魚は「いとより」。知らないわけじゃありませんが、こんなにでっかい「いとより」との出会いは初めて。駅前のスーパーで見かける「いとより」はうんと小粒。
手に入れても煮付けにするか、アクアパッツアにするか。煎り焼きにしてから広東白菜に杏仁なんかとともに「例湯」もどきにしたことがありますが、良かったという印象もなく、日頃は馴染みなし。
香港や台湾あたりでは海鮮料理店の店頭にある生簀でみかけたことがあって「清蒸」でも「紅炆」でも「油浸」でもいけるよ!なんて話を耳にしながら、なんとなく乗り切れなくって未体験。
ですが、今回、袁さんの調理した「豆豉蒸紅衫」を再認識。こんぐらい大きいと「いとより」だと「いけるワ!」。
ひと口食べて身の「ゆるさ」に驚きました。あいなめ、ほっけの触感に通じるしっとり系の肉質。ですが、しゅわしゅわじゃなくって、ほろり、はらりとほぐれていく感じ。どうやら蒸し物、広東式の魚の唐揚げの「油浸」などにうってつけなことをすぐさま察知。
「「いとより」の持ち味、個性、特質って、こんな風だったんだ!」と認識した次第。今度は別の調理法で食べてみたい、なんてつもりにもなった程。ネットで検索すると大ぶりの「いとより」は高級魚扱い。ワ、どうしよう、今回も予算オーバー!なんていいながら、美味の誘惑には勝てない。
技と工夫ありの味付けというのは「豆豉」(黒豆醗酵味噌)のひね味、旨味、こく。それに新鮮な唐辛子が使われていて、辛味にフルーティな味、風味がある。
その味、風味からふと思い出したのは6月に食べた「泡椒小扇貝/帆立貝と漬け菜の蒸し物」に使われていた四川の唐辛子の漬物の「泡辣椒」、それに魚醤などで作った「赤坂璃宮」特製の「海鮮醤油」の味、風味。ふっと「陳皮」の味、風味が鼻先をよぎる。
料理自体の見映え、味、風味、一瞬、四川の「魚香鮮魚」のよう、ですが「違うワ、この料理は!」と、即座に右だか、左の脳がその考えを「却下」!
というのも、その味つけ、風味、なんだかエキゾティック。ついでに言えば「トロピカル!」。そう、なんだかタイの南方系の魚料理を食べてるような思いに駆られるからです。
その要因はナンプラー/ヌクマムと思しき、特有のクセのある味、風味。「赤坂璃宮」の「海鮮醤油」って、実は、エキゾチック。明らかに東南アジア系のそれ!です。さらに魚の上に乗った小ねぎ、香菜、その緑がなんだかトロピカル。ですけど、味、風味の基本は中華風。醗酵品の酸味、ヒネ味が利いていて、すっきりさっぱりの味わい。そんな味付け、蒸す調理が「いとより」にぴったり。
「いとより」の「ゆるい」身の水っぽいさが抜け、調味料の旨味、ひね味をしっかり吸収。しかも、ほろり、はらりの肉質としっかり馴染んでます。しかも、すっきり、爽やかな爽快感がある。
「そうだ!」ってことで思い出したのは潮州料理の店で出会った鱸を梅醤で蒸した料理。醗酵系の酸味、ヒネ味、酸味。そこに生の唐辛子の爽快な辛さがプラスアルファ。蒸した魚の上に青葱、香菜のどっさり、なんてプレゼンテンショーンもそんな感じ。
橋本さんに頼んで袁さんに調味料のことを尋ねたら「「「海鮮醤油」は入ってますが「泡辣椒」は使用してません。それに、赤と青のピーマン、香菜、陳皮、生唐辛子などです」とのこと。
「なんだか漬物を使ってある感じ!」とIさん。
「え!使ってないって?だとしたら、なんだろ、この味?」。
「多分「豆豉」と「海鮮醤油」の醗酵したヒネ味のせい、でしょうね。それより、このすっきり、爽快で、フルーティーな辛さ、いいですね!生唐辛子のせいなんだ!」
醤油系の味付けで仕上る「清蒸魚」だと、白いご飯の上にのっけて食べたくなる。ですけどこの「豆豉蒸紅衫」、そのまんま爽快な魚料理としてしっかり味わいました。