2011/11/04

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの4

そして「三色蒸水蛋/皮蛋・鹹蛋入りの中国茶碗蒸し」。これ、私の好物です。香港では一般的な料理、家庭でも作られることが多いお惣菜のひとつ。香港の広東料理店では卓上にある家郷菜のメニューに載ってますし、載って無くても頼めば作って貰えます。
実は先にもふれたスペース・シャワーでの岡村靖幸君の番組の際、川崎料理長に候補としてリクエストした一品。結局のところ、蒸し物の料理は伊達鶏と金針菜、干し椎茸などの蒸し物になり、香港の味そのままでしたが、もしかしてその時、メニューの候補に挙げた「三色蒸水蛋」、もしくは浅蜊の茶碗蒸し仕立ての「蛤蜊蒸蛋」のことを覚えていてくれたのかも。

この料理、皮蛋、家鴨の塩漬け卵と鶏卵が素材です。同じ素材を使った「三色蒸蛋」という料理もあって、それは中国本土各地で一般的。家庭でも作られます。それとこの「三色蒸水蛋」は、いささか異なる。
料理名に「水」があるかどうかが、料理の仕上がりに関係してきます。 そう、「水」なしの場合、3種の卵が素材。「皮蛋」は皮を剥いて、ぶつ切り。塩漬け卵の「鹹蛋」は、茹でるか、蒸すかしたものをぶつ切りにするか、それとも黄味と白身を分けて作ることもある。

「三色蒸蛋」の場合、鶏卵は皮蛋、鹹蛋よりも分量を多くし、皮蛋、鹹蛋を加えてかき混ぜ、調味料で味を加減して蒸す。その出来上がりは鶏卵がしっかり固まり、皮蛋、鹹蛋を包み込むような感じで湯煎蒸しの寄せ物、テリーヌ、パテ状で、厚めにスライスして皿に並べます。
一方、今回の「三色蒸水蛋」、「水」という表記が加わることからも明らかなように汁気あり。作る際、まんま「水」を加える場合もあるようですがで、それだけでは味が物足りないってことからあの粉末、もしくは顆粒の「魔法の粉」をプラスアルファ、なんてこともあり。

基本はだしを加えます。その点は日本の茶碗蒸しと同じです。つるん、とろんの滑らかな舌触り。日本の茶碗蒸しだとか穴子や海老の魚介、それに蒲鉾、椎茸に銀杏など具がたっぷりで実沢山。それも歯応えのある具材が使われているのが一般的。
それに比べて「三色蒸水蛋」は日本の茶碗蒸しよりもだしが多めの加減。ですから、出来上がりはゆるゆるの感じ。具材も皮蛋と茹でた鹹蛋ですから、表面は弾力があっても噛めばすっと歯が入る柔らかさ。柔らかめの茹で卵、温泉卵を思い浮かべてください。

その味、家鴨の塩漬け卵が素材なのも関係してか、塩味が利いてます。だし、一番だしの上湯らしくて、中国ハムの火腿の味、風味もプラス・アルファもあいまって、しっかりした濃い目の味付け。
それより、大皿に人数分のを取り分けるんじゃなくて、一人一皿。その盛り付けが美しい。新派風の洗練された趣きもあるもので、川崎さんの美学がしっかり汲み取れる。

「これ、塩味しっかり利いてますね。ご飯のおかずにぴったり。ご飯に乗っけて食べたいぐらい」
「ビールというよりもご飯だね」
「そそ、ご飯のおかずにうってつけでしょ。私の好みの一品です!」

この「三色蒸水蛋」。家庭でも作られるお惣菜の一品ですけど、日本の茶碗蒸しがそうであるように蒸し加減、というのが難しい。そう、火加減間違うと「す」が入っちゃいますから。日本の茶碗蒸し、舌触りこそつるんとろんと滑らかですが、固めのゲル状の仕上がりが多くって、ぼってりぐらぐらどてどてなのが多いですよね。それからすると「三色蒸水蛋」はゆるゆるで汁気もたっぷり。

この料理、日本ではなかなかお目にかかれない。良質のピータンはともかく、家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」の入手が困難。それにだしの質が問われます。簡単な料理ですけど、蒸し加減など意外に手間隙かかったりして。

もしかして横浜の中華街あたりでやってくれる店があるのかもしれませんが、私は未体験。「赤坂璃宮」銀座店以外では……マンダリンの「センス」の高瀬さんや「桃の木」の小林武志君、「エッセンス」の薮崎君なんかに頼めば作ってくれそう!高瀬さん、小林君、薮崎君、よろしくう!

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの3

それから「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」。
この料理、「芥菜/カラシ菜」も「腊肉/塩漬けにして燻した豚のばら肉」の、いずれとも主役。野菜料理でもあり肉料理でもあります。なんて言うより、惣菜の一品。なんてところが嬉しい!
「芥菜」、日本で一般的なのは葉は広くて軸や根元の茎は細めのもの。油炒めなんかでも調理されますが、むしろ漬物や常備菜の素材としておなじみ。
ちなみにタカ菜はその親戚です。
今回の「芥菜」、画像でも明らかなように「包芯芥菜」。もとは中国の野菜で、色は浅緑。葉はぴりっと辛くてほろ苦いのと、根本の茎の部分が幅広なのが特徴。根本の茎の部分が幅広でセロリ状になった部分は「芥胆」ってことで葉の部分を切り落としてその部分だけを料理の素材にしたりします。春先から夏前にかけてがその旬だったはず。もうひとつの旬がこれから、のはずです。

そして「腊肉」。塩漬けの豚肉を燻したもので、赤坂璃宮は自家製だそうです。早い話がベーコンなんですが、日本で一般に知られ、売られているベーコンとは味の濃さや風味は異なります。
というのも日本で一般に知られ、売られているベーコンは工場生産により味なども日本人の嗜好にあわせて変えられ、多くは添加物、化学調味料を加味し、実際に燻すのではなく、燻液につけるだけなんてことで製品化されたもの。

ベーコンを自分で作ってみればその違いが明確にわかります。塩漬け加減も、燻し加減も、好みのままに作れますし、市販のベーコンとは全く異なる味、風味になるのは確かです。
実は「腊肉」こそベーコン本来の姿、とされるのにも大いに納得。しっかりした塩味、その味の濃さ。燻されて独特の風味のついた脂の甘さと旨味。
なんて言っても、香港、中国本土で市販化されてる「腊肉」は、焼き物専門店の自家製とは違って工場生産のそれですから、要注意。ですが、欧米などのベーコンに比べて味、風味が異なります。素材の質、それに燻す際や燻液が異なるからでしょうか。

「腊肉」は焼き物専門店や(製品化されたそれが)スーパーで売られていますが、秋も深まる頃に新しいものが出回りはじめます。冬の季節を迎える前に、豚を潰して備蓄する習慣があるからです。豚肉に限らず家鴨なども潰して塩漬けにしてそのままを干し、内蔵類は腸詰にします。

中国系の腸詰、といえば日本では豚肉の腸詰の「臘腸」が、特に台湾料理の店の定番的なメニューになっています。が、実は腸詰の種類は豊富。家鴨の血も含めた内蔵を材料にした「潤腸」がそれで、これまたその種類は豊富。鵞鳥のローストで有名な中環の「鏞記」では、もちろん鵞鳥を素材にしたそれを売ってます。

話戻して、この「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、早い話がほうれん草とベーコンの炒め物を思い浮かべてもらえばいいっか。でも、ないなあ!
なんて思うのは、まず「芥菜」、ひりっとした辛味がそこはかとなくあって、ほろ苦い。

それに「腊肉」、日本の市販のベーコンなんかに比べてしっかり火を通してある関係か身は締まっていて固い。塩味もしっかりで味が濃い。おまけに脂身の部分、触感こりこり。ぷりぷり感もあるとこなんか、かつての昔の鯨のベーコンを思い出す。ほら、最近の鯨のベーコンに妙に柔らかい感じで。なんでもかんでも柔らかいのが良いとは限らないのに……

おまけに脂身、甘味、旨味だけじゃなくって、独特のくせと風味がある。実はこの「芥菜炒腊肉/カラシ菜と干し肉の炒め」、家庭でも作られるごく一般的な惣菜でもあります。

「この塩味の感じからすると、ビールって感じだね」
「一緒に青菜も食べられる」「おかずにもいいんじゃないですか?ご飯が進みそうな肉野菜炒め!」
「でも、豚の生肉じゃ、この味、旨味、風味、でないじゃない?塩漬け豚を作って常備してたりするんだけど、日増しに旨味を増していく。醗酵系の旨味ね。それもあるんじゃないの」
ひり辛の「芥菜」と冬間近ってことを教えてくれる「腊肉」が秋を物語る一品でした。

2011/10/26

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れの2

今月の「湯」は「菊花鱸魚羹/スズキと五目のスープ、菊花の香り」。
「海鮮羹」の一種です。
「海鮮羹」だと魚介類色々取り混ぜですが、この「菊花鱸魚羹/スズキと五目のスープ、菊花の香り」、料理名からも明らかなように鱸が主役。
「鱸」。中国料理でも頻繁に使われます。というのも、本来は海水魚ですが沿岸地域を中心に生息し、時には川を遡上。ですから、中国の場合は川を遡上してきたものを料理することが多いわけです。
日本でも川を遡上する鱸があるそうですが、一般にお目にかかることが多いのは沿岸地域での収穫物。出世魚として知られていて1~2年ものは「セイゴ」、3~4年ものは「フッコ」と称され、江戸前の寿司のネタで知られてます。

ウィキなんかによれば「身の質は鯛に似て、柔らかくてクセもなくあっさりしている」なんてありますけど、なじみの寿司屋で食べるフッコは別にして、これまでフランス料理店などで食べたものや魚屋で買い求めた鱸、なんだか泥臭いという印象ばかり。

それに、身の質、肉質ってことでしょうが、鯛に似てるなんてことですが、刺身だと鯛の、コリっとした触感よりもしっとり潤んだ感じだし、火を通せばしゅわっとした感触。グジとかアイナメに似てるんじゃないでしょうか

そんなアイナメなどにも似た肉質、触感、味わいが、実は中国料理にはうってつけ。そういえば袁さんの魚のつみれも鱸が主役でした。そう、中国のように料理にうってつけな淡水魚の入手な困難な日本では、その役割を果たしてくれるってわけです。

川崎さんの狙い目もそんなところにあったはず。とろみを利かせたスープにたっぷり入った鱸の触感は、滑らかで細やか。舌にとろけていく感じです。そして、五目の具材は赤いパプリカ、緑のピーマンにいんげん、椎茸などなど。

とろみの加減、袁さんに比べればちょっと濃い目ですが、ダシの旨さが光ってます。このダシ、旨いなあ!なんて正直思いましたもの。それに「塩梅」、塩加減もとろみと見事に調和。上品で洗練された「羹」です。

それ以上に憎いなあ!なんて思ったのは、菊の花びら。
見た目に秋。香りも秋。これぞ秋の訪れ。
名残りの鱸と秋の訪れを告げる菊花の組み合わせは実にお洒落。

2011/10/25

'11年10月の「赤坂璃宮」銀座店~秋の訪れ

ちょー久々のブログアップ。やっぱりまずは「赤坂璃宮」銀座店の月例報告から。
実はブログアップをサボっていた間に「赤坂璃宮」銀座店の料理長が交代。
袁國星料理長は5月に香港に帰国。代わって料理長に就任したのは川崎次郎さん。

横浜の聘珍樓の出身で仙台のホテルで料理長を務めたあと「赤坂璃宮」銀座店に、って伺いました。 聘珍樓、と言えばかつて周富徳さんが総料理長だったところ。その後、謝華顕さんが総料理長となってから本格的な広東地方の郷土料理を紹介し、料理傾向も変わりました。そんなことから川崎料理長、聘珍樓でも謝さん風の広東料理かと思いきや、チョットばかり違いました。

聘珍樓の謝さんのような香港の街場の料理店の広東料理とは違います。
80年代半ば以後、香港の高級ホテルの中国料理店で隆盛を極めた伝統料理を下敷きにした新派(ネオ・クラシック)。その影響を受けた日本の高級ホテルの料理店の広東料理、なんて話がややこしいか。

上品で洗練されたスタイルです。一皿の料理の色合い、見た目の美しさ、素材の組み合わせ、切り分け、素材の分量、その盛り付けがそれを物語る。加えてその味、日本人の嗜好を考慮し、旨味をプラスアルファ、なんてところもそう。

そんな新派的な趣はマンダリン・オリエンタルのセンスの高瀬さんの料理に通じるところがありますが、高瀬さんよりも広東地方の郷土料理、それも街場の料理店のそれを意識している人物だ、なんてこともわかりました。

実はこの夏、スペース・シャワーで放映された岡村靖幸君の特別番組「岡村靖幸のおしゃべりエチケット」でのインタビューの際、対談の場所のひとつになったのが「赤坂璃宮」銀座店。
岡村君が自ら選んだ最新作「エチケット」から選んだベスト5曲に応じて料理5品を選んだ際、色々と相談に乗ってくれたのが川崎料理長。「実は広東地方の郷土料理、好きなんです」なんてことから、番組ではそんな料理もさりげなくチョイス、なんてことがありました。

さて、今月の前菜。これがなかなかのもんでした。まずは画像を!

画像中央の下、ぷっくりふっくらの腿を晒し、その存在を主張するのは鳩、それも仔鳩。仔鳩のローストの「脆皮焼乳鴿」です。まさか脆皮焼乳鴿に出会えるとは!それだけで一気に盛り上がりました。
実はこれまでにも「赤坂璃宮」で「脆皮焼乳鴿」、何度か食べたことがあります。「脆皮焼乳鴿」と言えば、香港では沙田のそれが有名。「赤坂璃宮」の赤坂の本店で焼き物担当の料理長の梁さんはそんな沙田スタイルの「脆皮焼乳鴿」がお得意。

そして「赤坂璃宮」銀座店で焼き物担当の平林君も梁さんの薫陶を受けたひとりです。そう、平林君と言えば「チューボーですよ!」で「未来の巨匠」として紹介された若き料理人。随分前から「赤坂璃宮」銀座店の焼き物を担当し、このところ、その手腕、めきめき。毎月の前菜からわかります。

焼鴨にしろ焼肉にしろ叉焼にしろ、それぞれの下拵え、焼き方、その切り分け、厚みに神経を配った跡がしっかり窺えます。いや、あの、実は私、率直にアテンドの山下さんに、切り方、厚みがどうのこうの、塩味のキメとか下拵えがどうのこうのって伝えていたりする口煩いオヤジなんですすが、まさに打てば響くの例え通り、平林君、必ずしっかりとそれに応えてくれます。

しかも、毎月、私なんかが口にする前に「これ、この厚み、この方が旨いよね」とか「塩味しっかり利いてる」「外はカリっとしてるのに、肉がジューシーなのいいですね。すごく焼き加減よくなった!」なんて会話が飛び出しますから。
今回の「脆皮焼乳鴿」、皮はパリパリ、噛み締めると脆く崩れます。なんてとこ、下拵えの際、もしかして麦芽糖なんか塗りこんだのかなあ。甘味、旨味のためだけじゃなく、窯で焼いた時、照りを生み出すには不可欠なもんです。
噛み締めると、肉汁がほとばしる。濃厚な旨味が口中に広がり、やがて喉元から鼻に独特の香りが立ち昇ります。
「鳩って食べるの初めてなんですけど、旨い!この味、レバーみたいですね」と先月以来参加の新人K君。
「だって、鳩の肉って血の味、鉄分が多いし、レバーと似たようなもん」と知ったかぶりの私。

ところで、この鳩、茨城で養殖した鳩だそうで。フランス料理店なんかに卸してる鳩なんでしょう。
で、ミマスの鳩?なんて思って山下さんを通じで確認してもらったら「ジャフレーだそうです」と山下さん。
あ、それ知らない。知らなかったんで検索したんですが、茨城で鳩が養殖され、フランス料理店や中国料理店に流通してるのはわかりましたが、その品種の実態は不明のままです。

今回の仔鳩、香港で食べることが多い石岐産の「乳鴿」よりも味が濃い。血の味、鉄分と脂肪が漲ってる感じです。一体、何週間飼育もの、なんでしょうか。その下拵え、塩味しっかり。それが実に効果的。
「お塩を用意しましたので、これをつけて召し上がっても」と山下さん。
以前、触れたことですが「赤坂璃宮」の赤坂店で某女史主宰の「鳩を食べる会」に参加した折り、レモン汁入りの塩が添えられてなかったのでお願いしたところ「もう鳩に味がついてますから」とあえなく却下。トホホ!
しかし、そんなことでくじけない私は、ひたすら懇願してレモン汁入りの塩をゲット。
「え、そんな食べ方するんですか?」すでに半分以上食べてた同席の方にレモン汁入りの塩を薦めたら
「なるほど、鳩の塩味、しっかり利いてるから塩は邪魔だと思ったら、レモン・ソルトだと脂のしつこさ抑えてサッパリになるんですね」

今回も、私が画像を撮るのに夢中になってる間に、皆さん、添えられたレモンを鳩に直接かけて食べ始めてたのに気づいて「あ、そうじゃなくって、ほら、添えられた塩にレモンを絞り垂らして、鳩をそれに浸して食べるのがぐっど!」「え、そうなの?」試した同席の仲間「ほんとだ!レモンを直接鳩に絞り垂らすよりも、こっちの方がさっぱり!」
塩を用意してくれた平林君、ありがとう!下拵え、塩味の利き方、皮のぱりぱり、照り具合。噛み締めた肉のレアな感じと血のジューシーな味、香りのする肉の味わい、その柔らかさ、良かったです!

2011/06/15

生日快楽

本日、誕生日を迎えました。誕生日には香賓開けて、というのが恒例でしたけど、子供の頃の誕生日にならって鯛と赤飯で祝いました。幼稚園から小学校の低学年ぐらいまでは鯛に赤飯というのが誕生日の食事だったからです。

神戸で鯛といえば明石の鯛。ですが明石の鯛は晩春と秋が旬(のはず)。6月ともなると旬を逸しています。とはいえ、明石の鯛はやっぱり旨い!と子供心に思ったものです。

もっとも、そこに(ビフ)テキという強敵が現れる。しかも洋食やでナイフとフォークを使って食べるのを知って以来、家の食事でもそれに倣いたくて、それまで箸で食べてたコロッケやトンカツ、フライの類も洋皿に並べてナイフとフォークで食べたいとせがむ気取ったマセガキでした。

ましてや(ビフ)テキを食べるにはナイフとフォークは不可欠なもの。しかも誕生日の(ビフ)テキは心踊るビッグイベント。しかし、誕生日に食べる鯛の美味も捨てがたい。

毎年、誕生日が近づくと「鯛にする?それとも(ビフ)テキにする?」という母親の問いに、どう答えるか思い悩む日々を送る食い意地のはったガキでありました。

画像は今月の「赤坂璃宮」銀座店での恒例の会議の際、点心料理長の久保田さんにお願いして作ってもらった「桃包」。

これまで友人、知人の誕生日の宴会で何度も味わってきた「桃包」ですが、私の誕生日に食べたことはありませんでした。

そんなことから、毎月恒例の「懷舊点心」、この機会を逃してなるものぞと久保田さんにリクエスト。蓮の実餡仕立ての「桃包」。
久保田さん、願いを叶えてくれて有難うございます。

2011/06/02

ゴールデンウィークにいいもん聞いた~その5

5月6日には長野のBIGHATで小田和正の『KAZUMASA OSDA TOUR 2011 どーも どーも その日がくるまで』。
3月に発表された小田和正の『どーも』。内容充実の素晴らしいアルバムです。表題は小田和正がステージに現れる時のいつもの挨拶、でしたっけ?ともかく、気軽な感じですが、その内容、表題とは裏腹に、意味深くて、味わい深い。

作品のいつくかの断片はCFやTVの番組などで馴染みもの。ですが、ひとつひとつの作品、アルバムそのもの、全体を通して耳にすれば、まったく印象が異なります。そのメロディー、歌詞、演奏、サウンド展開は充分に吟味されたもの。
しかも、その歌詞から浮かび上がるのは小田和正のこれまでの足跡を踏まえ、今、さらには明日を見据えた明快な視点。小田和正そのものが浮かび上がる。

70年代初期のシンガー=ソング・ライター風を思わせる懐かしさが甦る作品をはじめ、そのひとつひとつがそれを歌うにふさわしい楽器を小田自らが手にして歌い、様々な演奏、サウンドを展開、というあたりも面白い。

そのすべてにおいて、核になっているのが、小田の作品と歌。同時にそうした歌詞、作品は、世代を超えて共感しうる普遍性、深さ、訴求力、説得力がある。というあたりが見事です。しかも、J-popの成熟を物語るものであり、その頂点を極めた作品というにふさわしい。実に見事なポップ・ヴォーカル・アルバムです。

そんな作品の中には奇しくも今回起きた東日本震災の罹災者、また、救いの手を差し伸べようとする人々にとって、意味のある歌でもあった。実は、これまでに小田和正が手がけ、歌った作品には、今と明日をみつめ、聞くものを勇気付け、エールを送る歌をてがけ、歌い続けてきた。

今回の出来事との遭遇に小田自身、今回のアルバム『どーも』、さらにはその発表に併せてのツアーを実施するかどうか、思い悩んだ末にアルバムの発表とツアーの実施を決断、という経緯もあったそうです。

長野のBIGHATでのツアーでの初日に出かけたのはそんな小田和正の今の思いを知りたかったからです。そして、目の当たりにしたコンサート、思いのほか小田和正の心は揺れてる様子でした。

東日本震災が起きる前、準備していたツアーの内容を改めて熟慮。手探りで新たなスタートを切ったことがとうかがえ、PAを含めてまだ未消化なところも散在。 「hello hello」では思い余って歌に詰る場面も。

それでも、最後には「明るく、最後まで、笑顔で走り抜けます!」と宣言。
誠実でひたむきな小田和正の人柄が現れてました。
人との絆、そんなことが思い浮かぶ公演でした。

2011/05/27

ゴールデンウィークにいいもん聞いた~その4

5月5日には芝 メルパルクホールで「moonridersデビュー35周年記念 火の玉ボーイコンサート」。同公演についてはすでに5月16日の朝日新聞夕刊POPS欄のステージ評に執筆。それをそのままここで掲載っていうわけにはいかないんで、重複する記述もありますがご容赦を。

何と言っても話題、楽しみは『火の玉ボーイ』のステージでの丸ごと再現。今年初めに発表された同作のリマスタリング盤についてはすでに紹介済み。もっとも、同作の丸ごとの再現とはいっても、まんまじゃないです。

本来はあがた森魚の『日本少年』などの制作の最中、鈴木慶一のソロ作として制作されたものが、発売時、ムーンライダース(ズではなくスです)の名も加えられていた。なんてことからムーンライダーズ(と「ス」から「ズ」へと後に改名)のデビュー作と見なされてるわけですが、やっぱり鈴木慶一のソロ作、ですよね。

で、今回、同作にゲスト参加し顔を並べた矢野誠、矢野顕子、徳武弘文などがゲスト参加。そこに細野晴臣が加わるはずだったのが、東日本地震があってコンサートの開催が延期され、結果、細野晴臣は不参加となった次第。

それにとって代わる存在となったのがあがた森魚。今回のコンサートには当初からゲストに名を連ねていたわけですが、ヴォーカリストとしての力量と存在感の著しいあがた森魚。加えて奔放な個性を印象付けた矢野顕子はゲストの中でも際立ってました。

それより、今回の『火の玉ボーイ』の丸ごと再現、オリジナルのアルバムは鈴木慶一のソロ作という印象大ですけど、それとはうって代わってまんま今のムーンライダーズとして再現で、パワフルでダイナミック。そこで見逃せなかったのが今のムーンライダーズのサポートを担当するドラマーの夏秋文尚の存在。パワフルでダイナミックな演奏の牽引車と言っても過言ではないはず。
「火の玉ボーイ」が実はムーンライダーズにとってのデビュー・アルバムだった、ということを印象付けることにもなりました。

ところが、そんなパワフルでダイナミックな「音」ながら、肝心の歌、鈴木慶一の歌が不安定でファンである私としてはドキドキハラハラヒヤヒヤ。って、そんな風に思ったのはどうやら私だけではなかったみたいです。もっとも「火の玉ボーイ」の再現ステージの後半には持ち直し。二部の終盤ではムーンライダーズの看板として存在感を見事発揮。
今回のコンサートで目を見張ったのは、先の夏秋文尚に加えて、マルチ奏者の高田漣、さらにはバリトン・サックス・アンサンブルの東京中低域。幕開け、ニューオリンズのマーチン・バンドさながらに客席から登場し、オリジナル作のいくつかを演奏し、さらにはブラスセクションとしてムーンライダーズの演奏に加わった東京中低域。さらに、高田漣の味のあるサポートが光ってました。

そしてムーンライダーズ。「Back Seat」でのプログレ的演奏展開は、ひとっところに止まらず、常に変容を遂げ続けるムーンライダーズらしくって、今後の彼らの展開を示唆、なんてところが面白かった。

2011/05/23

ゴールデンウィークにいいもん聞いた~その3

5月2日は「忌野清志郎 ロックン・ロール・ショー~日本武道館 Love & Peace」。今年三回忌を迎えた忌野清志郎の命日に開催されたトリビュート・コンサート。仲井戸麗市、新井田耕造、さらには藤井裕、KYON、梅津和時、片山広明からなるメインバンドを主体に、忌野清志郎に縁のあるミュージシャンが顔を揃えて競演。それぞれ縁のある忌野清志郎作品を披露、という趣向。

Leyona、息子のKenKen、ノブアキとの共演も披露した金子マリ、途中、アコースティックセットでは泉谷しげるが原発批判を込めて「サマー・タイム・ブルース」、「ラヴ・ミー・テンダー」を歌い、あの「カヴァーズ」をほうふつさせる。さらに忌野清志郎訳による「イマジン」を歌ったゆず、肩の力を抜いた歌と演奏で実力、力量、懐の深さを見せた真心ブラザーズ、無垢で奔放なナイーヴな歌、演奏だったサンボマスター。

そうした中で強烈な印象を残したのが斉藤和義、奥田民生、ザ・クロマニヨンズ。噂の替え歌こそ披露しなかったものの「替え歌はまだだめなんですよ!なんでコメントした斉藤和義。「JUMP」、「どかどかうるさいR&Rバンド」のタフでワイルド、逞しさを身に付けた歌、演奏に「わ!すげえでかくなった」と感心。

そして奥田民生。歌ったのは「スローバラード」とRC時代の作品で仲井戸麗市が歌った「チャンスは今夜」。仲井戸麗市のトリビュート作で起用していた作品。どこかすっとぼけていてあっけらかん、なんてイメージと同時に、めちゃくちゃ濃くて熱いロック演奏を展開する奥田民生。当夜の会場に駆けつけた清志郎ファンの多くが「スローバラード」の真摯な熱唱に打ちのめされた様子。

私にとって「思わず、ゾク!」と興奮を覚えたのは奥田民生のギター演奏。随分前にも奥田民生のコンサートでそれを体験。タメを利かせたうねるギターのフレイジングは、まさにグランジのそれ。

グランジっていえば、パンク、ハードコア・パンクを下敷きにシアトルを中心に盛んとなったロックってことで認知されてます。ニアヴァーナやパールジャムはその代表。ですが、日本で見落とされがちなのは、それが生まれる必然、つまりは社会的な背景。つまりは時の大統領ロナルド・レーガンの経済政策が生んだ社会的な歪み、結果生まれた貧富の格差社会。グランジの担い手の多くは、その犠牲者の子息だった、なんてことがあるわけです。

当の奥田民生、そんなことを知ってか知らずか、タメの利いたうねるギターのフレイジングからは、そんなグランジを生んだ当時の社会的背景までを甦らせる、なんてところが「凄い!」なんて思う私です。ま、そんなこと思うのは私ぐらいなもんでしょうけど。

さらにザ・クロマニヨンズ。取り上げた「ROCK ME BABY」、「ベイビー逃げるんだ」、「いい事ばかりはありゃしない」のどれもが強力ダイナマイト。体を震わせ舌舐めずりしながら歌う甲本ヒロト、音の返りを確かめるようにしながらリフ、パワー・コードを奏でる真島昌利のギター。圧倒的なパワー、ダイナミズムに圧倒されました。

他にも生真面目で気弱な側面もある個性をさらけだしたトータス松本。堂々の存在感を発揮したYUKIと矢野顕子など、見もの、聞きものはふんだんに。4時間弱の長丁場のコンサートだけに、おやじ(私ですけど)、途中休息の要ありでしたが、素晴らしいコンサートでした。画像は奥田民生と梅津和時。撮影は有賀幹夫。

2011/05/19

ゴールデンウィークにいいもん聞いた~その2

5月1日には日比谷公会堂で細野晴臣の「細野晴臣『HoSoNoVa』コンサート」。
新作『HoSoNoVa』の発表に併せてのものですが、その新作が素晴らしい。
新曲に交えて「スマイル」や「ラモーナ」、「レイジー・ボーン」や「デザート・ブルース」など懐かしき作品のカバー作品も。

4年前に発表した「フライング・ソーサー 1947」では、カントリー&ウェスタン、といよりもかつてのポピュラー・ミュージックだったカントリー・ミュージックにアプローチ。ついで、昨年11月のスタジオ・コーストでのライヴでは(カントリー・)ブルースへの興味しきり、なんて感じでした。

そして今回は、細野自身が体験してきたポピュラー・ミュージックのルーツを探るという趣。目線、ライ・クーダーの最近の作品に似てます。けど、細野自身の体験、昔を振り返る。それを今に再現、というあたりが面白い。

今回のライヴ、アルバム『HoSoNoVa』をさらに進化させた感じで、ルーツ探しとその再現に余念のない細野晴臣でありました。そのランダウン/セットリストは、ネットのブログなどで公表済。

幕開けは「Rosemary,Teatree」。ついで「ラモナ」。バックを務めるのはアコーディオンの越美晴とサイド・ギターの高田漣。さらに「スマイル」でベースの伊賀航、ドラムスの伊藤大地が加わるという構成。

ボソっとつぶやくように歌う細野晴臣。 ジェームス・テイラーとの出会いで自分の声を見つけたという細野晴臣。 『HOSONO HOUSE』では遠慮がちに。やがて『トロピカル・ダンディー』や『泰安洋行』では伸び伸びと。 そして『HoSoNoVa』や今回のライヴでは肩肘張らずに余裕しゃくしゃく。

年季を経ての味わい深い歌。年季をへてなきゃ歌えない歌と味わいです。
無気力なようでいて、しっかり歌詞、メロディーを丁寧に、的確に表現というあたり、これからが勝負!という意欲が見え隠れ。

折からの放射能災害にあわせて、クラフトワークの「放射能」をアコースティック・バージョンで披露。そういえば「ただいま」もアルバムとは趣きが異なり、カントリー色濃いアレンジで。常に進化し続ける細野晴臣です。

ホーギー・カーマイケルの「レイジー・ボーン」から、鈴木茂が参加。さらに伊藤大地に代わって林立夫が参加し、ティン・パンの再現。そこに矢野顕子が加わり、さらには「無風状態」や「風を集めて」をソロで披露。さらに佐藤博も加わって、懐かしいティン・パン・アレー・ツアーが甦る。

ですが、私にとって興味深いのは細野晴臣と若いサポートの3人、高田漣、伊賀航、伊藤大地との組み合わせ。自身の体験を踏まえたポピュラー・ミュージックのルーツを探る細野晴臣にとって、課題のひとつが4ビート、スィング、シャフルとの取り組み。

ところが、伊賀航にしろ、伊藤大地にしろ、レコードやCDを通して形、様式はなぞることができても、体感した世代じゃないもんで、ビミョーにタイミングやグルーヴが違います。もっとも、細野晴臣も昔のまんまのリズム、グルーヴ感をそのまま再現する意図はないはず。ルーツ音楽との取り組み、その伝統の継承も、自身の目、体、体験を通し、しかも現代性を織り込んでなければ意味がない。

というあたりに高田漣、伊賀航、伊藤大地の起用の面白さがある。彼らの持ち味、個性、今の(若い世代のリズム、グルーヴ)感覚も取り入れ、歩み寄りながら細野自身の音楽を具現化、なんてところが面白い。もっとも、多分、伊賀航、伊藤大地の両君、暗黙の内に細野君にしごかれた?んじゃないでしょうか。
ともあれ止まることを知らない、細野晴臣は面白い。

画像は細野晴臣、伊賀航、伊藤大地のバック・ステージでのスナップ・ショットです。

2011/05/17

ゴールデン・ウィークにいいもん聞いた~その1

ども!久々の復活です。というのもいろいろありました。
最大の要因は地震に襲われた我が仕事部屋の片付けに時間をとられたこと。片付けついでに古い資料やアナログ・ディスク、CDの整理にも追われる日々。おまけに地震で未確認物体の飛来によりダメージを受けたPCの按配が悪く仕事の原稿を片付けるのにも難渋する始末。

よって地震前に書き溜めておいた月例の「赤坂璃宮」銀座店報告の3月分や他にブログ・アップするつもりだったものもオクラ入りのまんま。「赤坂璃宮」銀座店報告の4月分や下書きしたまんまで放置状態ですが、いずれその内に!

そんな間隙を縫ってこのゴールデンウィーク、コンサート通いに精出しました。
まずは4月30日、オーチャードホールで森山良子の「45周年記念コンサート」。
これから全国各地を巡演ってことですから演奏曲目の仔細についてはナイショにしましょう。

とはいえ、それでは話が続きませんから簡単に紹介すれば、一部はデビュー当時のヒット曲を中心に構成。その足跡を密度濃く凝縮。二部では森山良子の音楽的な幅の広さ、さらにはこれからなどを披露。ヒット曲、代表曲を総ざらえや回顧的趣でもなくなんとも意欲的な内容。

それにしても良子さん、歌が旨い、あれれ、上手い。
歌唱技術の巧みさ、声量の豊かさは圧倒的。なにしろ彼女の体、肉体こそが楽器というにふさわしく、体中で声を響かせて歌います。まるでオペラ歌手のよう。

ですけど、そうした歌手にありがちな技巧をひけらかしたり、情感たっぷりに歌い上げるってところがない。抑制を利かせ、自然体。なによりも歌詞とメロディーを丁寧に的確に表現、ってところが凄い。あくまで自然体。 それって、簡単なようですけど、年季と意志がなければ出来ない技です。

ほら、ディーヴァ系なんていわれてる若くて歌い上げるタイプの歌手、わんさかいますけど、技をひけらかすばっかり、ってことはまだ未熟ってことですから。そして、たまにフェイク。メロディーを崩して歌ったりするわけですが、さりげなく、自然で無理がない、なんてところも凄いわけです。

そんな良子さん、実は、結構、おっちょこよい、なんてことがコーサートでは続出! というのが良子さんのコンサートの面白さ。 歌うときには最高の歌姫、ですが、MCになるとぐっとくだけた調子。

どうやら言いたいことが頭の中に一杯。ですけど、それが勢いまかせで口に出るタイプ。話に夢中になって、プログラムで予定されていた次の曲、すっ飛ばして紹介、なんてよくあること。今回もありました。 それに、本来はギターを持って歌うはずの曲、スタッフがギターをステージに運んだのにもかかわらず、そんなの忘れちゃってギターなしに歌う、なんてことも。

そうそう、幕開け、ソファに座って歌う彼女ですが、歌声を聴いているとなんだか落ち着かない。中低音の響き、足りない。おかしいなあ、なんて思ったら、ギター抱えてるもんで前屈みになる分、腰、というかお尻がソファーに沈み込んで落ち着かない。腰(お尻)の居場所を確かめながら歌ってるからでした。

ですが、今回の良子さん、歌を聞いているとアーティストじゃなくって、シンガーってことに徹し 「何のために、誰のために歌うのか!」ってことを悟った様子。それが「歌」に現れてました。「たかがシンガー、されどシンガー!」なんてこと、肝に銘じてる感じで、意欲的でアグレッシヴ。 そんなことに感動しました。

ゲストにはビギンが登場。歌ったのは言うまでもなく「涙そうそう」。
ほほえましいコラボレーションでした。
もうひとり、意外にも客席で出会ったのがムーンライダーズの鈴木慶一君。
なんで?なんて思ったら、良子さんの新作のプロデュースを手がけ、共作などもしているそうな。
こいつは面白い組み合わせだ。新作アルバムが楽しみです。

というわけで、画像は終演後のバックステージのスナップです。

2011/04/02

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の8

デザートの甜品、色々選べる中で緑豆のお汁粉をチョイス。
その名「臭草緑豆沙」と聞いて「ン!?」。
「臭草って何?」。
知りませんでした。
不勉強を恥じ入るしかない。
「臭草」というのは薬草、香味料としても使われ「緑豆」のお汁粉には不可欠なものだそうです。それを温製仕立てで注文。素朴でしみじみとした味わいでした。

その登場前には恒例の懷舊甜点心。
今回は「流沙飽」。
塩漬けの玉子の「鹹蛋」を餡にした饅頭です。
じょうよう饅頭さながらに張りのある皮。
頬張ればしっとり、ねっとり、もっちりの触感。ねっとりこってりの餡はこくがあってどっしりの感じ。
甘味とともに、鹹蛋の塩味、ひね風味が浮かび上がる。
点心師傳の久保田さん、その技もさることながら、引き出しがたくさん。
「凄いよね!」と、感心するしかない美味でした。

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の7

締めくくりの麵・飯、今回は「蟹肉燴炒飯/蟹肉のあんかけチャーハン」。これが予想外の旨さでした!
とろ味のかかった蟹肉の餡かけも旨い。それにもましてご飯が旨い。
ご飯はインディカ米風、ちょい固めの炊き上がりで、噛み締めると最初はしこしこ、やがてもちもち。同時に米を包みこんだ蟹肉の餡かけの旨味、だしがじゅわっと滲み出る。蟹肉の餡かけの上品でせんれんされた旨さ、素朴で実直そのものの米の味が、絶妙のコンビネーション。

ほんと言うと、私、とろ味のかかった炒飯、苦手です。日本の広東料理店でおなじみの「福建炒飯」、大衆的なラーメン中華店の看板メニューのひとつだったりする「天津丼」の類を体験してきたものの、素材の味、風味を台無しにするどってりぼってりの分厚いとろ味が大の苦手。

子供の頃、病気になると否応なく食べされられた砂糖味でごまかした溶いた片栗粉を思い出してしょうがない。トラウマ、ってやつですね。加えて、日本の中国料理の餡かけ、とろ味に特徴的な鉄壁のような重さ、厚さのトラウマ、ってのもあります。

ついでにいえば蟹肉に関しても……ほら、活きの蟹の茹で立てや甲羅や脚の焼蟹なら文句なしですけど、茹で蟹も時間が経てば妙な磯臭さがありますよね。それに冷凍物もやっぱりクセがあって戻しと調理に技が要る。缶詰の蟹、値段が高い割に缶詰特有の金物臭さってのはぬぐえませんから。

そんな蟹に関するトラウマ、すべて取っ払ってしまうぐらい、蟹肉の旨味、風味を生かした調理にまずは感心。椎茸やニラ、もやしなどの具も、味わいは穏やかで柔らかくて優しい。なんてところで味付けの決め手、やっぱり「だし」。すなわち極上の「上湯」にありってことを納得。

加えて、とろ味の付け加減が見事です。日頃の袁さんの炒め物や煮込み物での「とろ味」加減、さらっと舌をなでるぐらいの感じで実に控え目、手前の加減。日本の広東料理でのとろ味のつけ方なんかと比べれば極薄の感じで、さながら絹のベールをまとっているような趣き。それが本場香港の広東料理のとろ味つけなんですけど……
ところが、今回の「蟹肉燴炒飯」、とろ味の加減、少々多め。ですが、ぼってりどってりの厚みや重さは皆無。美味しい葛きりを食べてるようなつるんとろんの心地よい滑らかさ。で、極上のだし「上湯」の旨味、風味がじんわりじわじわ浮かび上がってくるという寸法。とろ味つけの料理でも、味の要は「だし」にあり、ってことを改めて認識。ご飯が旨い!絶妙の「蟹肉燴炒飯」でした。

ちなみに、過日、知人と「赤坂璃宮」銀座店のランチタイムに訪れたうちのかみさん。選んだランチセットの一品が「福建炒飯」。とろ味のかかった餡の出来栄え、文句なし。絶妙の「福建炒飯」だったとか。
「「だし」がいいからじゃない?」なんて私の話に、一瞬、味を思い出して沈黙したうちのかみさん、突然「そうそう、そうなんだよね!」

2011/04/01

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の6

続いては熱々のまんま、湯気がもうもうの「紅焼魚腐煲/豆腐と魚すり身の土鍋煮込み」。
立ち昇る湯気のせいで、画像がうまく撮れない。そう、袁さんの土鍋煮込み、いつも熱々、湯気もうもうで画像に収めるのに苦労します。しかも、シャーッターバシャバシャの後で一旦テーブルから引き下げられ、小皿に取り分けられてもなお熱いまんま、というのにいつも驚きます。 これが旨かった。
「魚腐」というのは「豆腐」と魚(多分、すずき)のすり身を混ぜ合わせたもの。
簡単に言っちゃえば魚のすり身仕立てのひろうす(雁もどき)。
頬張ればその表面は揚げた豆腐のざらっとした触感。
ですが、噛み締めるとしっとりとしていて、「魚腐」に染み込んだ「だし」がじゅわっと溢れ出る。「魚腐」も旨いですが、溢れでる「だし」が旨い。
「魚腐」のほかにはエリンギときくらげ。
さくっとした触感のさわやかさこそあれ、茸としての味、旨味、風味に乏しいエリンギも、しっかり「だし」の旨味が含まれていて旨い。
きくらげはこりこりの触感。むしろきくらげのほうが、なんだか茸ぽい旨味、風味あり。

その味付けの「紅焼」。ほのかに醤油の香りが昇り立ちます。鍋肌に醤油をたらした焼け焦げのげすな臭いとは対照的に、香り、風味はやわらかくって上品です。たまり醤油仕立て、なんだと思います。塩味も利いてますが、独特の甘味があります。広東料理独特の調理と味付け。見かけは色が濃い。上品で洗練された味わいと風味です。それに、なによりも「だし」の旨さが光ってます。

そう、肝心なのは「だし」。「だし」がしっかりしているからこその味わい、旨味、風味です。その「だし」、極上の「上湯」なのは明らかです。だから、旨いんだ!なんてことに納得。味わう内に、ほのかに生姜や陳皮の香り、風味が浮かび上がるのがなんとも憎い。広東料理の「紅焼」ならではの、味わい、香り、風味です。

醤油、時にオイスターソースも加味して味付けするこの「紅焼」の料理方法、広東料理独特のものですが、その要は調味料じゃなくって「だし」。そのあたり、素材の吟味、それに「だし」の旨味、風味、深みがあってこそ成立する関西の「薄味仕立て」の洗練された上品な料理と通じるものがあるのではないでしょうか。

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の5

そして「沙姜蒸滑鶏/大分県産冠地鶏の蒸し物」。
ちなみに「大分産冠地鶏」、大分フェアならではのものですが、ネットで検索すると「大分県の畜産試験場が4年の歳月をかけて誕生させた大分県産の地鶏」だそうで、大分県の豊後高田市や別府市が主なる飼育地。 興味深いのは「烏骨鶏を含め、雄雌合わせて5品種を配合」させ「毛冠のとさか、あご髭など、烏骨鶏の特長を受け継いでいる」なんてとこから「冠地どり」と名付けられたとか。
もともと烏骨鶏は体格が小さいのが特徴ですが、それを補うために「発育の良い白色ロックを掛け合わせるなど、旨味、大きさ、産卵性など、それぞれの品種の長所が集約して育成されています。 鶏肉の旨味成分であるイノシン酸が、ブロイラーや他の地鶏より高く、肉質もほどよく柔らか」なのがその特徴、だそうで。

「沙姜蒸鶏」、ということでは、以前、伊達鶏を素材にした「清蒸沙姜鶏」がメニューに登場。
そして今回は「伊達鶏」が「冠地鶏」に。
その胸肉、腿肉、砂肝、肝などを「沙姜葱」風味で蒸したもの。

味付けの「沙姜」、調べれば生ではなく乾燥させた生姜、なんてことだそうで。そこんとこ袁さんに聞きそびれました。そうか、生の生姜じゃないからその風味があっても生の生姜に特徴的なヒリ辛、辛味は控え目、なわけですか。
それより、この「沙姜蒸滑鶏/大分県産冠地鶏の蒸し物」、伊達鶏の「清蒸沙姜鶏」や「比内鶏」を素材にした袁さんの鶏の蒸し物に比べると、とろ味、少々加減多めな感じ。なんでなんだろう。

表面はつるんと滑らかな舌触り。噛み締めると、しっとり潤んだ肉質で、しなやかな弾力もある。ですが、旨味、風味ということに関しては、意外に淡白。地鶏独特の野生味やクセはさほど感じられない。砂肝や肝臓も意外にクセがない。烏骨鶏を交配、なんて話をネットで知って、なんでなんだろうと戸惑いました。

もしかして「伊達鶏」や「伊達鶏」の蒸し物に比べてとろ味加減少々多め、というのはそのしっとり潤んでいてしなやかさもある肉質、特有の旨味、風味を封じ込めるため、だったからじゃないでしょうか。

2011/03/30

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の4

続いては「豆豉泡双鮮/2種海鮮の黒豆味噌炒め」。2種の海鮮、というのはホタテ貝とまて貝。玉葱、微塵のパプリカに生の赤唐辛子の小口切りも。

「あ、この唐辛子、辛い!こんなに辛いとは思わなかった!」と迂闊な粗忽者。
「生の唐辛子の辛味、案外、馬鹿に出来ませんから」と知ったかぶりの私です。
ほんと、生の唐辛子、辛味しっかり。ですが、生で食べると辛味が立ちますが、火を通すとフルーティーな香り、旨味、風味がします。

この「豆豉泡双鮮」、「泡」というのはもしかして「油泡」ってこと?とすれば単純に油通し、炒めものってことになります。ともあれ香港で海鮮料理を看板にする料理店では定番的な料理のひとつ。見かけとろみ少々、なんてのがそれを物語る。

もっとも「豆豉」、豆の醗酵味噌(浜納豆みたいなもんですが)を素材に香味野菜などで調味料にした「豉汁」ではなく「豆豉」なんて表記、それに「豆豉」、大粒のまんま、なんてことからすると「豉汁」の調味料を使ったバリエーショ ン?なんても、基本は同じかも。
帆立貝、火が通ってますけど、表面は、ぱり、かりのしっかりの火の通しではなくってさっと表面に火を通した感じで、表面を引き締めてあります。ですが、噛み締めるとしっとり、ねっとりの触感ですが、レアっていう感じでもありません。ジューシーな旨味がほとばしり、甘味が浮き立ちます。火が通った結果、その表面は突っ張った張りがある。なんか緊張してる感じですね。しっかり噛み締める感じで食べるとしなやかな弾力あり。もごもご口の中で噛み締め続けたくなるチュウイーな触感です。しっかり火が通ってるからでしょう。

豆豉」の味付け、ほたて貝ではその甘味、旨味を引き立てる塩味、ひね味。それが身の引き締まったまて貝の旨味、風味を封じ込める感じ、という味わい、風味の対照がおもしろい。

そして、玉葱。こいつの甘味がなかなかです。
短冊切りやざく切りじゃなくって、玉葱の四分の一個の皮を一枚一枚はがしたまんまのもの。火がとってひりひりの刺激は抑えられ、むしろ甘味が引き立つ。それも四分の一個の玉葱の皮を一枚一枚はがしたまんまという切り分け、その分量が火を通した玉葱の甘味、旨味、風味、その存在感をしっかり主張、というのが面白い。

こんな風な玉葱の使い方、広東料理にはよくあることです。ほら酢豚の玉葱、細切り、ざく切りなんかより、ひと皮むいた玉葱のほうが、旨さを増す、なんてことでも明らかですよね。 パプリカは微塵切り。芸が細かいところです。

ですが、仕事の技ってことではやっぱり「とろ味」の加減、その分量。
過不足ない、というよりももうひとつ手前の「過ぎない」控え目な分量の加減。それが滑らかな舌触り、ほた貝やまて貝の素材の持ち味、玉葱の甘味、「豆豉」の塩味、ひねあじの旨味、風味を引き立ててますから。

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の3

続いては毎月の「例湯/老火湯」に代わって「潮式海鮮羹/海鮮入りとろみスープ」が登場。
「海鮮羹」は香港のホテルの中国料理店で度々体験。香港のホテルの中国料理店、それも高級ホテルの店では街中の広東料理店のように「例湯/老火湯」にはなかなかお目にかかれない。かといってふかひれの料理やスープでもなし。
そんな時、選ぶことの多いのが「花膠燉冬菇/魚の浮き袋と冬菇の湯煎蒸しスープ」、「韮黄花膠瑤柱羹/魚の浮き袋の細切り、干し貝柱と黄韮のとろみスープ」か「海鮮羹/海鮮のとろみスープ」。

ですが「潮式海鮮羹」というの初体験。いったいどういうとろみスープ?と興味津々。
とろみのついたスープ、その顔つきは「韮黄花膠瑤柱羹/魚の浮き袋の細切り、干し貝柱と黄韮のとろみスープ」に似ています。
ひと口食べてみると、まずは酸味、それから辛味。

「ねえ、これって「酸辣湯」みたいじゃない?」
「うん、うん、そんな感じ。似てる。けど、四川の「酸辣湯」みたいに、酸味も辛味も直接的というか刺激的じゃないし、ひりひりの感じがしなくて、マイルドだね」
「生姜の香りもしますね」

その具は、えび、ほたて、いかの粗微塵に、セロリ、ねぎなど。
それにしてもなんで「潮式?」。袁さんに聞きそびれました。
そういえば潮州料理では「辣」の辛味、意外に登場します。広東料理よりも頻度が多いぐらい。

もちろん広東料理でも赤、青の生の唐辛子、よく使われます。それに唐辛子を原料にした広東地方独特の「辣椒醤」があります。飲茶の時など、調味料とのひとつとしてテーブルに用意されています。独特の刺激的な辛味とひね味があるもので、はまって病みつきになる人も少なくない。日本の広東料理店ではお目にかかれないものですが、中国料理食材や調味料を扱う店の棚に並んでます。

もっとも、ここ最近、ってこの10年ほどですが「辣椒醤」をテーブルに用意する店は少なくなりました。ことにホテルの中国料理店や高級料理店では。というのも「XO醤」の出現とその一般化以後、「辣椒醤」にとって代わるものとなったからであります。

潮州系の店では広東系の「辣椒醤」にとって代わるものとして潮式の「辣椒醤」があります。潮州系の「辣椒醤」、辛味はありますが、広東系の「辣椒醤」のようなひね味はなし。むしろ唐辛子の刺激的な辛味を生かしたもので、油も原料になっています。

ということでは四川の「辣油」に似た感じ。 とはいえ四川の「辣油」と異なるのはアミの塩辛の「蝦醤」、あるいはえびの子の「蝦子」など海産の干し物、調味料や加工物、加味された「海鮮風味」になっているのがその特徴。さらには大蒜、葱などの香味野菜などが加えられることもあります。それも店によって加味する素材、分量、つまりレシピが異なりますから、店ごとに味が違います。

ことに潮州系の麵粥店、粉麵店での自家製の潮式「辣椒醤」は千差万別。
時に「これ、旨い!」なんて潮式「辣椒醤」に出くわします。そんな時、即座に「あの、この「辣椒醤」、すげえ、旨い。分けてもらえません?」と願い出る私です。

おもしろいことにどの店も自家製の潮式「辣椒醤」はご自慢らしくて、その言葉に店主はニンマリ。
たいていの場合「いいよ!」なんて返事が帰ってきます。
有料なこともあればただでおすそ分け、なんてこともある。
わたしの場合「有料:無料」の確率「2:8」。
というわけで我が家の冷蔵庫には戦利品の潮式「辣椒醤」が所狭しと並んでます。

それにしても「なんで「潮式海鮮羹」?」という疑問。袁さんには聞きそびれましたが、この「辣の味、すなわち「辛味」にそのわけありなのでは?なんて、勝手に解釈、納得しました。それにまろやかな「酸味」。

そうそう「だし」の旨さも見逃せない。味わい深い「だし」。
それがあってこそこの「潮式海鮮羹」は旨い。
上品で洗練された奥行き深い味わいでした。

2011/03/28

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!の2

「赤阪璃宮」銀座店報告の復活です。
とはいえ気が気でならないニュースが相次ぎます。福島第一原子力発電所での「想定外」というのは、都合の良い言い訳という事実が次第に暴露されていく現実。被害をこうむった罹災地での厳しい生活。駅前や近隣のスーパーでの放射能反応の発表が煽った風評被害に加えて、さらなる一部商品の品薄、がら空き棚状態。補充されたミルクは一家に1本といった制限あり。ミネラルウォーターのビッグボトルには「乳児をお連れの方に限ります」という張り紙が。乳児や幼児を抱える一家には切実な問題でしょう。

ところで、メニュー確認のために「赤阪璃宮」のサイトをチェックしたら「3月21日をもって飯田橋店は閉店させて頂きます」との告知。ということは呉百駒師傳も香港に戻っちゃった?とても残念な話です。

さて、復活「'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!」、前菜に続いて「椒塩佐口魚 かぼす平目のスパイス揚げ」が登場。「佐口魚」とは平目のことです。
「これこれ、これです!、昨日、TVで譚さんがやってらした料理。近頃は養殖事情も改良や工夫がなされてるってことで、これ、かぼすで育てた平目だそうですよ」。
「料理の怪人」でそんな紹介があったそうな。
「かぼす平目」の詳細を知るべくネットで検索。要約すれば、大分では平目に限らずブリの養殖にもカボスが飼料に加えられているそうで、カボスに含まれるポリフェノールの効果によりブリの切り身の変色や臭みを長時間抑えられ、平目に関しては香り成分のリモネンによって肝の臭みが消える、なんてことでした。
「それにしてもこの平目、でっかい!」。
頭と中骨を残して切り分けて調理された平目の身の厚さからもその大きさ、充分に想像できます。

切り分けられた平目の身の調理、「油浸」なのか、ぷっくりふっくらした肉厚の平目の身の外側はさくさくとした「酥」の触感。噛み締めるとその身はしゅわしゅわ、ねっとりの触感。やっぱり養殖魚特有の脂の乗り、身の柔らかさが感じられる。ですが、ぬめっとした脂っぽさ、身の柔らかさに比べて、養殖魚特有のくせが抑えられているのは確か。もっとも、身にカボスの味、風味が行き渡っているわけでもありません。
それより調理方法を「油浸」にして、味付けは「椒鹽」にしたのが実に正解、というのに納得。しゅわしゅわしっとりねっとりの肉厚の身の味がスパイスの効いた調味で引き立つ感じ。

添えられた山芋(?)の揚げ物。これも外側はさくっとした「酥」の触感。噛み締めるとしっとり、ねっとり。けど、平目の身ほどの締まりはなくって舌にとろけていく。最初の触感は似ていても、味、風味は「山」のもの。
そうか、一皿で「海」と「山」の味、風味を味わう趣向なのだ!なんてことに気づきました。

頭や中骨に縁側部分の外骨、まんま素揚げにしてあります。
「平目」の身に比べれば油が少々重い。ですが「油浸」特有の調理方法のおかげか、縁側の小骨などしっかり火が通っていてかりかり、ぱりぽりの触感。塩味の加減もしっかり。
「これ、ビールのつまみにいいじゃん!」なんて声も上がります。おまけに頭の部分、頬肉が旨そうだ。アテンドの山下さんに持ってきてもらったナイフで頭を切り分け、仲間に勧めたところ即座にまってましたとばかり「うん!」のひと声。おいしいところを知ってる者の狙い目は同じです。
さっそくひと口頬張った仲間「やっぱ、頬肉、旨いわ!」。私もひと口。「うん、旨い。けど、ちょっと油が重くない?」とまあうるさい親父です。
そんな次第でとことん「椒塩佐口魚 かぼす平目のスパイス揚げ」を食べつくしたのでありました。

2011/03/25

東北関東大震災

被災された方々、心から見舞い申し上げます。
地震の当日、大船渡が津波で罹災というニュースを知って以来、携帯も通じず安否情報を確認し続けていた大船渡の「三陸シーファーム」の志田建志さん一家と連絡がとれ、建志さん一家の無事を確認できました。建志さんの兄、シダッチの恵洋さんも無事とのこと。

東京も地震に見舞われましたが、幸いにして我が家は損傷もなし。ですが、仕事場、棚に収まっていたものは何もありませんでしたが、日頃の整理不精が祟って積み上げたままに放置していた書籍、雑誌、新聞、CD類のすべてが散乱。

机の上に閉じた状態だったPCのノートブックを開けてみると、液晶画面のど真ん中に亀裂が走るというダメージ。どうやら重い何かが飛来し、ダメージを与えた様子。何が飛来したのか現場に居合わせなかったことから不明です。

PCの復帰に手間取り、ヴァン・ダイクはじめアメリカの知人の何人から届いたお見舞いメールを見ることができたのは地震から日を経てのことでした。余震が続くことや福島の原子力発電所の事故の話を伝えると「こっちに来て、しばらく居れば」という返信メールがありました。

地震のあった夜、所用あって駅前に。小田急が止まっていたこともあってバス亭には長蛇の列。駅ビルの商店は地震の際、陳列品やショーケースが壊れたことなどから急遽営業中止。派手な陳列をしていた近隣の商店も同様の被害にあって閉店状態。

そんな中で営業を続けるスーパーや商店もありましたが客は少なく、バスを待つ長蛇の列の前で始まった閉店間際のサーヴィスセールに見向きする人もいない。
その翌日、駅ビルは地震当日同様、営業中止。閉店状態のままの店も多い中で、地震の当夜人数の少なかったスーパーは人だかりで一杯。

ほとんどの客の籠にはミネラルウォーターやレトルト食品、カップヌードルの類やら米などがどっさり。日用雑貨を扱う店ではトイレットペーパーやティッシュペイパー、ガスボンベ電池類がみるみるなくなっていく。

地震当夜、店員のサーヴィスセールの呼び声に誰も見向きもしなかったパン屋の陳列ケースはほぼ売り切れのがら空き状態。あっけにとられるしかないすざまじい光景でした。ガソリンスタンドでは満タンする車が相次いだ、なんて話も聞きました。それもいざ東京を脱出という時のための準備、なんて話にも驚きました。その翌日、訪れた近隣のスーパーでは、日常雑貨、米、水だけでなく豆腐、お揚げ、納豆の類なども姿を消して陳列棚はガラガラの状態。

神戸で地震があった日の夜、ようやく実家と連絡がつき、当座必要な物資を依頼され、駅前のスーパーを駆け巡った時には、今回のような騒動はありませんでした。新幹線が動き芦屋までなんとか、という情報を得て神戸に戻った際、新幹線の中で私同様、日常物資や水を積んだカートを引っ張る人に何人も出くわしました。

今回のすざまじい光景は東京だけでなく、関東周辺、さらには大阪あたりでも同様に食料費や日用雑貨、ガソリンなどの買占め、備蓄が、なんて話を知って驚きました。それらが最も必要な所にこそ……と思うのは当然でしょう。

情報を知りたくてTV、ラジオに耳を傾けましたが、まるでスポーツ中継や24時間TVさながらに感情的で煽動的でわめきちらすことが目立った民放の報道姿勢……冷静に事実を報道し、検討するなんてこと出来ないもんでしょうか。

そして金町の浄水場での放射能検出が報道されて直後、ミネラルウォーターの類が瞬時にしてスーパーから掻き消えた。実際、駅前のスーパーに出かけた際、ガス入りのもの何本か残っていましたが軟水の大きなボトルのミネラルウォターは皆無。わずかに残っていた小ボトルもひとり2本までという制限付き。帰りに立ち寄った駅の購買店では3本までという制限付き。

本日、出かけた駅前のスーパーの野菜売り場の前で耳にしたのは
「あ、これ千葉産……千葉県も放射能反応があったよね……やめよう」なんて声。
埼玉産のほうれん草は山積みのまま売れる気配もなし。
風評被害の現実を目の当たりにしました。

2011/03/09

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店~“大分フェア!

'11年2月の「赤坂璃宮」銀座店、またもや今月も月越えの紹介となりました。
着席早々、皆さんの話題は1月の新年宴会に登場した料理のあれこれ。
ことに「ハタのスパイス揚げ」の頭から想像出来るハタの大きさ、その頭、アラの頬肉の旨さ。表面はカリッと揚がってるのにしっとりしゅわとした身の緻密さ。

そんな話になったのも私よりも早くに到着していたメンバーのひとりが今月のメニューに「かぼす平目のスパイス」を発見。
「これって、昨日、TVで譚さんがやってた料理じゃないかなあ。確か「かぼす平目」ってかぼすで養殖した平目、って話だったし……」
なんてことで、すでにアテンドの山下さんと「赤坂璃宮」銀座店でロケが行われ、譚さんが出演したTV番組『料理の怪人』の話で盛り上がっていたからでした。

残念ながら私は『料理の怪人』を見られずじまい。それより店の玄関で見つけた「大分フェア開催!」というフライヤーのことが頭にありました。
これまでにも「赤阪璃宮」銀座店では全国各地の山海の物産を揃えた「○○フェア」なんて催がしばしばあって、日頃、滅多に出会えない地方の物産に出会えたからです。
「もしかして今日は大分産の海山の幸に出会える?」と、胸をときめかせていたのでありました。

さて、前菜の「璃宮焼味盤/璃宮特製焼き物の前菜」。

これは「大分フェア」とは関係なし、いつも通りの定番的な内容。
なんて思っていたら、なんと右端、豚耳の軟骨の寄せ物の「千層豬耳朶」。
これは嬉しい!

この「千層豬耳朶」「滷水」、つまりは漬け込みたれで下拵えした豚の耳を煮凝り状に仕上たもの。噛み締めるとこりこりの触感、舌触り。
さらに、コラーゲン質特有のとろん感がじわじわ押し寄せてくる。


 豚の耳の寄せ物、たいていの場合素朴な味、のはずなんですがこの豚の耳の寄せ物、下拵えの「滷水」にひと工夫ありなのか、ほのかに香辛料の香りが浮かび上がってくるなど風味がある。しかも味わいは上品で洗練されています。平林君、やるじゃない!

さらに左へ家鴨の焼き物の「焼鴨」、次いで「叉焼」、皮付き豚ばら肉の焼き物の「焼肉」。
「わ~、この「家鴨」とか「叉焼」とか豚ばら肉の焼き物とか、毎月、少しずつ分厚くなってない?でも、それだけ食べ応えがあって嬉しい!」なんて声が上がります。
「そうそう、だからこういう前菜の焼き物の切り方って、結構、重要なんだよね。見た目もそうだけど、口にした時の噛み応え、肉の厚さが旨さを感じさせる、なんてこともあるから。分厚いだけで満足感を得られるってこともあるでしょ?」

「ね、ね、この家鴨の肉、柔らかくってしっとりしててジューシーで美味しい。火の通り加減も良いし、美味しい」と、感嘆の声があがります。
「ほんと、ほんと、肉が美味しい。ここ最近のベストかもね。でも、皮の焼きが今ひとつかな。ちょい緩い感じで。皮はぱり、それで、こんな風に肉がしっとりジューシーだともっといいんだけど」と、うるさいのは私です。

「この皮付きのばら肉の焼き物、味、しっかりしてて良くない。塩加減もいい感じだし」
「うん、これいいね。皮はしっかりぱりっと焼き上がってるし、肉はしっとり。それに塩加減もしっかり。これぐらい利いてないとね」

「それよりこのほおずき、食べられるの?」
「あ、私、とっくにたべちゃいました。美味しいですよ、ちょっとほろ苦くって」。
そう、焼き物を取り囲む野菜の中にほおずきが。
「このくらげもこりこりしてて旨いね」くらげ、胡麻油で和えてありました。

なんて具合に前菜から盛り上がり。新年宴会の余波ってだけじゃなく、焼き物すべてひときれずつですが、しっかり前菜を食べた!なんて満足感を覚える食べ応えがありました。

2011/03/06

イーグルス"Long Road Out of Eden World Tour."

行くか行こまいかと思い悩んだイーグルスの来日公演。行ってきました。
そういえば、昨日の朝日新聞の夕刊に掲載された近藤康太郎記者によるコンサート評によれば、見出し「変わらぬ泣きのメロディー」なんてあって、その記事からするとなんだか懐メロ大会の趣き、ふんぷん。ちょいと足が重くなります。

もっとも、なんかありそ!なんて思ったのは、ネットで知った今回の来日公演のセット・リストによれば、その幕開け、グレン・フライ、ドン・ヘンリー、ジョー・ウォルシュ、ティモシー・シュミットが並んでスティーヴ・ヤングの「セヴン・ブリッジズ・ロード」。

スティーヴ・ヤングはアラバマ出身のシンガー=ソング・ライターで、ヴァン・ダイク・パークスの名作「ソング・サイクル」の冒頭を飾っていた人物。その彼の「セヴン・ブリッジズ・ロード」をやるなんて相当なわけあり、と事情通なら思うはず。

ところが、本日のドーム公演、ヤボ用に時間をとられて開演に遅刻。肝心の幕開けの歌、聞き逃しました。それより、到着していきなり耳にしたのが「ホテル・カリフォルニア」。
「お~、こんな早くにこの歌ですか……」なんて思いながら耳を傾け、待ちましたあの間奏のギター・バトル。

かつてのドン・フェルダーにとって代わったスチュワート・スミス。最初はドン・フェルダーのあのフレーズをなぞりながら、しかし、半ば過ぎあたりから独自のフレイジング。その後を受け持つジョー・ウォルシュも、あのクキクキグィ~ンの音じゃ、ないじゃん!というオリジナルからびみょ~に変化したスタイル。嬉しくなりました。

続いて「ピースフル・イージイ・フィーリング」、「言い出せなく」、「魔女のささやき」、「いつわりの瞳」など、懐かしいヒットのオン・パレード。
しかし、でっぷり太ったドン・ヘンリーがギターを抱えて「ボーイズ・オブ・サマー」。
がらりと雰囲気が変わります。そんな感じの前半。4人のハーモニーが見事。
なんていっても、その厚み、時にサポート・メンバーも加わってのもの、なんてところを見逃せない。

そして4人のアカペラによる「失われた森を求めて」から始まった後半。
続く「夏の約束」あたりから、雰囲気一変。
「明日はきっと晴れるから」あたりになると、なんというか映画『ラスト・ショー/Last Picture Show』をほうふつさせる世界。砂埃の舞うアメリカの中西部の田舎の風景、ですね。
スタインベックの「怒りの葡萄」、さらにはやケロアックの「路上にて」なんかのイメージが重っていきます。

そして懐かしい「至上の愛」。けど、その歌詞からすると、もしかして、アメリカの田舎ではありがち、なんて言われて、カントリー・ソングのテーマになってたりする「情事」「密会」「密通」の世界?なんて想像が膨らむ。
おまけに続く歌が「テイク・イット・トゥ・ザ・リミット」。ランディ(・マイズナー)に代わって誰がリードをとるの?それはグレンでした。けど、高音が伸びない。

その曲、サザーンなソウル/カントリー風味ですが、ソウル風に仕上るかと思いきやアル・ガースがヴァイオリンを奏でてカントリー風味に。ますます、中西部の田舎事情を物語る趣きに。

なんてところに続いたのが「エデンからの道、遙か」。
アメリカのアフガン、イラクへの介入を背景に生まれた歌。ステージ後方のスクリーンに映し出される数々のシーンの中には、進軍を続けるアメリカ兵を写した場面、なんかも。

ブルース・スプリングスティーンが「Born in the USA」で、ベトナム戦争でのアメリカの犠牲者、ベトナムに派遣されたアメリカ兵、ベトナム・ベテランのことをテーマにしたことが思い起こされます。
そう、イラク・ベテランのことを思い起さずにはいられない。

ジョー・ウォルシュの「ライフズ・ビーン・グッド」もアメリカの消費社会がその背景にあり。さらにはドン・ヘンリーの「ダーティ・ランドリー」は過剰なマスコミ報道を批判。なんていってもドンがそのエジキになった腹いせ、つうのもありますけど、日本のTVのワイド・ショーに、そのままあてはまる歌。

締めくくりはイーグルス・ファンのご期待に応えて「ハートエイク・トゥナイト」、さらには「駆け足の人生」。ティモシーが手拍子をよびかけるなどして、盛り上がりの大団円。味わいを増したドン・ヘンリーの歌。絶妙のハーモニー。それに、遊び心もたっぷりで見せ場を心得たパーフォマンス。そして、ジョー・ウォルシュとスチュワートのギターの掛け合いの妙、ことにリズム・ギターのアンサンブル。

観客を見渡せば「坊主」、「刈り上げ」の若者はほとんど見当たらない。昨年のこの時期、ボブ・ディランのコンサートで見かけた光景とは違いました。目立つのはグレーヘアで、それも中年の髪長目のふつうの感じ。団塊の次なる世代、ってことでしょうか。

「懐メロ大会」、「集金ツアー」じゃないの?
とまあ、今回の来日公演、懐疑的でしたが、前半やアンコールでは「懐メロ」をしっかり聞かせ、ファンを楽しませてくれるサーヴィスもたっぷり。
ですが、今、言いたいこと、言っときたいことはビシっと伝えて、強烈な印象を残す。
「Long Rord Out of Eden」をもっぺんおさらいしてみたくなりました。

2011/02/19

新年宴会パート2~BISTRO KHAMSAの4

奈々先生のメインの料理は「仔羊のハンバーグ」。
円錐形のぼてっとした形状で、切り分けると中はピンク色。肉汁がじゅわっと滲みでる。
「わ、美味しそう!仔羊のハンバーグ、主人が良く作るんだけど、ぜ~んぜん違う感じ。さすがプロだけあって、とても綺麗に仕上がってる。今度、こんな風にメンチカツ風に作ってみてよ!」と、私にせがむうちのかみさん。
「渡邊シェフの料理って「顔つき」が良いのね。見るからに「美味しい!」ってわかるもの」。

そして、郭さんとシェアすることになった私のメインの「本日の特別な料理」。「ビーフ・ウェリントン」でした。これが見事な逸品! 渡邊シェフが「BISTRO KAMSA」で最後の日を迎える何日か前、店のブログに以下のような告知。

「お料理はBeef Wellingtonです!青森牛のモモ肉を下焼きしてマッシュルームのペーストと、埼玉の加藤さんが送ってくださったスーパーほうれん草の、焦しバター炒めでお肉を包み、さらにパイ生地で包んでオーブンで焼きます。ソースは切れを持たせたマデラ酒のソース、調子に乗ってトリュフも入れちゃいます。裏メニューでコッソリとご用意いたします。オーダー時にタツローさんに「ねえ、あれある?例のおパイで包んだお肉?」と聞いてください。おパイで包んだお肉はふんわり柔らかくマッシュルームの香りに包まれ、スーパーほうれん草の甘さの中にある渋みが赤身の渋みとあいまって、食べた瞬間、悶絶即イキ完全無修正です。絶対旨いに決まってます、これが不味かったら、ワタシ相当腕が無い事になります。メニューに載ってませんからね~ブログ限定です。あと、個人的には気に入っているブルーチーズ風味のクレメダンジュもよろしくお願いします」とまあ、勝手に引用。すんません、渡邊シェフ!

うちのかみさんの言じゃないですが、ほんとに料理の「顔つき」が素晴らしい!画像でもわかる通り、青森産の腿肉、刺しが入ってます。その塩梅、レアな焼き加減が見事です。舌の上でとろける脂が甘い。まったりこくのある濃密な甘さです。それに赤身の部分、いちぼを思わせる味、風味がある。

その上に見えるのが埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんの日本ほうれん草。焦がしバターで炒めたもの。実は、過日、BISTRO KHAMSAに出かけた際、我が家に到着したばかりのほうれん草を持参。
「加藤さんから届いたほうれん草、もうなくなっちゃったんでしょ。だからちょっとだけ持って来ました……で、もし出来れば、食べさせてもらえないかな?」

馴染みの常連客でもないのに頼み込んだわがままオヤジの私です。そして「青首鴨のパイ包み」に添えて登場した加藤さんのほうれん草、やっぱり焦がしバターで炒めたものでしたが、私には塩味が強すぎた。

ところが、今回の「ビーフ・ウェリントン」での加藤さんのほうれん草、その濃い味、特有の鉄分、えぐみ、甘味、ほうれん草の持ち味を見事に引き出した塩加減、塩梅です。しかも腿肉の脂の甘さ、赤身のほのかな血の味と見事にマッチング。

ぬめり感のある炒めた微塵のマシュルームとのアンサンブルも面白い。もしかしてマッシュルームに、アンチョビとか塩漬けのオリーブとか、醗酵したひね味が隠し味としてプラスアルファされてれば、どうなんだろう……なんてことも思いましたが、そうか、ほうれん草や腿肉とのアンサンブルてこともありますから、ごちゃごちゃ言っちゃいけないか。

この「ビーフ・ウェリントン」。素材それぞれの持ち味を生かした調理、アンサンブル、味付け、香り、風味の素晴らしさに脱帽!

渡邊シェフにメールでエールを送ったところ「なんとか最後にもう一波乱起こしたいなと思い、三振覚悟でやってみました」なんてありました。

本塁打、ホームランです、見事なホームラン!うちのかみさん達、御夫人方との一緒のランチじゃなけりゃ、ワンポーションそのまま丸ごと一皿食べられたのになあ、なんて後悔しきり。どうやらシェアした郭さんも同じ気持だったようです。

BISTRO KHAMSAから独立した渡邊シェフ、新しい店「Le Berkeley」の開店準備中。これが渡邊シェフのブログです。その店名、かつて料理人として渡米した際、お気に入りだった街にちなんだもの。

渡邊シェフ、70年代のウエスト・コースト・ロック好き。グレイトフル・デッドやジャクソン・ブラウン、トム・ウェイツ命!なんてところが、嬉しいなあ。ますますエールを送りたくなります

新年宴会パート2~BISTRO KHAMSAの3

うちのかみさんのメインの「さつきポーク肩ロースのコンフィ」。

格子の網目がついてます。
ってことは、じっくり低温で揚げたあと、網で焼いたってこと?

実は、以前食べた時、塩味、ベタっと重い感じだったので料理を注文する際、「塩味控え目に」とメートルの鈴木さんのお願いしました。

「どう、塩味、塩加減?」
「うん、塩味、利いてるんだけど、前みたいに重くないの。香りがあるし、それに「軽い!」」と、うちのかみさん
「そうそう、お肉、ほんとに美味しいの。香りもあるし、これ、すごく「軽い」よね、いくらでも食べられちゃう!」と杉山洋子女史。

うちのかみさん、私のメインが来るまでに「さつきポーク肩ロースのコンフィ」をぱくぱく食べちゃって、シェアしてくれたのは丹念に切り分けたさつきポーク肩ロースの脂身だけ!
その脂身を食べて、塩梅を想像。
「うん、いい感じみたいね……」(トホホ!)

いつぞや評判のビストロでのこと。
「あらかじめ仕込んであるパテやテリーヌは冷製だろうからいいですけど、メインの料理の塩加減、控え目にお願い出来ますか?」とメートル氏に尋ねました。
「キッチンに尋ねてきます!」
、そんな返事の後で席に戻ってきたメートル氏
「あの……出来ないそうで。ウチのやり方、味加減でお出ししていますので」
とかなんとか、そんな返事に思わず口あんぐり。

「客の口にあわせるのは料理人の技量のうちなのに」と思わずひとりごち。
なんて言うと
「ビストロの料理って、塩味が強いのは当たり前じゃないの?フランスのパリあたりのビストロの塩味の強さ、日本の比じゃないから」という声が聞こえてきそうです。
もっとも、それはフランスの地の素材に併せてのもんでしょうし、塩味がきつくっても素材の旨味を引き出し、香り、風味もあるんじゃないですか?

追い討ちをかけて
「ウチではフランスの○○産の仔羊、△△産の家鴨、□□産の鳩を使ってますから」
なんて声も聞こえてきそうです。だからフランス、それにフランスのビストロそのままの味付けってわけですか? それってどうなんだろう。

味付けは同じかもしれませんが、素材の旨味、料理としての香り、風味がなくては意味は無し、なんじゃないかあなんて思う私です。
「素材はどこそこの○○産」って口上でも、味付け本意。素材を見極め、旨味、風味を生かし、料理としての香りがなければ「素材はどこそこの○○産」なんて口上は単なるブランド信仰、フランドを売り物にしてるだけじゃないでしょうか。

件の店の前菜の「田舎のパテ」や「フォアグラのテリーヌ」、その顔つき、見映えは雑な印象で、頬張ってみてがっつりの旨さ、勢いはあるものの、下拵えが乱雑できめ細かさ緻密さに欠けてました。それも味付け本意で、塩味、べったりとして重かった。

素材の味、旨味はほどほど。何よりも香り、風味が乏しい。思わず、改めて「メインの料理、塩加減、控え目に」なんてお願いしたかったのですが……。
無駄な話をあきらめてべったり塩味の重い濃厚な味をワインで紛らわしながら楽しみました。

日本の中国料理の大半は、実は、そんな按配。素材の旨味、香り、風味を引き出すよりも「中国料理ならではの味付け」が主流を占めます。辛くって、近頃は痺れ味が必須になった日本の四川料理などその最たるもの。プロのフードライターばかりかブロガーや彼らの見解に批判的な人を含め、ご意見のほとんどもそんな風、ですから。

「素材のブランド信仰」、しかも「味付け本意」な料理。日本の中国料理だけじゃなくってフランス料理、イタリア料理の店でも似たような体験、件の店に限らず、これまでたくさんありました。
私が出会った渡邊シェフの料理、そんな問題点をほぼクリアー。

「塩味が利いてても(料理に)香りがある。それに「軽い」」と、うちのかみさんは大満足。
杉山洋子女史も同意見。不参加だったあぐり女史に料理の「軽さ」を熱弁、だったそうです。

2011/02/18

新年宴会パート2~BISTRO KHAMSAの2

うちのかみさんの中国語教室の新年会。奈々先生とご主人の郭充さん。郭さんはフォトグラファー。昨年末他界した父君の郭博さんは建築家。フォトグラーファーとしても素晴らしい写真集を出版。それについてはいずれまた。
それからかみさんのジュエリー仲間の杉山洋子女史。うちのかみさんに私、という顔ぶれ。

着席間もなくメートルの鈴木さん「あの、うちのブログ、ご覧になりました?今日は特別に用意した料理がありまして、ひと皿分はご用意してございますが」。「あ、あれですね!」と「BISTRO KHAMSA」のブログをチェック済の私は思わずにんまり。ランチタイムに出かけても夜のアラカルトを所望、なんてわがままオヤジのごーまんぶりをご存知のメートルの鈴木さん。

ですけど、今回、私だけが夜のアラカルトからチョイス、というわがままは通らない感じなんで、はてどうするか。他の皆さん、ランチのメニューを見て何を選ぶかそれぞれ盛り上がり。
いろいろ検討の末、それぞれメニューが決定。

かみさんは前菜に「スモークサーモンのキッシュ」、メインはメニューにはありませんでしたがリクエストで「さつきポーク肩ロースのコンフィ」。
「あ、それ、美味しいって言ってた料理でしょ?私もそうしようかな。それに前菜は「自家製生ハムのさらだ仕立てにする!」と杉山洋子女史。「迷うわね……うん、私は「田舎風パテ」、メインは「仔羊のハンバーグ」と奈々先生。
「前菜は「スモークサーモンのキッシュ」にしよう。メインは……」と思案中の郭さん。

で、私。前菜、アラカルトから選び出したかったんですが、皆さんに合わせてランチ・メニューから前菜は「田舎風パテ」。
メインはどうしようか。というもの「本日の特別メニュー」が気が気でない。

メートルの鈴木さんに本日の特別料理、プラスアルファの値段でランチ・コースに組み入れ可能かってこととポーションを尋ねたところ
「う~ん、キッチンに尋ねてきます」。
そんな返事の後ですぐさま
「ランチコースの組み入れは大丈夫です。それにポーションですがお二人でシェアもできますが……」。

「おお、ラッキー!なら、ね、郭さん私とシェアしない?」
とまあ、郭さんに強引にシェアを押し付ける格好でメインは「本日の特別メニュー」に決定
「本日の特別な料理」というのは、実は渡邊シェフ、独立してオーナー&シェフとして店を持つことになったため、この日は「BISTRO KHAMSA」最後の日。というわけで用意した料理だったわけです。

さて、かみさんの前菜の「スモークサーモンのキッシュ」。
シンプルで素朴そう。ですが見るからに美しい。
こりゃ旨そうだ。付け合せのサラダも瑞々しい感じです。

ひと口頬張ってしばらく、うっとりとして「お・い・し・い」とウチのかみさん。
その味は……シェアしてもらえませんでした。

そして、私の「田舎風のパテ」。

これも見るからに美しい。緻密な肉質、ピンク色の艶やかな色合い。食をそそります。ひと口頬張れば、舌に触るざらっとした感触。肉質しっかり。それが噛み締めるとしっとり、ねっとり。塩味が利いてますが塩梅の加減、良いです。肉の甘味や旨さ、さらにはしっかり香り、風味がある。

パテ型のケース丸ごと一本テイクアウトして、朝、昼、晩、食べ続けたい感じです。「田舎風のパテ」、いろんなところで食べました。デリで買いました。自分でも作ってみました。そんな中で、私好みの味、香り、風味、ということではマイ・ベスト・スリーに入る一品。

「これ、すごく美味しい。香りがあるのがいいよね」と、シェアしたうちのかみさん。

2011/02/15

新年宴会パート2~BISTRO KHAMSA まずは長い前説

うちのかみさんが習ってる中国語の恒例の忘年会。
昨年末、先生の奈々さんのご主人のご家族に不幸があって中止に。
年を越えて新年会を開催と相成り、私も参加。
場所は中目黒の「BISTRO KHAMSA」。私同様、渡邊洋司シェフにぞっこんのかみさんのチョイスです。

うちのかみさん、友人とのランチに利用済。その時食べた「カスレ」を絶賛。
もっとも量もたっぷりなので全部は食べきれず、ナイショでお持ち帰り。
私も食べましたがかみさんが絶賛もなるほど、料理が旨いというだけでなくしっかり香りがあって風味が豊か。その味付けもさることながら「いんげん豆」に打ちのめされました。

「これ、すごいでしょ!この豆の茹で加減と味付け!」と、うちのかみさん興奮しきり。
絶妙の茹で加減です。すっと歯が入る滑らかな触感。
噛みしめるとはらりほろり身が崩れる。というぐらいにふっくらほくほく。
豆の素朴な甘味、旨味、風味がじんわり浮かび上がる。
しかも豆の旨さを引きたてる塩加減、その「塩梅」が見事。
「やっぱり渡邊シェフって、只者じゃないね!」とその夜は盛り上がりました。

そして私、実は正月の半ば、知人と「BISTRO KHAMSA」で昼食。
予約の際
「あのプレートランチや昼のコース、デジュネですか?季節柄、ジビエを食べたいんで、夜のアラカルトから選べればうれしいんですけど」
慇懃にわがままオヤジぶりを発揮。
電話を受けたのはどうやらアテンドの三好さんのようでした。

そんなリクエスト、予約の際にメモされていたらしくって、着席早々
「ジビエをご希望だそうで!」とメートルの鈴木さん。
手渡してくれたのはアラカルトも記された夜のメニュー。
わがままオヤジをくすぐる心憎いサービスです。

そして出会ったのが「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」。
「ブータンノワール」なら豚の血入りのソーセージ。
ですが、この料理の場合、腸詰ではなくってパテ仕様。
これがヒット。三塁打というにふさわしいヒット。
なんでホームランじゃないの、って?
ま、それはともかく「渡邊シェフは只者じゃない!」と、ますます確信。
渡邊シェフの料理への取り組み、その姿勢、料理センス、技量を物語る一品でした。「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」。豚の血入りのパテをリンゴのコンポートをはさんだトリプル・デック仕立て。さらにその表面を覆う薄い膜がある。あ、そか、これが「エスペレット風味のクルート」なのね。オーブンで焼かれたのか焦げ焦げでぱりぱり、さくさく。中国料理用語で言えばまさしく「脆」の触感です。

表面を覆う焦げ焦げのぱりぱり、クルートですが、後で渡邊シェフに尋ねてグリュイエールチーズ(どこのだ?)に生パン粉、バターを混ぜ合わせ、たっぷりの白胡椒とエスペレット唐辛子で仕上げ、冷蔵庫で締めたもの、だそうです。
エスペレット唐辛子?ネットで検索、バスク地方特産の唐辛子と知った次第。辛味は控え目、なんですけど、旨味がある。韓国唐辛子の中辛の手前の感じ、良質のカイエンペッパーかな? と、自分のしってる知識にたぐりよせて納得、なんてのがわがままオヤジです。

その表面、クルートね、それがオーブンで焼かれ焼かれて、塩味、醗酵味のひね加減が凝縮。そして、上下2層のブータン、豚の血入りのパテ、豚の血のざらっとした触感と鉄分しっかり。しかも、独特の甘味、コクがある。

その甘味、こくの正体。豚の背脂と玉葱だってことは私だってわかります。しかし、プラスアルファの何かがある。と思ったら、ミルク、牛乳でした。ちなみに、渡邊シェフがナイショで伝授してくれたレシピ。
私には再現不可能ですけど、それによれば

「1、背脂を細かく角切りにして鍋で溶かし、脂が溶けたら、みじん切りのタマネギを入れ、シュエします。

 2、次に牛乳、コーンスターチ、塩、白胡椒、黒胡椒、ナツメグ、キャトルエピスを加え、よ〜く火を通します。牛乳はよく火を通すと甘くなります、そうする事でシンプルなブーダンにボディーがつきます。

 イメージ的にタマネギが下半身、牛乳がお尻、腰回りです、火を加える事によりがっしりとさせます。この料理の場合、下半身は弱めです、アメリカ人みたいな体型にします」。

「ン!? タマネギが下半身、牛乳がお尻、腰回り」なんだか表現がエロチック。想像しちゃいますから(って、なにを?)ン!? もしかして渡邊シェフって……好きモノ(って、なにが?)「下半身は弱め」な「アメリカ人みたいな体型」って、をいをい。わかるようなわからんような解説、しかし、ニュアンスはばっちり。

ともあれ、豚の血入りのパテ、ざらっとした触感と鉄分が漲る感じ。そのぼってり、どっしりの甘さ、こく。リンゴのコンポート、火を通したリンゴのしっとりねっとりの触感、火を通したリンゴのフルーティな味わい、酸味が旨味に変化。

豚の血のパテとリンゴのポンポートが混然一体となって織り成す多彩で重層的な甘味、旨味とコク。塩味しっかり、なのに味わいは「軽い」。「わ、すげえや」と感嘆。アルザスかゼータクしてイケムと一緒なら、味わい、香り、ますます増幅!なんて思いました。

で、なんでホームランじゃなくて三塁打のなの?というのは、豚の血とリンゴのコンポートとの重層的な甘味、旨味、こくを包み込む、繋ぎ止めるひと味の甘さ、旨味、風味があるんじゃない?なんて思ったからですが……。まあ、知ったかぶりのわがままオヤジの戯言、ってことで!

けど、良かったなあ。「スタンダール風ソーセージ」の味、旨味、風味も抜群でしたが、この「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」、ずしんとキャッチャーミットに収まる直球まっしぐら、って感じの渡邊シェフの意気込み、意欲、そのまんま全開。それでいて「軽い!」、なんてところが最高に素敵でした。

2011/02/11

'11年1月の「赤坂璃宮」銀座店~新年宴会の5

「わ、もう、とっくにお腹が一杯、なのに~」という声も聞こえます。
すでに「發財好市」のあたりからそんな声もちらほらでしたが、「蒜茸炒菠菜」はなんとしても皆さんに食べてもらいたかった。
「もうお腹が一杯!」なんて方には無理強い状態。その甲斐あってお情けでお付き合いのひと口、のはずが加藤さんの味が濃くって頑丈な「ほうれん草」の旨さに、根っ子の甘味に取り付かれ、ほぼ全員がひと皿完食。

そこに登場してきたのが、締めくくりの面・飯の「鮑汁炆伊麵/伊府麵ときのこの鮑ソース煮込み」。私の好みの麵料理です。
「わ、どうしょう」なんて声とともに「麵とデザートは別腹ですから!」なんて声も。
「鮑汁炆伊麵」の「伊府麵」、日本ではなかなかお目にかかれない幅広い麵です。
特別に製造を依頼したか、それとも、香港から調達したものなんでしょうか。
その幅広の「伊府麵」、触感は「きしめん」に似てますけど、つなぎに玉子を使ってあるはずで、小麦粉にプラスアルファの味、風味あり。しかも「きしめん」を茹でると表面は半透明のつるんとした膜に覆われてますが、この「伊府麵」、いきなりざらっとした舌触りで、弾力のある噛み応え。
それも「干焼」仕立て、と言うのでしょうか。しっかりたれが麵に絡みつくまで炒められてます。そのたれ、甘味、旨味、こくと美味なる磯の香、風味がある。「鮑汁」、つまりは干し鮑を戻すときに生まれた煮汁のせいです。

プラスアルファ、オイスターソースの甘味、旨味、こくや、中国たまり醤油の「老抽」の味、風味もほのかに浮かび上がる感じ、なのですが、実際はどうなのか、袁さんに尋ねなきゃ。ともあれ、旨味、甘味、しっかり。伝統的な広東料理に特徴的な旨味、甘味にまったりとしたこくがある。しかも、後味はすっきり。そして「軽い」。というのは、料理人の調理、味付けの技なのは明白です。

そしてデザートの「甜品」。
いつもは各種「甜品」が並んだデザートプレートの披露がありますが、今回は温かい汁粉の「合桃露湯圓」で統一。
胡桃仕立てのお汁粉で、「湯圓」、つまりは団子が2個。
そのひとつずつ味、風味が異なります。なんてところが憎い。

さらに、新年には欠かせない「年糕」も登場。
白玉粉を主体にココナッツなどが加味されたもの。香港、というか広東式の「年糕」。
ういろうに似た触感。噛み締めれば歯にしがみつく感じのねっとり、粘着質な感じ。
香港の「年糕」、家ごとに、また、店ごとに味、風味が違います。久保田さんの手になる「年糕」。素朴で昔懐かしい味わいと風味。

久保田さんの「懷舊点心」、そのひとつひとつに技があります。「懷舊点心」と語るにふさわしく、昔懐かしい点心の味、風味をきっちり再現。
「懷舊点心」を中心にした飲茶ランチかディナー、なんとか実現したくなりました。

'11年1月の「赤坂璃宮」銀座店~新年宴会の4

次いで「粉絲蒸花蝦/活け海老と春雨の蒸し物」。

「わ、すごい!」と声が上がります。場が一気に華やぎます。
色鮮やかな美しい料理。というだけでなくお皿のど真ん中に「もう、どうにでもして!」なんて感じで横たわる一匹の「えび」が、目を捉えて離さない。見るからに旨そうです。
開かれた「えび」の腹の上には粗い小口切りの青ネギ。板の仕事、橋詰さんがいた頃とは変わりました。

それにしても「花蝦」ってなんだろう?大ぶりの車えびという感じですが、何というえびなのか、産地はどこなのか、橋本さん、山下さんに聞きそびれました。ともあれ、「活け海老」のにんにく風味の蒸し物、これまでにも登場しました。私の好きな料理のひとつです。

以前触れてきたように、海老にも旬があります。それに香港周辺で収穫される海老、タイ、マレーシア、ベトナムの東南アジア沿岸で収穫されて香港に届く海老と、日本の各地で収穫された海老は、その資質、味、風味が異なります。それも日本産の海老、香港のように茹であげた「白灼蝦」などではなく、何がしかの調理、調味をした方がその持ち味、生きるんじゃないでしょうか。

その調理のひとつがにんにくで蒸した「蒜茸蒸」。新鮮な魚介はなんでもそうですがちょっとばかり下拵えして、焼くなり、蒸すなり、茹でこぼすなど、火を通すと触感が異なり、味、旨味、風味が凝縮。活けの生の海老はこりっとした硬い歯触りですが、火を通せば身も締まります。

蒸せば(ま、蒸し加減にもよりますけど)、こり感よりもぷり感が際立ち、しかも肉質しっとり。ジューシーな味わいになります。それに甘味が立ち、旨味も凝縮。そこにたれをかけて仕上たのが「蒜茸蒸蝦」。
身も旨いですが、殻も旨い。殻ごとむしゃぶりつきたくなるほど旨い。さらにはたれ、海老の甲羅や身から出るエキスをたっぷり含んでいるので、これまた旨い。ご飯にかけて食べたくなるほど旨い。

今回の「粉絲蒸花蝦」、添えられた「粉絲」つまりは春雨が、にんにくで蒸した海老の殻や身のエキスのまじったたれをしっかり吸い込んでいる、という按配。つるつる、とろとろの春雨が、これまた旨い。
もともと「蒜茸蒸蝦」は、にんにくのみじんとたれで仕上ただけの料理でしたが、香港ではこんな風に春雨を添えて蒸すのがここ最近のトレンドにもなっている様子。海老の旨さをとことん堪能出来る一品でした。
そして「蒜茸炒菠菜/ほうれん草ににんにく風味炒め」が登場。

ほうれん草は埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんのほうれん草。譚さん、袁さん、それに宴会の参加者に是非とも食べてもらいたい、ってことで加藤さんにお願いしたものです。
「根っ子が旨いですから、根っ子つきのままで味わってみて下さい」と支配人の橋本さんを通じて譚さん、袁さんに伝言。そしたら、根っ子付きのままで登場。

「これ、旨い。ほうれん草の味も濃いけど、根っ子が甘くて旨いね!」
宴会の参加者から絶賛の声しきり。
冬場、加藤さんから届くほうれん草を食べてる私ですが、味が濃くって風味のある加藤さんのほうれん草の持ち味、香りを生かしたこの調理、味付けの見事さに感心。
ほうれん草の葉はしっとりとした滑らかな歯触り。根はほくっとしていて噛み締めると甘味が際立ちます。
塩味はぎりぎりの手前の加減で、だしの味が生きてます。それに、後味でにんにくの風味が浮かび上がる。
洗練された気品のあるほうれん草炒め。
プロの技に脱帽しました。

2011/02/09

'11年1月の「赤坂璃宮」銀座店~新年宴会の3

それから「發財大好市/干し牡蠣と髪菜の煮込み」。
待ってました、これこれ!(と、歓声を上げたのは私だけ!)伝統的な広東料理、豪華素材を使った一品で、新年には欠かせない料理です。

この「發財好市」、素材の「發髪」と「發財」、つまりは「財を成す」というの言葉と音が似ていること。さらに素材の「蠔豉」、干した牡蠣ですが、その音は「好市」、つまりは「好景気」、言ってみれば「商売繁盛」という意味の「好市」と似ている。なんてことから「髪菜蠔豉」の料理名を縁起を担いで「發財好市」としたもの。

素材の要は「瑶柱」、すなわち干し貝柱。干貨素材ではふかひれ、干し鮑、燕の巣などには劣るものの、魚の浮き袋の「花膠」などとともに並び称される。実際、干し貝柱の値段からすれば、贅沢な素材であることは明らかです。

その「瑶柱」、戻し方については料理本やサイトなどでも紹介されていますが、おっとどっこい、紹介されてるように簡単なものじゃないんですね。あ、私の体験ですが。その戻し方次第で、旨さ、こく、風味、断然違いますから。

料理本のレシピ通りにやってみても、香港の広東料理店で出会うそれとはいつも「なんだかなあ!」と、似て非なる感じ。なんてことで丸福食堂こと福臨門の呉錦洪さんや我が兄弟、周中師傳に願いを請い、教えられたレシピを元に工夫を重ねました。

袁さんが戻した「瑶柱」も、香港の広東料理ならではのもの。甘味、旨味、ひね味、風味があります。今度、尋ねてみなきゃ。

そんな「瑶柱」、「髪菜」ともに、この料理の味の要なのが丸ごとのにんにく。
ほくほく、ねっとりで、特有のくせをわずかに残した甘味、旨味、風味があります。
干し椎茸もしっとりとしていて、噛み締めればじゅわっと旨味、風味が口中にほとばしる。
そして味付け。だしは二番だしの「二湯」かな?それにしては上品で旨味があります。調味料はオイスターソースの「蠔油」、中国たまり醤油「老抽」。こくのある甘味、旨味、風味は伝統的な広東料理に特有のもの。塩味が利いていますが、角張ったものではなくて、おだやか。

そして、小皿に取り分けられた「發財好市」の下に見えるのは小松菜の炒めもの。実は埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんの「小松菜」です。今年の加藤さんの「小松菜」、味が濃厚で風味が豊。ほうれん草を凌ぐほどの見事な出来栄え。譚さん、袁さんに試食して貰うおうと加藤さんに依頼して送り届けて貰ったものですが、まさか、こうして登場してくるとは思いもよりませんでした。

譚さん、袁さん、加藤さんの「小松菜」の味の濃さ、香り、風味に着目、ってことらしくて急遽「跟菜」ということで、いわば付け合せってことで登場。しかも、こくのある味付けの「發財好市」の干し貝柱、髪菜、干し椎茸やにんにくとの相性は抜群。それらに負けない強さがありました。

この種の伝統的な広東料理独特の調味、日本の広東料理店でも出会えますが、オイスターソースの味ばかりが際立った濃厚な味付け、だったりします。ですが、この「發財好市」、まったりした濃厚なこくがある。なのに、後味はすっきり軽い。新年宴会だからこそのこの一品に出会えただけでも満足至極。その味付け、風味、そして、調理の技に感服。

2011/02/08

'11年1月の「赤坂璃宮」銀座店~新年宴会の2

そして「雪蛤蟹燴翅/カエルの皮下脂肪と蟹肉入りフカヒレスープ」。

ふかひれの料理は宴会料理には欠かせない一品。ことにふかひれは干貨素材の中でも最も馴染み深い素材ですから、皆さんの目の輝きも違います。
近頃、ふかひれの料理といえば姿煮がもてはやされますが、それが一般化したのは経済成長以後のこと。かつて香港でも宴会ではふかひれの散翅を使ったふかひれのスープが一般的でした。ということでは懷舊菜的趣向によるもの。
さらに、ふかひれだけでなく蟹肉が添えられていますが、もうひと素材加えられてました。
「ね、このカエルの皮下脂肪、って一体なんなの?」なんて声があがります。
「「雪蛤」は「蛤士蟆」とも言うんですが「蛙」の一種です。そのメスの「输卵管」を乾燥せたもので「雪蛤膏」とも言うんですけど、冬場を迎える前に養分を蓄えてあることから、薬効もあるというんで料理に使われるんですよ。コラーゲン質なんで美顔によいって言われてますけど。料理よりもデザートの素材に使うことが多いです」とひとウンチク。

スープはすっきりとした澄まし仕立て。だしの「上湯」の味、風味を生かした上品で洗練された一品。
ふかひれの「ぷり、ぷち」感と雪蛤の「こり、ぽり」感、という歯触り、舌触りの対比も、味わい所。かつて香港で地元の友人の宴会に招かれた時にであった懐かしいふかひれのスープでした。

そして「馬拉醤帶子/ホタテ貝のマレーシアソース炒め」。

帆立貝の貝柱のちょい厚目のスライス、「鱸」のすり身を素材にした「魚餅」の薄スライスと、赤と黄色のパプリカ、アスパラガスの炒めもの。さっと油通したらしい帆立の貝柱は、ねっとり、しっとりの触感。噛み締めると甘味、旨味が際立ちます。
「鱸」のすり身を素材にした練り物の「魚餅」は、関西で言う天ぷら、さつま揚げに似たような触感、味、風味。香港の潮州系の面粥店などではおなじみのものですが、ざらとした肉質、味、風味もしっかり、なのは自家製だからでしょう。私の好みの素材です。今度、自分でも作ってみよう。

色鮮やかな野菜は、それぞれに触感、味、風味が異なります。それらを「馬拉醤」で調味したもの。
「馬拉醤」、これまでにも新鮮な魚介の炒めもの、蒸し物にたびたび登場。醗酵味のこくのあるひね味がして、さらにはホット&スパイシー。ほのかな感じで、こく、旨味、ひね味、辛味が浮かび上がるという按配で、調味料の扱い、袁さんならではの行き過ぎない「手前加減」。

ところで「馬拉醤」。以前、紹介したように「蝦膏」と呼ばれるアミの塩辛の「蝦醤」を固形化したものや干し蝦の「蝦米」などに香味野菜、さらには唐辛子か唐辛子味噌などを加味して作るスパイシーな味噌。 なんですけど、今度、袁さんの使う「馬拉醤」の正体、確認をとってみましょ。

2011/02/05

'11年1月の「赤坂璃宮」銀座店~新年宴会

毎年恒例、仕事仲間の新年宴会。今年は「赤阪璃宮」銀座店と相成りました。
当初、宴会の幹事から場所の相談を依頼された私ですが、予算を考えて一瞬は思案。
もっとも「赤坂璃宮」銀座店にはリーズナブルに広東地方の郷土料理を楽しめる「家郷菜コース」というのがある。それを下敷きにしてプラスアルファの予算で実現が可能なんじゃないだろか。おまけに日頃の月例の会議のメンバーは4人か5人。それが新年宴会では頭数も増え、総予算も膨らみます。

中国料理店ならどの店だって「ご予算に応じて!」とあるように、一応の予算を用意すれば、料理の内容を改め、品数を軽減してもらいながら宴会の実現は可能なはず。それこそ、中国料理店ならではの魅力です。なんてことで「赤坂璃宮」銀座店の橋本支配人に相談をもちかけたところ「大丈夫です!」と承諾を得ました。
まずは前菜の「璃宮焼味盆/璃宮特製焼き物前菜」。

前列、右から伊達鶏の冷製、家鴨の焼き物の焼鴨、叉焼、皮付き豚ばら肉の焼肉。日頃お馴染みの品々。ですが「赤坂璃宮」銀座店初体験の参加からは「わっ、綺麗だね!」と驚きの声。その新鮮な感動の様子に気分が盛り上がる。いずれもひと切れずつですが、4種、皮と身の触感、味、風味の変化の妙が楽しめる。それにひとつひとつが肉厚。切り方が分厚くって、それぞれの印象は強烈です。

もっとも、伊達鶏の冷製、いつも気になるんですが、皮はともかく身はしっとりとしてるもののちょっと身が緩い。この身の緩さ、素材自体の特質なのか、もう少し身に締まりのある調理、工夫の余地ありなんじゃないかと思います。

家鴨の焼き物の焼鴨。これもいつもに比べると皮が緩い。もっとも、身のほうはしっかり火が通っていて、しっかりとした噛み応え。も少しレアな火の加減でもよかったかも。ってことは、皮の下拵え、火の通し方が課題でことでしょうか。

叉焼の表面は焼きがしっかり入って、甘味のある味付け。肉質しっかりで、噛み応えあり。ですが、ちょっと火の通し、私の好みからすると行き過ぎ、なので身のしっとり感が乏しいのがちょっと残念。
皮付き豚ばら肉の焼肉。さくさくとした皮と塩味が利いた肉が旨い。厚みもあって実に食べ応えがあって満足。さらに周りを囲む付け合せ類、なかでも干し椎茸のマリネ、しっとりとした触感とじゅわとあふれ出す干し椎茸の味わい、風味が印象的でした。
そして「椒塩鮮石斑/ハタのスパイス揚げ」。

「わ、でっかい!」。
大皿の端にでんと居座るハタの頭と尻尾。それからもこのハタの大きさがうかがえます。
ハタの身は、三枚に卸して、極太の切り身に。その切り身も肉厚。その見映えからすれば「油浸」の調理なのは明らかです。

「油浸」は、言わば「唐揚げ」なんですが、その下拵え、揚げ方、火の通し加減に特徴あり。皮もついた身の表面はかりっとクリスピー。しかも、さくっとした触感があります。さらに、噛み締めれば皮のぱりさくとは対照的に、身はしっとり。

身がはらり、ほろりと崩れ、ジューシーな味わいがほとばしる。甘味、旨味があります。それも、塩味、塩使いの按配が、脂がたっぷり乗ったハタの身が持つ特有の甘味、旨味を引き立てる。
この「油浸」の調理、中国各地にもありますが、ほとんどは「草魚/鯇魚」はじめ淡水の川魚がその素材。広東地方、ことに香港では海鮮の魚の調理に応用。中でも「油浸」で調理した老虎魚など、まさに絶品。

ハタもその素材には格好なもので、はらり、ほろりと崩れる身のしっとり具合、舌触りの滑らかさ、脂の乗った身の甘さ、旨味、風味はたまらないほど美味。単なる「唐揚げ」じゃなくって、魚の旨味、風味が存分に味わえます。ですが、日本では、それも広東料理店ではなかなか出会えない。というのは、やはり下拵え、火の通し方など調理に技があり。袁さんの技、実に見事です。

そんな「油浸」で下拵えしたハタの切り身に、にんにく、パプリカの微塵切りを揚げてまぶしてあります。
塩、胡椒や唐辛子、にんにくのヒリ辛味を利かせたもので、これまでにも紹介してきた「避風塘」風スタイル。
大ぶりのハタを調理したダイナミックな料理ですが、緻密で洗練された味、風味。それを引き立てるスパイスの利いた味付けも絶妙でした。

2011/02/04

節分 春節

今日は節分。例年通り太巻きをこさえました。
なんでも節分の「丸かぶりの恵方巻き」、今では全国的なイベントになったそうで。
ラジオに耳を傾けていると、その由来、曰く言われのもったいぶった紹介、うんちくあいついで紹介されてましたけど、そのほとんどが「をいをい!」なんて疑問沸騰。

もっとも、私、子供の頃、神戸にいた頃ですが「丸かぶりの恵方巻き」の体験なし。それが、うちのかみさん、大阪出身、しかも商いの一家に生まれ育ち、長年続けてきた習慣が我が家に持ち込まれた、という次第。

その具は干し椎茸、干瓢、押し(高野)豆腐、三つ葉、出し巻き玉子。
出し巻き玉子を除けばすべて精進仕立て。ですから巷で話題の「具は七品」とか「海鮮巻き」などとは縁遠い。
そういえば東京の太巻き、その具がそれぞれに存在を主張。しかも甘味が強くて味が濃い、というのが特徴ですが、我が家の太巻きはそれとは対照的。
干し椎茸は戻しただしに三温糖、薄口醤油で味をつけます。
干瓢、押し豆腐、出し巻き玉子のいずれとも、鰹節と昆布でとっただしが味の要。やはり三温糖と薄口醤油で味を調えます。
ですが、すべて薄味仕立て。
具の味、それぞれに存在を主張するのではなくて、具のすべてが寄り添うようにして、ひとつの味、一体味を形成、というのが特徴です。
そして、海苔。これも太巻きの味、風味の要。
我が家では伊勢の木野本海苔店から答志島産の「乾のり」を調達。

答志島産の海苔は「男海苔」。
浅草海苔のような「女海苔」とは対照的にその味、風味はがっしりとしていて、素朴で力強くて逞しい。しかも、精進仕立ての具の楚々とした純な味わいと見事にマッチング。
洗練された上品な味、風味を醸し出します。ことに「乾海苔」は巻物、それも精進ものとの相性がぴったり。魚介なら「焼き海苔」がいいですね。
ちなみに木野本海苔店の「乾のり」、10枚ひと束、400円。 消費税をプラスして、さらに取り寄せの送料込みでも、10枚ひと束、500円にもならないわけで、絶対のお買い得。 なんていっても「男海苔」になじみがあっての話、ってことになりますが。

そして本日は春節。
春節ならではの料理、実は過日、仕事仲間の恒例の新年宴会で出会えました。
その報告は後日にまた!