ほくほくの「蚕豆」が旨い。火の通し加減、按配が絶妙です。確かにあの独得の「匂い」がない。「蚕豆」にからむ「雪菜」の味、風味も成る程。漬物独得のクセのある味、風味。しかも、旨味をさりげなく加味、というあたり効果絶大。
そういえば、私、この季節、「空豆」のパスタを頻繁につくります。「空豆」は茹でたりなんかせず、一個、一個、丹念に皮を剥いて、ニンニクと唐辛子風味のオリーブ・オイルでじんわり、じっくり火を通したもの。憧れの料理人で、色々と学ぶことの多い狐野扶実子さんのレシピをもとに、手前勝手に工夫しました。その風味漬けに「アンチョビ・ペースト」を必ず使います。つまりは「蝦醬」を使うのと同じ要領で。 ということは、「蝦醬」を漬物に替えたのがこの料理ってことか!
一緒に炒め合わせた「圍蝦」、才巻きのぷり感、甘味が良いなあ。 実は、当初「えび」じゃなく「「蚕豆」と「龍蝦」では?」という提案がありました。「龍蝦」、つまりは「伊勢えび」ってことです。
「伊勢えび」と耳にして、胸をとめかせて小躍りする人、しない人。私、しない人。これまで「これぞ!」という「伊勢えび」に出会ったのは数えるほど。良いのに滅多に巡りあえたことがないもんで、ついつい懐疑的で、疑心暗鬼。
それでも「龍蝦」を薦めてくれたのにはワケがありそう。
「「龍蝦」って、どこ産のですか?まさか、香港の近海ものの小ぶりの「龍蝦」の「ベビー・ロブスター」が入荷したの?あれ、私の一番の好みです」
「香港の近海ものの「ベビー・ロブスター」なんて、昔話。獲れなくなっちゃんですよ、最近。たまにあっても、その量はほんのわずかですから、滅多に口にすることはできません」
「すると、今回のお薦めは日本産の伊勢えび?でも、これぞといえる良質なのってなかなかないでしょう。なんだか水っぽくて大味で、風味が足りなかったり、火を通しても甘味、旨味を感じないぼってりしたものが多いし……」
「それに、日本の「伊勢えび」ってメタリック(金くさい)のが多いでしょ?」
「なるほど、言われてみればの話だね。じゃ、日本産でないとして、どこの?」
「ニュージーランド産です」
「そうだ、香港の香港島店、九龍店もニュージーランド産の伊勢えびを使ってるよね。そういうことだったのか。そうそう、日本じゃオーストラリア産のものが盛んに輸入されてて、禁漁期はニュージーランド産が来るって話を聞きましたね。そのオーストラリア産のを食べたことがあるんだけど、なんだかなあ、って感じだったんで。でも、ニュージーランド産のを日本で食べたことはないなあ。そういえばニュージランド産とオーストラリア産じゃ違うって九龍店の梁保も言ってましたね……」
なんて伊勢えび話で盛り上がりながら、結局、今回は見送り。もっとも、今回、才巻海老を使って正解。ですが、ちょっとがっかりしたのは「魷魚」。「やりいか」でした。素材自体はグッド。ですが、その下拵え、包丁の切り込みがいささか乱雑。この一つ前のコラムでの「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」の画像見れば、それは歴然。
本来はぬめっとしていてねっとりの「いか」の身に包丁を入れ、ぷちぷちの触感、爽快感を加味という寸法。ところが包丁の切り込みが乱雑でざらっとした触感。それだけに「いか」の緻密な触感、その持ち味、ことに甘味、旨味がそがれてしまっていたのがちょいと残念でした。
たまらず、アテンドの清水さんに 「あのう、この「魷魚」の下拵えなんだけど、「板」はどういう人がやってんの?」 生意気な私です。ですが、それを確かめられずにはいられないぐらいに、ちょいと乱暴な包丁の切り込み、下拵えだったもんで。 ついでに言っちゃえば「雪菜」の切り揃えもいささか乱雑。それもまた、味、風味をそがれる感じで……。
「こういうこともあるんだ」とひとりごち。 青木さん、しっかり聞き届けていたみたいで 「そですね。これはちょっと残念だ!」と、同意のぽつり。その点をのぞけば「雪菜蚕豆魷魚圍蝦」はOK。 でも、「魷魚」なしでもよかったかもなあ。なんて、しつこくてくどい小言ぢぢいの私です。