2008/09/28

秋の訪れ~9月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 9月の「赤坂璃宮」銀座店の料理の数々は、すっかり秋模様。
 幕開けは恒例の「広東焼味盆 璃宮特製焼き物前菜盛り合わせ」。
 伊達鶏の醤油漬け、皮付きバラ肉の焼きもの「焼肉」など4種、一切れずつの盛り合わせですが、今回は盛り付けがこれまでと変わって、その趣、印象も新た。

 付け合せは酸味の利いた小ぶりの茄子。ってことは、なすの酢漬け? さっぱりとした口あたり。頬張れば、茄子はトロトロ、ジュルジュル。舌にとろける触感、噛み締めると酸味とともに浮かび上がる茄子の甘さ、旨味が口中に広がります。

 そして「焼味」。葱の微塵に油を加えた「葱油」のたれで食べる伊達鶏の醤油漬け。皮裏の脂の感じ、歯がすっと入る柔らかさがあって、噛み締めるとしっとりの質感が堪らない。それに、皮付きバラ肉の焼き物の「焼肉」は、いつもながらのせりふですが、やはり、東京では貴重な上に、パリパリの皮の焼加減、その下の脂の旨さ、甘さ、こく、風味が格別です。

 「これ、ほんと、うまいんだよね!最後に、とっておこう!」なんて声も聞かれます。
 それに、今月は叉焼の肉質の質感、上品な味付け、香りの素晴らしさが印象的でした。焼き物の仕事、「焼味」の極意、ここにあり、といったところです。前菜を飾る料理の一品としての風格がありました。

 そして「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」が登場。スープと具は別皿盛りで。ということは、素材を土鍋に入れて、時間をかけて煮込んだ「煲湯」ですね。


 具は鶏肉。別皿に盛られた鶏肉の塊からすると、胸のだき身、胸肉のようす。
 香港、広東地方あたりでは、胸肉、腿肉だけのものもありますが、同時に、内蔵や、通称もみじとして知られる鶏の足を使ったりすることもある。
 もっとも、鶏の胴がらを使うことは滅多にない様子。鶏がらでだしをとっても、鶏肉ほどに味、風味のある濃厚、濃密なだしがとれるわけではなく、旨味よりも雑味が目立つ結果になりますから。

 それから栗がたっぷり。画像をご覧いただければ、その量が一目瞭然。さらに蜜棗、つまりはシロップ漬けにした棗を加えたもの。その棗の量だって半端じゃない。

 日本では栗は、そのままを茹でるか蒸すか焼く。それとも、渋皮煮、あるいは甘露煮にするのがほとんじゃないでしょうか。料理といえば栗ご飯や栗おこわ。そういえば、野菜の炊き合わせでみかけることもある。

 広東地方では「湯/スープ」にしたり「炆」という炒め煮込みにします。もちろん、栗そのままだけってことは滅多にない。必ず家禽類、鶏なり家鴨の肉や一部の内蔵類、あるいは豚のスペアリブ、脛肉、テール肉などと共に料理します。

 そのあたり、栗の持ち味、資質にも関係してのこと。栗は澱粉質など糖質が多く、火を通すとほくほくの触感があり、甘味がうんと出る。つまりは、芋にも通じるところありというわけで、以前にも触れたように、香港や広東地方では、栗、そのもの自体は「寡」、それだけ料理するには味が物足りないってことで、肉類と組み合わせて料理する、というのが一般的なようです。

 さて、今回の「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」。鶏肉のだしがしっかり出ていて、旨味たっぷり。さらに、栗、シロップ漬けの棗の「蜜棗」の甘味が、こくを増してます。それに、なんといってもナチュラル、自然で純な味わいです。なおかつ、ぎりぎり按配の塩加減、なんてところが家庭で作る「煲湯」とはひと味違う、プロの技。スープ料理、料理の一品としての重厚さがあります。

 それにしても、生の栗だと渋味、えぐ味がある。それが火を通すとうんと甘味がでてくる。それも、自然な甘味、土の香りだけでなく、木の香りが頭をもたげてくる。そんな栗に対して、もともと酸味に苦味もある棗をシロップでつけた蜜棗を使って、甘味をより重層的にし、香り、風味を増している、といったところでしょうか。それに、栗も、棗も薬効があります。

 そして、別皿にうず高く盛られてるのが、だしをとった鶏肉、栗、蜜棗。
 「これ、どうやって食べるわけ?」
 「こないだの豚と脛肉と広東白菜のスープの具の時のように、中国たまり醤油の「老抽」にだしを足したたれに浸して、食べるわけです。でも、鶏肉は旨味の抜け殻、だし殻ってわけで、旨味はすべてスープの中。肉はぱさついてますけど、このたれに浸して食べると、なかなか乙なもんで。おかずにもなるという寸法です」
 「なるほど!ウン、出し殻ですけど、たれにつけて食べると、いけるね」
 「ちょっとたっぷり目にたれにひたすと、たれの味が鶏肉にしみこんで、いけるでしょ?」
 
 「それより、私、栗大好きだから。だし殻でも食べたい」
 「はいはい。それがさ、だしとった栗って、ほっこり感こそ薄れ気味だけど、木の実らしい自然な味がするでしょ?それに、蜜棗も、表面は皺々で果肉が締まり加減だけど、噛み締めると、甘味だけじゃなくて、渋味、えぐ味が顔を覗かせるでしょ?」
 とまあ、だしをとった鶏肉、栗、蜜棗もしっかりいただきました。
 しかし、旨いのはやはりスープです。その色あいが、こくのある重厚な味わいを物語ってます。