そして牡蠣の葱、生姜炒めの「姜葱鮮生蠔」が登場。「蠔油」、つまりオイスターソースは広東料理の主要な調味料。それからも明らかなように広東地方の沿岸部では牡蠣を収穫。香港の新界の西北部にある流浮山も牡蠣の産地として知られ、オイスター・ソース、それに干し牡蠣が名物だったそう。干し牡蠣は「蠔豉」と称され、戻して煮込み料理などに使われます。特に旧正月、春節には縁起を担いだ一品である「發財好市」の主素材になります。つまり「好市」と「蠔豉」が同じ音、ってことにちなんだもの。
ところで、香港の料理店で生牡蠣を使った料理といえば、九龍城市の創發で牡蠣のかき揚げの「蠔烙」を食べたことがあるぐらい。たとえば香港で、生牡蠣を扱う店がないわけではない。ネットで検索すれば明らかですが、日本料理の店や寿司屋で刺身の一種として扱われるか、ホテルなどのレストランでフレッシュ・オイスターとして供される、というのがほとんどの様子。しかも、大抵は日本、あるいはオーストラリアはじめ、外国からの輸入物。地場物の生牡蠣を扱う店はない様子。
もっとも、料理本、ネットなどで検索してみれば明らかなように、牡蠣を素材にした料理として「姜葱鮮生蠔」が紹介されています。ということからすると、かつては地場物の生牡蠣があり、それを調理していたらしい。ところが、最近では、地場物の収穫は少なく、収穫しても加工用にされ、食用には海外からの輸入物が使われる、ということらしい。その辺りの事情、再調査の要あり。
ともあれ、生牡蠣を使った料理は、創發の「蠔烙」以外に思い出すものがない。「姜葱鮮生蠔」も未体験。むしろ、日本の広東料理店で食べた覚えのほうが多いくらいです。
さて、今回の「姜葱鮮生蠔」、牡蠣は生をそのまま炒めたものでなく、軽く衣で包まれています。それを「煎」、つまりは油で焼きつけ、それから、葱、生姜で炒めあわせた様子です。
食べてみて「あ!これはいい!技あり!」なんて思ったその1は、牡蠣が軽く衣で包まれ、油焼き、というか、下揚げしてあったこと。生の牡蠣をそのまま油焼きにすれば身が縮み、外側が張り詰めたような感じになる。噛み締めれば皮が弾ける感じ。牡蠣を衣で包んで油焼きにすると、生のまま油焼きにしたのとは触感が違います。噛み締めると中の身は柔らかく、火が通っているものの、モア・ザン・レア、ビフォア・ミデアムの状態で、身は柔らかくてジューシー、牡蠣のエキス、海の味があふれ出し、零れ落ちる感じ。旨さは格別。なんといっても風味がある。
「あ!これはいい!技あり!」と思ったその2は、油焼きした牡蠣を、そのまま葱、生姜と炒めるのではなく、少々のだしを張り、オイスターソースで調味してあったこと。油焼きした牡蠣にオイスターソースのコクのある味がからめてある。さらに、噛み締めれば、牡蠣の身の新鮮でフレッシュな味、風味が弾け出す。外側と身の味、風味は対照的。2種の味、風味を味わえる。
ちなみに牡蠣は宮城の広田産のものだそうです。ぷっくり、ふっくら、肉厚で大ぶり。それでいて、味、風味のある日本の牡蠣だからこそ可能な料理でしょう。そんな素材の見極め、持ち味を生かした調理、味付けです。譚さんの技、工夫は見事でした。