続いては毎月の「例湯/老火湯」に代わって「潮式海鮮羹/海鮮入りとろみスープ」が登場。
「海鮮羹」は香港のホテルの中国料理店で度々体験。香港のホテルの中国料理店、それも高級ホテルの店では街中の広東料理店のように「例湯/老火湯」にはなかなかお目にかかれない。かといってふかひれの料理やスープでもなし。
そんな時、選ぶことの多いのが「花膠燉冬菇/魚の浮き袋と冬菇の湯煎蒸しスープ」、「韮黄花膠瑤柱羹/魚の浮き袋の細切り、干し貝柱と黄韮のとろみスープ」か「海鮮羹/海鮮のとろみスープ」。
ですが「潮式海鮮羹」というの初体験。いったいどういうとろみスープ?と興味津々。
とろみのついたスープ、その顔つきは「韮黄花膠瑤柱羹/魚の浮き袋の細切り、干し貝柱と黄韮のとろみスープ」に似ています。
ひと口食べてみると、まずは酸味、それから辛味。
「ねえ、これって「酸辣湯」みたいじゃない?」
「うん、うん、そんな感じ。似てる。けど、四川の「酸辣湯」みたいに、酸味も辛味も直接的というか刺激的じゃないし、ひりひりの感じがしなくて、マイルドだね」
「生姜の香りもしますね」
その具は、えび、ほたて、いかの粗微塵に、セロリ、ねぎなど。
それにしてもなんで「潮式?」。袁さんに聞きそびれました。
そういえば潮州料理では「辣」の辛味、意外に登場します。広東料理よりも頻度が多いぐらい。
もちろん広東料理でも赤、青の生の唐辛子、よく使われます。それに唐辛子を原料にした広東地方独特の「辣椒醤」があります。飲茶の時など、調味料とのひとつとしてテーブルに用意されています。独特の刺激的な辛味とひね味があるもので、はまって病みつきになる人も少なくない。日本の広東料理店ではお目にかかれないものですが、中国料理食材や調味料を扱う店の棚に並んでます。
もっとも、ここ最近、ってこの10年ほどですが「辣椒醤」をテーブルに用意する店は少なくなりました。ことにホテルの中国料理店や高級料理店では。というのも「XO醤」の出現とその一般化以後、「辣椒醤」にとって代わるものとなったからであります。
潮州系の店では広東系の「辣椒醤」にとって代わるものとして潮式の「辣椒醤」があります。潮州系の「辣椒醤」、辛味はありますが、広東系の「辣椒醤」のようなひね味はなし。むしろ唐辛子の刺激的な辛味を生かしたもので、油も原料になっています。
ということでは四川の「辣油」に似た感じ。 とはいえ四川の「辣油」と異なるのはアミの塩辛の「蝦醤」、あるいはえびの子の「蝦子」など海産の干し物、調味料や加工物、加味された「海鮮風味」になっているのがその特徴。さらには大蒜、葱などの香味野菜などが加えられることもあります。それも店によって加味する素材、分量、つまりレシピが異なりますから、店ごとに味が違います。
ことに潮州系の麵粥店、粉麵店での自家製の潮式「辣椒醤」は千差万別。
時に「これ、旨い!」なんて潮式「辣椒醤」に出くわします。そんな時、即座に「あの、この「辣椒醤」、すげえ、旨い。分けてもらえません?」と願い出る私です。
おもしろいことにどの店も自家製の潮式「辣椒醤」はご自慢らしくて、その言葉に店主はニンマリ。
たいていの場合「いいよ!」なんて返事が帰ってきます。
有料なこともあればただでおすそ分け、なんてこともある。
わたしの場合「有料:無料」の確率「2:8」。
というわけで我が家の冷蔵庫には戦利品の潮式「辣椒醤」が所狭しと並んでます。
それにしても「なんで「潮式海鮮羹」?」という疑問。袁さんには聞きそびれましたが、この「辣の味、すなわち「辛味」にそのわけありなのでは?なんて、勝手に解釈、納得しました。それにまろやかな「酸味」。
そうそう「だし」の旨さも見逃せない。味わい深い「だし」。
それがあってこそこの「潮式海鮮羹」は旨い。
上品で洗練された奥行き深い味わいでした。