2009/09/23

中秋節~月餅の2

 日本では一年中販売されている新宿の中村屋の「月餅」がことに有名。「月餅」と言えば中村屋のそれを思い浮かべられる方が今だに多い。ですが、中国ではこの時期限定のもの。しかも、地方によって特色があります。

 北方の北京、天津などの京式。中部の上海近郊、江蘇/浙江省では、前項の「蔡菜食堂」でも触れてきた通り、主要都市、隣合わせの土地でもそれぞれ料理に特色があるように、「月餅」もそれぞれ異なる。そのうち「蘇州式」の「月餅」を食べたことがあります。 さらに、私は未体験ですが、西部の四川、雲南あたりでも、独自の「月餅」があるんだそうで。

 そういえば、日頃、中国事情をご教示いただいている東山堂ベーカリーの原田さん。私が香港の師と仰ぐひとり、邱永漢さんと共同出資でパン、ペストリーの製造直販とカフェのQ’s Cafeを北京で運営。  今では日本式の美味しいパンやペストリーが話題を呼び、地元では評判の店。ですが、開店当初、北京の地元の人にはパンもペイストリーも馴染みがなく、苦労続き、だったそうで。

 ところが、中秋節の時期に、ひと工夫した斬新な「月餅」を売り出したところ、日頃のベイカリー&ペイスリー類よりも高い値段だったのにもかかわらず、好評を博し、それまでの赤字を一気に取り戻すほどの売り上げを記録、なんてことがあったそうです。

 ともあれ「月餅」となると、中国の人は目の色を変えます。伝統的なスタイルの「月餅」もさることながら、斬新な新趣のものにはすぐ飛びついて、競って手に入れようとする。値段の高さはお構いなし。むしろ、斬新、奇抜、しかも、値段の張るものほど、評判を呼んだりする。見栄っ張りな上海人はもとより、北京人も「月餅」に関してはそうだ、というのですから驚きです。

 はたして、本土の事情は詳しくは知りませんが、香港あたりでは、名月をめでながら食べるだけのものではなく、日頃、お世話になっている方への贈答品として欠かせない。言ってみれば日本の盆暮れの挨拶、お中元やお歳暮に匹敵するのもの。

 かつて庶民の暮らしが決して豊かでなかった頃も、その習慣は守られ、しかも、有名どころ、老舗の月餅を用意してお世話になった方に送ったそうです。といって、その出費、ばかりなりませんし、一時に支払うのは容易じゃない。

 そんなことから、毎月、少しずつお金を納めておいて、そのために準備する、なんて「月餅講」のようなものもあった、なんてのは、香港の食の文化史を紐解けば、明らかになります。

 さて、「月餅」。各地方ごとにそれぞれ特徴あり。とはいっても、基本は、ほぼ同じ。その皮は、それぞれに工夫を凝らし、なかには一年あまりかけて寝かせながら作る砂糖を主体にしたシロップ状の「糖浆」、「糖膠」と小麦粉などをまぜあわせたものが主体。

 そして、その餡にそれぞれ特徴がある。
 広東式でもっとも一般的なのは、香港にもその流れを汲む店がある広州の蓮香樓がその原型を生んだとされる蓮の実で作った「蓮蓉」の餡をベースに、家鴨の塩漬け卵の「鹹蛋」を加えたもの。

 ちなみに蓮の実の餡の「蓮蓉」には「紅蓮蓉」、「白蓮蓉用」、「黄蓮蓉」の三種があります。その違い、使う砂糖の種類によって違うようです。さらに具に加える「鹹蛋」が一個なら「蓮蓉蛋黄」、二個なら「蓮蓉雙黄」、さらに「三黄」、最も多いもので「鹹蛋」四個入りの「四黄」と、個数によって呼称が変ります。それに「蓮蓉」以外に小豆の「豆沙」、緑豆の「緑豆」などもあります。

 蓮の実、小豆などの餡以外に、木の実、干した果実を主体にしたもの、さらに、中国ハムの「火腿」や塩漬け肉の「咸肉」などを餡にしたものもあり。ですが、一般的に有名なのは蓮の実の餡による「蓮蓉」のもの。しかも餡はしっとり、潤んでいるのがその特徴。香港の月餅のほとんどは、以上、「広東式」に準じたもの。

 北方の「京式」では、干した果実、木の実を餡にしたもので、しかも、乾いた干し菓子風なのがその特徴。それが上海近郊の「蘇州式」では、皮が薄くて脆く、さくさくの「酥」状態。そうだ、日本の上海料理店で食べられる大根のパイ、あれに近い感じで、皮に焼き色がつき、餡に工夫があり。

 その見かけ、先に紹介した「潮州式」に近い。ですが、揚げるんじゃなくて、オーブンで焼いたものと直火焼きのものがあり、焼き色がついてます。餡は木の実、干した果実、小豆餡などによる甘味のある「甜月」、それに「火腿」、「咸肉」などの干した肉類を主体とした「咸月」がある。

私は香港の料理研究家の莉沙女史のお宅で御馳走になりました。他に蝦入りのものがあるってことで、干し蝦を餡にしたものかと思ってましたが、どうから蝦を加工したものらしいくって、私は未体験。

 そして「潮州式」の月餅。潮州は広東省の一部ですが、料理がそうであるように、独自のものがある。ことに「汕頭」のものが有名です。そんな潮州、厳密には汕頭の南、潮陽県の貴嶼地方の伝統的な餅、飽、菓子類を香港で製造、販売しているのが九龍城市の城南道にある「和記隆」。日常的な懐かしい菓子類などと同時に、婚礼をはじめ祭事に欠かせない菓子類を手広く販売。

 城南道にある販売店は、昔ながらのお菓子屋さん風の店構え。目の前にある潮州料理の「創發」に出向くたび、ついついのぞいてしまいます。

 日頃はおばあちゃん、おばちゃんがおやつのお菓子を買いに、とまあ近所御用達の風情ですが、盂蘭盆に入ってからは看板の「潮式」それも「百合酥餅」を求める人だかりで一杯。

 確か「百合芋泥餅」は、一年中、手に入れることができたはず。ですが、各種の「百合餅」がで早漏のは盂蘭盆に入ってからで、中秋節が終わるまで。最近では「鹹蛋」入りの「百合餅」を売り出してますが、どうやら昔ながらの「百合餅」の人気、評判大。 九龍城市におでかけの際、「創發」にでかけたついでに是非、のぞいてみてください。

 画像はいずれも「和記隆」のもの。パンフレットは勝手に借用なんで、問題ありの際には削除します。