2008/09/07

8月の「赤坂璃宮」銀座店の3


















「ワ、ワ! すごい!  「えび」じゃないですか「えび」!  しかも、こんなに沢山!」。
 「こんな豪華な料理、お昼からいただいちゃって!」。
 私といえば「え、え、え、え!? まじ?まじなのかな、こんなの出てきちゃって。まじ?」と、慌てふためくことしきり。

 4品目の料理「香蒜蒸海蝦/車海老のガーリック蒸し」が登場した途端、一気に盛り上がりました。やっぱり「えび」は人気者、です。

 「えび」は、どうやら「車えび」の様子。一尾、身を縦半分に裂き、お皿に並べ、大蒜の微塵切りをたっぷりまぶし、タレをかけて蒸した料理。あ、正確な下拵え、調理方法は、聞きそびれました。今度、譚さんに尋ねておきます。

 家庭でも簡単に料理が出来そうな感じ。ですが、活きのいい「えび」の入手が難しい。それに、たれの作りかたはともかく、なんといっても蒸し加減が難しい。「えび」をはじめ、魚、貝類などの魚介類だけに限らず、蒸し物の料理は、案外、簡単に家庭で出来そうでいて、その実、難しく、意外に厄介です。

 まずは「蒸」する道具。「蒸篭(せいろ)」があればいいんじゃない?っていわれれば確かにそうですけど、問題はその大きさ。中華鍋に蒸篭を重ねて入れ、蒸すにしても、家庭では「蒸篭」の大きさに限りがあります。それに「蒸」するには、それなりの「火力」が必要。

 さらに、なんといっても素材に火が通るタイミングの把握、要は「蒸し時間」ですが、その見計らいが難しい。料理本には蒸す時間のおよその目安が紹介されてますが、魚介には個体差というものがある。余熱、というものもあって、その分、計算に入れて蒸す時間を按配するには、数をこなしてこそ要領が会得できるもの。技が必要です。

 料理店には蒸す調理専門のスティーマー(蒸し器)があります。業務用のそれ、です。大きさが違いますから、どんなサイズの皿、鉢、燉器も収容可能。おまけに火力が違いますから、火の通り具合、按配など、家庭で「蒸」するのと出来栄えは大違い。

 画像を見れば、それは歴然、なのがお分かりいただけるはず。
 まず、色合いの美しさに目を奪われます。それに、鼻腔をくすぐるかぐわしい芳香にもうっとりなんて、画像じゃ伝わらないか、すんません。

 「にんにく」たっぷり。ですが、たとえば鍋に油を入れ、ニンニクを炒めた時のようなげとげしい強烈な「匂い」とは違います。火が通った醤油ベース(それに上湯も加えてあるらしい)のたれ、えびの殻から滲み出る旨味などもあいまって、醸し出された料理の「香」りです。そこに、香菜のほろ苦さやえぐみ、小口切りの青葱の青々しさやひり味も加味される。

「香蒜蒸海蝦/車海老のガーリック蒸し」は、熱々を食べるに限ります。まずは殻つきのまま、チュルチュルと唇で汁を吸いよせ、やおら口に頬張り、噛み締めるうちに、噛み砕いた殻、それに「えび」のひげや足やらがが口腔に突き刺し、たれの醤油味が染みる!なんてのも、味わいところのひとつじゃないでしょうか。

 そういえば、以前、香港で食べる「えび」と日本のそれには、違いがあり、なんて触れました。もっとも、香港の「えび」だって、すべてが旨いとは限らない。「旬」を外せば、極上、上質の「えび」には出会えません。それだけ、旬の時期の最良の香港の「えび」は格別に旨い。実は私、香港でも滅多に「えび」に手を出さない。そして、日本でも同様です。もっとも、極上の「才巻き」、「車えび」が入荷したことをと知らされれば、話は別、ですけど。

 とはいえ、香港で食べる「えび」と日本で食べる「才巻」、「巻きえび」jは、なんだか資質、持ち味が違うような気がします。生息する海の違い、育ち方、育て方の違いってこともあるでしょう。日本のは甘い、けど風味が弱くて、香りに乏しい。それに、火を通したえびの「ぷり」感、というか肉質、弾力、身のしまりも、なんだか違う感じがします。

 そんなことから、日本の中国料理店で「才巻」、「車えび」を食べるとなると、シンプルな茹でえびの「白灼蝦」は滅多に食べません。それより、日本の「えび」の資質、持ち味がから考えるに、なんらかの味付けをほどこし、調理したものがいいんじゃないか、と考えてます。それも、殻つきのままで。殻に旨味、風味、エキスがたっぷり含まれ、火を通せば、ますますその効果を発揮、と思えるからです。それに、殻付きだと中の身の火の通り具合も違ってくるようです。それも、「ぷり」感を覚える硬さの一歩手前、しっとり感やとろっとした触感のあるレアな火の通し方こそが、甘味、旨味を感じるんじゃないか、と。

 えびの料理をコースに組み入れるときには、たとえば、塩、胡椒味で蒸し焼きにする「椒鹽焗 鮮蝦」や中国たまり醤油の「老抽」で風味付けした「豉油皇鮮蝦」にします。特に中くらいのサイズの「車えび」なら、たまり醤油、もしくは、普通の醤油の「生抽」で煎り焼きにするのが格好なようです。
 いずれにしろ、醤油の香ばしさが実に効果的。しかも、その種の焼け焦げの味、風味は、過ぎると下品で下種な「香り」ではなく「匂い」を放つだけのものになりかねませんから。そのあたり、料理としての美味、完成度を追求する本格的な中国料理では、ワザが必要。腕の見せ所ってことになります。
 ということでは、いきなり鍋で殻付きのえびを煎り焼にしたり、鍋肌に醤油をたらして焦げの味をつけるんじゃなく、さっとえびを下揚げしてから、醤油を注ぎいれただしに絡め、香り、風味をつける、なんて作業が、あるらしい!

 「えび」の料理でもうひとつ見逃せないのが「蒜茸蒸鮮蝦」。たまにこれをコースに入れると、すごく受けます。「えび」はもともと、親しみやすくて、人気がありますが、この「蒜茸蒸鮮蝦」は、ふんだんに使った「ニンニク」の微塵が実に刺激的で効果的。殻の旨さ、身の旨さに、にんにくのひり辛の味、風味が加味され、味、風味を引き立たる。

 「殻つきのまま、むしゃぶりつかないと、絶対、損をしちゃう感じだね。殻もバリバリ、食べられちゃうしさ!」。
 「そそ、火が通ったえびの身のぷりっとした触感とか、味も格別だけど、殻つきで食べると、ほんと味、風味は格別だね」と、私。

 「それより、このたれ、残っちゃうんだけど、これ、ご飯にかけて食べたくなるね!」。
 またまた出ました、ご飯とタレの組み合わせ話。
 「ほんとに!このたれ、残すのがもったいないくらい」。

 ちゅるちゅる、ちゅばちゅば、殻つきのままの「えび」を頬張り、その身の旨さを存分に味わったのでありました。