続いて「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。牡蠣を具にした卵焼きです。
牡蠣が採れる中国東部から南部にかけての沿岸部各地にそれぞれ特徴のある牡蠣の卵焼きがあります。
台湾の「蚵仔煎」はその代表的なもの。なんて私、台湾の「蚵仔煎」は未体験なものですから、知ったかぶり。どうやら卵と粉をつなぎにして青野菜などを入れて煎り焼きにし、甘味の利いたたれをたっぷり!というのが台湾の「蚵仔煎」だそうで。台湾の屋台店で見かけたことがありますが、あれがそうだったのかも。
その「蚵仔煎」の原型とされるのが福建のそれ。これまた私、未体験。その隣、潮州にもあり。その名は「煎蠔餅」。
潮州料理の牡蠣のかき揚げの「蠔烙」はそのバリエーション。卵は鶏卵ではなく「鴨蛋」、つまりは家鴨の卵を使い粉を混ぜ、「豬油」、つまりはラードでしっかり揚げる、というのがその特徴。
そして広東地方にもあり。私、広州で食べたことがあります。その時仕入れた話によれば淡水の川蝦を素材にした「煎蝦餅」と並んで順徳/太良はじめ広東省の南西部の沿岸地区の代表的な郷土料理ってことでした。
潮州の「煎蠔餅/蠔烙」が、かき揚げ風にその形状、ぼってり、どってり。それに対して、広州で食べた「煎蠔餅」は、卵と粉をつなぎにした牡蠣入り具材を、丸く、平べったくして煎り焼きにしたもの。さながら牡蠣入りのオムレツ。それもぼってりの厚みのあるものじゃなくって、ピザ風に丸くて平べったい。しかも、潮州風にしろ広州(広東)風にしろ、牡蠣は小粒のそれ、というのが特徴です。
「牡蠣入りの卵焼き」ということでは、私が愛してやまない「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」こそは、広州で食べた「煎牡蠣」、広東地方の郷土料理の伝統を受け継ぐもの。
「神戸元町別館牡丹園」の今は亡き先代の王熾炳さんは、広東省東南部の新會の出身。というわけで「神戸元町別館牡丹園」には広東地方東南部の郷土料理を下敷きに、日本で調達可能な素材を使った料理の数々がメニューに並んでます。目玉焼きをテッペンにのっけた焼きそばだけが名物だけではありません。
広東地方東南部の郷土料理の伝統を受け継いだ「神戸元町別館牡丹園」の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」。牡蠣が旬を迎える冬場の季節料理ですが、その牡蠣、今は伊勢の鳥羽の的矢の牡蠣ですが、以前は広島の牡蠣だったはず。
話を戻して「赤坂璃宮」銀座店の袁さんの「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」。
「牡蠣は赤崎の牡蠣です」とアテンドの柏木さん。
「赤崎って大船渡の?もしかして「シダッチ」の牡蠣?」と私。
「ええ、そうです。「シダッチ」の「赤坂冬香」です!」
「ええ~!こんなところで「赤崎冬香」にご対面、とは!」と私。
先月、触れた通り、私の好みの牡蠣は大船渡の赤崎産。
志田兄弟の兄の恵洋さんが経営する「シダッチ」の3年ものの「赤崎冬香」か、1年未満の処女牡蠣の「姫」。もしくはそれに準じた志田兄弟の弟の建志さんが経営する「三陸シーファーム」のもの。
そして、先月の「火腩生蠔煲/牡蠣の土鍋煮込み」のどってりぼってりのでっかい牡蠣の正体が判明、となった次第。
具は牡蠣の他にニラ。卵がたっぷりってことを物語るように、表面は黄金色。しかも、色艶、照りのある焼き色です。「脆」よりも「酥」の感じです。噛み締めると火が通ってますけど、しっとりの触感が残ってる。しかも、切り分けたでっかい「赤崎冬香」の身がたっぷり。おまけにぐじゅ感を残した火の通り、濃い味、風味が格別です。
その焼き加減、牡蠣の味わい、風味を生かした味付け、調理、火の通し方はままさしくプロの技。家庭料理、お惣菜が、上品な一品に。誰にだって出来そうでいて、なかなかこんな風には焼き上げられない。
広東地方の郷土料理の一品である牡蠣を素材にした「煎蠔餅」。日本では意外に出会えない。神戸元町別館牡丹園の「煎生蠔/カキの広東風お好み焼き」が西の横綱としたら「赤坂璃宮」銀座店の「芙蓉煎蠔餅/牡蠣入り卵焼き」は東の横綱。なんともはや、面白い展開になりました。
ともあれ、牡蠣が旨い。旬の味、風味を堪能しました。