2010/05/06

旬の「アイナメ」、こってりの「うつぼ」~10年4月の「赤坂璃宮」銀座店の5

 そして「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」。「魚肚」を細切りにし、玉子で炒めあわせ、ほぐした蟹の身、火腿の千切りをトッピング。
 驚きました!
 というのも「魚肚/魚の浮き袋」、「花膠」とも言いますが、香港では近頃品薄ってことから値段高騰。
 干貨といえば一般に「鮑参翅肚燕」、「干鮑(干し鮑)」、「海参(干しなまこ)」、「魚翅(ふかひれ)」、「花膠(魚の浮き袋)」、それに「燕窩(燕の巣)」が重要品。もっとも、その価値基準、値段に応じて近頃は「鮑翅肚参燕」といったように、「花膠」と「海参」と順序が入れ替わった様子。以前飛びぬけて高値だった「燕窩」も飼育物の質の安定し、値段もリーズナブルに。しかし、「魚肚/花膠」の値段は高騰一途だそうで。
 「魚肚」、魚の種類は色々ですが、主に「にべ」、「ぐち」など「いしもち」系の魚がその主流。しかも、雄と雌があり、形態でその見分けつきます。で、乾燥品を戻し、様々に調理します。水で戻した「魚肚」は乳白色で、滑らかな舌触り。噛み締めればかすかな弾力があり、すっと歯が入ると同時にねっとりした粘着質の触感があります。膠質主体の特有のもので、コラーゲンたっぷり、なんてことから美肌の効用なども語られてます。
 「魚肚/花膠」はふかひれなどと同様にそのもの自体には味はなく、味を煮含めて調理、というのが一般的。とはいえ、ふかひれがそうであるように、巧みに戻してもやはりどこか磯の香りが残ってます。やっぱり海のもの。
 「魚肚/花膠」の一番の御馳走は干し鮑、干しなまこ、干し椎茸などと二湯で煮込み鮑汁などで味付けした「海味一品煲」。それで思い出したのは「魚肚/花膠」単品だけで主役を張るってことはなくて、他の干貨、乾物と組みあわせての料理が多い。そこに鵞鳥の水掻きなんかを添えたりします。
 そういえば「魚肚」を素材にした「湯」の料理で「韮黄瑶柱花膠湯」というのがありますけど、あれも「瑶柱」、つまりは「干し貝柱」と組み合わせたもの。干し鮑や干し貝柱のようにそのものから「だし」は出ない、なんてとこが弱点ですか。
 そんな「魚肚/花膠」が堂々の主役を張るのがこの「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」です。戻した「魚肚」のぷるんと滑らかで、ねっとりとした弾力のある舌触り、触感、その美味を生かした料理です。
 「魚肚」の細切り、炒めた玉子、もやしとともに「滑」、「嫩」、「酥」など、様々な触感が混然一体となって生み出す美味を味わうという趣向。ちなみに「桂花」というのは「きんもくせい」に模したということで、きんもくせいの色、黄金色で仕上てあるのがこの料理の特徴です。
 似たような料理にふかひれを素材に玉子、もやしなどと炒めた「桂花炒魚翅」というのがあります。日本だとふかひれは「よしきり」、「もうか」の「排翅」が主流。「桂花炒魚翅」の素材は「翅絲」、つまりはふかひれの繊維が太い「海虎翅」の胸ひれなどの「生翅」がふさわしい。なんてことで、日本で極上の「桂花炒魚翅」は滅多にお目にかかれない。香港の福臨門でたまに食べましたが「こんなふかひれの料理のありなんだ!」と感心しきり。
 ということでは「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」は「魚肚/花膠」が主役を張る贅沢この上ない料理。
 目を丸くし、驚いたのもそんな理由があってのこと。しかも、この「桂花炒魚肚/魚の浮き袋と玉子の炒め」、蟹肉、火腿の細切りをトッピング。それも贅沢です。が、それにもまして「魚肚」の美味、たまりませんでした。
 どうしよう、こんな贅沢、味わっちゃって!