2008/09/05

8月の「赤坂璃宮」銀座店の2

                              
そして、3品目。
料理名を見て「ン!? ま、まさか!」と目を見張りました。細長くて無いに等しい両目(そうです、私は通称「柿の種目」!)を拳でこすり、改めて料理名を見直したほど。そこには「椒塩九肚魚/めひかりのスパイス揚げ」と記されていました。

「九肚魚」。和名は「テナガミズテング」。ネットで検索すれば明らかなように「ヒメ目エソ科」の一種ということで、英語の通称名はボンベイ・ダック。小ぶりで、ぬるっとした半透明の乳白色であることから、ミルクフィッシュとも呼ばれるみたいです。

 東南アジアからインドの沿岸地域に生息し、香港では下町の広東料理店、潮州料理店になどでお目にかかれます。身が柔らかく、根魚独得の泥臭さがあるのが特徴で、胡椒、塩仕立ての味付けで、唐揚げにして食べるか(「椒鹽九肚魚」)、もしくは芥子菜の漬物の一種の「冬菜」をはじめ、漬物と一緒に蒸して食べるか(「冬菜蒸九肚魚」)、というのが一般的。九龍城市の城南道にある潮州の汕頭料理の「創發」の看板料理になってます。

 スープ仕立ての「九肚魚湯」というのもあります。
 現在、元「酔湖」があった場所に移転して営業中の「生記海鮮酒家」が、まだ荘士頓道にあったころ、看板にしていたのが順徳地方の料理方法による「九肚魚湯」。白身の魚で身が柔らかいことから豆腐魚とも呼ばれますが、その言葉そのまま、根魚特有の泥臭さがありながら、スープにするとどこかひなびた純朴で無垢な味、風味の豊かさは格別です。郷土料理な一品で、「生記」に「九肚魚」があれば、唐揚げや蒸し物にするよりもスープで必ず注文していた一品。今となっては幻の一品となりました(と、自慢する!)

 もっとも、日本では「九肚魚」にお目にかかったことがない。出会ったことがある方、是非、ご一報を。すぐにでも駆けつけますから。もちろん、絶対ナイショ、誰にも明かさないってことをお約束します。

 「九肚魚」は、一度味わったら、その味はほんとに忘れ難い。最上の、極上の美味、というわけではなく、素朴でひなびた類の味です。塩胡椒風味の揚げ物「椒鹽九肚魚」なら、しゅわとした身の緻密さ、柔らかさ、冬菜と蒸した「冬菜蒸九肚魚」や「九肚魚湯」なら、とろっとした身の滑らかさが味わえる。

 ところが、先に触れてきたように日本では滅多にお目にかかれない。
 もっとも、同じ「ヒメ目」の魚のなかでも、「エソ科」の「アカメエソ」、「アカエソ」、「オキエソ」などは日本の各地で収穫がありそう。もっとも、画像をチェックしてみたら、乳白色のそれはないんですよね。

 そういえば三重の尾鷲に取材にいった際、「エソ」に出会った覚えがあります。
 同じ時、出会ったのが「めひかり」。むしろその「めひかり」に、「九肚魚」に近い感触を覚えて以来、「めひかり」に夢中になり、必死になって探し始めたものでした。

 それ以外では、三国へ「越前蟹」取材に出向いた際、地魚として食べ「ノロゲンゲ」も「九肚魚」に近いものを感じました。たまに駅前のスーパーに入荷することがあり、スープ仕立て楽しんだものです。
 しかし、「エソ」、「メヒカリ」、「ノロゲンゲ」のいずれも、東京では入手しにくい。
 身が少々固くなりますが、小ぶりの魚で、白身。少しばかり泥臭くって、独得の味、風味があるもの。といえば、キス、メゴチ、ハゼってことになるでしょうか。いずれも、東京の天麩羅屋にあるものです。

 実は昨年秋、ハゼの「椒鹽焗沙魚」を紹介しましたが、ハゼを素材に「椒鹽焗沙魚」にしたのは、福臨門のスタップが天麩羅を食べに行った際、ハゼに出会い、白身の柔らかさ、触感、それに味、風味が「九肚魚」に似てる!ってことから、試したものでした。

 話がそれますが、わが兄弟、周中師傳が目黒、白金通りの「白金亭」で、なんとか「獅子魚」の料理を日本に紹介したい、ってことでした。とはいえ、その入手は難しい。
 「何か、似た魚、日本にない?」と尋ねられ、キス、メゴチ、ハゼのことを伝えたところ、試してみたものの、やはり身が硬めで脆い、ということから、断念、なんてこともありました。
 香港にあって、日本にないものは、日本にあるもので似たようなものをさがし、素材を置き換えて調理。って、言うは簡単。けど、実現は難しい。

 そして「赤坂璃宮」銀座店の「椒塩九肚魚/めひかりのスパイス揚げ」。
 「ほら、香港に「九肚魚」ってあるじゃない?旨いでしょ?けど、「九肚魚」て日本にないからね。それで「めひかり」を使って「椒鹽」にしたわけ!」、と譚さん。

 さすが譚さん、目の付け所が「シャープ!」です。
 私も「九肚魚」を日本の魚で置き換えるなら「めひかり」と思っていたわけで、狙い目は同じ、だったわけですね。思わず嬉しくなっちゃいました。

 塩、胡椒で風味付けして揚げた「めひかり」は、皮はパリパリでさくさく。噛み締めるとしゅわとした触感で、ジューシーな旨さがじゅわと広がり、独等のクセのある素朴な味わいが浮かびあがる、という寸法。
















 「ね、ね、これって、ビールのつまみに最高じゃん!パリっとした揚げ具合といい、ひりとして、しっかり塩味がついていて、旨いから!」。
 「でしょ?、でしょ?」と、料理したわけでもないのに、自慢顔の私です。
 「「めひかり」って、焼いたり、煮たり、一夜干しにしたり、ってのが多いけど、こうやって唐揚げ、しかも、中国式の調理、味付けで、ってなかなかいでしょう?」と、ますます鼻高々の私でした。

 そうです、譚さんに感謝!