「ン!? うつぼ?」。
「うつぼ」と聞いて、子供の頃食べた和歌山から送り届けれた「うつぼの干し物」を思い出しました。まだら模様の皮が身に張り付いた「うつぼの干し物」。炙って食べましたが、炙ると干し物にもかかわらず脂がじんわり滲み出る。しっとり加減の身になりました。同時に、独特のクセのある匂いがあたり一面、なんてことを覚えてます。私、結構、病み付きになって、だからこそクセのある独特の味、香り、強烈に印象に残ってるんですが、東京に来て以来、出会ったことなし。そんな「うつぼ」、そういえば赤坂璃宮の3月だか4月のお薦めの料理にあったような記憶あり。それを、今回、食べることになるとは思いもよりませんでした。
「うつぼ」の唇の舌触り、ぷるぷる、とろとろの感じ。ゼラチン質、コラーゲン質がたっぷりみたい。身は脂分たっぷり、ぎとぎとの感じで、身はゆるゆる。噛み締めると、しっとり潤んでいて、甘味を含んだ濃厚な味が口中に広がります。しかも、結構、どっしとした重量感とインパクトがあります。
うなぎに脂分とコラーゲン質を加えた感じ、かな?しかも、かつて食べたうつぼの干し物を炙って焼いた時のような特有の匂い、クセはさほど感じない。この「うつぼ」の肉の旨さ、味付け、調理が素晴らしい。
「うつぼ」の味を引き立て、同時に存在を主張しているのが漬物の「咸菜」。「咸菜」には色々種類がありますが、今回の「咸菜」は潮州の「包心芥菜/大菜」、「結球たかな」の漬物です。潮州料理の「湯」、土鍋炒め煮込みの「煲仔」など、「潮州咸菜/包心芥菜(大菜)」の活用範囲は広く、料理の種類は多彩で豊富。
そんな「咸菜」の塩味、酸味、醗酵したひね味、醸し出す旨味が「うつぼ」と見事に調和。さらにはだし、どうやら「二湯」で煮込まれた様子で、だしも旨味を加味。さらに醤油など調味料の按配、分量、匙加減が絶妙で、味、風味を引き締めてます。脂分とゼラチン、コラーゲン質を含んだ「うつぼ」の身のこってり濃厚な味わい、それに塩味、酸味、旨味のある爽やかな「咸菜」という組み合わせが、面白くて絶妙です。
この料理を食べながら思い出したのは潮州料理の「海鰻煮咸菜」。もっとも「海鰻」というのは大雑把な表現で、あなご、はも、うつぼなど、海に生息する鰻に形態の似たものの総称です。とすると「うつぼ」、中国名でなんていうんだろう。検索にかけて判明したのは「爪哇裸胸鳝、俗名、薯鳗、钱鳗」ってことでした。 袁さんが「油魚」としたのは、その資質からのことでしょう。
この「油魚煮咸菜」。袁さん、「海鰻煮咸菜」をヒントにしたのに違いない。いやもしかして袁さん、香港か潮州で「うつぼ」を使った「海鰻煮咸菜」を食べた経験があるのかも。潮州風味の「家郷菜」をプロの手腕で見事に仕上げた一品です。
それにしても袁さんのレパトリーの幅広さ、豊富さに改めて感心するとともに敬意を払いたくなります。これまで日本ではなかなか出会えなかった広東地方の家郷菜、豪華で貴重な素材による宴会料理から旬の味、日常素材による広東南部の羊城、順徳料理リ、潮州、客家の小菜まで、次から次へと登場。
こんな料理、他にももっともっと食べたい!袁さんにいろいろリクスエトしなきゃ。袁さんよろしくお願いします!
そういえば「うつぼ」、鰻を蜜汁仕立てでバーバキューにした「蜜汁焼鱔」のように「蜜汁焼油魚」なんかでも食べてみたいなあ。相当いける感じがします。それから「潮州咸菜」を使った各種のスープ、例えば「咸菜胡椒豚肚湯」とか「咸菜胡椒粉腸湯」、鰻だけでなく魚、それもハタ、アイナメなどの高級魚じゃなくって、鯵や紅衫(いとより)、黄魚(いしもち)などを使った潮州風味の煮込み込み料理の煲仔、食べたいなあ。
袁さんなら間違いなく実現してくれそうです。