2009/12/27

ワンズ・キッチン

 長渕剛のNHKホールでの公演を見た後、打ち合わせを兼ねて一杯。ということで立ち寄ったが公園通りの「上海人情 ワンズ・キッチン」。オーナー&シェフの王連青さん、dancyuの中国料理の特集で見たことがあって、前々から気になりながら訪問の機会を逸していました。

 メニューを開くとそそられる料理が色々あり。上海の家庭料理が中心ですが、各地の料理も入り混じってます。ですが、ちょっと気になったのはもしかして「味精」、「鶏精」などの化学調味料が使われてるんじゃないか、ってことでした。というのも中国からやってきた料理人による本土の味を看板にする店で、目立った傾向ですから。

 ところで、これまでたびたび触れてきたように、私、「味精」や「鶏精」などの化学調味料の類、好き嫌いでダメというわけじゃありません。その種のものを一定の使用量を超えると体に支障をきたす。まず、唇や口腔が麻痺し、喉が渇く。次いで目の下のくぼみ辺りから頬が痺れ、ひどい時には平衡感覚が麻痺し、耳が遠くなって体がふらふら。なんてことで、出来ればその使用を避けた料理が望ましい。

 ということで、化学調味料の不使用を申し出る訳ですが、多くの人にはそういう体験皆無なのか、それとも、体験あっても察知や認識がないのか、なかなか理解してもらえない、というのが辛いところです。

 そんなことから不安になって、どうやら作り置きらしい前菜の類、化学調味料の使用の有無を尋ねたところ「あ、使ってます」とアテンドの方の正直な答え。
 「ですけど、他の料理、炒めものなどでしたら「味精」、「鶏精」抜きで調理ができますが!」という心強い答え。俄然、信頼が芽生えます。

 なんてことで「味精」、「鶏精」を使用は覚悟の上で前菜から選んだのは、日本の上海料理店でも滅多にメニューには見かけない「烤夫」。

 この「烤夫」。凍み豆腐で作ったものと思ってましたし、そういうのも食べたこともあります。ですが上海のそれの多くは大豆が素材ではなく、小麦粉を素材に作ったもの、なんてこと王清連さんに教えられました。

 ともあれ、ワンズ・キッチンの「烤夫」は小麦粉のグルテンから作ったものを醤油味で甘辛っく煮付けたもの。甘辛の味付けは上海料理ならではのもの。ですが、ベタっとした甘さ、風味の乏しい旨味は化学調味料を使ったそれ、なのは明らか。

 「(化学調味料は)ほんの少し使ってるだけなんですけど」という話ですが、その「ほんの少し」の分量、お店の人と私の認識では大きな開きがあるようで。いつも頭を抱える問題です。

 そして、料理の中から選んだのは「お、こんなのあり!」と思わず興奮してしまった「上海風エビと塩漬卵の炒め/咸蛋黄炒虾」。10年ぐらい前だったか、香港で上海料理が最新のトレンドになった際、新しい上海料理系の店のメニューに並んだ一品。
 そういえば当時頻繁に香港通いをしていた脇屋友詞さんが着目し、「トゥーラン・ドット」の看板メニューにもしていた一品。当時、香港で仕入れた情報ではもともとは上海郊外の揚州の郷土料理。

 揚州といえば海から遠いことから淡水の蝦を素材にしていたそうで。揚州だけでなく海に近いはずの上海だって海鮮の魚介が素材として用いられるようになったのは近年、それも80年代以後のこと。

 で、海鮮の魚介が広まるようになって以来、本来は淡水の蝦が素材だった「鹹蛋蝦」も海のえびが使われ、やがては素材を渡り蟹の一種の青蟹に置き換えた「鹹蛋蟹」が登場。もともと家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」を使った料理は中国の各地にあって、例えばかぼちゃと組み合わせた「鹹蛋南瓜」なんて、山東地方の郷土料理の一品です。

 そして「鹹蛋蝦」、それも海鮮のえびを素材にしたものは上海の名物料理のひとつに揚げられるほど。で「ワンズ・キッチン」でのえび、ブラックタイガー系の冷凍のそれのようで甘味はいまひとつ。ですが、その調理、味付け、しっかりの塩味で、「鹹蛋」の卵黄がコクをましていて味は濃厚、風味もあり。日本の中国料理ではなかなか味わえない本土の味との出会いに嬉しくなりました。

 スープ料理を食べたい。出来れば塩漬けの豚肉と筍を煮込んだ「腌篤鮮」か、面筋と春雨の煮込みなんかないかなとメニューを探しましたが見つからず。日本じゃ馴染みがないんでメニューにはないんでしょう。

 それなら野菜料理でもと、メニューを物色してもこれぞというものはなし。
 ですが「枝豆」を使った料理がある。季節はずれでもしかして冷凍物かもしれませんけど、枝豆があるなら食べたい料理がある。

 「あの、枝豆があるでしょ?だったら、枝豆と雪菜の漬物の炒めもの、出来ませんか?唐辛子風味のもので」なんて尋ねたら「出来ます」なんてことで、それに決まり。
「雪菜毛豆」。
漬物の「雪菜」の塩味、醗酵したヒネ味がかもし出す旨味、風味がたまらない。酒がすすむ格好なつまみでもあります。
 しかも酒、上海料理が看板ですけど、北方の焼酎があったりするのが嬉しい。

 NHKホール、CCレモンホール、渋谷AXでのコンサート帰りに楽しめる面白い店をみつけました。