2008/11/29

「香港的小菜」~11月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 2品目は「時蔬XO双蚌/ミル貝とホタテ貝柱のXO醤炒め」。















 海鮮の魚介、それもミル貝に貝柱という組み合わせが実にゼータク。香港の広東料理店の海鮮料理のメニューにありそうでいてないかも。というのは香港だと海鮮を看板にする店で、貝柱といえばタイラギの「帶子」がほとんど。それが日本の場合にはホタテ貝の貝柱が使われます。

 そんな貝柱、生のまま刺身にして食べるのもいいですけど、火を通せば旨味凝縮、風味を増します。そういえば我家ではもっぱら昆布〆にして食べることが多い。で、中国料理、広東料理で火を通すには油通しの「油泡」、両面を油焼きにする「煎」などがあります。

 いずれも素材をいきなり油通しや油焼きにするわけじゃなくって、それぞれ下拵えあり。下味つけるってこともありますが、粉をまぶして素材を包みこみ、調理ってことが多いようです。で、今回はミル貝、ホタテの貝柱、それに、季節の野菜類をそれぞれ「油泡」したあとで、最後に一緒に炒め合わせ、「XO醤」で調味、ってことでしょう。

 ミル貝はこりっとした歯触り、噛み応えのある触感。それに対してホタテの貝柱は、すっと歯が入る柔らかさで、ほどほどのねっとり感もあり。貝2種の触感の対比が面白い。しかも、火の通し方が絶妙。貝類独得、特有の甘さ、旨さがいきなりガツンではなくって、繊細で緻密な味、風味が浮かび上がるという按配。繊細で軽く、上品な味、風味に思わず「わお!」なんて思いました。

 その味付け、風味、まさに香港のそれ!だったからです。 もしかして一般の好みに照らし合わせると、味がたんない、なんて言われるかも。そうなんです、香港の広東料理、海鮮料理の味付けって、日本で想像する以上に軽くて、すっきり、さっぱり、なんです。

 野菜は蓮根、慈姑、パプリカ、さやえんどう、もやしです。それに香味付けの葱の根本の太い部分も。その蓮根、慈姑のぱりぽりの触感の対比がこれまた快感!パプリカのくたっとした感じ、さやえんどうの青みが爽快。もやしは、しっかり根が切り落とされていて、さくっとした歯応えですっきり味。

 それより、味付けは「XO醤」なんですが、いかにも「XO醤」を使っております!なんて押し付けがましさがない。それでいて、「XO醤」の味、風味があり、という過不足ない分量、加減がまた憎い。

 そうです、これまでなんどか触れてきたように、「XO醤」に限らす、「腐乳」にしろ「蝦醬」にしろ、日本の広東料理店におけるその種の調味料を使った料理のほとんどは、ふんだんに使いすぎ、という傾向が強い。これ見よがし、なんてこともありますし、素材の持ち味を無視した味付けが多いもの。ま、日本の中国料理は味本位で、濃い目の味が好まれる、という客の要求に応えるってこともあるんでしょうが、それにしても行き過ぎの感、否めないことが多いもの。

 それにくらべてこの「時蔬XO双蚌/ミル貝とホタテ貝柱のXO醤炒め」。調味の加減、按配、繊細で、洗練された味、風味なのが印象的。それより、ここんところの譚さんの料理、メリハリの利いた力強さが特徴。なのに、この料理、味付け、香りが違って、譚さんの料理でもなし・・・・。

  そんなところに大藤さん「あの、本日、譚は所用がありまして、もうすぐ到着するかと思いますので」なんて話でした。「ってことは、これ、袁さんの料理?」と尋ねると「ええ、そうです!」なんて大藤さんの答え。その話に、疑問氷解。

 袁さんというのは袁國星さん。99年香港からやってきて飯田橋のホテル・エドモンドの「廣州」の料理長を今年の6月まで務めていた人物。そして今は「赤坂璃宮」の銀座店の料理長に。今年、46歳だったか、ともかく、繊細、上品で、軽い味。それでいて、風味が豊か。これが袁さんの料理なのか!
 まぎれもなく香港の味! と、新しい発見に胸がときめいたのでありました。

「香港的小菜」~11月の「赤坂璃宮」銀座店

 11月の「赤坂璃宮」銀座店、滑り込みセーフで月を越えずにブログ・アップが間に合いました。 まずは「金銭焼味盆/焼き物前菜盛り合わせ」。方形のお皿に、色合いが映える前菜が並びます。















 画像の手前3品が、メインの焼き物3品。右はこれまでにすでにお馴染みのはずの皮付き豚バラ肉の焼き物の「焼肉」。メンバーの誰もが楽しみにしている焼き物の一品。左ははじめてお目にかかった「胡麻和えの蒸し鶏」パリパリの皮の上に胡麻がびっりしまぶしております。その胡麻のプチプチ感、噛み占めればあの香ばしい味が弾けます。なおかつ鶏肉はしっとり、ジューシー。

 で、問題は真ん中に居座る焼き物。目の前にして、即座に「金銭鶏肝」だとわかりました。「これこれ!この「金銭鶏肝」、焼き物担当の梁師傳に頼んで作ってもらい、なんとか食べてみたいと願っていた一品。以心伝心ってことでしょうか。

 「金銭鶏肝」は、広東地方の伝統的な焼き物のひとつ。鶏の肝、つまりはレバー、それに豚の背脂、そえに豚のロース、肩バラや腿肉、豪華版なら「金華火腿」を組みあわせて、タレで焼いたもの。それも麦芽糖の蜜汁をたっぷりつけながら、ということから、こってり濃厚な甘味が特徴です。

 香港ではかつては広東料理店の宴会コースの主要な前菜の一品だったものの、いつの間にかコレステロール過多なことや、甘味、塩味しっかりの濃厚な味が敬遠されて、焼き物を扱う「焼臘店」でしかお目にかかれなくなっていたもの。ところが、ここ最近、昔懐かしい「懷舊菜」が話題になるに及んで、この「金銭鶏肝」も再脚光を浴び、看板の料理にする店が続出。はやり物には誰もがすぐなびいてしまう香港らしい話です。

 「赤坂璃宮」銀座店の「金銭鶏肝」は、焼けば半透明になる豚の背脂、レアな焼き加減でねっとりの触感と血の味を残した鶏の肝に、豚のロース肉という組みあわせ。こってりの濃密な甘味は控え目、というのがその特徴。梁師傳独自のレシピによるもの、ってことでしょう。

 「金銭鶏肝」に出会えただけでも、嬉しくなっちゃいました。

2008/11/27

閑話休題 ザ・フー・ライブ・アット・ザ・武道館

 「ふ~」なんてため息を漏らしながら、更新のブログ書きそびれて日が過ぎちゃいました。
 こんなことなら、今月も赤坂璃宮の月例報告、月を越えそう。なんて事態は避けたいと思い、一応、下書きは用意してます。

 こんな事態になったのも、10月の半ば以来、連日、中、小のホール、演芸場、ライヴ・ハウス通いが続いたからです。連日なんてことはないにしても、週に何度かコンサートへなんてのはよくあることです。が、夜だけじゃなく、昼、夜、立て続け、なんてことがしばしば重なって、日頃とはいささか異なる行動に、あたふたした日々を送ったからでありました。

 もともと閉所恐怖症で密室空間に長時間居続けることが苦手。コンサート評などを書かねばならないなんてことになると、やはり、右の耳、左の耳でしっかり、聞き届け、目の前の出来事を頭の中にしっかり刻み込む!というわけでコンサートが終わればどっと疲労がおしよせる。

 とはいうものの、コンサートでは知ってる馴染みの歌だったりすると、一緒に歌ったりする、なんてことから、結構、楽しんでたりすることもあるんですが。それでもさすがに昼、夜、立て続けに空気が止まったまんまの密室空間に居続けというのはこたえます。

 たとえば、先週の月曜日、昼間は横浜の関内ホールで秋元順子のコンサート。その足で九段の武道館で、ザ・フーのコンサート。ザ・フー・ライヴ・アット・武道館。
 これが凄かった。今年見たコンサートの中では間違いなくベストのひとつ。

 その翌日、昼間は会議。夜は後楽園ドームでビリー・ジョエル。秋元順子のコンサート評を書かんといかんし、どうしようかなと思いながら、やっぱり、その場にいて雰囲気味わったり、見ておかない、ってことででかけました。

 久々に見た(聞いた)ビリー・ジョエル。のっけからヒット曲が立て続け。「これって美味しい曲ばっかりだね!」と、隣に座った立川直樹先生。うん、確かにそうだ。

 ビリー・ジョエルといえば、78年の暮れ、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでの公演が忘れ難い。その前年に発表した「ストレンジャー」から立て続けにヒットが生まれ、それまでホール・クラスの公演が続いたビリー・ジョエルが、初めてアリーナ・ツアーを実施、なんてことで話題を呼んでました。

 そういえば、ブルース・スプリングスティーンが、ライヴ・ハウス中心の公演からホール・ツアーを一気に飛び越え、アリーナ・ツアーを実施したのもその年のことで、たまたまシアトルでそのツアーを見たものです。

 後楽園ドームのビリー・ジョエルの公演を見ながら、マディソン・スクエア・ガーデンで見た時のことが甦りました。懐かしいヒットが立て続け。もちろん、一緒に歌いながら、なんか、どっか、違うんだよなあ、という違和感をぬぐえない。なんというか、ビリーはピアノを前にして熱演をくりひろげる。ところが、ビートのタイミングとか、リズム、グルーヴが昔とはなんだか違う。ドラム、ベースのリズムのアンサンブルが、昔と違うっていうのが、その理由じゃないかと思いました。あの頃、つまり、70年代から80年代にかけての頃とは、バンドのメンバーを一新。なんてのが、その大きな理由でしょう。リズムはタイトなんですが、寸詰りの感じ。おおらかさと言うか、強弱の変化、ダイナミズムがいまひとつ。なのに、なんだか馴染めない感じがしたものです。

 それには、前日、武道館でのザ・フーに打ちのめされた、ってこともあったからじゃないかと思います。今ではオリジナル・メンバーはロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼンドを残すのみ。懐かしいヒットが続々繰り広げられる。けど、現役バリバリのザ・フーでした。

 カンフーのヌンチャクさながらに、マイクをびゅんびゅん振り回し、ガシっと手にして歌うロジャー。あ、1回、振り回したマイク、うけとめるのをドジりましたが、それでも、さすがの手さばき。それより、声に衰えがなく、しっかり贅肉を落としていてパワフルでパンチがある。「マイ・ジェネレーション」でのどもるように口ごもりながらの歌いぶりに、鳥肌が立ちます。

 ピート・タウンゼンドも、スリムな体系は変わらず。しかも、びゅんびゅん腕を振り回して、絶妙のパワー・コード・ギター・プレイを披露。かっこいいいことこの上ない。懐かしい昔の歌を聞かせるだけじゃなくって、エコロジー、地球の温暖化問題などについて言及したメッセージ・ソングなどもあって、それが、バシっと耳に届く。贅肉をそぎ落とした現役バリバリの演奏は、ストーンズも目じゃないぐらい、パワフルなのに、圧倒されました。そう、アメリカのバンド、懐かしい名前にひかれて見にいったら、ふとっちょのオヤジで昔の面影なし、なんてことがあるのとは実に対照的。

 そういや、バックにはリンゴ・スターの息子、ザック・スターキーが参加。そのザックの演奏もなかなかのもの。シンプルな味のあるプレイを得意としたリンゴとは対照的にテクニカルな演奏に持ち味を発揮。う~ん、でも、まだ、隙間感というか、ビート、グルーヴの間合いには、課題ありかも、と思いながら、けど、キックの強烈さと、フィルのセンス、なかなかのもんでした。

 家に帰って、ザ・フーのアルバムをとっかえひっかえ聞きなおしたりして。ブログの更新、遅れたのは、ザ・フーのせい、でもないんですが、ザ・フーのコンサート、すざまじく強烈でした!

2008/11/15

「家郷小菜」~10月の「赤坂璃宮」銀座店の4

 そして「梅子蒸肉排/豚スペアリブの梅肉蒸し」。 これは広東地方の伝統的な郷土料理、お惣菜の一品。広東料理店では「小菜」のメニューに、食堂などでは定食の一品になったりしていますが、家庭でも頻繁に作られる料理です













 

 豚スペアリブの「排骨」の料理といえば飲茶の一品として登場する黒豆醗酵みその「豆豉」をもとにして作った調味料の「豉汁」で蒸した「豉汁蒸排骨」の方が、馴染み深くてご存知の方が多いかも。その調味、味付けを梅干に代えたもの。

 あるんです、広東地方には塩漬けにした梅干しが。 梅干しを味付けにしてあるだけに、酸味が利いていて、爽やかな味、風味。しかも、火を通してありますから、ほのかな甘味、それに、旨味がある。
「これ、さっぱりして旨かった。それより、ご飯がほしくなるおかずだね」と、この手の料理が出てくれば、必ず「ご飯」のことを口にだすカメラマンのi-podさん。

 広東地方ならではのこんなお惣菜がコースに組み込まれる、なんてのが嬉しい。 ちなみにネットで「赤坂璃宮」のグランド・メニューの「牛、豬、鴿」をチェックしてみたところ「排骨」の料理は「スペアリブの特製ソース揚げ」が紹介されているのみ。 ということは、わざわざ作ってもらった? 恐縮します!なんていいながら、喜んでます。

 もっとも、この「梅子蒸肉排/豚スペアリブの梅肉蒸し」、素材、調味料は常備されているようですから、おそらく頼めば用意してくれるはず。事前に予約、というのが理想的かもしれませんが、広東地方の伝統的な家庭料理に興味ある人にはお薦めしたい一品です。家庭でだって簡単に作れますから。そのレシピは、ネットで簡単に検索可です。

 それから「香港雲呑麺/香港式雲呑麺」。ここでようやく私は皆さんの食事に追いつきました。もちろん、そのサイズ、メンバーに応じて超大盛り、大盛り、普通盛りの3種が登場。















 左が超大盛り。右奥の小碗が普通盛り。香港の麺粥屋でのサイズです。そうだ、地元気分を味わうのなら、あの小碗にして、お代わりを注文、なんてのも良かったかも。

 「でも、なんで、これ香港式なの?」なんて聞かれて、じっくり観察。
 「あのね、まず、麺の細さね。これ、香港の「生麵」とほぼ同じ細さ、だからじゃない?細いだけじゃなくって、腰があって、噛み応えが違うんだけど。でも、東京にも、あ、店の名前を忘れちゃったけど、香港風の「生麵」に近い細くて腰のある麺、作ってる製麺所があって、目黒の「白金亭」や三田の「桃の木」が使ってるだけど、それに、似てるような、近いような。でも、なんか、舌触り、噛み応え、それに、粉の味が違うな」と私。
 
 そこで「雲呑」を食べて、納得。香港の麺粥屋での「鮮蝦雲呑」そのまま、蝦のすり身がたっぷり。「雲呑」を噛み締めるとプルンとした皮(これまた、香港風の感じなんですが)、その具は蝦のすり身のぷりぷり感、それに、ジューシーな味わい、風味。「これ、これ!この「雲呑」こそ、香港そのままの作り方。皮もそれっぽい!」

 そんなところに譚さんが登場。
 「ね、ね、譚さん。これ、なんで「香港式」なの?「雲呑」が、「鮮蝦雲呑」そのまま、蝦のすり身がたっぷりだからなの?それに、この皮、香港風だし」と尋ねました。
 「そうそう、蝦のすり身たっぷりの「鮮蝦雲呑」だから、なんだけど、皮は日本製。問題は麺なんだよ。それ、香港からの空輸品。冷凍したのが日本に来るんだけど。ほら、麺の細さ、腰、噛み応えに、粉の感じが違うでしょ?」ってことでした。

 「いつもあるの?」と私。
 「いや、ある時は、店で出してんだよ」
 「ってことは、今日はありつけた、ってことで、ラッキー!」
 思わず、盛り上がっちゃう私です。

 そうか、香港の麺でも、麺粥屋での「生麵」とは一味違ったりする料理店でだすような「生麵」だったわけですね。
 麺が旨い。それに、皮がつるんで具がぷりぷりの「雲呑」が旨い。それに、だしが旨い。しっかりすべて平らげちゃいました。画像は私の「大盛り!」。


 デザートは「黒芝麻湯丸/白玉入り黒胡麻のデザート」。香港の伝統的な「甜品」のひとつ。ほっと心が和み、胃が落ち着くデザートです。 10月の「赤坂璃宮」銀座店、広東地方の郷土料理、家庭的な惣菜の数々「家郷小菜」をしっかり味わったのでありました。

2008/11/12

「家郷小菜」~10月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 続いて「生抽焗中蝦 車海老の中国醤油風味煎り焼き」。















「中蝦」というからには中ぶりの「車海老」老で、「才巻き」よりも大きい。殻つきで背中に切り身が入ってます。 この料理については先に「広東地方の郷土料理シリーズ 遅ればせながらの2008年「夏の巻」の4」で触れてきた通り。そのうち、中国醤油の「生抽」で風味づけしたもの。海老の上には葱、生姜のみじん切りがたっぷり。なんせこの料理、手づかみでむしゃぶりつきたくなります。というのも、殻が旨いから、です。

 火を通した海老の殻の味、風味は格別で、おまけに醤油の味、香ばしい風味が入り混じって、いきなり海老を噛み締めるんじゃなく、チュバチュバと殻にしゃぶりつかないではいられない。殻はそのままかぶりついてもよし、殻をはずして身だけを味わうのもよし。

 「車海老」の場合、「才巻き」に比べて殻が厚くて、固い。殻つきのままなら、バリっと噛み砕く要領で。そして、海老の身は背中を割いてあることもあってか、ちょい火が通り気味で、少々身が固かった。そうだ、私、遅れて参加しましたから、出来立てじゃなかった、てのもその理由かも。

 でも、海老の身の旨さだけでなく、殻の美味、香ばしさが、たまらない!と、出来立てを食べたメンバーには好評の一品でした。

 それから、な、なんと「西洋菜陳腎湯/合鴨と鶏の砂肝とクレソンのスープ」が登場。 香港や広州の広東料理店や大衆食堂での日替わりのスープの「例湯」でおなじみのスープ。家庭でも頻繁に作られるスープです。














 私の好きなスープのひとつで、たまに、作ったりしますが、香港では値段が手頃、というよりも安価な「西洋菜/クレソン」が、日本ではばか高い。ひと束、2~3房だけでも結構な値段。このスープを作るにはクレソンがどっさり必要ですから、材料代がばかにならない。

 それに、調理は簡単。なんせ、素材を鍋に放り込んで、ひたすら煮込むだけ。もっとも、ゆうに2~3時間は煮込見続けるのが必須の条件、ですから、いささか手間隙がかかる。

 それよりも厄介な問題があります。というのは、本来は家鴨の砂肝を使いますが、日本ではその入手が難しい。それも、干したもの(だから陳賢なのですが)、新鮮なもの(ということで鮮賢といいます)が必要。そんなことから、香港で入手した家鴨の砂肝を使い、新鮮なそれは鶏の砂肝で代用。

 譚さんも、その点、このスープを作るのには苦労あり。聞けば、なんと合鴨の砂肝を入手。鶏の砂肝、ともども、店で乾燥させたもの、だそうです。そんな工夫と苦労の産物であるこの「西洋菜陳腎湯/合鴨と鶏の砂肝とクレソンのスープ」、砂肝を使っていても、クセなんてみじんもない。すっきりしていて、爽やかです。穏やかで優しい味、風味。ほっと心が和みます。















 そうだ、確認しそびれましたが、だしの基本は、豚の赤身肉の様子。鶏肉でとったダシとは違って、なんというか、押し付けがましさのない旨味がある。それに、少しばかり酸味が顔をひょいと覗かせる。クレソンの緑の味も、火を通してほろ苦さが抑えられてます。
 なんとも滋味豊なスープです。ほんとに幸せな気分になりました。
 で、最後の画像、手前が合鴨、奥が鶏の砂肝です。

2008/11/11

「家郷小菜」~10月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 そして牡蠣の葱、生姜炒めの「姜葱鮮生蠔」が登場。「蠔油」、つまりオイスターソースは広東料理の主要な調味料。それからも明らかなように広東地方の沿岸部では牡蠣を収穫。香港の新界の西北部にある流浮山も牡蠣の産地として知られ、オイスター・ソース、それに干し牡蠣が名物だったそう。干し牡蠣は「蠔豉」と称され、戻して煮込み料理などに使われます。特に旧正月、春節には縁起を担いだ一品である「發財好市」の主素材になります。つまり「好市」と「蠔豉」が同じ音、ってことにちなんだもの。

 ところで、香港の料理店で生牡蠣を使った料理といえば、九龍城市の創發で牡蠣のかき揚げの「蠔烙」を食べたことがあるぐらい。たとえば香港で、生牡蠣を扱う店がないわけではない。ネットで検索すれば明らかですが、日本料理の店や寿司屋で刺身の一種として扱われるか、ホテルなどのレストランでフレッシュ・オイスターとして供される、というのがほとんどの様子。しかも、大抵は日本、あるいはオーストラリアはじめ、外国からの輸入物。地場物の生牡蠣を扱う店はない様子。

 もっとも、料理本、ネットなどで検索してみれば明らかなように、牡蠣を素材にした料理として「姜葱鮮生蠔」が紹介されています。ということからすると、かつては地場物の生牡蠣があり、それを調理していたらしい。ところが、最近では、地場物の収穫は少なく、収穫しても加工用にされ、食用には海外からの輸入物が使われる、ということらしい。その辺りの事情、再調査の要あり。

 ともあれ、生牡蠣を使った料理は、創發の「蠔烙」以外に思い出すものがない。「姜葱鮮生蠔」も未体験。むしろ、日本の広東料理店で食べた覚えのほうが多いくらいです。

 さて、今回の「姜葱鮮生蠔」、牡蠣は生をそのまま炒めたものでなく、軽く衣で包まれています。それを「煎」、つまりは油で焼きつけ、それから、葱、生姜で炒めあわせた様子です。















 食べてみて「あ!これはいい!技あり!」なんて思ったその1は、牡蠣が軽く衣で包まれ、油焼き、というか、下揚げしてあったこと。生の牡蠣をそのまま油焼きにすれば身が縮み、外側が張り詰めたような感じになる。噛み締めれば皮が弾ける感じ。牡蠣を衣で包んで油焼きにすると、生のまま油焼きにしたのとは触感が違います。噛み締めると中の身は柔らかく、火が通っているものの、モア・ザン・レア、ビフォア・ミデアムの状態で、身は柔らかくてジューシー、牡蠣のエキス、海の味があふれ出し、零れ落ちる感じ。旨さは格別。なんといっても風味がある。

 「あ!これはいい!技あり!」と思ったその2は、油焼きした牡蠣を、そのまま葱、生姜と炒めるのではなく、少々のだしを張り、オイスターソースで調味してあったこと。油焼きした牡蠣にオイスターソースのコクのある味がからめてある。さらに、噛み締めれば、牡蠣の身の新鮮でフレッシュな味、風味が弾け出す。外側と身の味、風味は対照的。2種の味、風味を味わえる。

 ちなみに牡蠣は宮城の広田産のものだそうです。ぷっくり、ふっくら、肉厚で大ぶり。それでいて、味、風味のある日本の牡蠣だからこそ可能な料理でしょう。そんな素材の見極め、持ち味を生かした調理、味付けです。譚さんの技、工夫は見事でした。

2008/11/08

「家郷小菜」~10月の「赤坂璃宮」銀座店の1

 10月の半ば以来、今年、2年ぶりに芸術祭の審査を担当。とある雑誌の取材なども重なり、ブログの更新、ままなりませんでした。そんなことから「赤坂璃宮」銀座店の月例報告、またまた月を越えてからになってしまいました。

 それより、その日、といのは会議のある日、いつもとは違って変則的に日時が変更。なんてことをすっかり忘れてしまっていたもんで、連絡受けて慌てて出席。会議に遅刻しちゃいました。あ~あ、今月は最後の麺か飯を超大盛りで済ますしかないか、なんてユーウツな気分で駆けつけたところ、私の分を取っておいてくれたおかげで、コースの料理、全部、味わえました。というわけで、メインの料理の画像は、会議仲間のi-podさんが撮っておいてくれたもの。それも、私の愛用してるデジカメより、写りがよかったりして!

 さて、10月の「赤坂璃宮」銀座店の前菜、これまでは「焼味拼盤」ってことで各種の焼き物やたれ仕込みの冷製などの盛り合わせ。ところが、今月は2種に絞りこんで、それぞれしっかり、たっぷり味わえるという趣向。
 そのひとつが、メンバーの脆皮焼腩肉の何よりものお気に入り、好物で「これこれ、これ、ほんとに美味しいんだよね!」と、毎月、絶賛の皮付きバラ肉の焼き物の「脆皮焼腩肉」。 














 いつもなら1切れだけ。それも最後までとっておいて、愛おしく味わうのがi-podさんの常。それが、今回は一人分が4切れ。i-podさん、大いに喜んだのに違いありません。

 「赤坂璃宮」銀座店の「焼肉」は、ほんとに旨い。皮は ザラっとした感触があり、仔豚とは違って厚みがあり、噛み締めればせんべいやおかきのような「ぱり」とひび割れる「脆」の感触、そうです、脆さが堪らない。その皮の裏についた、焼かれて白くなった脂肪は皮とは対照的にとろっとした滑らかな感触。しかも、甘くて旨い。それに肉、柔らかくてじゅわとジューシーな味わいが滲み出る。そんな脂と肉が重なりあって五層になってます。

 それに続いて前菜としてもう一品「璃宮鹽水鶏/塩味スープ漬けの伊達鶏の冷菜」が登場。「鹽水鶏」と知っただけで私は思わず興奮。












 この料理、丸ごと一羽の鶏に塩をまぶして、しばらく寝かせ、蒸す方法と、塩水、といっても、厳密は塩だけじゃなくて香草や香辛料で作ったたれ汁の「滷水」を沸騰させたところに丸ごと一羽の鶏を入れ、火を止めてじんわり火を通していく、という料理方法があるはず。「白切鶏」と同じ要領。ですが、煮込み汁の内容、香味野菜、香辛料の加減が違ったりします。

 今回の「鹽水鶏」、日本語の表記にもあるように後者の料理方法で作られて様子。皮は滑らかでつるん、ぷりん状態。で、肉はしっとりとした肉質、噛み応えで、塩味が利いたしっかりした味わい。しかも、その「塩梅」、すなわち塩加減が鶏の持ち味を引き立てていて、味わい深い。

 「いつもの前菜の鶏よりシンプルな感じの作り方みたいなのに、しっかり塩味が利いてて美味しい!」なんて、声も聞かれました。

2008/11/05

北京秋天

 初めて北京を訪れたのは92年の9月。サザンオールスターズの北京公演の取材に出かけた時のことでした。同公演には日本からメディア関係の取材陣、サザンオールスターズのファンクラブの応援団による公演を見るツアーなども実施され、会場の北京体育館には日本人が沢山詰め掛けていました。加えて、地元、北京駐在の在留邦人、北京の大学や各種学校で学ぶ日本人留学生などもいたようです。

 そればかりか中国東北部のハルピン、長春、瀋陽、大連などから18時間以上かけてサザンを見るために北京にやってきた日本人学生のグループにも出会いました。他にも上海、南京あたりからやってきたという人もいたようです。もっとも、観客の大半を占めていたのは地元、北京の若者達でした。

 そういえば、サザンが北京を訪れていた時期、爆風スランプが劉徳華はじめ香港の人気歌手なども多数参加した北京のラジオ局の主催の記念イベントに参加。そこで、やっかいな問題が持ち上がった、なんてこともありました。

 初めての北京の滞在はわずか3日ばかりでしたが、時間を見つけては勝手気ままに街を探索。天高く澄み切った清々しい青空や秋の風情、まさに「北京秋天」の光景を目の当たりにしたのが印象的でした。そして、サザン、爆風の北京でのコンサートを取材したその足で北京からタイのバンコクに向かい、同地で行われた爆風のコンサートを取材。それから東京に戻って間もなく、再び北京へということになりました。

 当時、活発な動きを見せ始めた北京の「揺滾音楽」、つまりはロック・ミュージックを積極的に紹介していた台湾の滾石唱片のスタッフからの誘いで取材に訪れることになったからで、北京だけでなく北京近郊の北戴河に出かけました。

 以来、何度か北京を訪れました。猛暑の夏は未体験ですが、春、秋、冬の北京を体験。柳の綿が舞う春、足元から寒さが凍みる極寒の冬もさることながら、中でも印象深いのは秋の北京。
 とはいうものの、今年の夏の北京オリンピック前後での報道などからも明らかなように、今や北京はスモッグが深く立ち込め、澄み渡った秋の青空は懐かしい昔話、なんだそうで。というのも、北京には随分とご無沙汰、ですから。

 それでも、北京に行ってみたい。旨いものに巡りあいたい。講談社北京文化有限公司編の「決定版 北京グルメガイド」(講談社)を見るたびに思いが募ります。

 本著の発刊は今年の5月。この夏、オリンピックを見に北京を訪れた人を目当てに出版されたもの。もっと早くに、言うまでもなくオリンピック前に、紹介すべきところ、ついつい機会を逃してしまっていたものです。

 もっとも、紹介は、今になっても遅くないはず。これから北京に出かけようという方には絶対にお薦めしたい食のガイド・ブックです。そればかりか北京の料理事情や中国料理事情に関心のある人にも絶対にお薦めしたい著作です。

 北京の食案内、食のガイドといえば、観光ガイド本で紹介されているのがせいぜい。そういえば地元に住む日本人よる食案内などもありますが、なんだか今ひとつ。むしろネットのサイトに面白いのを見つけることが多いです。

 といっても、日本の航空会社の食ガイドには要注意、なようです。味は2の次、雰囲気重視の外国人観光客向けの店が多く、値段も高い。ウチのカミサン、北京語の勉強仲間とたまたまその種の店に出かけ、店の雰囲気はともかく、料理のひどさ、まずさにゲンナリ。

 ま、食の好みは人様々。それも、観光ガイドの食案内は一般的なのが中心で、食べるのが好きな人むけ、と紹介されていても限界あり、というのは、私も散々経験済みです。それからすると、「決定版 北京グルメガイド」は、かなりディープ。ごく一般的な観光ガイドの食案内で紹介されている店なども含まれていますが、店、料理の選択、その視線、アプローチ、紹介の仕方に、そそられるものがある。

 たとえば北京に行ったらやはり食べたい北京ダック。店の選択、紹介、アプローチが、面白い。さらに「安くて旨いB級グルメ」など、全店、よだれもの。さらに、各地方料理の案内、料理紹介も充実。

 それに、北京に行けば必ず訪れる羊肉のしゃぶしゃぶ、羊肉料理を看板にした店が紹介されていること。清眞菜の店の紹介が少ないのがちょっと残念ですが、新疆ウイグル地区の店に関してはいろいろあり。

 その一方で、かつて私が頻繁に北京に出向いた頃にはまったくみかけなかった「創作中華」の店が格段に増えてる、なんてのも興味深い。もしかして、ウチのかみさんがでかけ、見かけばっかりで中味は伴わず、というのもあるのかな。

 が、それにしても、その目線、観察眼、選択のセンスが、なかなかに鋭い。というのも、これまで、北京を訪れた際、現地で合弁会社を営む台湾、香港の知人、友人と一緒。そして案内、紹介された店の多くは、日本のガイドブックでは未紹介のディープな店ばかり。類は類を呼ぶってやつです。その時のノリ!を思い出すような店が、ページをめくる度に登場します。ですから、興味がつきません。

 北京に・・・行きたい。そんな思いにさせる罪なガイド・ブックです。

2008/11/02

広東地方の郷土料理シリーズ、遅ればせながらの2008年「夏の巻」の9

 あれあれ、いけない。11月に入っちゃいました。なのにまだ「広東地方の郷土料理シリーズ、遅ればせながらの2008年「夏の巻」なんて、情けない。

 さて「欖角炆排骨」に「正宗鹽焗鶏」と、食べ応えのある肉料理、鶏料理が続いたこともあって、「今日は、なんだか、こないだよりも量がたっぷり。沢山食べてるみたいだけど!」と、斉藤さん。
 「そうだと思って「鹽焗鶏」、一人分の盛り付け、一口分くらいにしてもらったんですよ」と、青木さん。

 「実は、コースの品数、料理の数、基本的には前回と同じく前菜、麺・飯を入れて10品なんですが、ほら、最初の「冬瓜盅生翅」、冬瓜だけでなくスープもたっぷりありましたから。それにすっぽん料理の「紅炆水魚」も、今日は7人ってことだったのと、すっぽんのサイズが大きいものしかなかったようで、量もたっぷりでしたから。
 
 それに、贅沢な宴会料理だけじゃなくって、郷土料理、お惣菜的な料理も、たっぷりなんて思ったもんですから!」。そうですね、コースの組み立て時における料理内容もさることながら、一皿ごとの分量についても慎重にと、課題、反省点にもなりました。

 そこで登場したのが野菜料理2品。最初は「魚香茄子煲」。













 茄子の収穫は得意先の料理店への供給分だけは確保できたという埼玉、東松山の加藤紀行さん。それも、茄子3種、加茂茄子、青茄子、真黒茄子の内、真黒茄子の出来栄え、その甘い味わいは、今年の加茂茄子、それに頑丈な青茄子を凌いでいた。なんてことから、加藤さんに手配を依頼。

 料理は「魚香茄子煲」。「魚香」といえば日本では四川料理でのそれが一般的。日本では豆板醤、本場四川では唐辛子の塩漬けの「泡辣椒」で味付けした辛味の利いた料理です。それが、広東料理、香港で「魚香」といえば塩漬け醗酵の「咸魚」の味付けで、というのが一般的。

 しかも、以前、触れてきたように「茄子」は「寡」、すわわち、それだけでは味気がなくて、物足りない、なんてことから鶏肉を細かな賽の目切りにした「鶏粒」が使われ、茄子と炒め合わせて、二番だしで煮込んだもの。と言うわけで厳密な料理名は「魚香茄子鶏粒煲」。

 「これ、この茄子、甘くて、旨い!」と、斉藤さん。肉料理、鶏料理と続いてお腹が一杯。ギヴ・アップ寸前だったはずの斉藤さん、茄子をパクパク。

 ほんとに、茄子が旨い。というより、火を通した茄子が甘い。しかも風味が強くてクセのある塩漬け醗酵の「咸魚」の味、風味、さらには鶏肉にも負けずに、その存在を主張。素材の個性、持ち味、茄子そのものの味わい、風味が堪能できた一品でした。

 もう一品の野菜料理は「節瓜」素材に、干し貝柱の「瑶柱」をたっぷり使い、とろみあんで味付け、調理した「瑶柱扒父節瓜甫」。














 本来は、加藤さんの「はぐら瓜」を使う予定が発育不全で充分な数を調達できず。そんなことから「節瓜」にとって代わったという次第。ところが、食べてみると「節瓜」のはずが、火を通したその触感、舌触りの滑らかさ、しっとり、しんなりで、だしを含んだ味わいから浮かび上がるのは「はぐら瓜」の持ち味、風味。もしかして「はぐら瓜」だったのかも。確かめるのを忘れました。

 そして「斉藤さんや、景山さん、海津さんに、新参加の下河辺さんに「絶対その美味を味わってもらいたいから!」と、青木さんのリクエストで炒飯は戻した干したこ、鶏肉入りの鮑汁のリゾット風の炒飯の「鮑汁鱆魚鶏粒炒飯」で締めくくり。
















 「これ、すごいですね。旨味がたっぷり。味もいいですが、香りがいい」と景山さん。
 海津さん、下河辺さんも「こんな炒飯もあるんだね」と、同様に感心した様子。
 斉藤さんと言えば、黙々とひたすらもぐもぐ。
 私も、久々に「鮑汁鱆魚鶏粒炒飯」を味わって、大いに満足。

 そして「広東地方の郷土料理シリーズ、遅ればせながらの2008年「夏の巻」はその幕を閉じたのでありました。