2008/09/30

秋の訪れ~9月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 続いては「喬頭泡干魷/一夜干し烏賊とエシャロットの炒め」が登場。
 ところが、中国語の料理名を見て、思わずドギマギ。
 日頃、中国料理店では漢字で表記された料理名で、内容を判断します。
 一応、中国料理に関しては年季を積んできたつもり!の私には、日本語や英語の表記を見るより、中国語、漢字だけの表記のメニューを見るほうが、内容を把握しやすいからです。

 なんて、知ったかぶりの私ですが、さすが「喬頭泡干魷」には焦りました。
 唯一、理解できたのは一夜干しのするめいかの「魷魚」。日本語のメニューにもそう記されてます。
 ですが、その前の「喬頭」、「泡」が一体何を意味するのか、即座には理解しかねました。

 日本語の表記を頼りにすれば「喬頭」は「エシャロット」ってことになる。
 「え!? 「エシャロット」って「喬頭」だっだっけ?」と、頭が混乱。
 小玉葱のような形状のベルギー・エシャロット風のものなら「葱頭」か「干葱」のはず。
 いや「干葱」なら、日本にある長ねぎだってそう言うか。

 フランス産のエシャロットのように、皮が赤くて細長いらっきょのようなものなら「胡葱」か「紅葱頭」のはず。
 それに「泡」の字、「あ!もしかして「(油)泡魷魚」?」。 それなら、潮州の郷土料理の一品ってことになる。

 とまあ、一瞬にして様々なことが頭をよぎります。
 とはいえ、結局のところ、世の中広いですから、わかんないもの、知らないものがあって当たり前と開き直る。
 いや、ちょっと最近、ヤバイ!なんて思うのは、以前、見聞きしたり、覚えたはずのことをすっかり忘れて、恩讐の彼方!ってやつ。
 ま、年なんでしゃあないっすか。

 ともあれ、料理を見れば真実がわかるはず!
 はたして目の前に運ばれてきたのは、一夜干しのするめいかの「魷魚」。それにベルギー・エシャロットのように小玉葱形のものではなく、細長いらっきょの形をしたエシャロットでした。
                                                                      







そうか、日本のエシャロットって「らっきょ」の一種、軟化栽培した若採りの「根らっきょう」のことを言うんだ、なんてことを思い出した次第。 エシャレットなんて名前で売られてます。

 私が「エシャロット」と言えば思い浮かべるのは小玉葱形の「ベルギー・エシャロット」で、香味野菜として使う頻度も高い。 香港では牛肉と炒め合わせた「干葱爆牛肉」や炒め煮込みの「干葱牛肉煲」などがあって、家庭でも頻繁に作られる定番的な家郷菜、家常菜の一品です。
 となると「喬頭」って、もしかして「らっきょ」? 

 我家に戻り、早速、ネットで「喬頭」を検索。
 画像付きのサイトで確認したら「花らっきょ」がまさにそれでした。
 緑の葉つきで、葱に似ていながら根本がふくらんでいて、ひげがついている。
 しかし、らっきょにしては細長い。香港、本土で見かけたことがあって、生のもの、肉と炒め合わせたものを食べた覚えがあります。パリパリの触感で葱のようにツンとしてはいなくて、らっきょうのようなひり辛の味でもない。

 さらに「喬頭」を検索したら、甘酢漬けで、瓶詰めで売られてるのを発見。
 あっ!こいつ、スーパーで見かけたことがある。そうかあれって「喬頭」、だったのね。
 誰かの家の台所、確か周中兄弟の台所にあったような覚えあり。

 そう、周中家の台所には、各種の甘酢漬け、漬物が色々あって、調味料、隠し味に使ってました。私がその種の漬物類、甘酢漬けの類にはまり、料理するようになったきっかけの一端は、周中兄弟にあり。いろいろ教えられました。

 さて、「喬頭泡干魷/一夜干し烏賊とエシャロットの炒め」。
 一夜干しのいか、エシャロットに、絹さや、もやしを炒めあわせたもの。塩味だけのシンプルな味付けです。一夜干しのするめいかは、さっと火を通した感じ。火を通しすぎると、身が固くなくからでしょう。それで料理名には「泡」の字があるのに納得。やはり、さっと油に通す「油泡」の調理法だから、なんですね。

 そんな一夜干しのするめいかのには、えびの醗酵みその「蝦醬」が欠かせない。
 ほんのちょびっと「蝦醬」をつけて食べると、旨味、風味がぐんと増す。
 エシャロットは、ぱりぽりと噛み応えのある触感で、ほどほどにひりりとした辛味が頭をもたげます。おまけに、土臭くて素朴。そんなエシャロットには、XO醤がぴったり。
 絹さや、もやしは、さっぱり味。口直し、ってところでしょうか。

 「喬頭泡干魷/一夜干し烏賊とエシャロットの炒め」は、我家でも作れそうなシンプルな家常菜、お惣菜です。
 あ、そうか! するめいかにひと塩して、一夜干しにする作業が必要か。
 それとも、するめを水で戻して素材にする、なんてのも良さそうだ。
 いずれにしても、手間隙かかりそうですが、やってみるとおもしろいかも。

 とまあ、お惣菜のヒントを戴いちゃいました。

2008/09/29

秋の訪れ~9月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 しっかり旨味、こくのある「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」のスープを味わい、だしを生んだ鶏肉、栗、蜜棗まで味わって、2品目にして充実気分。

 そして登場したのが「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」。
 豚の挽き肉に慈姑(くわい)などを加え、蒸した「咸魚蒸肉餅」は、広東地方の郷土料理、家庭料理の定番中の定番ともいえる一品。
 おかずにうってつけなもので、なんといっても「咸魚」のくせのある味、風味に病み付きになった人なら、必ず好物に挙げるほど。

 主素材は豚挽き肉ですが、「咸魚」だけでなく、するめいかの一夜干しの「魷魚」、漬物の「榨菜」などを加えます。あるいは、塩漬けの家鴨の卵の「鹹蛋」をトッピング。それに豚挽き肉で作る「肉餅」には、慈姑を入れたり、入れなかったりします。
 ともあれ、「肉餅」の種類、バリエーションは実に豊富。調理方法としては蒸す以外に、6月の「赤坂璃宮」銀座店のメニューに登場したミニサイズの土鍋を使った「鹹魚肉餅煲仔飯」でのように、ご飯と一緒に炊き上げるという方法もあります。

 今回の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」は、メニューにも明らかなように、素材、味付けは同じでも「蒸」ではなく「煎」、煎り焼にしてありました。
 その「咸魚煎肉餅」、普通は直径4センチ、高さ2センチほどの厚みのある円形、さしずめミニ・ハンバーグ風の趣で、煎り焼きにする。

 その煎り焼き、「煎」ってことから煎り焼きと紹介しましたが、普通は「油焼き」、つまりは鍋に油を引いて、油で焼き付けるってことです。が、それ以外に鍋に油を張って揚げる感じで焼きつける、という方法もある。

  さて、「赤坂璃宮」銀座店の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」、なんと「ささげ」を編み込んで受け皿にし、その上に豚挽き肉の肉餅をのっけ「煎」したもの。
 凝ってます。茶色の肉餅とささげの緑の色彩の対比、見た目の素晴らしさが、目をひきつけます。  

 肉餅は、外側はぱりっとした「脆」の触感ながら、噛み締めればやわらかく、しっとりの触感で、ジューシー肉汁がほどばしる。噛み締めれば、慈姑(くわい)のさくさくの触感が心地よく、おまけに塩味の利いた「咸魚」の味、風味が浮かび上がる。しかも、肉餅の具の「咸魚」の分量、使い方、それも塩味の加減が素晴らしい。まさに「塩梅」という言葉がぴったりなほど過不足なく、しかも、ぎりぎりのところででとどめをさしてある感じで、めりはりのある味、風味を生み出してます。

 そういえば、先月、触れたことですが、塩漬け魚の「咸魚/鹹魚」、えびみそ/アミの塩漬け醗酵みその「蝦醬」、塩漬けの醗酵豆腐の「腐乳」など、クセのある調味料は、現在では、日本でもその存在を広く知られ、広東料理店、中国料理店でもそれらを味付けに使った料理が登場し、人気を呼んでいます。

 ところが、どういうわけだか、香港、台湾、中国本土などに比べて、その使い方、分量が明らかに過ぎる。ま、個人的な印象、感想ですが、それらに比べ「赤坂璃宮」の銀座店、譚さんの「肉餅」の味付け、「咸魚」の分量は、過不足なく、行き過ぎってわけでもなくって、ちょうどの「塩梅」。

 ささげと肉餅、色あいだけでなく、触感、味、風味も対照的。
 ささげも、一緒に油焼きしてありますから、皮はぱりとしていて、ささげ自体、歯応えもある。噛み締めればのあの青い味、独得の土臭さが浮かび上がる。ささげの旬は夏。ということなら、名残ものってことになりますか。

 肉餅とささげ。その組み合わせ。 ささげを編カゴ風に仕立てたアイデアに脱帽。 ワザと工夫の産物です。
 それに「咸魚」で味、風味付けをした「肉餅」は、前述の通り、本来はおかずにうってつけな一品。
 「これ、食べてると、ご飯がほしくなるね」なんて声が挙がったのも当然です。
 しかし、今回の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」」は、おかずというより料理というにふさわしい一品。宴会料理に組み入れても、なんら遜色がありません。意表をつかれた一品でした。

2008/09/28

秋の訪れ~9月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 9月の「赤坂璃宮」銀座店の料理の数々は、すっかり秋模様。
 幕開けは恒例の「広東焼味盆 璃宮特製焼き物前菜盛り合わせ」。
 伊達鶏の醤油漬け、皮付きバラ肉の焼きもの「焼肉」など4種、一切れずつの盛り合わせですが、今回は盛り付けがこれまでと変わって、その趣、印象も新た。

 付け合せは酸味の利いた小ぶりの茄子。ってことは、なすの酢漬け? さっぱりとした口あたり。頬張れば、茄子はトロトロ、ジュルジュル。舌にとろける触感、噛み締めると酸味とともに浮かび上がる茄子の甘さ、旨味が口中に広がります。

 そして「焼味」。葱の微塵に油を加えた「葱油」のたれで食べる伊達鶏の醤油漬け。皮裏の脂の感じ、歯がすっと入る柔らかさがあって、噛み締めるとしっとりの質感が堪らない。それに、皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」は、いつもながらのせりふですが、やはり、東京では貴重な上に、パリパリの皮の焼加減、その下の脂の旨さ、甘さ、こく、風味が格別です。

 「これ、ほんと、うまいんだよね!最後に、とっておこう!」なんて声も聞かれます。
 それに、今月は叉焼の肉質の質感、上品な味付け、香りの素晴らしさが印象的でした。焼き物の仕事、「焼味」の極意、ここにあり、といったところです。前菜を飾る料理の一品としての風格がありました。

 そして「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」が登場。スープと具は別皿盛りで。ということは、素材を土鍋に入れて、時間をかけて煮込んだ「煲湯」ですね。


 具は鶏肉。別皿に盛られた鶏肉の塊からすると、胸のだき身、胸肉のようす。
 香港、広東地方あたりでは、胸肉、腿肉だけのものもありますが、同時に、内蔵や、通称もみじとして知られる鶏の足を使ったりすることもある。
 もっとも、鶏の胴がらを使うことは滅多にない様子。鶏がらでだしをとっても、鶏肉ほどに味、風味のある濃厚、濃密なだしがとれるわけではなく、旨味よりも雑味が目立つ結果になりますから。

 それから栗がたっぷり。画像をご覧いただければ、その量が一目瞭然。さらに蜜棗、つまりはシロップ漬けにした棗を加えたもの。その棗の量だって半端じゃない。

 日本では栗は、そのままを茹でるか蒸すか焼く。それとも、渋皮煮、あるいは甘露煮にするのがほとんじゃないでしょうか。料理といえば栗ご飯や栗おこわ。そういえば、野菜の炊き合わせでみかけることもある。

 広東地方では「湯/スープ」にしたり「炆」という炒め煮込みにします。もちろん、栗そのままだけってことは滅多にない。必ず家禽類、鶏なり家鴨の肉や一部の内蔵類、あるいは豚のスペアリブ、脛肉、テール肉などと共に料理します。

 そのあたり、栗の持ち味、資質にも関係してのこと。栗は澱粉質など糖質が多く、火を通すとほくほくの触感があり、甘味がうんと出る。つまりは、芋にも通じるところありというわけで、以前にも触れたように、香港や広東地方では、栗、そのもの自体は「寡」、それだけ料理するには味が物足りないってことで、肉類と組み合わせて料理する、というのが一般的なようです。

 さて、今回の「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」。鶏肉のだしがしっかり出ていて、旨味たっぷり。さらに、栗、シロップ漬けの棗の「蜜棗」の甘味が、こくを増してます。それに、なんといってもナチュラル、自然で純な味わいです。なおかつ、ぎりぎり按配の塩加減、なんてところが家庭で作る「煲湯」とはひと味違う、プロの技。スープ料理、料理の一品としての重厚さがあります。

 それにしても、生の栗だと渋味、えぐ味がある。それが火を通すとうんと甘味がでてくる。それも、自然な甘味、土の香りだけでなく、木の香りが頭をもたげてくる。そんな栗に対して、もともと酸味に苦味もある棗をシロップでつけた蜜棗を使って、甘味をより重層的にし、香り、風味を増している、といったところでしょうか。それに、栗も、棗も薬効があります。

 そして、別皿にうず高く盛られてるのが、だしをとった鶏肉、栗、蜜棗。
 「これ、どうやって食べるわけ?」
 「こないだの豚と脛肉と広東白菜のスープの具の時のように、中国たまり醤油の「老抽」にだしを足したたれに浸して、食べるわけです。でも、鶏肉は旨味の抜け殻、だし殻ってわけで、旨味はすべてスープの中。肉はぱさついてますけど、このたれに浸して食べると、なかなか乙なもんで。おかずにもなるという寸法です」
 「なるほど!ウン、出し殻ですけど、たれにつけて食べると、いけるね」
 「ちょっとたっぷり目にたれにひたすと、たれの味が鶏肉にしみこんで、いけるでしょ?」
 
 「それより、私、栗大好きだから。だし殻でも食べたい」
 「はいはい。それがさ、だしとった栗って、ほっこり感こそ薄れ気味だけど、木の実らしい自然な味がするでしょ?それに、蜜棗も、表面は皺々で果肉が締まり加減だけど、噛み締めると、甘味だけじゃなくて、渋味、えぐ味が顔を覗かせるでしょ?」
 とまあ、だしをとった鶏肉、栗、蜜棗もしっかりいただきました。
 しかし、旨いのはやはりスープです。その色あいが、こくのある重厚な味わいを物語ってます。

2008/09/23

「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」の2

 「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」(メディアクラフト牡羊座)の内容は以下の通り

第一部「私と料理 ~偏食児が名物シェフになる」
第二部「フランス料理へのこだわりと思い」
第三部「『オーベルジーヌ』のスペシャリテ」

 第一部では、小滝さんの生まれや育ち、料理作りに魅せられ、一旦はサラリーマン勤めをしながら、料理人として遅いスタートを切り、ドイツ、フランスでの海外での修行体験を経て、帰国。『オーベルジーヌ』をスタートさせ、やがて常陸太田に分店を開店といった、現在に至るまでの足跡が紹介されてます。 第二部は、小滝さんが扱う素材について、第三部では「『オーベルジーヌ』のスペシャリテ」の31品を紹介。

 実は、第一部で紹介されている小滝さんの足跡、第三部の『オーベルジーヌのスペシャリテ』などについては、先にふれた中央公論社からのシェフ・シリーズのムック本『フランス料理店 シェフ小滝晃 オーベルジーヌ 祖国を離れたフランス料理 東京の香る味』と、その内容、重複します。もっとも、今回は小滝さん自ら文を記したようで、月日(と年輪)を経て自身の足跡を振り返り、辿る視線が明確に浮き彫りにされています。

 それにしても面白いのは、子供時代の小滝さんの逸話の数々。信じられないぐらいの偏食児ぶりには驚くばかり。 ご飯が嫌い。匂いがだめで胃がもたれる、というのがその理由。おまけに醤油が苦手。ということで、うどんやそばもだめ。そばがきならミルクをかけて食べられる!なんて、相当、変!おまけに、ミソ汁のミソの匂いがだめ、というんですから。

 そういえば、今は音楽活動から遠ざかってしまったシンガー=ソング・ライターのキャット・スティーヴンスが現役バリバリの頃に来日した際、「ご飯にミルクをかけて食べるのが好き!」なんて話に、「ギョ!」とした覚えがあります。もっとも、小滝さんの場合には「そばがきにミルク」ってことで、そう、言ってみればオートミルをミルクで食べるあの感じ。ってことは、まるっきりの外人じゃないですか!

 そして、第三部「『オーベルジーヌ』のスペシャリテ」紹介ですが、以前のシェフ・シリーズのムックで紹介された料理は、全部で63品。今回はそこからさらに31品に厳選。レシピはなく、エピソードの紹介だけですが、ともあれ『オーベルジーヌ』のスペシャリテ中のスペシャリテ、ってことになります。

 それぞれの料理についてのコメント、生まれた経緯、素材、調理についての言及が抜群に面白い。以前のシェフ・シリーズの時とは対照的に、料理そのものの本質、素材の捉え方、調理、調味についての考えが、明らかにされてます。

 ということで、見逃せないのが第二部の「フランス料理へのこだわりと思い」。そこではドイツ、フランスで出会った素材と、日本で入手出来る素材との違い。本場のフランス料理を日本で実現するにあたって、その様式、スタイルを(レシピ通りに)そのまま倣って日本で再現するのではなく、あくまでも美味の追求を念頭において、そのために必要不可欠な特質、持ち味を兼ね備えた素材を求めた結果、多くは輸入物に頼らざるを得なかったという現実。

 たとえば、だしのフォン作りに不可欠な仔牛の骨の入手が日本では難しい。さらには、バターやクリームの持ち味、資質の違い。そうしたことから浮かび上がるのは、フランスはじめ欧米諸国での肉食文化の歴史の長さ、深さと日本のそれとの違いです。

 仔牛に限らず、ジビエ、つまりは、鴨や雉などの野鳥、兎、鹿、豬など、ドイツ、フランスと日本のそれには違いがある。さらに、魚。日本で魚は豊富に収穫されるものの、生息する海の違いから、その資質、持ち味は異なります。

 「刺身」が何故、日本で生まれ、フランスなどでは一般化しなかったのか、という小滝さんの考察。日本の魚については、マグロは別にして、水っぽいと小滝さん。
 私が思うには、水っぽいというよりも、潤んでて身が緩い、という印象で、実はヨーロッパどころか、東南アジア近海に生息する魚と、持ち味、風味が違うのは歴然、なんてのを香港で体験してきました。

 小滝さんの話に戻して、ヒラメにしろタイにしろ、日本のそれは水っぽく、ヨーロッパのは余分な水分がない代わりに、煮たり、焼いたりしたほうがコクが出る。さらに、フランスで採れるアンコウについて、日本のそれに比べれ透明感がない。水分が少ないから、身は透明感がなく、白っぽくなる。故に、フランスでは生ではなく、焼いたり、煮たりして魚を食べる習慣が定着したのでは、なんて話もある。

 もっとも、ヨーロッパと日本の魚の持ち味、資質の差、違いを認識しながら、一方で、日本で収穫される魚の可能性を探り、新たな料理を生み出す。それには、ヨーロッパで学び、体得した素材の吟味、料理方法を下敷きに、日本で収穫される素材の持ち味を見極め、どうやって対処するか。

 そんなところでは、母親から聞いてきた日本独特の調理方法、あるいは、寿司で出会った貝がヒントになったと明かす小滝さん。その好例がフォアグラになすの糠漬けを組み合わせた「フォアグラのムースを詰めたナスのコンフィ」、「アンコウのメダイヨンのセイロン風」、「フヌユイと北寄貝のスープ」なんだそうです。

 『オーベルジーヌ』のスペシャリティの多くは「瞬間のひらめき」、「偶然の産物」だと語る小滝さん。そんな料理のひとつとして挙げるのが「りんごとつぶ貝のブレゼ ペルノー酒の香り」。その料理が生まれるまでのプロセスが本書で明かされる。

 しかし、単なる思い付きなどではなく、素材の持ち味、素材と調味料、香辛料との組み合わせ、香辛料を熟知し、それを系統的に理解し、その用途、効果を把握していたからこそ、生み出せたもの。たとええば、フランスとドイツでは、香辛料、香味野菜(ハーブ)の使い方が異なる、なんてことも触れられてます。つまり、「瞬間のひらめき」も、それを思いあたるだけの知識、経験、体験あってこそのもの。それがあってこそ「偶然の産物」が生まれた、ってことがわかります。

 そういえば、香辛料、香味野菜の扱い、その組み合わせの妙も、小滝さんならでは。といって「これはあの香り!」と、即座にわかるこれみよがしな使い方ではなく、その扱いは実に巧み。ふっと鼻先を捉え、あるいは、口中で料理を噛み締め、咀嚼するうちに、喉元から鼻腔に立ち昇る、なんてことはザラです。しかも、香辛料、香味野菜はあくまで隠し味。素材の持ち味、香りを生かすことこにこそ、神経のすべてが注がれている。そんな、繊細にして精緻な料理の数々が、五感を刺激します。

 ヨーロッパに渡り、修行を重ねながら、三ツ星レストランや評判の店のレシピを手に入れ、技術を学びとることよりも、料理が生まれた風土、土壌を背景にした日常の食の生活にまで目をやり、その根源を見届け、体験してきた小滝さん。だからこそ、小滝さんのスペシャリテの数々は生まれた。

 「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」(メディアクラフト牡羊座)」は、興味の尽きない著作です。

2008/09/21

「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」の1

 この夏の半ば過ぎ、素敵な本が届きました。
 小滝晃著「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」(メディアクラフト牡羊座)です。送り主は著者の小滝さん。

 「オーベルジーヌ」は私が好きなフランス料理の店のひとつ。以前、週刊現代で1年あまり連載した食探訪の記事「日々是好食」をもとにした拙著「これはお値打ちKODAWARIの料理店」で、紹介したことがありますが、随分とご無沙汰したまんま。気になりながら、時が過ぎてしまいました。

 オーナー&シェフの小滝晃さんは、私が敬愛する料理人です。といって、挨拶したことがある以外、じっくり話を伺ったり、言葉を交わしたことがない。ですが、それはそれで充分。というのも、小滝さんの作る料理は、実に雄弁。知りたいことのすべてが小滝さんの料理にありました。

 その出会い、いつのことだったのか、もはやさだかではありません。それでもいまだに印象深いことがある。
 それは、ガツンとくるようなインパクトのある強烈な旨さ、今風に言えば、ガッツリの旨さなどではなく、洗練の美味、それも、私の五感のことごとくを刺激する料理、だったことに目を見張りました。まさに、私が求める料理がそこにあったというわけです。

 なによりも刺激的で、快感を覚えたのは、料理の香りの豊かさです。それは、目の前にした料理から立ち昇る馥郁として香り、だけでありません。口に含んで、口中で調和し、新たに生まれ、拡がる味わい、香り。それが、喉奥から鼻腔を抜けて、脳天を刺激する。

 そんな香りとの出会いとともに、唇、舌、口腔、顎を次から次へと刺激する触感が織り成す変化の妙、快感が実に刺激的、でした。
 その最たる例として挙げられるのが「オーベルジーヌ」の冬のスペシャリテの一品である「トリフのスープ」。

「ミルク色したスープに浮かぶ厚さ3ミリほどのトリュフのスライス。噛むと脆くて、かすかに音をたてて割れます。途端に口中に広がる官能的な香りに、思わずグフッ、ニヤリ。スープを口に含むと、つぶした百合根のザラっとした食感。楚々とした香り。清廉な甘さ。お皿の底にはさっと火を通しただけ、レアでネットリ、やさしく、やわらかくて、小悪魔のような妖艶な甘さを自己主張する貝柱~」とは、拙著でその料理についてふれた一文です。

 以上からも、いかに五感を刺激する料理だったか、おわかりいただけるのではないかと思います。思い出しては、涎が零れ落ちます。香りの素晴らしさ、触感の豊かさが甦ります。

 ひと噛みすれば、パリっと音を立てて割れるトリュフのスライス。その官能的な香り。百合根のピュレのざらっとした舌触り、楚々とした、というより土の香りのする素朴さ、力強さ、無垢で純朴なこくのある甘さ。スープに沈む貝柱は、レアでネットリ、噛み締めれば、磯の香りと甘さが立ってくる、という按配です。

 実は小滝さんの料理を紹介した著作はこれが2冊目のはず。その最初は「フランス料理店 シェフ小滝晃 オーベルジーヌ 祖国を離れたフランス料理 東京の香る味」と題された中央公論社のシェフ・シリーズのムックとして紹介されたもの。

同料理について紹介された一文によれば「トリュフに合う野菜として私が一番好きなのが百合根である。百合根の甘味はトリュフの持っているいろいろな特質をよく引き出してくれるから」と記されてます。

 それが今回の著作では「最初、トリュフでスープを作ろうしてジャガイモを使いました。フランス料理では根のものは根で合わせれば相性がいいといわれてます。トリュフもジャガイモの地中のものですので、やってみました。確かに合うのですが、甘味がないし、コクもない。そこで、同じ土の中のものだから、百合根もいいじゃないかと思い、百合根にしました。するとバッチリ。これで決まったのです」と、記されています。

 時を経て、新たに明かされた「秘密」が面白い。
 「オーベルジーヌの料理~オーナーシェフのトーク・レシピ」に、ますます興味をそそられました。

2008/09/12

8月の「赤坂璃宮」銀座店の5



















 さて、8月の「赤坂璃宮」銀座店のコースの締めくくりは「麺」でも「飯」でもなく「米粉」を素材にした「家郷炒米粉/広東風米粉」。

 それがなんと、大皿に山盛り!見るからに6~8人用はありそう。

 「わ、すごい。ほら、この米粉の戻し方。家でやるとどうしてもベタベタになっちゃうか、それとも、硬めになっちゃうし。それに、ブチブチに切れちゃうのに、これって長いまんま!」と、米粉の戻し方にいたく感心。そうです、私も米粉を戻すにはいつもひと苦労。

 頬張れば、ますますその戻し方に感心しました。調味料の醤油、それに、だしをしっかり吸い込みながら、芯が残る硬さでもなく、ベタっとした柔らかさでもない。それより、味加減だけでなく、まさしく「鑊気」、鍋の気に溢れていて、香りがある。実に風味が豊かで、喉元から鼻に抜けていく香りの素晴らしさに驚きました。

 そんな「鍋」、「鑊気」のある料理を生んだ火の扱い、調理もさることながら、素材の下拵えに感心。米粉の戻し方だけじゃなくって、具の豚肉、ピーマン、赤ピーマン(パプリカ)、黄ニラ、もやしの切り揃えに感心。豚肉、ピーマン、赤ピーマン、黄ニラの切幅、長さは、ほぼぴったり同じ。もやしは、髭、根が落とされて、泥臭さはなし。その細やかで丹念な「板」の仕事こそが「美味」、「鑊気」のある料理を生む最大の要因のひとつ、なのは明らかです。その下拵えの丹念さには驚きました。









 そしてデザートには「南北杏雪茸燉梨/白キクラゲと梨の温デサート」が登場。
 「わお!温ったかいデザート!」と、思わず狂喜した私です。
 「ええ、あの、前回「暖かいデザートはないの?」っておっしゃってらしたので」と、アテンドの柏木さん。
 その言葉に「ギョ!」となって、居住まいを正し、背筋を伸ばした私でした。

 杏仁豆腐やマンゴ・プディングもいいですけど、食事の最後の締めくくり、ことに中国料理だと、温かいデザート、汁物は、ほっと和んだ気分になる。なんといっても「胃」が落ち着きます。安らぎます。それに、食べたものを見事に消化してくれるような、すっきり気分になるのが不思議。

 「南北杏」とは、「南」と「北」の「杏仁」、杏の実のことです。「南杏仁」は甘く、「北杏仁」は苦く、それぞれ、肺を潤し、せきやたんを鎮める作用があり、梨も同様の薬効があり、ことに、風邪、扁桃炎で喉が痛むときは効果的。 ともあれ、嬉しいデザートでした。

 画像は「家郷炒米粉/広東風米粉の炒め」と「南北杏雪耳燉梨/白キクラゲと梨の温デザート」です。

2008/09/08

8月の「赤坂璃宮」の銀座店の4

                                                                



















 「蒜茸蒸鮮蝦」で大いに盛り上がった後、登場したのが「腐乳節瓜煲 /節瓜の腐乳煮込み」。

 「この「節瓜」って?」。
 「冬瓜の一種ですね。冬瓜ほどで大きくはならなくて、未成熟の冬瓜ってことになってるんだけど、冬瓜の変種ですね。そういや、沖縄に「モーウィ」って言う「毛瓜」があるでしょ? あれも同じ種類。「節瓜」って、青瓜や白瓜ぐらいの大きさのものから、海苔缶ぐらいのものまであるんだけど、寸胴型。

 その味は、ほら冬瓜って、ざらっとした触感があって、ほろ苦さやえぐみがあるでしょ?それからすると「節瓜」は「瓜」に近くて、ほろ苦さ、えぐみはさほどないんだけど、「瓜」ほど肉質が緻密じゃない感じ、かな。でも、冬瓜に比べて扱いやすいし、下拵えも手間がかかんないから、家庭で使われることが多いですね。スープや煮込み料理に使われたり、丸ごと煮込んだものに干貝柱のくずひきあんかけたり、中をくりぬいて詰め物したり、輪っか状に切って、真ん中に詰め物をしたり、料理の種類は沢山あります!」と、知ったかぶりの私です。

 以前、香港で初めて「節瓜」に出会った頃、日本には「冬瓜」こそありましたが、「節瓜」にはお目にかかれませんでした。「瓜」で代用可、と思い込み「節瓜」の料理に挑戦したところ、やはり、なんだか違いました。肉質、味、風味が違いました。沖縄に同種の「毛瓜」があり、と知ったものの、当時は入手が難しかった。それが、最近になって沖縄の「毛瓜」、日本で栽培されるようになった「節瓜」をスーパーで見かけるようにもなりました。けど、やっぱり、香港、中国本土の南部で収穫されるそれとは、少々異なるようです。

 ところで、今回の「腐乳節瓜煲/節瓜の腐乳煮込み」。広東地方の郷土料理の一品で、家庭料理としても一般的なもの。拍子切りの「節瓜」、干し椎茸の細切り、干しえびが主素材で、香味野菜のしょうがなどと炒め合わせ、だしを加え、塩漬け醗酵豆腐の「腐乳」で味付けし、煮込んで仕上げられたもの。

 香港、広東地方の料理店では「節瓜蝦米煲」、春雨の「粉絲」を加えた「節瓜蝦米粉絲煲」が「小菜」のメニューに紹介されています。「節瓜」を「絲瓜(へちま)」に代えた「絲瓜蝦米煲」、そこに春雨を加えた「絲瓜蝦米粉絲煲」などもあり、むしろ「節瓜」を素材にしたもの以上に見かけることが多いようです。

 「節瓜」は、煮込めばくたくた、とろとろになりますが、今回の「腐乳節瓜煲」はしんなりとした火の通し方で、噛み応えもあり。それに、この料理、香港や広東地方では「節瓜蝦米煲」というのが一般的で、「腐乳」は隠し味的に使われることが多く、料理名には滅多に使われない。にもかかわらず「腐乳節瓜煲」としてあるのはどうしてなんだろうと、最初は疑問に思いました。

 もともと「腐乳」はクセのある味、風味を持っているだけに、好き嫌いは明確に二分されます。「蝦醬」や「鹹魚」ほどの強烈な匂いはありませんが、苦手な人も少なくないようで。ところが、ここ最近は「クセのあるところがたまらない!」という客の声、要望があってか、そうしたクセのある素材を全面に打ち出し、強調した料理を提供、といった傾向が目立つようになりました。ことに、若い料理人がオーナー&シェフを務める店では、塩漬けの醗酵魚の「鹹魚」、えびの醗酵みその「蝦醬」などとともに積極的に素材、調味料理として起用し、看板料理にしている料理人、店も少なくないようです。

 クセのある味、風味を強調すれば、料理としてのインパクトは強烈。そんなところが、クセのある調味料、素材を強調した料理が、積極的に紹介されるようになった理由のひとつとして挙げられるようです。それに、これまで日本では馴染みではなかったことから、物珍しさもあること。その種の素材、調味料を使い、強調することで、いかにも本場風の、あるいは本場そのままの料理としてのイメージを打ち出すのには格好、なんてこともその理由として挙げられるじゃないでしょうか。

 とはいうものの、クセのある調味料、素材を使った料理の多くが、その味、風味ばかりを強調しすぎるきらいもあるようです。ことに、若い料理人がオーナー&シェフを務める店で提供されているその種の料理に、目立って多い。 私が体験した現地でのその種の素材、調味料の使われ方と、日本でのそれを比べてみると、日本のそれの方が、使用される分量も多いし、強調しすぎるような印象を受けることが少なくありません。

 それには、たとえば日本の中国料理が、素材の持ち味、資質を生かすことより、中国料理特有の調味料、料理手法を全面に打ち出すことで成立してきた、という日本の中国料理独得のあり方、歴史にも関係してのことではないか、なんてことにも行き着きます。

 そういえば、若い料理人がオーナー&シェフを務める店では、素材の吟味、選択、料理のバリエーション、さらには創作的料理への意欲が汲み取れる反面、素材そのものの持ち味を生かした下拵え、調味、調理については、いささか心もとない。何よりも素材を生かす上でも、料理をするにあたっても、肝心な「だし」の弱さが決定的な要因になっているように思えます。

 それぞれ「だし」作りに工夫を凝らしているのは理解できます。が、「だし」作りにかける費用には限度もあるようで、料理の主素材を生かすだけの、それにふさわしいしっかりとした「だし」を作っているかどうか、ってことになるといささか疑問、なんてことが多いんじゃないでしょうか。「だし」にかける費用は、そこそこ。それよりも客の目をひきつけやすい主素材の選択、物珍しい素材の購入に力を入れる。そんなことより、料理を作るにあたって肝心な「だし」をどうしてしっかりとらないのか。それに、「だし」作りにどうして予算をたっぷりかけないのか。不思議に思うことがしばしばあります。

 別に中国ハムの「火腿」を使わなくっても、きっちりした「だし」はとれるはず。それに「火腿」を使うなら、使うで、だし作りの素材の吟味こそ大切。それがあってこそ「火腿」もその効果を発揮するのにも関わらず、その基本であるだし作りの素材の選択、吟味、費用のかけ方がおろそかにされている、なんて例が少なくない。「腐乳」、「蝦醬」などのクセのある素材、調味料を使うにあたって、「だし」の存在は無視できないはず、なんですが。

 さて「赤坂璃宮」銀座店の「腐乳節瓜煲/節瓜の腐乳煮込み」。クセのある「腐乳」を使いながら、その味、風味は、あたりが柔らかい。「芡汁」、つまりは、とろみ付けもほどほどで、上品でさりげない。さらに、食べ進めれば「だし」の味が次第に浮かび上がってきます。干しえびの「蝦米」のひなびた風味もあいまった、しっかりした「だし」の旨さ、その重厚さ、深みのある味わいがなんとも印象的。だしがしっかりしているからこそ「腐乳」の味、風味が実に生きてるんだ!ってことがよくわかります。それに、千切りの生姜のヒリ辛の味、風味が、さりげなくふっと頭をもたげ、隠し味としての効果を見事に発揮、なんてところも実に憎い。さすが譚さん、技の見せ所が違います。

 「腐乳」のクセのある味、風味を生かしたこの「腐乳節瓜煲/節瓜の腐乳煮込み」。「おかず」としてうってつけですけど、さりげなさがそこかしこに潜んだ「料理」というにふさわしい一品でした。



2008/09/07

8月の「赤坂璃宮」銀座店の3


















「ワ、ワ! すごい!  「えび」じゃないですか「えび」!  しかも、こんなに沢山!」。
 「こんな豪華な料理、お昼からいただいちゃって!」。
 私といえば「え、え、え、え!? まじ?まじなのかな、こんなの出てきちゃって。まじ?」と、慌てふためくことしきり。

 4品目の料理「香蒜蒸海蝦/車海老のガーリック蒸し」が登場した途端、一気に盛り上がりました。やっぱり「えび」は人気者、です。

 「えび」は、どうやら「車えび」の様子。一尾、身を縦半分に裂き、お皿に並べ、大蒜の微塵切りをたっぷりまぶし、タレをかけて蒸した料理。あ、正確な下拵え、調理方法は、聞きそびれました。今度、譚さんに尋ねておきます。

 家庭でも簡単に料理が出来そうな感じ。ですが、活きのいい「えび」の入手が難しい。それに、たれの作りかたはともかく、なんといっても蒸し加減が難しい。「えび」をはじめ、魚、貝類などの魚介類だけに限らず、蒸し物の料理は、案外、簡単に家庭で出来そうでいて、その実、難しく、意外に厄介です。

 まずは「蒸」する道具。「蒸篭(せいろ)」があればいいんじゃない?っていわれれば確かにそうですけど、問題はその大きさ。中華鍋に蒸篭を重ねて入れ、蒸すにしても、家庭では「蒸篭」の大きさに限りがあります。それに「蒸」するには、それなりの「火力」が必要。

 さらに、なんといっても素材に火が通るタイミングの把握、要は「蒸し時間」ですが、その見計らいが難しい。料理本には蒸す時間のおよその目安が紹介されてますが、魚介には個体差というものがある。余熱、というものもあって、その分、計算に入れて蒸す時間を按配するには、数をこなしてこそ要領が会得できるもの。技が必要です。

 料理店には蒸す調理専門のスティーマー(蒸し器)があります。業務用のそれ、です。大きさが違いますから、どんなサイズの皿、鉢、燉器も収容可能。おまけに火力が違いますから、火の通り具合、按配など、家庭で「蒸」するのと出来栄えは大違い。

 画像を見れば、それは歴然、なのがお分かりいただけるはず。
 まず、色合いの美しさに目を奪われます。それに、鼻腔をくすぐるかぐわしい芳香にもうっとりなんて、画像じゃ伝わらないか、すんません。

 「にんにく」たっぷり。ですが、たとえば鍋に油を入れ、ニンニクを炒めた時のようなげとげしい強烈な「匂い」とは違います。火が通った醤油ベース(それに上湯も加えてあるらしい)のたれ、えびの殻から滲み出る旨味などもあいまって、醸し出された料理の「香」りです。そこに、香菜のほろ苦さやえぐみ、小口切りの青葱の青々しさやひり味も加味される。

「香蒜蒸海蝦/車海老のガーリック蒸し」は、熱々を食べるに限ります。まずは殻つきのまま、チュルチュルと唇で汁を吸いよせ、やおら口に頬張り、噛み締めるうちに、噛み砕いた殻、それに「えび」のひげや足やらがが口腔に突き刺し、たれの醤油味が染みる!なんてのも、味わいところのひとつじゃないでしょうか。

 そういえば、以前、香港で食べる「えび」と日本のそれには、違いがあり、なんて触れました。もっとも、香港の「えび」だって、すべてが旨いとは限らない。「旬」を外せば、極上、上質の「えび」には出会えません。それだけ、旬の時期の最良の香港の「えび」は格別に旨い。実は私、香港でも滅多に「えび」に手を出さない。そして、日本でも同様です。もっとも、極上の「才巻き」、「車えび」が入荷したことをと知らされれば、話は別、ですけど。

 とはいえ、香港で食べる「えび」と日本で食べる「才巻」、「巻きえび」jは、なんだか資質、持ち味が違うような気がします。生息する海の違い、育ち方、育て方の違いってこともあるでしょう。日本のは甘い、けど風味が弱くて、香りに乏しい。それに、火を通したえびの「ぷり」感、というか肉質、弾力、身のしまりも、なんだか違う感じがします。

 そんなことから、日本の中国料理店で「才巻」、「車えび」を食べるとなると、シンプルな茹でえびの「白灼蝦」は滅多に食べません。それより、日本の「えび」の資質、持ち味がから考えるに、なんらかの味付けをほどこし、調理したものがいいんじゃないか、と考えてます。それも、殻つきのままで。殻に旨味、風味、エキスがたっぷり含まれ、火を通せば、ますますその効果を発揮、と思えるからです。それに、殻付きだと中の身の火の通り具合も違ってくるようです。それも、「ぷり」感を覚える硬さの一歩手前、しっとり感やとろっとした触感のあるレアな火の通し方こそが、甘味、旨味を感じるんじゃないか、と。

 えびの料理をコースに組み入れるときには、たとえば、塩、胡椒味で蒸し焼きにする「椒鹽焗 鮮蝦」や中国たまり醤油の「老抽」で風味付けした「豉油皇鮮蝦」にします。特に中くらいのサイズの「車えび」なら、たまり醤油、もしくは、普通の醤油の「生抽」で煎り焼きにするのが格好なようです。
 いずれにしろ、醤油の香ばしさが実に効果的。しかも、その種の焼け焦げの味、風味は、過ぎると下品で下種な「香り」ではなく「匂い」を放つだけのものになりかねませんから。そのあたり、料理としての美味、完成度を追求する本格的な中国料理では、ワザが必要。腕の見せ所ってことになります。
 ということでは、いきなり鍋で殻付きのえびを煎り焼にしたり、鍋肌に醤油をたらして焦げの味をつけるんじゃなく、さっとえびを下揚げしてから、醤油を注ぎいれただしに絡め、香り、風味をつける、なんて作業が、あるらしい!

 「えび」の料理でもうひとつ見逃せないのが「蒜茸蒸鮮蝦」。たまにこれをコースに入れると、すごく受けます。「えび」はもともと、親しみやすくて、人気がありますが、この「蒜茸蒸鮮蝦」は、ふんだんに使った「ニンニク」の微塵が実に刺激的で効果的。殻の旨さ、身の旨さに、にんにくのひり辛の味、風味が加味され、味、風味を引き立たる。

 「殻つきのまま、むしゃぶりつかないと、絶対、損をしちゃう感じだね。殻もバリバリ、食べられちゃうしさ!」。
 「そそ、火が通ったえびの身のぷりっとした触感とか、味も格別だけど、殻つきで食べると、ほんと味、風味は格別だね」と、私。

 「それより、このたれ、残っちゃうんだけど、これ、ご飯にかけて食べたくなるね!」。
 またまた出ました、ご飯とタレの組み合わせ話。
 「ほんとに!このたれ、残すのがもったいないくらい」。

 ちゅるちゅる、ちゅばちゅば、殻つきのままの「えび」を頬張り、その身の旨さを存分に味わったのでありました。

2008/09/05

8月の「赤坂璃宮」銀座店の2

                              
そして、3品目。
料理名を見て「ン!? ま、まさか!」と目を見張りました。細長くて無いに等しい両目(そうです、私は通称「柿の種目」!)を拳でこすり、改めて料理名を見直したほど。そこには「椒塩九肚魚/めひかりのスパイス揚げ」と記されていました。

「九肚魚」。和名は「テナガミズテング」。ネットで検索すれば明らかなように「ヒメ目エソ科」の一種ということで、英語の通称名はボンベイ・ダック。小ぶりで、ぬるっとした半透明の乳白色であることから、ミルクフィッシュとも呼ばれるみたいです。

 東南アジアからインドの沿岸地域に生息し、香港では下町の広東料理店、潮州料理店になどでお目にかかれます。身が柔らかく、根魚独得の泥臭さがあるのが特徴で、胡椒、塩仕立ての味付けで、唐揚げにして食べるか(「椒鹽九肚魚」)、もしくは芥子菜の漬物の一種の「冬菜」をはじめ、漬物と一緒に蒸して食べるか(「冬菜蒸九肚魚」)、というのが一般的。九龍城市の城南道にある潮州の汕頭料理の「創發」の看板料理になってます。

 スープ仕立ての「九肚魚湯」というのもあります。
 現在、元「酔湖」があった場所に移転して営業中の「生記海鮮酒家」が、まだ荘士頓道にあったころ、看板にしていたのが順徳地方の料理方法による「九肚魚湯」。白身の魚で身が柔らかいことから豆腐魚とも呼ばれますが、その言葉そのまま、根魚特有の泥臭さがありながら、スープにするとどこかひなびた純朴で無垢な味、風味の豊かさは格別です。郷土料理な一品で、「生記」に「九肚魚」があれば、唐揚げや蒸し物にするよりもスープで必ず注文していた一品。今となっては幻の一品となりました(と、自慢する!)

 もっとも、日本では「九肚魚」にお目にかかったことがない。出会ったことがある方、是非、ご一報を。すぐにでも駆けつけますから。もちろん、絶対ナイショ、誰にも明かさないってことをお約束します。

 「九肚魚」は、一度味わったら、その味はほんとに忘れ難い。最上の、極上の美味、というわけではなく、素朴でひなびた類の味です。塩胡椒風味の揚げ物「椒鹽九肚魚」なら、しゅわとした身の緻密さ、柔らかさ、冬菜と蒸した「冬菜蒸九肚魚」や「九肚魚湯」なら、とろっとした身の滑らかさが味わえる。

 ところが、先に触れてきたように日本では滅多にお目にかかれない。
 もっとも、同じ「ヒメ目」の魚のなかでも、「エソ科」の「アカメエソ」、「アカエソ」、「オキエソ」などは日本の各地で収穫がありそう。もっとも、画像をチェックしてみたら、乳白色のそれはないんですよね。

 そういえば三重の尾鷲に取材にいった際、「エソ」に出会った覚えがあります。
 同じ時、出会ったのが「めひかり」。むしろその「めひかり」に、「九肚魚」に近い感触を覚えて以来、「めひかり」に夢中になり、必死になって探し始めたものでした。

 それ以外では、三国へ「越前蟹」取材に出向いた際、地魚として食べ「ノロゲンゲ」も「九肚魚」に近いものを感じました。たまに駅前のスーパーに入荷することがあり、スープ仕立て楽しんだものです。
 しかし、「エソ」、「メヒカリ」、「ノロゲンゲ」のいずれも、東京では入手しにくい。
 身が少々固くなりますが、小ぶりの魚で、白身。少しばかり泥臭くって、独得の味、風味があるもの。といえば、キス、メゴチ、ハゼってことになるでしょうか。いずれも、東京の天麩羅屋にあるものです。

 実は昨年秋、ハゼの「椒鹽焗沙魚」を紹介しましたが、ハゼを素材に「椒鹽焗沙魚」にしたのは、福臨門のスタップが天麩羅を食べに行った際、ハゼに出会い、白身の柔らかさ、触感、それに味、風味が「九肚魚」に似てる!ってことから、試したものでした。

 話がそれますが、わが兄弟、周中師傳が目黒、白金通りの「白金亭」で、なんとか「獅子魚」の料理を日本に紹介したい、ってことでした。とはいえ、その入手は難しい。
 「何か、似た魚、日本にない?」と尋ねられ、キス、メゴチ、ハゼのことを伝えたところ、試してみたものの、やはり身が硬めで脆い、ということから、断念、なんてこともありました。
 香港にあって、日本にないものは、日本にあるもので似たようなものをさがし、素材を置き換えて調理。って、言うは簡単。けど、実現は難しい。

 そして「赤坂璃宮」銀座店の「椒塩九肚魚/めひかりのスパイス揚げ」。
 「ほら、香港に「九肚魚」ってあるじゃない?旨いでしょ?けど、「九肚魚」て日本にないからね。それで「めひかり」を使って「椒鹽」にしたわけ!」、と譚さん。

 さすが譚さん、目の付け所が「シャープ!」です。
 私も「九肚魚」を日本の魚で置き換えるなら「めひかり」と思っていたわけで、狙い目は同じ、だったわけですね。思わず嬉しくなっちゃいました。

 塩、胡椒で風味付けして揚げた「めひかり」は、皮はパリパリでさくさく。噛み締めるとしゅわとした触感で、ジューシーな旨さがじゅわと広がり、独等のクセのある素朴な味わいが浮かびあがる、という寸法。
















 「ね、ね、これって、ビールのつまみに最高じゃん!パリっとした揚げ具合といい、ひりとして、しっかり塩味がついていて、旨いから!」。
 「でしょ?、でしょ?」と、料理したわけでもないのに、自慢顔の私です。
 「「めひかり」って、焼いたり、煮たり、一夜干しにしたり、ってのが多いけど、こうやって唐揚げ、しかも、中国式の調理、味付けで、ってなかなかいでしょう?」と、ますます鼻高々の私でした。

 そうです、譚さんに感謝!

2008/09/03

8月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 「8月の~」なんて、とっくに9月。本来はもっと早くに報告のつもりで、書き上げていたファイルが行方不明!情けない話です。申しわけありません!

 ところで、この「赤坂璃宮」銀座店シリーズ(って、これでまだ3回目ですが)、開始以来、「ヘイフンテラスの謎と不思議」以来、久々に様々な方々からの反応がありました。
 ことに料理人や料理店のスタッフからメールを頂戴したり、たまたま電話でお話したり、出会う機会があった際「赤坂璃宮」見てますよ!なんてことから、話が盛り上がり、料理内容の詳細を改めて問い合わされたり、話が盛り上がったなんてことは数知れず。 

 そういえば、SANMIGUELさん、コメントどうもありがとうございました。他にもいろんな方からコメント戴きました。 そんなことから改めて「赤坂璃宮」、というよりも譚さんの仕事、料理に関心を持ち、譚さんに敬意を払う方の多さを再認識。日本の中国料理界では、ビッグな存在です。

 さて、「8月の「赤坂璃宮」銀座店」の幕開けは、もはや定番の「香港焼味拼盆/璃宮特製焼き物前菜盛り合わせ」。皮付き豚バラ肉の焼き物の「焼肉」、家鴨のローストの「焼鴨」、特製の蒸し鶏など四種。今月の付け合せは酢漬け(?)の大根で、さっぱり。

 「それにしても、これうまいよね!」と、「焼肉」にご満悦の仲間の声。
 実際、旨い。それも、毎回食べて、飽きないぐらい旨い。それに、毎回、旨さを増していくのがすごい。これほどの「焼味」、しかも香港そのままの味を楽しませてくれる「焼味」は、東京では滅多に出会えない。さすが「焼味名人」の梁さん、その腕、技は冴えてます。
 ということなら、次回は、焼き物関係、特別にリクエスト?なんて、欲がでます。さて、一体何をリクエストするかは、登場してのお楽しみ!

 そして「湯」は、なんと「金銀菜煲豬蹄/広東白菜と豚スネ肉のスープ」が登場。それも、スープは大きな鍋、具は大皿に盛り付けて!と、香港の広東料理店で鍋煮込みのスープの「煲湯」をサービスするときのスタイルそのままで。

 そうです!「金銀菜煲豬蹄/広東白菜と豚スネ肉のスープ」は、香港のほとんどの広東料理店のメニューにある日替わりスープの「例湯」に登場。家庭でも作られることの多いスープのひとつ。日本語のメニューにも明らかなように、じっくり時間をかけて広東白菜と豚スネ肉を鍋で煮込んだ(煲湯)料理です。

 その広東白菜、画像でもお分かりの通り、あのでっかい白菜とは違って小ぶりのもの。いまや日本で最も馴染み深い中国野菜となった「青梗菜」に、見た目、大きさは似ています。もっとも、「青梗菜」の軸は緑ですが「広東白菜」の軸は白。本場、広東の「広東白菜」は、もっと小ぶりで、軸はふっくりぷっくら、丸みを帯びていて、日本に直輸入されていたり(あ、もしかして例の事件以来、ダメになったかも)、ミニ・広東白菜ということで栽培もされてます。

 この料理、「金銀」とあるのがミソ。見逃せないポイントです。
 実は干したもの、新鮮なものと、2種の広東白菜を使ってあるのが「金銀菜」という料理名の由来です。

 まずはスープに挑戦。
 「このスープ、野沢菜の味噌汁みたいに、ひねた味がするのね!」
 「そうなんだよね。干した広東白菜のひねた味です。干すと漬物みたいに醗酵して、ひねた味になって、スープの具材にして煮込むと、こく、旨味、風味を増すってわけで。ほら、新鮮な広東白菜だと、甘味と、白菜独得の味がでるぐらいで、こくとか旨味、風味はでないでしょ?だから、干したのと新鮮なのを組み合わせるわけです」と、知ったかぶりの私です。

 「それより、牛のスネ肉ってシチューとかカレーに使うけど、豚のスネ肉って、普段、買わないし、お肉屋さんでもみかけないけど」。
 言われて見れば、その通り。多分、肉屋に出回るよりも、加工業者に回されることが多いからでしょう。ですが、香港、広東、それに中国本土では「湯」、だしを作るのにかかせませんから、市場で塊のまんま簡単に入手可能。
 極上のだしの「上湯」をとるのには、豚の赤身肉の「痩肉」が必需品。ですが、家庭で、それも鍋煮込みのスープの「煲湯」を取るには、むしろスネ肉の利用頻度の方が高いようです。

 「それが、牛のスネ肉って、固いけど、煮込めば柔らかくなるし、だしもでるでしょ?でも、牛のスネ肉に限らず、牛肉って、案外、クセが強くて、独得の香り、というか匂いがあるから、中国料理ではあまりだしには使われないんですよ。そのクセをいかしただしをとるってこと以外は。

 たまたま日本人は牛肉の味、風味に慣れてるから、抵抗ないみたいですけど、ほんとは、すごくクセがあるもんでね。それに比べると豚肉の方がクセがなくて、だしをとるには向いてるし、旨味のあるだしがとれますから!

 だから、このスープの要の味、旨味、コクは豚のスネ肉使ってるからです。そこに、干した白菜を加えて、もう一味旨味、風味を増してるわけで」と、またまた知ったかぶりの私です。

 「ねね、スープもいいけど、これ、どうやって食べるの?スープの具にして食べるわけ?」。
 「だめだめ、スープに入れて具にしちゃ、元も子もない。これは、たまり醤油の「老抽」をだしでわったタレにつけて食べるもんです。早い話、スネ肉も白菜もだしがら、旨味は全部、スープの中。ですけど、たれにつけて食べると、なかなかイケるんですよ。
 ひとつの料理で、おかずが2品、という按配。これが「煲湯」のいいところ。だから、香港とか広東地方じゃ、こうやって、スープと具は別皿に分けて出すわけです」と、私。

 「なるほど、こうやって食べれば旨いワ!」と、私の話に納得。
 「でも、旨さから言えば、このスープだね!」。
 そうです。豚のスネ肉の旨味、コク、風味。干した広東白菜の酸味、ひねた味、新鮮な広東白菜の甘味と爽快な味のエッセンス、エキスたっぷりのスープは、しっかりした味わいで、風味も豊か。
 手間隙かけて煮込んだ「煲湯」は、格別の旨さでした。

2008/09/01

夏の味 老虎魚の唐揚げ/油浸老虎魚の5
















 そして、まず決定したのが以下の7品。

「八寶冬瓜盅/冬瓜の器仕立て、八種の具材、スープ入りの蒸し物)」
「椒鹽焗 鮮蝦/殻付き車えびの塩味の蒸し焼き」
「紅炆水魚/スッポンと焼肉、干し椎茸の煮込み」
「油浸老虎魚/おこぜの唐揚げ」
「花彫鶏/鶏肉の紹興酒風味の煮込み」
「梅辣青茄子粉絲煲/青茄子と春雨の梅味噌、辛味炒め煮込み」
「摩囉炒飯/カレー炒飯」

 干貨素材の料理はありませんが、一番のメインは「紅炆水魚」。大菜といってもいいでしょう。それに、いつもは悩みの種の魚料理も、今回は長崎産の「おこぜ」が調達可能ということで、当夜のハイライトが2品。

 しかし、魚の課題は解決しても「蒸」の料理が欲しいと思いながら、なかなか思い浮かばない。
 鶏肉の「花彫鶏」をやめて、干し椎茸、金針菜などと共に蓮の葉包みの蒸し物「荷葉金針雲耳蒸鶏」という方法も悪くはない。ですが、「龍崗鶏」、龍崗種の鶏肉の持ち味、美味を楽しめる料理の中で、伝統的で定番の「脆皮鶏」ではなく、ひとひねり利かせた料理、ということなら紹興酒で風味付けして煮込んだ「花彫鶏」ってことになる。

 もうひとつ、エビ味噌(というよりも実際にはアミの塩漬け)の「蝦醬」風味の揚げ物の「蝦醬系」という選択もありですが、今回魚の唐揚げの「油浸魚」がありますから、調理が重複。そんな理由から今回はパス。

 そこで、メニュー選択の際、あれこれ紐解く料理本のから「今晩のおかず」で見つけ出したのが豚のスペアリブを素材にした蒸し物の料理の数々。候補の料理のいくつか八尾さんに伝え、今回の料理担当の袁さんと相談の上、提案があったのが「荷葉蒸排骨/豚のスペアリブ、キクラゲ、金針菜の蓮の葉包み蒸し」ということで、それに決定。

 さらにもう一品、野菜、それも青菜の炒め物、ということで「ひゆ菜」の「莧菜」を素材に、「蝦醬」の風味で炒めた「蝦醬莧菜」に決定。さらに、締めくくりに甜品を加えて、全部で10品。

 結果、Nさん、まずは「冬瓜盅」の重厚なスープの味わいにうっとり。殻つきエビの蒸し焼きの香ばしさ、カリっと揚がった殻の歯触り、さらには「まる鍋」は経験ありでも、広東料理のスッポンの煮込みは初めてという「紅炆水魚」のこくのある味わい、それに「おこぜ」の唐揚げのさっぱりした味わいに満面の笑み。
 そして、野菜好きというNさんが「これは旨い!」と唸ったのが「梅辣青茄子粉絲煲」の「青茄子」。  

 Mさんからは
「食事ってメニューの感動曲線によって喜びを得るものということをあらためて実感いたしました。冬瓜のスープから始まりデザートまで、料理の慎みを感じたり(冬瓜スープ)、粋を感じたり(エビ)、野味を感じたり(スッポン、鶏)、また珍味(野菜)、料理そのものの笑顔(カレーチャーハン)、ミステリアス(デザート)など感激いたしました」
とのメールが到着。

 ついでに、スッポンの効果「大いにあり!」、だったそうで!
 まずは、めでたし、めでたし!!

 画像は「荷葉蒸排骨/豚のスペアリブ、キクラゲ、金針菜の蓮の葉包み蒸し」です

夏の味 老虎魚の唐揚げ/油浸老虎魚の4

 長年、仕事先で出会えば挨拶を交わしながら、これまでじっくり話をする機会のなかったプロモーターのNさん。そのNさんと私的な場所での遭遇が相次ぎ「そのうち、一緒に食事を!」ということになったのが、今回の小宴のそもそもの発端でした。

 とはいうもののなかなかタイミングをあわせられないでいたところ、N氏にとっても私にとっても長年の友人であるフリー・エディターのM氏が仲介の役目を引き受けてくれて、会食がようやく実現。

 実はM氏、とある雑誌の企画で共に香港に長期滞在し、香港の料理を紹介するのを手助けをしてくれた人物です。
 フレンチ、イタリアン、和食という選択もありでしたが「やっぱり中国料理がいいんじゃない?」と意見が一致。「それなら、やっぱり福臨門で広東料理のバラエティーを!」という私の(いささか)ゴリ押しの提案に、ふたりもOK。そのメンバーにはNさんの令息、S君も参加と相成った次第。

 メニューの選択、コースの組み立てはおまかせ!
 ということで、件の「青木宴」とは別個にその趣を改めた「夏の風情」を生かしたコースを計画。とはいえ、埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんの夏の野菜で、調達可能なのは茄子のみ。

 他に夏野菜はどんなのが調達可能か福臨門の八尾さんに尋ねたら「冬瓜、節瓜、白瓜、涼瓜、それに莧菜がありますが」という返事。どうしたものかと思案するうち、思いついたのが「老虎魚」を素材にした「油浸老虎魚」。いつもなら思い悩む「魚」の料理を、まず一番に決めたのは前述した通り。

 それから、野菜。やはり夏場は「瓜」の類。中でも冬瓜を丸ごと一個使った「冬瓜盅」。問題はどんな「冬瓜盅」にするか。最初に思いついたのはふかひれの「生翅」を具にした「冬瓜盅生翅」。
 ですが、Nさん、これまでふかひれをメインにしたコースはいろいろ体験済みという話。それに、今回はふかひれやなまこなどの干貨類をメインにするのはあえて避け、旬の素材をメインにした「夏の風情」がテーマ。

 そんなことから、先に紹介してきた通り「冬瓜盅」では最もオーソドックスで、広東地方の郷土料理としての特色を発揮した「八寶冬瓜盅」がうってつけ。懷舊菜、懐かしの「八寶冬瓜盅」にするなら、家鴨の砂肝はじめ内蔵類を具にする、って方法もありです。

 それより先に決まったメニューがありました。
 魚の料理、その素材、調理方法のあれこれを相談するうち
 「大分産の天然物の水魚(すっぽん)がご用意できるかもしれません。今のところ、数も限られておりまして、この時期だけのものになりそうなのですが・・・」
 と、落ち着いた八尾さんの話ぶりが思い浮かぶメールが到着。
 「ン!? ナニナニ!!!」と、思わず反応。料理方法などは2の次にして後先省みず「それ、決定! 一匹、確保しておいてください!」と、即座にメール・バックしました。

 それにしても「天然物」の「水魚」をどのような調理、味付けにするか。
 思い浮かべるだけでも涎がこぼれ落ちる。我ながらみっともない話です。
 夏場のすっぽんの料理では、昨年紹介した「八寶蒸水魚」の爽快感が思い浮かぶ。豚肉、椎茸などに漬物など、八種の具材の細切りを加え、蒸した料理です。中でも漬物の酸味、醗酵味が、爽やかで、奥行き深い滋味を醸し出す。

 しかし「天然」の「水魚」ということなら、むしろ身や裙翅(縁側)の充実、味、風味こそが肝心な味わいところ。それなら醤油煮込みで干し椎茸なども加えた「紅焼水魚」、もしくは干し椎茸だけでなく豚肉か皮付き豚のバラ肉の焼き物の「焼肉」などを加えた「紅炆水魚」で、「天然」の「水魚」本来の持ち味を生かす。
 ですが、いずれにしろ夏よりも冬の初めから、その最中にこそうってつけな料理。もちろん、夏場に食べるのも悪くはない。
 精がついていいかも!!
 ということで「紅炆水魚」に決定しました。

 画像は「紅炆水魚/スッポンと皮付き豚ばら肉の焼き物、干し椎茸の煮込み」です。