2009/03/05

元宵節 2月の「赤坂璃宮」銀座店の3

 そして「圍村大盆菜/新年を祝う大盆菜」。これぞ新年、春節の行事の締めくくり「元宵節」を祝う香港ならではの料理です。
 料理名に「圍村」とあるように、九龍半島の北、新界の農村地区に散在する塀に囲まれた独自の生活様式を持つ村落に昔から伝わる伝統料理で、新年や慶事の際に用意されるハレの日の御馳走。

 「盆菜」についてはネットで検索すれば明らかですが、広く知られているのは南宗時代に帝が都を追われ、辿り着いたのが新界のあたり。同地の住民が帝へのもてなしとして供したのが「盆菜」のそもそもの発端だ、という話。

  私が「盆菜」を知ったのは客家料理店でのことでした。随分昔の話です。 実は、新界の農村地区の村落の生活様式は客家のそれに類似したものがあります。 「圍村」、つまりは塀に囲まれた村落の生活様式などその最たるもの。

 資料をあたれば明らかなように、もともとの「盆菜」は豚肉に家鴨、鶏などの家禽類による肉料理、干椎茸などの乾物に野菜料理が主体。その料理方法、味付けは、地元広東地方よりも、北方の煮込み物に似て、濃い目の味付け。なんてところは客家料理に似ています。

 後年、新界周辺の沿岸地域で水揚げされる魚介類、さらには、広東料理の豪華宴会では欠かせない干し鮑、干しなまこ、干した魚の浮き袋や干し貝柱などの「干貨」などが加えられうようになったもの。
 最初は木桶、それが銀や錫の大きな器を何層にも重ねて供する、というのがその特徴。重箱におせちを詰める日本の正月料理さながらです。

 「盆菜」を作る際には村人が共同で何日もかけて下拵えや調理にあたり、腕を振るうといのが恒例のこと、素材、内容など、基本的には似通っているものの、それぞれの村落ごとに味付けや調理に独自の工夫がある、なんてことです。

 今でも昔ながらのやり方に倣い、村人が共同で作る村などもある一方、近年にはそれを料理店に依頼。結果「盆菜」を看板にし、仕出し、あるいは店で提供する専門の料理店が新界、ことに元朗にいくつかあります。残念ながら、私は未体験。香港の街中では客家料理の店が供するぐらいでした、

 それが、ここ最近、広東地方独得の伝統的な料理、昔懐かしい「懷舊菜」が脚光を浴びるようになったのと前後して、街中の広東料理店が「盆菜」に目をつけ、特に新年の祝宴の看板料理として売り出し始め、以来、ちょっとしたブームになり、話題を呼んできました。

 そんな「盆菜」に「赤坂璃宮」銀座店で出会えるとは思いもよりませんでした。
 で、今回の「盆菜」、コースの中の一品ですから、その簡略版。とはいっても、近頃流行、ブームになってる街中の広東料理店の「盆菜」さながら、中国料理の素材でも最も高価な「干貨」を主体にした豪華絢爛な「簡略版」。

  正直な話「盆菜」を目の前にして、生唾をゴクン。同時に、その素材、内容を見て「エッ!!どうしよう、こんなにすごい内容で!!!」と、焦りました。ビビリました。

 まずは、干しなまこの「海参」。その大きさ、形からすると「婆参」の様子。それに魚の浮き袋の「魚肚/花膠」。う~ん、形状と厚みとからすると「ボラ」の浮き袋かな? それに干し貝柱の「瑶柱」。これは「たいらぎ」じゃなくって日本産の帆立貝の貝柱に違いない。干し椎茸の「冬菇」もどうやら香港、中国では極上品扱いされている日本産の様子。

  ここに干し鮑が加われば、極上の干貨素材をひと鍋にして供する「海味一品煲」ではないですか。そういえば、香港の広東料理店での「海味一品煲」のそもそもの発端は盆菜」にあり、なんて話を聞いたこともあります。「海味一品煲」も、確か南巡した帝に提供したのがそもそもの発端だった、なんてことでした。

 加えて、蝦のすり身団子、「髪菜」入りの魚のすり身団子も。その横には青梗菜。下に大根の煮込みが潜んでいました。というあたりは、まさしく「圍村」に伝わる昔ながらの「盆菜」内容です。

 その味付けは、だし(「上湯」)が利いたもので、干し貝柱の「瑶柱」を戻した際に出るだし、あの旨味、甘味、こくも加味されたもの。それに「蠔油」、つまりはオイスターソースらしき味、風味、甘味、こくなども。もっとも、これみよがしじゃなく、手前の加減でほのかな感じ、なのがいかにも袁さんの「腕」と「技」らしいところです。軽く、すっきり、穏やかで、上品で洗練された味、風味。それに、適度なとろみがついている。そのとろみの付け方の加減、按配がまた見事。

  ですから、口に運べば、最初、唇にふれるのは滑らかな「とろり」の触感。ですが、噛み締めると「海参(なまこ)」はプルンとした弾力があって、ぷりぷりの歯ざわり、噛み応え。魚の浮き袋の「花膠」は、ムチっとしていて、ねっとりの感じ。

 「コラーゲンたっぷり!お肌がツルツルになっちゃいますね!」なんて声もあがる。

 「瑶柱」は、はらりとほどけ、繊維がほろほろと崩れていく。旨味、こくがたまらない。干椎茸を噛み締めれば、じゅわとジューシー。旨味が口中に広がる。そうか、干椎茸のだし、も効果あり、と思わず納得。

 蝦のすり身の「蝦丸」はすり身の加減の按配、そのぷりぷりの歯ざわり、噛み締めれば滲み出る味、風味が、これまた上品。白身魚のすり身の「魚丸」も、適度に歯ざわりを残した触感、「つなぎ」の按配がよくって、魚のすり身の団子とは思えない奥床しさ。

 実は、練り物が好きな私ですが、市販のものは大抵がアミノ酸入り。というわけで、おでんだね、それに、潮州風の汁ビーフンの具にするとき、白身のすり身を買い込んだり、自分ですり身を作りますが、つなぎの按配、加減が微妙で難しい。なんて、ま、素人の料理オヤジですから、無理ないか。なんて、体験つんでるもんですから、魚のすり身には感心しました。

 それにしても内容充実、「干貨」をたっぷり味わって、満足至極。
 なんといっても日本で「盆菜」が食べられるなんて!おまけに、客家風の濃い味付けじゃなく、すっきり、さっぱり、上品で軽い味付けなのに、参りました!