2010/05/02

賽螃蟹~蟹もどき“卵白の淡雪炒め”の5

 そんな「蟹肉炒鮮奶」の紹介の一文にシェフ曰くとして
 「象の皺ができるように炒めろ。中国ではそう表現します」 なんてあったのに思わず「ン!?」。

 そんな表現、知りませんでした。
 初めて知った表現です。
 けど、なんだかヘンな表現。
 
 知らないこと、知らなかったことに関してはその事実、真相、実態を知りたくなるのが私の性分。歳をとるたび井の蛙だってことを思い知り、無知を嘆くことしきりの今日この頃、知りたくなります。もっとも、資料をあたったところで、ひとつの資料だけでは心もとない。やはり、いくつもの資料、文献をあたって、記述、証言を付き合わせて検証しなみないことにはその真相、事実、真実はわからない。わかりにくいものです。

 日本の中国料理関係の書籍、雑誌での記述には?と思うことが沢山あります。
 ことに目立って多いのが、料理人の証言をその事実、真相、実態を検証せず、そのまま引用、紹介したフード・ライターの方々の雑誌での記事。
 
 中国料理関係の著作物の中にもその記述は疑問あり、なんてのもあります。
 ところが、食関係の掲示板などで、雑誌、書籍からの引用をそのまま書き写し、なんてことがあるもので、あれって事実関係を検証してのものなの?なんて例、しばしば見かけます。

 それにしても「象の皺」というのは妙な例え、ヘンな表現。
 だってアトピー症の患者の症状、がさがさになった皮膚の状態を「象の皮膚」なんていいますから。実際のところは象の肌、見かけによらず柔らかくてしっとり、という話も知りました。
 それより、もしかして「象の皺」なんて表現ありかと色々調べましたが、「炒鮮奶」関係でも、食の形容、形態、形状表現でも見つからず。

 これはもう小林武志師傳に直接聞くしかない。
 「あ、あれは「象の皺」じゃなくて「象拔蚌(みる貝)」のように襞を寄せるようにして作れって、料理人が言うのをお話したんですが」という答え。

 なるほど、そういうワケか。
 そういえば小林料理長の言葉の引用の前に「まるで汲み上げ湯葉の如く皺が寄った卵白の炒め物」なんて紹介がある。広東料理独特のヘラ状のお玉で「皺」というか「襞」を生んでいくわけだ。

 それがなんで「象の皺」?
 そうか、みる貝って、象の鼻みたい。もっとも、象の鼻の皺なんて書いたらますますがさがさの感じになっちゃうからですか?
 ともかく「象の皺」の真実、真相、実態は「象拔蚌(みる貝)」のように、だったわけです。

 「そしたら「中国では~」なんて書かれてたけど、中国本土とか、中国の人の誰もがそういう表現するワケ?」
 「いや、あの、私が知ってるのは広東系の料理人だけのことで……」

 あ~あ、今回の記事の担当のフードライターの方、またやっちゃっいましたか。
 広東系の(中国料理の)料理人って書けばいいのに、「中国では~」とはなんとも大げさ。そういえば、先の「卵チャーハン」のところでも「中国人は~」が登場。

 「熱した鉄鍋に入れた瞬間に立ち昇る素材本来の香り。これが料理全体にまとわりついてる状態を中国人は『鍋気がある』と表現します」というのがその一文。

 『鍋気がある』というのは、私がこれまでにたびたび触れてきた「鑊氣(気)」、「鍋の気」のことです。
 主に広東系の料理人が「炒菜」の極意とするもので、高温の強火で一気に炒めた結果、生まれる味、香り(さらには色合い)が一体化した調理、その出来栄えの状態を示す表現。

 「鑊氣(気)」という言葉、表現は中国本土でも使われます。
 ちなみにヤフーの翻訳にかけると「鍋は怒る!」、グーグルだと「ガス鍋」、エキサイトだと「鍋の息」と出ます。どの翻訳も笑えて面白い!

 ともあれ、料理における「鑊氣」という表現は、主に広東地方でのこと。広東系の料理人が使います。それに広東系中国人が、料理の出来栄え、料理人の技量を賞賛する表現としても使います。
 ですから担当執筆者の「中国人は~」という表現はいささか大げさ。誤解を招きかねない誤った表現ともいえるでしょう。

 同じ執筆担当の方、これまでにもdancyuの中国料理の紹介記事で、こうした紹介、何度もやってます。料理人の言葉、言い分、その真相や事実、実態を検証しないまま、紹介ってことですね。いつだったかの「チャーハン特集」での「春秋」の記事でも似たような記述がありました。料理人の証言、そのまま引用して紹介。?と思うような記述でした。

 今回の特集で「ふーみん」の執筆を担当の方も、以前、チャーハン特集の「チャーハン名人になる」で、似たような誤解を生む紹介をしてました。
 それには「鑊氣」らしき記述がキャプションにあり。どうやら料理人から教わったらしいものの、その実態、意味がわからなかった様子ありあり。

 調べりゃいいのに。検証すればいいのに。
 おそらくその実態、真実、真相、事実、わかんないままキャプションに執筆。
 編集担当者も、わけわからずのまま、だったのでしょう。

 ですけど、料理人の証言、言い分、なんでそのまま紹介しちゃうんだろう。
 その事実関係、実態、検証したりしないんでしょうか?

 さて、小林武志師傳曰くの「象の皺」、ではなく「象拔蚌のように襞を作る!」。
 教えられて調べましたが、現在のところ未発見。まだ調査中。
 今度、広東料理系の料理人にあったら話を聞いて、言われの元、出典など調べてご報告いたします。