2008/09/29

秋の訪れ~9月の「赤坂璃宮」銀座店の2

 しっかり旨味、こくのある「栗子煲鶏湯/鶏肉と栗の土鍋スープ」のスープを味わい、だしを生んだ鶏肉、栗、蜜棗まで味わって、2品目にして充実気分。

 そして登場したのが「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」。
 豚の挽き肉に慈姑(くわい)などを加え、蒸した「咸魚蒸肉餅」は、広東地方の郷土料理、家庭料理の定番中の定番ともいえる一品。
 おかずにうってつけなもので、なんといっても「咸魚」のくせのある味、風味に病み付きになった人なら、必ず好物に挙げるほど。

 主素材は豚挽き肉ですが、「咸魚」だけでなく、するめいかの一夜干しの「魷魚」、漬物の「榨菜」などを加えます。あるいは、塩漬けの家鴨の卵の「鹹蛋」をトッピング。それに豚挽き肉で作る「肉餅」には、慈姑を入れたり、入れなかったりします。
 ともあれ、「肉餅」の種類、バリエーションは実に豊富。調理方法としては蒸す以外に、6月の「赤坂璃宮」銀座店のメニューに登場したミニサイズの土鍋を使った「鹹魚肉餅煲仔飯」でのように、ご飯と一緒に炊き上げるという方法もあります。

 今回の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」は、メニューにも明らかなように、素材、味付けは同じでも「蒸」ではなく「煎」、煎り焼にしてありました。
 その「咸魚煎肉餅」、普通は直径4センチ、高さ2センチほどの厚みのある円形、さしずめミニ・ハンバーグ風の趣で、煎り焼きにする。

 その煎り焼き、「煎」ってことから煎り焼きと紹介しましたが、普通は「油焼き」、つまりは鍋に油を引いて、油で焼き付けるってことです。が、それ以外に鍋に油を張って揚げる感じで焼きつける、という方法もある。

  さて、「赤坂璃宮」銀座店の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」、なんと「ささげ」を編み込んで受け皿にし、その上に豚挽き肉の肉餅をのっけ「煎」したもの。
 凝ってます。茶色の肉餅とささげの緑の色彩の対比、見た目の素晴らしさが、目をひきつけます。  

 肉餅は、外側はぱりっとした「脆」の触感ながら、噛み締めればやわらかく、しっとりの触感で、ジューシー肉汁がほどばしる。噛み締めれば、慈姑(くわい)のさくさくの触感が心地よく、おまけに塩味の利いた「咸魚」の味、風味が浮かび上がる。しかも、肉餅の具の「咸魚」の分量、使い方、それも塩味の加減が素晴らしい。まさに「塩梅」という言葉がぴったりなほど過不足なく、しかも、ぎりぎりのところででとどめをさしてある感じで、めりはりのある味、風味を生み出してます。

 そういえば、先月、触れたことですが、塩漬け魚の「咸魚/鹹魚」、えびみそ/アミの塩漬け醗酵みその「蝦醬」、塩漬けの醗酵豆腐の「腐乳」など、クセのある調味料は、現在では、日本でもその存在を広く知られ、広東料理店、中国料理店でもそれらを味付けに使った料理が登場し、人気を呼んでいます。

 ところが、どういうわけだか、香港、台湾、中国本土などに比べて、その使い方、分量が明らかに過ぎる。ま、個人的な印象、感想ですが、それらに比べ「赤坂璃宮」の銀座店、譚さんの「肉餅」の味付け、「咸魚」の分量は、過不足なく、行き過ぎってわけでもなくって、ちょうどの「塩梅」。

 ささげと肉餅、色あいだけでなく、触感、味、風味も対照的。
 ささげも、一緒に油焼きしてありますから、皮はぱりとしていて、ささげ自体、歯応えもある。噛み締めればのあの青い味、独得の土臭さが浮かび上がる。ささげの旬は夏。ということなら、名残ものってことになりますか。

 肉餅とささげ。その組み合わせ。 ささげを編カゴ風に仕立てたアイデアに脱帽。 ワザと工夫の産物です。
 それに「咸魚」で味、風味付けをした「肉餅」は、前述の通り、本来はおかずにうってつけな一品。
 「これ、食べてると、ご飯がほしくなるね」なんて声が挙がったのも当然です。
 しかし、今回の「咸魚煎肉餅/塩魚風味豚挽き肉の煎り焼き」」は、おかずというより料理というにふさわしい一品。宴会料理に組み入れても、なんら遜色がありません。意表をつかれた一品でした。