2011/11/04

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの4

そして「三色蒸水蛋/皮蛋・鹹蛋入りの中国茶碗蒸し」。これ、私の好物です。香港では一般的な料理、家庭でも作られることが多いお惣菜のひとつ。香港の広東料理店では卓上にある家郷菜のメニューに載ってますし、載って無くても頼めば作って貰えます。
実は先にもふれたスペース・シャワーでの岡村靖幸君の番組の際、川崎料理長に候補としてリクエストした一品。結局のところ、蒸し物の料理は伊達鶏と金針菜、干し椎茸などの蒸し物になり、香港の味そのままでしたが、もしかしてその時、メニューの候補に挙げた「三色蒸水蛋」、もしくは浅蜊の茶碗蒸し仕立ての「蛤蜊蒸蛋」のことを覚えていてくれたのかも。

この料理、皮蛋、家鴨の塩漬け卵と鶏卵が素材です。同じ素材を使った「三色蒸蛋」という料理もあって、それは中国本土各地で一般的。家庭でも作られます。それとこの「三色蒸水蛋」は、いささか異なる。
料理名に「水」があるかどうかが、料理の仕上がりに関係してきます。 そう、「水」なしの場合、3種の卵が素材。「皮蛋」は皮を剥いて、ぶつ切り。塩漬け卵の「鹹蛋」は、茹でるか、蒸すかしたものをぶつ切りにするか、それとも黄味と白身を分けて作ることもある。

「三色蒸蛋」の場合、鶏卵は皮蛋、鹹蛋よりも分量を多くし、皮蛋、鹹蛋を加えてかき混ぜ、調味料で味を加減して蒸す。その出来上がりは鶏卵がしっかり固まり、皮蛋、鹹蛋を包み込むような感じで湯煎蒸しの寄せ物、テリーヌ、パテ状で、厚めにスライスして皿に並べます。
一方、今回の「三色蒸水蛋」、「水」という表記が加わることからも明らかなように汁気あり。作る際、まんま「水」を加える場合もあるようですがで、それだけでは味が物足りないってことからあの粉末、もしくは顆粒の「魔法の粉」をプラスアルファ、なんてこともあり。

基本はだしを加えます。その点は日本の茶碗蒸しと同じです。つるん、とろんの滑らかな舌触り。日本の茶碗蒸しだとか穴子や海老の魚介、それに蒲鉾、椎茸に銀杏など具がたっぷりで実沢山。それも歯応えのある具材が使われているのが一般的。
それに比べて「三色蒸水蛋」は日本の茶碗蒸しよりもだしが多めの加減。ですから、出来上がりはゆるゆるの感じ。具材も皮蛋と茹でた鹹蛋ですから、表面は弾力があっても噛めばすっと歯が入る柔らかさ。柔らかめの茹で卵、温泉卵を思い浮かべてください。

その味、家鴨の塩漬け卵が素材なのも関係してか、塩味が利いてます。だし、一番だしの上湯らしくて、中国ハムの火腿の味、風味もプラス・アルファもあいまって、しっかりした濃い目の味付け。
それより、大皿に人数分のを取り分けるんじゃなくて、一人一皿。その盛り付けが美しい。新派風の洗練された趣きもあるもので、川崎さんの美学がしっかり汲み取れる。

「これ、塩味しっかり利いてますね。ご飯のおかずにぴったり。ご飯に乗っけて食べたいぐらい」
「ビールというよりもご飯だね」
「そそ、ご飯のおかずにうってつけでしょ。私の好みの一品です!」

この「三色蒸水蛋」。家庭でも作られるお惣菜の一品ですけど、日本の茶碗蒸しがそうであるように蒸し加減、というのが難しい。そう、火加減間違うと「す」が入っちゃいますから。日本の茶碗蒸し、舌触りこそつるんとろんと滑らかですが、固めのゲル状の仕上がりが多くって、ぼってりぐらぐらどてどてなのが多いですよね。それからすると「三色蒸水蛋」はゆるゆるで汁気もたっぷり。

この料理、日本ではなかなかお目にかかれない。良質のピータンはともかく、家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」の入手が困難。それにだしの質が問われます。簡単な料理ですけど、蒸し加減など意外に手間隙かかったりして。

もしかして横浜の中華街あたりでやってくれる店があるのかもしれませんが、私は未体験。「赤坂璃宮」銀座店以外では……マンダリンの「センス」の高瀬さんや「桃の木」の小林武志君、「エッセンス」の薮崎君なんかに頼めば作ってくれそう!高瀬さん、小林君、薮崎君、よろしくう!

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの3

それから「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」。
この料理、「芥菜/カラシ菜」も「腊肉/塩漬けにして燻した豚のばら肉」の、いずれとも主役。野菜料理でもあり肉料理でもあります。なんて言うより、惣菜の一品。なんてところが嬉しい!
「芥菜」、日本で一般的なのは葉は広くて軸や根元の茎は細めのもの。油炒めなんかでも調理されますが、むしろ漬物や常備菜の素材としておなじみ。
ちなみにタカ菜はその親戚です。
今回の「芥菜」、画像でも明らかなように「包芯芥菜」。もとは中国の野菜で、色は浅緑。葉はぴりっと辛くてほろ苦いのと、根本の茎の部分が幅広なのが特徴。根本の茎の部分が幅広でセロリ状になった部分は「芥胆」ってことで葉の部分を切り落としてその部分だけを料理の素材にしたりします。春先から夏前にかけてがその旬だったはず。もうひとつの旬がこれから、のはずです。

そして「腊肉」。塩漬けの豚肉を燻したもので、赤坂璃宮は自家製だそうです。早い話がベーコンなんですが、日本で一般に知られ、売られているベーコンとは味の濃さや風味は異なります。
というのも日本で一般に知られ、売られているベーコンは工場生産により味なども日本人の嗜好にあわせて変えられ、多くは添加物、化学調味料を加味し、実際に燻すのではなく、燻液につけるだけなんてことで製品化されたもの。

ベーコンを自分で作ってみればその違いが明確にわかります。塩漬け加減も、燻し加減も、好みのままに作れますし、市販のベーコンとは全く異なる味、風味になるのは確かです。
実は「腊肉」こそベーコン本来の姿、とされるのにも大いに納得。しっかりした塩味、その味の濃さ。燻されて独特の風味のついた脂の甘さと旨味。
なんて言っても、香港、中国本土で市販化されてる「腊肉」は、焼き物専門店の自家製とは違って工場生産のそれですから、要注意。ですが、欧米などのベーコンに比べて味、風味が異なります。素材の質、それに燻す際や燻液が異なるからでしょうか。

「腊肉」は焼き物専門店や(製品化されたそれが)スーパーで売られていますが、秋も深まる頃に新しいものが出回りはじめます。冬の季節を迎える前に、豚を潰して備蓄する習慣があるからです。豚肉に限らず家鴨なども潰して塩漬けにしてそのままを干し、内蔵類は腸詰にします。

中国系の腸詰、といえば日本では豚肉の腸詰の「臘腸」が、特に台湾料理の店の定番的なメニューになっています。が、実は腸詰の種類は豊富。家鴨の血も含めた内蔵を材料にした「潤腸」がそれで、これまたその種類は豊富。鵞鳥のローストで有名な中環の「鏞記」では、もちろん鵞鳥を素材にしたそれを売ってます。

話戻して、この「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、早い話がほうれん草とベーコンの炒め物を思い浮かべてもらえばいいっか。でも、ないなあ!
なんて思うのは、まず「芥菜」、ひりっとした辛味がそこはかとなくあって、ほろ苦い。

それに「腊肉」、日本の市販のベーコンなんかに比べてしっかり火を通してある関係か身は締まっていて固い。塩味もしっかりで味が濃い。おまけに脂身の部分、触感こりこり。ぷりぷり感もあるとこなんか、かつての昔の鯨のベーコンを思い出す。ほら、最近の鯨のベーコンに妙に柔らかい感じで。なんでもかんでも柔らかいのが良いとは限らないのに……

おまけに脂身、甘味、旨味だけじゃなくって、独特のくせと風味がある。実はこの「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、家庭でも作られるごく一般的な惣菜でもあります。

「この塩味の感じからすると、ビールって感じだね」
「一緒に青菜も食べられる」「おかずにもいいんじゃないですか?ご飯が進みそうな肉野菜炒め!」
「でも、豚の生肉じゃ、この味、旨味、風味、でないじゃない?塩漬け豚を作って常備してたりするんだけど、日増しに旨味を増していく。醗酵系の旨味ね。それもあるんじゃないの」
ひり辛の「芥菜」と冬間近ってことを教えてくれる「腊肉」が秋を物語る一品でした。