長年、仕事先で出会えば挨拶を交わしながら、これまでじっくり話をする機会のなかったプロモーターのNさん。そのNさんと私的な場所での遭遇が相次ぎ「そのうち、一緒に食事を!」ということになったのが、今回の小宴のそもそもの発端でした。
とはいうもののなかなかタイミングをあわせられないでいたところ、N氏にとっても私にとっても長年の友人であるフリー・エディターのM氏が仲介の役目を引き受けてくれて、会食がようやく実現。
実はM氏、とある雑誌の企画で共に香港に長期滞在し、香港の料理を紹介するのを手助けをしてくれた人物です。
フレンチ、イタリアン、和食という選択もありでしたが「やっぱり中国料理がいいんじゃない?」と意見が一致。「それなら、やっぱり福臨門で広東料理のバラエティーを!」という私の(いささか)ゴリ押しの提案に、ふたりもOK。そのメンバーにはNさんの令息、S君も参加と相成った次第。
メニューの選択、コースの組み立てはおまかせ!
ということで、件の「青木宴」とは別個にその趣を改めた「夏の風情」を生かしたコースを計画。とはいえ、埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんの夏の野菜で、調達可能なのは茄子のみ。
他に夏野菜はどんなのが調達可能か福臨門の八尾さんに尋ねたら「冬瓜、節瓜、白瓜、涼瓜、それに莧菜がありますが」という返事。どうしたものかと思案するうち、思いついたのが「老虎魚」を素材にした「油浸老虎魚」。いつもなら思い悩む「魚」の料理を、まず一番に決めたのは前述した通り。
それから、野菜。やはり夏場は「瓜」の類。中でも冬瓜を丸ごと一個使った「冬瓜盅」。問題はどんな「冬瓜盅」にするか。最初に思いついたのはふかひれの「生翅」を具にした「冬瓜盅生翅」。
ですが、Nさん、これまでふかひれをメインにしたコースはいろいろ体験済みという話。それに、今回はふかひれやなまこなどの干貨類をメインにするのはあえて避け、旬の素材をメインにした「夏の風情」がテーマ。
そんなことから、先に紹介してきた通り「冬瓜盅」では最もオーソドックスで、広東地方の郷土料理としての特色を発揮した「八寶冬瓜盅」がうってつけ。懷舊菜、懐かしの「八寶冬瓜盅」にするなら、家鴨の砂肝はじめ内蔵類を具にする、って方法もありです。
それより先に決まったメニューがありました。
魚の料理、その素材、調理方法のあれこれを相談するうち
「大分産の天然物の水魚(すっぽん)がご用意できるかもしれません。今のところ、数も限られておりまして、この時期だけのものになりそうなのですが・・・」
と、落ち着いた八尾さんの話ぶりが思い浮かぶメールが到着。
「ン!? ナニナニ!!!」と、思わず反応。料理方法などは2の次にして後先省みず「それ、決定! 一匹、確保しておいてください!」と、即座にメール・バックしました。
それにしても「天然物」の「水魚」をどのような調理、味付けにするか。
思い浮かべるだけでも涎がこぼれ落ちる。我ながらみっともない話です。
夏場のすっぽんの料理では、昨年紹介した「八寶蒸水魚」の爽快感が思い浮かぶ。豚肉、椎茸などに漬物など、八種の具材の細切りを加え、蒸した料理です。中でも漬物の酸味、醗酵味が、爽やかで、奥行き深い滋味を醸し出す。
しかし「天然」の「水魚」ということなら、むしろ身や裙翅(縁側)の充実、味、風味こそが肝心な味わいところ。それなら醤油煮込みで干し椎茸なども加えた「紅焼水魚」、もしくは干し椎茸だけでなく豚肉か皮付き豚のバラ肉の焼き物の「焼肉」などを加えた「紅炆水魚」で、「天然」の「水魚」本来の持ち味を生かす。
ですが、いずれにしろ夏よりも冬の初めから、その最中にこそうってつけな料理。もちろん、夏場に食べるのも悪くはない。
精がついていいかも!!
ということで「紅炆水魚」に決定しました。
画像は「紅炆水魚/スッポンと皮付き豚ばら肉の焼き物、干し椎茸の煮込み」です。