順に家鴨の焼き物、伊達鶏の醤油漬け、叉焼。野菜は赤蕪と蓮根。奥はXO醤を乗せたくらげです。家鴨はいつもより味が濃い。もしかして家鴨の状態にあわせてのことかも。

伊達鶏の醤油漬けはいつも通りの印象。肉の柔らかさ、味付けに特徴あり。それに、叉焼が旨かった。
 そして蓮根。なんと色が黄色。
「ねえ、山下さん。この蓮根、もともと黄色いの?それとも色づけしたの?」
「は、あの、聞いてまいりますので、ちょっとお待ちください」。

 しばらくして、「あの、蓮根は「くちなし」で色づけしたものだそうです」。
 「へぇ~「くちなし」?」と一同、感心しきり。

 色合いの美しさだけじゃなく、酢漬けの赤い蕪、蓮根の爽快な味、風味、口をかえてくれるのに格好なもの。単なるアクセントじゃない工夫があります。それからくらげ。ちょっと厚味があって、ぽりこりの触感が快感でした。

『鰤』と『鯖』

 先月の末、後楽園のJCBホールでムーンライダーズでのコンサート。アラ還親父が踏ん張って見せてくれましたが、中でもふーちゃんこと鈴木博文がめちゃくちゃにかっこよかった。シブくて味のあるロック親父そのもの。もしかして若いミュージシャンと組んでストレートなロックをやれば、ますます面白そうなんて思いました。

 その帰り、神保町の店に。ま、後楽園に出かけるってことで最初からその心積りでしたが、コンサートの終了時間が不明。おまけにその日、鼻炎で鼻がグジュグジュ。実はコンサートの半分はくたばってましたが、終わった途端、鼻グジュはストップ!

 時計を見たら9時過ぎ。なら間に合いそうってことで電話を入れました。
 「あの、ご飯があまり残って……」とおかみさん。
 「いいから、いいから、ちょこっと食べるだけだし!」 と、おかみさんの話をさえぎるせっかちな私です。

 「あのう、ご飯、あまり残ってませんし、おまけに冷たくなっちゃって」と現親方。
 「こんな時間に来ちゃったんだし。いいよ、いいよ、気にしないから」
 なんて言っても、現親方はいささか困った様子。
 「あ、お酒! お猪口じゃなくて大きいので!で、何、切ってもらおうか……う~ん」
 品書きに目をやり、白身をさがしましたが売り切れでなし。
 「しま(あじ)」はご飯つけて食べるのが良いしなあ。
 「ン!?「さば」?ねぇ「さば」切って。それから「たこ」」

 その「さば」、脂がのってて、香りもあって、絶品でした。こりゃ、あとでご飯つけて食べないと。なんてことで、ご飯つける分の「さば」、予約のつもりが、お客さん、私共だけですからその要なし。
「たこ」も旨い。いつも通り旨い。ですから、ふつうに旨い!なんて言うと、現親方に怒られますか。

 そしてご飯をつけてもらうことにして、最初は「こはだ」。それから「しまあじ」。
 食べながら気になってしようがないのが「さば」のこと。
 もうひとつ、品書き眺めててもうひとつ気になる魚がある。
 「ぶり」です。品書きの板の白さが滅多に出ないネタだってことを物語ってます。
 「珍しいね!いきましょう「ぶり」!」
これが旨かった。
脂の乗りもさることながら、肉質は緻密で、しっとりと潤んでます。そのしっとり具合、潤み具合は、日本海に生息する魚のそれ。

「これ、どこの?」
「佐渡あたり、じゃないでしょうか」
「能登半島あたりかと思ったら、さらに東か。でも、やっぱり日本海の魚の味、風味がしてるね。この潤んだしっとり加減が!」

 「また知ったかぶりしちゃって!」と横の人がうるさい。
 「なら、食べてみれば! あ、そうだ。私の分、なくなっちゃうから、もう一回「ぶり」!」
 「そしたら、さっきと違うところ、切って、ご飯つけましょうか」
 「うん、そうして、そうして!」
 「私も、もう一貫、お願いします」と、横の人。
 「ぶり」が気に入った様子です。

 そして登場したもう一回の「ぶり」。
 部位が違うと、大きさが違って少々小「ぶり」。しかも、色合いが違って、白みがかった感じです。
 「あ、私、こっちの部位の方が好き!」と横の人。「さっきのより、淡白な味なのね!」
 「うん、でも、さっきのもいいじゃん。というか、珍しいし、滅多に食べられないから、これが最後、ってこともありえるなあ!」
 「親方の頃も「いいのがあれば」ってことだったんですけど、滅多にいい物が出なかったんで、品書きの板は白いまんまなんですよ」

 それからご飯をつけて食べた「さば」。

これがまた絶品の「さば」。
脂ののり、そのまったり加減が絶妙です。
といって、しつこいくどさ、クセの強さはなし。旨味たっぷりで、しかも、妖艶な味わい、風味あり。 
「もう1回!今度いつ出会えるかわからないもん!」
しょっちゅう通えばいいんですけど、そういうわけにもいかないしなあ。 
ともあれ、「ぶり」と「さば」に打ちのめされた一夜でした。

2009/12/12

『KKミーティング』

『KKミーティング』に出席。亡き加藤和彦を偲ぶ会であり送る会でした。会場には故人に縁のある人、関係者が大勢参加。報道によれば出席者は500名程だったそうで。つい最近出会ったばかりの人に混じって、久々に出会った人も。

 「私とのステージが最後(のステージ)になっちゃったんだよね」としみじみと語るユーミン。坂崎(幸之助)くんとは「「和幸」の次のアルバム、どうすんの?なんてことを(加藤)に聞いたんだよ」なんて話を。(高橋)ユキヒロ、小原(礼)とは昔話。正やんこと伊勢正三夫妻にも久々に会いました。会の終了後、クローク前でばったり顔を会わせた今井(裕)くん、現在、陶芸家として製作活動中、と言う話に驚きました。

 会場には故人が好んだ店の好んだ料理が用意されていて、それぞれ店主自らがサーヴィス。
 岐阜の開花亭の「ビーフンとキャビア」。キャビアの塩味とビーフンを和えたごま油の甘味、それぞれに特徴的なネットり感など、味、触感の対比が印象的。神戸北野ホテルの山口さんが自ら切り分けてくれたロースト・ビーフ。さしが入った肉ですが、肉そのものの香りがしっかり。

 祇園ささ木の「太巻き」。華やいだ色合いの美しさに目を惹かれます。様々な具を出し巻きで包んであって、周りをご飯が包むという按配。具のひとつひとつの味、香りがそれぞれに際立っていて、なおかつ、全体で調和。そのバランスが見事。緻密で繊細、豪放で大胆さが一体となった素敵な太巻き。お代わりしました!

 その隣には岐阜の川原町泉屋の「鮎」3種。中でも「鮎の熟れ寿し」が美味。この日食べたものの中ではピカ一。岡山の吉田牧場のチーズはデザートに、という心つもりが行列がすごくて、ありつけず。終わり間際にほんの一切れ。

 以上以外にも様々な店が出店。そのすべてを踏破することは出来ませんでしたが、加藤(和彦)を偲ぶにふさわしい「K・Kミーティング」でありました。

2009/11/22

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の8

 そして今月の面・飯は「芥蘭腊腸炒飯/腸詰と芥蘭入りのチャーハン」。
「腊腸」というのが豚肉の腸詰。で「芥蘭」というのはアブラナ科の一種で、「チャイニーズ・ブロッコリー」と称されることもありますが、厳密には「チャイニーズ・ケール」ってことになるらしい。
 その「ケール」は「青汁」のもと。ですが「チャイニーズ・ケール」は、葉もたべますけど、むしろ茎が食べどころ。それが「ブロッコリー」の茎に味も風味も似ている。だから、「チャイニーズ・ブロッコリー」と称されるようです。そのあたり、要調査。ともあれ、パリっとした触感で、こりっとした歯応えがある。くたくたに茹でるよりも、ぱり・ぽり・こりの触感を残して調理、というのが香港/広東では一般的。
 腸詰の「腊腸」は、台湾系の料理店での前菜の定番になっていますが、香港/広東では「腸詰」だけを食べる、というのは滅多になくて、野菜、ことに「芥蘭」のような茎野菜と炒めたり、炊き込みご飯、炒飯の具にします。糯米を炒めた「炒糯米飯」には欠かせないもの。
 秋の実りの収穫を終える頃、冬を迎える前に豚や家鴨を潰して各種の腸詰を作ります。なんてところは、フランス/イタリアなどでも一般的。肉食系の民族には欠かせない行事、なんですね。ということでは、本来、「芥蘭腊腸炒飯/腸詰と芥蘭入りのチャーハン」は、秋の終わりを告げる炒飯。それが今回登場、というのは、走り物、ってことになりますか。
 そして、甜品。今月の伝統的な甜品は、嬉しいことに「中秋の名月」に欠かせない「月餅」。ところが今回の月餅、伝統的なでっかいそれではなくミニ・サイズ。それも、ペニンシュラ・ホテル(あの黒服の女史のペニンシュラ・東京じゃなくって香港)の「嘉麟樓」のミニ月餅を思い出しました。
 表皮は「酥」のさくさくの感じを残しながらで、しっとり系で、頬張るとほろほろ、はらはら崩れ落ちていく感じが堪らない。柑橘の風味がする、と思ったら、後で教えられたところによればレモンの風味、だそうで。
 ミニ月餅の正式名は「檸檬奶黄月」黄味入りの餡は、緻密で上品で洗練されたもの。これまでの伝統的な点心に特徴的だった素朴な味、風味とは対照的。点心長の久保田さんの新たな側面を発見。
 う~ん、今度、「赤坂璃宮」銀座店で、日曜のブランチに点心大会、実現してみたい、なんて思ったりしたのであります。

2009/11/21

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の7

 そして「蒜子火腩魚球煲/白身魚と豚バラ肉の土鍋煮込み」。
 袁さんのこの種の土鍋料理、いつもと変わらず料理は煮えたぎっていてふつふつと音を立てながら、熱々のまんま登場。湯気がもうもうと上がってますから画像を取るのに一苦労。しかも、湯気が少しばかり収まるのを待ってなお、ふつふつと音を立ててるんですからその熱さ、想像してもらえるはず。大変なのは料理をテーブルに運んでくるアテンドの柏木さん。
 白身魚は「めろ」。それもぶつ切りなんで「魚球」ってわけです。衣で覆われていて、衣がだし入りの煮汁をしっかり吸い込んでます。頬張ると「めろ」の身がほろりと崩れる。

 「めろ」は「銀むつ」なんて名でスーパーでみかけました。もっとも、切り身ばっかりで一匹丸ごとの「めろ」はみかけたことがありません。

 検索してみるとスズキ目に属する「マジェランアイナメ」、もしくは「ライギョダマシ」ってことで、深海魚。一時「銀ダラ」の収穫が激減し、それにとってかわるものとして一般化。ところが、その「銀だら」にしても、

厳密には「たら」じゃないというからややこしい。

 私の印象じゃ「あいなめ」というよりも「たら」に近い感じで、脂肪分はたっぷり。というものの、なんだか、茫洋としていてとぼけているような味、というイメージが支配的。ですから、塩でしっかり締めてフライになんかしたもんです。

 それが、こうやって衣にくるまれて調理されれば、ほろりと崩れる身の触感、それに茫洋とした感じも薄れ、身が引き締まる感じ。
 ということでは、下拵え、塩味の塩梅、工夫ありなんじゃないでしょうか。

 「豚バラ肉」というのは、厳密には皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」。「焼肉」をそのまんま食べると、焼かれた皮のぱりさく感が絶妙なんですが、この料理の場合、衣で包んである。というわけで、皮のぱりさく感はくたっとなって、しっとりじゅわりの触感。さしずめ天つゆにつけた天麩羅状態なわけです。しかも、これまただし入りの煮汁を吸い込んでいて旨い。

 それ以外に干し椎茸。旨味のある味、風味は格別。加えて、見逃せないが料理名に「蒜子」とあるように、にんにくの存在。その一粒、丸ごと煎り焼きにして風味付けにされてるわけですが、それだけじゃあない。

 丸ごと一粒のにんにく。火を通せばとんがった辛味が薄れ、甘味、旨味を醸し出す。それが、この料理の味の決め手のひとつ、なのは明らかです。煮込まれてそのエッセンスを抽出した後のにんにくは、だしがら状態のはずなのに、ほくほくとしていて旨い。

 先の例湯での「百合根」に通じるところもある。香味野菜ですから、食べる必要もないのに、そのほくほく感、甘味のかすかに残っただしがら状態のにんにく、食べたくなります。

 「あ、どうしよう。にんにく食べると、匂い、残っちゃう!けど、美味しいから、食べちゃいます!」なんて声も上がったりして。でも、この料理にはすっかりにんにくのエキス、が抽出されてるわけですから、にんにく食べなくったって、同じこと、無駄な言い訳じゃないでしょうか。

 それより、この料理の味付け、だし入りの煮汁が旨い。でも、そのだし、広東料理でのこの種の料理、炒め鍋煮込みには一般的なことですけど、「上湯」じゃなくて「二湯」、つまりは二番だし?なんて感じでしたが、袁さんに尋ねたところ、案の定「ニ湯」ってことでした。そして、味付けはオイスター・ソースの「蠔油」、中国たまり醤油の「老抽」。

 日本では鍋肌に醤油を垂らして生まれる焼け焦げの香ばしさ、風味が中華らしさの特徴のひとつとして語られたりしますけど、それっていささか粗野で乱暴な調味、調理の産物。それとは対照的な「だし」と「蠔油」、「老抽」のこくのある旨味による奥深い味わい、風味が素晴らしい。

 香港じゃあたりまえ、なんですが日本ではなかなかお目にかかれない土鍋炒め煮込み料理です。それだけでも嬉しくなっちゃいます。

2009/11/20

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の6

 袁さんの「鹽焗鶏」、その実態と真相を知るべく、後日、支配人の橋本さんを通じして質問したところ、予想外の回答が戻ってきました。

 その下拵え、鶏の中に塩、エシャロット、生姜や葱などの香味野菜、香辛料に玫瑰露酒をすり込むそうです。ところが、次のプロセス、伝統的な手法では下拵えした丸ごと一羽の鶏を紙で包んで、焼いた塩で蒸し焼き、というのが一般的。

 ですが、袁さん、塩で包んだり、蒸し焼きにはせず、「鶏肉に醤油を塗って、オーブンで焼いただけ」という回答に驚きました。だから客家料理店での伝統的な手法による「鹽焗鶏」のように塩味しっかり、濃厚でな味付けじゃなく、すっきり爽快、上品な味わいだったわけですね。なりより鶏の旨さが際立ってます。

 それに葱油風の味、香りがしたことが気になってましたが、葱油ではなく「鶏の中に葱を入れて焼いている為」とのこと。取り分けられた鶏肉の小皿にはほんのわずかばかり「だし」がありましたが「だしはつかっておりません」。すると、鶏肉の肉汁が滲み出た、ってことか、それに、今回、特別に比内鶏を使ったのは「骨から出る旨味を重視」ということによるものなんだそうです。

  そうか、袁さんの「鹽焗鶏」、塩で包んで蒸し焼きにする伝統的な手法じゃなくって、新式、改良版と思わず納得。ということは、オーブンさえあれば「鹽焗鶏」は出来るんだ!それなら、我が家でも「鹽焗鶏」が出来るかもしれない!なんて無謀に思っちゃう私であります。それも、丸ごと一羽じゃなくって、骨付きの腿肉や手羽先や手羽中を使って「なんちゃって「鹽焗鶏」が作れそうです。

 もっとも、下拵え、焼き加減の按配を見るのが厄介そう。経験と年季が必要、かも。でも、プロの料理人なら袁さんの調理法にならって「鹽焗鶏」が出来るはず。なのに、日本の広東料理店では滅多にお目にかかれないのはどうしてだろう。

 日本ではなじみのない料理、なんてことと、新式、改良型の「鹽焗鶏」の料理方法が日本ではさほど知られていない、からでしょうか。伝統的な手法でなくともこれだけ美味で風味豊かな「鹽焗鶏」が出来るのに。ことに宴会料理にはうってつけ。なんとか日本で広まってほしい広東料理の一品です。

2009/11/19

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「鹽焗鶏」が登場! 
 私にとっては待望の一品。「赤坂璃宮」銀座店の料理長、袁さんの手になる「鹽焗鶏」、なんとか食べられないかと願ってはいたものの、「鹽焗鶏」は鶏を一羽丸ごと使ってこその料理です。ところが、月例の「赤坂璃宮」銀座店のでメンバーはその人数、増えても5~6人。なんことから、別の機会に特別に依頼するつもりが、な、な、なんとその登場が実現。私は嬉しさに大興奮!
ところで「鹽焗鶏」。
もともとは客家料理の伝統的な一品で「正宗東江鹽焗鶏」というのが正式名。

 下拵えした丸ごと一羽の鶏を焼いた塩で包み、蒸し焼きにした料理です。そんな伝統的な調理方法とは別に、調理方法を改め、味付けを軽くした「鹽焗鶏」もあり。なんせ伝統的な調理方法では塩をふんだんに使う。場合によっては塩味が濃厚。おまけに、近頃、減塩を志向する人が多くなった、という時代の要求に応じ、工夫されるようになったもの。

 さて、「鹽焗鶏」。テーブルに運ばれてきた時の香りの素晴らしさにうっとり。焼かれた鶏の香ばしさ、鶏の皮の脂やほとばしる肉汁の香りが混然一体。それになんといっても焼き上がった鶏の皮の色合いが美しい。焦げはなし。狐色が茶色がかったその色合いは黄金色というにふさわしい。思わず生唾ゴクン!となる見事な色合いです。

 皮は「ぱり」っとしたまさに「脆」の触感。噛み締めると歯がすんなり肉に入る。ですが、その肉、歯をかすかに押し返すぐらいの弾力が潜んでます。日頃、「赤坂璃宮」銀座店で食べることの多い伊達鶏のねっとりがかった柔らかさとはちょっとばかり違います。しっとり潤みのある柔らかさ、ですね。

 肉を噛み締めればジューシーな肉汁がほとばしる。同時に、鶏肉の旨味がじんわり口中に広がっていく。もっとも客家系の料理店での伝統的な「鹽焗鶏」に特徴的な塩味の濃さ、きつさは皆無。なによりもしっとり潤んだ鶏肉の旨さ、風味が際立ってます。

 食べ進めるうち、気になったのは鶏の肉質、触感、味、風味。いつもの伊達鶏とは明らかに資質、持ち味、異なります。肉はしっとりなのに、いくらかの弾力があり、なおかつ、ジュージーで旨味がある。加えて、葱の風味のある油、旨味を感じたのも印象的でした。

 ふとメニューを見直すと「家郷鹽焗鶏/比内地鶏のオーブン焼き」なんてある。「そうか、いつもの伊達鶏とは違うわけだ!けど、なんでまた比内鶏?」

2009/11/17

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 続いて「白果百合泡蝦仁/芝海老と銀杏・百合根の炒め物」。
 これぞまさしく秋ならではの一品。
 海老、銀杏、百合根に、セロリ、グリーンアスパラも素材です。

 「この百合根のほくほくした感じ、甘味がいいですね!」
 「それにこの銀杏も旨い。触感と味、風味がいいですね。
 ほら、焼き鳥屋で焼いた銀杏を食べると、香ばしくて、ぷちぷち、ぎしぎしっとしてて、噛み締めると渋みやほろ苦さがあって、独得の甘味、風味がでてくるでしょ?

 それが、茶碗蒸しだとか、ひろーす、ほらがんもどきね、あんなのに入ってて、蒸したり、煮込んだりすると、甘味がたって、噛み締めるとクリミーだったりするでしょう? それが、こうやって炒めると触感とか、味、風味がびみょーに違いますね。このぎしぎしとした触感って焼いたのに似てるけど、ぷちっと弾けるような感じじゃなくって、しっとりねっとりとした弾力があるよね。それに渋みやほろ苦さが消えて、甘味、それにクリーミーなかんじがするし」

 「銀杏もいいけど、この百合の根、ほんとに美味しい。でんぶん質ですね、この甘味。それより、百合根にしろ銀杏にしろ海老にしろ、火の通し方が素晴らしいですね。ウチジャア絶対出来ないプロの技。それに、味付け、すっきりとしてて、上品ですごく洗練されてるのね。これも、ウチじゃ絶対に不可能!」

 なんて、私が言おうとしたこと、先取りされちゃいました。
 そう、火の通しから、味付けは、まさにプロの技。それより、この手の料理、日本の一般の広東料理店だと、仕上げにとろみのあんかけ、なんてのがほとんどです。それが、中国料理、広東料理ならではの味、調理だと思いこんでる人、料理人をふくめての話ですけど、少なくない。

 はたせるかな袁さんの手になる「白果百合泡蝦仁/芝海老と銀杏・百合根の炒め物」、画像をみれば明らかなように、こってりたっぷりのとろみつけなんかなし。海老にしろ、百合根、銀杏、セロリにアスパラ、それぞれの素材の味がはっきりとわかる。

 とろみで最後に仕上て、素材を味付けで食べさせるんじゃなく、素材の持ち味を引き出し、風味を生かすのが広東料理の真髄、なんてことがこんなごくオーソドックスな炒めものの一品でよーくわかります。

2009/11/04

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 「これって旨いよね。素材の味、そのまんまだし」
 「この自然な甘味って、蓮根の澱粉質でしょ?たっぷり濃厚で、風味があるのに、決してくどくないし、おしつけがましくないのね」
 「甘味、旨味、こくは豚のタンからもたっぷりだね。豚の舌の脂肪分の甘味、旨味じゃないかな。豚のタンって、焼くだけじゃなくって、こうやってスープにすると旨味のあるだしがとれるんだね」
 「それに牡蠣の味がする。メニューに書いてある「蠔豉」ってのがそれ、牡蠣を干したものです。それに「髪菜」も入ってる」
「このやわらかい髪の毛のようなものですね。これって?」
「ねんじゅも属の藍藻の一種、だったはず。陸モズクというか、いしくらげの変種だったと思います。草原などで繁殖してるのをかき集めて採取するんだけど、表土も一緒にさらっちゃうから環境問題にもなって、たしか、採集禁止にもなって、今では貴重品のはずですよ」

 その「髪菜」、広東語では「發財」の発音と似ていて、その意は「財をなす」。それに干し牡蠣の「蠔豉」は「好市」の発音と似ていて、その意は「よき市場」、つまりは、好景気ってことですね。そんなことから「髪菜」と「蠔豉」を組み合わせた料理は縁起担ぎの一品として、春節、つまりは旧正月には欠かせないメニューです。

 そればかりか豚の舌の「豬脷」の「脷」は「利」、つまりは利益、儲けがあるということに由来する広東地方独得の表現。それに「蓮根」も、丸い穴が通っていて先行きが明るい、なんて意味がある。
 つまり、今回のスープの「髪菜蠔豉豬利蓮藕湯/豚タンと蓮根のスープ」は、縁起をかついだおめでたいものづくしの一品。というわけで、本来は春節などに食べる伝統的な郷土料理。
 そういや、秋の収穫を終えたおめでたい時にも、なんて話を耳にしたことがありますが、もしかして今月登場したのはそんなわけかも。
 今度、袁さんに尋ねておきます。 

2009/11/01

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 今月のスープは「髪菜蠔豉豬利蓮藕湯/豚タンと蓮根のスープ」。
 「猪利(豬脷)」とは「豚のタン」。日本では焼き肉にするのが圧倒的なようで。そういえばフレンチ、イタリアンでもたまに見かけることがあります。
 牛や豚の内蔵類。とことん食べつくしてしまう広東人の場合、焼いて食べるというよりもスープや煮込みにすることが多い。そんなわけで、今回は旬の素材、これからがうまくなる「蓮藕」つまりは「蓮根」と組み合わせたもの。
 「蓮根」も広東地方ではいろんな料理に使われます。が、スープの素材になる、なんてところが日本とはちょっと違うところ。日本で思いつく「蓮根」の料理といえば、すり流しなどは別にして、ほとんどを占めるのがしゃきしゃきの歯触りを生かした料理じゃないでしょうか。もっとも、筑前煮なんて場合にはほくほくの触感が味わえる。
 そんな「蓮根」、広東人の場合、しゃきしゃきの歯触りよりも素材の持ち味を生かして調理するというのが一般的なようです。例えば、澱粉質がたっぷり、なんて効用を生かす。そのあたり、慈姑なんかも含めて根菜類の扱いにも共通することです。
 それにこれまで何度か紹介してきた「蓮藕餅」。日本で「蓮根」の揚げ物といえば、たとえば天麩羅のそれや蓮根の挟み揚げなんてのが一般的。それが広東料理だと「蓮根」を擂り潰し、豚の挽き肉などと混ぜ合わせ、ハンバーグ状にして煎り焼きにする。
 「蓮根」を擂り潰す際に、しゃきしゃきの歯触りを残すあら微塵にするか、それとも、徹底的に擂り潰すかで、出来上がりが違います。そう、しゃきしゃきの歯触りを残した硬いか、それとも、ねっとり感のある柔らかいものになるのか。ちなみに、香港の広東料理店で「蓮藕餅」を注文すると、決まって多いのが硬目のものです。
 そんな「蓮藕餅」もさることながら「蓮藕(蓮根)」はやはりスープの具材。ことに「例湯」や「煲湯」の具材のひとつになります。長時間煮込まれた「蓮藕(蓮根)」は、ほくほくを通りすぎて「かすかす」の抜け殻状態。そのエッセンスはすっかり「湯(スープ)」の中にあり、というわけです。

2009/10/31

秋半ば&待望の「塩焗鶏」~09年10月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 今月もぎりぎりセーフで09年10月の「赤坂璃宮」銀座店。
 いや、あの、今年も芸術祭の審査員を担当。なんてことで10月に入って以来、従来のコンサート通いに取って代わって演芸場や小ホール通い。私の担当は大衆芸能部門で音楽もありなんですが、圧倒的に多いのが演芸関係。それに今年は朗読関係の催しがいつもに比べて多い。おまけに一日の内、昼、夜、別の催しがあってあっちこっち。なんてことでブログ・アップの機会、逸してました。
 そういえば先月分で未報告分もありなんですが、以上のまずはそれより月例の「赤坂璃宮」銀座店のレポート報告。

 まずは前菜の「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物盛り合わせ」。その内容、向かって右から皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」、家鴨の焼き物の「焼鴨」、それに「叉焼」。飛んでトマトに白菜の酢漬けにくらげ。その盛り付け、今月は角皿で登場。真ん中には稲穂と思しき飾り物も。

「あれ、今月、鶏肉がないや!」
その理由、後で判明。

それより家鴨の焼き物の「焼鴨」、皮はぱり。肉はしっとりながら適度な弾力、歯応えがあったのと、いつもより甘味のある味付けだったのが印象的。 それにくらげの歯触り、噛み応えも快感でした。

2009/10/30

「ロック・オブ・エージズ~小倉エージ・インタビュー&トーク集」

 なんてことで、この程、ミュージック・マガジン社より拙著「ロック・オブ・エージズ」が発刊の運びとなりました。
今年、ミュージック・マガジンが創刊40周年を迎えたのを機に、創刊以来、同誌と関わってきた私が同誌に寄稿してきたインタビュー、ルポ、対談、鼎談をまとめたものです。それも、一部を除き、掲載時の記事をスキャンして収録。
 ということもから、結果、事実関係やその認識など現在とは異なり、本来は修正の必要なものもありましたが、そのまま収録。創刊当時の拙い文章、内容は赤面するより他ありませんが、当時のロックの動向、そのうごめきをなんらかの形で伝えたいという意欲にかられてのもので、その取り組みを明らかにするものとして収録。
 ミュージック・マガジン誌に寄稿したインタビュー、ルポ、対談、鼎談は思いの他ありましたが、紙数に制限もあってそのすべてを収録することは出来ませんでしたが、手にとって気軽に読める、楽しんでいただけるもので出来上がりました。
 その続編もなんとか実現したいと思っていますが、とりあえずは今回の「ロック・オブ・エージズ」、ご高覧いただければと願う次第です。
 ニュー・ミュージック・マガジン時代をほうふつさせる表紙のイラストレーションを書き下ろし、装丁を手がけてくれたのは矢吹申彦さん。 あ、こんな感じの表紙、見たことあり!なんて方なら、きっと、楽しんでいただけると思います。

2009/10/23

「カフェ・ル・モンドのメニュー」

 加藤和彦の訃報を知ったのは先週の土曜日の昼過ぎ。通信社からコメントを求められてのことでした。それも「自殺されたようです」との話に、一体、何があったのか訳がわからず、言葉も出ない。というより、信じられませんでした。

 ちょうどこの2日、松任谷由実のコンサートに出かけた際、サプライズ・ゲストで登場し、新作「そしてもう一度夢見るだろう」の収録曲の「黄色いロールス・ロイス」をデュエット。終演後、バック・ステージに赴いたところ、石川セリさんと歓談中に「やあ、やあ、やあ、エージ、エージ!」とにこやかに声をかけてきたものです。セリさんとの話は中断して、しばし歓談。

 今年の初めに発表された坂崎幸之助との「和幸」の第2弾だった『ひっぴいえんど』は、はっぴえんどをはじめ60年代末から70年代初頭にかけてのロック、フォーク、ポップスを下敷きに、作品、歌、コーラス、演奏、サウンド作りにひとひねりもふたひねりも工夫を凝らした作品。当時の事情を知る、なんてことからインタビュー、解説に引っ張り出されてお手伝い。

 前後してアルバムを発表し、ライヴも実施したのがVITAMIN-Q。ユーミンの「黄色いロールスロイス」はその流れをくむもの。併せて「和幸」ともども、昨年来、バンド活動、ライヴ活動に意欲的。
 そんなことから、ユーミンのバック・ステージでの再開での話の中身は、ここ最近の動向やこれからのことについて。ことに気になるのは「和幸」のこと。

  そしたら「う~ん、あれは、仕掛けを入念にやんないとね。準備も必要だし。ま、それ以外にいろいろ、考えてることがあるんだけど……」なんてことでした。

 加藤和彦が鬱病を患っていたとは知らなかった。それは私だけでなく、内々の関係者のみが知ることだったらしい。日を追って、様々な報道がなされ、遺書の一部なども報じられ、自ら命を絶つに至った理由、経緯、事情が少しずつ明らかになったものの「何故?どうしてまた?」という疑問が頭の中を渦巻くばかりです。

 知り合って40年あまりの長きの間、常に身近にいた親しい友人ではなく、疎遠だったことの方が多い。が、時に出会って、親しい付き合いを重ねたこともあります。
 はっぴいえんどのデビュー・アルバム、通称「ゆでめん」が出来上がった日の夜、はじめて関係者以外の人間としてそれを聞かせたのは加藤和彦であり、絶賛してくれるとともに大いに勇気付けられたことは今も忘れ難い。後年、私がTVの「男の食彩」のキャスターを務めることになった際、最初のゲストとして迎えたのも加藤和彦だったが、その依頼を即座に引き受けてくれました。「和幸」の『ひっぴえんど』の解説やインタビューに借り出されたのも、そうした長年の付き合いあってのことです。

 加藤和彦が日本の音楽界、ポップ・シーンに残した業績。それを改めて振り返ってみたいと思っています。
 今、思い浮かぶ私にとって加藤和彦が生んだベスト・ソングといえば「カフェ・ル・モンドのメニュー」。「和幸」の「ひっぴえんど」のインタビューの際、さすがの坂崎幸之助もその存在を忘れていたレアな作品です。

2009/10/11

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の8

 最後はそれぞれ好みで選べるデザートの甜品。が、その前に、特別なデザートが登場。
 昔懐かしい甜品の一品の「椰香薄缶掌捲/ゴマとピーナッツバターとココナッツのライスクレープ巻き」。

 中国の料理名の「缶掌」は、それで一語。文字自体は点心のメニューなどで見かけることがありますが、PCでの漢字表記にはなく、漢字変換は不可能。香港や広州のサイトなどでも「缶掌」と2字で表記。

 どうやら広東語の音韻にあわせた広東語独自の表記らしく、慣用語、慣用表現としてして定着しているようですが、正しい漢字表記を!なんてことで「撐」もしくは「撑」という漢字で表記しているのもあります。どうやら、しっかり巻き付ける、って意味のようで。
 その言葉通り、ゴマやピーナッツバター、削ったココナッツを具にしてしっかりまきつけてあります。その生地、ライスペイパーなんてことからすると米の粉で出来た腸粉ってことになりますが、生の腸粉は乳白色。

 それとは違ってこれは半透明で、乾燥させたライスペイパー、そう、ベトナムの春巻きに使う半透明のライスペイパーに似ていて、それよりいくらか厚みがあります。

 この種の巻き物のデザートでは米粉にくわいの澱粉、黒ゴマあるいは白ゴマを混ぜ合わせて平たく伸ばし、きっちり巻き付けた「芝麻捲」がありますが、それって70~80年代に飲茶の点心に登場。ということからするとこの「椰香薄缶掌捲」はそれ以前からある昔ながらの伝統的な点心の一品。

 随分と以前、昔ながらの老舗の茶樓、広東料理店の早茶、午茶の飲茶巡りをしていた頃、油麻地の豪華酒樓、北角の十大、それに筲箕湾の茶樓でみかけた記憶があります。しかし、「芝麻捲」の登場とともに滅多にみかけなくなりましたが、懐古的な料理の復活とともに、昔懐かしい点心として話題に昇るようになったもの。

 ちなみに点心料理長の久保田さん、香港じゃなくって横浜のシェラトン時代に習ったそうで。ということは、日本にも紹介されていたってことになります。ともあれ、先月の「南瓜水晶包」にしろ、この「椰香薄缶掌捲」にしろ、珍しい点心を用意してくれるのが嬉しい。これからどんな点心が登場するのか、楽しみです。

2009/10/08

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の7

 締めくくりの「面・飯」。
今月は「鮑汁炆伊麺/鮑ソース入り煮込みそば」。
 
















「伊麺」、すなわち「伊府麺」は、卵入りの麺。「伊府麺」、日本の中国料理店、それにスーパーなどでもみかけますが、細めのものが一般的。 それが、香港だと、平べったくて少々幅広。といってきしめんほどの幅の広さでもなく、その半分ぐらい。イタリアの乾麺の「リングイネ」に近いです。そんな香港で食べる幅広の「伊麵」が登場したのに吃驚! 

 以前、食べた雲呑入りの「香港雲呑麺」の「麺」は、香港から空輸した直輸入品でしたが、もしかしてこの「伊麺」もそうなんでしょうか。 実際、麺の旨さがちがいます。すっと歯が入る柔らかさで、噛み締めるとしっとり感あり。腰のある讃岐系の麺をお好みの人にはうけないからもしれませんが、モチモチ系のうどんが好みっていう人なら、好み、ぴったりのはず。

 その柔らかさ、独得の触感は、麺自体の素材の質ってこともありますが、揚げて、煮込んであるという調理方法のプロセスによるもの、のはずです!そして、味付けは干し鮑を戻した際に生まれる鮑汁をもとにした旨味たっぷりなもの。具は韮、もやし、それにどうやらエリンギらしい触感の生茸。

  いたってシンプルな汁が少なめの煮込み麺。ですが、調理に手が込んでる。おまけに「鮑汁」は高価な調味料ですから、実は贅沢この上ない麺料理。宴会料理の締めくくりに登場ってことも少なくない。
 袁さんが調理、味付けしたこの「鮑汁炆伊麺」、旨味たっぷりでも洗練された上品な味付けで、その味加減が見事。風味豊かな麺料理。「旨い!」と一言唸って、あとは、無言。ひたすらつるつる。するすると喉元を通り過ぎていきます。

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の6

 「辣酒煮花螺」といえば思い出すのが「大佛口食坊」のそれ。
 香港の広東料理が最盛期を極めた80年代半ばに誕生し、各地に支店を持った「大佛口食坊」は、海鮮料理の大衆化に貢献。と同時に、新しい料理を次から次へと発表。そのひとつがこの「辣酒煮花螺」。やがて香港中に広まり、後に「大佛口食坊」は結業、すなわち、閉店しましたが名物だった看板の料理は形を変えながら現在に至ってもいろんな店で受け継がれているという次第。

 袁さんもおそらく「大佛口食坊」、もしくはその流れを組む料理を食べたことがあるはず。なんせ、80年代半ば以後、香港の海鮮料理では大人気でしたから。あ、そか、もしかしてかつて袁さんがいたという「翠園酒家」のメニューにあったのかも。もっとも、今回の「辣酒煮花螺」、香港で私がいくつかの店で食べたそれとはいささか異なる。

 まず、香港では「バイ貝」でも殻に方形の斑点模様がついた「ソウゲバイ」や格子状模様の「ヤマグチバイ」が主体。ですが、それら日本ではなかなか入手が難しい。ということで今回の「白バイ貝(エッチュウバイ」になったんでしょう。

 それに、袁さんならでは工夫がある。そのひとつは煮込み用の酒。普通は紹興酒や玫瑰露酒、広州産の焼酎の米酒を使用するのが一般的。それが袁さん、前述の通り「五粮液」、「茅台」を使用。匂いというか香りが強烈で、しかも、アルコール濃度が高い。

 さらに、豆瓣醤、辣椒醤などを取り混ぜ、辛味と旨味、こくを付けるのが香港では一般的。それが袁さん、豆瓣醤はどうやら「郫県」のものを使用してるらしい。普通、赤色、もしくは、醤油系の濃い色のものが多いんですが、赤いレンガ色、というのがそれを物語る。

 加えて「痺れ味」、これって、香港の色んな店で食べた「辣酒煮花螺」にはなかったことで、いささか趣が異なる。実は、香港人、ことに広東人ですけど、その多くが中国山椒の「花椒」が苦手。しびれ味はともかく、その香り、風味、はっきり言ってその匂いが、受け付けられない!

 「え!? 麻婆豆腐に不可欠な痺れ味を生む「花椒」が苦手?信じられない!」、なんて人もいるでしょう。が、事実です。
 かつて日本では「花椒」の入手が難しく、痺れ味にも馴染みがなかった。それが「花椒」を使った本場式の「麻婆豆腐」が紹介され(私もdancyuで早くに紹介してきたひとりです、と書いておこう!)その入手が容易になって、いまでは「花椒」の「麻」の味も生かした本場式の「麻婆豆腐」が一般的。

 中には「花椒」の「麻」の痺れ味に病みつきになってしまった人も少なくない。多少の「花椒」では物足りない!「どばっ!」と入れて、かけて、と注文する人もいるそうな。なにしろ、最近の「麻婆豆腐」、そればかりか「四川料理」の評価の一番の基準は「辣」の辛味だけじゃなくて「麻」の痺れ味が過不足なく使われていないと潔しとしない。なんて具合ですから、なんだか不思議な按配。それも食の評論家にそうした発言をする人が多くて「をいをい違うだろが」って、あ、言わないほうがいいか。穏便に、穏便に。

 やっぱり日本人は味で判断。香港の広東人はそれに加えて香りも重視、というあたりに違いがある。そう、私の知る限り香港の広東人は「花椒」の痺れ味はともかく、香りを潔しとしない、嫌い、受け付けないという人が圧倒でき。それなのに香港からやってきた袁さんのこの「辣酒煮花螺」、痺れ味がする。「花椒」の味、風味がするのは「なんでまた?」と思って当然のことでしょう!

 橋本さんに尋ねてもらいました。
 「「馬拉醤」は使用していないそうです。調味料、香味野菜は「豆板醤」、「干し唐辛子」、「生唐辛子」・「山椒オイル」、「沙爹ソース」です」とのこと。

 そうか、カレー味談義(?)のもとは「沙爹ソース」こと「沙爹醤」だと判明。 「沙爹醤」、そもそもは干し海老の「蝦米」、海老みそ(あみの塩辛)の「蝦醬」をベースに各種香味野菜、香辛料を混ぜ合わせピーナッツ油でいためて作る、というのがその基本。中国南部から東南アジアにかけての国々に素材の内容が異なるものがあります

 そして「山椒オイル」を見逃せませんでした。それこそ「花椒」を素材した調味料で、しびれ味のもと、ですから。なんてことだと辛味だけでなく、ヒネた旨味が濃厚な「郫県豆瓣醤」(あ、未確認です!)、「山椒オイル」ということなら広東料理じゃなくって四川料理じゃないですか!しかも「五粮液」、「茅台」を使う、なんてのも広東系の料理人には「ありえな~い!」(って、ちょっと若ぶったりして!)

 袁さん、多分、日本にやってきてその種の調味料に出会い、その面白さ、発見したんじゃないでしょうか。ということなら、袁さん、香港の広東系の料理人の中でも頭が柔らかくって、好奇心と冒険心にあふれ、なんでも未知の味に積極的にふれ、こで自分が納得すればしっかと受け止め、バンバン使っちゃうというなんて意欲的、しかも創作意欲にとんだ料理人、ってことになります。

 その一方で、基本は広東料理。ことに伝統的な宴会料理と「家郷菜」がその基本とばかり、その信念を貫き通す頑固さもある。それは袁さんの手になる「家郷菜」からも明らかですから。そんな「保守性」と「革新性」が混在し、やじろべえや振り子のように、あっちこっちへといったりきたり。袁さんの料理の面白さのひとつです。

2009/10/06

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の5

 そして土鍋の中で煮え滾る「辣酒煮花螺/白バイ貝の辛味煮」が登場。  そういえば、袁さんの料理、ことに鍋料理、いつも熱々。土鍋料理はいつも煮え滾ってます。テーブルに運ぶアテンドの柏木さん、いつも一苦労。テーブルの上に置かれた料理の画像を撮ろうとしても立ち昇る湯気にレンズが曇ってすぐさま撮影なんか出来ない。

 皆さんにお目見え、ご披露の後で一旦テーブルから下げられ、別の場所でお碗に取り分けられて、再度、テーブルに登場となるわけですが、それだけ時間が経過してもなお料理は熱いまま。というのがほとんどですから、袁さんの土鍋料理の熱さ、想像してもらえるはず。

 おまけにこの「辣酒煮花螺」、登場とともに部屋の中はむせるぐらいお酒の匂いで溢れかえる。それも中国の白酒、独得の香りです。「ン!? 「五粮液」に「茅台」?」なんて思ってたら柏木さん、テーブルに置くなり開口一番「「五粮液」と「茅台」を使ってるそうです!」。

 最初に土鍋入りで登場した時には、煮え滾る赤レンガ色した煮汁の中でアップアップ。さながら地獄絵図、石川五右衛門状態、でもないですけど少しばかり異様な光景だったのは確か。それが、小ぶりの鉢に取り分けられ、目の前にした「辣酒煮花螺」、やっと「白バイ貝」の正体確認。
 身が収まったままの貝を小皿に取り、身を取り出そうとしましたが、指で貝つかむと「アチチ!なんで、まだこんなに熱いの?」なんて思わず口走っちゃうぐらい、料理が熱い!
 仕方なしに、お絞りで貝を押さえ、ほら、蟹の脚の身をほぐす細長のフォーク状のも辛さのをねじりいれ、貝から身を引きずりだす!
 煮え滾る煮汁の中にあったことから、さぞやしっかり火が入り、身の硬さを想像していたところ、火の入れ方、ミディアム・レアぎりぎりの感じのところで止めをさしてある感じ。すっと歯が入る柔らかさ。ですが、噛み締めた歯が軽くおしかえすようなしなやかな弾力もある。
  磯の味、と、同時に、だしを口に含むと、こくのある味、旨味、それだけでなく、スパイシーでエキゾティックな味、風味が浮かび上がったかと思うと、痺れをともなう強烈な辛味が一気に押し寄せ、口中に拡がっていきます。
 のたうちまわるほどの辛さじゃない。けど、ジンジンの痺れ味もあって、舌や口腔にまとわりついて、細胞に鋭く染み込み、一瞬、頭が白くなります。前後して、汗がどっと一気にあふれ出る。しかし、こらえきれない辛さじゃない。もっぺん、あるいは、何度でも、(辛さの)快感を味わいたくなくなるようなみょーに後引きな辛さです。
 おもしろいのは、痺れる辛さ、だけじゃない。なんだかスパイシーでみょーにエキゾチック。
 「ね、これ、カレーの味、しません?」
 「するする!」
 「カレーっていうか、複合スパイスの感じね、ほら、カレー粉、実はスパイスの混合体なわけでしょ?でも、なんでスパシーなのか・・・・」
 「あの、もしかして先日の「馬来醤」が使われているからかもしれません。確かめてきます!」
と柏木さん。

2009/10/04

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の4

そして「豆豉蒸紅衫/イトヨリの豆豉蒸し」。その登場ととも歓声が上がりました。
 魚は「いとより」。知らないわけじゃありませんが、こんなにでっかい「いとより」との出会いは初めて。駅前のスーパーで見かける「いとより」はうんと小粒。
 手に入れても煮付けにするか、アクアパッツアにするか。煎り焼きにしてから広東白菜に杏仁なんかとともに「例湯」もどきにしたことがありますが、良かったという印象もなく、日頃は馴染みなし。

 香港や台湾あたりでは海鮮料理店の店頭にある生簀でみかけたことがあって「清蒸」でも「紅炆」でも「油浸」でもいけるよ!なんて話を耳にしながら、なんとなく乗り切れなくって未体験。
 ですが、今回、袁さんの調理した「豆豉蒸紅衫」を再認識。こんぐらい大きいと「いとより」だと「いけるワ!」。

 ひと口食べて身の「ゆるさ」に驚きました。あいなめ、ほっけの触感に通じるしっとり系の肉質。ですが、しゅわしゅわじゃなくって、ほろり、はらりとほぐれていく感じ。どうやら蒸し物、広東式の魚の唐揚げの「油浸」などにうってつけなことをすぐさま察知。

「「いとより」の持ち味、個性、特質って、こんな風だったんだ!」と認識した次第。今度は別の調理法で食べてみたい、なんてつもりにもなった程。ネットで検索すると大ぶりの「いとより」は高級魚扱い。ワ、どうしよう、今回も予算オーバー!なんていいながら、美味の誘惑には勝てない。

 技と工夫ありの味付けというのは「豆豉」(黒豆醗酵味噌)のひね味、旨味、こく。それに新鮮な唐辛子が使われていて、辛味にフルーティな味、風味がある。
 その味、風味からふと思い出したのは6月に食べた「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」に使われていた四川の唐辛子の漬物の「泡辣椒」、それに魚醤などで作った「赤坂璃宮」特製の「海鮮醤油」の味、風味。ふっと「陳皮」の味、風味が鼻先をよぎる。
 料理自体の見映え、味、風味、一瞬、四川の「魚香鮮魚」のよう、ですが「違うワ、この料理は!」と、即座に右だか、左の脳がその考えを「却下」!
 というのも、その味つけ、風味、なんだかエキゾティック。ついでに言えば「トロピカル!」。そう、なんだかタイの南方系の魚料理を食べてるような思いに駆られるからです。

 その要因はナンプラー/ヌクマムと思しき、特有のクセのある味、風味。「赤坂璃宮」の「海鮮醤油」って、実は、エキゾチック。明らかに東南アジア系のそれ!です。さらに魚の上に乗った小ねぎ、香菜、その緑がなんだかトロピカル。ですけど、味、風味の基本は中華風。醗酵品の酸味、ヒネ味が利いていて、すっきりさっぱりの味わい。そんな味付け、蒸す調理が「いとより」にぴったり。

 「いとより」の「ゆるい」身の水っぽいさが抜け、調味料の旨味、ひね味をしっかり吸収。しかも、ほろり、はらりの肉質としっかり馴染んでます。しかも、すっきり、爽やかな爽快感がある。

 「そうだ!」ってことで思い出したのは潮州料理の店で出会った鱸を梅醤で蒸した料理。醗酵系の酸味、ヒネ味、酸味。そこに生の唐辛子の爽快な辛さがプラスアルファ。蒸した魚の上に青葱、香菜のどっさり、なんてプレゼンテンショーンもそんな感じ。

 橋本さんに頼んで袁さんに調味料のことを尋ねたら「「「海鮮醤油」は入ってますが「泡辣椒」は使用してません。それに、赤と青のピーマン、香菜、陳皮、生唐辛子などです」とのこと。
 「なんだか漬物を使ってある感じ!」とIさん。
 「え!使ってないって?だとしたら、なんだろ、この味?」。
 「多分「豆豉」と「海鮮醤油」の醗酵したヒネ味のせい、でしょうね。それより、このすっきり、爽快で、フルーティーな辛さ、いいですね!生唐辛子のせいなんだ!」

 醤油系の味付けで仕上る「清蒸魚」だと、白いご飯の上にのっけて食べたくなる。ですけどこの「豆豉蒸紅衫」、そのまんま爽快な魚料理としてしっかり味わいました。

2009/10/03

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の3

 例湯は「栗子花生煲鶏脚/コラーゲンたっぷりのスープ」。 ン!? 日本語の料理名が「コラーゲンたっぷりのスープ」って、ま、このスープのエッセンスを物語るってことで、わかりやすくっていいですけど……。
 その具材、ご覧の通り、真ん中に秋の実り、栗がたっぷり。その下は棗の蜜漬けの「蜜棗」と鶏の脚の「もみじ」。あ!?!そうか「もみじ」も秋のもの、って袁さんには多分、通じないか!
 左側には「(落)花生」、ピーナッツがたっぷり。栗の上、皿の淵にずらりと並ぶんだもの、なんだと思います? 「豚のお尻です!」と、柏木さん。 「豚のお尻?って、これ尻尾、みたいじゃん・・・・初めて食べるなあ!」なんて声も。 その実態、橋本さんに確認して「豚の尻尾」だと確認。
 そういえばちょうど一年前、「赤坂璃宮」銀座店の9月のメニューにも栗を素材にしたスープが登場。そん時には栗と鶏を煮込んだ「栗子煲鶏湯」が登場。今回は栗に「鳳爪(鶏脚)」を組み合わせたもの。

 広東地方の「湯」、つまりはスープを集大成した私の座右の書のひとつには「鳳爪(鶏脚)」を素材にしたスープが各種紹介されていますが、その中に栗と一緒に煮込んだ「栗子鶏脚湯」がありました。そこでは「痩肉」と「胡桃」、「陳皮」が素材として紹介されてます。

 ということでは今回の「栗子花生煲鶏脚」、「落花生」は「胡桃」に代わるのも。それに「蜜棗」で甘味を加味。なんていっても「鶏脚」に「落花生」という組み合わせはよくあること。それよりおもしろいのは「豬尾」を加えてること。

 「鶏脚」をたっぷり使えばゼラチン質たっぷりのだしが取れます。そこに「豬尾」を加えればますますゼラチン質、さらには旨味、甘味とこくを増す。コラーゲンたっぷりというのもそんなわけか。さらに、生だと渋味の強い栗に火を通せば、持ち味の甘味が顔をのぞかせる。澱粉質もたっぷり。それにほくほくの感じになる。そんな栗のエッセンスを煮込んで抽出。さらに「落花生」、「蜜棗」のエッセンスも。
 素朴、朴訥ながら自然な甘味、さらに、旨味やこくもあるスープが旨い。すっきり、というよりも、いつものこの種のスープに比べてざらっとした感触が舌に触れるのは、栗と落花生のせいでしょうか。
 だしがらのはずの栗の実、落花生が旨い。それより「鶏脚」、「豬尾」が、たまり醤油と上湯で作ったタレにつけて食べると、これがなかなかいけます。
「乙な味、だね。特にこの尻尾、はじめて食べるんだけど、豚の耳のようにこりこりじゃなくって、とろとろの感じ、たまらない!」
「ねっとりでびろびろ。煮込んだ豚の皮、皮の裏側にこびりついた脂肪のとこも、なんともいえない味わいで。冬に備えてえさをしっかり食って、養分をしっかり溜め込んだ豚、これから、ますます旨くなりますから!」

 秋の訪れを告げる一品でありました。

2009/10/01

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店の2

 そして「干貝青瓜餅/干し貝柱と胡瓜入り海老すり身の煎り焼き」が登場。
 干し貝柱、蝦のすり身、慈姑(くわい)、干し椎茸になんと「胡瓜」がその具材。それをつなぎでまとめ、小ぶりのお餅状に。さらに煎り焼きの「煎」で調理。さしずめ海鮮入り、胡瓜入りのミニ・ハンバーグの趣。
 私、この一品、初体験。 

 「「胡瓜」って、中国料理に使うんだっけ?」
 「うん、ほら、四川料理で豚肉の薄切りを茹でて、辛味のタレをかけて食べる「雲片白肉」ってあるでしょ?。あん時、胡瓜の薄切り、スライス、一緒に食べたことない?
  それから、胡瓜を叩き潰して辛味の醤油タレで食べる前菜、なんて言ったけ、う~ん、「麻辣黄瓜」。そうそう、北京の食堂なんかに行くと、胡瓜の前菜の冷製にいろんな味付けのがあるよ」

 「そういえば「酢豚」に「胡瓜」って入ってること、あるよね」
 「そうね。でも、「胡瓜」を炒めたる料理って、それ以外に知らないな」
 「でもないんですよ!「胡瓜」を厚めに切って、ほら、漬物の「胡瓜」の厚さぐらいに。それと「海老」を炒めた料理ってあるんですよ。

 おもしろいことに「玉葱」ね、それも、キャベツやレタスのように一枚、一枚、剥いでから「胡瓜」位の大きさに切り分け、一緒に炒めるの。すると炒めた「胡瓜」がいくらか「しんなり」して、「ぱり、さく」感、薄らぐでしょ?でも、味はすっきり。それから玉葱も火を通すとしんなり、「くた」っとなるけど、甘味を増すでしょ?どっちも、火が通って「しんなり、くた」のへたれな感じなのに、微妙に触感も違って、面白い組みあわせ」と、知ったかぶりの私です。

 そういえば、潮州料理に「胡瓜」をザクきりにして、海老のすり身とか併せて、ピザみたいに平たい円形に延ばし拡げて、お好み焼きみたいに煎り焼きにしたり、かき揚げみたいに油で揚げる「青瓜烙」って料理、お惣菜があったなあ!なんて別の話をしながら、ふっと思い出しました。

 袁さんによればこの「干貝青瓜餅」、広東地方の「家郷菜」ってことです。
 けど、潮州料理の「青瓜蝦烙」に通じものがある。「青瓜烙」のように、平たい円形や、でっかいかきあげ風じゃなくって、小ぶり丸めて、餅状に。そういえば海老のすり身にいろいろ具材を入れて、煎り焼きにする「蝦餅」は、広東料理にも、潮州料理にもあります。

 そんなことからすると「青瓜烙」、「蝦餅」のバリエーションじゃない?ってことに気づいたわけです。しかも、この「干貝青瓜餅」、焼き色しっかり付くぐらいに煎り焼きにしてあって、外側は、ぱりっとした歯触りのする「脆」の触感なのがグッドというかグレイト!

 海老のすり身、戻してほぐした干し貝柱、干し椎茸がおりなす甘味や旨味に、慈姑のさくさくの触感。さらに火が通って多少「しんなり、くた」のながらもどこか「ぱり、さく」感、すっきり爽快な瑞々しさを残してるのは「胡瓜」ならではの味、風味。しっかりその存在を主張。

 そういえば「胡瓜」も夏の名残物。
 それにしても、この「干貝青瓜餅」、火を通した胡瓜の味、風味、触感、その存在感が目立ちます。馴染みのないないものだけに、なんだかミョーな感じもする。ですが、すっきりの爽快感が意外だ!
 「家郷菜」、しかも「お惣菜」らしい一品ですが、調理、味上品です。ちょっと辛味のあるタレをつけて食べるうち、白いご飯がほしくなります。

 そうか、この「胡瓜」、生じゃなくって、浅漬けとか糠付けとか「ぱりぱり」の触感残した漬物の「胡瓜」なんか使うと、面白いかも。そういえば「沢庵」なんかもよさそうだ。実際、「沢庵」入りの卵焼きなんてあるから、そこに「海老のすり身を加えて………」
 いつの間にか《遠い目》。自分の世界に没頭してしまう私でありました。

2009/09/30

秋の訪れ!09年9月の『赤坂璃宮』銀座店

 おっといけない。今月も危うく月越えになりそうになった『赤坂璃宮』銀座店の月例報告。
 9月に入り『秋の訪れ!』、というわけで9月らしく夏の名残と秋らしい素材を使ったメニューが登場。
 
 まずは前菜、「廣東前菜盆/璃宮特製前菜」ということで焼き物を組み合わせた一品が復活。

 前中央が皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」、その後ろ、左から「叉焼」、伊達鶏の醤油漬けの「桶子豉油鶏」、家鴨の焼き物の「焼鴨」。その右、ちょっと離れて、鶏肉のレバーの焼き物の「蜜汁鶏肝」。

 「焼肉」の皮の「ぱり、さく」感、肉のしっとり具合。
 「叉焼」や「鶏肝」のタレの甘味の按配、「焼鴨」の皮の焼き具合、「伊達鶏の醤油漬け」のこくがあってひねた感じもする漬け汁がしっかり染み込んだ皮、その上に「葱」の微塵入りの付けタレがちょこんと乗っかっているのが面白い。そして、肉のしっとり感。

 以上、4品、見かけはこれまでの前菜と同じようですが、口して、唇や舌に触れる触感、噛み締めた時の皮や肉の質感、味付け、風味が、これまでと微妙に違うってことがわかります。

 お皿の左に添えられた野菜3種、「茄子」、「金針菜」に、なんと「はぐら瓜」。
 「はぐら瓜」は以前、埼玉、東松山の加藤紀行さんのを紹介したことがあります。「白瓜」の一種らしく、「白瓜」と「まっくぁ瓜」を交配させたもの、なんて話もあるそうで。その果肉、「白瓜」のような瓜らしいぱりっとした触感がありながら、瑞々しく潤んでいて、青い味、酸味と、なによりもフルーティーな甘さがあるのが特徴。

 今回の「はぐら瓜」、ぱり感があっても、青さ、青い味は過ぎて、瓜特有の清廉な味わいにちかく、甘味も控え目。 ほんの少しの「はぐら瓜」ですが、夏の名残。その存在をしっかり主張。

 3種の野菜は3様の味付け、切り方(包丁仕事ですね)による触感の差異、これまた、唇、舌に触れて、噛み締めてわかる、という寸法。奥の「海蜇(くらげ)」は、パリポリの噛み応え。しかもメリハリのあるきりりと引き締まった味付けと、そのパリポリ感がマッチング。

 この前菜、小さなお皿にそれぞれ一切れづつながら、それぞれの味、触感の変化が色々楽しめます!