2008/11/05

北京秋天

 初めて北京を訪れたのは92年の9月。サザンオールスターズの北京公演の取材に出かけた時のことでした。同公演には日本からメディア関係の取材陣、サザンオールスターズのファンクラブの応援団による公演を見るツアーなども実施され、会場の北京体育館には日本人が沢山詰め掛けていました。加えて、地元、北京駐在の在留邦人、北京の大学や各種学校で学ぶ日本人留学生などもいたようです。

 そればかりか中国東北部のハルピン、長春、瀋陽、大連などから18時間以上かけてサザンを見るために北京にやってきた日本人学生のグループにも出会いました。他にも上海、南京あたりからやってきたという人もいたようです。もっとも、観客の大半を占めていたのは地元、北京の若者達でした。

 そういえば、サザンが北京を訪れていた時期、爆風スランプが劉徳華はじめ香港の人気歌手なども多数参加した北京のラジオ局の主催の記念イベントに参加。そこで、やっかいな問題が持ち上がった、なんてこともありました。

 初めての北京の滞在はわずか3日ばかりでしたが、時間を見つけては勝手気ままに街を探索。天高く澄み切った清々しい青空や秋の風情、まさに「北京秋天」の光景を目の当たりにしたのが印象的でした。そして、サザン、爆風の北京でのコンサートを取材したその足で北京からタイのバンコクに向かい、同地で行われた爆風のコンサートを取材。それから東京に戻って間もなく、再び北京へということになりました。

 当時、活発な動きを見せ始めた北京の「揺滾音楽」、つまりはロック・ミュージックを積極的に紹介していた台湾の滾石唱片のスタッフからの誘いで取材に訪れることになったからで、北京だけでなく北京近郊の北戴河に出かけました。

 以来、何度か北京を訪れました。猛暑の夏は未体験ですが、春、秋、冬の北京を体験。柳の綿が舞う春、足元から寒さが凍みる極寒の冬もさることながら、中でも印象深いのは秋の北京。
 とはいうものの、今年の夏の北京オリンピック前後での報道などからも明らかなように、今や北京はスモッグが深く立ち込め、澄み渡った秋の青空は懐かしい昔話、なんだそうで。というのも、北京には随分とご無沙汰、ですから。

 それでも、北京に行ってみたい。旨いものに巡りあいたい。講談社北京文化有限公司編の「決定版 北京グルメガイド」(講談社)を見るたびに思いが募ります。

 本著の発刊は今年の5月。この夏、オリンピックを見に北京を訪れた人を目当てに出版されたもの。もっと早くに、言うまでもなくオリンピック前に、紹介すべきところ、ついつい機会を逃してしまっていたものです。

 もっとも、紹介は、今になっても遅くないはず。これから北京に出かけようという方には絶対にお薦めしたい食のガイド・ブックです。そればかりか北京の料理事情や中国料理事情に関心のある人にも絶対にお薦めしたい著作です。

 北京の食案内、食のガイドといえば、観光ガイド本で紹介されているのがせいぜい。そういえば地元に住む日本人よる食案内などもありますが、なんだか今ひとつ。むしろネットのサイトに面白いのを見つけることが多いです。

 といっても、日本の航空会社の食ガイドには要注意、なようです。味は2の次、雰囲気重視の外国人観光客向けの店が多く、値段も高い。ウチのカミサン、北京語の勉強仲間とたまたまその種の店に出かけ、店の雰囲気はともかく、料理のひどさ、まずさにゲンナリ。

 ま、食の好みは人様々。それも、観光ガイドの食案内は一般的なのが中心で、食べるのが好きな人むけ、と紹介されていても限界あり、というのは、私も散々経験済みです。それからすると、「決定版 北京グルメガイド」は、かなりディープ。ごく一般的な観光ガイドの食案内で紹介されている店なども含まれていますが、店、料理の選択、その視線、アプローチ、紹介の仕方に、そそられるものがある。

 たとえば北京に行ったらやはり食べたい北京ダック。店の選択、紹介、アプローチが、面白い。さらに「安くて旨いB級グルメ」など、全店、よだれもの。さらに、各地方料理の案内、料理紹介も充実。

 それに、北京に行けば必ず訪れる羊肉のしゃぶしゃぶ、羊肉料理を看板にした店が紹介されていること。清眞菜の店の紹介が少ないのがちょっと残念ですが、新疆ウイグル地区の店に関してはいろいろあり。

 その一方で、かつて私が頻繁に北京に出向いた頃にはまったくみかけなかった「創作中華」の店が格段に増えてる、なんてのも興味深い。もしかして、ウチのかみさんがでかけ、見かけばっかりで中味は伴わず、というのもあるのかな。

 が、それにしても、その目線、観察眼、選択のセンスが、なかなかに鋭い。というのも、これまで、北京を訪れた際、現地で合弁会社を営む台湾、香港の知人、友人と一緒。そして案内、紹介された店の多くは、日本のガイドブックでは未紹介のディープな店ばかり。類は類を呼ぶってやつです。その時のノリ!を思い出すような店が、ページをめくる度に登場します。ですから、興味がつきません。

 北京に・・・行きたい。そんな思いにさせる罪なガイド・ブックです。