そして「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」。
大皿盛りで披露はなしにいきなり小皿盛りで登場。 「豆腐がメイン?それよりも海参(なまこ)、それに干椎茸の2種の干貨が目立ってます。
豆腐を干した海老の子の「蝦子」で味付け、風味付けにした豆腐料理は中国各地にあり。ことに北京、というより厳密には山東料理地方の名菜にもなってます。もちろん、広東地方にもあって、広東料理店のメニューに並んでます。
そして一緒に登場のなまこの料理にも「蝦子」で味、風味付けした「蝦子海参」というのもあり。おまけに肉厚の干し椎茸(どうやら「冬菇」のようす)。「蝦子豆腐」も乙なもの。ですが私はそれ以上に干貨素材の干しなまこと干し椎茸に盛り上がる。
実は日頃、家郷菜/郷土料理、それに惣菜的な家庭料理を中心にしたコースを組み立てるとなると、コースを引き締めるような一品か二品、組み入れたくなります。それに家郷菜/郷土料理の中には高級な素材を使った料理もあって、きちんとした宴席に登場、なんてことが多い。
たとえばスッポンの一種の「山瑞」を醤油煮込みにした「紅炆山瑞」。それにおおきくてでっかい淡水のウナギで背中が錦模様の「花錦鱔」を素材にした「紅焼花錦鱔」なんかがそうですね。SARS禍以来ご法度になってしまった「果子狸/ハクビシン」なんてのもありました。
もしくは海鮮の魚、値段がはりますけど、組み入れる。それも蒸し魚なんかじゃなくて、石斑/はたを豚肉の細切りなどと煮込んだ「紅炆海斑」にしたり、丸揚げの「油浸海斑」なんかにする。ですがやっぱり干貨。それも干し鮑では目が飛び出るほどの値段になりますからそれはおいて、花膠/干した魚の浮き袋。そうか、花膠も最近、値上がりがすごくってそう簡単に口にはできないか。
というところで干しなまこが登場。
干しなまこも色々種類あり。中には目が飛び出るほどの値段のものもありますが、リーゾナブルな値段のものもあり。それを干し椎茸、ことに肉厚の「冬菇」、さらには冬筍なんかと組み合わせる。そこに鵞鳥の掌なんかが加われば文句なし。なんてことで、私は今回の「蝦子参豆腐/豆腐となまこの海老子煮込み」で干しなまこと干椎茸に盛り上がった、と言う次第。
ですが、豆腐もなかなか、いや、かなりのものでした。
「蝦子」独得のクセを抑えてその味、風味を生かしてあります。おまけに、とろみのある衣で包まれてますけど、その衣、北方のそれや日本の北京料理を看板にする店の「蝦子豆腐」のように、ぼってりのもんじゃない。絹の衣に包まれたように透明感のあるうっすらとしたとろみ付け、衣加減。しかも「蝦子」の味、風味が、口中で噛み締めてみて、じんわりと顔をのぞかせはじめる。その上品で洗練された気品のある奥床しい味わい、風味に打ちのめされました。こんな豆腐の料理、あり?なんて感じです。
おまけになまこ。その戻し加減がいいですね。ぷりっとした触感が快感。わ、なんつう贅沢、と思いました。さらに干し椎茸。噛み締めるとじゅわっと旨味、独得の風味が口中に広がる。
この料理、まさしく本日のメイン・ディッシュ。
出来れば「金銀菜豬肺」のあとに食べたかった。
広東料理の干貨の扱い、その調理、味付けの見事さを物語る一品。つまりは、袁さんの腕、技がすごい、ってことですね。