円錐形のぼてっとした形状で、切り分けると中はピンク色。肉汁がじゅわっと滲みでる。
「わ、美味しそう!仔羊のハンバーグ、主人が良く作るんだけど、ぜ~んぜん違う感じ。さすがプロだけあって、とても綺麗に仕上がってる。今度、こんな風にメンチカツ風に作ってみてよ!」と、私にせがむうちのかみさん。
「渡邊シェフの料理って「顔つき」が良いのね。見るからに「美味しい!」ってわかるもの」。
そして、郭さんとシェアすることになった私のメインの「本日の特別な料理」。「ビーフ・ウェリントン」でした。これが見事な逸品! 渡邊シェフが「BISTRO KAMSA」で最後の日を迎える何日か前、店のブログに以下のような告知。
「お料理はBeef Wellingtonです!青森牛のモモ肉を下焼きしてマッシュルームのペーストと、埼玉の加藤さんが送ってくださったスーパーほうれん草の、焦しバター炒めでお肉を包み、さらにパイ生地で包んでオーブンで焼きます。ソースは切れを持たせたマデラ酒のソース、調子に乗ってトリュフも入れちゃいます。裏メニューでコッソリとご用意いたします。オーダー時にタツローさんに「ねえ、あれある?例のおパイで包んだお肉?」と聞いてください。おパイで包んだお肉はふんわり柔らかくマッシュルームの香りに包まれ、スーパーほうれん草の甘さの中にある渋みが赤身の渋みとあいまって、食べた瞬間、悶絶即イキ完全無修正です。絶対旨いに決まってます、これが不味かったら、ワタシ相当腕が無い事になります。メニューに載ってませんからね~ブログ限定です。あと、個人的には気に入っているブルーチーズ風味のクレメダンジュもよろしくお願いします」とまあ、勝手に引用。すんません、渡邊シェフ!
うちのかみさんの言じゃないですが、ほんとに料理の「顔つき」が素晴らしい!画像でもわかる通り、青森産の腿肉、刺しが入ってます。その塩梅、レアな焼き加減が見事です。舌の上でとろける脂が甘い。まったりこくのある濃密な甘さです。それに赤身の部分、いちぼを思わせる味、風味がある。
その上に見えるのが埼玉、東松山の農業、加藤紀行さんの日本ほうれん草。焦がしバターで炒めたもの。実は、過日、BISTRO KHAMSAに出かけた際、我が家に到着したばかりのほうれん草を持参。
「加藤さんから届いたほうれん草、もうなくなっちゃったんでしょ。だからちょっとだけ持って来ました……で、もし出来れば、食べさせてもらえないかな?」
馴染みの常連客でもないのに頼み込んだわがままオヤジの私です。そして「青首鴨のパイ包み」に添えて登場した加藤さんのほうれん草、やっぱり焦がしバターで炒めたものでしたが、私には塩味が強すぎた。
ところが、今回の「ビーフ・ウェリントン」での加藤さんのほうれん草、その濃い味、特有の鉄分、えぐみ、甘味、ほうれん草の持ち味を見事に引き出した塩加減、塩梅です。しかも腿肉の脂の甘さ、赤身のほのかな血の味と見事にマッチング。
ぬめり感のある炒めた微塵のマシュルームとのアンサンブルも面白い。もしかしてマッシュルームに、アンチョビとか塩漬けのオリーブとか、醗酵したひね味が隠し味としてプラスアルファされてれば、どうなんだろう……なんてことも思いましたが、そうか、ほうれん草や腿肉とのアンサンブルてこともありますから、ごちゃごちゃ言っちゃいけないか。
この「ビーフ・ウェリントン」。素材それぞれの持ち味を生かした調理、アンサンブル、味付け、香り、風味の素晴らしさに脱帽!
渡邊シェフにメールでエールを送ったところ「なんとか最後にもう一波乱起こしたいなと思い、三振覚悟でやってみました」なんてありました。
本塁打、ホームランです、見事なホームラン!うちのかみさん達、御夫人方との一緒のランチじゃなけりゃ、ワンポーションそのまま丸ごと一皿食べられたのになあ、なんて後悔しきり。どうやらシェアした郭さんも同じ気持だったようです。
BISTRO KHAMSAから独立した渡邊シェフ、新しい店「Le Berkeley」の開店準備中。これが渡邊シェフのブログです。その店名、かつて料理人として渡米した際、お気に入りだった街にちなんだもの。
渡邊シェフ、70年代のウエスト・コースト・ロック好き。グレイトフル・デッドやジャクソン・ブラウン、トム・ウェイツ命!なんてところが、嬉しいなあ。ますますエールを送りたくなります