2011/02/15

新年宴会パート2~BISTRO KHAMSA まずは長い前説

うちのかみさんが習ってる中国語の恒例の忘年会。
昨年末、先生の奈々さんのご主人のご家族に不幸があって中止に。
年を越えて新年会を開催と相成り、私も参加。
場所は中目黒の「BISTRO KHAMSA」。私同様、渡邊洋司シェフにぞっこんのかみさんのチョイスです。

うちのかみさん、友人とのランチに利用済。その時食べた「カスレ」を絶賛。
もっとも量もたっぷりなので全部は食べきれず、ナイショでお持ち帰り。
私も食べましたがかみさんが絶賛もなるほど、料理が旨いというだけでなくしっかり香りがあって風味が豊か。その味付けもさることながら「いんげん豆」に打ちのめされました。

「これ、すごいでしょ!この豆の茹で加減と味付け!」と、うちのかみさん興奮しきり。
絶妙の茹で加減です。すっと歯が入る滑らかな触感。
噛みしめるとはらりほろり身が崩れる。というぐらいにふっくらほくほく。
豆の素朴な甘味、旨味、風味がじんわり浮かび上がる。
しかも豆の旨さを引きたてる塩加減、その「塩梅」が見事。
「やっぱり渡邊シェフって、只者じゃないね!」とその夜は盛り上がりました。

そして私、実は正月の半ば、知人と「BISTRO KHAMSA」で昼食。
予約の際
「あのプレートランチや昼のコース、デジュネですか?季節柄、ジビエを食べたいんで、夜のアラカルトから選べればうれしいんですけど」
慇懃にわがままオヤジぶりを発揮。
電話を受けたのはどうやらアテンドの三好さんのようでした。

そんなリクエスト、予約の際にメモされていたらしくって、着席早々
「ジビエをご希望だそうで!」とメートルの鈴木さん。
手渡してくれたのはアラカルトも記された夜のメニュー。
わがままオヤジをくすぐる心憎いサービスです。

そして出会ったのが「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」。
「ブータンノワール」なら豚の血入りのソーセージ。
ですが、この料理の場合、腸詰ではなくってパテ仕様。
これがヒット。三塁打というにふさわしいヒット。
なんでホームランじゃないの、って?
ま、それはともかく「渡邊シェフは只者じゃない!」と、ますます確信。
渡邊シェフの料理への取り組み、その姿勢、料理センス、技量を物語る一品でした。「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」。豚の血入りのパテをリンゴのコンポートをはさんだトリプル・デック仕立て。さらにその表面を覆う薄い膜がある。あ、そか、これが「エスペレット風味のクルート」なのね。オーブンで焼かれたのか焦げ焦げでぱりぱり、さくさく。中国料理用語で言えばまさしく「脆」の触感です。

表面を覆う焦げ焦げのぱりぱり、クルートですが、後で渡邊シェフに尋ねてグリュイエールチーズ(どこのだ?)に生パン粉、バターを混ぜ合わせ、たっぷりの白胡椒とエスペレット唐辛子で仕上げ、冷蔵庫で締めたもの、だそうです。
エスペレット唐辛子?ネットで検索、バスク地方特産の唐辛子と知った次第。辛味は控え目、なんですけど、旨味がある。韓国唐辛子の中辛の手前の感じ、良質のカイエンペッパーかな? と、自分のしってる知識にたぐりよせて納得、なんてのがわがままオヤジです。

その表面、クルートね、それがオーブンで焼かれ焼かれて、塩味、醗酵味のひね加減が凝縮。そして、上下2層のブータン、豚の血入りのパテ、豚の血のざらっとした触感と鉄分しっかり。しかも、独特の甘味、コクがある。

その甘味、こくの正体。豚の背脂と玉葱だってことは私だってわかります。しかし、プラスアルファの何かがある。と思ったら、ミルク、牛乳でした。ちなみに、渡邊シェフがナイショで伝授してくれたレシピ。
私には再現不可能ですけど、それによれば

「1、背脂を細かく角切りにして鍋で溶かし、脂が溶けたら、みじん切りのタマネギを入れ、シュエします。

 2、次に牛乳、コーンスターチ、塩、白胡椒、黒胡椒、ナツメグ、キャトルエピスを加え、よ〜く火を通します。牛乳はよく火を通すと甘くなります、そうする事でシンプルなブーダンにボディーがつきます。

 イメージ的にタマネギが下半身、牛乳がお尻、腰回りです、火を加える事によりがっしりとさせます。この料理の場合、下半身は弱めです、アメリカ人みたいな体型にします」。

「ン!? タマネギが下半身、牛乳がお尻、腰回り」なんだか表現がエロチック。想像しちゃいますから(って、なにを?)ン!? もしかして渡邊シェフって……好きモノ(って、なにが?)「下半身は弱め」な「アメリカ人みたいな体型」って、をいをい。わかるようなわからんような解説、しかし、ニュアンスはばっちり。

ともあれ、豚の血入りのパテ、ざらっとした触感と鉄分が漲る感じ。そのぼってり、どっしりの甘さ、こく。リンゴのコンポート、火を通したリンゴのしっとりねっとりの触感、火を通したリンゴのフルーティな味わい、酸味が旨味に変化。

豚の血のパテとリンゴのポンポートが混然一体となって織り成す多彩で重層的な甘味、旨味とコク。塩味しっかり、なのに味わいは「軽い」。「わ、すげえや」と感嘆。アルザスかゼータクしてイケムと一緒なら、味わい、香り、ますます増幅!なんて思いました。

で、なんでホームランじゃなくて三塁打のなの?というのは、豚の血とリンゴのコンポートとの重層的な甘味、旨味、こくを包み込む、繋ぎ止めるひと味の甘さ、旨味、風味があるんじゃない?なんて思ったからですが……。まあ、知ったかぶりのわがままオヤジの戯言、ってことで!

けど、良かったなあ。「スタンダール風ソーセージ」の味、旨味、風味も抜群でしたが、この「ブータンとリンゴのコンポート、エスペレット風味のクルート」、ずしんとキャッチャーミットに収まる直球まっしぐら、って感じの渡邊シェフの意気込み、意欲、そのまんま全開。それでいて「軽い!」、なんてところが最高に素敵でした。